一昔前まではマクドナルドをはじめとした海外の飲食企業が日本に進出するケースが一般的であり、国内の企業が海外に進出するケースはあまり多くはありませんでした。しかし近年は、海外に活路を見出す飲食業界の企業が増えており、実際に成功した企業もちらほら出ています。

海外に進出する飲食の会社は大手に限った話ではなく、海外に飲食店を展開する中小企業も近年は多く見受けられます。この記事を読んでいる方の中にも、海外展開を視野に入れている飲食店の経営者の方はいらっしゃるかもしれません。この記事ではそんな経営者の方に向けて、海外進出に成功した飲食業界の会社を厳選して30社ご紹介します。

また、海外進出に成功した会社とあわせて、飲食業界で海外進出が進む背景や、海外進出する上で抱えている課題、そして現地で飲食業界の会社が成功するポイントもあわせてご紹介します。海外進出に成功した飲食業界の会社を知りたい方はもちろん、飲食店を海外に出店したい方も参考にしてみてください。

目次

1 飲食業界の海外進出が進む背景

飲食業界では、海外進出する会社が近年増加しています。数年前に農林水産省が発表したデータによると、海外では日本食レストランが3割ほど以前(当時から起算して2年前)と比べて増えています。

 

1-1 飲食業界における海外進出の現状

実際に海外進出を検討する飲食業界の会社が増加しており、主に出店を検討している地域としてはシンガポールやタイなどのアジア圏が多く、その背景にはアジア圏の著しい経済発展が挙げられます。また、飲食業界で海外進出が進む背景としては、「世界の日本食に対するニーズ」「国内需要の減少」の2つが指摘されています。

 

1-2 世界的に日本食に対するニーズが高まっている

日本食に特有の薄い味付けや魚中心の食生活は、欧米のセレブ層を中心として多くの人から支持を得るようになっています。それに伴い、健康食としてのイメージが高い日本食に対するニーズも高まっています。

また、日本食の味の美味しさにも近年注目が集まっています。天ぷらや寿司といった日本の代表的な料理はもちろんのこと、ラーメンや串カツといった日本のB級グルメも人気を博すようになりました。

上記のような日本食に対するニーズの高まりに伴い、さらなる収益を得るために海外進出する動きが飲食業界では高まっているのです。

 

1-3 国内需要の減少(国内での競争過熱)

近年日本では、少子高齢化に伴い需要が減少しており、従来以上に飲食業界の会社が収益をあげるのは困難を極めています。それに拍車をかけるように、原材料費の上昇などの事態も生じており、多くの飲食店が対策に追われています。

需要の減少に伴う競争の激化が生じている日本国内と比べて、アジア圏をはじめとした海外諸国では人口増加や前述した日本食ブームに伴い、飲食業界にとってはかつてないチャンスが訪れています。国内での需要が見込めないために、海外でのチャンスに希望を見出す動きが飲食業界では高まっているわけです。

飲食業界で海外進出の動きが進んでいる理由は以上の2つとなります。国内での需要が減少する一方で、海外での需要が高まっている現状で、海外進出を飲食店が図るのは非常に合理的な選択肢であると言えるでしょう。

2 飲食業界の会社が海外進出する上で抱える課題

前述する通り、飲食業界では、海外進出を図る会社が増加傾向にあります。しかし飲食業界の会社が海外進出する際は、さまざまな課題に直面することになります。

 

2-1 現地でのスタッフの雇用と教育

飲食業界の会社が海外進出を図る上で、最も大きな課題となるのが現地でのスタッフの雇用と教育です。自社の基盤がない異国の地にて、現地の住民を採用するのは、コスト・労力の両面で困難です。仮に雇用することができても、日本とは文化も言語も異なるので、日本の従業員と同様にスタッフに教育を施すのは難しいでしょう。

日本で再現できていた味を再現するにも、現地スタッフに作り方を覚えてもらわなくては再現できません。また日本では丁寧な接客が当たり前ですが、海外では基本的に日本ほど接客を丁寧には行いません。そのため、現地のスタッフに日本流の接客を理解して実践してもらうのも簡単ではありません。

 

2-2 マネジメント人材の不足

飲食業界の会社が海外進出する際には、マネジメント人材の不足にも悩まされます。日本での味や接客を同じクオリティで実現するには、スタッフや店舗運営を適切にマネジメントする必要があります。しかし海外でのマネジメントを行う人材には、通常のマネジメントスキルや業務のノウハウはもちろん、現地の文化や言語を理解する力も必要となります。実際にそのようなマルチスキルを持つ人材はいないのが現状であり、多くの会社が課題として認識しています。

 

2-3 物件の取得

海外進出する上で認識すべき三つ目の課題は、現地で飲食店を営む際に必要な物件の取得です。現地で物件を取得するには、日本とは異なる法律に基づいて物件を取得する必要があり面倒になります。

これまで海外で飲食店を出店した経験がない限り、現地で物件を取得する際に多くの企業が苦労するため、多くの会社は、海外進出に精通している業者に物件の取得手続きをサポートしてもらいます。自力で探す場合と比べて手間は省けますが、追加で費用が発生するので注意も必要です。また不動産の所有者との交渉プロセスで、宗教関係のトラブルに巻き込まれるケースも国・地域によっては生じるため、気をつける必要があります。

 

2-4 現地での取引業者探し

海外進出して飲食店を営むには、現地で料理を作る上で必要な原材料を調達する必要があります。現地でのツテがある場合には問題ありませんが、一からその国で飲食店を始めるには現地で原材料を販売してくれる取引先を見つけなくてはいけません。国によっては日本の味を出す上で欠かせない原材料を取り扱う業者自体が少ない場合もあり、そのようなケースでは取引業者を見つけること自体が困難を極めます。

