最近、メディアや雑誌、Webサイトなどで、「プチ起業」という言葉を聞くことが多くなりました。起業というと、自分で大きなお金を用意したり、外部から資金調達をしたり、独自の技術を持って、新しい分野を開拓していくというイメージを持つ方も多いでしょう。しかし、プチ起業は、「自分が好きなこと」を、「無理のない範囲」で、「小資本」から広げていくという意味合いで、通常の起業に比べ物理的・心理的なハードルが低いと言えます。そこで今回は女性も注目するプチ起業の方法や、起業および会社設立で利用できる各種支援制度について詳しくご紹介します。興味のある方は参考にしてみてください。

1 プチ起業が広まっている背景

2019年6月、厚生労働省は、「年金だけでは老後の生活資金は足らず、最低2,000万円は必要」という旨の報告書を出しました。(その後2019年9月中旬、取り下げ)この報告書自体は取り下げられたものの、「老後のために2,000万円、もしくはそれ以上の金額を貯めておかないといけない!」という危機感を、あらゆる人たちが持ったでしょう。

ただ、配偶者の会社勤めでは収入を上げるには限界がある、転職するのもリスクを伴うという点があります。そこで「プチ起業」を行い、本職があれば終業後か週末に、主婦(主夫)であれば子育ての合間などに行って、生活や貯蓄のプラスにしたり、本業や専業主婦(主夫)のつながりとは違った、ビジネスを通した関係構築、また、純粋に社会や誰かの役に立ちたいという願いをかなえる手段として、プチ起業が注目されています

このほか、プチ起業が注目される要因として以下が挙げられます。

  1. 年金2,000万円問題に始まる、老後資金確保の必要性
  2. 妊娠・出産により退職をした女性(男性)のセカンドキャリア
  3. 「好きを仕事に」の一般化
  4. 専業主婦(主夫)層の子育てが落ち着き、もう一度社会との接点、仕事を通して収入を得たいと感じる人が増えた
  5. 近年の雇用の流動化・大手企業のリストラなどにより、配偶者(夫か妻)が職を失っても、自分が稼げるようになることによりリスク分散をしておきたいと危機感を感じた

②妊娠・出産・定年・介護など様々な事情により退職をした女性(男性)のセカンドキャリアとして

当初は妊娠・出産をしたあとも働く予定であったとしても、家事負担、配偶者の転勤、育児、子育て、介護などでこれまでのキャリアを断念せざるをえない人や、定年、選択定年で退職した人が、社会には多くいます。
諸事情によって退職した人、特に子育てが落ち着いた人などは、どうしても社会との接点が限定されます。あわせて、収入があるか否かということは、当事者の自尊心にも大きく関わります。

再就職でどこかでパートをするというのは気が進まない人も多いでしょうが、自分が好きな分野、得意な分野を活かして行うプチ起業であれば、前向きに仕事をしながら、お金を稼いでいきやすいでしょう。

③「好きを仕事に」の一般化

以前は、辛くてしんどいことをこなしてこその仕事だ、という固定観念を持つ人も少なくありませんでした。

しかし、近年のブラック企業問題、やりがい搾取、過労による様々な事案などで、「辛くてしんどいを仕事に」ではなく、「好きを仕事に」することに対し、以前より社会が許容的になってきた気配があります。

働き方が多様になる中で、「好きなこと、得意なこと」で仕事をする、起業をするということに対しても、周囲の理解が得やすくなってきていると言えます。

④専業主婦(主夫)層の子育てが落ち着き、もう一度社会との接点、仕事を通して収入を得たいと感じた

専業主婦、専業主夫の場合、子育ての時期はとても大変で、息つく暇がない状態です。いっときも目が離せません。ですが、ある程度子どもが成長すると、自由な時間ができるようになる人も出てきます。

専業主婦・専業主夫は、どうしてもママ友、パパ友など社会的接点が限られ、また子どもの事もあるためいろいろ気を遣ったりする必要があります。

プチ起業でママ友、パパ友以外の接点を作れば、いろいろな学びや、多様な価値観など、これまでとは違った人間関係の中に身を置くことができます。

このような、ビジネスを通した他者との新しい接点が作れることも、プチ起業の魅力でしょう。

⑤近年の雇用の流動化・大手企業のリストラなどにより、配偶者(夫か妻)が職を失っても、自分が稼げるようになることによりリスク分散をしておきたい

これまでは、男性が働き、一家の家計を支えていくというケースが一般的でした。しかし現在、大手企業でもリストラや早期退職が増加したり、終身雇用の概念が崩れたり、外資や一部日本国内の会社でも、終身雇用を前提とせず、役目を果たせない場合は職場を去らなければならないというケースが増えました。

そうして一家の大黒柱が失職し、配偶者に収入がないと、一気に家計が苦しくなります。近年は、社会の前線で女性が働き、男性が家事を支えるというケースも少しずつ出てきましたが、この場合でも、もし相手に何かがあれば、収入は一気に途絶えます。

そのため、配偶者の側も仕事を持つ、できれば夫か妻が転勤しても、自分も一緒について行きつつ、ビジネスも続け、収入を得ていけるということに対するニーズも増えてきました。

 

1-1 プチ起業の種類

プチ企業と一口にいっても、具体的にはどのような事で起業するケースが多いのでしょうか。プチ起業の種類を分けると、大きく4つに分類できます。

①従来の延長型プチ起業

これまでしてきた仕事を、フリーランス的に請け負う

②好きを仕事にするプチ起業

好きなジャンル、ネイルアートやアクセサリー、小物作り、料理教室、飲食店や食品販売などを行う

③ネットを通してサービス・物販を提供するプチ起業

Webサイト構築Webライティング、アフィリエイト、カウンセリング、占い、デザイン、イラスト、せどりなど、ネットなどを通してサービス・物を提供する

④起業支援などをするプチ起業

「好きを仕事に」を旗印に、なにかキラキラした印象を外部に与え、セミナー、起業のコンサルティングなどを行う

大きく分けると上記の4種類に分類できるかと思います。

 

1-2 プチ起業をするなら個人事業主? 会社設立?

