脱炭素化社会に向けた再生可能エネルギー(再エネ)の利用拡大は企業に大きな影響を及ぼすほか、起業家や中小企業等にとってはチャンスになるでしょう。

他方、2014年以降の太陽光発電関連事業者の倒産増加などもあり、再エネ事業に大きな期待を寄せるのは楽観過ぎるかもしれません。そこで今回は再エネ関連の事業に着目して、この分野の現状から起業や会社設立の将来性やポイントなどを解説することにしました。

再エネ分野の市場状況、中小企業等の参入の可能性、有望な事業分野、参入事例と成功ポイント、参入する際の注意点を説明していきます。

再エネ分野で起業し社会貢献したい方、同分野での経営のポイントを知りたい方、同分野へ進出したい異業種の経営者の方など非参考にしてみてください。

1 再生可能エネルギー市場の現状

再生可能エネルギー市場の現状

まず、再エネの概要、事業分野、市場環境などの内容、現状、問題点や将来性を概観しましょう。

1-1 再エネと各種発電方法

「エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用および化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律」では、「再生可能エネルギー源」は、「太陽光、風力その他非化石エネルギー源のうち、エネルギー源として永続的に利用することができると認められるものとして政令で定めるもの」と定義されています。

そして、政令では「太陽光・風力・水力・地熱・太陽熱・大気中の熱その他の自然界に存する熱・バイオマス」がそのエネルギー源として定められているのです。

なお、再エネを利用する方法は、「発電」、「熱利用」と「燃料製造」の3つに分けられます。

「発電」、「熱利用」と「燃料製造」

●発電:エネルギー源を利用して発電
⇒太陽光発電、風力発電、小水力発電、バイオマス発電等

●熱利用:エネルギー源を使用して発電、空調、給湯、ヒートポンプ熱源や冷凍機冷却水等に利用
⇒太陽熱、バイオマス熱、地中熱、雪氷熱等

●燃料製造:特定材料からの燃料の製造
⇒バイオマス燃料製造:植物資源等を原材料として燃料を作り出すこと(木くず等からのチップ、トウモロコシ等からのメタノール、家畜の糞尿からのメタンガス、などを作ること)

以下に代表的な発電方法の概要を説明しましょう。

①太陽光発電

太陽光発電は太陽光をあてた太陽電池(半導体素子)から直接電気に変換する発電方法です。日本の導入量は、2016年度末の累積で3,910万kWに達しています。

1)主な特徴

●エネルギー源=太陽光
太陽光が受けられる場所なら基本的に設置する地域に制限がなく、導入が容易な発電システムです。

●用地を占有しない使用方法も可能
屋根、壁などの未利用スペースに設置できる場合、新たな用地の取得は必要ありません。ただし、大規模の設置の場合は、広大なスペースが必要です。

●地産地消の電源として有効
送電設備のない山岳部、農地などの地域や発電地域一体で消費する電源として利用できます。

●非常用電源として有効
自宅や事業所等における災害時などでの非常用電源としても有効です。

2)課題

天候条件により発電出力が影響されるという不安定さがあります。なお、導入コストの高さが問題でしたが現在では改善されつつあります。ただし、更なる導入拡大には、一層の低コスト化(高効率発電の実現等)や蓄電システムの技術開発の進展が必要です。

②風力発電

風力発電は風エネルギーを電気エネルギーに変える発電方法です。日本の導入は欧米諸国と比べ遅れています。なお、国内では2016年度末で2,203基、累積設備容量は335.7万kWまで増加しました。

1)主な特徴

●エネルギー源=風
風力発電は陸上に加え海上でも可能です。日本では陸上風力の設置が多いですが、導入可能な適地が限られるため、今後は洋上風力発電の導入が期待されています。

●変換効率の高さ
風力発電では比較的高効率な電気エネルギー変換が可能です。

●夜間発電も可能
太陽光発電と違い、風が吹けば夜間でも発電できます。

●経済性が期待できるエネルギー源
大規模な風力発電は、その発電コストを火力レベルすることが可能で経済性が高いです。

2)課題

日本の風力発電コストは世界と比べ高く(日本:12.9円/kWh、世界平均4.8円/kWh、系統制約(発電・送電システムの各系統の違いによる需給バランス等)、環境評価の時間、地元調整等に伴うコストなどの問題があります。

③バイオマス発電

バイオマスは動植物などから生まれた生物資源の総称で、バイオマス発電は生物資源を「直接燃焼」したり「ガス化」したりして発電する方法です。

1)主な特徴

●エネルギー源=バイオマス
光合成によりCO2を吸収して生育したバイオマス資源を燃料とするバイオマス発電は「京都議定書」において、CO2を排出しない発電とされています。

●循環型社会に貢献
未活用の生物資源を燃料とするバイオマス発電は、廃棄物の再利用や減少に役立ち、循環型社会の構築に貢献します。

農産等で発生する家畜排泄物、稲ワラ、林地残材などのバイオマス資源としての利用は、農漁村等の自然循環環境の維持およびその持続的発展に有効です。

2)課題

広範囲の地域からの少量資源の収集・運搬・管理でコストが多くなる小規模分散型設備になる傾向があり、同発電では効率性が課題になります。

④地熱発電

地熱発電は、地中深くから取り出した蒸気等で発電タービンを回して発電する方法です。

1)主な特徴

●エネルギー源=地中の蒸気・熱水
発電に地中の高温の蒸気・熱水を利用し、発電後の蒸気・熱水は農業用ハウスや魚の養殖、地域の暖房などで再利用できます。

●持続可能な再エネ
地下の地熱エネルギーには長期間での供給が期待できます。

●安定した発電
地下から得られる蒸気は昼夜を問わず得られるため、時間帯や気候に関係なく安定した発電が可能です。

2)課題

地熱発電が可能な場所は、国立公園や温泉などの施設が存在する地域と重なるため、地元関係者との理解や調整が必要になります。また、地熱の直接利用のための開発が不可欠です。