 

2-5 資金調達

日本国内で店舗を増やす場合と比べて、海外進出する際には設備投資や物件取得に莫大な費用がかかります。そのため海外進出を実施する際には、資金調達が課題となります。返済期間や月々の資金繰りを考慮した上で、どこからどのくらいの資金を調達するのかを慎重に考える必要があります。

 

2-6 その他

上記であげた課題以外にも、海外進出には多くの課題があります。具体的には、現地での会社設立の登記手続きや集客プラン、メニューの決定などが課題として考えられます。飲食店を営む会社は、どのような課題が生じるかをあらかじめ把握し対処法を考えた上で、海外進出に取り掛かりましょう。

3 現地で飲食業界の会社が成功するポイント

現地で飲食業界の会社が成功するには、下記3つのポイントに対処する必要があります。

 

3-1 現地のニーズに合致したメニューの提供

日本食のニーズが高まっているとはいえ、必ずしも日本の味がそのまま受け入れられるとは限りません。国ごとに食文化は異なるため、そのままの味を導入すると現地のお客さんに受け入れられない可能性があります。

海外進出を確実に成功させたいのであれば、事前に現地の人がどのような味を好んでいるのかをリサーチする必要があります。そしてリサーチ結果を踏まえて、現地のお客さんのニーズに合わせて、日本の味を適度にローカライズするのが大切です。たとえば中東のイスラム圏では、控えめな甘さを好む日本人と比べて、甘いものを好む消費者が多いです。そのような場所にスイーツ店を出店するのであれば、日本の店舗よりも多少甘めに味を設定するなどの施策が効果的と考えられます。

 

3-2 資金調達や販売の戦略をしっかり立てる

海外進出する場合と日本で飲食店を出店するのとでは、何から何まで異なります。味の好みのみならず必要となるコストも集客の方法も日本とは異なるので、現地での運営に合わせた形で資金調達や販売戦略を立てる必要があります。

日本で飲食店を運営するのと同じように資金調達や販売の戦略を練ると、思わぬタイミングで資金繰りが苦しくなったり、想定に反して集客に失敗したりするケースが出てきます。海外進出を図る際には、感覚で行うのではなく、事前に現地で必要となるコストを見積もった上で資金調達を行いましょう。また、現地の文化などを踏まえた上で販売戦略を練るのが大事です。

 

3-3 現地の法律や慣習への適応

日本と海外では法律や慣習が全く異なるので、現地の法律や慣習に合わせた事業運営をしていく必要があります。仮に日本と同じ感覚で事業を始めると、法律違反で飲食店経営を続けられなくなったり、宗教的な理由でお客さんからの不信感を買う恐れがあります。

上記のようなリスクを1%でも下げるためにも、海外進出する際にはあらかじめ現地の法律や慣習を把握し、作成する契約書や事業運営の内容が問題ないかをチェックするのが非常に重要です。高度な法律の専門知識が必要となるため、実際に海外進出を図る際には現地の法律に詳しい弁護士にサポートしてもらうのがベストです。

4 海外進出で成功した飲食業界の会社30選

これまでお伝えした通り、海外での日本食ブーム到来や国内需要の減少に伴って、飲食業界ではたくさんの会社が海外進出を図っています。実際に名の知れた大手飲食チェーンの中にも、海外展開を遂行した会社は数多く存在します。この項では、その中から厳選して30社ご紹介します。

 

4-1 株式会社吉野家

株式会社吉野家は、長い歴史を持つ株式会社吉野家ホールディングスのグループ会社として、2013年12月26日に設立されました。

「うまい、はやい、やすい」をモットーとする吉野家は、牛丼の最大手チェーンとして長年にわたって日本国内の消費者から多くの支持を集めています。そんな吉野家は、意外と知られていませんが実は1970年代から海外進出を図っています。1975年にアメリカに初進出したのを皮切りに、多くの国や地域で牛丼ブームを巻き起こしています。2010年代からはアジア圏への海外進出にも成功しており、今や海外の店舗数が600を突破するほどの大成功を収めています。まさに飲食業界の中でも海外進出の先駆者とも言える存在であり、日本の中でも最も海外進出に成功していると言っても過言ではありません。

 

4-2 株式会社松屋フーズ

1980年に1月16日に設立された松屋フーズは、吉野家と同じく日本を代表する牛丼の最大手チェーン店を経営する会社です。同社では味への追求はもちろん、食品廃棄物の有効利用にも取り組んでおり、業界屈指の資源の再生利用率を実現しています。

「一杯、一皿に、真心と情熱をこめて」をモットーにする松屋は、2009年9月から海外進出を実施しています。中国の上海に直営店をオープンし大盛況を集めた松屋は、アメリカや台湾などにも店舗を拡大しています。吉野家よりは海外進出のタイミングこそ遅いものの、松屋も日本を代表するファストフードチェーンとして成功を収めています。

 

4-3 イートアンド株式会社

大阪王将を経営するイートアンド株式会社は、1977年8月に設立され、餃子専門店である「大阪王将」やラーメンの専門店など多角的に飲食店を経営しています。

同社の運営する大阪王将は、食べ応えのある餃子をはじめとしたメニューやテイクアウトができる利便性などにより、多くのお客さんから支持を集めています。そんな大阪王将は、2004年から海外展開をスタートしています。アジア圏を中心として海外展開を図っている大阪王将は、台湾やシンガポールの食通からも絶大な支持を集めています。現に2017年に出店した台湾1号店では、月間売上高が予想の2.6倍に達するほどの大盛況となっています。