プチ起業というと、会社設立を行わなければいけないというイメージを持つ人もいるかもしれませんが、小さく行う範囲であれば、税務署に「開業届」を提出し、毎年の税務申告をきちんと行えば、問題はありません。

ただし、個人より法人(会社)の方が外部の信頼度が高い傾向があるため、ある程度事業として回るようになったら、会社設立も検討した方がよいでしょう。

 

1-3 プチ起業の際に重要な許認可、開業届、納税など各種手続き

プチ起業は気軽にできるイメージですが、法律や許認可、前述の開業届・納税など、個人事業主、法人としての決まりは守る必要があります。特に気を付けたいのが、官公庁への許認可です。

例えば、飲食店で食事を提供する場合、保健所への営業許可申請が必要ですし、ネットを通して中古品を販売する場合、古物商の免許を警察署で得る必要があります。

このように、官公庁の許認可が必要なビジネスを、許認可を得ることなく勝手に行ってしまうと、ペナルティを受けるケースがあります。

また、税務申告についても、開業届を出している場合は、収入の有無にかかわらず申告が必要です。年間に数万円から数十万円という雑所得として20万円以上の所得があれば税務署への確定申告が必要ですし、市・県民税においては20万円以下でも市町村役場への申告が必要となります。

 

1-4 「小さく始めて着実に広げる」が大切

プチ起業は、「小さく始めて着実に広げる」が大切です。通常のお仕事がある方であれば、休日を使った「週末起業」という形で始めてみるのもよいでしょう。

また、ネイルサロンであれば、最初から物件を借りるのではなく、友人・知人のネイルサロンや美容院、その他サロンに間借りさせてもらい初期投資を抑える、ハンドメイドアクセサリーであればメルカリ・ヤフオクで出品してみるなどの形で、借り入れをできるだけ行わず、費用もかけず小さく始めてみるのが重要です。

そこで固定客なり、売上などの手応えがつかめたら、徐々に時間を増やす、メニューを増やす、バリエーションを増やすなど拡大していくのが望ましいでしょう。

また、好きなことでなくても、「自分が得意、特に意識はしていないけど他人から褒められる技能」などがあれば、そのような部分をアピールしてみるのもよいでしょう。

また、プチ起業で商品・サービスを作る際は「価格表」をできるだけつくることをおすすめします。

価格のついていないサービスは、無料になってしまう可能性が高いです。自分ができることはできるだけ細かく明確化し、値段をつけるのが望ましいといえます。

物品、サービスを提供し、お金を受け取る(そして黒字分から必要金額を納税する)までがビジネスです。

きちんと顧客から対価を受け取ることは、プチ起業を継続的に行う上で必要です。日本人は人からお金を受け取るのが苦手な傾向がありますが、きちんと提供した対価をお金で受け取る、ということになれるとともに、値引きはできるだけ避けることをおすすめします。

特に、友人・知人だとお金をもらうことを遠慮しがちですが、ビジネスとして成り立たせたいという気持ちがあれば、お金をきちんといただくようにしたほうがいいでしょう。

どうしてもいただけないという場合は、代わりにお客様の声・感想を寄せてもらうなど、モニターとして関わってもらって、製品・サービスの改良や事業アピールの材料として、お客様の声を活用できるよう、何かの対価を得るようにすることを心がけることをおすすめします。

2 プチ起業で会社を設立する方法

プチ起業で会社を設立する方法というテーマではありますが、最初から会社を設立した場合が良いケースと、個人事業として小さく始め、手応えを感じてから法人化した方がいいケースがあります。

 

2-1 最初から会社を作るかはよく考えてから

プチ起業で最初から会社を設立したほうが良いケースは、BtoB、つまり会社相手にサービスを供給する場合で、取引先から法人化を求められた場合や、プチ起業の準備の事前段階から事業の拡大が見込めそうという場合です。

逆に、消費者向けの取引や、これから事業を始めてみる段階で、明確な売上などはわからないという場合は、個人事業として最初はスタートするほうが安全でしょう。

 

2-2 プチ起業であっても、専門家の力を借りた方がよい

プチ起業では、法人化する場合であっても、個人事業主として始める場合であっても、税理士や各種専門家のアドバイスを受けることが重要になります。

なぜなら、個人事業主であれば、これから行う事業の許認可の問題、事業が成長して法人化を検討する段階になれば、節税や法人化時のランニングコストなども踏まえ、どのタイミングで、資本金や役員などどのようにして法人化していくかということも踏まえながら、法人化を検討する必要性が出てくるからです。

もちろん最初から法人化する場合であっても、許認可、事業目的、資本金の問題など検討する事項は多岐にわたります。そのため、会社設立の前段階から会社設立の専門家・税理士などに相談することは欠かせません。

 

2-3 会社を作る場合はどれくらいお金がかかるのか?

