最近、ビッグモーター社の保険不正のニュースが話題となっていますが、こうした不正行為とともにそのブラック企業的な組織風土も世間の注目を集めています。不正行為や企業体質が世間に知れ渡り、その結果、同社は業績が大幅に低下し、退職者が増加する、などの事態に至りました。

今回は、「ブラック企業」の危うさに着目するとともに、その反対に位置する「ホワイト企業」の優位性などを取り上げることにしました。具体的には、ブラック企業・ホワイト企業が注目される理由、両者の特徴、会社設立時にホワイト企業を目指す方法・取組などを解説します。

ホワイト企業を目指して起業する方、ブラック企業にならないための経営の仕方などを知りたい方は参考にしてみてください。

1 ブラック企業・ホワイト企業の概要と注目される理由

ブラック企業・ホワイト企業の概要と注目される理由

「ブラック企業」については様々な捉え方が見られますが厚生労働省等によると、以下のような特徴を有する企業とされることが多いです。

  1. 労働者に対し極端な長時間労働やノルマを課す
  2. 賃金不払残業やパワーハラスメントが横行する
  3. コンプライアンス意識が低い
  4. 健康管理が不十分で労働環境が悪い
  5. 社員の意見や要望を聞かず、一方的に指示を出すなどの問題がある

なお、厚生労働省では「ブラック企業」という言葉は使用せず、その問題点を端的に表す表現として「若者の使い捨て等が疑われる企業等」と称するケースもあります。

また、上記のような特徴の中には法令に違反する行為が含まれることも多いため、労働基準法関連法案に違反する企業が「ブラック企業」として見られやすいです。しかし、必ずしも違反に該当するか否かだけが問われるものではありません。

法に触れていなくても上記のような特徴を有して従業員を不当に扱い不利益を与えるような企業が「ブラック企業」と呼ばれているのです。

また、「ブラック企業」の反対に位置する企業として「ホワイト企業」という呼称が使われるようになってきました。

ホワイト企業も様々に定義されていますが、一般的には社員にとって、就労条件が良好、福利厚生が充実している、働きやすい労働環境が整備されている、その結果、離職率が低く、世間から好評価を得ているような企業を指すケースが多いです。

具体的には、以下のような性質を有する企業がホワイト企業と見られています。

  1. 長時間労働や負担の大きなノルマを課さない
  2. 賃金不払残業やパワーハラスメントなどが発生しないなど、コンプライアンス意識が高い
  3. 社員の健康の維持向上に努める
  4. 安全で快適な労働環境を整備している
  5. 社員の意見や要望も踏まえたマネジメント、組織運営を行う

なお、厚生労働省は2015年6月から「安全衛生優良企業公表制度(ホワイトマーク)」という認定制度を開始しており、その影響も「ホワイト企業」の知名度を高めるのに役立っているようです。

この制度は、「労働安全衛生に関して積極的な取組を行っている企業を認定・企業名を公表し、社会的な認知を高め、より多くの企業に安全衛生の積極的な取組を促進するための制度」です。

認定される企業は、求職者や取引先などへ自社が「ホワイト企業」であることをアピールするのに活用できるほか、求職者も安全・健康な職場を探したり選択したりすることができます。

1-1 ブラック企業・ホワイト企業が注目される背景

両者が、何故、世間で注目されているか、その背景や理由を見ていきましょう。

1)働き方改革の進展

働き方改革の推進が「ブラック企業」と「ホワイト企業」という存在について社会を意識させるようになりました。

より適切な労働条件や労働環境を労働者に提供するために、「働き方改革」が政府主導の下で推進されており、日本社会全体でその認識とともに具体的な動きが広まりつつあります。

日本の産業では人口減少と労働力不足が問題となっていますが、その解決策の一つとして労働条件や労働環境の改善が必要と考えられ、そのために「働き方改革関連法案」(労働に関する8つの法案の改正)が2018年に成立し、2019年4月より順次施行されてきました。

働き方改革は労働条件等の改善だけでなく、雇用機会の増大にも繋がる「多様な働き方」も推奨しているため、労働者個人の働き方の可能性を広げるとともに、企業における柔軟な人材確保の手段になることが期待されています。

従って、働き方改革の精神に則って人的資源管理や労働環境の整備に取り組む企業は、労働者に優しい企業として社会に認識されるようになったのです。そうした認識は販売、取引や人材確保などの面で有利に働くというメリットを生じさせたため、働き方改革の推進に取り組む企業が増加しました。

一方、ブラック企業の人的資源管理や労働環境の整備などは、その働き方改革の内容と反対に位置するものです。従って、ブラック企業であることが世間に知られると、販売、取引や人材確保などの面で不利に働く可能性が高まります。

つまり、働き方改革の動きが社会に浸透していくほど、ホワイト企業は歓迎され、ブラック企業は疎まれる存在になっているのです。

2)人材確保への影響

労働者に優しくないブラック企業では、離職率が高くなる傾向があり、人手不足がより深刻になりかねません。たとえば、自社がブラック企業であると社会に知られれば、新規に労働者を雇用することが困難になり、事業継続が厳しくなります。

賃金が労働に対して過剰に低い、厳しいノルマが課せられる、残業が多くサービス残業も強いられる、休暇が取れない、職務の安全性が確保されていない、などの企業では労働者の離職率は必然的に高くなるのです。

日本の令和5年6月の完全失業率(15歳以上の働く意欲のある労働力人口のうち、無職で求職活動をしている人が占める割合)は2.5%と低く、同月の有効求人倍率(求人数を、求職者の数で割った値)は1.30倍、新規求人倍率(新規求職申込件数に対する新規求人数の割合)は2.32倍となっており、企業にとっては厳しい人手不足が続いています。

以上のように厳しい人手不足の状況にある現在において、ブラック企業であることは人材確保を困難にし、特に優秀な人材や自社に望ましい人材を確保することを一層難しくさせかねません。

現在、労働者はブラック企業やホワイト企業の実態により注意を払うようになっており、ホワイト企業が選択されるのは自明の理となってきているのです。

3)労働生産性への影響

ブラック企業とホワイト企業の労働生産性については、諸説あり、どちらが高い、低い、と断定することは困難ですが、一般的にはホワイト企業のほうが高くなると見られています。