 

4-4 株式会社王将フードサービス

餃子の王将を運営する株式会社王将フードサービスは、1974年7月3日に設立され、国内に直営店を516店舗持つ国内屈指の餃子専門店の運営企業です。食材の鮮度や品質にこだわりを持つ餃子の王将では、原材料に国産の豚肉や野菜を用いた餃子を毎日自社工場で製造しています。新鮮な餃子を安価で食べられる餃子の王将は、設立以来「美味しくて安い餃子専門店」の地位を確立してきました。

そんな餃子の王将では、「GYOZA」を日本のソウルフードとして世界に発信するのを目的に、2005年に海外進出を行いました。2014年に一度撤退はしたものの、2017年から再度海外展開に再挑戦しています。2017年に台湾にオープンした直営店は、当初予測を超える事業利益を獲得するほどの大成功を収めました。

 

4-5 カッパ・クリエイト株式会社

カッパ・クリエイト株式会社が運営するかっぱ寿司も、海外進出を果たしています。同社は昭和56年11月21日に設立された会社であり、運営する「かっぱ寿司」は安く美味しいお寿司を食べられる回転寿司店としてファミリー層を中心に絶大な支持を獲得し続けています。

大人から子供まで楽しめるユニークで美味しいメニューが売りのかっぱ寿司は、回転寿司チェーンの売上高ランキング(2019年)で第4位に位置しています。そんな飲食業界の人気チェーン店は、海外展開先として韓国を選び店舗を拡大させました。商品力の強化やお寿司の食べ放題などの実施により、現地でも多くの人気を集めました。

 

4-6 くら寿司株式会社

くら寿司の運営を行うくら寿司株式会社は、平成7年11月に設立されました。回転寿司チェーンの売上高ランキングで第2位にランクインしたくら寿司は、「安心・美味しい・安い」をコンセプトとしています。創業当時から化学調味料や人工甘味料の類を一切使用せずに店舗を展開しており、健康志向や子供を持つファミリー層から絶大な支持を集めています。

他の回転寿司チェーンとは違う独自性や存在価値を追求するくら寿司は、お寿司の鮮度を保てる寿司キャップを活用するなどして、お客さんにこだわりの味を提供しています。そんなくら寿司も、他の飲食業界の会社と同様に海外展開を積極的に行なっています。アメリカや台湾などにあるくら寿司の店舗は、現地のファンから根強い支持を集めています。

 

4-7 元気寿司株式会社

回転寿司チェーンの売り上げランキングで堂々の第5位を獲得した元気寿司も、海外展開に積極的な会社の一つです。元気寿司株式会社は1979年7月26日に設立された会社で、元気寿司を含めて三つの寿司ブランドを持っています。

一つ目のブランドは、社名にもなっている「元気寿司」です。手頃な価格で美味しいお寿司を食べられるのを重視したブランドです。
二つ目のブランドは「魚べい」です。こちらは郊外に住む客層に向けて、大型店舗で低価格の商品を提供するのを重視しています。
三つ目のブランドは、本格的な寿司を求める客層をターゲットとした「千両」です。値段は他のブランドと比べると高いものの、厳選された素材で作られたお寿司は、食通のお客さんからも支持を集めています。

そんな同社では1993年にハワイに直営店をオープンし、海外進出を果たしました。現地の人の味覚に合わせたオリジナルメニューが大きな反響を呼び、今やアメリカ全土で店舗数を増やすに至るほどの人気です。また近年はアジア圏に向けた海外進出も行なっています。現地のニーズに合わせてブランドを展開するノウハウは飲食業界にいる会社のお手本となるでしょう。

 

4-8 株式会社スシローグローバルホールディングス

株式会社スシローグローバルホールディングスは、2015年3月に設立され、創業者が1984年10月に設立した株式会社すし太郎から始まりました。

長年培ってきた目利き力により仕入れた鮮度の良いネタと、田んぼからこだわって作られたお米など、原材料からこだわったお寿司はファミリー層から本格的な美味しさを求める客層まで多くの顧客から支持を得続けています。徹底的に美味しさを追求し続けていることもあり、2019年には回転寿司チェーン店の中で売上高トップに輝きました。

国内トップの寿司チェーンであるスシローは、2011年に韓国に海外進出を実施しました。日本が誇る味は現地でも人気を博し、現地での店舗数も順調に拡大しています。また近年は台湾への進出も果たしており、今後ますますのアジア圏を中心とした海外進出に期待がかかっています。

 

4-9 重光産業株式会社

味千ラーメンを運営する重光産業株式会社も、海外進出を図っている会社の一つです。昭和47年7月5日に設立された同社は、熊本県に本社を置いています。

本格的な豚骨ラーメンを主力商品とする味千ラーメンは、本格派の味が評判を呼び今では北海道から沖縄まで幅広く店舗を展開しています。そんな味千ラーメンは、1994年に海外進出への足がかりとして、台湾に1号店をオープンしました。本格派の豚骨ラーメンは海外でも良い評価を受け、今では海外に合計で690店舗も展開しています。また海外展開により得た知見を活かし、トムヤムラーメンや海老ワンタンといった新しいメニューの開発にも着手しました。現地のニーズに合わせたメニュー開発を重視しているからこそ、海外展開に成功しているのだと推測されます。

 

4-10 株式会社幸楽苑ホールディングス

次にご紹介するのは、株式会社幸楽苑ホールディングスです。中華そばで有名な同社は、1970年11月11日に設立された比較的歴史のある会社です。

同社が人気のポイントは、何と言っても安い価格で美味しい中華料理を食べられる点につきます。素材選びからこだわっている中華そばはもちろん、パリパリとした食感が楽しめる餃子や香ばしい味が美味しいチャーハンなどのメニューを、それぞれ1,000円未満で食べることができます。

