起業や会社設立から企業を発展させていく過程では様々な困難が生じますが、それらを乗り越えていくための一定の知識や能力などが経営者には必要です。具体的には「アイデア」「リーダーシップ」「マネジメント」「人脈」「経営知識」などが求められます。

そこで今回は創業者等の知識・能力として、その必要となるものや理由を説明するとともに、起業や会社設立に関連して求められる知識・資質・能力の利用や確保の仕方などを解説していきます。

創業者に不可欠な能力等について知りたい方、その能力の確保や準備で迷っている方などは、この記事を参考にしてください。

1 起業・会社設立に必要な知識・能力とは

起業・会社設立に必要な知識・能力とは

起業や会社設立で創業者にはどのような知識・能力等が必要になるかを確認しましょう。

1-1 起業に伴う課題

起業等に必要な創業者の知識・能力については、平成23年度中小企業白書 第3部第1章「3 起業の促進に向けた課題と取組」の「起業時および起業後の課題」の内容が参考になります。起業前後に直面する様々な課題は下図の通りです。

起業時および起業後の課題

起業時および起業後の課題

課題の上位項は以下の通りです。

  • ・資金調達
  • ・質の高い人材の確保
  • ・起業に伴う各種手続
  • ・販売先の確保
  • ・仕入先の確保
  • ・経営知識の習得
  • ・事業に必要な専門知識・技術の習得
  • ・量的な労働力の確保
  • ・製品・商品・サービス等の高付加価値化
  • ・製品・商品・サービス等の価格競争力の強化
  • ・対象とするマーケットの選定/競争激化
  • ・企業理念の設定/従業員への浸透

これらの重要課題を上手く解決できれば、起業は成功に繋がり、解決できなければ失敗に繋がる可能性が高まります。従って、これらの課題を考察することで起業・会社設立前後に必要な創業者の知識・能力等が推察できます。

1-2 起業の成功要因

上記の中小企業白書「3 起業の促進に向けた課題と取組」の項目で「起業の成功要因」の説明があります。この報告内容は「事業の成果が得られていると考える起業家に、その要因を尋ねた結果」で下図にまとめられています。

起業の成功要因

その成功要因に以下の項目が挙げられています。

  • ・過去の経験や人脈
  • ・販売先の確保
  • ・質の高い人材の確保
  • ・事業内容の選定
  • ・事業に必要な専門知識・技術の習得
  • ・資金調達
  • ・仕入先の確保
  • ・家族の理解・協力
  • ・事業のもととなるアイデア
  • ・一緒に起業したパートナーの存在
  • ・起業場所
  • ・対象とするマーケットの選定
  • ・起業家のリーダーシップ
  • ・製品・商品・サービス等の高付加価値化

これらの成功要因は前節の課題にほぼ対応した内容です。従って、この課題と成功要因の内容から起業等で必要な創業者の知識・能力が導出できます。

1-3 創業者に求められる知識・能力

1-2および1-3で確認した起業の課題と成功要因の内容から創業者に必要な知識・能力を考察してみましょう。たとえば、起業の課題と成功要因は下表のように創業者の知識・資質・能力に結びつけられます。

起業の課題と成功要因 起業家等の知識・資質・能力
資金調達 資金調達力
人材の確保 人材確保力
起業に伴う各種手続 手続の知識
販売先および仕入先の確保 取引先確保力
経営知識 経営知識力
事業に必要な専門知識・技術 専門知識力および技術力
製品・商品・サービス等の高付加価値化および価格競争力の強化対象とするマーケットの選定/競争激化事業内容の選定 マーケティング力(その知識と実行能力)
事業のもととなるアイデア アイデア力
企業理念の設定/従業員への浸透起業家のリーダーシップ リーダーシップ力
過去の経験や人脈一緒に起業したパートナーの存在 経験・人脈

「能力」「知識」「人脈」「経験」の4つ

以上の結果は「能力」「知識」「人脈」「経験」の4つに分けることが可能です。能力は「資金調達・人材確保・取引先確保・技術・マーケティング・リーダーシップ・アイデア等に関するもの」です。

知識は「経営全般、事業開始・会社設立等での手続、専門分野(事業)」などに関するものであり、人脈は「パートナーの存在、取引先の確保・経営資源の確保等に関するもの」になります。

経験については、起業する分野での事業経験等ですが、経験は他の要素の能力、知識や人脈などに結実するため、「能力」「知識」「人脈」の3つで説明しましょう。

2 創業者等に必要な「能力」

創業者等に必要な「能力」

創業者に特に重要となる能力について説明します。

創業者に特に重要となる能力

2-1 資金調達力

起業や会社設立に関連して必要となる経営資源の中でも資金の確保は最も重要であり、課題となるケースも多いです。

①資金調達力が必要な理由

店舗・事務所の入居費、人件費、事務機器等の費用、設備機器の費用、材料・部品代、広告代などの初期費用に加え毎月の運営費用を用意できなくては開業の成功はあり得ません。

事業内容や規模により必要となる資金量は異なりますが、創業者としては開業時およびそれ以降における必要資金を正確に見積り、その必要額を調達しなければなりません。

②調達資金を見積る能力

一般的には創業に際しては事業開始時と事業開始後からの一定期間の2つの時期で必要資金を見積るべきです。

たとえば、「事業開始時の総費用+事業開始後からの一定期間の運転資金(3カ月程度以上)」が、創業時の必要資金の総合計の目安となります。起業時の資金調達額の見積りには、下表のような明細が良く作成されます。

