定年退職後仕事に就くことを考えている方も多いと思われますが、シニア起業もその選択肢の1つになるのではないでしょうか。少子化が進む日本社会で人手不足が深刻化する中、シニア起業には社会の求める機能を担うという役割が期待されています。

そこで今回の記事では「シニアの起業・会社設立」をテーマとして、シニア起業が必要される社会的背景、そのメリットのほか、起業テーマ、進め方、成功するための方法および事例や注意点などを説明します。

会社で培ってきた長年の知識や経験を自分のビジネスで活かしたい方、定年退職後もバリバリ働きたい方、シニア起業に興味のある方などはぜひ参考にしてください。

1 シニア起業にとっての国内環境

シニア起業にとっての国内環境

国内のビジネス環境や労働市場などが、シニアの起業や会社設立にとってどのような状況にあるのかを確認していきましょう。

1-1 シニアを必要とする日本の労働市場

ここでは労働市場について、労働力人口や離職率などから状況を説明します。

①国内の労働力の状況

労働力人口において少子高齢化の影響が見られるようになってきました。総務省統計局の「労働力調査 長期時系列データ」の「月別結果の季節調整値および原数値(a-1)」によると以下のような特徴が確認できます。

●労働力人口の減少

15歳から64歳までの労働力人口については、一時的に増加に転じた時期もありましたが、概ね1998年の6004万人から2020年の5782万人へと減少傾向が確認できます。

●各世代の労働力人口の変化の相違

年齢層によって労働力人口の増減の傾向が異なります。

・若い世代の労働力人口の減少が顕著
15~24歳層と25~34歳層は概ね減少傾向を示しており、特に最若年層の減少は著しいです。少子化の影響が労働力の減少という形で表れています。

・増加と減少が見られる45~54歳層と55~64歳層
45~54歳層と55~64歳層は減少と増加の両方の傾向が見られ、1998年から2020年までは大きな変化が見られません。

・増加傾向を示す35~44歳層と65歳以上
35~44歳層と65歳以上の2つだけが概ね増加傾向を示しています。特に65歳以上については2013年頃から急激に増加しており、高齢化社会を反映した結果となっています。

以上のように各年齢層で労働力人口の変化に違いがあるものの、若い世代の労働力人口は著しく減少している一方、高齢者層は増加しています。若者の減少を高齢者が補うという必要性が増してきているのです。

高齢者の労働力は企業に雇用されることで実現しますが、雇用が進まない場合には自ら起業して労働力を提供するという方法が有効になります。

(単位:万人)

15~64歳 15~24 25~34 35~44 45~54 55~64 65歳以上
1998年12月 6004 749 1383 1255 1578 1038 475
2003年12月 5870 598 1438 1290 1432 1112 462
2008年12月 5826 537 1309 1450 1290 1239 561
2013年12月 5703 484 1173 1527 1355 1162 652
2018年12月 5811 573 1109 1421 1554 1154 879
2020年11月 5782 567 1109 1344 1582 1183 929

②若者の離職率の高さ

若者の離職率の高さは企業経営の大きな問題です。厚生労働省の「2019年(令和元年)雇用動向調査結果の概況」(P13)の「性、年齢階級別の入職と離職」(令和元年)によると、男女の離職率は下表のようになっています。

19歳以下 20~24歳 25~29歳 30~34歳 35~39歳
40.5 30.7 16.8 12.5 8.9
40.8 33.9 23.2 19.0 13.1

19歳以下と20~24歳の層は30%以上という高い離職率を示しており、このことがさらに人手不足で苦労している企業経営をさらに圧迫します。一方、60歳以上の層の離職率は20%前後です。

令和元年の転職入職率(P15)を見ると、男子の場合19歳以下層の16.9%から40~44歳層の5.9%へと徐々に下降し、55~59歳層までは概ね横ばいです。60歳以上の層では10%以上へと増加に転じています。

その転職入職者が前職を辞めた理由を見ると、60歳以上の男子の場合、「定年・契約期間の満了」を理由とする者が60%以上です。つまり、定年退職後などにおいて、もっと働きたいというシニアが多いことが確認できます。

若者の定着率が悪い中、人手不足を緩和するにはシニアの採用が企業にとって重要な役割を果たしますが、積極的に採用する企業はまだ多いとは言えません。シニアが定年退職後に仕事を確保するには、起業という選択肢も十分候補に挙がるでしょう。

1-2 求人状況に見るシニアの労働力としての価値

シニアが労働力としてどのように見られているか確認しましょう。

●新規求人倍率

下表は政府統計の「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」で提供されている「年齢別労働市場関係指標(パートタイムを含む常用)」の「新規求人倍率(新規求職者に対する新規求人数の割合)」を抜粋したものです。

ここ3年間の新規求人倍率をみると、年齢計では2倍前後と求人が旺盛な状況にあるかことが確認できます。特に19歳以下層から35~39歳層までは高い倍率となっており、若者の人手不足の状況が反映されていると言えるでしょう。

他方、50歳を超えると倍率はやや下がりますが、高年齢層でも2倍近い倍率となっているケースもあり、シニアは労働者として十分に期待されています。

年齢計 19歳以下 20~24歳 25~29歳 30~34歳 35~39歳 40~44歳 45~49歳 50~54歳 55~59歳 60~64歳 65歳以上
平成30年1月 2.13 2.38 2.36 2.37 2.37 2.28 2.12 1.96 1.94 1.99 1.83 1.98
平成31年1月 2.23 2.50 2.49 2.50 2.49 2.41 2.25 2.07 2.05 2.09 1.87 2.03
令和2年1月 1.90 2.14 2.13 2.14 2.13 2.07 1.94 1.78 1.76 1.79 1.59 1.70

1-3 シニアの起業状況

ここではシニア起業の実態を確認していきます。

①平成29年度中小企業白書から

下図の第2-1-3図「男女別に見た、起業家の年齢構成の推移」によると、起業家全体における60歳以上の起業家が占める割合では、1979年から男女共に増加傾向が見られます。シニアで起業に興味を持つ方が多くなっているのです。

