自分の趣味や好きなこと、あるいは自身が培ってきたキャリアを活かして起業する女性が増えています。特に近年は、大学や高校あるいは中学時代に起業し、会社を設立するケースも目立ち始め、才能ある若者が、その能力とチャンスを活かせる環境が整いつつあることが実感できます。

今回は、女性の起業の実態を明らかにするとともに、起業に係る様々なアイデアについて、実例を紹介しながら、その立つべき視点、資金調達の方法などを詳しく解説します。起業や会社設立を目指す女性は、ぜひ参考にしてみてください。

1 女性の会社設立の現状

女性の会社設立の現状

日本政策金融公庫が毎年調査結果を公表している各年度の新規開業実績調査によれば、2018年度における新規開業者に占める女性の割合は19.9%となり、1991年の調査開始以来最高を記録しています。2019年度の同調査においては、若干数値を下げて19.0%となっていますが、2016年調査で16.0%超えて以降、17.0%以上の水準で推移しており、長期的に見ると増加傾向にあることは明らかです。

1-1 女性の起業に係る特徴

女性の起業自体は、日本政策金融公庫の調査結果からも確実に増加傾向にあり、今後もそのスピードと規模は別として、確実に増加するものと考えられます。今後の女性起業家の方向性を探るため、2016年1月に内閣府男女共同参画局が公表した「女性起業家を取り巻く現状について」と言う資料の内容から、女性の起業の特徴やプロセスについて整理してみました。

(表1)女性起業家の現状

項目 内容
1起業希望者と起業家の性別構成の推移 起業家に占める女性の割合は男性より低いものの、女性の起業希望者の割合が多くなっています。直近の調査データは2012年のものですが、起業家の割合は、男性69.7%・女性30.3%に対し、希望者で見ると男性66.6%・女性33.4%であり、調査を始めた1979年以降で最も高い数値を示しています。
2男女別・年代別の起業家数 15歳以降5歳幅で調査対象年代を設定して調査した結果、男性起業家は30歳代、60歳代で人数が多くなっており、女性の起業家は30歳代の人数が他の年代に比べて相対的に多いものの、男女間格差はむしろ拡大しています(男性23.4千人、女性12.1千人)。
3男女別の起業分野 女性は男性に比べて、子育てや介護等、生活のニーズに根差した「生活関連サービス業、娯楽業」、また、趣味や前職での特技等を活かした「教育、学習支援業」等の分野での起業が多くなっています。

  • 〇生活関連サービス業:男性6.7%、女性18.8%
  • 〇教育・学習支援業:男性1.8%、女性12.2%
4起業を意識したきっかけ 女性は、「子育てや介護が一段落したあとの(時間的余裕)」や「結婚・離婚・出産等といった家庭環境の変化」を要因とするケースが多くなっています。
5起業を志した理由 女性起業家は、「性別に関係なく働くことができるから」、「趣味や特技を活かすため」、「家族や子育て、介護をしながら働けるため」を選択する割合が全体平均より高く、職務経験等を活かし、家事と両立する中で起業する傾向が見られます。
6 起業のパターン 女性は、「他社での勤務経験はなく独自に起業」を選択する割合が相対的に高いというデータが出ています。職務経験の乏しい主婦等が起業を成功させるためには、「創業スクール」のような独特の支援策が必要と言われています。
7起業形態 女性は「個人事業者」を選択する傾向が相対的に高いと言う結果が出ています。

  • 〇全体平均:個人事業者74.4%、株式会社等24.3%、NPO法人等1.3%
  • 〇女  性:  〃   78.6%、 〃   19.3%、   〃 2.1%
  • 〇若  者:  〃   76.0%、 〃   22.0%、   〃 2.0%
  • 〇シ ニ ア:  〃   69.8%、 〃   29.5%、   〃 0.6%
8起業家が起業時に感じる不安 全体平均で、「収入の減少・生活の不安定化」、「事業の成否」、「社会保障(医療保険・年金等)」の割合が高く、女性も全体平均とほぼ同じ傾向の回答となっています。結果は、収入の減少・生活の不安定化75.0%(64.7%)、事業の成否67.0%(58.7%)、社会保障等の不安65.5%(52.6%)となっており、()書きが女性の回答です。
9具体的な起業の準備に踏み切ったきっかけ 女性は、「周囲の人の勧め・誘い」、「一緒に起業する仲間の存在」とともに、「資格の取得」、「家庭環境の変化(結婚・出産・離婚)」をあげる人の割合が全体平均に比べて高くなっています。
10起業準備者が直面している課題 女性は「経営知識」、「家庭との両立」の回答割合が多い一方で、「特にない」とする割合も多いのが特徴です(女性の回答:経営知識18.7%、家庭との両立:7.0%、特にない:17.7%)。女性は、生活ニーズに根差した開業費用の小さい起業を選択する傾向が強いため、起業準備段階において課題として認識する事項が比較的少ないと考えられます。

閣府男女共同参画局「女性起業家を取り巻く現状について(2016年1月21日)」の調査結果から一部を抜粋して作成。

1-2 「働く女性」という視点では

(表1)の中で、「6.起業のパターン」は、日本における女性の労働環境を物語っていて興味深い調査結果です。「他社での勤務経験はなく独自に起業」というのは、社会人として企業で働いたことがないということですが、これは起業の阻害要因というよりは、女性の社会進出のための環境整備の必要性と言う面で大きな意味を持ちます。

国は、2013年に策定した成長戦略の基本計画である「日本再興戦略」において、雇用制度改革・人材力の強化を図る観点から「女性の活躍推進」をアクションプランの柱の一つに据えています。この中で、女性と若者を成長戦略の中核と位置付け、2020年度における25歳から44歳の女性の就業率目標を73%(2012年対比5ポイント向上)と定めました。

25歳~44歳女性の就業率目標については、2016年度時点ですでに72.7%に達していることから、これを受け厚労省は、就業環境整備の一環である「子育て安心プラン」において、2022年度には同年齢層の就業率を80%に達することを想定して「保育の受け皿整備」を進めています。

このように就業率が向上する中、子育て支援等の環境整備も進みつつありますが、未だに改善のスピードが遅いのが「女性の管理職登用」です。厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」では、従業員100人以上の民間企業における女性管理職の登用は、部長級で6.6%、課長級で11.2%と依然として低い水準となっており、海外との格差は縮まっていません。