●ソフトウェア開発業の例

事業開始時の費用

費用項目 予定金額
パソコン・サーバー等の情報機器 500万円
事務機器 100万円
備品・文具 30万円
保証金等 100万円
合計 730万円

運転資金(月額)

外注費等 90万円
事務所家賃 20万円
人件費(代表者1名 役員1名 従業員1名) 100万円
借入返済額(融資額700万円程度の支払利息込み) 5万円
水道光熱費 5万円
通信費、広告費等(売上高300万円/月の5%以内) 10万円
合計 230万円

・起業時の必要資金合計=730万円+230万円×3以上=1,420万円以上

なお、創業資金を見積る場合は根拠のある数値に基づいて計算することが不可欠です。特に高額となる設備・機器、ソフト、材料代などは必ず業者から見積りを取るようにしましょう。

また、業種や企業の状況により、運転資金を何カ月分用意するかも変わってくるため注意が必要です。売上予測とその回収予定の精度なども上げる必要があります。

③資金調達力の確保

必要資金の調達では、まず調達方法を把握しその上で実際に調達できる行動が取れるようにならなければなりません。調達資金は「自己資金」と「他者からの資金」に分かれ、ここではその内容について簡単に説明しましょう。

1)自己資金
この資金は創業者自身が起業や会社設立に向けて用意するお金のことです。たとえば、独立前の会社員時代にためた貯金や退職金などが原資になります。創業後の生活費などを確保する必要があるため、貯金等の一部は残しておくべきです。

なお、両親から生前贈与が受けられる場合にはその資金(税引後)なども含めましょう。

2)他者からの資金
●身内からの出資と借金
この資金は両親や兄弟などからの出資と借金です。家族や親戚等の身内からの出資や借金の可能性は、彼らの資産状況と借手との関係に依存します。起業する事業が魅力的でも彼らとの関係が良好でなければ出資も借金も容易ではありません。

そのため日頃から彼らとのコミュニケーションをとり信頼関係を築けるようにしましょう。なお、返済期限や利息などを決めないで借りる場合、返済義務のあるお金は借金として扱う必要があり会計帳簿にも借入金として計上しなければなりません。

返済条件や利率などを決めない場合、贈与税が課税される恐れがあるため税理士等に相談してください。

●銀行等からの融資
民間金融機関から融資を受けられることもあります。たとえば、創業者が現在取引(給与振込や住宅ローン等)している銀行から起業に必要な資金を借りるというケースです。

ただし、民間の銀行等から創業融資を受けるのは簡単ではありません。創業者の経歴、事業内容や事業計画などの内容が優れていることが前提で、加えて創業者の個人保証、第三者保証や担保を求められるケースも少なくないです。

しかし、最近では民間金融機関でも創業融資に前向きな機関も登場してきており、事業計画の内容等によっては融資を受けられる可能性はあります。そのため創業融資に積極的な金融機関を探し、アピール力の高い事業計画書および資料を作成し説明できることが不可欠です。

●公的融資
公的融資は国や自治体が行っている融資制度で、自治体の融資は「制度融資」と言います。公的融資の代表は政府系金融機関の日本政策金融公庫が提供する融資と、同公庫・信用保証協会(融資の保証人となってくれる機関)・民間金融機関などが自治体の制度融資として行う融資などです。

公的融資の特徴は、1千万円以上といった融資額の大きさ、貸付金利が1%~といった低さ、担保・保証人等の条件の緩さなどが挙げられます。また、融資審査も民間金融機関に比べ比較的優しいです。

創業者にとって公的融資は利用しやすい資金調達ですが、申請者すべてが審査に合格し融資が受けられるとは限りません。事業の収益性や事業の継続性を創業計画書や事業計画書などで客観的に説明できることが求められます。

そのためには要求される書類や資料について、必要十分な情報を盛り込むことが不可欠です。書類等の記入項目を埋めるだけでは評価されないため、重要情報をしっかり盛り込んで作成・記入しなければなりません。

作成する場合、申請する公的金融機関、商工会議所等の支援機関などへ事前に相談し指導してもらうのが望ましいです。

●助成金・補助金
国や自治体の創業等に関わる助成金や補助金も資金調達として活用できます。活用できる制度は様々で創業者は早い時期から探して申請できる準備を進めましょう。

なお、助成金等の場合、一般的に資金提供は後払いで支給されるため、購入時には利用できない点に注意が必要です。助成金等の活用ポイントは、早めに活用できる制度を探すこと、支給条件をクリアすること、要求される書類・資料は適切に準備すること などになります。

助成金等の受給はあまり困難ではないですが、条件をクリアしていることを書類等で客観的に示す必要があるため申請前には公的支援機関などの指導を受けるのが得策です。

●ベンチャーキャピタル(VC)
ベンチャーキャピタルから開発資金などを目的に資金提供してもらうという方法もあります。一般的にVCからの資金調達は出資の形態が多く、資金提供のほか経営面での助言や取引先の紹介・情報提供などの支援も期待できるでしょう。

なお、出資の場合返済義務がなく調達後の資金負担は配当だけと軽いですが、役員の派遣などを含め経営に口出される可能性が高まるため注意が必要です。

VCから資金調達を受けるためには、事業の将来性や収益性に魅力があることを示さなくてはならず評価されるためのプレゼンテーション力が求められます。

事業内容の分かりやすい説明、明確な市場分析、競争優位性の客観的な根拠、黒字化ストーリーの合理性などをわかりやすい資料を通じて短時間で端的に説明できるようにしましょう。