また、2012年の60歳以上の起業家割合で、女性が20.3%、男性が35.0%と両者の差が大きくなっており、定年退職した後にセカンドキャリアとして起業する男性が女性より多くなっています。

男女別に見た、起業家の年齢構成の推移

また、下図の第2-1-5図では、起業家、起業準備者、起業希望者の平均年齢の推移が男女別で示されており、彼らの「平均年齢が男女共に年々上昇している」と説明されています。

特に男性については、「1979年から2012年にかけて男性全体の平均年齢が40.4歳から49.3歳と8.9歳上昇しているのに対して、男性起業家の平均年齢は、39.7歳から49.7歳へ10歳と男性全体平均を上回るペースで起業家の平均年齢が上昇している」と起業家の高年齢化を指摘しているのです。

シニアにとって起業はより身近な行動になっているのではないでしょうか。

下図の第2-1-5図

②日本政策金融公庫の2020年度新規開業実態調査から

2020年度新規開業実態調査によると、開業時の平均年齢は増減を繰り返しながらも2012年(41.4歳)から2020年(43.7歳)までは上昇を示しています。

年代別で見ると、40歳代と50歳代での増加の割合が年々大きくなっている点が特徴です。60歳代以上の場合は5%代半ばから7%代前半で概ね横ばいでの推移が見られます。

60歳代以上のシニア層で一定数の起業家が存在しているとともに近年ではシニアに入る前後からの年代での起業が増加しているのです。

1-4 老後の生活資金

シニア起業が定年退職後の生活資金の確保にどう影響するのかを確認していきましょう。

①老後の生活資金

(公財)生命保険文化センターが令和元年9月に公表している「令和元年度 生活保障に関する調査《速報版》」によると、「夫婦2人で老後生活を送る上で必要と考えられている最低日常生活費」(P39)は月額平均で22.1万円です。

資料の分布では、「20~25万円未満」が29.4%と最多で、「30~40万円未満」(17.0%)、「25~30万円未満」(13.1%)と続いています。調査結果では、夫婦2人で月20万円は必要と考える方が多いです。

また、P40には「経済的にゆとりのある老後生活を送るための費用」が紹介されており、老後の最低日常生活費以外に必要と考えている金額は平均で月14.0万円となっています。

その金額分布では、「10~15万円未満」が33.9%と最多で、「10万円未満」(20.6%)が続いています。従って、多くの人が月10万円ほどを最低日常生活費以外で必要とみなしているのです。

以上の内容から老後のゆとりある生活を送るためには日常生活費として月20万円+月10万円=月30万円ほど必要と考えている人が多いということになります。

人の暮らし方は様々ですが、定年退職前の生活を維持しようとする方にはこの月30万円が1つの目安になるでしょう。

②退職金と年金の支給額

厚生労働省web siteの「平成30年就労条件総合調査 結果の概況」の「退職給付(一時金・年金)の支給実態」によると、勤続20年以上かつ45歳以上の退職者の1人平均退職給付額は以下の通りです。

・平成30年度調査計の1人平均退職給付額
1)大学・大学院卒(管理・事務・技術職):1983万円
2)高卒(管理・事務・技術職):1618万円
3)高卒(現業職):1159万円

上記3つの単純平均は1587万円です。日本人の平均寿命(2019年)は女性が87.45歳、男性が81.41歳ですが、仮に85歳を平均寿命とすると、65歳の定年退職以降の20年間に上記の1587万円が使用できます。従って、年約80万円、月割りで約6.6万円を生活費として利用できるわけです。

もう1つの老後に得られる資金である年金は、総務省統計局の「家計調査報告(家計収支編)2019年平均結果の概要」(P17)によると、以下のようになっています。

・二人以上の世帯のうち高齢無職世帯の家計収支(2019年)(月額)
社会保障給付(年金):
平均;199,651円
60~64歳;113,196円
65~69歳;198,770円
70~74歳;206,748円
75歳以上;204,767円

以上の通り、65歳以上の場合、月20万円程度の年金を受け取っています。従って、先の退職金の月額6.6万円をプラスすると月26.6万円の収入が得られることになるのです。

しかし、上記で確認した老後のゆとりある生活を送るのに月30万円が必要とすれば、上記の収入では月3.4万円不足することになります。シニア起業で収入を得られればその不足分を十分に補うことも可能です。

2 シニア起業のメリット

シニア起業のメリット

シニアの起業、会社設立による創業にはどのようなメリットがあるかを見ていきます。

2-1 シニア起業の個人的な意義

シニア起業の個人的な意義

●好きな仕事ができる

サラリーマン時代では会社の経営方針や戦略などにより挑戦できなかったかった分野の事業や業務などをシニア起業によりすることができます。

会社員は組織の命令や指示に従うことが要求されるため、気の進まない事業や苦手な仕事に従事することも少なくありません。また、画期的な事業を提案しても受けてもらえないことも多いため、挑戦意欲の高い会社員でも次第に保守的な業務遂行のスタイルに慣れてしまうことも多くあります。

それが嫌で定年退職する前に独立・起業する方も多いですが、定年退職後に起業して自分の好きな仕事に取り組む方も増えてきています

●自分の知識、スキル、ノウハウを活かせる

会社員として蓄積してきた業種・業務での高度な知識、スキルやノウハウなどを活かして仕事がしたいと考えているシニアは少なくありません。

定年退職後に同じような業種・業務の仕事で就職できれば、今までの経験等も活かせるわけですが、高齢者が以前と同じような分野で就職するのは簡単ではないでしょう。

しかし、自らが起業する場合自身の知識・経験等を活かせる仕事で事業を始めることができるため、それらを最大限活用することが可能です。起業家の起業する理由や動機の中で「自身の知識・経験等を活かせる」という点がよく挙げられます

また、起業時の課題として、「事業に関する知識・経験等」を挙げるケースも多いです。従って、シニアでの起業は知識や経験等を活かせる点において他の年代よりも有利であり、それが起業の動機にもなっています。

