ヨーロッパでは食用として一般的に食べられているウサギ。高たんぱく質で低カロリーなため、ダイエット用の食肉として人気があります。日本では室町時代から食されていて、徳川家康の好物だったとも言われています。

そんなウサギを食べて食糧危機を凌ごうとベネズエラ政府は9月、ウサギ繁殖計画に乗り出しました。
現在ベネズエラは前代未聞の経済危機に見舞われており、加えて極端な食糧不足に悩まされています。

そこで、ニコラス・マドゥロ大統領は市民に対してウサギを食糧として飼育する「うさぎ計画」を発令。ところがベネズエラではヨーロッパと違ってウサギを食べる文化は無く、多くの市民が一緒に寝たり、名前を付けたりとペットして飼育していることが問題となりました。

終わりが見えないベネズエラ経済危機。「ウサギ計画」は果たして上手くいくのでしょうか。

1 ベネズエラ政府「かわいいペット以上に見るように」

ベネズエラ政府は9月、食糧不足問題を解消するため、3000万の国民に対してウサギを繁殖させて食べるよう指示しました。
現在ベネズエラでは、一般的に食されてきた鶏肉や赤身肉を購入できない状態が続いており、代替のタンパク源として多産のウサギが注目されました。

(出展:VOA News)

1-1 食糧不足で平均体重が約9kg減る

世界的な原油価格の暴落※により経済危機に陥ったベネズエラ。前代未聞の品物不足が価格の高騰を招いています。

一般市民はトウモロコシや米といった主要食料品を市場で見つけることはできず、ヨーグルト、クッキー、冷凍チキンなども5倍以上に跳ね上がったため、もはや一般市民が購入できる価格ではなくなりました。物価上昇率は800%に達し、IMF(国際通貨基金)の試算では今年度末までに2200%に達すると見込まれています

ベネズエラの大学機関が行った「全国生活調査」によると、ベネズエラ人の3分の1(約960万人)が1日2食以下の食事しかできておらず、2015年調査時の11.3%を大きく上回っています。全世帯の82%が貧困層に暮らしているとされ、さらに93%の世帯は「所得が食糧需要を満たすのに十分ではない」と答えました。国民の平均体重は8.6キロ減少したと言われています。

さらに、干ばつにも見舞われて水不足も発生。飢饉など国民の栄養状態に深刻な問題が発生しています。

(食料品を求めて行列を作る市民 / 出展:Stuff.co.nz)

1-2 ヨーロッパでは当たり前に食されるうさぎ肉

しかし、政府のウサギ計画には、問題がありました。ウサギの料理は世界の他の場所では珍しいことではなく、特にイタリア、フランスなどのヨーロッパではうさぎ肉がスーパーで販売されています(1キロあたり約4ユーロ(500円前後))。

ところがベネズエラの家庭料理では煮詰めた料理は滅多になく、ウサギが食されることもほとんどありません。むしろ、サッカーチームのキャラクターのマスコットとして使用されたり、パースデーカードのイラストとして描かれるなど、愛玩用の動物として認知されています。

そのため、ウサギ計画として試験的に子ウサギが各家庭に配布されるも、名前を付けたり、一緒に寝たりとペットとして扱っています。

フレディ・ベルナル都市農業相はウサギ計画について、「(ベネズエラでは)ウサギはかわいいペットだと教えられているので、文化的な問題がある」とペットとしての扱いに理解を示しながらも、「(配布した)ウサギはペットではない。コレステロールがなくタンパク質を豊富に含んだ肉だ」と、あくまで食用とするよう促しました。

※ ベネズエラの経済は石油収入に大きく依存しており、原油の確認埋蔵量は2,965億バレル(2012年BP統計)と世界第1位を誇るこのほか天然ガスや金、ダイヤモンド、ボーキサイトなどの天然資源を豊富に産出している。しかし、2008年後半からは原油価格の急落や世界金融危機の影響を受け、2014年、2016年に再度原油価格が急落して経済危機が発生した。

2 「ウサギ計画」はベネズエラを救う?

うさぎは、かつては日本でも伝統的に食べられていましたが、そのかわいい見た目からか、うさぎ食文化は徐々に衰退していきました。

ヨーロッパでは食用とペットの線引きが完全にできているとされますが、ベネズエラでは日本同様、うさぎを食べることに抵抗感がある市民が多く、食糧不足対策としての効果は期待薄となっています。

マドゥロ大統領は、出演したテレビ番組のなかで、「ウサギ計画は、ウサギが繁殖するような素晴らしい利点を持っている」と、明るい見通しであることを示しました。

果たして、「ウサギ計画」は食糧危機を救うことはできるのか。今後のベネズエラの動向に注目です。

(会見するニコラス・マドゥロ大統領 / 出展:Financial Times)