●クラウドファンディング
ネットで資金を集める「クラウドファンディング」による資金調達も有効です。クラウドファンディングとはインターネット上で多数の人から資金を集めるサービスのことで、クラウドファンディング事業者のサービスを利用して資金調達します。

クラウドファンディングには様々なタイプがあり、運営する事業者などにより資金提供を受ける条件や内容が異なってくるため注意が必要です。もちろんサービスを受けるための審査もありますが、事業者により緩いものから厳しいものまであります。

また、サービスを利用できたとしても資金調達が成功するとは限りません。選んだ事業者によって成功確率に差が生じることも多く、成功確率の高い事業者を選ぶことが重要です。なお、事業者の審査では事業計画書や資料などが求められます(作成支援する事業者もいる)。

クラウドファンディングには融資を受けるという「ソーシャルレンディング」というタイプもあります。このタイプは融資になるため返済義務があり、支払利息を支払わなくてはなりません。民間金融機関よりは融資を受けやすいですが、金利がやや高めになる点は要注意です。

2-2 人材確保力

事業の拡大や企業の発展に伴い役員・従業員の増加が必要となるため、状況や計画に応じた人材確保が必要になります。

①人材確保が重要な理由

いかに魅力的な製品やサービスを提供できてもそれを実際に製造・販売・提供できる人材がいなければ事業は拡大できず成長できません。たとえば、事業規模が小さい場合、1人で設計、材料手配、生産、販売、経理などの業務をすべてこなすことも可能です。

しかし、1人ですべて業務を担うと生産量や販売量はごく限られたものとなり、需要があっても収益の増大は直ぐに限界に達してしまいます。また、各業務を1人など少人数で行った場合、業務の効率性が低下する恐れもあるのです。

しかし、複数人で各業務を分担すれば効率が良くなり、1人当たりの生産量や販売量が向上し事業の収益性が大幅に改善されていきます。もちろん各業務、各担当者での業務上の適切な調整が前提となりますが、企業が発展していくためには従業員を状況に合わせて増加することが不可欠なのです。

②創業等での人材確保の方法

事業の拡大には事業の状況や計画に沿った人材確保が求められるため、経営者にはその人材を確保する能力が求められます。なお、企業が大きくなれば、人材確保を人事部などの専門部署に任せますが、会社設立前後などでは創業者自ら人材確保に努めなくてはなりません。

しかし、創業や新設会社の設立では知名度がなく信頼性も未知数のため、人材確保は難しいです。そのため単に求人広告出すといった方法以外の取り組みが必要になります。

給与・休暇などの条件では大企業並みにするのは困難ですが、世間並み以上にすることは重要です。加えて、応募者の興味を引くための自社や事業の魅力をアピールすることが求められます。

応募者の感受性・共感性に訴求する募集・採用方法が必要で、経営者の事業への思い、事業の素晴らしさ(業界や社会への貢献度の高さなど)、企業の将来性、従業員に対する考え、将来の処遇の向上などを創業者等が応募者に訴えることが欠かせません。

こうした方法のノウハウがない場合、人材確保を支援するコンサルティング会社などを利用するのもよいでしょう。ただし、コンサルティング会社等を利用する場合、採用活動に自社も積極的に関与しその採用のノウハウを吸収できるように努めるべきです。

2-3 取引先確保力

取引先確保力

起業から事業を発展させるためには経営資源の確保とともに、材料・部品・製品・サービス等の仕入先と生産した製品・サービスの販売先の確保が必要になります。

①取引確保力が重要な理由

商品等を安定的に供給してくれる存在があってこそビジネスは成立し発展も可能になるわけですが、特に事業を始めたばかりの企業にとって供給者の確保は不可欠です。

たとえ安価でわずかな部品でもそれを供給してくれる仕入先がないとそのビジネスは開始できません。また、供給先が多くあっても自社の信用度により供給してもらえないことも少なくありません。

信用不安を感じられれば取引は断られ、取引してもらえても相場よりも高い価格の仕入や、現金支払などの厳しい条件が提示されるケースも珍しくありません。そして、こうした供給のもとでは収益の低下と資金繰りの悪化などを招き、経営が圧迫されるのです。

また、販売先の確保も同様に重要です。創業してから事業を安定して運営するためには、一定の収益を得られる販売先の保有が欠かせません。つまり、起業する場合には当座の経営が成り立つだけの収益が得られる販売先の確保が必要になるのです。

もし創業時から一定の販売先が確保できなければ、その起業の成功は困難になってしまうでしょう。

②創業時からの取引先確保の方法

仕入先や販売先を見つけ出し取引できるようにするためには一定の時間が必要であり、創業前から早めにその確保に努めなければなりません。たとえば、創業者が会社員であれば勤務している間に仕入先や販売先の目星をつけ取引の交渉を始めるなどの行動が必要です。

また、自身の独立を会社が応援してくれる場合、会社に取引先を紹介してもらったり仲介してもらったりしましょう。信用度が未知数の創業者が知らない事業者に取引のコンタクトを直接とるよりも既に取引関係のある会社から紹介してもらうほうが取引の可能性は高まります。

もちろん自分の勤務先だけでなく家族・親戚・友人などからの紹介も有望です。ほかにも資金提供してくれる金融機関、VC、各種の支援機関やBtoB等のマッチングサービスなども利用したらよいでしょう。

