記録的な雨続きで出かける日数が少なかったと言われる2017年の夏。しかしそのような中でも多くの水難事故、山岳遭難が発生しました。

警察庁は9月、今夏における山岳遭難・水難の概況を発表。7月~8月の2ヶ月で発生した全国の水難は前年比103件減少となる511件、山岳遭難は前年比49件減少となる611件となりました。

このうち中学生以下の子供が巻き込まれた事故は、水難83件で全体の16%を占めました。

警察庁は、今年の特徴について発生件数・水難者数ともに最少であった平成26年に次いで少なかったとしつつも、子供の水難防止のため、子供一人では水遊び等をさせず、必ずライフジャケットを着用させ、保護者が必ず付き添うようにするなど注意を促しました。

本記事では、警察庁が発表した「山岳遭難および水難の概況データ」をもとに今年の特徴を詳細に見ていきます。

1 水難・山岳遭難件数ともに減少

不安定な大気の影響で、東京都心では連続降雨日数が21日となり、約40年ぶりの記録更新となりました。

その影響もあってか、川辺や海辺で遊ぶ子どもの数も少なく、水難発生件数・水難者数ともに過去2番目に少ない511件(647人)となりました。

一方、山岳遭難件数は最も多かった昨年より減少して611件、遭難者は705人でした。しかし、600件超えは3年連続で続いており、遭難者数も高止まりの状態が続いています。

以下、それぞれの発生件数を詳しく見ていきます。

水難 発生件数 511件
 うち中学生以下の子ども 83件
水難者数 647人
 うち中学生以下の子ども 130人
死者・行方不明者数 248人
 うち中学生以下の子ども 14人
山岳遭難 発生件数 611人
遭難者数 705人
死者・行方不明者数 68人

(警察庁公表資料より作成)

2 過去2番目に少なかった水難者

水難者647人を年齢層別にみると、「中学生以下の子ども」は130人(中学生23人、小学生77人、未就学児童30人)で、全体の20.1%を占めました。
「高校生およびこれに相当する年齢の者」は34人、「高校卒業に相当する年齢以上65歳未満の者」は338人、「65歳以上の者」は142人となりました。

・ 年齢層別水難者数の内訳

年齢層 水難者数 構成比
子ども 未就学児童 30人 4.6%
小学生 77人 11.9%
中学生 23人 3.6%
130人 20.1%
高校生およびこれに相当する年齢の者 34人 5.3%
高校卒業に相当する年齢以上65歳未満の者 338人 52.2%
65歳以上の者 142人 21.9%
合計 647

(警察庁公表資料より作成)

・ 過去5年間の水難事故発生件数の推移

  発生件数 水難者数 死者数・行方不明者 うち子ども
2013年 573 664 282 25
2014年 475 576 239 28
2015年 577 673 267 29
2016年 614 736 304 19
2017年 511 647 248 14

また、水難発生件数を都道府県別にみると、神奈川県・新潟県が最も多い24件、次いで茨城・千葉(22件)、静岡(21件)、福岡・長崎(20件)、兵庫(19件)、北海道・福井・沖縄(18件)、鹿児島(17件)、岐阜(16件)とつづきました。

一方、最も少なかったのは青森・群馬で1件、次いで栃木・山梨(2件)、奈良(3件)、福島・長野・佐賀(4件)、岩手・秋田・山形・愛媛・大分(5件)となりました。

 

2-1 子どもは「海」よりも「河川」に注意

水難者647人を発生した場所別にみると、「海」は377人(58.3%)、河川は192人(29.7%)となります。また、死者・行方不明者248人については半数以上が「海」(145人)となっています。

次に「中学生以下の子ども」の死者・行方不明者を発生場所別にみると、半数が「河川」(7人)で、「海」は4人となります。

 

2-2 水難事故を未然に防ぐには

警察庁は水難を防ぐ方法として、「危険箇所の把握」「的確な状況判断」「ライフジャケットの活用」「遊泳時の安全確保」「保護者等の付き添い」の5つを挙げました。

危険箇所の把握 転落等のおそれがある場所、水(海)藻が繁茂している場所、水温の変化や水流の激しい場所、深みのある場所等の危険箇所を事前に把握して近づかない、子どもを近づけさせないこと
的確な状況判断 台風や豪雨、落雷などの悪天候時は、河川の増水など水難に遭うおそれが高いため、釣りや水泳を行わない。また、体調が万全でないとき、飲酒したときなども、海・河川に近づかないこと
ライフジャケットの活用 水辺で釣りや遊泳をするときは、必ず、サイズが正しく合うライフジャケットを着用すること
遊泳時の安全確保 危険区域には絶対入らない。遊泳区域以外で遊泳しない。遊泳上危険な行為はしないこと
保護者等の付き添い 子供の水難防止のため、子供一人では水遊び等をさせず、幼児や泳げない学童等には、必ずライフジャケットを着用させ、その者を保護する責任のある者が付き添うなどして、目を離さないようにすること