●老後の生活資金が確保できる

退職後に今までの知識・経験等を活かせる仕事で就職できなければ、満足できる収入を得るのは難しいです。しかし、起業して一定程度の成功を収めれば満足できる収入も得られるようになります。

起業が必ず成功するとは限らないですが、シニア起業は他の年代に比べ決して不利にはならないため、成功する可能性も高く収入面で満足できる可能性は低くありません。逆に成功してサラリーンマン時代では考えられなかった高額年収を手にすることもあるでしょう。

老後の生活資金のマイナス分を起業によって埋めることは十分可能です。

●経営資源を多く保有している

起業には経営に必要な資金・取引先・人材・情報という資源を準備しなければなりませんが、若い世代の起業家よりシニアの方が準備しやすく有利になります。

資金は長年の勤務で得た給与を貯金したり、退職金の一部をあてたりすることで準備もしやすいです。仕入先・販売先・協力会社などの確保も自分の今までの仕事の関係先などを利用すれば若い方より容易に行えるでしょう。

起業時や開業後に必要な情報の入手も長年の勤務で広がった人脈を利用すれば困難ではないはずです。人材については自分の会社のみならず取引先や関係先などで候補者を探し事前に勧誘する機会もシニアなら少なくないでしょう。

このようにシニアの方は若い世代の方に比べ経営資源を確保しやすく開業時の課題を乗り越えやすいのです。

2-2 シニア起業の社会的な意義

ここでは日本の社会から見たシニア起業のメリットについて見ていきます。

シニア起業の社会的な意義

●GDP、税収や雇用拡大への貢献

どの世代の起業もGDPの増加に貢献してくれるはずです。また、事業が軌道に乗って拡大し利益も大きくなれば納税額も多くなり国家に貢献します。

シニアの場合、定年退職後は無職で年金暮らしという選択もできるため、起業による社会への貢献は他の世代よりも価値が大きいです。退職後にアルバイトなどで生活費を補完するケースも多いですが、シニアが起業すればより大きな収入も得られます。

また、起業は自身の生活を豊かにするだけでなく事業を通じて雇用を拡大させる効果も発現するため、金銭面以上の大きな価値があるでしょう。

●イノベーションの苗床

シニアが有する知識・スキル・ノウハウ等活用すれば、起業を通じて新たな事業でイノベーションを起こしていくことも可能です。そして、その事業を進める過程で若者にイノベーションに取り組む重要性を認識させ、関わる機会を提供することができます。

シニアが長年蓄積してきた高い知識・情報・ノウハウ等と、若者の発想などを加味すれば、新たな事業やイノベーションの発想に繋げることも困難でなくなってくるでしょう。

そのためシニアが起業して新たな事業に取り組む行為はイノベーションの苗床になり得るのです。

●労働力の補完

シニアが起業して社会が必要とする機能の一端を担えば、労働力の補完として貢献できます。

人手不足によって企業のモノ・サービスの提供という社会的な役割の一部に支障をきたすこともあります。若者などの人材を柔軟に確保できれば、そうしたサプライ面の影響も軽減できますが、少子高齢化の社会では難しくなってきているのです。

こうした状況下でシニアが起業して綻びが生じたサプライ面の活動の一端を担えば社会は滞りなく回っていけます。引退したシニアが企業に再就職して労働力として貢献することも大きな意義がありますが、起業による貢献も小さくありません。

3 シニア起業の進め方とテーマ

シニア起業の進め方とテーマ

ここではシニア起業の手順と事業テーマの決め方などについて見ていきます。

3-1 シニア起業を進める手順

事業を始めるまでには多くの手続や準備が必要となるため、早めに進め方を把握して取りかかりましょう。

シニア起業を進める手順

①起業についての適性を検討

自分に起業の適性があるかどうかを最初に見極めることが重要です。シニアの誰もが起業の適性があるとは限らないためその判断が必要になります。

何故ならシニアかどうかに関係なく起業すれば誰もが成功できるとは限らないからです。起業に失敗するというリスクがあるため、その向き不向きを考えなければなりません。

いくら素晴らしい知識やノウハウ等を保有していてもそれを事業化して組織を回していく経営能力に不安がある方なら起業に失敗する可能性は小さくないです。逆に経営能力に自信があっても事業化する知識やノウハウ等がなければ、事業をスムーズに進めるのが難しくなります。

なお、一般的には以下のような特徴があれば起業に適していると見られています。

  • ・やりたい仕事に熱中したい人
  • ・仕事に関してのこだわりが強い人
  • ・人との交流を好み協調して仕事ができる人
  • ・ビジネスや社会の変化に敏感で対応できる人
  • ・他者を引きつけ導く力がある人
  • ・自己啓発に熱心である人
  • ・リスクを分析して対応できる人
  • ・勇気と無謀を判別できる人

②起業の基本方針を設定

次は、どう起業するかという基本方針を決めることです。起業を小さく・緩く始めるのか、それとも会社設立などして大きく始めるのか、といった起業の方針を決めます。

ここが実質的な起業のスタートラインであり、起業の成否を左右する重要ポイントであるため、起業を支援する専門家や公的支援機関などに相談しながら進めるのがよいでしょう。

各起業家には、知識・ノウハウ等などの事業化するための資源、事業を具体化するための金・人・モノ・情報などの経営資源、起業を支援してくれる企業や投資会社等の保有内容に違いがあるため、それらの状態を考慮した起業の進め方が求められます。

最初から大きな事業を始められる可能性が高い場合でも起業家本人がそれに気づかなければ小さな事業からスタートしてしまうこともあるでしょう。そのため起業に精通した専門家などに相談して基本方針を決定していくことが大切です。

逆に、次のような方は起業を小さく・緩く始めていくことも可能です。

  • ・楽しい、やりがいを感じられる仕事を今後も長く続けたい人
  • ・実務の豊富な知識、経験とノウハウなどを活かして着実に事業を進めたい人
  • ・大きな投資は抑えて大きな利益の確保にこだわらない人
  • ・無理をしないで健康を維持できる程度に働きたい人