安さと味にこだわる幸楽苑は、2012年7月にタイに店舗をオープンしたのを皮切りに、海外進出に着手し始めました。幸楽苑のラーメンは現地でも人気を集め、その後着実にタイ国内で店舗数を増やしていきました。また今後は、東南アジアを中心とした海外展開を図るビジョンを持っており、今後のチャレンジが注目されています。

 

4-11 株式会社力の源ホールディングス

一風堂を運営する株式会社力の源ホールディングスは、1986年10月30日に設立された会社です。

一風堂のラーメンは味が美味しいのはもちろんのこと、老舗感を漂わせるような店舗デザインや目で見て楽しめる美味しそうなラーメンの見た目が評判を集めてきました。「美味しさは舌で味わうだけのものじゃない」という考えのもとに、五感でフルに味わえるラーメンを設立以来提供し続けています。

日本を代表するラーメン店「一風堂」は、2008年のアメリカニューヨークでの店舗出店を皮切りに、海外進出を本格的に始めました。同社のラーメンは日本と同様現地でも根強いファンを獲得し、全米レストラン投票サイト「Yelp!」の2010年度投票で第一位を獲得しました。その後はアメリカでの大成功を足がかりに台湾やオーストラリア、イギリスなど世界各地に店舗をオープンし、各国で名だたる賞を受賞するほどの人気と評判を獲得しています。

飲食業界の中でも革新的なチャレンジに挑戦し続ける一風堂だからこそ、海外展開でも大成功を収めているのでしょう。

 

4-12 株式会社トリドールホールデイングス

大人気のうどんチェーン店「丸亀製麺」を運営する株式会社トリドールホールデイングスも、海外展開に積極的に挑戦を続けています。平成2年6月11日に設立された同社は、讃岐釜揚げうどんを主力商品とする「丸亀製麺」以外にも、焼鳥ダイニングやとんかつ専門店など、幅広く事業を行なっています。

他の飲食業会の会社の例に漏れず、丸亀製麺も商品の質にこだわっています。全ての店で粉からうどんを製造することで、常に打ちたてでモチモチした食感が楽しめるうどんを提供しています。またうどんに様々なメニューをトッピングできるシステムも好評で、毎回自分の好きなオリジナルのうどんを楽しむことができます。

丸亀製麺は、海外13の国と地域に合計で217店舗を展開しています。アジア圏はもちろん、日本食ブームが起こっているアメリカやヨーロッパ圏でも生の食感を楽しめるこだわりのうどんは大人気となっています。また飲食業界が海外進出する上で大事な「現地ニーズへの対応」も重視しており、その国限定のメニューの提供にも注力しています。

 

4-13 株式会社はなまる

次にご紹介するのは、はなまるうどんを運営する株式会社はなまるです。同社は、2001年11月22日に設立されました。

最上級の一等粉のみを用いたうどんは、コシがあり食べ応えがあり人気商品の一つとなっています。またうどんに使われている醤油はモンドセレクションで8年連続最高金賞を受賞しており、うどん麺や天ぷらとの相性は抜群と評判です。

味を追求するはなまるうどんは、平成23年2月から海外展開に着手しています。海外一号店として出店したのは、中国の上海にある店舗です。日本のあっさりしたスープの味では中国の人のニーズには対応できないと考え、同社は辛味を加えたメニューなどを現地向けに開発しました。現地ニーズへの対応が功を奏し、今では多店舗展開に着手できるほどの成功を収めています。また現地の幹部候補となる従業員については、日本での研修に参加してもらうことで、本場のうどんの味やサービス精神を身につけてもらう取り組みを実施しています。

 

4-14 リンガーハットジャパン株式会社

リンガーハットを運営する「リンガーハットジャパン株式会社」は、昭和45年6月13日に設立された会社です。野菜がたっぷり入ったちゃんぽんやパリパリの餃子、食べ応えのある皿うどんなどを提供するリンガーハットは、全国に600店舗以上をチェーン展開しています。

一方で海外展開にも積極的に挑戦しており、アメリカや台湾、タイ、インドネシアなど幅広い地域に店舗を出店しています。野菜たっぷりのちゃんぽんは、ヘルシー志向のお客さんから大きな支持を集めています。

 

4-15 株式会社大戸屋ホールディングス

和食チェーン店「大戸屋ごはん処」を運営する株式会社大戸屋ホールディングスは、1983年5月に設立された会社であり、国内に353店舗を展開する国内屈指の和食チェーンです。

「日本の定食を世界へ」をコンセプトに掲げる同社では、2005年に海外展開を始めました。まず海外展開への足がかりとして、タイのバンコクに海外一号店となる店舗をオープンしました。その後は台湾やベトナム、シンガポールなどアジア圏を中心に海外展開を順調に進めています。

同社の海外展開における最たる特徴は、「ローカライズをしない」という点です。飲食業界の会社が海外展開を成功させるためには、現地でのローカライズがセオリーとされています。しかし大戸屋ではあえてローカライズを行わず、日本と同じ商品を同じ味で提供しています。この戦略が大成功し、日本の本格的な味を楽しみたい現地の人から絶大な人気を集め、今では合計で100店舗を超えるほどにまで海外展開が成功しています。

 

4-16 サトフードサービス株式会社

和食さとを運営するサトフードサービス株式会社も、海外展開を積極的に行う会社の一つです。2017年4月11日に設立された同社は、和食さとをはじめとして「なべいち」や「かつや」など、多数のブランドを展開するSRSホールディングスのグループ企業に含まれています。