会社を設立する場合、どれくらいお金がかかるのでしょうか。

必要なお金として、会社設立自体の費用と、資本金として用意する費用の2種類がありますが、まず会社設立の費用について表にしてみました。

法人形態 株式会社 合同会社
登録免許税 150,000円 60,000円
定款認証費用(公証人役場) 約52,000円 0円(定款認証不要)
収入印紙代 40,000円(電子定款なら0円) 40,000円(電子定款であれば0円だが、電子定款のための署名は必要。)万一税務調査時に、電子定款としての電子署名がない場合、過怠金として3倍の12万円を納付することになるケースもある
専門家費用 約60,000円~100,000円。0円の事業者もあるが、付随サービスの契約、顧問契約が必要な場合がほとんど。)専門家でないと電子定款作成は手間がかかるので、専門家に依頼し電子定款認証費用が0になることを考えると実質負担は上記より4万円安くなる 約40,000円~100,000円。株式会社同様0円のケースもあるが、条件がつくケースがほとんど。また、電子定款認証の手続きも専門家で行ってくれるため、株式会社同様実質負担金は減る。また、合同会社の場合、公証人役場での定款認証の手続きがないため、株式会社より設立費用が安くなる傾向がある
その他登記事項証明書・法人の印鑑作成費など 約15,000円~ 約15,000円~
専門家費用を株式会社80,000円、合同会社60,000円、雑費15,000円、電子定款認証を行う前提の設立費用 約247,000円~ 約175,000円~

このように、費用面では様々なケースが想定されるものの、株式会社より合同会社の方が安価となります。

また、よくある誤解として、合同会社は収入印紙が不要、というイメージがありますが、これは合同会社の定款データに、専門家などの電子署名が入っている必要があります。

ですので、合同会社の定款に対しWordなど電子ファイルでつくったものの、電子署名を行わず、印紙税40,000円に加え過怠金80,000円を収めることになってしまう、というおそれもあります。

一部業者で、電子署名だけを行ってくれるサービスもあるにはありますが、極力専門家に依頼して、電子署名だけでなく、会社の制度設計や、そもそも株式会社・合同会社、どちらが自身のプチ起業に向いているのかについて相談することをおすすめします。

 

2-4 プチ起業の場合、株式会社と合同会社、どちらがいい?

プチ企業の場合、基本的には自分一人で始めるケースが多いかとも思います。もちろんお友達やビジネスパートナーと一緒に始めるという方もおられるかと思います。

株式会社、合同会社のメリット・デメリットは表裏一体であるケースが多いので、一つの表にまとめました。

株式会社、合同会社それぞれのメリット・デメリット

株式会社 合同会社
会社の拡大がしやすく、外部からの出資が得やすい 外部からの出資が受けにくく、外部出資を受ける場合は株式会社に改組する必要がある
知名度が高く、取引相手に違和感を与えない 知名度が一般の人には、いまだに意外と低い
設立費用が合同会社より高い 株式会社より安く、会社設立ができる
2年~10年の指定期間(指定のない場合10年)で、役員の届出を法務局に行う必要がある 役員の変更がない限り、10年経過しても役員の届出を法務局に行う必要がない
規模を拡大したい起業に向く 一人、少人数などで地道に始めたい起業に向く
実際に働くことがない社員、法人でも出資者になれる 実際に働く人しか出資者(合同会社の場合は、株式会社で言うところの株主を「社員」という)になれない
会社の分割・合併など法定公告の義務に加え、決算の広告義務があるため、毎年の決算を官報かWebに掲載する必要がある 会社の分割・合併など法定公告の義務がある事項は官報などへの掲載義務があるが、毎年の決算については官報・Webに掲載する必要はない

上記のとおり、株式会社・合同会社それぞれの特徴的な部分をピックアップしました。

結論としては、「成長させたいなら株式会社、地道にやっていきたい、取引先の養成や売上が消費税の免税点の1,000万円を超えるなどし、法人化・節税の必要が出てきて仕方なく会社組織に、という形であれば合同会社というケースがちょうどよいのではないかと思います。

3 プチ起業を支援する制度

近年、特に女性、シングルマザーや出産、子育てを経験した人向けの起業支援制度が増えてきました。子供を育てていると、フルタイムで働くのは難しいのが実情です。

あわせて、人不足に悩む地方が、プチ起業も含めた女性・シングルマザー向けの起業支援プログラムも打ち出し始めました。

この章では、各種自治体・団体などが定めている支援制度をメインに紹介します。

 

3-1 自治体・日本政策金融公庫なども女性起業・プチ起業を支援

自治体をはじめとする公的団体や、日本政策金融公庫などの政府系金融機関、その他の金融機関など、多くの団体が、プチ起業、特に女性のプチ起業に対して、応援する姿勢をとっています。

①日本政策金融公庫のプチ起業を行う女性向け融資制度

例えば、日本政策金融公庫には、「女性、若者/シニア起業家支援資金」という制度があり、女性または35歳未満か55歳以上の方であって、新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内であれば、安価な金利で、条件も比較的優遇されたもので融資を受けることができます。

また、この制度(他の公庫の融資の多くもですが)の隠れたメリットとして、「据置期間が2年以内の間隔で設定できる」という点もあります。

据置期間というのは、この期間は「元本は払わなくてもいいので、利子だけ支払ってくださいね」という期間です。もちろん、元本が減らない分は、総支払額としては増えます。

ただ、創業当初の資金繰りが厳しい中で、売上・利益を出しつつ、元本と利息を払い続けるのは、大きなプレッシャーになることも考えられます。そういう負担を無くす意味でも、据置制度の存在は知っておくとよいでしょう。