⑤その他

上記の発電方法以外にも過去の主力電源であった「水力発電」や以下のような方法があります。

太陽熱利用(太陽の熱エネルギーを太陽集熱器に集めて発電に利用)
雪氷熱利用(雪や外気で凍った氷を保管し、冷熱が必要となる時季に利用)
温度差熱利用(地下水・河川等の水の持つ熱をヒートポンプにより利用、海洋温度差発電等)
地中熱利用(地中熱と地上の外気温の温度差を利用)
水素発電(水素を燃焼させて空気中の酸素と化学反応させ、そのエネルギーでタービンを回して電気エネルギーを得る方法)
アンモニア発電(石炭火力発電で石炭にアンモニアを加えて燃焼する方法)

1-2 再エネへの取組状況

世界の再エネの利用拡大むけた取組状況を確認しましょう。

①カーボンニュートラル(CN)に向けた主な国際的動向

●2016年11月パリ協定の発効
世界共通の長期目標として、産業革命前からの平均気温の上昇を2℃より十分低く保つほか、1.5℃に抑える努力を追求することを掲げたパリ協定が発効されました。

⇒この実現のために再エネの利用拡大が必須と認識されています。

●ESG投資の拡大
欧米を中心として、環境・社会・ガバナンスの要素を投資の判断基準に採用するESG投資が拡大中です。

⇒地球温暖化対策として有望な再エネ関連事業への投資が増加すると予想されます。

●RE100などの国際イニシアティブの増加
企業がその事業に使用する電力を100%再エネで賄うことを目指す国際的なイニシアティブ(組織等)の「RE100」などが増加中です。

⇒再エネ重視の事業活動を自社のサプライチェーンに求める企業が増加しています。そのためその供給網で事業を行うには再エネ対応が不可欠であり、不可能な場合は同チェーンからの離脱が余儀なくされるでしょう。

②国内の動向

●電力システムの改革
1)広域系統運用の拡大、2)小売および発電の全面自由化、3)法的分離の方式による送配電部門の中立性の一層の確保、の3段階で改革が進行しています。
*「電力システム改革に関する改革方針」(平成25年4月2日閣議決定)に基づく

たとえば、「電気事業法の一部を改正する法律」に従って、平成27年4月1日に「電力広域的運営推進機関」が発足し、それまで、原則として地域ごとに行われていた電力需給の管理を、地域を越えたより効率的なやり取りが可能となる、安定的な電力需給体制の強化が図られました。

⇒こうした改革により再エネ関連事業の促進や参入が進むことが期待されます。

●2015年7月長期エネルギー需給見通しの決定
経済産業省が将来(2030年度)のエネルギー需給構造(エネルギーミックス)の見通しのほか、再エネの最大限の導入が示されました。

⇒再エネの導入促進の考えが明確に示され、当該分野のビジネスの将来性が期待できるようになったのです。

●2018年7月にエネルギー基本計画の策定
第5次エネルギー基本計画において、再エネを主力電源化とする取組みが明記されました。

●2019年6月パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略の策定(令和元年6月11日閣議決定)
令和元年6月11日(火)、日本は「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」を閣議決定しています。

最終目標の脱炭素社会に向けて、それを今世紀後半のできるだけ早期に実現を目指すこと、その達成のためのビジネス主導の非連続なイノベーションを通じた「環境と成長の好循環」の実現を目指すこと、などが明記されました。

●2020年10月、2050年での温室効果ガス排出量実質ゼロを目指す宣言
菅政権は2050年までに、温室効果ガスの排出を実質的にゼロにするカーボンニュートラルの実現を目指す宣言を発しました。

⇒日本での再エネの利用拡大の認識が広まり、その関連事業への期待が高まりつつあります。

③再エネ政策の直近の動向

資源エネルギー庁が2021年9月7日にまとめた「再生可能エネルギー政策の直近の動向」によると、2030年度の再エネ導入見込量は以下のように示されています。

・2019年度の再エネ導入量の実績は、1,853億kWh。これに対し、2030年度は、各省の施策強化による最大限の新規案件形成を見込むことで、3,130億kWh程度の実現を目指す(政策対応強化ケース)

・2030年度の温室効果ガス46%削減に向けて、もう一段の施策強化等に取り組むこととし、その施策強化等の効果が実現した場合を想定して、合計3,360~3,530億kWh程度(電源構成では36~38%)の再エネ導入を目指す

・この水準はキャップ(上限)ではなく、早期に水準に到達し再エネ導入量が増える場合には、更なる高みを目指す

「再生可能エネルギー政策の直近の動向」P6より出典

*「再生可能エネルギー政策の直近の動向」P6より出典

⇒これまでのエネルギーミックス水準を大幅に上回る導入が計画されており、その実現に向けた国の施策が展開される予定です。そのため、再エネ関連事業でのビジネスチャンスは広がります。

1-3 再エネ事業の問題点

再エネ事業の問題点

ここでは再エネに関する問題点や気になる点を説明しましょう。

①太陽光関連業者の倒産

株式会社帝国データバンクが2021年7月12日に同社WEBサイトで太陽光関連業者の倒産動向に関して以下のような内容を公表しました。

・太陽光関連業者の2021年上半期(2021年1月~6月)の倒産件数は38件、前年同期比で9.5%の減少、前期比(2020年下半期との比較)でも9.5%の減少だったが、大型倒産の発生が多く負債総額は急増した

*太陽光関連業者とは、(1)太陽光発電システム販売や設置工事、太陽光パネル製造やコンサルティングなど関連事業を主業として手がけるもの、(2)本業は別にあり、従業として太陽光関連事業を手がけるもの、両方が含まれる

⇒倒産件数は減少したものの、負債総額は約503億7300万円で前年同期比では441.6%、前期比では243.7%と大幅に増加している点が心配されるところです。

・負債総額別の最多は「1000万~5000万円未満」と「1億~5億円未満」で各々11件(構成比28.9%)となっており、負債総額5億円未満が全体の81.6%を占める

・資本金別では「100万~1000万円未満」が17件(構成比44.7%)と最多で、次いで「1000万~5000万円未満」の15件(同39.5%)が続く。従業員別では「10人未満」の34件(構成比89.5%)が最多となった