和食さとは日本一の店舗数を誇る和食ファミリーレストランであり、お財布に優しい値段で本格的な和食を楽しめます。特にしゃぶしゃぶが食べ放題の「さとしゃぶ」というメニューは、老若男女問わず多くの人から人気を博しています。

サトフードサービスでは、和食さとの海外展開先として台湾やタイ、インドネシアなどに店舗を出店しています。現時点で台湾には4店舗、タイには5店舗、そしてインドネシアには2店舗を出店しており、各国の和食好きから高い評判を得ています。

 

4-17 ワタミ株式会社

ワタミ株式会社は、居酒屋ブランド「和民」や「ミライザカ」などを展開しています。昭和61年5月に設立され、同社を代表する飲食店「和民」では、お刺身や定番のサラダなど、居酒屋で馴染みのメニューを楽しむことができます。メニューのバリエーションもさることながら、和をテーマにして店内のインテリアやデザインを行なっているため、落ち着いた雰囲気でお酒や料理を楽しむことができます。

日本を代表する居酒屋「和民」は、台湾やフィリピン、シンガポールなどアジア圏を中心に海外展開を図っています。日本の居酒屋の味と雰囲気を手軽に楽しめることもあり、日々大盛況となっています。

 

4-18 株式会社ジョイフル

株式会社ジョイフルは、1976年5月20日に設立された会社であり、ファミリーレストラン「ジョイフル」のチェーン展開を行っています。ジョイフルでは、マニュアル教育や品質管理により、提供する料理の安全性を徹底的に追求しています。そのため、子供連れの方でも安心して食事を楽しめます。

安心な食事を心がけるジョイフルは、2010年代から本格的に海外展開に着手し始めました。2000年代後半に中国へと進出を図った際には、わずか二年で撤退してしまいました。しかし2016年には台湾への海外進出を果たし、国内既存店の年平均と比べて1.5倍の売上高を記録するほどの好調を示しています。同社は台湾で店舗数を100まで伸ばす目標を掲げており、現時点ではその目標に向けて着実に事業を拡大しています。

 

4-19 株式会社すかいらーくホールディングス

次にご紹介するのは、株式会社すかいらーくホールディングスです。1962年4月4日に設立された比較的歴史のある同社では、ガストやバーミヤン、ジョナサンといった国内屈指のファミリーレストランブランドをいくつも運営しています。

ファミリーレストラン業界ではトップクラスの業績と規模を誇っており、今や日本を代表するファミレス運営の会社であると言えます。そんな同社では、台湾にターゲットを絞る独特の海外展開戦略をとっています。1982年から台湾での店舗運営を開始し、今や57もの店舗数を誇っています。長年現地のニーズに特化した事業運営を行なっているからこそ、現地の人たちから大きな支持を得られているのだと考えられます。

 

4-20 株式会社サイゼリヤ

イタリアンを提供するファミレス「サイゼリヤ」を運営する株式会社サイゼリヤも、海外展開を積極的に行う会社です。昭和48年5月1日に設立された同社は、国内だけで1,085店舗を展開する飲食業界屈指のリーディングかんぱにーです。

サイゼリヤが人気なのは、何と言っても圧倒的に安い価格で美味しいイタリアンを楽しめる店です。500円前後でお腹いっぱい美味しいイタリアンを楽しめるスタイルは、老若男女から絶大な人気を集めています。

「安くて美味しい」サイゼリヤは、海外でも圧倒的な人気となっています。たとえば中国の上海は外食にお金がかかることで有名ですが、サイゼリヤに行けばリーズナブルな価格で本格的な味を楽しめます。日本で提供するお馴染みのメニューはもちろん、現地の食材を使ったメニューも大人気となっています。各国で絶大な人気を集めてきた結果、今では海外での店舗数が400弱となっており、日本企業の中では最も海外展開に成功しているといっても過言ではありません。

 

4-21 株式会社サガミホールディングス

株式会社サガミホールディングスは、関東や関西に飲食店を展開しています。1970年3月4日に設立された同社では、和食麺処サガミや味の民芸、どんどん庵などのブランドをマルチに展開しています。

同社の主力ブランドとも言える「和食麺処サガミ」は、挽きたてのお蕎麦やサクサク衣の天ぷらなど、本格的な和食をリーズナブルな値段で提供しています。どこでも変わらぬ美味しさを提供するために、各店舗直営で運営している点も特徴的です。

同社では、平成15年に行なった上海での現地法人設立を皮切りに、積極的に海外展開を推し進めています。今ではインドネシアや中国といったアジア圏のみならず、イタリアなどにも店舗を出店するようになり、大躍進を遂げ続けています。

 

4-22 俺の株式会社

「俺のフレンチ」で大きな話題を呼んだ俺の株式会社も、海外展開を実施している会社の一つです。同社は2012年11月1日に設立された比較的新しい会社ですが、2019年現在従業員は1200人、資本金は3億円弱と急激な成長を遂げています。

俺の株式会社が大躍進を遂げた背景には、高級店と変わらないフレンチやイタリアンの味をかなり安い価格で楽しめる点です。立ち食いスタイルによる回転率向上やそれに見合う人口密度の高い場所への出店などの独自の戦略があるからこそ、安い価格で料理を提供し、十分な利益を得られていると考えられます。

そんな俺の株式会社では、「俺のフレンチ・イタリアン」を韓国と上海に展開しています。高級店と遜色ないレベルの味を安く食べられることもあり、日本と同様に現地の人たちからも高い人気を集めています。

 