1-3 女性起業家育成の実際

女性起業家の育成にあたっては、前出の「日本再興戦略」は、2020年3月を目途に「雇用制度改革・人材力の強化」行程表を策定して、国はもとより、都道府県及び市区町村に対し、それぞれが主体的に女性活躍のための支援策を措置するよう求めています

その果たすべき役割とは、国に対しては、「全体的なムーブメントづくり」や「先進取組事例の共有化」を、都道府県に対しては、「女性登用を促進した企業へのインセンティブ付与」や、「女性が活躍するための支援ネットワークづくり」を、市区町村には、「男女共同参画計画の策定による関係者の合意形成及び機運の醸成」に取り組むよう求め、あわせて、地域の経済団体や、農林水産団体、地域金融機関等に対してもそれぞれの業界における実効性の高い取り組みを求めており、次第にその効果が表れつつあります。

2 女性の起業・会社設立のメリット

女性の起業・会社設立のメリット

これまで女性は、「家事や育児の負担」とそれによる「キャリアの中断による熟度不足」から、ビジネスの世界に本格的に進出する機会を阻まれてきました。しかし、近年、女性の職場復帰プログラムの充実や男性の育児休業取得の奨励など、女性のキャリア形成を支援するための環境が整いつつあります。このような状況下、女性の起業が生み出すメリットについて解説します。

2-1 日本経済にとってのメリット

日本経済にとってのメリット

女性の才能は、それ自体が日本の経済力を高めるための「最大の潜在力」と言われており、女性の企業内でのキャリアアップや起業は、将来へ向けて、日本の社会と経済をより豊かにすることができる可能性を秘めています。労働力不足が深刻化する中、国内で調達できる質の高い労働力は、生産性を向上させるための大きな要因ともなります。

日本の社会や経済にとってのもう一つのメリットは、女性特有の視点でビジネスを捉えた時、これまでになかった商品やサービスが生み出される可能性が高くなることです。家事・育児・介護といった自らの体験から得た知識や、各ステージで直面する様々なリスクを想定したアイデアが、新しい商品、新しいサービスを生み出し、新しいマーケットの創造につながる可能性が広がるからです。

2-2 女性にとってのメリット

女性にとってのメリット

起業という挑戦は、自らが持つ技術や資格・趣味など、これまで自分が気付かなかった才能を発揮する絶好の機会となります。後掲のアイデア15選で紹介していますが、自らの体験や身近な人の悩みを解決することを事業として起業し、次第に事業の幅を広げていった実例もあります。女性ならではの視点に立つことで、全く新しいコンセプトの事業領域を生み出すことができるのです。

もう一つのメリットは、起業自体が女性の社会進出を促進するためのハブ&スポークになり得るということです。女性が設立した企業では女性の雇用機会が増え、会社の成長に伴って女性管理職の登用機会も増えるという循環が生まれます。これまで、ライフステージの変化の中でキャリアの中断を余儀なくされてきた女性にとっては、直にマネジメントを経験する機会を得ることは、自らの高水準のキャリア形成につながります。

また、間近で女性起業家を支える役割を果たす中で、自らの起業にも意欲をもつ女性ビジネスパーソンが増えることは容易に想像できることです。女性起業家の作り上げる組織は、次代の女性起業家を育む母体ともなり得るのです。

3 おすすめの起業アイデア15選

おすすめの起業アイデア15選

自らのアイデアを事業化し、現在も、会社とともに成長を続けている女性起業家を取り上げ、それぞれの着想や目指すところをご紹介していきます。なお、これらの事例はあくまでも、これからご自身がチャレンジしようとする際の考え方や着想の参考として捉えてください。

3-1 伝統産業の魅力再発見

2011年3月に慶應義塾大学4年生であった矢島里佳(やじま りか)氏は、ワークライフバランスや働き方改革が叫ばれる中、「和(あ)える」ブランドを立ち上げ、「生きる」の中にある「働く」、「寝る」、「家族との時間」などの要素を一体化させることで、豊かな生き方に結び付けることを自らの事業のコンセプトとしました。

その事業の中核は、後継者不足が深刻化する伝統産業を次世代につなぐこと、そして、伝統の技術をもってモノづくりを行うことで、職人の後継者育成や産地の雇用創出にも寄与するというものです。独自に、全国の職人とのネットワークを構築し、周囲を巻き込んで事業を展開することで、日本のホンモノの良さを見つめ直そうとする姿勢からは、氾濫する情報に流されがちな若者世代でありながら、確固たる価値観とベンチャースピリットを汲み取ることができます。

また、このアイデアは、「伝統産業の後継者不足」、「地域の雇用創出」という、言わば社会問題化した日本産業の課題をビジネス化するという考え方であり、「伝統とその価値の再評価」にスポットを当てたという点においても注目すべき事業です。

株式会社 和えるの事業

〔事業内容〕

〇0歳からの伝統ブランドaeru事業
日本の伝統産業の技術を用いた赤ちゃん・子供のころから使える商品の企画、開発、販売。

〇aeru room事業
ホテルの部屋に、地域で受け継がれてきた魅力を集め、次世代につなぎます。

〇aeru oatsurae事業
お客様の「世界に一つだけ」を、職人の技で“お誂え”し、伝統の技を次世代につなぐ

〇aeru re-branding事業
企業やブランドの本質・真の魅力を磨きだし、次の世代につないでいく仕組みを生み出します。

-同社の公式サイトより-

3-2 遺伝子解析をビジネスに

高橋祥子(たかはし しょうこ)氏は東京大学大学院在籍時に起業し、株式会社ジーンクエストを設立しました。その事業は、「個人向け遺伝子解析サービス」というセンセーショナルな分野です。利用希望者は、インターネットで申し込んで届く専用キットに自分の唾液を入れて返送します。

疾病リスクほか約300項目以上の遺伝子情報の解析が可能ですが、がんや糖尿病と言った死亡リスクの高い疾病に関わるものだけでなく、「アルコール耐性」や「アレルギーの有無」、「記憶力のレベル」といった遺伝的体質についても知ることができます

倫理的な問題は内包しているものの、個人が自分の遺伝子情報を知るという、いわばリスク管理という観点で考えれば、新しい価値を見出すこともできます。また、同社は、このサービスだけではなく、事業で得た大量のデータを匿名化した上で、さらに細かく分析し、様々な基礎研究及び応用研究に役立てています。