ブラック企業では、表面的に労働生産性が高くなることもありますが、長時間のサービス残業や無償の休日出勤などが反映されず、実際の生産性が示されないケースが少なくないのです。

また、そうしたブラック企業で働く社員は過重労働やストレスにより、うつ病や自殺などの精神的な病気にかかるケースも少なくありません。また、ブラック企業で働くことによって、家庭やプライベートの時間を削られることになり、家庭内の問題や離婚に繋がるケースもよく見られます。

こうした状況は、労働者全体の仕事に対するモチベーションを下げるほか、会社への忠誠心も低下させ、結果的に労働生産性の低下をもたらすことになるのです。

4)業績への影響

人手不足が続き社員のモチベーションの低下とともに労働生産性が低下していくブラック企業は、業績の低迷を招きかねません。

企業の業績はその事業のビジネスモデルの善し悪しと、それを適切に実行するビジネスシステムの運営に依存します。そして、労働者というシステムを担う人的資源に問題があれば、そのシステムの運営に支障をきたし業績の低下に繋がるのです。

特に社員の長時間の労働・残業やノルマなどに支えられている経営で、人材マネジメントに問題が生じれば、業績が大きく落ち込み事業を維持することが困難になりかねません。

たとえば、一時期に退職者が急増すれば、当然、それまでの事業を維持するのは困難であり、業績の低下は避けられなくなるわけです。また、自社がブラック企業であることが世間に知られてしまえば、退職者を補填する人材の確保も容易でなくなります。

当然、消費者や販売先などからもブラック企業として認識されることになり、これまでのような商売ができなくなる可能性も高いです。

一方、ホワイト企業と認知されれば、離職率は低くなり、希望する人材を確保することもしやすくなり、ブラック企業のような業績への不の影響を心配することはありません。

優秀な人材、モチベーションの高い社員が適正な労働に従事すれば、業績には好影響が望めるようになるでしょう。また、離職率が低くなれば業務への悪影響を回避し採用コストも低くなり利益の増大が期待できます。

加えて、ホワイト企業であることが認知されれば、消費者や販売先から評価され、売上増に結び付くというメリットも享受しやすくなるでしょう。

2 ブラック企業と判断される特徴

ブラック企業と判断される特徴

ここではブラック企業のどのような性質が「ブラック」と判断されるのか、その特徴を確認しましょう。

2-1 ブラック企業を判断する指標の例

「ブラック企業大賞実行委員会」が運営している「ブラック企業大賞」では、ブラック企業を次のように定義しています。

  1. 労働法やその他の法令に抵触し、またはその可能性があるグレーゾーンな条件での労働を、意図的・恣意的に従業員に強いている企業
  2. パワーハラスメントなどの暴力的強制を常套手段として従業員に強いる体質を持つ企業や法人(学校法人、社会福祉法人、官公庁等)

そして、ブラック企業に該当するか否かの根拠となる指標として、以下の要素が採用されています。

【ブラック企業を見極める指標】

  • ・長時間労働
  • ・セクハラ・パワハラ
  • ・いじめ
  • ・長時間過密労働
  • ・低賃金
  • ・コンプライアンス違反
  • ・育休・産休などの制度の不備
  • ・労組への敵対度
  • ・派遣差別
  • ・派遣依存度
  • ・残業代未払い(求人票でウソ)

※なお、多くのブラック企業が上記の問題を複合的に抱えているため、判断する際も総合的に判断することが必要とされています。

2-2 ブラック判定される特徴・要素とは

これまでの内容を踏まえ、ブラック企業と判断される特徴・要素の内容やその程度について確認しましょう。

●長時間労働

一般的に労働基準法に違反するような労働時間や残業時間を強いる企業はブラック企業として見られます。また、賃金不払いであるサービス残業を強いる企業も同じす。ここではどの程度の長時間等がブラック判定になり得るのか、を確認しましょう。

厚生労働省の「毎月勤労統計調査」(令和5年5月分結果確報)によると、「月間実労働時間」の状況は下表の通りです。

月間実労働時間数等 一般労働者 パートタイム労働者
総実労働時間 158.6時間 79.8時間
 所定内労働時間 145.4時間 77.6時間
 所定外労働時間 13.2時間 2.2時間
出勤日数 19.0日 13.7日

上表の値は「調査産業計」であるため、自社の状況や就職希望先の状況を評価する場合は、該当する産業の値で確認する必要があります。たとえば、製造業と飲食サービス業では以下のように差が大きいです。

月間実労働時間数等 製造業 飲食サービス業
総実労働時間 153.8時間 177.4時間
 所定内労働時間 139.9時間 161.5時間
 所定外労働時間 13.9時間 15.9時間
出勤日数 18.0日 20.7日

各産業での労働時間と比較して、自社の労働時間が著しく長い場合はブラック企業と判断されても仕方ないでしょう。

なお、残業時間についての法規制は以下の通りです。

  • ・時間外労働(休日労働は含まず)の上限は、原則として、月45時間・年360時間で、臨時的な特別の事情がなければ、これを超えることはできない
  • ・臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合、時間外労働は年720時間以内。時間外労働+休日労働は、月100時間未満、2~6カ月平均80時間以内でなければならない
  • ・原則の月45時間を超えることができるのは、年6カ月まで
  • ・法違反の有無は「所定外労働時間」ではなく、「法定外労働時間」の超過時間で判断される
  • ・上記の取扱については、大企業への施行は2019年4月からで、中小企業への適用は2020年4月から

以上の残業時間の制限を超えた場合は違反となり罰則も適用されることになります。違反する企業はブラック企業として批判を受けることになりかねないため、上記の残業時間の値をブラック判定の指標として参考にするとよいでしょう。

特に1カ月間に100時間超の残業や2~6カ月の平均残業時間が80時間超の場合は「過労死」に結び付く可能性が高まると言われており、そうした状況にある企業はブラック企業と言われても反論できないはずです。

