回復基調が続く日本経済。政府は9月、月例経済報告で国内経済の景気拡大が続いているとの見方を示したことで、2012年12月から続いている景気回復が58ヶ月を突破し、茂木経済再生担当大臣は「(戦後2番目である)いざなぎ景気を超えた可能性が高い」と発言しました。

しかし、賃金上昇の伸び率は低いため、「実感がわかない」とする声も多く聞かれます。また、少子高齢化や地方衰退などの課題もあり、政府にはさらなる経済成長を促す政策が求められています。

そのような中、野村総合研究所(NRI)は国内100都市の成長可能性ランキングを公表しました。「創業・イノベーションを促す取り組み」「人材の充実・多様性」など6つの指標をもとに順位を付けた結果、1位は東京特別区(23区)、2位福岡市、3位京都市となりました。野村は、各地方都市が独自の特色を出すことで、日本全体の成長につながるとしました。

本記事では、野村が作成した「成長可能性都市ランキング」をもとに、各種等都市の成長可能性を詳細に見ていきます。

1 成長可能性が高い国内トップ10都市

野村総合研究所は国内100都市を対象として、「多様性を受け入れる風土」「創業・イノベーションを促す取り組み」「多様な産業が根付く基盤」「人材の充実・多様性」「都市の暮らしやすさ」「都市の魅力」の6つの指標をもとにランキングを作成しました。

 

1-1 東京23区が総合1位

総合部門1位は東京特別区(23区)となりました。次いで2位福岡市、3位京都市、4位大阪市、5位鹿児島市、6位つくば市(茨城県)、7位札幌市(北海道)、8位松本市(長野県)、9位久留米市(福岡県)、10位佐世保市(長崎県)と続きました。

・ 「成長可能性」都市総合ランキング

順位 都市
1 東京都特別区
2 福岡県福岡市
3 京都府京都市
4 大阪府大阪市
5 鹿児島県鹿児島市
6 茨城県つくば市
7 北海道札幌市
8 長野県松本市
9 福岡県久留米市
10 長崎県佐世保市

(野村総合研究所公表資料より作成)

年収1億円以上の富裕層の9割超が住んでいるとされる東京23区。平均年収でも900万円超となるなど経済力面では他都市を圧倒しており、日本を代表するグローバル都市となります。しかし、人口が集中しているだけに、待機児童が最も多く、また犯罪発生率は千代田区で約6%と高い水準です。

調査結果によると、東京23区は「多様性を受け入れる風土」「創業・イノベーションを促す取り組み」「多様な産業が根付く基盤」「人材の充実・多様性」の4つの指標で1位を獲得しました。

野村は23区の強みについて、

「創業のしやすさなどビジネス環境では全国トップで、確固たる産業基盤を持ち、さらなる成⻑の基礎が固まっている。自由で挑戦がしやすいまちの雰囲気や人材の多様性などイノベーションに向く風土を持つ」

としながら、弱みについては、

「生活コストの高さや子育てのしにくい環境、地域の共助精神の低さが弱み。魅力を高めるにはソフト面の強化も重要である」

と評価しました。

 

1-2 京都や大阪を抑えて福岡市が2位

政令指定都市であり、九州地方最大となる人口156万人を抱える福岡市。政府により国家戦略特区にも指定されるなど、名実ともにグローバルな国際都市として知られます。

「都市の魅力」の指標では1位、「創業・イノベーションを促す取り組み」では3位を獲得しています。野村は福岡市について、

「空港、港湾、新幹線駅へのアクセスが良好で国際会議も多くビジネス環境が整っている。また、多様性に対する許容度が高く、自由で起業家精神にあふれている都市と言える。さらに市⺠の幸福度が高く、街への愛着が強いのも特徴」

としつつ、

「ビジネス環境は整っているが大企業や外資系企業の立地が少ない」

との課題を挙げました。

(参照:野村総合研究所)

2 最もポテンシャルが高い地方都市

野村総合研究所は、地方都市が大都市に依存せず、自立して世界と結びつき、外貨を獲得できる「ローカルハブ」なる可能性が高い“成長可能性都市”を、実績とポテンシャルの差分で見たポテンシャルランキングも作成しました。

 