③事業内容やビジネスモデルを決定

起業の方針に沿って、事業内容やビジネスモデルを設定します。具体的にはどのようなビジネスをどのようなコンセプトで実現するかの仕組みを決めるのです。

ビジネスモデルとは、ビジネスの対象となる相手を明確にして、彼らが欲するモノ・サービスなどのニーズに対して、どのようなものをどのような方法で提供して充足するかをまとめた仕組みと言えます。

たとえば、アマゾンなどのECサービスを提供する企業のビジネスモデルは以下のように説明することが可能です。

・対象者:
(自国や世界中の)消費者

・ニーズ:
様々な商品を便利に手軽に小さい運送コストで入手したい

・モノ・サービスの提供:
対象者が望むものを調べ、それに基づいて品揃えし運送コストを抑えて提供する。対象者が注文しやすいシステム(インターフェース)を提供し、注文を促す

こうしたビジネスの仕組みを、自分の知識・ノウハウや活用できそうな経営資源などをもとに決定していきます。

④事業計画を策定

ビジネスモデルの内容が決まればそれを具現化するための事業計画(あるいは創業計画)を作成しなければなりません。モデルの内容を形にして実行していくために必要なものを漏らさず用意できるようにして行動の内容や時期を明確にするのです。

最初からあまり詳細な計画を作るのは困難であり、時間も多くかかるため必要最低限の内容でまとめることを優先しましょう。もちろん必要に応じて追加の内容を盛り込むなど計画の見直しも行うことが大切です。

なお、事業計画を創業計画として作成するケースも多く見られます。日本政策金融公庫(政府系金融機関)の創業計画の雛形は、事業内容・ビジネスモデルの内容や資金計画も含めて簡易に作成できるため創業者には便利です。その創業計画書の構成内容は次のようになっています。

  1. 創業の動機
  2. 経営者の略歴等
  3. 取扱商品・サービス
  4. 取引先・取引関係等
  5. 従業員
  6. お借入状況
  7. 必要な資金と調達方法
  8. 事業の見通し
  9. 自由記述欄(追加でアピールしたい点や事業上の悩みなど)

上記の内容をまとめることで同公庫が求める創業計画書になります。なお、3)、4)、7)と8)の項目は特に重要です。3)は、取扱商品・サービスの内容、セールスポイント、販売ターゲット・販売戦略、競合・市場など企業を取り巻く状況を示す項目でビジネスモデルの内容を整理するのに役立つでしょう。

4)は主要な販売先・仕入先・外注先を示す項目です。有力な取引先が多いほど事業は円滑にスタートできるとともに成長させるのも容易になるため、現状を把握してその強化や拡大に早くから取り組むようにしましょう。

7)は簡易な資金計画表として利用できます。起業は資金がないと始まらず、事業の継続や拡大も資金に依存するため、その準備や調達手段の確保はとりわけ重要です。そのため下表のような資金計画表を作成し必要資金を確実に確保できるようにしましょう。

なお、作成での要点は、左側の開業当時の設備資金と運転資金(開業後3カ月~半年程度の必要資金)の額を可能な限り正確に見積ることです。

必要資金 見積先 金額 調達の方法 金額
設備資金 店舗、工場、機械、車両など(内訳)設備工具事務機器および備品事務所保証金など 万円〇〇○○〇〇○○ 自己資金 万円
親、兄弟、知人、友人等からの借入(内訳・返済方法)
日本政策金融公庫 国民生活事業からの借入 万円
他の金融機関等からの借入(内訳・返済方法)
運転資金 商品仕入、経費支払資金など(内訳)・材料仕入・外注費支払など 万円〇〇○○
合計 〇〇〇万円 合計 〇〇〇万円

*株式会社日本政策金融公庫の創業計画書から作成

8)は営業利益ベースの簡易な損益計算書として事業の見通しに利用できます。この損益計算書は売上高、売上原価と経費(人件費、家賃や支払利息等)についての見込み金額を記入して利益を算定する形式の計画表です。

各々の項目についての根拠情報を示すことになるため、何にいくらの費用をかけて何で稼ぐかを端的に示す必要があります。

⑤経営資源を確保

創業計画を作成することで開業時から一定期間に必要なものが明らかになるため、その必要な時期に合わせて各経営資源を確保しなければなりません。資金やモノについては資金計画表に従って確保することになりますが、人材や協力先なども計画的に確保できるように取り組みましょう。

特に従業員の確保は簡単にできるとは限らないため、早めに取り組むのが重要です。退職前から知人や会社関係者などに紹介してもらうといった行動も必要です。

⑥会社設立・許認可などの手続を実行

事業内容によっては会社設立した方が有利になることもあるため、起業にあたり法人化を検討することも欠かせません。また、業種等により許認可を受けなければならないケースも少なくありません。

会社設立や許認可に関しては一定の知識がないとスムーズに行かないこともあるため、事前に自分で手続を進めるかどうかを判断しておきましょう。手続を司法書士や行政書士などに依頼すると手数料がかかりますが、手続に係る時間を大幅に削減できます。

手続の内容を予め確認しておき難しいと判断したなら専門家に依頼しましょう。

3-2 シニア起業のテーマ

起業を進める際に最も問題になりやすいのがどのような事業を行うかという点です。実際、起業のテーマを何にするかで悩む起業家が多く見られます。ここでは起業テーマをどのように決めるか、また具体的なテーマについて紹介しましょう。

シニア起業のテーマ

①起業テーマの絞り方

起業テーマの決め方については様々な方法が考えられますが、以下の4つのポイントから検討すると絞りやすいです。

・やりたい仕事や挑戦してみたいこと(好きなこと)
⇒起業の動機にもなる「自分がやってみたいこと」を事業のテーマとして組み立てるケースは多く見られます。起業家自身が事業を行うわけですから儲かる事業であっても気の進まないことや苦手なことをわざわざ選ぶ必要はありません。

起業を自己実現の1つの手段として重視する方なら、当然自分のやりたいことにこだわりを持って取り組んだほうがより熱心に仕事に努められるでしょう。仕事への意欲が苦難を乗り越えさせ、様々なアイデアなどを引き出し、事業を成長させることもあります。