同社に在籍する研究者が20以上の研究機関や企業と協力して、研究を進めていますが、そのテーマは、遺伝子と疾病の関係の解明にとどまらず、「疾病のメカニズムの解析」や「創薬の基礎研究」にまで及びます。遺伝子解析というサービスを事業とする一方で、高度な研究機関と言う側面を持っているのです。

設立後6年を経過したばかりですが、現在提携している医療機関や製薬会社のほか、化粧品会社や食品会社、フィットネスクラブなど、新たな分野との提携を視野に入れています。これまで研究費不足で踏み込めなかった日常生活の領域に、遺伝子解析が入り込む余地を見出したことは、まさにフロンティア精神に満ち溢れているといえます。

3-3 タイムシェアというビジネスモデル

株式会社エニタイムズは、角田千佳(つのだ ちか)氏が、野村ホールディングスからサイバーエージェントを経て起業し、設立した会社です。事業は、「家事シェアリングサービス」。一瞬でイメージすることは困難ですが、女性ならではの事業コンセプトが見て取れます。最初に、同社のミッションとビジョンを紹介しておきましょう。

〇ミッション:「どんな時代」、「どんな状況」、「どんな場所」においても、常に変化に対応したプラットフォームを提供し、人々の生活を向上させることを目指していきます。

〇ビジョン:

  1. 新しい雇用機会の創出
    都会を中心に時間を追われる人たちが、今までできなかった用事の一部をアウトソースし、時間をもっと有効利用できるようにする一方で、何かをしたい、もっとスキルと時間を使いたい人たちがフリーに働ける環境を創出します。
  2. 地域活性化
    オンラインにおいて個々でつながることで、各地域の潜在的な労働力が、仕事・用事をアウトソースしたい企業(個人)と距離を越えてつながり、社会・地域の活性化を促します。
  3. 個の力の最大化
    社会の枠にとらわれるのではなく、人々がそれぞれにしかできないこと、得意とすることを活用することで、誰かの役に立ち、それが収入になり、個の力が最大化される社会を目指します。
  4. 4)自由な発想で楽しむ仕事
    自分のルール、価値観、常識を人に押し付けるのではなく、自分とは異なった考え方を受け入れることで、新しいアイデアを学び、新たに創出し、自由な発想で楽しく仕事ができる環境を目指します。

-同社公式サイトより-

このミッションとビジョンに全てが詰め込まれていますが、具体的な事業の内容は、日常の家事、旅行中のペットの世話など「誰にでもある家庭の困りごと」を、近所の人にインターネット上で気軽に依頼・請負して解決するサービスです。例えば、近所に住む学生が、IKEAから購入した家具の組み立てができなくて困っている老夫婦の問題を解決し、出張の多い独身ビジネスマンの雑然とした部屋の掃除を、家事に長けた主婦が行うようなケースを考えれば分かりやすいでしょうか。

事業内容とともに、目指すところが、「新しい雇用機会の創出」、「地域活性化」といった社会的なテーマにあることを考えれば、る角田氏もまた、社会問題をビジネス化するアイデアに長けた、秀逸なアントレプレナーと言えます。

3-4 女性特化のコンテンツマーケティング

創業者の七尾エレナ氏は、大学卒業後市場調査会社に就職し、大手広告代理店のマーケティングリサーチを担当して市場調査のノウハウを学んでいます。その後、堀江貴文氏の出資を得て、株式会社部活動を立ち上げますが、その後任期満了を機に退社し、2015年に株式会社プリンシパルを設立しました。

同社は、女性モニター15万人を抱え、市場調査を軸とした「コンテンツマーケティング」を展開しています。普通の調査会社は、数値とグラフでデータを納品して終了するところを、同社は、そこにカメラマンを送って実際に調査のモニターとなった方の写真を撮り、顔出し付きでデータを載せると言う差別化を図っているのが特徴です。

女性に特化した理由は、モニターコスト抑制が目的だということで、男性モニターを抱える場合に比べ、モニターの収集・管理・運営コストが半減するということです。また、女性特化という差別化は、発注する企業側に対するメッセージ性も高く、数ある市場調査会社の中で存在感を発揮しやすいとのこと。これとあわせ、コンテンツ寄りのリサーチ事業を提供していることも珍しく、総合的に見ても業界内での差別化に成功しているようです。

同氏の場合、実業経験が活かされており、基本的なノウハウを身につけた上に、女性による「定性調査事業(注1)」を事業の核に据えたところに成功要因があると考えられます。

(注1)定性調査とは
企業側が消費者側と対面するかたちで意見を吸い上げる調査手法を言います。対面し、質問を繰り返すことで消費者の深層心理に迫り、グラフや数値では読み解くことのできない行動原理(「なぜ、その商品を購入したのか」、「その商品のどこが気に入ったのか」)を把握することができると言われています。

3-5 マイノリティブランドという差別化

女性アパレル企画・小売り・メディア運営を手掛ける「株式会社ウツワ」という会社があります。創業者は多摩美術大学在学中にランジェリーブランド「ferst by GOMI HAYAKAWA」を立ち上げ、起業した稲勝栞(いなかつ しおり)氏。同氏は、ファッションデザイナーとしての顔も持ち、デザイナー名が「ハヤカワ五味(ごみ)」です。

同氏の起業のきっかけは、「どうして胸が小さいだけで、こんなに悩まないといけないのか? なぜ、下着も可愛いものを選べないのだろう」というマイノリティとしての悩みからだと言います。AカップやAAカップなどの小さい胸のことを「シンデレラバスト」と呼び、シンデレラバストの人が身につける下着を「品乳ブラ」と名付けて、これまで同じ悩みを持つ人が通常の下着屋さんでは入手できなかった下着を自ら創り出したのです。

当時、この新しいコンセプト下着「feast」を売り出したところ、用意した450セットを1日で完売すると言う記録を残しています。しかし、「シンデレラバスト」と「品乳ブラ」を商標登録しようとしたところ、このヒットに目を付けた他社に先を越され、悔しい思いをすることになります。この一件で、「大人は、お金のためなら容赦なく権利を奪っていく」ことを知り、自らのブランドと事業の夢を守るためには、会社を設立するしかないとの思いに至り、株式会社ウツワが誕生しました。

稲勝氏は、ランジェリーのほか、ストッキングやワンピース、Tシャツなどのデザインも手掛けており、事業の幅を広げようとしています。小さな悩みから始まった事業は、広がりを見せ、海外進出の準備も着々と進めており、更なる飛躍を遂げようとしています。