なお、開業後は自社のみで取引先を確保・拡大していく行動が求められます。自力で仕入先や販売先を開拓できる仕組みを作り日々運用できるようにしなければなりません。

仕入先の開拓については、販売先の実績や業績、今後の販売計画などを具体的に相手へ説明し信頼を得られるようにすることが重要です。

販売先の開拓では、そのビジネスの標的市場(標的顧客)を選定しそれに適合する製品・プロモーション・チャネル・価格などに関する方法を実施するというマーケティング戦略の立案・実行が求められます。

2-4 技術力

起業の成功には競争に勝っていくことが不可欠となるため、技術力の確保と維持向上が欠かせません。

①技術力が重要な理由

どのビジネス、どの業界であっても1企業がその市場を独占するのは容易でなく新規市場であっても時とともにライバルが次第に参入してきて競争が激化するケースは多いです。

従って、提供する製品・サービスに価格、性能、品質や納期などにおいて優れた面がなければ顧客を失い、市場からの撤退を余儀なくされます。そのため企業が市場で生き残り成長していくためには、顧客の支持を得るだけの優れた面や魅力が必要となるわけです。

そして、その魅力等を実現するための技術力の確保が求められるだけでなく、維持向上を図らなければなりません。何の技術力を確保していくはマーケティング戦略に従うことになりますが、経営者は技術力を確保・維持向上させる仕組みを整備し、実施していく必要があります。

②創業時からの技術力確保の方法

創業者の技術力を活用して起業する場合、創業者は独立前の会社員時代等に技術力を確保しておかねばなりません。一般的には会社の業務や学校のゼミの研究などで身につけた技術を起業に利用するケースが多いですが、魅力的な市場ニーズに関連した技術をさらに完成・向上させていくことが重要になります。

なお、技術力を創業のパートナーに委ねる場合、信頼関係を築き、技術力の向上について協力を得られるようにしておく必要があります。その上で必要な技術力の確保・向上に向けた協力や支援を行っていくべきです。

事業の開始後は組織として技術力を維持向上させる仕組みを整備しなければなりません。製造業なら技術部や研究開発部などを設置して市場ニーズに合わせた技術力の強化・開発に取り組むことになります。もちろん会社の状況に応じて担当者や担当部門を無理なく設置するようにしましょう。

2-5 マーケティング力

マーケティング力

マーケティングとは商品・サービス等を売り続ける仕組みであり、創業者等にはその仕組みを作り運用する能力が求められます。

①マーケティング力が重要な理由

マーケティングとはターゲットやそのニーズの発見、製品・サービス作りからチャネル設計、価格設定やプロモーションの実施といったビジネスを成立させ、継続させていく一連の仕組みを作ることです。

言い換えるとマーケティングは「ビジネスでの儲かる仕組みを作ること」であり、このマーケティング作業を的確に行わないと儲からない商売になってしまいます。たとえば、以下のような問題を生じさせる可能性があります。

  • ・画期的な技術で開発した製品でも対象とする顧客のニーズに合致しなくては売れない
  • ・顧客の使用用途はマッチしているが価格が高すぎて市場の一部だけしか購入しない
  • ・対象顧客はあっているが、商品を提供するチャネルがミスマッチで商品がさばけない
  • ・対象顧客があまり利用しないメディアでプロモーションした結果、顧客の反応がよくない

商品やサービスが売れる、顧客から支持が得られるという状況は上記のような問題があっては実現できません。商品等が売れるには理由があり、その理由をマーケティングの知識から捉えビジネスの仕組みを論理的に組み立てることが経営者には必要です。

②創業時からのマーケティング力確保の方法

マーケティング力の確保・向上には、まずマーケティングの基本的な知識を学ぶ必要があります。そして、その知識を自分の事業に適用し実際の環境に応じてビジネスの仕組みを組み立てていくことが重要です。

マーケティングの範囲は広く全部の知識をすべて身につけるには多くの時間が必要となるため、以下に示す「マーケティングプロセス」の内容を学習し、理解することから始めてみましょう。

●マーケティングプロセス

マーケティングプロセスとは、マーケティングとして実施する作業工程のようなもので、「環境分析」「市場細分化」「ターゲティング」「ポジショニング」「マーケティングミックス」の5つから成ります。

・環境分析
ビジネスに影響を与える要因を環境として分析するのが環境分析です。分析対象の要因は、市場、競争相手、経済動向や法律などの外部要因と、創業者や自社の強み・弱みなどの内部要因に分かれます。

これらの要因は現在だけでなく将来の要因も対象で、要因を特定する際のポイントは自分のビジネスへの影響度の大きさを考慮して検討することが重要です。

環境分析の手法には、PEST分析、3C分析、5フォース分析やSWOT分析などがあります。PEST分析は政治・経済・社会・技術の4つの視点から分析するマクロ分析手法です。

3C分析は競合先・自社・顧客の3つの視点で、5フォース分析は「売り手の交渉力」「買い手の交渉力」「競争企業間の敵対関係」「新規参入業者の脅威」「代替品の脅威」の5つの視点で分析するミクロ分析手法に該当します。SWOT分析は自社の強み・弱みと外部の機会・脅威という内部と外部の両方に着目して分析する手法です。

これらの分析手法を組み合わせて環境分析するケースも多いですが、分析の負担も大きいことから最初はSWOT分析で始めてみるのがよいでしょう。

・市場細分化
環境分析の結果をもとに、自社が売りたい相手・市場、自社のビジネスにとって最も有利・有効・魅力的な市場を選別していくプロセスが市場細分化(マーケットセグメンテーション)です。