②日本政策金融公庫のソーシャルビジネス支援資金などの、社会的ビジネスに対する融資制度

日本政策金融公庫のメニューとして、表立ってプチ起業向けに用意しているものではないですが、プチ起業を考える人の中には、「これまで専業主婦(主夫)、子育て、定年までの仕事などを通して、社会的な問題を強く体感された方も少なくないかと思います。保育・介護・その他自治体などの援助では行き届かない部分に対し、日本政策金融公庫のソーシャルビジネスビジネス支援資金では、「社会的意義のある活動に対して、特別な金利で融資をしますよ」という制度です。

この制度でよくある誤解として、

  • SNS、つまりソーシャルネットワークを活用した起業を応援する制度である
  • ソーシャルビジネス支援資金と書いてあるので、助成金・補助金だと思ってしまう

という人も少なくありません。

しかし、両方間違いであり、「社会課題の解決に対する起業に対し、安価な金利で融資を行うのが、「ソーシャルビジネス支援資金」です。ただでもらえるわけではありません。

その点、誤解のないように注意してください。

それから、プチ起業であっても店舗などを構えて、お客さんと直に接したいという人もいるでしょう。

東京都では、「若手・女性リーダー応援プログラム助成事業」として、商店街の店舗などを活用して、改装など諸費用の支援金を助成するという試みもあります。
また、政府(経済産業省)も、わたしの起業応援netという形で、起業のいろはから、ステップアップの方法、女性起業家支援コンテストなど、女性起業、プチ起業を応援するための情報提供、地域ごとのサポートメニューの提供を行っています。

 

3-2 利用できる制度は、できるだけ利用する

このように、プチ起業に対する金銭的、技術的なバックアップを行う仕組みも様々な自治体・団体・法人が支援を始めています。

ですが、制度が充実している反面、国や自治体、良い支援事業に限って、アピールに力を入れておらず、なかなか支援制度を提供する必要がある人のところまで情報が行き届かない・・というのも一つの現場でしょう。

また、なかなか個人だけでは、プチ起業を支援する制度の存在に気が付きにくいものです。そこで、税理士・資金調達の専門家など、起業支援に通じたプロフェッショナルの支援を受けるのも一つの策です。

当然費用はかかりますが、知らないで1円もメリットが受けられないより、専門家報酬を支払っても、数十万から数百万の助成が受けられたり、融資を確実にうけられるようにした方が望ましいと言えます。

 

3-3 シングルマザー・シングルファーザー向けのプチ起業支援制度もある

現在は選考が終了しておりますが、企業・団体と静岡市が連携して、シングルマザー(ファーザー)がWeb構築、ライティングなどの分野で起業できるようにする試みも行われておりました。下記の企画の場合、選考はありますが、

“合格者3名の方には、2年間の起業資金とお給料としておひとり1000万円ずつを支給”
という形と、日本シングルマザー起業支援協会及び、2000年というインターネット普及初期より運営されている、デジサーチアンドアドバイタイジングという会社が全面的にバックアップしています。

このような情報取得も含め、資金調達に強い専門家と繋がりをつくっておくと、情報が入りやすくなります。

4  プチ起業の注意点

プチ起業には、小さく自分のペースで始められるというメリットがあります。

しかし、プチ起業であっても、起業・自営業であることには代わりがありませんので、様々な罠が待ち受けていることもありえます。

プチ起業で収入をプラスにしようと思ったが、逆にマイナスになったり、破産・倒産などの結果になってしまっては、プチ起業をしなければよかった・・と思いがちになります。

この章では、そんな落とし穴も含め、プチ企業の注意点を解説します。

 

4-1 キラキラとした方向ではなく、地に足のついた仕事をしていく

よく、インスタグラムやLine、Twitterなどで、「華やかな生活、儲かっていそうな生活」を誇示したり、各種ホームページなどで、「私はこの方法で人生逆転をしました!」など、非常に派手なホームページを見かけることがあります。

このパターンの多くは、セミナーをすることで「自分のようにセミナーやマルチまがいのことをすればあなたもお金を得ることができますよ」と標榜して、セミナーではマインド論を語るだけのセミナー事業者であったり、情報商材(情報教材)や起業塾などの形で、数千~数百万(最初は数千~数万円の商材を売り、購入した相手に数十万~数百万のセミナーを様々な方法で勧誘する)など行うケースです。消費生活センターにも苦情が多数寄せられるなど、社会問題となっています。

また、インスタグラムなどで華やかな生活をしている姿を見ると一見憧れそうになりますが、「そのお金はどこから出てきているのか?」を冷静に考えた方がよいでしょう。

まっとうな物販やITビジネス、インフルエンサービジネスなどで利益を出している人に見えても、「私と同じように儲けたかったらLine登録してね」など、Line、メールマガジン、セミナーに勧誘してくる文言があったら要注意です。

その人はお金を儲ける方法、起業法を売ることで利益を得るビジネスをしている人かもしれません。もしくは、いわゆるネットワークビジネス・マルチまがい商法をしている人かもしれません。また、バックグラウンドに誰かが存在するというケースも想定されます。

いずれにせよ、「簡単に儲かる方法」を人に教えることはありません。

なぜなら、簡単に儲かる方法(市場のひずみから、たまに発生することも想定されます)を人に教えれば、その方法は多くの人が行うことによって使えなくなってしまう可能性が高いからです。

また、儲けた方法を大体的に表示し、「市場が飽和することがない」と喧伝する業者もいますが、普通の経営者であれば、自社展開するなり、静かに市場を獲得していくことはあっても、派手に宣伝して、利用者から数万~数百万のお金を取ることはないでしょう。

セミナー・塾・書籍のように外部に出すようになったら、「本業で儲からなくなったけれども、過去の売れた実績はあるので、枯れた方法を売って最後の一稼ぎをしよう」というサインと考えるのが安全です。プチ起業を行う人であれば、そのような「簡単に儲かる方法」には飛びつかないことをおすすめします。