3-6 日本にベビーシッター文化を

株式会社キッズラインは、いわゆる「シェアリングエコノミー」によるベビーシッターのマッチングサービスを手掛ける会社です。創業者は、経沢香保子(つねざわ かほこ)氏で、リクルートから楽天を経て、26歳のときに自宅で女性向け商品のマーケティング会社(トレンダーズ)を設立し、当時女性最年少で東証マザーズ上場を果した経歴を持ちます。

2014年に2度目の起業で、株式会社キッズラインを設立して、それまで富裕層向けサービスという固定観念から普及が進んでいなかった「ベビーシッター」を、ビジネスとして本格展開することで女性活躍社会の実現を目指したのです。

同社の事業の特徴は、即日24時間ネット予約可能で、ベビーシッター業界の半額以下である1時間1,000円から利用できるというもの。ネット予約と低料金というインセンティブは、一方で安全・安心に心理的な疑問符がつくのが常です。同社はこの問題への対応として以下の特徴をあげ、安全・安心についての説明をしています。

  1. 24時間オンライン上で、希望するサポーター(シッター)の検索が可能です(これまでのベビーシッター派遣会社では、受付本部が17時までしか連絡がつかないなど、費用が高く継続的利用ができない。また、事前にシッターの評判も顔も分からないなどの問題がありました)。
  2. 保育中に万が一事故が起きた時のために最大5億円の損害保険に加入しています。
  3. 全てのキッズラインの体験レビューが見られること、保育士資格の保有状況などをオープンにしています(事前に利用者とサポーターが会うことを推奨していますが、会えなくとも、ITツールを活用して可視化しているため、安心感があります)。
  4. サービス体制の安心・安全・便利が併存し、利用者のニーズに合わせてサービスを行っています。経沢氏は、この事業によって、女性活躍社会の実現を目指していますが、それは、自身の子育てと最初の起業に深い関係があります。3人の子育てが必要な時期に、マーケティング会社の起業から上場という重要な時期が重なっていますが、これができたのはベビーシッターの存在があったからだと言います。

より安価で安心で便利なベビーシッターの仕組みを作ることができれば、女性の働く機会を失わずに済むと言う強い思いが、同氏を2度目の起業に向かわせたとも言えます。待機児童の問題は、子供が待機しているのではなく、働けない親が待機しているのだとも言えます。「待機児童」と「女性活躍」という社会問題をセットで解決しようとする同氏のビジネスモデルは、まさにアントレプレナーの真骨頂と言えるでしょう。

3-7 日本初のフレンチトースト専門店という切り口

フォルスタイル株式会社の創業者である平井幸奈(ひらい ゆきな)氏は、早稲田大学在学中にオーストラリアのレストランで修行し、帰国後の2013年9月に日本初のブリュレフレンチトースト専門店「Foru Cafe」を開店します。その後、2014年8月に「フォルスタイル株式会社」を設立し、同年11月にはシチュー専門店「Foru Stew」を開店しています。

最初は、オーストラリアから帰国後、月に1回日曜限定のイベントからスタートしています。実店舗をオープンした2013年は大学3年生のときで、それからすでに6年を経過しました。学生で起業し、しかも運営の難しいと言われる飲食関係の事業ですが、最近は、独特の製法による「黄金比グラノーラ」や「ドラフトコーヒー」も人気を集めており、事業は順調に推移しているようです。

2018年3月には、「Foru Cafe」の内装を一新して新たなコンセプトの店づくりを進める一方、代名詞ともいえるブリュレフレンチトーストは、こだわりの卵液に浸したバゲットを低温でじっくり焼き上げるという製法を守り、ドラフトコーヒーは、7時間半水出ししたコーヒーを樽詰めして窒素を注入し、ビールサーバーから注ぐことで口当たりの滑らかさを醸し出すと言うこだわりようです。

平井氏の事業に託す思いは、社名に表れています。「Foru」とは、for you(あなたのための)という思いを込めたそうです。同氏は、「食を通して“小さな幸せ”の輪を世界に広げるために挑戦を続ける」ことを、会社代表としてのメッセージとしています。

3-8 アパレルSPAメーカーからWEBマーケティングへの進化

大関綾(おおぜき あや)氏が「株式会社ノーブル・エイペックス」を設立したのは2010年1月、高校2年生(17歳)のときです。中学3年ですでにビジネスオーディションに応募し、14歳8か月と言う最年少記録で月間アントレ賞を受賞しています。同氏が事業として手掛けたのは「ネクタイ」。

年間3000万本市場とは言え、女子高校が男性用ネクタイに着目したこと自体が驚きです。当時始まったばかりのクールビズで、ノーネクタイのビジネスマンが「酔っぱらったおじさん」というだしない印象を受けたことから、正装感とおしゃれを感じられるネクタイの開発を思い立ったとのこと。ネクタイは開発費が少なく、小さな会社でも知財がとれる点にも注目したという経営センスは、すでに有能なビジネスマンの域に達しています。

平成のココ・シャネルを目指すという目標のもと、「Aya Ohzeki」ブランドのコンセプトを、「卓越したデザイン」、「優れた機能性」、「他に類を見ない新規性」に置きました。アパレル業界において自社ブランドを全国展開した経験とベンチャースピリットは、マーケティング戦略を中心に、その後の同氏の企業家としての成長を促すことになります。事業は、「マーケティング戦略立案」、「web PR施策運用」、「クリエイティブ製作」等へ拡大し、そのノウハウを蓄積して新たな分野へと足を踏み入れていくのです。

現在、20歳代~30歳代の女性社員が主力となっている同社は、創業10周年を目前に控えた2018年4月に、社名を「オリナス株式会社」へと変更しています。同氏曰く、オリナスは日本語の「織りなす」にちなみ、同社の主力事業であるwebマーケティング及びPR領域を通じて、「人と人とのポジティブな関係を織りなしていきたい」という思いを込めたそうです。

ベンチャースピリットにあふれる女性起業家と若い世代の女性社員の取り合わせは、主力事業の領域はもとより、ビジネスの世界におけるあらゆる既定の枠にとらわれず、今後も新たな着想で新しい事業領域へと踏み込み、さらなる成長を遂げる雰囲気を漂わせています。

3-9 社会貢献型飲食店集客サービス

株式会社テーブルクロスという会社は、世界的な社会問題をビジネス化するというグローバルな発想から生まれました。創業者は、城宝薫(じょうほう かおる)氏。立教大学在学中に起業しました。現在創業5年目を迎えるこの企業は、飲食店の予約をすると、その人数と同じ数の子供たちに寄附を届けることができるグルメアプリ「テーブルクロス」を運営しています。