市場細分化では、細分化するための基準を設定して区分していくという方法が取られます。従って、どのような基準で区分するかが重要で、その代表的な基準には「地理的基準(地域・気候・人口密度等)」「人口統計的基準(年齢・性別・所得・職業・学歴等)」「心理的基準(価値観・ライフスタイル等)」「行動基準(利便性・使用率・ロイヤリティ等)」などがあります。

このような基準を、市場を区別するための切り口として活用するわけです。

・ターゲティング
先の市場細分化の結果に基づき自社のビジネスに最もマッチする市場を標的市場として設定することがターゲティングです。このターゲティングには、標的市場を決めるという点と、標的市場をどう攻めるか・どのようにアプローチするかという点が含まれます。

具体的には「無差別型」「差別型」「集中型」といったターゲティングの方法があり、標的市場とのかかわり方・攻め方などを踏まえて標的市場を設定します。

たとえば、無差別型は「細分化された市場間の違いを考慮せず、単一の製品を全市場に投入する方法」で標的市場は全市場が対象となります。一方、差別型は「細分化された各市場のニーズにマッチする複数の製品を各市場に投入する方法」で標的市場は複数の特定市場です。

集中型は「細分化された市場の中で対象市場を限定して最もマッチする製品を集中的に投入する方法」で標的市場は1つだけになります。

このように細分化した市場に対してどのように攻めるか、といった点を踏まえて標的市場を検討する方法などが利用されています。

・ポジショニング
標的市場の中で顧客や競争相手から自社の製品やビジネスにどのような特徴(魅力的・差別的・興味薄・脅威・無関心等)があると見られているのかを確認するために、相対的な位置付けをするのがポジショニングです。

簡単に言うと、自社のビジネスが顧客やライバルの目にどう映っているのかを把握する作業がポジショニングで、その結果を踏まえて次のマーケティングミックス(売れる仕組みづくり)に活かします。

具体的には、自社のビジネス(製品等)の特徴となる要素で位置づけしますが、縦・横の2軸のマトリックス図を作り、各々対局をなすような要素を設定してプロットしていくのです。

たとえば、縦軸に価格(高価格帯と低価格帯)、横軸に機能性(多機能と汎用機能)などを採用するわけです。他にも使用年齢層(若者向けと中高年者向け)、ブランドイメージ(高級感とカジュアル感)、販売方法(店舗販売とネット販売)など製品等の特徴に応じて決めていきます。

こうした要素を使ってポジショニングすることで業界等での位置を把握し、自社事業にどのような魅力や強みなどの特徴を有しているか明らかにするのです。

・マーケティングミックス
これまでの分析結果から自社ビジネスがどの市場で魅力・優位性などを有しているか判明するため、それらにもとに「売るための仕組み」の骨格をマーケティングミックスで形成していきます。

その骨格として、「製品」「価格」「流通・チャネル」「プロモーション」などの要素を設定して仕組みに作り上げるのです。

製品政策はどのような製品を標的市場に投入するかを決めることで、具体的には機能、形状・色・サイズ、包装、品質・性能、ブランドイメージや付帯サービスなどを決定することを意味します。

価格政策は製品等の価格を設定することです。標的顧客に適した価格でかつライバルに勝てる価格であるとともに利益を最大化できることが求められます。もちろんブランドイメージなどにマッチした価格であることも考慮しなければなりません。

流通・チャネル政策はどのような経路で製品等を標的顧客に届けるかを決定することです。店舗での直販、卸売業・小売業を経由した販売、ネット販売を含む通信販売などの方法で組み立てます。その際、販売での優位性や効率性などの評価が重要になります。

プロモーション政策は製品等を標的顧客へ効率よく認知させ購買を促すための一連の活動を決めることです。従って、認知の部分は各種広告活動を通じたコミュニケーション政策が主体になります。

購買促進にはクーポン・ポイントの提供、POPの設置、サンプル・ノベルティの提供やキャンペーンなど様々な方法の中からもっとも効果の高いものが組み合わされるなどして利用されます。

なお、現在では流通政策とプロモーション政策においてインターネット経由の方法が重要となっており、SNSを通じたコミュニケーション政策は販売に大きく影響するため積極的な活用も必要です。

●マーケティングの知識の学習の仕方

以上のマーケティングプロセスなどを戦略としてまとめたものが「マーケティング戦略」になります。このマーケティング戦略を策定するにはマーケティングの専門書などを学習しなくてはならないため、独学でマスターするには相応の時間が必要です。

そのため公的支援機関などが開催しているセミナーなどに参加してマーケティングの知識を学習することをおすすめします。そうした学習機会に参加すれば必要最低限の知識を効率よく学習できるでしょう。

そして、学習後は実際に自分のビジネスで簡易なマーケティング戦略でも作成してみるべきです。その経験が他の計画書の作成などで役立ちます。

2-6 リーダーシップ力

リーダーシップ力とは経営者等が組織を導く能力のことで、企業の発展にはこのリーダーシップ力が欠かせません。

①リーダーシップ力が重要な理由

起業して企業が大きくなり従業員が増えれば、組織を分化・統合するという調整作業が必要となるため、経営者や管理職等にはリーダーシップ力が求められます。

1人で経営している間は従業員間の調整作業はないですが、従業員が大勢になれば業務を分けて担当者をつけ分業させる形態へと移行していきます。そうした場合、各担当者が勝手に行動すると全体の効率が低下したり問題が生じたりするケースが増えていくのです。