2-1 地方都市のリーダー的存在

ローカルハブになるポテンシャルを有する可能性が高い都市1位は福岡市となりました。次いで2位鹿児島市、3位つくば市(茨城県)、4位松山市(愛媛県)、5位久留米市(福岡県)、6位松本市(長野県)、7位札幌市(北海道)、8位松本市(長野県)、9位久留米市(福岡県)、10位佐世保市(長崎県)と続きました。

・ ポテンシャルランキング

順位 都市
1 福岡県福岡市
2 鹿児島県鹿児島市
3 茨城県つくば市
4 愛媛県松山市
5 福岡県久留米市
6 長野県松本市
7 北海道札幌市
8 宮崎県宮崎市
9 沖縄県那覇市
10 熊本県熊本市

(野村総合研究所公表資料より作成)

多様性に対する寛容度が高いとされる福岡市民。福岡市から海外18都市に直行便が出ており、海外紙による「住みやすい都市ランキング」でも10位にランクイン、近年はアジア都市の理想的なモデルとして注目されています。

(参照:福岡市)

福岡市は、2012年に「スタートアップ都市」を宣言。起業教育やベンチャー企業と地元企業とのマッチング、急成長する企業を応援する組織の設立などの取組みを推進しており、翌年には全国の197件の応募の中から、創業のための雇用改革拠点として国家戦略特区に指定されました。

・ 福岡市の項目別評価

多様性を受け入れる風土 外部人材の受入 7位
多様性への寛容度
都市の魅力 創業の活発さ 1位
創業を促す基盤
都市の暮らしやすさ 確固たる経済基盤・主要企業の存在 5位
ビジネス環境の充実
人材の充実・多様性 人材・教育の充実 5位
海外人材の集積
多様な産業が根付く基盤 生活利便性 4位
居住の快適性
創業・イノベーションを促す取り組み 社会の成熟 3位
社会の活力
幸福感・街への誇り

2-2 研究学園都市つくば

同じく国際戦略特区に選ばれているつくば市は、ライフイノベーション・グリーンイノベーション分野で我が国の成長・発展に貢献するべく、産学官連携の拠点として次の8つの医学・科学プロジェクトに取り組んでいます。

次世代がん治療法(BNCT)の開発実用化 画期的な次世代がん治療法(BNCT)の実用化・国際展開を目指す取組
生活支援ロボットの実用化 生活支援ロボットの安全検証体制の確立・ロボット産業の国際競争力の強化を目指す取組
藻類バイオマスエネルギーの実用化 藻類バイオマスの実用化と藻類産業の創出を目指す取組
TIA-nano世界的ナノテク拠点の形成 国際競争力のあるナノテク拠点の構築を目指す取組
つくば生物医学資源を基盤とする革新的医薬品・医療技術の開発 革新的な抗がん剤などの開発を目指す取組
核医学検査薬(テクネチウム製剤)の国産化 最も広く利用されている放射性検査薬テクネチウム製剤の国産化を目指す取組
革新的ロボット医療機器・医療技術の実用化と世界的拠点の形成 ロボットスーツHALの早期医療機器化などを目指す取組
戦略的都市鉱山リサイクルシステムの開発実用化 有用金属資源の安定確保とリサイクル思想に基づく社会の実現を目指す取組

(参照:茨城県HP)

ランキングでは、「多様性を受けいれている風土」が6位、「創業・イノベーションを促す取り組み」では5位を獲得するも、「多様な産業が根付く基盤」では69位、「都市の暮らしやすさ」では34位となるなど、生活面における暮らしやすさの点において課題を残しています。

・ つくば市の項目別評価

多様性を受け入れる風土 外部人材の受入 6位
多様性への寛容度
都市の魅力 創業の活発さ 20位
創業を促す基盤
都市の暮らしやすさ 確固たる経済基盤・主要企業の存在 34位
ビジネス環境の充実
人材の充実・多様性 人材・教育の充実 12位
海外人材の集積
多様な産業が根付く基盤 生活利便性 69位
居住の快適性
創業・イノベーションを促す取り組み 社会の成熟 5位
社会の活力
幸福感・街への誇り

野村はつくば市について、

「大学や研究機関が多く立地する特性上、博士課程を持つ専門人材や専門職研究者などビジネス高度人材は非常に多い。住⺠は新しいことに挑戦する気質を持つ人が多く、イノベーションにつながりやすい風土がある」

としつつ、

「企業の立地やITスタートアップ企業の実績は多いとは言えず、専門人材を活用した産業形成で国際研究都市への成⻑が期待される」

と述べました。