4-23 株式会社ホットランド

築地銀だこを運営する株式会社ホットランドも、海外展開に取り組み続けています。同社は平成3年6月に設立された会社であり、設立以来たこ焼き専門店「築地銀だこ」の全国チェーン展開を行なっています。またアイスクリームの製造販売や飲食店運営など、関連的な事業にも取り組んでいます。

築地銀だこといえば、素材のタコや生地からこだわった美味しいたこ焼きを提供することで人気であり、今ではたこ焼き専門店ではトップクラスの業績と評判を誇っています。

同社では、2004年に築地銀だこの香港出店をきっかけに、海外進出の事業を始めました。現在は香港での店舗運営で得た海外展開のノウハウを活かし、タイや台湾、アメリカなどにも事業を拡大しています。

 

4-24 株式会社串カツ田中ホールディングス

株式会社串カツ田中ホールディングスは、2002年3月20日に設立された会社であり、串カツ店を日本全国に展開する事業を行なっています。

同社の大きな特徴は、大阪の名物料理「串カツ」を本場の味で提供している点です。高級料理店のコースで出てくるものと遜色ない本格的な串カツを楽しめるとあり、地元の人のみならず観光客からも人気を博しています。

串カツ田中は、シンガポールとハワイを海外展開先として店舗を出店しています。関西のソウルフードである串カツは、日本食が好きな現地の人たちの心を掴んでいます。

 

4-25 株式会社三光マーケティングフーズ

次にご紹介する会社は、株式会社三光マーケティングフーズです。1977年4月に設立された同社では、焼き牛丼を提供する「東京チカラめし」や創作料理を提供する居酒屋「金の蔵」などのブランドを展開しています。

特に同社の主力ブランドである東京チカラめしは、通常の牛丼に「焼く」という手間を加えた焼き牛丼を提供する店舗であり、他の店では味わえない牛丼を楽しめるとありコアなファンを獲得しています。そんな東京チカラめしは、2016年に晴れてフィリピンへの海外進出を果たしました。

 

4-26 株式会社サンマルクホールディングス

株式会社サンマルクホールディングスは、1991年7月19日に設立された会社です。岡山県に本社を置く同社では、コーヒーショップで有名な「サンマルクカフェ」やベーカリーレストラン「サンマルク」などのブランドを展開しています。

同社を代表するブランド「サンマルクカフェ」では、サンマルクの運営で培ったハイクオリティのパンを売りにしたコーヒーショップです。中でも主力商品の「チョコクロ」は、その美味しさから全国的な話題を呼びました。

サンマルクでは、2015年から海外展開に着手しています。インドネシアとタイへの海外進出で得たノウハウを活かし、次の年にはマレーシアへの海外展開も果たしています。

 

4-27 株式会社ドトールコーヒー

1962年4月に設立された株式会社ドトールコーヒーも、海外展開に取り組む会社の一つです。同社では、コーヒーショップとして大人気のドトールやエクセシオールカフェなどを運営しています。同社ではコーヒー豆の生産から小売までの流れを自社で一貫して行っているため、高品質の商品を提供しています。

ドトールコーヒーは、台湾と中国に一店舗ずつ、マレーシアに三店舗を展開しています。日本の伝統あるカフェスタイルは、現地の人たちからも人気を集めています。

 

4-28 株式会社コメダホールディングス

株式会社コメダホールディングスは、1968年創業で2014年に会社設立を果たした企業です。カフェの「コメダ珈琲店」をはじめとして、おかげ庵やコメダ燻製やわらかシロコッペなどのブランドを展開しています。

そんなコメダでは、2016年4月に海外展開初の店舗として、中国の上海に店舗をオープンしました。その後台湾への進出も果たし、今後ますますの店舗拡大が期待されています。

 

4-29 株式会社壱番屋

カレー専門店「CoCo壱番屋」を運営していることで有名な株式会社壱番屋は、1982年7月1日に設立された同社、国内の飲食業界の中ではトップクラスに海外展開に成功している会社です。

1994年にハワイに海外一号店を出店したのを皮切りに、シンガポールやイギリスなど、世界各地に店舗を拡大しています。ココイチのカレーは各国でも絶大な人気を集めており、今や海外の店舗数は180弱にものぼっています。売上高も海外の店舗のみで100億円を突破しており、飲食業界の中ではお手本とも言える海外進出の事例と言えます。

 

4-30 株式会社モスフードサービス

モスバーガーを運営する株式会社モスフードサービスは、1972年7月21日に設立された会社です。

新鮮で美味しいハンバーガーは日本のみならず、海外進出先の国の人たちからも人気を集めています。1991年台湾に海外一号店を出店したのを皮切りに、それ以降は積極的に海外進出を図っています。多くの人気を集め、今では海外の店舗数は300を超えるまでに成功しています。

 

4-31 株式会社ペッパーフードサービス

最後にご紹介するのは、昭和60年10月に設立された株式会社ペッパーフードサービスです。同社では、ペッパーランチやステーキ、トンカツなどの専門店を全国に展開しています。

中でも同社を代表する「ペッパーランチ」は、シンガポールやカナダなど、世界各地に店舗を拡大しており、今では合計で300店舗を超えるまでに至っています。肉食文化のアメリカやカナダで多店舗を展開しています。

5 海外で会社を設立する際の注意点

日本貿易振興機構(ジェトロ)が行ったアンケート調査(ジェトロのサービス利用企業10,004社対象)によれば、約6割の企業が今後の海外進出について拡大方針を示しています。回答した会社の81%が中小企業であり、国内市場の収縮リスクへの懸念や国内のシェア拡大に対する限界感がにじんでいます。グローバル化が進展する中、国内企業が、海外の潜在需要と言う名の成長性に期待を持つことは当然の成り行きとも言えます。