トラブルを生じさせないためには組織での調整作業が必要であり、これには経営者や管理職があたります。しかし、指揮する立場の者がこの調整作業を適切に行わない、組織活動を円滑に進めるために各担当者を導かないようでは調整ができません。

もちろん調整作業以外にも担当者のやる気を高め業務の効率性、問題の改善、アイデアの創出、新顧客開拓、新製品開発への取組などを促進させることも必要になります。

その理由は、各担当者が自ら上記のような課題へ積極的に取り組むとは限らないからです。そのためリーダーが担当者と接して影響を与えそうした取り組みへ導くことが求められます。

指示されたことだけを処理する従業員だけでは企業の成長は直ぐに限界に達するため、自律的に業務に取り組む従業員へと導くためのリーダーの影響力が必要になるのです。

②創業時からのリーダーシップ力確保の方法

企業組織におけるリーダーシップは従業員を企業目標の達成に向けて導くことであり、その実現に向けて従業員へ影響を与えられる能力が経営者や管理職には求められます

この影響を与えるというリーダーシップ力は様々な形態や手段があります。たとえば、菅谷新吾氏が執筆した「あの人の下で働きたいといわせるリーダッシップ心理学」(明日香出版)では、リーダーの仕事はListen、Explain、Assist、Discuss、Evaluate、Response と指摘されています。

これらの単語の頭文字をとると「reader」となり、各々の単語の意味は以下のような内容になるのです。

  • ・Explain:部下に対して指示や命令などを的確に説明する
  • ・Assist:部下を適切に指導する、支援する
  • ・Discuss:指示命令だけでなく、部下と議論して彼らの考えを仕事に活かす
  • ・Evaluate:部下の業績や行動を適切に評価する
  • ・Response:部下の質問、要望や相談に対応する

他にもリーダーシップ力の向上に繋がる方法がありますが、日本電産株式会社会長の永守重信氏が執筆した「人を動かす人になれ!」(三笠書房)では以下のような点が指摘されています。

・「人を動かすのがうまいひと」のやり方を学ぶ
⇒「部下が使えないのは自分に問題がある」「失敗は必ず解決策を一緒に連れてくる」などと考え、リーダーである自分が向上する

・指示の出し方(何をどう話すか)を学ぶ
⇒「リーダーが手本としてやり抜く姿を見せる」「陰で部下の悪口を言わない」「自分の失敗をごまかさない」「相手によって対応を変える」などを実践する

・人を動かす叱り方やほめ方を学ぶ
⇒「叱るときには厳しく叱り、成果をあげたら思いっきりほめる」「体を張って部下を教育する」などを実践する

・リーダーの敵は妥協である
⇒「自分が働くことが好きでなければ人は動かない」「人を動かすには揺らぐことのない信念がいる」などを実践する

他にも多くの点を指摘されていますが、従業員を適切に導く組織風土を作っていくこともリーダーとしての重要な仕事と指摘されており、その醸成する能力もリーダーに求められています。

2-7 アイデア力

ここでのアイデアとは、ビジネスの種になる考えや発想のことであり、創業者にはこのアイデア力が欠かせません。

①アイデア力が重要な理由

アイデアはビジネスを作る根源でそのビジネスの成功はアイデアの内容に大きく左右されるため、アイデア力は創業者がビジネスを起こすにあたり最も重要な能力になります。

創業者がいかに優れた技術や知識をもっていてもそれを具体的な製品やサービスに結び付ける発想がなければビジネスとして誕生することはありません。逆に一般的な技術であっても世の中利用されていない使い方を考え製品化すれば、それはビジネスとして立派に成立します。

もちろんアイデアをビジネスとして具現化していくためにはマーケティングプロセスを通じたビジネス化が必要ですが、その出発点はアイデアになります。従って、アイデアが優れていれば適切なマーケティング戦略も策定しやすくなるわけです。

逆にアイデアが凡庸なものであればマーケティング戦略として成立しにくくなってしまいます(形式は整っても内容が希薄になる等)。

また、起業時だけでなく、企業が成長過程に入ってからもアイデア力は重要で、事業を拡大させる、ライバルとの差別化を図る、新規事業を開発するといった場面でも優れたアイデア力は不可欠です。

②創業時からのアイデア力確保の方法

アイデア力を確保・向上させる取組は起業前や事業の拡大時期などによってやり方が異なってきます。

起業前ではその起業に直結するアイデアを考え出す必要があり、事業の形になりそうな発想が必要です。発想の着眼点は多くありますが、以下のような発想が参考になるでしょう。

  • ・自分の強み(特技・知識・経験等)の有効活用と市場ニーズの組み合わせ
  • ・市場やライバルにない要素と市場ニーズの組み合わせ
  • ・国内市場にない海外の商品やサービスのアレンジ
  • ・実現されていない現状とその解決策の列挙
  • ・技術のトレンドと市場ニーズの組み合わせ(たとえば、DXを活用した低コストの動画プロモーションサービスの提供等)

ポイントはビジネスに繋がる何らかの要素と市場ニーズを結びつけることです。強み、魅力やトレンドといった要素を挙げて、それに結びつくニーズをどんどん組み合わせてアイデアの候補として列挙します。

そして、その中から実現可能性や収益性などで評価して絞っていくのです。なお、企業規模が大きくなると新製品開発などは担当者や担当部門などに任せるようになりますが、全社的なアイデア力の向上は欠かせません。

そのため、全従業員にアイデアの提案を求める提案制度と提案を促す報奨制度などの仕組みづくりが求められます。将来的にはアイデアをもとに新会社で起業させるようなベンチャー制度の導入なども重要です。