●サービス残業

「サービス残業」は「賃金不払い残業」と呼ばれますが、適正な時間外労働である場合の賃金不払いは労働法に違反する行為です。これを組織的に社員に強いる場合のほか、社員が自主的に行っているのを企業が見過ごす場合も労働法に抵触しかねず、社会的にブラック判定される可能性があります。

企業の管理不足などからサービス残業が頻繁に実施されているケースも多いですが、その実態が公になれば社会からブラック企業として扱われる可能性が高くなるわけです。

たとえば、厚生労働省の「賃金不払残業(サービス残業)の解消のための取組事例集」には以下のような事例が紹介されています。

  • ・終業時間と退社時刻の乖離の理由が「自己啓発」とされていたものの中に、労働時間として扱うべきものがあった。また、会議の時間が残業として取り扱われていなかったことなどにより、残業手当の一部が不払となっていた
  • ・退社時刻に対して残業申請が少なく、労働時間が適正に管理されていなかった
  • ・終業時刻を所属長が現認することになっていたが社員の自己申告で行われていたケースがあったほか、実際の勤務時間よりも過少の自己申告があった。また、朝礼時間や1日30分以内の残業を時間外労働と認めていないケースもあった

以上のように終業時刻の把握不足、適正な時間外労働に対する不認定、会社の拘束時間に対する時間外労働の不認定、などサービス残業が日常的に行われているケースは少なくありません。こうした状況が頻繁に見られる場合はブラック企業と言われても仕方ないでしょう。

●少ない休日・有給休暇の取得

労働基準法では、「使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければならない」となっていますが、現代では多くの企業が週休二日制を採用していることもあり、年間110日以上の休日が確保されているケースは多いです。

特に製造業などの大企業の場合、完全週休二日制と休日・祝日を合わせると年間120日以上の休日が確保されているケースは少なくありません。

一方、令和4年「就労条件総合調査」によると、「30~99人」規模の企業における「労働者1人平均年間休日総数」は110.0日、「1企業平均年間休日総数」が105.3日となっています。

調査企業全体でみると、「労働者1人平均年間休日総数」は115.3日、「1企業平均年間休日総数」が107.0日です。休日の多さは社員規模が大きいほど多くなる傾向が見られます。

休日の多さは、業種や企業規模などによって異なりますが、年間105日以下は少ないと考えられ、さらにそれを大幅に下回る場合はブラック企業として見られる可能性が高いです。

また、ブラック企業の場合、年次有給休暇の取得が難しく容易に取れないことがよく指摘されています。先の「就労条件総合調査」の「図表」の「第5表」によると、全体での「労働者1人平均付与日数」は17.6日で、「平均取得日数」が10.3日、「平均取得率」が58.3%です。

なお、これらについても企業規模の大きい企業ほど取得日数等が多くなっています。

業種等の違いもありますが、平均取得日数が10日を大きく下回っている企業などはブラック判定される可能性が高くなるはずです。

●賃金の低さ

労働内容に対して賃金が低すぎる場合もブラック企業として見なされます。たとえば、労働時間の長さ、休日の少なさ、身体への負担の大きさや責任の重さ、などの条件に対して賃金があまりにも釣り合わないといった状況にある企業はブラック判定されるわけです。

ただし、そうした仕事の内容や労働状況などについては個々の企業によって異なり比較が困難であることから、一般的には賃金水準の内容で判断することになります。

たとえば、最低賃金が法律により定められていますが、違反してその水準を下回ったり、表面的には最低賃金を守っていてもサービス残業させたりしているような企業は、当然、ブラック企業です。

なお、企業の報酬形態は様々で、「基本給」+「各種手当」等で構成されるため、自社の賃金水準がどの程度であるかは、最低賃金の対象とならない手当等を除外し、正確な労働時間(通常の月の労働時間数等)で算定しなければなりません。

一般的に基本給が最低賃金の対象となり、手当の多くは対象から外れます。対象外となるのは、時間外等の手当、健康祝い(手当)、賞与、通勤手当、家族手当、などです。

●離職率の高さ

働くのが辛い状況にあるブラック企業では当然、離職率が高くなる傾向が見られます。

厚生労働省の「令和3年雇用動向調査結果の概況」によると、年初の常用労働者数に対する離職率は13.9%です(離職者数が3,042.7千人)。男性の離職率が12.8%、女性の離職率が15.3%で、就業形態別にみると、一般労働者の離職率が11.1%、パートタイム労働者の離職率が21.3%となっています

業種別にみると、離職者数は、「卸売業,小売業」が76.4千人減と最も減少幅が大きく、次いで「運輸業,郵便業」が60.1千人減です。離職率では「宿泊業,飲食サービス業」が25.6%と最も高く、次いで「生活関連サービス業,娯楽業」が22.3%となっています。

複合サービス業、電気・ガス・熱供給・水道業、製造業や建設業などの離職率は8~9%程度と低いです。このように業種により離職率の差が大きいため、業種ごとの比較で、その値が大きく下回るかどうかを評価してブラック度を評価するとよいでしょう。

●パワハラ・セクハラ

パワハラ・セクハラが横行するような企業はブラック企業と言えるでしょう。企業が行ったパワハラの事例では、以下のような内容が見られます。

  • 「目障りだ」や「給料泥棒」などの罵声を浴びせる
  • やる気がないなら会社を辞めろという趣旨のメールを送る
  • 工事の損失はお前が負担しろ!と叱責する
  • 会議や朝礼等において多くの社員の前で業績等の悪さを責める
  • 単純作業などに業務を変えて退職に追い込む
  • 態度が気に入らないと暴行を加える
  • 飲食に無理やり連れだし、店で説教する

以上の状況が頻繁に見られますが、厚生労働省では、パワハラを6つのタイプに分類しています。

・身体的な攻撃

叩く、殴る、蹴る、モノを投げつける、などの暴行

・精神的な攻撃

人格を否定するような言動、長時間にわたる厳しい叱責、他の労働者の前での大声による威圧的な叱責、など

・人間関係からの切り離し

特定の労働者に対し仕事から外す、別室へ隔離、無視、仲間外し、会合に出席させない、などの行為

・過大な要求

必要な教育を提供しないまま、到底対応できないレベルの業績目標を課す(及び目標達成できなかったことに対しての厳しい叱責)、業務とは関係のない私用の雑用を強制的に行わせる、など