 

4-2 ネットワークビジネスや相手の商品などの勧誘に注意

前述の情報商材の話とも絡みますが、起業家・自営業になると、ネットワークビジネス・マルチまがい商法、保険の勧誘、その他自社商品やコンサルティング、投資話の勧誘などを受けることが増えます。

しかし、美味しい話が向こうからやってくることほぼないと考えておいたほうがよいでしょう。ポーカーで、「周りを見渡してカモがいないのなら誰がカモなのか明白である」という言葉がありますが、プチ起業に飛び込んだ人はまさにそのカモにされがちです。

相手が「あなたのためを思って」勧めてくるものであっても、実際は「自分の利益のため」というケースは山ほどあります。

ともかく、不審・違和感のある、うまい話しかしないなどの勧誘については、毅然とNOを突きつけ、その人との関係を断つなど、合理的な態度を取ったほうがよいでしょう。「また考えておく・・」など、相手に期待をもたせる、次に期待をもたせるような表現だと、相手側も「押せばいける」とより勧誘をしつこくなりますので注意しましょう。

 

4-3 コスト意識を持ち、プチ起業だからといって遊びの感覚ではいけない

プチ起業は、自分のできることで、小さく始め、雪だるまを転がすように徐々に大きくしていけるところがメリットと言えます。

一方で、限られた時間や限られたお金、リソースで事業に取り組む必要があるため、「この行動は成果につながるか?」をシビアに判断する必要があります。

例えば、プチ起業仲間同士の交流会があったとして、自分が何を得られたか?を考えてみる。

やる気などふわふわしたものではなく、「販路開拓」「アライアンス」「うまく行っている人から秘訣を学ぶ」など、なにか時間やお金を費やしたら、その分以上に、ビジネスに繋がる何かをつかめたか。この点は非常に重要と言えます。

一部のビジネス界隈では、「自己投資をせよ!」と声高に叫びますが、その自己投資は本当にリターンにつながっているのか、自己投資をしたつもりが、相手方の養分になってしまっているだけではないかなど、自己投資も考えて行う必要があります。

本や資料の購入も一緒で、買って終わりではなく、事業に応用して、始めて本当の意味での自己投資となります。

また、パソコンを使う業態の場合は、PCとスマホ、机・椅子などの仕事環境、日当たりにはこだわることをおすすめします。

特にPCについては、格安のものではなく、ハイスペックのノートPCを利用し、格安パソコンにありがちな、数秒のタイムラグの発生をなくす(数秒の積み重ねが大きな無駄につながります)など配慮したほうがよいでしょう。

能力としては、Intel Core i5以上、256GB以上のSSD搭載、8GB~16GBのメモリ(グラフィックデザインであれば、店員と相談して、さらにハイスペックのパソコンを購入しましょう)など、性能がよく、キーボードが打ちやすいものをおすすめします。

また、常に触れる道具ですので、できるだけ自分で実物を見て、デザインが気に入るものを選んだほうが、より愛着が湧いて良いと思います。

また、マウスについても、高性能のワイヤレスマウスを利用したり、腱鞘炎になりやすい人にはトラックボールという、大きなボールをコロコロ転がす形のものが、腕に負担がかかりにくくおすすめです。あわせて、机・椅子など、エルゴノミクス(人間工学)に配慮した環境整備も重要です。

机の高さが自分の身長にあっていることも大切ですが、それ以上に大事なのが椅子です。椅子については、腰痛を防ぐためにも、しっかりしたワーキングチェアを購入することをおすすめします。

こちらも実際に座って確かめるのが一番ですが、PCを使う作業の場合は特に目・肩・腰を使うのでご注意ください。

もちろん、このような環境への投資であっても、払った以上のもとをとるという気持ちはとても大事です。

また、時短家電への投資も重要です。ドラム式全自動洗濯機・食洗機・ロボット掃除機・調理家電などを活用し、その分で浮いた時間とエネルギーを仕事に回すことをおすすめします。

あわせて、上記の家電は利用頻度が高いため、故障することも多いため、長期保証に入ることもあわせておすすめします。

いずれにせよ、自己投資なり、なにかにお金をかけるときは、「それは本当に自分のビジネスにとって重要か」を、改めてじっくりと考えるようにすることをおすすめします。

また、お金もコストの一つですが、時間も重要なコストの一つです。前述の調理家電の活用や、無駄なこと、例えばテレビをダラダラ見たりするなどは控え、時間の配分をできるだけ仕事に傾斜できるように、計画をするのが望ましいと言えます。

一つのコツとして、「ホワイトボードに今日の目標を書く」というのはおすすめです。そうすると、自分自身でもこのタスクを処理するという自覚が強く持てますし、家族がいる場合は、家族の側からもお母さん(お父さん)はこんなことをしているのだということがひと目でわかります。

また、子供さんがおられる場合、時に子供は思ったことをそのままいうこともありますので、「なんでお母さん(お父さん)働いていないの?」と言われることもあるかもしれません。

しかし、ホワイトボードに今日行っている仕事を書くことにより、子供も、親がどういう仕事をしているのかを理解してくれやすくなります。

このように、家族でアナログに情報共有ができるホワイトボード活用はおすすめです。

 

4-4 プチ起業のゴールを決める

何事にも、始まりがあれば終わりがあります。プチ起業であれば、以下の4つに大別できます

  1. ライフワークとして生涯続ける
  2. ある程度見込みがたてば、会社組織・ネットワークをつくり、自分はリタイヤする
  3. ある程度成長させて、事業売却を行う
  4. 今後の見込みが望めないので、ピボット(方向転換)や、事業をやめるなどする