2-8 マネジメント力

マネジメント力

ここでのマネジメント力とは主に経営者層が行う経営管理をいかに適切にこなせるかという能力を指します。リーダーが身につけるべき経営上重要なマネジメント力を確認していきましょう。

①マネジメント力が重要な理由

経営管理とは、企業目標を実現するための計画を策定しその計画内容を実行して実際に目標を達成するための一連の管理活動のことです。この活動を怠ると目標を達成するための合理的な行動が取られず、成行で業務が進められる可能性を高めてしまいます。

その場合、企業活動はコントロールされない状態になり、目標達成も成行次第という不安定なものになりかねず、運任せの経営力の低い危うい企業になる恐れが生じるのです。

あるべき経営の姿とは、環境に適応して悪い状況下でも最善の結果を残せる活動ができることであり、どのような状況でも倒産リスクを小さくし成長の可能性を高めることにほかなりません。

そして、その実現には成行の経営に陥らず計画・実行・チェック・改善というPDCAを回せるマネジメント力が経営者に求められているのです。

②創業時からのマネジメント力確保の方法

1人の企業でも多数の従業員がいる企業でも業務を成行で行う場合、目標の未達の可能性が高まります。経営管理は、そうした成行を排除し事前にやり方・取組方を計画して実行し、目標を達成するために活動をコントロールすることです(計画P・実行・チェックC・アクションAを実施すること)。

すなわちマネジメントとは、各従業員が業務を行うにあたり目標を設定し実行させ、実際の活動をチェックしながら目標との過不足を確認の上差異を改善できるようにすることと言えます。

複数人の企業で生産、設計、販売、経理、配送などの各業務を担当者に任せる場合、各業務部門で管理を委ねることになります。各業務部門では各々の部門目標を設定し、そのための部門計画を作り実行して随時進捗状況を確認の上必要に応じて是正処置を行うようにするのです。

この場合、経営者層は各部門の管理状況をチェックし問題解決や是正処置のための支援を行うという管理を行います。起業時から創業者自身でPDCAの仕組みを少しずつでも導入し、組織が大きくなるにつれ、組織全体でPDCAを回せる体制を整え運用していくことが経営者に求められています。

3 創業者等に必要な「知識」

創業者等に必要な「知識」

創業者等には起業時から様々な経営に関する知識が求められ、それらを活用していかねばなりません。ここではこれまでに取り上げた能力以外に特に重要な知識について説明していきましょう。

特に重要な知識

3-1 起業・会社設立時の手続

起業時や会社設立時および事業開始時などでは様々な手続が法律によって求められます。従って、その手続を完了していないと法的に企業の存在が認められなかったり、事業が開始できなかったりするため、確実な実行が欠かせません。

①個人事業主の手続

個人事業主として起業し事業を開始する場合も一定の手続を済ませる必要があります。もし手続が期限内で完了しない場合、事業が開始できない、特定の制度が利用できない、有利な特典が受けられないといった事態にもなりかねません。

逆に手続が円滑に完了すれば、事業を予定通りに推進できるとともに有効な制度を利用して金銭的な負担を軽減できることもあり起業の成功の可能性を高めます。これから主な手続を紹介しておきましょう。

●開業届出書の提出

個人事業を始める場合、開業届出書を作成して所轄の税務署へ提出しなければなりません(持参・郵送)。提出期限は事業開始から1カ月以内です。なお、地方自治体へ「事業開始等申告書」を提出しないといけないケースもあるため、各自治体に確認してください。

●所得税の青色申告承認申請書

青色申告の承認を受けようとする場合、青色申告承認申請書を作成の上所轄の税務署に提出する必要があります。提出期限は事業開始の日から2カ月以内です。

青色申告制度は、「一定水準の記帳をし、その記帳に基づいて正しい申告をする人については、所得金額の計算などについて有利な取扱いが受けられる」税制優遇制度のことです。以下のような特典があります。

・青色申告特別控除
所得に係る取引を正規の簿記の原則(複式簿記)に基づき記帳し、それによって作成した貸借対照表および損益計算書を確定申告書に添付して法定申告期限内に提出している場合に、55万円などの控除が受けられます。

・青色事業専従者給与
青色申告者と生計を一にしている配偶者等(15歳以上)で、その青色申告者の事業に専ら従事している人への給与は必要経費にすることが可能です。

ほかにも「貸倒引当金の設定」や「純損失の繰越しと繰戻し」があります(*法人も青色申告制度の適用があります)。

●給与等支払事務所等の開設届出書

従業員を雇用する際に、当該届出書を作成し所轄税務署へ提出しなければなりません(持参・郵送)。提出期限は給与支払事務所の開設から1カ月以内です。

なお、税務署への届出として、「源泉所得税」「消費税」「棚卸資産の評価方法」「減価償却資産の償却方法」などに関連して提出が求められます。

●従業員を雇用する場合の労働基準監督署への届出

労働保険保険関係成立届
労働保険概算保険料申告書

●従業員を雇用する場合のハローワークへの届出

雇用保険適用事業所設置届
雇用保険被保険者資格取得届

●各種許認可

事業を始めるにあたり許認可が必要な事業があり、各監督官庁への届出が必要です。提出期限は各許認可で異なります。

●常時5人以上の従業員を雇用している場合の社会保険の手続

常時5人以上の従業員を雇う場合(クリーニング業、飲食店等除く)、協会けんぽなどの健康保険や厚生年金保険に加入しなければなりません。社会保険への加入は、加入するべき事実の発生から5日以内に所轄の年金事務所(事務センター)に必要書類を提出することが義務付けられています。