・過小な要求

管理職の労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務に就かせる、気に入らない労働者に嫌がらせのために仕事を与えない、事務職に対して倉庫業務だけを命じる、など

・個の侵害

労働者を職場外でも継続的に監視する、個人の私物を写真で撮影する、上司との面談等で話した性的指向、病歴、不妊治療等の個人情報を本人の了解を得ずに他者へ話す、など

また、セクハラとしては以下のような事例が見られます。

  • 上司が部下のプライベートのことを根掘り葉掘り詳しく聞く
  • すれ違う際に肩、腰や腕などを頻繁に触る
  • 終業後に一対一の食事を強要する
  • 断られても休日などにデートに誘う
  • 交際を迫る

厚生労働省では「職場におけるセクシュアルハラスメント」を、以下のように定義しています。

(1)対価型

対価型のセクハラとは「労働者の意に背く性的言動に対する労働者の対応(拒否や抵抗)によって、その労働者が解雇、降格、減給、労働契約の更新拒否、昇進・昇格の対象から除外されること、客観的に見て不利益な配置転換などの不利益を受けること」を指します。

その該当例は以下のような内容です。

  • ・事業主が労働者に対して性的な関係を要求したところ拒否されたため、その労働者を解雇した
  • ・移動中の車中で上司が労働者の腰、胸などに触ったところ抵抗されたため、その労働者について不利益な配置転換した
  • ・事業所内で事業主が日頃から労働者の性的な事柄について公然と発言していたが、抗議されたため、その労働者を降格した

(2)環境型

環境型とは「労働者の意に合わない性的な言動によって労働者の就業環境が不快なものとなり、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなどその労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること」のことです。

その具体例は以下のような内容になります。

  • ・事務所内で上司が労働者の腰、胸などに度々触ったことにより、その労働者が苦痛に感じ就業意欲が低下した
  • ・同僚が取引先等で労働者に係る性的な内容の情報を意図的かつ継続的に流布したため、その労働者が苦痛に感じて仕事に集中できなくなくなった
  • ・事務所内にヌードポスターを掲示しているため、その労働者が苦痛に感じて業務に集中できなくなった

以上のようなパワハラ・セクハラの行為が普通に見られる企業はブラック判定されてもおかしくありません。

●労働安全衛生の違反

ケガ等を伴う事故が発生しやすい状況に職場にしていたり、病気等を誘発させるような業務方法を取らせていたりする場合、その企業はブラック判定されることになります。

労働者を安全な環境で働かせるために「労働安全衛生法」が制定されていますが、これに違反する企業は少なくありません。建設業や製造業などのほか、作業を伴う様々な事業ではケガ等に結び付く危険な行為を伴うことも多いため、その作業等に関して資格やルールなどが決められています。

しかし、そうした安全を担保するための行為や取組などは人手や費用が少なからずかかることも多いため、その決まりを軽視して守らいな企業も多いのです。

この労働安全衛生法に違反することは、単に法令遵守しない企業というだけでなく、労働者を危険に晒してもかまわない、という労働者を軽んじる企業、すなわちブラック企業として見られることになります。

実際に違反して事故が発生し、そのことが公になれば、一定期間の営業停止だけに留まらず、売上や取引の減少、社員の離職の増加、などが起こりその事業継続が困難になることも少なくありません。

労働安全衛生法に違反する行為が普通に行われている、労働者の安全・健康の増進などに対する配慮が低い、などの企業はブラック企業と判断されるのです。

●コンプライアンス違反

法令遵守に対する意識が低く、実際に法令違反するような企業はブラック企業と見られます。たとえば、以下のような法令に違反すれば、世間からはブラック企業として扱われかねません。

・著作権侵害

特許をもつ他社の商品を勝手に模倣して販売するケースは多いです。

・食品偽装等

賞味期限や産地などを偽装表示した販売も多く見られます。外国産を国内産と表示して販売するケースなどが代表的です。

・労働基準法等の違反

既に取り上げたサービス残業、制限を超えた労働時間や残業時間、雇用契約での労働条件を満たさない不当な処遇・扱い、などもよく見られます。また、先の労働安全衛生法違反なども多いです。

・補助金や助成金等の不正受給

補助金等の受給要件を満たさないにもかかわらず、虚偽の内容で申告し受給を試みるケースも少なくありません。

・粉飾決算等の不正会計

赤字であるのに黒字と見せかけたり、逆に黒字なのに赤字と見せかけたりするなどの不正会計を行う企業も多いです。一般的には費用を水増しして利益を減少させ納税額を減らすといった行為がよく見られます。

こうした不正行為が公になれば、その企業はブラック企業と判断されるでしょう。また、法令遵守の意識が低い企業はいつ不正行為が生じでも不思議ではなく、ブラック企業の範疇にあると言えるかもしれません。

●不当解雇や退職勧奨

不当な解雇や退職勧奨が多い企業、つまり、正当な理由なく社員を退職させる企業もブラック企業と判断されます。

先のパワハラで上司が部下に対して辞職に追い込むようなケースなども含まれますが、そうした行為や経営者が社員を自分の都合で首にする行為などがあれば、その企業はブラック判定されることになるのです。

●絶対的なトップダウンの組織運営

部下の意見や社員の反対などに耳を貸さず、自分の考え・判断で組織を運営する絶対的なトップダウンで組織を運営する企業はブラック判定される可能性が高いです。

非効率な作業、法令に違反する行為、私用などの依頼、雇用契約や労基法を無視した理不尽な労働、などを平気で命令する経営者は少なくありません。

また、事業の方針や内容、業務プロセスの方法などを経営者が自分の好きな内容で決めて社員に従わせるという例もよく見られます。こうした行為が、企業に不利益を生じさせ、社員に余計な負担をかけ労働意欲を減退させているなら、その企業はブラック企業になっている可能性が高いです。