・得意の知識、ノウハウ、スキル、技術で実現できること(得意なこと)
⇒やりたいことができることになるとは限らないですが、起業家の知識、経験、ノウハウや技術などが事業内容に直結するケースは少なくありません。たとえば、システムエンジニアの経験を保有する方なら「ソフトウェア開発」をテーマとして起業するのは容易なはずです。

また、生産財のマーケティングや営業の業務に長年努めてきた方なら製造業の営業コンサルティングなどがテーマとして挙げられるでしょう。会計や総務などの業務に従事してきた方なら税理士や社会保険労務士の資格を得て士業で起業するという方法もあります。

・社会が求めていること、社会に貢献できること(社会のニーズ)
⇒日本のみならず全世界的に様々な問題が生じているため、その社会課題の解決をテーマとすることも有効です。日本の社会問題だけを取り上げた場合でも相当な数の課題が山積しています。

たとえば、「地方の過疎化による求人の減少、交通アクセスの劣化や医療崩壊」「建物や道路・橋梁など社会インフラの老朽化」「インバウンド需要への対応(宿泊先の不足等)」「産業における労働力不足、雇用のミスマッチによる離職率の増大」「事業や技術の承継問題」などです。

社会課題は多く存在しますが、起業家自身が気になっていることや自身の知識・ノウハウ等で解決できそうな課題が起業テーマの候補になるでしょう。

・見落とされている儲かること(利益がでること)
⇒今まで取り上げてきた内容や関連することを組み合わせてテーマにすることができますが、営利の事業として儲からなければ意味がありません。

そのためいかに社会課題の解決に資する事業であっても一定の利益が出るビジネスにする必要があります。もちろん一般的な事業の場合はより利益の確保が重要であり、そのためには世の中で気付かれていないニーズに着目して事業化するのが有効です。

参入者がいない、あるいは少ない市場で起業すればそれだけ有利な事業展開が可能となり利益も確保できます。競争相手が少ない状態で一刻も早く成長を遂げ事業基盤を強固にすることが将来の発展のためにも重要です。

②具体的な起業テーマ

「創業・ベンチャー支援センター埼玉」のweb siteの事例から起業テーマについてご紹介します。

●テーマ:「クラフトビールで地域を元気にする」(株)氷川ブリュワリー

・趣味と社会貢献から発想
⇒創業者は趣味が「ビールの醸造研究」で、地域活性化のためのボランティア活動などをしていた経験もあり、地元でクラフトビールを作って地域を活性化したいと考えから創業を決意されました。

地域活性化はその自治体での課題となっていることも多く、自治体からの協力も期待できます。

●テーマ:「食品メーカー営業での経験を活かした食品の職域販売」(株)伊奈京

・自己実現の意欲と経験・スキル・人脈の活用から発想
⇒創業者は老舗食品メーカーの営業職を長年務めておりいつか独立したいという思いがありました。販売形態は、会社員時代の経験が活かせる同じ職域販売(企業の一角を借りての社内販売)としたが、会社とは競合しない領域を選び会社からの協力も得られています

●テーマ:「経験をもとに考案した手の不自由な方にも編めるユニバーサルかぎ針等の販売」手編みサロン あみ~ちぇ

・手編み講師業の経験・スキルとアイデアから発想
⇒創業者は結婚を機に看護師の仕事を退職した後、47歳で手編み講師の免許を取得し、作品販売や講師業を始めていました。障害や高齢で手が動かせない方に出張編み物教室を開いていた時に手の不自由な方にも編めるかぎ針のニーズに気が付いたという経緯です。

そして、ユニバーサルかぎ針を考案し販売していくために起業を決意されました。

●テーマ:「会社時代の業務経験も活かして、地元食材の生産・商品開発、キッチンカーでの販売で地域貢献」Vegetable Promotion

・会社での経験、実家の農業の継承と地域の農業への貢献から発想
⇒創業者は会社でマーケティング業務に従事していたが、いつか実家の農業の継承を考えていました。子供が社会人になったのを契機に実家の農業を継承することを考え、起業では農産物の生産のほか調理・飲食サービスまで行う6次産業を目指すことにされたのです。

⇒調理・飲食サービスに関しては、会社時代のマーケティング業務での経験を活かしてメニューを考案し、狭山の野菜・お茶をアピールし、狭山の知名度を上げる地域貢献を重視されています。

4 シニア起業での成功のコツ

シニア起業での成功のコツ

ここではシニア起業での成功事例を紹介し、成功に繋がったポイントを説明しましょう。

4-1 シニア起業の成功事例

シニア起業で成功するための参考となる事例を紹介します。

①株式会社A-CLIP研究所

*事例内容は「起業・創業の拡充 千葉県」と同社HPより

●企業概要

・所在地:千葉県千葉市
・設立:2012年
・事業内容:医薬品の研究開発(受託研究開発等)・製品開発

●起業概要

・起業の発想:
「前職の長年のキャリアを生かし、医療の高付加価値の製品を市場に提供」
⇒創業者は大学に勤務して血管炎の研究を約30年の間取り組んできた経験があり、その知識・技術をもとに付加価値の高い医療品を市場に提供したいと考えたのです。

⇒自覚症状が認めにくい難治療性血管炎の初期段階で使用できる測定キットの開発により事業が本格的に開始されています。この商品は、従来2~3日必要な検査時間を15分程度に短縮できるものです。

●起業の進め方

・受託研究開発事業と医薬品開発事業のハイブリッド型経営
⇒受託研究開発事業で経営基盤の安定化を図りつつ、ハイリスク・ハイリターンの医薬品開発事業を並行して進めるハイブリッド型経営に取り組まれました。

医薬品開発事業は高収益が期待できますが、実現が容易でなく収益化も遅いため、安定収益が見込める受託研究開発事業が経営の基盤となっています。起業では安定収益の確保が重要です。

・会社設立後から間もなく(公財)三菱UFJ技術育成財団より研究開発助成金を獲得
⇒起業後の事業の推進・展開に資金の確保は不可欠ですが、助成金を獲得し利用されています。