城宝氏の起業家としてのメッセージは明確です。「発展途上国のこどもたちに沢山の給食を届けるために、テーブルクロスを始めました」からはじまるトップメッセージは、「たくさんの人に笑顔を」で締めくくっています。高い理想のもと、「社会貢献」を「ビジネス化」できた要諦は次のようなものです。

社会貢献活動を行うとき、日本では「寄附」や「ボランティア」、そして「無償」というイメージが根強く残っています。一方、アメリカでは、社会貢献活動を継続するために、社会問題を事業として捉えています。城宝氏は高校時代のフロリダへの親善大使の経験からこの考え方を学び、日本に広めたいと考えていたのです。また、学生時代のアルバイトを通して、寡占市場ともいえる「飲食広告業界」のマーケットと飲食店オーナーの慢性的ともいえる集客課題に気付きました。

「成果報酬型の飲食広告業界」と「食事に困っている世界の途上国の子供たち」という、企業の経営課題と世界的な社会問題をマッチングさせることで、新しいビジネスモデルを見出したのです。この予約をするだけで寄附になる「チャリティ予約」が日本の新たな寄附文化となるよう、本気の取り組みが進められています。この実効性をより高めることを目的に、現在、テーブルクロスの宣伝部隊ともいえるメンバーを募集しており、この会員制度を「エンジェル倶楽部」と称しています。

「社会貢献型飲食店予約」という日本では類まれなビジネスモデルは、これから起業を目指す人たちにとって、新たな方向性を見出す大きなヒントとなるではないでしょうか。

3-10 クレーム対応研修というビジネス

株式会社アイビー・リレーションズは、富士通株式会社を早期退職した大村美樹子氏が2010年に設立した会社です。事業内容は、「クレーム対応研修」、「クレーム対応代行」、「メンタルヘルス研修」、「ハラスメント防止研修」、「モチベーションアップ研修」、「人材育成」といった、企業の泣き所や、オペレーション上最も重要な分野の研修事業を核としているのが特徴です。

これは、大村氏の経歴に深く関係しています。富士通株式会社で商品企画や直販サイト運営を担当する傍ら、24年間顧客対応窓口で顧客クレーム処理を行っていた経験が、この事業で起業する動機となっているからです。自身の専門知識を活かし、これまでにないサービスを開発して困っている方々の役に立ちたいとの思いから、自らの経験のみに頼ることなく、大学で学び直し、現在の大学院で研究を続けているとのこと。

自らが歩んだ専門分野における知識をブラッシュアップし、プロフェッショナルとして自己を確立しているところに、起業家としての意気を感じます。それは、クレーム対応のみならず、近年、社会問題化しているメンタルヘルスの分野においてもうかがい知ることができます。

臨床心理学的な観点からの取り組みを進めており、自らが産業カウンセラーの資格を取得して、メンタル予防はもちろんのこと、うつ状態のスタッフへの対応や周囲の関わり方についての研修まで手掛けているのです。大村氏もまた、社会問題をビジネス化するという強い意志をもった起業家と言えます。

3-11 途上国から世界に通じるブランドを!

株式会社マザーハウスは、モノづくりを通じて「途上国」の可能性を世界中にアナウンスしています。創業者は山口絵理子氏。慶応大学4年時にワシントンの国際機関でインターンを経験し、大学卒業後は、単身バングラディシュにわたって、当地の大学院に通いながら、日本の大手商社のダッカ事務所でインターン生活を送っています。

様々な経験を経た後、援助や寄附ではなく、健全で持続的な経済基盤の提供というかたちで貧困の解消に協力したいとの思いから、2006年3月に株式会社マザーハウスを設立しました。事業は、ジュート(黄麻)バックの製造販売で、この事業を通して持続可能な途上国支援に取り組んでいます。起業当初は、製品の販売にあたって様々な商習慣の壁にぶち当たりましたが、徐々に販売実績をあげ、テレビ番組「情熱大陸」で紹介されたことを契機に、一気に卸先が増加し、会社設立から3年で直営店を5店舗展開するまで成長しました。

その後も売り上げは好調に伸び、製造拠点であるバングラディシュにとどまらず、アジアを中心とした途上国で様々な支援活動を行っており、ネパールでの工場も稼働しています。バックの材料としているジュート(黄麻)は、普通の植物の5~6倍の二酸化炭素を吸収し、廃棄時に有毒ガスを一切排出せずに肥料としても使える、まさに大地から生まれて、大地に還る、地球環境にやさしい素材です。そして、このジュートは、インド・バングラディシュが世界の総輸出量の90%を占めていたのです。

山口氏は、バングラディシュの自社工場において、労働環境に気を配り、上履き、エプロン、給食を支給し、毎月1度のメディカルチェックを実施。そして、マネジャーがスタッフとしっかり対話するという仕組みを確立しています。その国の誇る材料を活かした製品を作り販売するという循環を成長させることで、その途上国の持続可能な経済基盤の構築に貢献しているのです。これもまた、社会問題をビジネス化した典型的な例でしょう。

3-12 人気あられ屋起業から新規事業コンサルタントへ

「株式会社つ・い・つ・い」という会社があります。2008年に遠藤貴子氏が起業した「あられ屋」です。同氏は、大手都市銀行系金融機関から不動産会社へ転じ、その後も転職したものの、その会社が倒産したことを機にネットショップを始めた矢先、自分が好んで食べていた菓子を製造販売する「あられ屋」が会社の存続の危機にあることを聞いたことから、その店の商品のパッケージデザインからブランディングまで関わり、自身のネットショップで販売したのが創業の起点となっています。

その後、六本木ヒルズへの出店を機に認知度が高まり、後発の類似品が出回るようになって競合が激化しますが、パッケージを変え、外国人向けの商品開発等も行って事業を軌道に乗せます。しかし、自らの出産と子育てを機として、2014年に店を全て閉店してしまいます。

今後のことを考えるうち、「商品やサービスの良さをうまく見つけてプロデュースすることが得意」なことに気付き、価値が低いものに付加価値を生み出すビジネスへの取り組みを決意し、現在、企業向けに新規事業支援などを手掛けています。

遠藤氏は、自身の得意分野を意識しないままに、その得意分野を活かして起業していたわけですが、最初のビジネスを終了して次の展開に移るときに、自らのフィールドをはっきりと自覚し、確かな意図を以て、「新規事業支援」と言う新たなビジネスにチャレンジしています。