●低レベルの福利厚生

福利厚生が充実している企業は社員に優しい企業と言える一方、その水準が低い企業はブラック判定されてもおかしくありません。

福利厚生は法定福利厚生と法定外福利厚生に分けられますが、前者は雇用保険や労災保険など法律で定められた必須の福利厚生です。後者は法律外の企業が独自に設定するもので、その種類と内容が充実するほど社員は快適な仕事や暮らしが実現しやすくなります。

その法定外福利厚生には、住宅手当、慶弔手当、交通手当、健康診断、社員食堂、社宅、家族手当、ジムやレジャー利用料支援、などが含まれます。これらの手当等が多いほど社員にとってはプラスですが、法定外であることから、なくても法的にはその企業はブラック企業とは言えないでしょう。

しかし、今日においては大半の企業が一定の手当等の法定外福利厚生を提供していることから、同業他社と比べて過度に劣っている場合は労働者に優しくない企業としてブラック判定される可能性は高いです。

●職場環境

働く場所としての職場が社員にとって居心地が悪ければ、働く意欲を失せることになりますが、そうした悪い職場環境の状況を作り出し放置しているような企業はブラック企業と見なされても仕方ないでしょう。

労働者の生活の中心の一つとなる職場環境の状況が悪ければ、仕事へのモチベーションの低下を招くだけでなく、個人の心身に悪影響を及ぼしかねません。職場環境の状況は様々ですが、たとえば、以下のような状況になっている場合、社員にとっては大きな負担になるでしょう。

  • 挨拶がろくに行われず、友好的なコミュニケーションが取られない
  • 責任感が低く、難しいことは他者に押し付ける雰囲気がある
  • 同僚との協調や協力が進んで行われない
  • 保守的でチャレンジ精神が低く、ネガティブ思考である
  • 安全に配慮した対策が疎かである
  • 適切な社内教育が行われない
  • 労働負荷の低減に向けた改善活動が拒まれる

働く環境の善し悪しが社員の労働生産性に大きく影響するという点を認識せず、なすがままで改善しない企業はブラック判定されてもやむを得ません。

3 ホワイト企業と判断される特徴

ホワイト企業と判断される特徴

ここではホワイト企業の特徴を厚労省の「安全衛生優良企業公表制度」の内容などをもとに、認定基準や事例などからホワイト企業の性質を確認しましょう。

3-1 安全衛生優良企業とは

「安全衛生優良企業」は、労働者の安全や健康を確保するための対策に積極的に取り組み、高い安全衛生水準を維持・改善していると、厚生労働省が認定した企業のことで、「ホワイトマーク取得企業」とも呼ばれています。

この認定の取得にあたって、過去3年間、労働安全衛生関連の重大な法違反がない等の基本事項のほか、労働者の健康保持増進対策、メンタルヘルス対策、過重労働防止対策、安全管理など、幅広い分野で積極的な取組に努めていることが要求されます。

1)ホワイトマーク取得企業のメリット

ホワイト企業に対して社会の注目が高まりつつあるため、ホワイトマーク取得企業になることは、ホワイ企業であることとの一つの証明になりビジネス上有利になると考えられています。

長時間労働による病気、法の安全対策に従わないことで生じる事故、セクハラ・パワハラ等による離職、などの発生が見られるブラック企業には、世間や労働者の目が厳しくなっており、取引や人材確保等の面で不利になります。

たとえば、社員を粗末に扱う、法令・社会規範などを守らないブラック企業との取引には信頼性・安定性・持続性等での不安が生じやすいことから、取引しようとする企業は少なくなりやすいです。また、労働者もそんな企業で働きたいと考える者はいなくなり、その企業での人材確保は困難を極めるでしょう。

そのため企業としては、ブラック企業でないことを社会にアピールしたいところですが、それを客観的に示す方法として「安全衛生優良企業」の認定が有効になるのです。

認定されるためには労働者への配慮や法令遵守など、様々な要素を向上させることが必要ですが、その過程を通じて社員の労働意欲を高め生産性を向上させ、収益を改善させることも期待できます。

また、企業体質を改革し新しいことへの挑戦意欲を高められれば、イノベーションを実現し新事業を生み出すこともあるでしょう。

より直接的なメリットとしては、厚労省のWEBサイトへの優良企業としての3年間の掲載、求人広告でのPRポイントとしての活用、一般競争入札や公共調達での加点評価、金融機関からの資金調達の容易化、などが挙げられます。

2)ホワイトマークの認定基準

ホワイト企業の特徴を理解しやすいように、ホワイトマークの認定基準の内容を確認しましょう。厚労省では、安全衛生優良企業になるには、以下の基準を満たす必要がある、としています。

・安全衛生優良企業認定基準別添の第1、第2の必要項目

全ての項目を満たす必要があること

・安全衛生優良企業認定基準別添の第3の評価項目

(1)項目別基準

各分野別の評価項目の合計については、それぞれの総計の6割以上を満たすこと

(2)総合点基準

全評価項目の総合点については、総計の8割以上を満たすこと

評価項目の内容は「安全衛生優良企業公表制度評価項目一覧」や「安全衛生優良企業公表制度認定基準解説書」で確認できますが、その主なポイントを示しておきましょう。

第1 「企業の状況として満たしていることが必要な項目」(必要項目)

1 「労働安全衛生法等の違反の状況」

過去3年以内に労働基準関係法令の違反で送検されていない、など重大な法令違反がないことが必要です。この中には、違法な長時間労働の繰り返し等で行政指導を受けた実績などが評価されます。

2 「労働災害発生等状況(派遣労働者を含む)」

過去3年以内に法令違反による死亡災害など重篤な労働災害を2件以上発生させていない、休業1日以上の労働災害の発生率が、同業種の平均発生率(度数率)を下回っている、などが要件です。

3 「その他優良企業として満たしていることが必要な状況」

過去3年間の企業活動で、「安全衛生に関する優良企業」としてふさわしくない問題を起こしていない(社会的に影響がある悪質又は不適切な事案を発生させたいない)ことが求められます。

第2 「企業の取組として満たしていることが必要な項目」(必要項目)