それでは、各ケースについてより深く分析してみましょう。

①ライフワークとして生涯続ける

多くの方が、プチ起業の起業当初は、ライフワークとして続けることを想定していると思います。

しかし、最初の数年はいいですが、5年、10年と続けると、飽きが来たり、惰性で続ける様になってしまうケースも考えられます。

事業が、「長期的に、情熱を傾けて取り組めるものか」は、しっかりと考えたほうがよい点と言えましょう。

②ある程度見込みがたてば、会社組織・ネットワークをつくり、自分はリタイヤする

例えば、Webクリエーターの組織、アクセサリー作りの組織、ネイルアーティストの組織など、事業の法人化や業務委託などを通し、自分やパートナーが教え、実務部分は生徒たちが行うという形で、「自分が最終的には抜けても大丈夫な仕組みを作っていく」ことを考えることは大事です。

事業には、「ゴーイング・コンサーン」という、継続を前提とする概念があります。

プチ起業をした本人になにかの事情があって、一時期事業に関わらなくなったとしても、問題なく事業が回っていくというのが一番の理想といえます。

③ある程度成長させて、事業売却を行う

近年、事業のM&A、つまり、吸収合併、事業売却などが多く行われています。プチ企業からスタートしたとしても、作った商品がブランド化したり、優秀な従業員、パートナーが育つなど、事業に魅力が出てくれば、資金力のある企業から、「事業を売りませんか」と打診が来るケースが想定されます。

また、事業を売却する場合でも、完全に事業から抜けるケースと、株式だけを売り、事業は続けるという2つのパターンがあります。

事業を継続する場合は、買収先企業のオフィスにそのまま入り込むという方法もありますし、株式だけ売却し、当面は事業自体、独立した状態で行うという方法もあります。この点は、それぞれの好みで考えていけばよいでしょう。

なお、合同会社の場合は、経営者と社員(株式会社で言う株式)が同一である必要あるため、もし会社が合同会社であれば、株式会社に改組する必要が出てきます。

事業売却も一つの選択肢として考えている場合は、最初から株式会社を設立するのが望ましいと言えます。

④今後の見込みが望めないので、ピボット(方向転換)や、事業をやめるなどする

プチ起業であっても、想定通りには行かないケースもあります。

その場合は、事業の方向や製品そのもの、売り方などを転換する、いわゆる「ピボット」を行うか、事業に対する情熱、エネルギーが保ちにくい場合は廃業なども視野に入れる必要があります。

この場合、事業に大きな資金、お金を投資してからだとなかなか事業転換、廃業の決断が難しくなります。スタートする時点から小さくテストマーケティングを繰り返す、ある程度時間が経ってからの方針転換は、税理士・商工会議所など専門家のアドバイスを受けるなど、いかにスムースに方向転換したり、事業を止めるかなどを相談しながらすすめることが望ましいといえます。

 

4-5 人任せではなく、自分で業務分野を決める

プチ起業で大切なのは、「自分がやりたい」「自分はこのような不便さを感じたから、こういうところを解決したい」という、「自分がやりたい、やらなければならない」という動機があるかどうかです。

名称こそプチ起業ですが、行っていることは事業を起こすことそのものであり、競争相手は、本気で人生をかけて起業している人たちです。
そこには当然、激しい競争があります。

また、プチ起業という小規模企業であっても、もちろん、事業として利益を出すことは求められます。そして、「自分がやりたい」という明確な意志があることで、事業を行う上で大変なことがあっても、乗り越えていけます。

5 会社設立時の事業目的の決定方法

会社を設立する際に必ず決めなければいけないのが、事業目的になります。事業目的は“会社の憲法”といわれる定款や様々な場面で提出する履歴事項全部証明書に記載されます。事業目的とは、会社で行う事業内容を明文化しているもので、は会社の存在理由を伝えるためにあるといっても過言ではありません。

会社設立登記手続き時に必要になるものの一つが定款です。会社設立時に作成し公証人役場での認証を受けた定款を、会社設立登記手続きの際に添付します。定款には必ず記載しなければ定款として認証を受けられない絶対記載事項があります。絶対的記載事項の中には、会社名である商号や本店の所在地などがありますが、目的も含まれます。定款の中の目的は事業目的と同一であり、会社が現在から将来にわたりどのような事業を行っていくのかということを記すことが求められています。事業活動において定款の「目的」の内容の重要性になってくる理由は以下の2点になります。

  1. 原則として会社は定款に定めた目的に則って事業を営むことができます。*
  2. 認証を受けて登記後の定款の内容変更には、株主総会を開催して定款変更決議を行う必要があります。

事業機会があっても定款の目的に記載がなければ機会を失うことになるため、将来の事業の拡大を見据えた「事業目的」の作成が必要になります。
*事業目的に記載されていない事業を営んだ場合であっても、罰則規定はありません。ただし、目的以外の事業を行った場合に取引無効を求められる場合があります。

 

5-1 事業目的の作成に求められる3要素

事業を行う範囲を規定するものが事業目的であるため、会社が何をして利益を上げていくかを規定していることと同一になります。各種許認可の取得や、資金調達など様々な重要な場面で事業目的は確認されます。そのため、事業目的を作成するうえで必ず求められるものがあります。その求められる要素は大きく下記の3つになります。

  1. 一般的に使用される言葉を使用して、事業目的を作成する。
  2. 将来の事業拡大や変更を加味した網羅的な事業目的を作成する。
  3. 法律や許認可等の制限がある事業には注意する。

 