・「ベンチャーカップCHIBAグランプリ受賞」
⇒同社は千葉県の(公財)千葉市産業振興財団が実施しているビジネスコンテストの「ベンチャーカップCHIBA」へ応募しグランプリを受賞しました。

ビジネスコンテストへの参加は知名度を高める効果があるとともに、資金提供者や取引先等の拡大にも繋がるため起業家・ベンチャー企業にとって有効です。

・特許の取得
⇒2013年5月に「重症血管炎の新規マーカーとなるモエシンを発見」により特許を取得して以来多くの特許を保有し、事業の拡大に結びつけておられます。

⇒特許は技術・研究開発の産物で、事業の継続や拡大に貢献してくれます。

②株式会社ウッド・アート・ワーク

*事例内容は創業・ベンチャー支援センター埼玉」のweb siteを参照

●企業概要

・所在地:埼玉県川口市
・設立:2011年に起業
・事業内容:木の廃材や端材を利用した照明用カバーや名刺入れ等小物の製作・販売

●起業概要

・起業の発想:
「授産施設での賃金アップという社会貢献を目的に前職の経験を活かして商品化」
⇒創業者が、障害者等が働く場所である授産施設の労働賃金の低さを知り「自分ができることは何かないだろうか」と考えたことが起業のきっかけになりました。照明器具・建築資材関係・木工品メーカーでの職務経験を活かして何かできないかと模索し起業へと繋がったのです。

・創業・ベンチャー支援センター埼玉に相談
⇒同センターのアドバイザーから内閣府主催のコミュニティビジネス起業プランコンペの存在を教えてもらい、応募することで起業のアイデアを形にされました。

⇒コンペでの発表内容は、アートウッディ(天然木編み込みシート)を利用した製造受託とオリジナル商品開発支援です。アートウッディは木の廃材や端材をシートに加工したもので、照明用カバー等に利用できます。

廃材で商品を製作するため、原材料費は低減できその分作業者の工賃を上げることが可能だと発表し受賞されました。受賞したこともあり実際にこの事業での起業を決意されたのです。

●起業の進め方

・漠然としたアイデアを起業に繋げるため創業・ベンチャー支援センターを利用
⇒起業の進め方について、どのように進めて行けばよいかで悩む方は少なくありません。そんな場合に起業の仕方や経営などについて教えてくれ、関連情報などを提供してくれる公的支援機関などを利用するのは有効です。

適切なアドバイスや情報などをもらって効率的かつ誤りの少ない起業を進めるようにしましょう。

・内閣府主催のコミュニティビジネス起業プランコンペにて受賞
⇒起業の進め方として、創業計画(事業計画)を作成して事業内容を固め必要な経営資源などを漏らさず確保していくことが失敗しないための方法になります。さらに起業プランコンペに参加するほどのビジネスプランに昇華できれば失敗しにくい起業がより実現しやすくなるでしょう。

・起業資金は1万円
⇒シニア起業での失敗は老後の生活に大きく影響するため、慎重な自己投資が必要ですが、本事例での起業資金は1万円です。少ない資金から起業することは、リスクを小さくさせる効果があるため、事業内容なども加味して検討しましょう。資金が多くても成功するとは限りません。

③AMBER DROP COFFEE ROASTERS

*事例内容は創業・ベンチャー支援センター埼玉」のweb site等より

●企業概要

・所在地:埼玉県川口市
・設立:2016年
・事業内容:焙煎コーヒー豆の販売、カフェの営業

●起業概要

・起業の発想:「夢だったコーヒー豆の販売とカフェのお店に挑戦」
⇒創業者の前職は製薬会社の臨床開発や製品戦略の部門であり、コーヒー関係の仕事とは無縁であったものの、長年の夢を実現するため、50歳で早期退職制度を利用して起業されました。

●起業の進め方

・経験のない業界のため計画的な起業に取り組む
⇒製品戦略部で起業の進め方は多少理解しているものの、経験のない業界であるため、その実行には逆算で約3年をかけることとし、計画的に進めるように取り組みました。

・47歳では起業までの計画を立案
・48歳では参考にしたいカフェを訪ねて調査。焙煎セミナーなどへ参加
・9歳では事業計画書を作成。店舗や施工業者の探索
・50歳で会社を退職して川口で起業

・起業までの道のりは同業者の経験談と自分のアイデアで検討
⇒起業の準備から開店までの過程を紹介した同業のカフェオーナーのブログを読み、それを参考に自分の考えも加えて起業内容を検討していかれた。

・必要なカフェ経営や豆販売などの知識・スキルを事前に確保
⇒カフェ経営の経験がないため、多数の既存店に足を運び味・内装・雰囲気・価格等の訴求ポイントを調査されています。また、一般社団法人日本スペシャルティコーヒー協会への入会やコーヒーに関する各種セミナーへの参加などにより業界情報の入手や技術の習得などに注力されました。

・キーとなる焙煎技術、豆の知識の取得・向上とカフェメニューの開発
⇒事業の成功のカギとなる焙煎技術、豆の知識の取得・向上とカフェメニュー(自家製ケーキ等)の開発に取り組まれています。対象顧客のニーズと競争優位性などから事業上のキーとなる要素を把握して用意することが起業の成功には不可欠です。

④株式会社ベルサポ

*事例内容は青森県「シニア起業ハンドブック」および同社HPより

●企業概要

・所在地:東京都中央区
・設立:2014年
・事業内容:高齢者を中心とした旅行困難者・旅行弱者の為の出迎え・送迎・同行サービス等

●起業概要

・起業の発想:社会貢献できる、誇りを持てる仕事をしたいとの思いと、シニア産業の拡大の期待から起業
⇒創業者は社会に役立つやりがいのある仕事をしたいとの思いから起業を決意いされました。対象事業については、高齢化社会が進む中でのシニア産業の拡大や、地域創生や福祉事業に対する社会的ニーズの高まりが予想できたため、この分野での事業を検討されたのです。