1 「安全衛生の実施体制の取組」

各事業場に従業員の健康や安全を担当する組織、又は担当者がいる、また、企業本社には、全社的な健康や安全を担当する組織又は担当者を置いていること、などが要件です。また、安全衛生の取組の計画・実施・改善等のマネジメント体制も求められます。

2 「安全衛生全般の取組」

従業員の健康や安全の確保を重視する方針の明文化、方針の周知徹底、安全衛生活動の取組に関する社員の意見の反映、労働災害・労働時間等のトップへの報告、などの実施が評価対象です。

第3 「企業の積極的な取組を評価する項目」(評価項目)

1 「安全衛生活動を推進するための取組状況」

安全衛生に関する社員の主体的な取組に対する支援、安全衛生の取組計画や改善に関する社員の意見反映の仕組、などが求められます。

2 「健康で働きやすい職場環境の整備」

2-1 「健康管理の取組状況」

2-1-1 「健康管理の取組」

社員の健康の保持・増進に関する計画の策定及び実施が行われていること、計画についての社員との共有、健康教育や健康相談などの健康保持増進措置の取組、などが行われていることが要件です。

2-1-2 「健康管理の状況」

過去3年間の各年で定期健康診断の有所見率の改善が必要とされています。

2-2 「メンタルヘルス対策の取組状況」

メンタルヘルス対策の推進計画の策定及び実施、計画の共有、対策の分析・改善の実施、メンタルヘルスの情報提供・教育研修、などが評価対象です。

2-3 「過重労働防止対策の取組状況」

2-3-1 「過重労働防止対策の取組」

過重労働防止対策(労働負荷の軽減)の計画策定及び実施、その対策の分析・改善の実施、労働時間の適正な管理と改善、1カ月の時間外・休日労働が80時間を超える従業員への医師による面接指導、などが評価対象になります。

2-3-2 「過重労働防止対策の状況」

過去3年間の各年の年次有給休暇の取得率が70%以上である、1週間当たり40時間を超えて労働させた時間が2カ月以上連続して月80時間を超えた社員がいない、などが評価対象です。

2-4 「受動喫煙防止対策の取組状況」

屋内の職場で、受動喫煙防止対策(全面禁煙又は空間分煙)を実施しているかが評価されます。

3 安全でリスクの少ない職場環境の整備

3-1 「安全でリスクの少ない職場環境の整備の取組(リスクアセスメントの実施状況等)」

安全活動のための計画の策定及び実施、4S(整理、整頓、清掃、清潔)活動の継続的な実施等、ヒヤリ・ハット活動(ヒヤリとするような状況を防止する活動)の継続的な実施等、危険予知(KY)活動の体制と継続的な実施、過去の労働災害の事例の分析、リスクアセスメントの実施のため体制整備と実施、などが評価対象です。

3-2 「安全でリスクの少ない職場環境の整備の状況」

過去3年間において休業1日以上の労働災害の発生率が、同一業種の平均発生率(度数率)に比べ1/2未満である、死亡災害等の労働災害、労働安全衛生規則第96条に規定する事故等が発生していない、などが評価されます。

以上の第1、第2、第3の必要項目や評価項目で一定割合以上を得点すればホワイトマークを取得することが可能です。これらの項目の内容を満たせるように取り組めばホワイト企業に近づけるでしょう。

3-2 安全衛生優良企業の取組事例

ホワイトマークを取得した企業の取組内容を厚労省の職場あんぜんサイトから紹介しましょう。

(1)株式会社ルトラ

株式会社ルトラ

同社は、各社員の自己実現とワークライフバランスの拡充を図るため、安全かつ心身ともに健康で快適な職場づくり体制を積極的に推進し、継続的な改善に取り組んでいます。

●取組内容

①安全衛生・保健衛生に関する外部セミナーや研修会の参加を促し、年に3回メンタルヘルスの社内セミナーを開催する

・開催セミナー名

  • 「心配な部下や同僚に声をかける、相談を聞くときのコツ、教えます」
  • 「メンタルヘルスに関する社内セミナー」
  • 「企業事例×55万人のストレスチェック結果から考えるコロナ禍3年目に向けた《新》メンタルヘルス対策外部セミナー」
  • 「~心療内科産業医が解説~職場のメンタルヘルス対策セミナー」

②健康や安全に関する意見交換会を開催する

・第1回意見交換会議題

  • 【安全】・交通事故に合わない為に、等
  • 【衛生】・冬の体調管理・感染症対策について、等

③年間計画を社員に周知し、計画の進捗状況を公表する

・計画内容の周知・進捗状況の公表

A 衛生委員会の開催、B セミナー受講の案内通知~V 雇入時の安全衛生教育、W 安全衛生に関する年間計画の分析、などの年間計画が策定されました。

④ストレスチェックを実施する

(2)株式会社エージェントグロー

株式会社エージェントグロー

同社は、「中小企業で働くIT工ンジニアの労働環境を変える」を使命とし、その達成に向けて「安全・健康宣言」を行い、従業員に以下の取組を実施しています。

●取組内容

【健康保持増進の取組】

  • ・定期健康診断のほか、関東ITソフトウェア健康保険組合との共同事業として、「健康企業宣言」を行う
  • ・新型コロナ予防対策を早期に立ち上げ社員全員に周知する(時差出勤、特別休暇取得を対策として実施)
  • ・定期健康診断の未受診者の報告
  • ・従業員の健康保持増進の活動にかかるサークル活動費補助の実施

【メンタルヘルス対策の取組】

  • ・ストレスチェックでは、従業員数の増加にもかかわらず高ストレス者が減少傾向
  • ・メンタルヘルス対策については、Fairugritシステム(メンタル自己チェック機能あり)の導入によりメンタル状況の見える化を実現し、メンタル不調者の早期発見に役立てている

【過重労働防止対策の取組み】

  • ・過重労働防止対策として、毎月実施する労働時間改善会議で残業状況を確認し、要フォロー対象者へのヒアリングを毎月実施している
  • ・安全・健康宣言の「時間外労働1人あたり月平均10時間以下を目指します」により、2020年度8.39h/人、2021年度9.16h/人、2022年度9.89h/人と3年間、宣言目標を達成した