3-13 途上国の雇用創出を目指して起業

株式会社Lalitpur(ラリトプール)は、向田麻衣(むかいだ まい)氏が、人身売買がはびこるネパールにおいて、ネパール人女性の誇りある仕事の創造を企図して設立した会社です。取り扱うネパール発のナチュラル化粧品ブランドLalitpur(ラリトプール)は、ワイルドハーブや岩塩などヒマラヤ山の原料を使用し、商品としての高付加価値を追求した戦略的な商品です。

向田氏がネパールにおける雇用創出を目指して起業した原点は、高校~大学時代に遡ります。17歳のときに識字教育のNGOに参加した後、大学在学中に、トルコで女性の支援活動に携わっています。大学卒業後、化粧品メーカーのマーケティング部を経て、2009年にCoffret Project(コフレ・プロジェクト)を開始し、一般社団法人Coffret Project代表理事に就任します。

Coffret Project(コフレ・プロジェクト)とは、「女性たちが尊厳を取り戻し、自信をもって生きていける社会をつくる」とのビジョンのもと、ネパールでNGOに保護されている人身売買被害女性を対象に、化粧品やメイクアップのワークショップを提供するなどの社会貢献活動の取り組みです。

現在までに、ネパール、トルコ、インドネシア、フィリピンに5000点を超える化粧品を届け、約1200人の女性に化粧のワークショップを提供しています。ネパールでは2010年から集中的に活動し、同国における雇用創出のため、2013年2月に株式会社Lalitpur(ラリトプール)の起業に至っています。

このケースも、途上国における安易な寄附やボランティアの類ではなく、その国に住む人にとっての経済的な基盤を築くための活動を事業として行っている点に特徴があります。NPO法人ではなく、株式会社として、収益をあげるための事業基盤を構築し、「仕事を創る」ことと「心のケア」を両立させようという心意気に注目すべきでしょう。

3-14 美容師とモデルのマッチングというビジネス

竹村恵美(たけむら めぐみ)氏は、美容師である友人がモデルハントに苦労していることを聞き、その問題を解決するために立教大学在学中の2013年11月に、サロンモデルハントサービス「C0upe(くーぷ)」を立ち上げて起業しました。現在の取扱事業は、美容師・モデル向けwebサービス「Coupe」の運営、インフルエンサー事務所「COUPE MANEGEMENT」の運営となっています。

具体的には、webサービスでモデルと美容師をマッチングさせることや、インスタグラムやライブ配信などで活躍するインフルエンサー達のマネジメントを中心とした活動ですが、同社がターゲットとしている顧客層は、美容系の企業であり、資生堂や花王と言った企業に対してモデルを使ってもらうための営業が中心です。

インフルエンサー事務所「COUPE MANEGEMENT」は、専属モデルが所属する組織で、現在13名が専属モデルとなっています(Coupe全体では600人のモデル)。竹村氏によれば、ユーチューバーやインスタグラマーはかなり飽和状態で、新たに有名になることは難しいため、自社のモデルを売り込んでいくためには、今後はライブ配信に力を入れていきたいとのこと。

「個人を輝かせる」との起業ビジョンのもと、発信力を強める取り組みを進めていくことを意識しているとのことです。大きなメディアに出なくとも、SNSのフォロワー数を増やすことで、発信力が増し、自分の力で人に影響を与えることができる時代、「個人を輝かせること」もまた大きなビジネスチャンスといえます。

3-15 地域の中・高生特化型メディアの運営

沖縄の女子中学生が2015年5月に起業しました。会社名を「カッシーニ株式会社」といいます。この中学生は、仲田洋子(なかだ ひろこ)氏で、沖縄の次世代リーダー発掘・育成プロジェクト「Ryukyufrogs」に最年少で選抜され、シリコンバレーへ渡り、GoogleやTwitterなどのIT大企業や、誕生したばかりのIT企業を直に見ることで大きな刺激を受けたと言います。

現在、自社メディア「Rolemodel okinawa」をはじめとして、地元沖縄の若者たちの選択肢を広げていくための事業を展開しています。沖縄の中高生には情報格差、経済格差という背景から「公務員と医者」という二つの選択肢しかないと言われます。実際には、「もっといろんな選択肢を知りたいけどどうすればよいのかわからない」という声が聞こえており、様々な企業が誘致されるなど、沖縄が注目されている今だからこそ、彼らの意識改革をするべきであるという思いから起業したと語っています。

具体的なサービス内容は、沖縄県出身で日本全国・世界に出て活躍している人に沖縄の中高生から質問を集め、代表取締役の仲田氏がインタビューして公開するメディアの運営です。中学生でビジネスコンテストに応募し、全国大会で社会貢献賞を受賞したことを機に、大会運営者から起業を促された逸材が、今後どのようにして事業を展開していくのか注目したいところです。

4 起業資金の整理

起業資金の整理

日本政策金融公庫が行った「2019年度新規開業実態調査」によれば、開業時に苦労したこととして、「顧客・販路の開拓(47.0%)」、「資金繰り・資金調達(46.9%)」をあげる企業の割合が高く、現在苦労していることについても、この二つを回答する割合が高くなっています。この調査結果から、起業にあたっての資金調達がいかに重要な課題であるかをうかがい知ることができます。今回、女性が会社を設立するにあたり、必要となる資金の押さえ方とともに資金調達方法について解説します。

苦労したこと

まず、起業・会社設立にあたってどのような費用がどの程度かかるのかを把握する必要があります。この費用を把握するにあたり、「事業を始めるための費用」と「事業を継続するための費用」に大別して解説を進めます。

4-1 事業を始めるための費用

これは、初期費用とも開業資金とも称されるもので、事務所や店舗の借入れに係る敷金・礼金、場合によっては改装費用、そして、何より「会社の設立費用」が必要であり、これには、登記費用のみならず、会社の種類によっては定款の認証費用等も必要となります。法人を新設するにあたって必要となる設立費用は次の通りです。

(表1)主な法人設立費用の比較(手続きを全て自分で行った場合の金額)

会社区分
費用項目
株式会社 合同会社 一般社団法人
一般財団法人
合名会社
合資会社
NPO法人
1)登録免許税 150,000円 60,000円 60,000円 60,000円 0円
2)定款印紙代 40,000円 40,000円 40,000円 0円
3)定款認証手数料 50,000円 0円 50,000円 0円 0円
4)定款謄本手数料 2,000円 0円 2,000円 0円 0円
合計 1)~4)の合計 242,000円 100,000円 112,000円 100,000円 0円
2)不要の場合 202,000円 60,000円 112,000円 60,000円 0円