・高齢者や障害などがある方が旅行困難者・旅行弱者であることに気づきビジネスで解決へ
⇒高齢者や障害者などは身体的・精神的な理由から特定の場所に移動したくても、旅行したくても簡単に行くことができません。創業者はこの点に気づき「親戚や友人みたいな感覚で、一緒に旅行や外出が楽しめるサポーター(パートナー)」の役割をビジネスとして果たせば上記の課題を解決できると考えました。

●起業の進め方

・起業までの準備ではマーケット調査を重点に
⇒社会貢献の仕事、高齢者向けの仕事をターゲットとしてもこれらに関する事業上の知識・経験がなければ具体的な事業内容を組み上げるのは容易ではありません。そのためどのようなニーズがあり、どのようなモノや方法で充足できるか、というビジネスコンセプトから作っていく必要がありました。

そのコンセプトを作るためには市場ニーズと事業内容との適切なマッチングが必要であり、創業者はそのためにマーケット調査に注力されました。

・新しいサービスの認知度の向上
⇒高齢者等の移動をサポートするという新しいサービスですが、世間での認知度が低いため、その広報活動が課題となっていました。そのため日経マネーなどの経済紙、朝日新聞のような日刊紙に同ビジネスを紹介してもらう、NHKなどのメディアに取り上げてもらうことに成功されています。

・困難へは小さな会社ならではの臨機応変さと細かな対応で克服
⇒起業すると様々な問題に遭遇することになりますが、規模の小さい企業の場合問題への対処が早く解決が容易になることも少なくありません。最初から大きな事業を想定すると、企業を維持するための収益量も多くなるため運営が難しくなりますが、小規模だと必要収益量も小さく済み運営が楽になります。

また、同社のように仕入や在庫のない事業では運転資金が少なく済むため、事業継続も楽になりやすいです。起業では困難なことが多く発生するため、シニア起業では特に経営の負担の少ないビジネスモデルを優先することも重要です。

・旅行や街歩きが大好きで元気な中高年がスタッフ
⇒同社の社員は50歳代と若いとは言えないですが、旅行や街歩きが大好きで元気な中高年のスタッフによって事業が支えられています。若手人材の確保が難しい現代においては、中高年層の労働者は貴重な戦力です。同社の雇用のあり方は高齢者の雇用促進にも貢献しています。

4-2 シニア起業の成功のカギとなる要素

今までの内容などを踏まえシニア起業で成功するための重要な要素についてまとめていきます。

シニア起業の成功のカギとなる要素

①やりがいのある仕事をしたいという思い

創業者にとって起業は負担の軽い行為ではないため、やり抜く意志が成功には不可欠です。その強い意志を持ち持続させるには「やりがいのある仕事」「誇りに思える仕事」「夢見ていた仕事」をこれからの人生でやり遂げるという思いを持つことが重要になります。

単に生活費の一部を稼ぎたい、暇になった時間を埋めたい、といった軽い気持ちで起業した場合、取引先や受注の確保、資金調達や人材採用などで困難にぶち当たれば事業で踏ん張る意志も弱くなりかねません。

もし事業から撤退することになれば投資した資金を失うほか、ケースによっては借金を抱えることもあり得ます。起業の失敗に繋がる要因には経営手法といったテクニカルな面の要素も大きいですが、創業者の経営に対する意志が大きく影響するのです。

やり遂げる意志が創業者の経営に対する態度を変容させ、強ければ経営手法の取得や様々なアイデアの発想などに結びつきやすくなります。起業での成功は創業者の意志次第とも言え、特にやりがいのある仕事を完遂するという意志を持続させることが重要です。

②自分の強みを活かしたビジネスモデル

事業アイデアをどのような内容でコンセプトとして組み上げるかで起業での成功が左右されますが、創業者の強みとなる部分をベースとしてビジネスモデルを作っていくことが必要になります。

その強みとは創業者が仕事や生活で培ってきた知識、技術、ノウハウや人脈などです。最も多いケースでは会社員時代に従事してきた職務経験での知識・スキル等になりますが、個人としての趣味で得たものも少なくありません。

たとえば自分が好きなことや得意なことを活用して埋もれているニーズ、社会で必要とされるニーズを捉える方向で事業アイデアにすることが重要です。もちろん知識・経験のない分野で起業するケースも少なくないですが、その分起業前の調査・準備に多くの時間とコストをかけることになります。

知識・経験のない分野ではよりリスクが大きくなる可能性があるため、無難な起業を志向するなら自分の強みを活かせる内容でビジネスモデルを検討するのが良いでしょう。なお、自分の強みを把握するには自身について様々な角度から特徴をリスト化(棚卸)するのが有効です。

③周到な起業の計画と準備の遂行

起業にはリスクが付き物ですが、シニア起業での失敗は避けたいためより周到な起業の計画と準備をするようにしましょう。

なお、自分の経験の有無に関係なく計画的な起業を心掛けることが大切です。定年退職になったから起業を今から検討するのではなく、退職する前から考え始め準備を進めるようにします。

事業のアイデアからビジネスコンセプトが固まり始めたら、知識・経験等の有無や程度に応じて準備に必要な項目(行動)を設定し、その内容から逆算して準備開始時期と準備期間も決め実行していくのです。

起業ではその事業の知識だけでなく経営そのものに関する知識も必要になります。会社設立する場合では手続にかかる知識も必要となるため、より時間が多くかかります。そのため起業には時間に余裕を持つことが失敗の回避に欠かせません

④負担の少ない事業化

起業の負担を少なくするために、「緩い起業」を志向することは有効です。老後の生活の安定や事業での失敗による精神的影響などを考えれば、負担の小さい起業はシニアにとって重要になります。

緩い起業とは、資金や労働などの面での負担の小さい起業を指します。多額の設備投資、材料等の商材の購入、多人数の雇用、大規模な店舗の設置などは負担の重い起業になり、緩い起業はその真逆の内容です。そのため会社設立からではなく個人事業からのスタートも悪くないでしょう。

起業場所は自宅、設備はリース、販売は受注生産で在庫なし、最小限の商材の仕入、家族を中心とした少人数経営、といった内容で事業を組み立てれば自己資金や借入を大幅に抑えることもできます。