4 会社設立時からホワイト企業を目指す運営・取組

会社設立時からホワイト企業を目指す運営・取組

ここではブラック企業にならず、ホワイト企業になることを目指すための会社づくりとその運営方法などを確認しましょう。

4-1 ブラック企業にならないための企業運営

ブラック企業と判断されないための重要な7つのポイントを取り上げ、どのように取り組んでいくかを紹介します。

1)適正な労働時間の確保

労働時間の管理を法令に従い適正に実施することが必要です。たとえば、1日の労働時間が6時間を超える場合は45分、8時間を超える場合は1時間の休憩を与える必要があります。

また、企業は労働者に毎週少なくとも1回(もしくは4週間に4回)の休日を与えねばなりません。労使間において、法定時間外労働や休日労働は最小限に留められることを意識した上で割増賃金の支払いなどについて取り決めた「時間外労働・休日労働に関する協定書」(「36協定」)を締結し、「時間外・休日労働に関する協定届」(「36協定届」)を労働基準監督署に届け出る必要があります。

こうした法令を正しく認識して遵守できるように組織を運営・管理していかねばなりません。そのためには、以下のような取組を進めるようにしましょう。

  • 勤怠管理システムの導入
  • 労働時間の記録義務化
  • 残業時間の上限設定
  • 休日出勤の制限
  • 労働時間の可視化

2)労働環境の改善

労働者が働く環境を適切な状態にするための改善も重要になります。労働環境とは、会社に勤める社員を取り巻く環境のことで、場所や時間のほか、社員が働く上での全ての環境のことです。たとえば、労働時間のほか、職場の温度や湿度、照明や換気設備、その状態の整備なども含まれます。

なお、労働環境の整備や改善では以下のような点に取り組むことが重要です。

(1)長時間労働を抑制する勤務制度の設定

法令に従って適正な労働時間となるように企業がコントロールしていく必要がありますが、そのためには業務プロセスや各作業を改善して生産性を高め、業務を適正な労働時間で処理できるようにしていかねばなりません。

ブラック企業と言われないようにするために、長時間労働の抑制や休日の増加などに対応していく場合、人員の増加も必要です。しかし、人手不足の時代において人材確保は容易でなく、また、コストの上昇を招き経営を圧迫することになります。

そのため人員の増加の検討とともに、労働時間の減少と休日の増加に繋がる業務の改善・効率化等に取り組むことが必要となるのです。これから会社設立する方などはこの点を意識して適正な労働時間・休日等を設定し、業務プロセス・作業を確立していくことが求められます。

労働時間等が適正に確保された、社員に優しい労働となるように業務プロセスや作業を確立することが重要です。

(2)労働者の安全・健康の確保

労働災害が起こらない、病気・ケガの発生がないような労働者の安全と健康が確保できる取組が求められます。

労働基準法や最低賃金法、労働安全衛生法で労働条件の最低基準が定められていることから、企業はその法的責任を第一に果たさなければなりません。そのため企業は以下のような取組を行う必要があります。

  • 安全衛生教育の実施
  • 作業環境の整備・改善
  • 事故防止対策の徹底
  • 健康管理の推進
  • 労働災害の報告・調査・分析

会社設立時等から上記の点を考慮した業務内容や環境整備を検討することも重要です。

(3)その他

上記のほかに、「コミュニケーションの活性化」、「業務内容や業務量の適切化」、「ライフワークバランスを考慮した働き方の導入」などにも取り組みましょう。

3)パワハラ・セクハラの防止

パワハラ・セクハラの防止対策としては、以下のような点が重要になります。

  • パワハラ・セクハラに関する問題行動の定義と禁止事項の明確化
  • 問題行動に関する報告体制の整備
  • 問題行動への適切な処置の実施
  • 問題行動防止のための教育等の実施
  • 問題行動防止に向けた組織文化の醸成

以上のようなマネジメントや職場環境の整備等を進めていけば従業員のメンタルヘルスを良好に維持できるため、会社設立時からそれらに取り組むことが必要です。特にパワハラ・セクハラ等に関する社内の啓発活動や相談窓口の設置などが重要になります。

4)賃金不払いの防止

賃金不払い防止対策として、「労働時間の適正管理」「賃金の適正支払い」「労働条件の明確化」などを実施していくことが必要です。たとえば、賃金台帳の作成・保存や賃金明細書の交付、賃金支払い期限の設定などが挙げられます。

また、賃金不払いに関する問題について社員が相談できる窓口などを設置し、社員の権利を守り、労働環境を改善する、といった姿勢を会社設立時から示しましょう。

5)コンプライアンス意識の向上

コンプライアンス意識の向上に向けては、以下の点などが重要になります。

  • コンプライアンスに関する教育等の実施
  • コンプライアンスに関するルールの明確化
  • コンプライアンスに関する報告体制の整備
  • コンプライアンス委員会等の設置

法令や社会規範などに違反した場合のペナルティの内容やその影響、などを全社員で共有し、法令遵守を徹底できる組織へと経営者は社員を導いていきましょう。

6)人材育成・教育の充実

自社業務を効率的・効果的に実施するためには、それに従事する社員の能力・意欲を適正に維持することが必要となることから、彼らへの教育は重要です。また、労働者も働きがいを感じる上で自身のスキル等の向上やキャリアアップに関心が高く、企業からの教育を重視します。

従って、社員を適正に教育していくことは企業の利益だけでなく社員個人の利益の増大にもリンクするわけです。社員のメンタルヘルス面から見ても、社員教育は彼らのモチベーションアップやストレス解消に繋がるため、有効な手段になります。

なお、人材教育を充実させるためのポイントとしては、以下のような点が重要です。

  • 教育に関する目標設定とフィードバックの実施
  • 研修プログラムの充実
  • マネジメントスキルの向上
  • メンター制度の導入
  • キャリアアップ支援の充実