⇒全体的に規模の小さい事業者の倒産が多いです。資本金別の事業者数の構成割合にもよりますが、一般的に資本が脆弱であるほど経営危機への耐性は弱くなります。

・地域別では「関東」が16件(構成比42.1%)と突出して多く、業歴別では「10~15年未満」の10件(構成比26.3%)と、「5~10年未満」の9件(同23.7%)がボリューム・ゾーンになっている

・倒産の業種別細分類では2006年4月からの累計倒産件数579件のうち「設備工事業」が140件(構成比24.2%)、「家具・じゅう器・家庭用機械器具小売業」が104件(同18.0%)、「総合工事業」が75件(同13.0%)となっている。倒産主因では「販売不振」が418件(構成比72.2%)で最多であった

⇒太陽光発電の買取単価の引き下げが進みFIT(固定価格買取制度)が終焉を迎えつつある中、住宅用も事業用も導入の大幅減少が見られるようになっています。

個人宅等にとっての太陽光発電は、買取単価の高い時期のように大きなリターンが得られるという魅力がなくなってしまい、その状況が販売不振に繋がった可能性が高いです。その結果、体力や営業力等がない販売・設置業者などが、財政状況の悪化から撤退したケースが増えたと考えられます。

なお、上記情報の元になっている資料「特別企画:太陽光関連業者の倒産動向調査(2021年上半期)」によると、倒産件数と負債総額の推移は2006年の調査以来、概ね両者ともに増加傾向です。特に2015年から2018年にかけて急増しており、現在(2021年)もなお高止まりの様子が窺えます。

⇒世界や国はCNへ向けての歩みを早めていますが、足元の太陽光発電の販売・設置等については厳しい状況もある点に留意しなければなりません。

②電気代

再エネによる発電の普及のために、太陽光や風力などで作られた電力は国の制度として大手電力会社が買い取ることになっています。しかし、その買取費用の多くが「再生可能エネルギー賦課金」として電気料金に上乗せされ個人や企業(多消費事業者は減免制度あり)などが負担しなければなりません。

この結果、再エネの導入が進むにつれて電気料金が上昇しており、賦課金が使用電気料金の10%以上も占めるケースが見られるようになっています。

2012年度の買取単価は0.22円/kWhで、標準家庭の負担(300kWh/月)の場合は年額792円、月額66円の負担でしたが、2019年は2.95円/kWh、
2021年度(5月~)では3.36円/kWh、標準家庭の負担は年額12096円、月額1008円です。

再エネ導入計画における賦課金に関して、2030年度には約3.5~4.1円/kWhになる(経済産業省資料P12)ことが見込まれています。2019年度と比較した単価の増加率は約40~66%です。

なお、国の計画では2030年以降徐々に賦課金が下がり2048年にはゼロになると想定していますが、再エネの導入状況によっては大きくずれる可能性もあるでしょう。

以上の背景により再エネの導入増に伴う電気代の上昇が家計や企業経営を圧迫する恐れが生じます。そのため家庭では電気代の節約、企業では事業上のコストダウンを目的とした太陽光発電等の利用が進む可能性は低くありません

RE100企業などからの再エネ利用の要請も強まることも踏まえると、事業者における自社消費を目的とした再エネ導入が見込まれます。

2 再生可能エネルギー分野の仕事と参入の可能性

再生可能エネルギー分野の仕事と参入の可能性

中小企業等が関わっている再エネ関連事業の仕事内容や、参入する場合の可能性などを概観します。

2-1 再エネ分野の事業と中小企業等の仕事

まず、再エネに関わる産業の内容や中小企業等で対応できる仕事を確認しましょう。

①再エネ事業の概要

ここでは太陽光発電、風力発電、地熱発電とバイオマス発電の産業構造を簡単に説明します。

1)太陽光発電

●太陽光発電システムの製造
同システムは、太陽電池モジュールと関連の電気設備、架台などで構成されます。システムの重要なセクションは、電気を発生させる「太陽光パネル」(ソーラーパネル=太陽電池モジュール)と、太陽光パネルで発電された電気を直流電流から交流に変換する「パワーコンディショナー」の2つです。

太陽光パネルの製造は技術・生産量・コストなどの面から大手電機メーカーが主に担当しており、パワーコンディショナーも大手が中心になります。架台や金具等については中小企業等も含め多様な事業者が参入しています。

●太陽光発電システムの設置
設置は、住宅用がハウスメーカー、非住宅用がゼネコンや重電メーカー、エンジニアリングメーカーなどが中心です。これらに中小等の事業者が配線関連・建設工事・施工等に協力企業として加わる形態が多く見られます。

●設置のコンサルティングや維持管理
発電システムの設置の際に事前の調査や企画が必要となることも多いため、個人や法人・発電事業者等に対するコンサルティングが行われるケースも多いです。一般的に発電システムの販売事業者や設置事業者などがコンサルティングや維持管理も行っています。

●発電事業主体
住宅用では個人が発電事業主体であり、事業用においては、一般企業や独立系発電事業者(IPP)、電力会社、官公庁などが事業主体です。

●太陽光発電市場
株式会社富士経済が公表している市場調査によると、太陽光発電システムは2014年度に導入ピークを迎えた後以降、縮小が続いています。ただし、同市場は、2020年度における再エネ発電システム市場全体の約75%占めているほど大きいです。

2025年度までにFIT事業認定案件の導入がほとんどなくなり、以降は非FITやFIP(Feed in Premium)による導入が進展すると見られています。しかし、導入コストの急速な下落の影響により、2035年度には2020年度と比べて6割弱まで市場規模が縮小するとの予想もあります。

2)風力発電

風力発電の産業構造は、風車の製造関連、風況・環境影響評価の調査・コンサルティング、風車の建設・設置、維持管理、などで構成されます。

●風車の製造
風力発電システムの主な構成要素は、「風車のローター関連部分(主軸、増速機、発電機、減速機やブレーキ等)」、「タワー(昇降機、電力変換・制御器等)」、「基礎」、「系統連系装置・その他付帯設備」、などです。

風車製造の産業構造は、風車メーカーをトップとする1次下請、2次下請、3次下請などからなるピラミッド構造の供給網が形成されています。風車製造は自動車産業と同様の多様な種類の電気機器や精密機械部品の事業者等からなる多層構造の産業です。