また、労働時間は予め無理をしない内容として休日もしっかり確保できる業務にすることが重要です。高齢者にとって過度の労働は身体に悪影響を及ぼすため、無理のない労働を重視することが大切です。

⑤支援機関や支援施策の活用

起業や経営を始めるにあたり、創業者の知らないことや困ったことに遭遇するケースは多いですが、そんな時に(公的な)支援機関や支援施策は頼りになります。

起業や事業についてわからないことは商工会等、中小企業支援センター、創業支援センターなどに相談すれば無料で助言してもらえます。ケースによっては創業計画の作成などの支援も受けられるのです。

また、アイデアをビジネスへと昇華したい場合、ビジネスコンテストなどへ参加すれば、洗練された事業計画に仕上げる機会になります。公的な支援制度には補助金・助成金や融資制度なども多くお金の面での強い味方になってくれるケースも多いです。

ほかにも起業場所としてシェアオフィス、インキュベーションセンター等などを提供している自治体なども多いです。また、取引のマッチング、展示会、企業・商品の広報、販路支援などのサービスを提供しているケースも多く見られます。

起業時には困難なことが多いため、利用できる支援機関や支援施策などは可能な限り使いましょう。

5 シニア起業の落とし穴や注意点

シニア起業の落とし穴や注意点

シニア起業には失敗に繋がる落とし穴や注意したい点もあります。特に以下のような点には注意しましょう。

5-1 今までの業務経験などを過信しない

これまでの業務経験や趣味での知識が豊富であっても事業が上手く進むとは限りません。経験豊富だからと安易に起業を考え、準備を怠って事業を始めると問題も多く発生しやすくなり解決も困難になるため注意しましょう。

これまでの会社での業務知識・経験を活かした起業であっても経営者としての経験がなく組織を運営したことがなければ、会社設立・許認可等の手続、資金調達などの経営資源の確保や取引先の拡大などで問題を抱える可能性は小さくありません。

管理職などで多少の情報や経験があっても経営全般に関する知識が多くなければ問題の存在にも気づかないという問題も生じ、結果として事業遂行に大きな支障が発生することもあるのです。

また、会社員として実績を残し取引先や関係会社との人脈を有していても独立したら彼らとの人間関係が今までとは異なるようになることもあります。今までの付き合いから独立後は支援してもらえると思っていても当てが外れることも少なくありません。

勤務していた会社と自分が作った会社とでは信用度も異なるため、容易に取引に応じ協力してくれるとは限りません。また、今までの会社での肩書も通用しなくなるため、サラリーマン気分では経営ができないのです。

5-2 「良い○○」でも売れないこともある

いいもの・良い技術などで事業化するプロダクトアウト志向で起業を進めると売れない事業になる確率を高める恐れがあります。

特に販売やマーケティングの業務に従事したことない方が、自分の知識・ノウハウ等をもとに起業化する場合、マーケットニーズを十分に把握せずに事業化をするケースが少なくないです。

たとえば、「この製品は今までにない機能を有するいい製品だから」「画期的な新技術を駆使した便利な商品だから」「他社がやっていないサービスだから」などと「いいもの・良い技術等」を理由に事業化するケースはよく見られます。

しかし、いくら良いものでも、今までにない画期的なものでも利用する者にとって価値がなければ買ってくれる人は多くいません。起業のアイデアは自分の強みとニーズとの組み合わせから検討すべきものですが、ニーズとのマッチング(およびその量)を軽視すると売れない事業で起業することになるのです。

プロダクトアウト志向ではなくターゲットのニーズを捉えるマーケットイン志向でビジネスモデルを作り上げましょう。

5-3 販売や取引の拡大を怠らない

いくらニーズを捉えた良いものでも、マーケットイン志向のサービスでも販売や取引を拡大する努力を怠れば事業の成長は難しくなってしまいます。潜在的に大きな売上が期待できる商品・サービスであっても売るための行動を積極的にしなければ大きな成果は期待できないのです。

商品・サービスが売れる要素はマーケティングのプロダクト、プロモーション、プライス、プレース(物流・チャネル)の4つが主な対象となりますが、営業等の経験がない場合プロモーションの部分で弱くなる傾向が見られます。

ここでのプロモーションは、販売を促進する手段全般であり人的な販売促進活動や広告活動などを含みます。事業内容によって取られる手段や有効な方法が異なってきますが、創業する経営者はその中でも最も費用対効果の高い方法を抽出し実施することが不可欠です。

商品・サービス等の知名度が低ければ、SNSなどを含むインターネット上のPR、展示会への出店、イベントの開催なども欠かせません。もちろん創業者自ら知り合いの会社や公的機関へのPRも必要であり、全く知らない顧客への新規開拓にも従事することが求められます。

5-4 管理業務に手を抜かない

起業したら経営管理に注力するようにしましょう。マネジメントを甘く見て疎かにしていると資金繰りに行き詰まったり、社員が急に辞めたりといった問題が生じ業務に支障をきたすことになりかねません。

資金管理で手を抜けば資金ショートを招いて経営の危機に直面することもあります。会計的に黒字で利益を出している状態でも売上金の回収が遅れ支払いが先行するようでは資金ショートで倒産することもあります。

現在の現金残高、売上債権の回収日、支払債務の支払日などを把握して毎月の資金状況を把握し、不足しそうな場合には早めに資金調達の手立てを講じるといった管理が求められます。

また、従業員の自社に対する不満や職場での人間関係などに目を配っていないと、問題が生じて急に従業員が退職するケースが多くなるのです。労務面での管理を怠ると離職や、モチベーションの低下に伴う生産性の低下といった問題に繋がるため、労務管理にもしっかりと取り組まねばなりません。

6 まとめ

まとめ

少子高齢化が進む日本社会においてシニア起業が大きく注目されて始めています。実際、近年ではシニアによる起業が増加傾向にあり、更なる増加が期待されています。

高齢者にとっては老後の生活資金の確保に役立つほか、夢の実現や社会貢献なども果たせるため、シニア起業のメリットは少なくありません。もちろん失敗というリスクもあり慎重に起業へ取り組む必要があるため、負担の小さい「緩い起業」も検討してみてください。