会社設立当初からこうした体制を完備するのは困難ですが、企業の成長に合わせて計画的に整備していきましょう。

7)経営者自身の模範的行動

経営者自身が模範となる行動を取り、社員に示すことが不可欠です。たとえば、以下のような内容に取り組むことが求められます。

  • 法令遵守の徹底
  • パワハラ・セクハラ防止を意識した言動の徹底
  • フェアな評価制度の導入と実施
  • ワークライフバランスの実現(経営者も実践する)
  • コミュニケーションの活性化(気軽な挨拶や面談 等)

特に会社設立直後においては、経営者の振る舞いがその会社の企業体質に直接的に影響するため、経営者は模範となる行動を心掛けましょう。

4-2 「ホワイト企業認定」への取組

一般財団法人 日本次世代企業普及協会は、企業のホワイト化を総合的に評価する「ホワイト企業認定制度」を運営しています。この制度では7つの指標(要件)が設定されており、その指標の内容を満足できるように取り組めばホワイト企業に近づけるはずです。

1)ビジネスモデル/生産性

この指標は、自社のビジネスが、高い安全性や安定性を確保して長期永続が可能であることや、生産性向上に資する施策を積極的に推進し、ビジネスをさらに発展させていること、などを評価します。

適正な労働時間・休日の確保や職場環境の整備などを行うには、業務において各種コストの削減や労働負荷の低減等が必要です。そのため、儲かるビジネスモデルの確立と収益を高める生産性の向上は重要であり、会社設立時からそれらに取り組むことが求められます。

2)ダイバーシティ&インクルージョン

この指標は、全社員が各々の特色/個性/経験等を活かして活躍できる会社を目標としていること、多様な人材が活躍できるための支援を企業が実施していること、などを評価するものです。

ダイバーシティは「多様性」のことで、インクルージョンは、企業内の社員すべてが尊重され、その個々が能力を発揮して活躍できている状態のことです。こうした個の違いを適正に反映した扱いを企業が実施するほうが、企業も個人も各々の利益獲得に繋がりやすくなります。

性別、年齢、国籍、学歴、宗教、などで採用や昇進昇格のほか、異動・配置などを決めたり、一律に扱ったりしないで、本人の個性・経験・意欲などを尊重して業務に従事させたり、処遇したりするほうが、企業及び社員に利益をもたらすでしょう。

3)ワークライフバランス

この指標は、全社員のワークライフバランスの実現を目指し、就業場所や時間、ライフステージに縛られない柔軟な勤務形態を導入する、キャリア実現を支援する、といった取組を評価するものです。

ワークライフバランスは、仕事とプライベートのバランスをとることで、社員のストレスや疲れを軽減し、生産性の向上に役立ちます。また、社員が仕事とプライベートを両立させることで、自己実現や自己成長を図りやすく、労働意欲と生産性の向上に繋がる可能性も高いです。

そのためワークライフバランスを実現することで企業は、社員の定着率を改善し、採用コストや研修コストなどのコスト削減も期待できるようになります。会社設立当初からワークライフバランスを考慮した勤務形態や労働環境の整備を検討していきましょう。

4)健康経営

この指標は、社員の健康を重要な経営資源と考えて、個人の健康増進を企業の業績向上に繋げるための施策として取り入れているか、を評価するものです。

健康経営は、従業員の健康管理を経営的な視点で捉えて戦略的に実践することで、社員への健康投資がそれにあたります。それが彼らの活力向上や生産性の向上などの組織の活性化に繋がり、結果的に業績向上や株価向上に結び付くことが期待できるのです。

健康経営の具体的な取組としては以下のような内容が挙げられるでしょう。

  • 健康診断の実施
  • ストレスチェックの実施
  • 健康増進施策の実施
  • フレックスタイム制度の導入
  • テレワーク制度の導入

会社設立時から健康経営を採用すれば、企業イメージの向上、優秀な人材の獲得、その後の社員の定着率向上、などが期待できるでしょう。

5)人材育成/働きがい

この指標は、社員と企業の関係を対等と見なし、両者が同じ方向に向かって成長するための取組を実施し組織力を強化している、などを評価するものです。具体的には、「キャリアマップの定義と周知」、「各種の必要な研修プランの策定と実施」、「メンター制度等のサポート」などが挙げられます。

社員という労働力は企業がビジネスを実施するための貴重な経営資源であり、その質と量が事業にとって適正であることがその成功に直結します。そのため企業は彼らを適切に教育するとともに、その能力が存分に発揮されるように働きがいを感じさせるなどの取組が欠かせません。

教育やモチベーションアップの方法は様々ですが、自社の状況や社員の意見なども踏まえて、会社設立時から適切に実施していきましょう。

6)リスクマネジメント

この指標は、経営上の障壁となるリスクの特定、リスクが及ぼす影響への対策立案(危機発生の回避)、危機発生時の損失の極小化、などの取組を実施しているか、を評価するものです。

企業経営にはリスクが付き物ですが、そのリスクで事業が悪化し雇用不安が生じるようになれば労働者は安心て働くことができません。また、そうした不安は労働意欲に影響し生産性の低下に結び付くこともあります。

そのため経営者は事業継続に大きく影響するリスクを洗い出し、事前に対応策を立てて備えなくてはなりません。あらゆるリスクに対処することは難しいですが、会社設立時から特に重要なリスクについては対策を立て社員にはそれを認識させて実行できるように指導することが必要です。

7)労働法遵守

この指標は、社員が安心・安全に働くことができ企業活動を円滑に遂行していくために、労働法の内容を正しく理解し遵守しているか、を評価するもので、先に確認してきた法令遵守での取組内容と同じと考えてよいでしょう。

5 まとめ

会社設立時からホワイト企業を目指す

高度な情報化社会となった現代では、企業の行為や態度は良くも悪くも直ぐに社内外に伝わり、ビジネスに影響するケースが多いです。そのため、一旦、「ブラック企業」のレッテルが貼られるとその企業の事業活動は致命的になる一方、「ホワイト企業」と評価されるとビジネスは有利に働く可能性が高まります。

会社設立時からブラック企業にならず、ホワイト企業になることを目指し、そのための取組を進めていけば、効率的でリスクに強い組織、社員や社会に愛される会社へと発展させることは、それほど難しくはないでしょう。