●風況・環境影響評価の調査・コンサルティング
風力発電には風況調査や環境影響評価が必要であり、その分野に精通した専門コンサルタントやエンジニアリング会社がその役割を果たしています。大手の特定の事業者だけでなく地場の事業者が担当しているケースも少なくありません。

●風車の建設
建設は、風力発電所の基礎工事や電気工事のほか、周辺の道路工事、などがあり、大規模な発電所の場合各種工事は建設会社やゼネコンが元請企業となって、実際の工事は地場の建設会社等が請け負うケースが多いです。

●維持管理
風車の故障が比較的多いため、維持管理が重要であり故障等への迅速な対応が求められます。そのため地場の企業が担当するケースも多いです。

●風力発電関連市場
最近まで風力発電設備の導入は停滞していましたが、今後は市場の拡大が期待できそうです。株式会社富士経済の情報によると、風力発電市場はFIT案件の稼働が本格化し、2020年度の市場規模が前年度比1.2%増の1781億円と見込んでいます。

今後は、大型の陸上風力案件のほか洋上風力の着工が2022年度から2023年度にかけて本格的に開始されるため、2025年度以降は洋上風力が同市場を牽引すると期待されているのです。2035年度の市場規模は、2020年度見込比4倍以上に拡大すると考えられています。

3)地熱発電

地熱発電システムの主な構成要素は、蒸気の確認や取り出しのための井戸と発電関連の装置(蒸気と熱水に分離する装置、熱水を減圧膨張させて蒸気を発生させる装置、発電機等)になります。日本の地熱発電は、電気事業用と自家用(ホテル等)に分かれますが、認可出力は前者が圧倒的に多いです。

なお、地熱発電は、発電システムの方式が火力発電と類似しており、その産業構造も火力発電に近いと見られています。

●地熱発電タービン
国内では三菱重工業、東芝、富士電機の3社が地熱発電タービンを供給しており、フラッシュ方式(蒸気を直接利用するタイプ)のタービンでは世界市場の約7割を占めています。

●地熱資源調査等
発電所の建設に先駆け地熱発電に関する初期調査や地下探査、可能性等の評価などが必要であり、その調査やコンサルティングの事業が地熱コンサルタントやメタルコンサルタント等で行われています。

●地熱発電所建設
発電所の建設はゼネコンや建設会社などが請け負うケースが多いです。

●セパレータの製造や配管等の設置
重電メーカー等からタービンなどの供給を受けてプラントエンジニアリングなどが担当しています。

●生産井・還元井の掘削
掘削業者などの担当です。

●維持管理
プラントエンジニアリングやゼネコンなどが発電所のメンテナンスを行っています。

●地熱発電市場
これまで電力会社が主要な発電事業者でしたが、FIT導入以降は多様な企業が発電事業者としての参入を検討しています(地熱調査を開始)。

現在まで国内の大規模建設案件が途切れていたため、市場では維持管理の仕事が中心です。なお、小規模発電に関して、2020年時点の発電事業の市場規模は505億円となっており、大規模地熱発電所の発電事業規模を上回っています

現在、本格的な資源調査の必要がなくリードタイムが短くて済む小・中規模の案件が増加している一方、大規模案件は調査や開発途上にあるといった状況です。

4)バイオマス発電

バイオマス発電の主な方式は、直接燃焼方式(燃焼で水蒸気を発生させタービンを回す)、熱分解ガス化方式(ガス化による発電)、生物化学的ガス化方式(発酵によるメタン等のガスを利用した発電)の3つです。

●発電システムの製造
タイプにより構成要素が異なりますが、直接燃焼方式では、破砕機・粉砕機、ボイラ、蒸気タービン、発電機や集塵機が主要な要素になります。熱分解ガス化方式では、ボイラ、蒸気タービン、発電機のほか、熱分解ガス化炉、ガスエンジン・ガスタービン、などです。

生物化学的ガス化方式では、発酵槽、ガスエンジン、発電機、熱交換器や固液体分離装置、などになります。

従って、上記のような発電関連設備・装置の製造業者や建設・エンジニアリング会社などが製造面の主な市場参加者です。

●発電割合
2020年度の日本国内の年間発電電力量に占める再エネ割合は、前年から2ポイント増加の20.8%になります。そのうちバイオマス発電が占める割合は3.2%です。

日本の第5次エネルギー基本計画では、2030年度までにバイオマス発電割合を3.7~4.6%としていましたが、第6次エネルギー基本計画の素案として5%程度が見込まれています。
*再エネのうち太陽光は約15%程度、風力は約6%程度、地熱は約1%程度、水力は約10%程度、バイオマスは約5%程度です。

2-2 再エネ産業への参入状況

公益社団法人中小企業研究センターがWEBサイトに公表している「再生可能エネルギー産業における中小企業の動向と展望」によると、太陽光発電、風力発電と地熱発電市場への参入状況は下表の内容になっています。

①参入状況

下表の「再生可能エネルギー産業における中小企業の動向と展望」の内容をもとにした資料が参入状況の参考になるでしょう。

1)太陽光発電

太陽光発電

2)風力発電

風力発電

3)地熱発電

地熱発電

②中小企業の再エネ市場への参入パターン

「再生可能エネルギー産業における中小企業の動向と展望」では以下のような「中小企業の参入パターン」が指摘されています。

●外部要因

1)既存取引先の要請に伴う参入
大企業等が再エネ市場に参入する際に、その企業の取引先の部材メーカーや設備メーカーに対して共同開発、製品の製造の協力を求めるケースが多いです。

取引先の中小企業等にとっては、既存の取引先からの要請であるため、自ら当該分野へ販路開拓をする必要がなく、製品開発等の負担だけで済むというメリットがあります。

ただし、同分野での参入に際して大企業等が求める品質を提供できることが条件となるため、実績や技術レベルの高さなどが不可欠です。

2)新規取引先からの要請で参入
自社の技術や製品が再エネ関連事業にマッチしないと考えていた中小企業が当該分野の新規取引先から自社の実績や技術等の評価から声をかけられて参入するケースが見られます。

なお、これらの企業のタイプとして、自社技術をそのまま利用して比較的容易に参入できた企業と、要求仕様に対応するために試行錯誤等により新製品開発等を行う企業が存在します。