海外で会社を設立するメリットの一つとして、税制面をあげることができます。すでに輸出等で一定の国との取引実績がある会社にとっては、日本よりも低い法人税率等の税制上のメリットを享受する手段となります。また、これから新規に海外へ進出しようとしている会社、若しくは、当初から海外で起業しようとしている方にとっては、自社の事業の展開先を法人税率等の低い国に求めることは必然ともいえます。

一方で、成長に主眼を置く会社にとっては、税制面もさることながら、市場規模を考えれば、アメリカや中国、そしてインドといった国への進出が基本戦略となります。これらの国には、外資の受入にあたっての様々な規制や独自のルールが存在しており、費用負担、人材確保、資金調達、各種手続き等で困惑することが予想されますので、入念な準備が必要となります。

2019年4月現在の、各国の法人実効税率は以下の通りとなっています。

(表1)《法人実効税率の比較》OECD加盟国のデータ(単位:%)

  国名 法人実効税率 地方税 国税
1 アメリカ 38.91 6.01 32.90
2 フランス 34.43 34.43
3 ベルギー 33.99 33.99
4 ドイツ 30.18 14.35 15.83
5 オーストラリア 30.00 30.00
6 メキシコ 30.00 30.00
7 日本 29.97 7.38 22.59
8 ポルトガル 29.50 1.50 28.00
9 ギリシャ 29.00 29.00
10 ニュージーランド 28.00 28.00

OECD加盟国の11位以下は省略します。中国は、内国・外資法人ともに25.00%で、比較的低い水準にあります。インドは、課税対象所得によって幅があり、内国法人では26.00%から33.38%、外国法人は、41.60%から43.68%となっています。インドにおける税制上の優位性は低いと言えますが、日本との二国間租税条約により、取引の内容次第では優遇措置が用意されています。

また、シンガポールの法人税率は、2010年度より居住法人・非居住法人ともに18%から17%に引き下げられました。この他にも、外国税額控除、スタートアップ会社税額免除などの優遇税制が設けられており、この税制上の魅力の高さから、近年は、東南アジア最大の起業拠店として、その存在感を増しています。

6 国によって異なる会社設立手続きと優遇措置

このように、国によって税制措置は異なりますが、会社設立手続きについても様々な特徴や規制が存在します。本来ならば、多くの国についてご紹介すべきですが、今回は、アメリカと中国における会社設立に係る注意点を探っていきます。

 

6-1 アメリカでの会社設立

日本に、株式会社、合同会社、合資会社、合名会社といった多様な会社形態があるように、アメリカも当然複数の会社形態があります。会社の形態によって、法律上及び税務上のメリット・デメリットが異なりますので、事業目的等にあわせたアメリカにおける会社形態を検討することから始めなければなりません。

・アメリカにおける事業形態

アメリカで拠点を設ける場合、非法人事業形態と法人事業形態がありますが、この記事では会社設立を前提としていますので、法人事業形態の解説に絞ることにします。アメリカの法人事業形態は下表のように区分されます。

(表2)アメリカにおける法人事業形態

  Corporation (日本の株式会社に相当) Limited Liability Corporation (LLC:日本の合同会社に相当)
設立方法 事業を行う州において基本定款を登録します。 事業を行う州において基本定款を登録します。
構成員と親会社の責任 有限責任(注1) 有限責任
税制 連邦及び州の法人税の対象となります。 法人と株主に対する二重課税(注2) 連邦及び州の法人税の対象となります。 パス・スルー課税(注2) ※二重課税を選択することも可。

(注1)日本におけると同様、出資金の額を限度に責任を負う有限責任と、出資金だけでは払いきれない債務についても責任を追及される無限責任に区分されます。日本の場合、株式会社と合同会社が無限責任で、合名会社は無限責任社員のみ、また、合資会社は有限責任社員と無限責任社員で構成されます。アメリカでは、法人事業形態は、(表2)のように有限責任ですが、非法人事業形態の一つである「パートナーシップ」において、一般パートナーシップ(無限責任社員のみ)と、有限パートナーシップ(無限責任社員と有限責任社員で構成)があります。

(注2)パス・スルー課税とは、構成員課税とも呼ばれ、法人が獲得した利益は、投資家・出資者などの構成員に配分されるものとして、その法人には課税せず(法人税をとらず)、構成員に対してのみ課税する方式です。アメリカにおいて、パス・スルー課税の適用を受ける法人形態を選択するためには、株主が「アメリカ市民または永住権者である個人又は一定の財団等に限る」ため、日本企業を親会社とする場合や、アメリカ市民権・永住権を持たない者が株主となる場合は選択できません。

・法人事業形態の選択

パス・スルー課税を除けば、アメリカの会社形態は、日本における株式会社と合同会社とほぼ同様とみることができます。特に日本の合同会社は、アメリカのLLCをモデルにしているため、税制以外の仕組みはほとんど同じです。日本では、機関設計や組織運営の柔軟性の高さから合同会社の設立が増加傾向にありますが、アメリカにおいても、会社運営の柔軟性の高さに加え、パス・スルー課税がある分会社形態としての優位性が高いと言えます。

このため、アメリカで会社を設立する場合は、LLC形態を選びたいところですが、前述したように、市民権等の問題から、日本の親会社の100%子会社とする場合には、LLCのもつ利点(パス・スルー課税)や特性を十分に発揮できない点に注意しなければなりません。LLCの特性を生かすためには、直接子会社とするのではなく、アメリカに持株会社を設立して、この孫会社をLLCとすることで対処は可能ですが、手続きとコストを考えれば、Corporationの設立が現実的選択と言えます。