《各費用の説明》

  1. 登録免許税法という法律によって、会社によって登録免許税の最低額が定められており、株式会社15万円、合同会社は6万円です。基本は、株式会社・合同会社ともに資本金の0.7%で計算した額なのですが、その額がそれぞれの最低額に達しないときは、最低額が適用されることになっています。なお、合名会社と合資会社は、一律60,000円となっています。
  2. 定款認証の印紙代は、電子定款にすると不要です。紙の定款の場合は、印紙税法によって、株式会社及び合同会社は4万円が必要となります。印紙税が課される定款は、株式会社、合名会社、合資会社、合同会社、相互会社のものに限られています。
  3. 公証人による定款の認証が必要なのは、株式会社、一般社団法人、一般財団法人、特定目的会社、相互会社、弁護士法人、監査法人等で、持分会社(合名・合資・合同会社)は対象外となっています。
  4. 会社設立時の定款は「原始定款」といい、公証人が20年間保管することになっています。このため、会社設立登記の際は、公証人に定款の謄本(会社設立登記の際に添付しなければなりません)を発行してもらうことになります。このときの手数料は、「公証人手数料令」という政令で、1枚250円と定められています(一般的な定款の枚数で換算すると2,000円程度)。

(表2)法人設立から開業までに必要となる主な費用

開業費にあたるもの 金額
1)新設会社の土地、建物等の賃貸借契約にかかる敷金・礼金等 会社の規模や業種に左右されるため一概には言えませんが、200~500万円程度は見積もる必要があります。
2)内装の改装等
3)営業開始の為の広告宣伝費
4)OA機器等消耗品費等の費用
5)電気・ガス・水道料等事務所のインフラに係る契約費用等

4-2 事業を継続するための費用

ランニングコストあるいは運転資金ともいわれるものですが、毎月発生する事務所や店舗の賃料、水道光熱費、商品や原材料の仕入れ資金、広告宣伝に係る費用、従業員を雇用すれば自分と併せた人件費や、スキル向上へ向けた学習費用など、様々な費用が発生します。事業の規模に応じた費用となりますので、事業計画策定時に見積もることになります。

4-3 資金調達の実態

前出の、日本政策金融公庫「2019年度新規開業実態調査」における開業費用を見ると、「500万円未満」の割合が40.1%で最も高く、次いで「500万円~1,000万円未満」が27.8%となっています。また、「開業費用」の平均値は1,055万円で、1991年の調査開始時以来最も少ない金額となりました。

また、開業時の「資金調達額」は平均1,237万円で、会社設立費用及び開業費用に当座の運転資金を加えればこの程度の金額が必要となるということでしょう。調達先としては、「金融機関等からの借入れ」が平均847万円(平均調達額に占める割合は68.4%)、「自己資金」が平均262万円(同21.2%)となっており、この両者合計でほぼ90%を占めています。

なお、金融機関等からの借入れには、「日本政策金融公庫」、「民間金融機関」、「地方自治体の制度融資」、「公庫・地方自治体以外の公的機関」が含まれています。

5 資金の調達方法

資金の調達方法

ここからは、資金調達手段として最も比率の高い「金融機関融資」について解説していきます。また、都道府県段階で様々な起業支援策が講じられていますので、融資制度のほか、女性に係る支援制度にどのようなものがあるかを整理していきます。

5-1 金融機関融資

銀行等民間金融機関は、返済の可能性を判断基準として融資審査をしますが、実績のない新設会社については、事業計画と担保・保証人以外に判断材料とするものがありません。したがって、何の保証もなく民間金融機関から一般的な融資を受けることは、非常に厳しいと言わざるを得ません。

一方で、国が産業力強化や雇用創出を目的に、創業推進策をとっていることから、日本政策金融公庫が、創業にかかる融資を積極的に行っています。このほかにも、自治体と信用保証協会及び銀行が連携する「制度融資」も用意されており、創業資金はこれら公的な融資制度を利用することが基本となります。以下、これらの中から日本政策金融公庫の二つの資金を紹介します。

(表3)女性、若者/シニア起業家支援資金

項   目 内           容
利用できる人 女性または35歳未満か55歳以上の方であって、新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方
資金の使い道 新たに事業を始めるため、または事業開始後に必要とする資金
融資限度額 7,200万円(うち運転資金4,800万円)
ご返済期間 設備資金 20年以内(うち据置期間2年以内)
運転資金 7年以内(うち据置期間2年以内)
利   率
  • ・〔特別利率A〕(土地取得資金は基準利率)
  • ・技術・ノウハウ等に新規性が見られる方〔特別利率B〕(土地取得資金は基準利率)
    地方創生推進交付金を活用した起業支援金の交付決定を受けて新たに事業を始める方〔特別利率B〕(土地取得資金は基準利率)
  • ・地方創生推進交付金を活用した起業支援金及び移住支援金の両方の交付決定を受けて新たに事業を始める方〔特別利率C〕(土地取得資金は基準利率)
担保・保証人 利用者の希望を聞き、応相談。

※ 利率については、条件に応じて幅がありますので、公庫のHPでご確認下さい。

(表4)新規開業資金

項   目 内           容
利用できる人
(注1)
「雇用の創出を伴う事業を始める方」、「現在お勤めの企業と同じ業種の事業を始める方」、「産業競争力強化法に定める認定特定創業支援等事業を受けて事業を始める方」又は「民間金融機関と公庫による協調融資を受けて事業を始める方」等の一定の要件に該当する方(注2)
なお、本資金の貸付金残高が1,000万円以内(今回の融資分も含みます。)の方については、本要件を満たすものとします。
資金の使い道 新たに事業を始めるため、又は事業開始後に必要とする資金
融資限度額 7,200万円(うち運転資金4,800万円)
ご返済期間 設備資金 20年以内
<うち据置期間2年以内>
運転資金 7年以内
<うち据置期間2年以内>
利率
※特利関係を含め、金利は公庫のホームページでご確認下さい。
【基準金利】

  • ・産業競争力強化法に規定される認定特定創業支援等事業を受けて新たに事業を始める方(注3)の運転資金及び設備資金(土地取得資金を除きます。)