●内部要因

1)自社の既存ノウハウを再エネ産業に応用して参入
既存の事業分野で高い技術を有している企業が、再エネ産業での需要を想定して、同産業に対応できるように自社技術を応用(カスタマイズ)して市場参入するケースが見られています。

2)新たなノウハウの確立により参入
大学発ベンチャー企業など、大学での研究成果を製品化・事業化する形態や、他分野の事業者が同産業に興味を持ち参入するケースなど、自社で新たなノウハウを確立して再エネ産業へ新規事業として参入しているケースも少なくないです。

③中小企業の取組の特徴

また、参入した中小企業には以下のような取組が確認されています。

●海外企業との連携・交流
経営資源が限定的な中小企業が、再エネ産業で成功するには外部の資源を有効に活用することが不可欠です。外部資源の活用にあたり、再エネ産業の発展が進む海外の企業や人材との連携・交流を図る中小企業が見られています。

日本以上に発展・先行している海外の再エネ産業の企業や人材と連携・交流を図るメリットは大きいはずです(仕事量の確保や技術の向上等)

●産学連携
昨今、環境技術関連の研究が大学で盛んに実施されており、再エネ分野の研究を多いため、そこでの研究成果や技術情報などを活用して、自社の技術不足を補い製品化などに役立てようとする中小企業も少なくありません。

⇒中小企業の中には、大学との産学連携に注力する企業も多く、新技術の開発・事業化・イノベーション能力の獲得などに繋げる企業がよく見られます。再エネ分野に関しても、産学連携で同様の成果が期待できるでしょう。

●中小企業の地域を中心とする取組
再エネ資源が、都市部より地方に多く存在していることから同事業の進展は地域活性化に役立ちます。また、地域経済を担う中小企業の同分野への参入や取組がさらに地域の活性化に貢献するはずです。

●経営者の強いリーダーシップ
再エネ産業は、政策や規制の制定・変更、海外企業の動向などに影響を受けやすく、また国内市場は未成熟であるため、同分野への参入はリスクが小さくありません。他方、世界や国が注力する分野であるため、その将来性は有望であり参入のメリットは大きいです。

⇒こうした状況の中、同分野へ進出するには経営者の強いリーダーシップと、的確な分析・評価による迅速な意思決定が求められます。

3 中小企業等の再エネ参入事例と成功のポイント

中小企業等の再エネ参入事例と成功のポイント

ここでは中小企業等が再エネ産業へ参入した事例を紹介し、その成功ポイントを確認しましょう。

3-1 地方創生に貢献する再エネ事例

●企業概要
・企業名:株式会社アズマ
・所在地:福岡県八女市
・業種や事業概要:
太陽光発電システムおよび再エネ関連事業、屋根板金工事業、電気工事業、農業、電力事業、断熱リフォーム事業

●起業・開業の理由等
・同社は1978年に屋根などの建築板金業として創業し、屋根工事の専門家として地域に密着した事業(太陽熱温水器・住宅設備・家電販売)を展開し続け、1999年に太陽光発電の施工・販売に参入した。その後、現在まで住宅から産業用まで、太陽光発電の導入をサポートしている

・地域で消費されるエネルギーを地域で創り出し、そのエネルギーを地域に循環する活動が「強い田舎」を創り出す第一歩になるという強い思いから再エネ事業が開始された

●事業の特徴
・2017年にエネルギーの地産地消を目指す(エネルギー自給率100%が目標)「やめエネルギー」を設立し、太陽光発電設備の制作・販売だけでなく、その電力を地域で循環させる事業に取組み、八女市の地域の活性化に貢献している

・地産地消の一環として、地域で生まれた再エネを、八女市の主要産業である農業に活用するため、同社は農業事業にも参入し、トマトやマンゴーの栽培行っている

・ほかにも太陽光発電と蓄電池等(太陽光発電・HEMS・エコキュート・LED)を用いて快適性、経済性、安心性を実現したスマートハウス事業(戸建、賃貸住宅、リフォーム等)にも進出している

●成功のポイント
・事業拡大への努力
⇒同社は建築板金業から屋根工事の専門家として、事業を太陽熱温水器、住宅設備、家電販売などへと広げ、再エネ関連事業へ進出するなど、事業拡大への熱心な取組が同社に成長をもたらしました。

・再エネ関連事業に対する評価
⇒再エネの将来性や有効性を高く評価し事業に組入れたことが同社の発展に繋がっています。また、太陽光発電システムの販売、売電やメンテナンスだけでなく、住宅や農業への活用など多様な事業展開によりリスクを分散しつつ安定と成長を実現していると言えるでしょう。

・地域活性化への貢献
⇒従来からの地域に密着した営業スタイルを再エネ事業でも行い、再エネの地産地消による地元住民や産業の発展に貢献しています。こうした取組は地域の発展に役立つほか、その活動が同社の評価に繋がり事業に良い影響を及ぼすはずです(知名度、親密性や信頼性等の向上⇒業績アップ)

3-2 エネルギープラットフォーム事業例

●企業概要
・企業名:エレビスタ株式会社
・所在地:東京都中央区京橋
・業種や事業概要:
WEBサイト制作事業、WEBマーケティング事業、システム開発事業、卸売業および貿易業

●起業・開業の理由等
・「正直者がバカを見ない。誠実が悪意に負けない社会にしたい」という創業者の思いから、情報格差による損を被らない情報サービスを提供する会社の起業となった

●事業の特徴
・同社はWEBマーケティング事業とエネルギープラットフォーム事業を営むベンチャー企業で、太陽光発電所の売買仲介ポータルサイト「SOLSEL(ソルセル)」を運営している

SOLSELは、太陽光発電の売手と買手をマッチングする売買仲介ポータルサイトで、取引完了までの早さや、経験の浅い投資家などが「丸投げできる」という利便性などが特徴となっている

・太陽光発電投資物件に小口投資できるエネルギーファンドを同社は運営している
⇒数万円から参加できるなど、気軽に参加できる機会を増やすファンドとしており、太陽光投資に対するハードルを下げて初心者等を呼び込んでいます。