5-1-1 一般的に使用される言葉を使用して、事業目的を作成する。

事業目的は、飲食業やサービス業などの仕事の内容を示すものになるため、以下の3項目に沿って作成するという制約があります。

◆事業目的作成のための3制約

明確性 誰がみてもその事業内容・仕事がわかることが求められます。
営利性 会社は利益の追求のために事業を行うことを原則とします。収益を得ることを目的としないボランティアなどの非営利活動を中心とすることはできません。
適法性 適法な仕事を事業目的とすることはできません。また公序良俗に反する仕事も事業目的とすることはできません。

適法性にかなった事業目的を作成することは当然として、明確性と営利性は事業目的作成時には合致しているか注意することが必要になります。特に明確性においては一般的な言葉を使用して誰でもわかるということを前提として、その会社がメインに行う事業は何か、ということを明確に記載することも重要になります。メインの事業が何かがわからない事業目的を持つ会社は、融資などを受ける資金提供者に良い印象を与えません。

 

5-1-2 将来の事業拡大や変更を加味した網羅的な事業目的を作成する。

事業目的の変更はすでに説明したように、株主総会の開催や法務局への登記が必要になるため、手間がかかります。そのため、一般的には現在想定している事業と、それから発展していく可能性のある事業で10件程度の事業目的を作成します。事業目的に制限はありませんので、将来において行う可能性がある事業はすべて盛り込むことが可能です。

ただし、事業目的があまりに多すぎた場合には、何をしている会社かわかりにくくなります。メインとなる事業とそれに付随する業務を目的とするのであれば問題はありません。しかしメインとなる事業がぼやけてしまったりすると、目的がぼやけて印象を損ないます。メインとなる事業をぼやかさないというバランスは保つ必要があります。

メインの事業をぼやかさずに、将来的な事業領域をカバーする方法として使用される記載文言が「前各号に付帯する関連する一切の事業」になります。この文言を事業目的の最後に記載することにより、メイン事業とそれに付帯する関連事業を事業目的とすることができます。そのため、本来想定していなかった事業を行う場合でもカバーすることができる可能性が高まります。

 

5-1-3 法律や許認可等の制限がある事業には注意する。

法律や許認可等の制限がある事業に注意する側面は2つあります。1つは法律に違反した内容を事業目的にはできないという面になります。許認可に必要な基準を満たさない状況で許認可が必要な事業を事業目的にすることは控えるべきです。もう1つが事業内容として許認可が必要な事業を行おうとする場合の事業目的の記載方法に注意が必要です。具体的には許認可を得るためには、事業目的に定められた内容の記載が必要となる場合があります。この場合には管轄する行政機関に確認をしながら事業目的を決定することが求められます。なお、許認可とは「許可」「認可」「届出」などに分かれます。

主な行政機関別の許認可必要事業は下記を参考にして下さい。

申請先 許認可 職種
保健所 許可 飲食店/旅館業/墓地経営業等
  届出 美容業/理容業/クリーニング業等
都道府県 免許 宅地建物取引業等
  許可 建設業/一般産業廃棄物処理業/医薬品製造販売業等
  登録 貸金業/旅行業/電気工事業等
警察署 許可 風俗営業/中古品販売業/質屋業
  認定 警備業
税務署 免許 酒類販売業
公共職業安定所 許可 職業紹介業
市町村 登録 米穀物販売業
運輸局 許可 一般貸切旅客自動車運送事業

5-2 事業目的の具体的決め方

事業目的の内容次第では、法務局で定款の認証が得られない場合があります。そのような事態になると定款の作成しなおしになるため、必ず認証を受けられることを前提にした事業目的作成が必要になります。スムーズに事業目的を決められるようにするために抑えるべきポイントは『他社の事業目的を参考にする』ということです。すでに認証を受けた同業他社の事業目的を参考にすればスムーズに認証を得られる可能性が高まります。
参考にする方法は司法書士などの専門家の手を借りるという方法もありますが、自分で行う場合には①ネット検索と②履歴事項全部証明書を入手するという2つがあります。

 

5-2-1 ネットを使用して他社の事業目的を参考にする

Googleなどの検索を使用して、「事業目的一覧」などのキーワードで検索すると、業種別の事業目的が記載されたサイトが見つかります。また上場会社の中には、実際の事業目的をサイト内に掲載している企業もあります。これらのサイトは参考になります。
サイトの中の事業目的は認証を得た事業目的と異なる場合もある前提としながら、簡単に早く事業目的のイメージをつけるにはネット検索が有効な手段になります。

 

5-2-2 履歴事項全部証明書で他社の事業目的を参考にする

ネット検索より手間はかかりますが、法務省の認証を得た事業目的を確認できるのが履歴事項全部証明書での確認になります。法務省が開設する登記情報提供サービスサイトで、履歴事項全部証明書は取得することができます。会社を起業しようとする方の中には、影響を受けた企業や目指す企業がある場合もあります。そのような企業が自分の設立しようとする会社と同業種である場合にはぜひ参考にしてください。

 

5-3 事業目的の具体例

日本政策金融公庫の2018年新規開業実態調査によると、開業業種で多いのは『サービス業(25.1%)*』、『医療・福祉(17.4%)*』、『飲食店・宿泊業(14.7%)*』となっています。ここではサービス業と福祉業と飲食業の事業目的の記載例をあげます。繰り返しになりますが、メインとなる事業と将来的な事業展開を考慮しておくということが重要になります。
*()は開業企業の中のその業種が占める割合になります。

①サービス業

一口にサービス業といっても、美容師・理容師の生活衛生サービス業や家政婦などの家庭生活支援サービスや介護サービス等幅が広くなっています。今回はサービス業の中でも美容室を経営しながら、美容関連商品の仕入れと販売を営むことを前提とした事業目的の記載例とします。