・どの州で設立するか

アメリカにおけるビジネス関係は、各州の法律によって規制されます。会社をどの州で設立するかによって、手続きの難易度や以後の会社運営のしやすさ等に関わってきますので、重要な検討課題です。アメリカでの上場や全米的な事業展開を想定している場合は、一般的にはデラウエア州を選択するようです。デラウエア州は、設立や解散手続きの簡便性や迅速性など、経営者にとって運営しやすい法制度であるといわれています。

一方で、会社を設立した州と事業活動を行う州が異なる時や複数の州に及ぶときは、事業活動を行う州において「州外法人登録」が必要になり、手続きや費用が膨らむことが想定されますので注意が必要です。また、近年は、デラウエア州以外の州においても、会社誘致を目指して、経営者にとって魅力ある制度作りの為の法整備を進めており、会社設立州の選択肢が広がっていますので、州外法人登録のような煩雑な手続きや費用を抑える意味でも、実際に事業を展開する州で設立するほうが合理的です。

・アメリカにおける会社設立のながれ

二つの法人事業形態に共通する会社設立作業は、少なくとも1人以上の発起人(18歳以上)を選択することからはじまります。アメリカにおいては、設立に係る事務手続きの全てを発起人が行うため、実務的には弁護士や会計士を任命することが多いようです。会社設立スケジュールの概要は以下のとおりです。

(表3)

発起人の選択
基本定款の作成
基本定款を州務長官あて提出(同時に手数料の支払い)
基本定款登録=法人格を取得

6-2 中国での会社設立

中国において会社を設立するには、まず、規制内容を把握することから始めなければなりません。中国においては、外資に関する規制として、「外商投資参入特別管理措置(ネガティブリスト2018年版)」により、制限業種と禁止業種が指定されています。また、中国では、出資比率規制により、現地法人の類型が下記のとおり定められています。

  1. ①合弁企業:中国側と外国側の共同出資による法人で、外国投資者の出資比率は25%以上必要です。
  2. ②合作企業:中国側と外国側の共同事業で、法人格のある企業と法人格のない起業の設立を選択できます。法人格を取得した場合の外国投資者の出資比率は、登録資本金(日本の資本金と同じ)の25%以上必要です。
  3. ③独資企業:外資企業法及び実施細則に基づく外国側100%出資による法人です。

・外資に関するその他の規制

事業としては、条件付きで参入可能な領域について、外商投資プロジェクトとして、「奨励」、「許可」、「制限」、「禁止」の4種類に分類され、奨励類、制限類及び禁止類の外商プロジェクトは、「外商投資産業指導目録」に列挙され、これらに属さない外商プロジェクトは、許可類の外商プロジェクトとされ、外商投資産業指導目録には掲載されていません。これらは、中国国務院令として発出されていますが詳細は省きます。

中国の場合、土地に関する問題もあります。土地は全て国有または集団所有となっており、外国企業に限らず中国国内資本の企業にも土地所有は認められません。土地については使用権が認められますが、これには「有償土地使用権」と「無償割当土地使用権」があり、外国企業に認められるのは有償土地使用権のみです。有償土地使用権には、「譲渡」、「賃貸」、「抵当権」の設定が認められ、無償使用権にはこれらは認められません。

・中国で成功するためには

中国という独特の統治機構と文化を持つ国で会社を設立し、巨大マーケットで成功するためには、中国政府の政策や環境の変化に機敏に対応しなければなりません。そのためには、①進出する地域、②現地のキーパーソンとの人脈形成、③中国文化の理解というキーワードをもとに入念に事前検討を行う必要があります。

進出地域という点では、ローカル市場の状況や土地関係、販路、物流、取引先、現地政府の対応、税制、財政の補助の有無、労働力の調達等々、多様な要素を考慮して総合的に判断しなければなりません。

また、現地キーパーソンとの人脈づくりは、非常に重要度が高い課題です。合弁事業の場合、中国のパートナー企業の経営内容調査や現地政府との距離感を知っておく必要がありますし、なにより現地関係者との接触は、中国進出にあたって欠かせないプロセスの一つです。また、中国の場合は、特有の贈収賄罪への理解も忘れてはなりません。

これまで中国に進出した企業の多くが、中国とのカルチャーギャップに戸惑い、会社運営に支障を来す場面がありました。言葉や文化の違い、商習慣、国家の成り立ちを含めた歴史等に対する知識と理解がなければ、事業の成功はおぼつかないと言えます。中国勤務経験のある社員や外部からの登用によって、中国進出の足掛かりを作る必要があります。

事業規模拡大を企図して海外進出を目論む場合もあれば、海外での起業を目指す場合もあります。いずれにしても、海外での会社設立は、対象国の入念な調査と分析、それに基づく準備が必要です。今回の記事では、手続きの細部まではご紹介できませんでしたが、マイルストーンの置き場所はイメージできたのではないでしょうか。まずは、事業活動の目的を定め、進出する国を決めるに当たっては、税制を含む規制・優遇措置、事業環境(物流等インフラ)の適否、市場性、人材確保等の諸課題について調査を行うことから始めてみると良いでしょう。

7 まとめ

今回の記事では、海外進出で成功している飲食業界の会社を30社ご紹介しつつ、飲食業界の会社が海外進出で成功するポイントなどをご紹介しました。海外で日本食に対するブームが高まっている一方で、日本国内の需要は先細り傾向にあります。そのため、飲食業界の会社が海外進出を図るのは賢い選択肢です。確かに海外進出は難しいものの、成功すれば大きなリターンを得られます。海外進出を行いたい会社は、一度成功している事例を参考にするのも良いでしょう。