●成功のポイント
・マーケティングを軸にした経営
⇒webメディア・マーケティングが同社の生業であり、そのマーケティングに関するノウハウが同社の成長基盤で迅速で完結した事業活動を支えているのです。

⇒そうした基盤のもとで、太陽光発電投資の売買が簡単に行えるサービスが開発され、初心者を含む多様な投資家を取り込んでいます(コンシェルジュの設置、規格を統一した資料の提供等)

・チーム力
⇒各社員は自律的で迅速な行動ができ、会社にとっての最適化を考慮した活動を行い、各事業に貢献しています。

3-3 EVを蓄電池とした再エネ利用例

●企業概要
・企業名:株式会社Yanekara
・所在地:東京都台東区谷中2丁目
・業種や事業概要:
電動車両充放電システムの開発と販売

●起業・開業の理由等
・気候変動の影響を受ける可能性の高い今後の社会において、自分が考え出した技術やソリューションで、そうした問題を解決したいという思いからの起業となった

・自然エネルギー100%の日本の実現に貢献するため、「屋根から自然エネルギー100%の未来を創る」ことを目標に、複数台の電気自動車をストレージとして活用する充放電システムの企業としてスタートアップした

●事業の特徴
・同社の事業は電気自動車を蓄電池として活用する充放電システム
⇒事業内容は、ローカルで創出されたエネルギーによる以下のようなサービスの提供です。

電気とモビリティを平時も非常時も自給する(有効活用、利便性の提供)
屋根上の太陽光パネルから直接直流でEVに充電でする(変換ロス削減)
クラウドでEVを群制御して仮想発電所(*後述)を創る(電気料金の低減)
1基の機器で複数台のEVを制御する(導入コスト削減)

⇒クラウドと革新的な充放電システムにより、EVの価値をローカルで最大限に高める取組とも言えます。

●成功のポイント
・同社の設立は2020年6月であるため、成果は今後に期待される
⇒2020年から実証実験が行われ、課題等の把握により改善・量産化等に向けた開発体制が強化されつつあります。その実現に向け東大IPC、ディープコア、エンジェル投資家などからの資金調達も行われました。

・研究開発プロジェクトやビジネスコンテスへの出場が事業化へと結びつく
⇒同事業は2019年に学生の研究開発プロジェクトとして始動し、「太陽光によるEV充電システム」の事業アイデアは、東京大学アントレプレナー道場のビジネスコンテストで優秀賞を受け事業化に繋がりました。

3-4 産学官民連携の地熱発電事例

*産・学・官・民が連携した「小浜温泉エネルギー活用推進プロジェクト」の事例より

●企業概要
・企業名:一般社団法人小浜温泉エネルギー(小浜温泉エネルギー活用推進協議会)
・所在地:長崎県雲仙市
・業種や事業概要:
未利用温泉の活用による発電事業、温泉熱配湯熱利用事業、ジオパークに関連した観光・環境教育事業、その他附帯・関連する事業

●起業・開業の理由等
・小浜温泉地は地熱・温泉資源エネルギーの利用が望まれる地域で、地熱発電の実用化開発事業や地熱開発促進調査が過去に実施されていた。しかし、地元住民への説明・調整の不足から温泉の枯渇が懸念され地元関係者(温泉関係者や観光産業関係)の反対を受け、事業は進展しなかった

・平成19年から長崎大学が中心となって、掘削を伴わない未利用温泉熱の活用について地元関係者への説明等が始まり、地元関係者・企業・大学・行政が連携しながら合意形成等を進めていくための「小浜温泉エネルギー活用推進協議会」が設立された

・平成23年に同協議会での検討内容を実現するための組織として、「一般社団法人小浜温泉エネルギー」が設立され、未利用温泉熱を活用したバイナリー発電事業の「小浜温泉エネルギー活用推進プロジェクト」がスタートする

●事業の特徴
・小浜温泉プロジェクトの実現で、未利用だった排出源泉の熱エネルギーを有効利用する、温泉熱を活用した地熱発電で低炭素のまちづくりをすることを目指す
⇒地域にメリットの多いプロジェクトであるため、地元住民や温泉旅館、長崎県や温泉発電の関係者など地域全体から高い関心を集めています。

・小浜温泉プロジェクトは、地質遺産を教育や科学振興、観光事業などに活用できる
⇒同プロジェクトはジオパークとして認定されている同地域(島原半島)との観光振興等に関する連結も視野に入れ、事業を展開しています。

●成功のポイント
・地域に不安を抱かせない開発
⇒小浜温泉プロジェクトが、新たな掘削をしないことで既存の観光資源である温泉に影響を与えず、その温泉の熱エネルギーを利用できる、という点をアピールしたことが事業化に繋がりました。

・観光事業への貢献
⇒温泉地として発展してきた小浜温泉では観光客の減少が見られ、他の温泉地との差別化が急務と認識されており、地元関係者も温泉熱の有効利用に期待しています。

・粘り強い説明と調整
⇒長崎大学から新たな井戸を掘削しない温泉熱を活用するバイナリー発電が提案され、以前開発に反対していた地元関係者への粘り強い説明が行われました。その結果、彼らが協議会メンバーとして加わり一緒に活用方法を模索する体制が整ったのです。

3-5 バイオマス発電の事業例

*地域再生可能エネルギー事業「株式会社タケエイ」の事例.pdf (kasseiken.jp)より

●企業概要
・企業名:株式会社タケエイ
・所在地:東京都港区芝公園
・業種や事業概要:
廃棄物処理・リサイクル事業、環境エンジニアリング事業、バイオマス発電事業等

●起業・開業の理由等
・同社は2004年に建設現場の木くずの有効利用の観点から再エネ事業に進出した
⇒同社は1977年の設立以来、環境ソリューション事業を拡張・充実させており、バイオマス発電事業は資源循環型社会の構築や廃棄物の発生抑制に貢献するものと認識して進められました。

●事業の特徴
・建設廃棄物中の木くずを共同収集し、市原グリーン電力(株)にバイオマス発電燃料を供給していたことからバイオマス発電に強い関わりを持ち、その後2020年4月に市原グリーン電力をタケエイが連結子会社化し、同社の主導により燃料調達から発電・売電までの一貫体制が構築されました。