【特利A】

  • ・地域創業促進支援事業又は潜在的創業者掘り起し事業の認定創業スクールによる支援を受けて新たに事業を始める方(注3)の運転資金及び設備資金(土地取得資金を除きます。)【特利A】
  • ・Uターン等により地方で新たに事業を始める方(注3)の運転資金及び設備資金(土地取得資金を除きます。)【特利A】
  • ・独立行政法人中小企業基盤整備機構が出資する投資事業有限責任組合から出資(転換社債、新株引受権付社債、新株予約権及び新株予約権付社債等を含む。)を受けた方(注3)の設備資金・運転資金【特利A】
  • ・技術・ノウハウ等に新規性が見られる方(注3)の運転資金及び設備資金(土地取得資金を除きます。)【特利B】
保証人・担保 利用者の希望を聞きながら応相談。

注1)次のいずれかの要件に該当することが必要です(雇用創出等の要件)。

  1. 現在お勤めの企業と同じ業種の事業を始める方で、次のいずれかに該当する方。
    1)現在お勤めの企業に継続して6年以上お勤めの方
    2)現在お勤めの企業と同じ業種に通算して6年以上お勤めの方
  2. 2.大学等で習得した技能等と密接に関連した職種に継続して2年以上お勤めの方で、その職種と密接に関連した業種の事業を始める方
  3. 3.技術やサービス等に工夫を加え多様なニーズに対応する事業を始める方
  4. 4.雇用の創出を伴う事業を始める方
  5. 5.産業競争力強化法に規定される認定特定創業支援等事業を受けて事業を始める方
  6. 6.地域創業促進支援事業又は潜在的創業者掘り起し事業の認定創業スクールによる支援を受けて事業を始める方
  7. 7.公庫が参加する地域の創業支援ネットワーク支援を受けて事業を始める方
  8. 8.民間金融機関と公庫による協調融資を受けて事業を始める方
  9. 9.前1~8までの要件に該当せず事業を始める方で事業開始後おおむね7年以内の方
  10. 10.1~9のいずれかを満たして事業を始めた方で事業開始後おおむね7年以内の方

注2)事業を始める方には、事業を始めた方で事業開始後おおむね7年以内の方も含みます。
(注3)一定の要件を満たす必要があります。詳しくは、公庫の支店窓口で問い合わせください。

5-2 助成金等公的支援

融資のほか、国や都道府県が、重点施策とする分野に予算を組んで補助金や助成金の交付制度を設けています。補助金は、「チャレンジする事業に対して交付するもの」、助成金は「結果に対して交付されるもの」と整理すると分かりやすいと思います。いずれも返済の必要のないお金ですので、自らの事業の可能性を広げると言う意味では有益な制度といえます。

この記事では、東京都の「若手・女性リーダー応援プログラム助成事業」について紹介します。なお、ここで紹介する内容は2019年度版であり、すでに期間の経過した情報も含まれていますのでご注意ください。

(表5)東京都若手・女性リーダー応援プログラム助成事業の概要

助成
対象者
都内商店街で開業予定であり、実店舗を持たない女性又は2020年3月31日時点で39歳以下の男性
助成内容 経費区分 助成率 助成限度額 助成対象期間
事業所整備費 店舗新装・改装工事費 3/4以内 400万円 交付決定日から開業日の翌々月(最長1年間)
設備・備品購入費
(税込10万円以上)
宣伝広告費
(上限150万円)
実務研修受講費 2/3以内 6万円
店舗賃借料
(新たに借りる場合)
3/4以内 1年目:15万円/月額
2年目:12万円/月額
交付決定日から2年間
助成金総額 730万円
申請時の主な注意点
  • ・開業予定店舗が決まっていること(契約前でも可)かつ、交付決定日以降の開業であること。
  • ・申請時点で、当該の商店街にある商店街組織の代表者等から、出店に関する承諾を受けていること(開業するまでにその商店街組織に加入する必要があります)。
  • ・東京都中小企業振興公社が定める申請対象業種に該当していること。
  • ・原則として、1)実務研修、2)経営知識習得に係る研修を過去3年以内に受講、又は助成対象期間内に受講すること。
交付決定までのスケジュール 申請エントリー提出 審査~交付決定
エントリー期間 提出期間 書類審査 面接審査 交付決定日
第1回 3/13(水)~
4/2(火)
4/8(月)~
4/11(木)
5/中旬~
下旬
6/中旬~
下旬
7/1
第2回 6/19(水)~
7/9(火)
7/16(火)~
7/19(金)
8/中旬~
下旬
9/中旬~
下旬
10/1
(予定)
第3回 9/18(水)~
10/8(火)
10/16(水)~
10/21(月)
11/中旬~
下旬
12/中旬~
下旬
1/1
(予定)
経営知識習得に係る研修例 主催者 研修
(公財)東京都中小企業振興公社 TOKYO起業塾、女性起業ゼミ、ほか
東京都内商工会議所、東京都商工会連合会 創業塾、創業ゼミナール、ほか
区市町村、金融機関(銀行・信用金庫等) 上記に類する創業・起業支援セミナー、特定創業支援事業等
交付対象業種 業種 具体例
卸売業・小売業 ・各種商品小売業、・織物衣類等小売業、・飲食料品小売業、・機械器具小売業、・その他の小売業
不動産業・物品賃貸業 ・不動産取引業、・不動産賃貸業、・不動産管理業、・物品賃貸業
学術研究・専門・技術サービス業 ・写真業
宿泊業・飲食サービス業 ・宿泊業、飲食店、・持ち帰り飲食サービス業、・配達飲食サービス業
生活関連サービス業・娯楽業 ・洗濯業、・理容業、・美容業、・浴場業
教育・学習支援業 ・その他の教育、学習支援業
医療・福祉 ・療術業
その他サービス業 ・機械等修理業

(公財)東京都中小企業振興公社作成のパンフレットを参考に作成

6 まとめ

まとめ

いかがでしたでしょうか。起業のアイデアの参考として挙げた実例は、いずれも若い世代の起業家の取り組みです。そして、起業の動機やビジネスの内容でほぼ共通していることは、「社会問題をビジネス化」していると言う点です。それぞれが置かれた立場で育んできた人生観が、一種の使命感をもって起業に至らしめているように感じられます。

女性は、日本経済最大の潜在力とも形容されます。女性の視点で捉えた新たなビジネスモデルの創出が期待されるところ、この記事をご参考いただき、大いなるチャレンジに踏み出すきっかけとなれば幸いです。