1 美容室とネイルサロン、エステティックサロンの経営ならびに経営コンサルティング業*
2 美容全般に関する知識と技術の指導、ならびに指導者育成のためのセミナーの開催・運営*
3 美容関連商品の販売ならびに輸出入
4 ウェブサイトの企画、制作、運営**
5 インターネットを利用した美容情報サービスの提供・販売**
6 広告宣伝物の企画、立案、制作**
7 前各号に付帯または関連する一切の業務

*美容室を営む場合には、保健所への届出が必要になります。現在だけを考えると、美容室の経営だけとしておくこともよいですが、美容全般サービスを提供することは将来的な事業展開を考慮してネイルサロンとエステティックサロンを記載の追加をしています。コンサルタント業やセミナーの開催・運用も同様です。

**美容関連の販売や情報提供としてインターネットやウェブサイトや宣伝広告の活用は集客方法や販売方法の具体的記載になっています。

②福祉業

福祉業もサービス業同様には幅広く使われます。誰に対して福祉サービスを行うかで大きく『高齢者』『児童』『障害者』『その他』の4つに分けられます。今回は高齢者の訪問介護事業の経営をメインとした事業目的の記載例になります。

1 介護保険法に基づく居宅サービス事業*
2 一般乗用旅客自動車運送事業及び特定旅客自動車運送事業**
3 デイケアサービスの経営***
4 講演会等の企画及び開催ならびに講師の派遣***
5 前各号に付帯または関連する一切の業務

*訪問介護事業を行う場合には、事業目的に記載する文言は定められています。その他、訪問入浴介護や訪問看護なども同様に『介護保険法に基づく居宅サービス事業』という事業目的の記載が必要になります。また指定事業者となるには都道府県知事の指定を受ける必要があります。指定を受けるためには、『法人である』『設備基準』『人員基準』『運営基準』の4つを満たす必要があります。

**利用者の送り迎えを行う場合には、運輸局に一般乗用旅客自動車運送事業及び特定旅客自動車運送事業の申請が必要になります。

***将来的な事業展開を考慮して記載している事項となります。

③飲食業

飲食業の事業目的は身近であるためイメージがしやすく比較的シンプルなものになる場合が多くあります。アルコールも提供する飲食店を経営することを事業目的とした記載例になります。

1 レストラン、居酒屋等の飲食店の経営及び経営コンサルティング業*
2 各種イベントの企画、立案、開催**
3 インターネットならびにその他イベントでの食品の販売**
4 前各号に付帯または関連する一切の業務

*レストランやカフェなど調理を伴う飲食店営業許可が必要になります。なお、主にお酒を提供する居酒屋なども午前0時までに営業を終了する場合は飲食店営業許可のみで営業が可能です。午前0時以降も営業を行う場合には、飲食店営業許可に加えて深夜酒類提供飲食店の届け出も必要となります。

**将来的な事業展開を考慮して記載している事項となります。

6 まとめ

ここまでプチ起業について述べてきましたが、プチ起業で求められる要点をあらためて復習すると、

  • 小さく始めて着実に育てる
  • 会社にするか、個人事業にするか、株式会社、合同会社にするかは専門家に相談して考える
  • 少しでいいからきちんと利益を出し、黒字にすることを心がける。友人・知人であってもお金をもらう。またお客様の声を集める。
  • プチ起業でも許認可が必要な分野があるので、専門家に相談する
  • 起業支援の制度が官民で充実してきたので、活用できる部分は積極的に活用し、補助金・助成金・企業融資なども、税理士・資金調達の専門家などの力を活用する
  • 起業セミナー・キラキラ起業の罠に注意し、ネットワークビジネス、情報商材など社会的に判断の分かれる分野に足を入れない
  • 自己投資は、「本当にリターンが得られるものなのか」を冷静に考え、セミナー・自己啓発マニアにならない
  • 起業セミナー、起業塾、特に高額なセミナー。塾には関わらないよう気をつける
  • プチ起業でも、競争相手は本気で人生をかけてやっている相手だということを忘れない
  • 事業のゴールを仮決めする(後で変更するのはよいが、とりあえず最初の目的地は決める)
  • 家族と情報共有し、家族の支援が得られるような体制づくりを行う

などが重要なポイントとして挙げられます。

プチ起業であっても、起業は起業であり、長期的に続けるためには、きちんとお客様に支持され、利益を出し続けていかなければなりません。

また、税理士・社会保険労務士・司法書士・行政書士・中小企業診断士などの専門家の力を活用することや、近年発展しているクラウドサービスを活用すること、Web、SNS活用により、必要最小限の広告費で最大の宣伝効果を出すよう心がけるなど、「プチ起業」として小さな始め方をする場合であっても、広げていく過程で様々なトラブルがあったり、専門家のヘルプを要するケースが出てくる可能性もあります。

そのため、プチ起業であっても、早いうちから専門家とつながりをつくり、疑問点は相談できるようにするなど、できるだけ小さな疑問でも解決できるようにしておくのが望ましいと言えましょう。

これまで述べたように、プチ起業は、自分の身の丈で起業できるメリットがある一方、通常の企業と同様、良い製品・サービスを作り、きちんとアピール・宣伝するなど良さを外部に伝え、きちんと利益がでるようシビアに経営していく必要があるといえます。

しかし、プチ起業が軌道に乗り、拡大すれば、いままでとは違った人生が開けてくるのも事実です。プチ起業が良い方向に向かうよう、協力者や専門家の力も借りながら、プチ起業をすすめていきましょう。