・東北の森林からの間伐材と特産のりんご栽培からの剪定枝を活用する方法を検討する「津軽新エネルギー事業検討会」へ子会社が参画したのをきっかけに、タケエイは2013年に木質バイオマス発電事業へ参入する

⇒林業事業者・りんご農家から間伐材・剪定枝を収集→木質チップ製造を担う津軽バイオチップ(株)へ供給→(株)津軽バイオマスエナジーがバイオマス発電を担当→小売電気事業の(株)津軽あっぷるパワーへ売電、するといった体制が構築されました。

⇒発電の際の余熱は高糖度トマト栽培((株)津軽エネベジ)に利用されています。

⇒上記の関係会社にタケエイは出資し、「地域の課題解決・活性化、雇用の創出、地産地消型エネルギーの創出と、再生可能エネルギーへの対応、CO2削減など、地域・自然環境全般に貢献できる事業」に関わっています。

●成功のポイント
・既存事業からの拡大
⇒廃棄物処理事業からリサイクル事業、そして再エネ事業へと同社は事業を着実に拡大させてきました。これらの事業はその時代の社会からの要請に対応するものですが、その重要性やニーズを適切に評価し積極的に参入してきたことが現在の発展に繋がっています。

・他者との協力・連携
⇒事業拡大には多様な業種の事業者との協力が不可欠ですが、同社は関係者との連携や調整を上手く取りながら事業を進展させました。

・地域への貢献
発電事業では地域での理解と協力が必要となるケースが多いですが、地域の問題解決や発展に寄与する方法を踏まえたwin-winの事業スタイルが一連の事業を円滑に導いています

4 再生可能エネルギー分野の起業・会社設立のポイント

再生可能エネルギー分野の起業・会社設立のポイント

再エネ事業分野へ参入していく場合に考えておきたい、有望事業と起業・会社設立の重要点を説明しましょう。

4-1 有望な再エネ事業分野とは

①ソリューション・コンサルティング事業

再エネ利用の拡大が一層進む可能性が高まっていますが、効率的な発電システムの導入や電力の需給バランスの調整などが課題になります。そうした課題解決のためのソリューションやコンサルティングの事業はさらに重要性を増すはずです。

発電装置の導入・管理・メンテナンスのほか、電力量の正確な把握・予測、需給バランスの安定、遠隔による発電所の監視制御などに対する解決依頼や相談などが増加してくるでしょう。

②地産地消による再エネ発電事業

再エネ発電事業を地域の活性化手段として活用する動きが見られるようになってきました。再エネ発電による電力を地産地消のエネルギーとして利用すれば、遠方の発電所の電力に依存するというリスクを低減でき電力や熱などをその地域で利用することも可能です。

また、バイオマス発電などでは地場の材料を燃料として活用できる場合もあるため、資材の有効利用や環境問題対策としても活用できます。地熱発電などでは観光資源としても活用可能なため、地場の観光産業にとっても有益です。

こうした利点を活かし、その地域ぐるみで連携・協力していけば地方創生に貢献できる事業が推進できるでしょう。

③小規模利用者向け発電システム設置・管理事業

RE100など、使用する電力の100%を再エネにより発電された電力で賄うという企業が国際的に広まりつつあり、そうした企業はそのサプライチェーンに同様の取組を求めるようになってきました。

その結果、その供給網に入り続ける・入るためには、再エネへの取組が不可欠となり、小規模事業者であってもその対応は免れません。また、国策により再エネ電力の導入が増加することで電気代が上昇するため、その対策に太陽光発電システム等の導入を検討する消費者等の再拡大も期待されます。

上記の背景からそうした個人や小規模事業者のニーズに対応できる発電システムの販売・設置・維持管理およびそれらの相談対応などのビジネスが増加することが見込まれるのです。

個人の趣味、家計の電気代の節約、事業者の自家消費による再エネ100%対応、などのニーズに対応できるビジネス展開が期待されます。

④仮想発電所事業

太陽光等の再エネは、天候などの影響により発電量が急激に変動するため、導入を拡大させるには、導入量に対応できる調整力、すなわち電力の需給バランスが取れる能力が必要になります。

2021年より新たに「需給調整市場」が創設され、様々な事業者の市場参加と、特定エリアを超えた調整が可能となりました。従来、こうした電力の調整はエリア内の大規模電力事業者が担っていましたが、需給調整市場には仮想発電所(バーチャルパワープラント:VPP)も参加できます。

VPPは再エネ、蓄電池、自家発電装置などの電源をIoT(モノのインターネット)等の活用で束ね、大きな1つの発電所が存在するかのように電力を安定的に供給する仕組みです。

VPPは再エネの供給過剰の吸収、電力不足時の供給などの機能を提供することで再エネのデメリット部分をカバーし導入の促進役の1つとして期待されています。

VPPにはIoTなど高度なITソリューションやクラウドサービス等が必要となるため、この分野のIT関連事業者などには事業機会になるはずです。ただし、現状ではこのビジネスで十分な収益を確保するのが困難になっており、収益モデルの適切な構築が重要になります。

4-2 再エネ分野での事業化のポイント

再エネ分野での事業化のポイント

再エネ分野で事業を始める場合の主な流れやポイントを紹介しましょう。

流れやポイント

①事業コンセプトの設定

再エネ分野でどのような事業を行うかを決定することが「事業コンセプトの設定」です。再エネ事業に関連した漠然とした考え・思い付きなどを、どの分野で誰を対象(お客)にして、彼らのどのようなニーズを、どのような方法で捉えていくかを簡潔な内容でまとめると事業コンセプトになります。

事業コンセプトはビジネスの根本になる重要な要素であるため、単なる思い付きで何の分析・評価もなく決定することはできません。そのためアイデアの中から将来性や実現可能性の高いものを選び、それについてどのようなコンセプトにするかを検討します。

評価基準として、当該分野の将来性・市場の成長性、競合状況、参入障壁の程度、経営資源の確保の容易性、地域経済との関係などが挙げられるでしょう。

そして、こうした評価の後に、候補の中から最も優れたものをビジネスモデルへと昇華しています。

②ビジネスモデル化

ビジネスモデルはビジネスコンセプトをより具体的に表現したものになります。特に再エネビジネスとしての「売れる仕組み」になっていなければなりません。たとえば、以下のような設定が必要です。