(警察庁公表資料より作成)

 

・死者および行方不明者の場所別構成比

3 高止まり状態にある山岳遭難者数

今年3月、栃木県那須町のスキー場で登山訓練を受けていた高校生および教師ら48人が雪崩に巻き込まれ、生徒7人、教師1人が死亡するという痛ましい事故が発生したのは記憶に新しいのではないでしょうか。

高校生らはいずれも山岳部所属で登山講習としてラッセル訓練(深い雪をかき分けながら進むもの)を受けている途中でした。県教育委員会は第三者検証委員会を発足させ、現在もなお原因究明に当たっています。

今年7月~8月に発生した山岳遭難件数は611件、遭難者数705人で、うち死者・行方不明者は68人でした。

  2015年 2016年 2017年
発生件数 647件 660件 611件
遭難者数 死者・行方不明者 65人 48人 48人
 死者 61人 45人 56人
 行方不明者 4人 3人 12人
負傷者 342人 357人 330人
無事救出者 375人 348人 307人
 計 782人 753人 705人

(警察庁公表資料より作成)

・態様別の山岳遭難者数

3-1 高齢者が半数以上を占める

遭難者705人を年齢層別に見ると、「60~69歳」が全体の27.8%を占めて最も多くなりました。次いで「70~79歳」21.4%、「50~59歳」17.0%、「40~49歳」10.9%、「20~29歳」7.5%、「30~39歳」6.8%、「20歳未満」6.4%、「80~89歳」2.0%、「90歳以上」0.1%と続きました。

・ 年齢層別遭難者数

  2017年
人数 構成比
20歳未満 45 6.4%
20~29歳 53 7.5%
30~39歳 48 6.8%
40~49歳 77 10.9%
50~59歳 120 17.0%
60~69歳 196 27.8%
70~79歳 151 21.4%
80~89歳 14 2.0%
90歳以上 1 0.1%

(警察庁公表資料より作成)

遭難者は40歳以上が559人(全体の79.3%)、60歳以上が362人(51.3%)となり、高齢者が過半数を占めました。

また、死者・行方不明者68人のうち、40歳以上が63人(92.6%)、60歳以上では50人(73.5%)となることも分かりました。

都道府県別に、発生件数を見ると、長野県が101件で最も多くなります。次いで、静岡(69件)、富山(53件)、山梨(48件)、北海道(37件)、群馬(27件)、岐阜(26件)、神奈川県(21件)、東京(18件)、新潟(17件)と続きました。

一方、最も少なかったのは島根、岡山、広島、山口、佐賀、長崎、熊本、沖縄で0件、次いで和歌山・香川(1件)、宮城・秋田・茨城・愛知(2件)、千葉・福井・徳島(3件)となりました。

 

3-2 山岳遭難を未然に防ぐためには

警察庁は、山岳遭難を防ぐための方法として、「登山計画の作成」「登山計画書の提出」「道迷い防止」「滑落・転落防止」「的確な状況判断」の5つを挙げました。

登山計画の作成 気象条件、体力、体調などを考慮し、自身の登山経験等に見合った山を選択すること。登山コース、日程、十分な装備、食料等に配意し、余裕のある安全な登山計画を立てる。また、計画を立てる際、滑って落ちやすい場所など危険箇所を事前に把握する。単独登山はできるだけ避け、複数人による登山に努めること
登山計画書の提出 登山計画書を作成し、家庭や職場、登山口の登山届ポストなどに提出しておくこと
道迷い防止 地図、コンパス等を活用して、常に自分の位置を確認するよう心掛けること。気を緩めることなく常に慎重な行動を心掛けること
滑落・転落防止 滑りにくい登山靴、ストック等の装備を使用すること
的確な状況判断 視界不良・体調不良時等には、道迷い、滑落等のおそれがあることから、状況を的確に判断して早めに登山を中止するよう努めること

(警察庁公表資料より作成)