・誰に(誰をお客に)
⇒売電したり電気代を削減したりしたい個人宅や、再エネ利用でコストアップを避けたい小規模事業を主なターゲットとして

・何を(どのニーズをどの商品・サービスで充足するか)
⇒売電や電気代の削減等が可能な太陽光発電システム等の導入支援、販売や管理のサービスを提供する

・どのように:
⇒太陽光発電システム等の導入よる売電や電気代の削減等に関する相談や計画の提案を行う
⇒各利用者の状況や希望に合ったシステムの販売や設置などを行う
⇒運用の管理やメンテナンスなどを支援して、利用者の運用をフォローする

③事業計画の策定

ビジネスモデルを具体化するための計画も必要になります。3年~5年程度の損益計画(予定)、必要資金・資金調達方法の概要(資金調達計画)、設備投資計画、主要顧客の開拓計画、計画の実現に向けた行動計画、などの内容を含む計画書を作成しましょう(精緻な計画でなくても可能)。

④経営資源の確保

事業を始めるにあたっては金・人・モノ、などの経営資源が不可欠であり、計画した時期に用意できなければなりません。ビジネス化するため、事業を開始するために必要な資源を明らかにして確保できるように準備を進めます。

なお、準備を進める際に、法人として事業者との契約が必要となる場合にはそれに合わせて会社設立も進めなくてはなりません。

⑤会社設立

会社設立に関しては、以下のような一般的な手順・手続に沿って進めて行きます。

  1. 会社の基本事項の決定
  2. 会社の印鑑の作成
  3. 定款の作成と認証
  4. 資本金の払込み
  5. 登記申請
  6. 会社設立後の諸届出

なお、再エネ事業の場合、特に発電事業などでは許認可に関する届出等にも注意しましょう。

5 再生可能エネルギー事業に参入する場合の注意点

再生可能エネルギー事業に参入する場合の注意点

個人や中小企業等が再エネ事業に参入する際、特に注意しておきたい点を説明します。

再生可能エネルギー事業に参入する場合の注意点

5-1 再エネ関連の法令や市場動向

まず、再エネ関連の法令の新設・変更に注意が必要です。たとえば、再エネ電力の固定買取制度(FIT)が2012年に創設されて以来、再エネ事業への参入者が急増し太陽光発電は急激に普及が進みました。

他方、高値での電力の買取は電気代として国民へ負担が跳ね返る仕組みになっているため、その負担軽減として買取価格は徐々に低減されていきます。太陽光発電の場合は買取価格の低減が激しいため、価格が大きく下がってから導入した個人や事業者などでは採算が合わず損するケースも少なくありません。

その結果、太陽光発電システムを販売・設置する事業者の経営も苦しくなり徹底するケースも多く見られるようになりました。風力発電などの他の再エネ電力の買取価格はまだ高水準にありますが、普及とともに低減されていく仕組みです。

こうした買取価格だけでなく再エネ事業に関連する法律・制度がその時々の状況に応じて導入・変更され、同分野の事業に大きな影響を及ぼすため、それを見越した起業や事業展開が求められます。

また、関連する設備・機器などの初期投資のコストの動向にも注意が必要です。太陽光発電システムの導入コストは以前と比べ格段に低下しているため、買取価格が下がっても採算が取れる可能性も高まっています。

そのため再エネ事業では法律、買取価格、電気代、導入コストなどの動向を的確に把握・予測して起業や参入を判断することが不可欠です。

5-2 脱石炭の影響

脱炭素化に向け脱石炭への要請が世界で強まっており、日本においてもその影響が近い将来に生ずる恐れがあります。欧州などでは脱石炭への取組が熱心ですが、日本はエネルギーミックスの観点から電力の一定割合を当面の間石炭で賄う計画です。

しかし、今後の世界の動向や要請から脱石炭の動きが加速する可能性があり注意しておかねばなりません。バイオマス発電やその他の発電の中には石炭と他の材料を使った方法でCO2削減に取組んでいるケースもあります。

これらの方法は全体としてのCO2削減に有効であっても、石炭を使用する点で批判を受け将来的に停止を求められる可能性が考えられます。そのため石炭を利用する再エネ事業に関しては脱石炭の動きに対応できることが必要です。

燃料として石炭を使用しないで済む方法や代替材料を検討して、脱石炭が要請されても事業が継続できる方策等を用意しておかねばなりません。

5-3 許認可等の手続

再エネ事業の実施にあたっては電気事業法への対応のほか、自然環境や周辺施設への影響、事業用地や発電設備に関する様々な許認可手続が発生する点に注意が必要です。また、その手続に何カ月といった期間がかかるケースがある点も気を付けておかねばなりません。

たとえば、太陽光発電の申請では申請から認定までに要する期間は約3カ月と言われています。太陽光発電所の建築では建設業許可が必要で、野立てメガソーラー等の設置工事では、原則として「電気工事業」の建設業許可を有する元請業者へ発注しなければなりません。

自社が行う再エネ事業の内容により様々な許認可が必要になり得るため、事前にその種類・内容を把握して事業開始に間に合うように申請の準備を進めましょう。

5-4 地域の理解と協力

再エネ発電はその地域の環境や住民の生活等への影響も大きいため、地域住民や行政等の理解と協力を得て進めることが肝要です。

たとえば、太陽光発電では山林設置での森林伐採という自然環境の破壊、設置による地滑りや土砂崩れのリスク上昇などのデメリットがあります。また、風力発電では騒音や景観阻害、バードストライクなども問題です。

地熱発電では温泉の枯渇の可能性がリスクとして問題になります。こうした問題に対する地域の不安が解消されなければ再エネ発電事業を推進することは困難となるため、地域の理解と協力が不可欠です。

問題に対する対策や誤解を解くための説明を丁寧に行うとともに、同事業が地域にとってメリットになる点をアピールし協力を得られるように取組まねばなりません。つまり、win-winの事業構造の構築が不可欠です。

以上のような内容を参考にして再生可能エネルギー事業への参入を検討してください。