・健康保険・厚生年金保険 新規適用届
・健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届

②会社設立の手続

法人を設立する場合は個人事業主以上に手続や準備が多くなるため注意が必要です。

1)会社設立前の準備内容

以下のような準備が必要になります。

●会社の基本事項の決定
会社名(商号)
事業目的
資本金
事業年度
本店所在地
発起人(会社設立での出資者。原則1人以上いれば可能)
機関設計(株主総会、取締役、取締役会、監査役、監査役会、会計監査人、会計参与、委員会関や人数などの決定)

●発起人の印鑑証明書
法務局への登記申請で「定款」が必要ですが、その「定款承認」を受ける際に発行日から3カ月以内の発起人の印鑑証明書が求められます。

●会社の印鑑
登記申請する場合、その申請書に会社実印が必要です。

●資本金および事業に必要な資金
会社設立時には資本金が必要となるほか、事業開始に伴う資金の準備は欠かせません。なお、資本金の設定は1円からでも可能です。

●定款の作成
定款は会社の基本ルールであり、設立登記の際に提出が義務付けられています。

2)会社設立時の一連の手続

●公証人による定款認証
発起人が作成した定款(原始定款)は公証役場(公証人)で認証してもらわねばなりません。定款認証のための準備も必要です。

●資本金の払込み
定款認証後に資本金を払り込みます。

●登記書類の作成
以下のような書類の準備が必要です。
・設立登記申請書
・「登記すべき事項」を記録した資料(CD-R等)
・定款
・登録免許税納付用台紙および登録免許税
・発起人決定書
・代表取締役等の就任承諾書
・取締役の実印の印鑑証明書(発行後3カ月以内)
・印鑑届書
・出資金の払込証明書
・印鑑カード交付申請書

●登記申請
必要書類が整った後法務局へ登記申請します(持参、郵送、オンライン)。

3)会社設立後の手続等

●登記事項証明書(登記簿謄本)等の取得
法人口座の開設や監督官庁等への届出には登記事項証明書が求められるケースが多いため、会社設立直後は複数枚を保有しておくと便利です。

●法人名義の口座開設
事業の開始にあたり法人名義の口座が必要となるため、開設の上資本金を発起人口座から法人口座へ移します。

●行政への届出
税金、社会保険や事業などに関連して税務署、都道府県市町村、年金事務所、労働基準監督署、ハローワークへ様々な届出が必要になります。

3-2 経営全般の知識

既に確認してきた様々な能力の遂行にはその前提となる知識が必要になります。

①戦略・計画に関する知識

創業者等には経営の戦略を描き、それを実際に進めるための計画を立案できる知識が不可欠です。また、マネジメント力で見たように戦略・計画を実施して目標を達成するための手段、すなわちマネジメントの知識も必要になります。

●経営戦略
経営戦略とは、企業がその経営目標を達成するための基本方針で、目標の実現のために何をどのように実行していくかをまとめたものと言えます。なお、先に説明したマーケティング戦略は経営戦略の一部です。その経営戦略は以下のような手順で導出されます。

A 事業ビジョンや経営目標の設定・再構築(再確認)

B 外部・内部の環境分析:
SWOT分析、3C分析やファイブフォース分析など

C ビジネスコンセプトを含む戦略案の設定:
ビジネスコンセプトとは、誰のどのようなニーズを対象(標的市場)として、ターゲットに満足してもらいながらライバルとの競争に勝つためのビジネスのあり方のことです。この設定が極めて重要な作業になります。

検討の仕方として、自社の強みを生かしてビジネス機会を捉える、弱みは克服するか弱点とならないようにする、脅威は回避する、などの方向性で考えるのが定番です。

D 機能戦略の策定
Cの内容に基づき生産、販売、購買、開発、財務、人事など機能ごとの戦略を策定します。

*経営戦略も独学で知識を得ることは可能ですが、創業塾などの学習機会を利用すると効率的です。なお、経営者1人で事業を行うなど小規模の場合、簡易なマーケティング戦略をベースに生産や購買などの重要な機能の戦略を付け加える形で検討するのもよいでしょう。

なお、事業として具体的に進める詳細内容は事業計画書等を利用することになります。

●創業計画
個人事業主や小規模事業などの場合は事業計画書の代わりに創業計画書が作成されるケースが多いです。形式については、日本政策金融公庫の創業計画書などが参考になるでしょう。

●事業計画(経営計画)
経営戦略(或いはビジネスコンセプト等)などに基づき事業ベースの計画を策定します。会社の事業をどのように進めていくかについて、ビジネスコンセプト等に基づき販売・仕入・生産・人事・設備・財務など各機能の行うべき内容をまとめるわけです。

各機能の計画は、5W 1H(或いは6W2H)等でどう実行するかを具体的に示します。なお、一般的に記載される項目は下表のような内容です。

起業の成功要因

*出典:中小企業基盤整備機構の運営サイト「J-Net21」の「事業計画書の作成手順」より

なお、事業規模が大きくなるにつれて、計画内容は細かくなっていきます。計画期間は3年~5年程度が目安です。

●財務計画(数値計画)
財務計画は事業計画の一環として作成されることが多く、経営状態を把握するための管理ツールとして活用されます。財務計画の種類としては、売上計画、売上原価計画、人員計画、設備計画、資金計画、利益計画や損益計などになります。

もちろんこれらの計画は、企業全体や各機能の計画と整合が取れていなければなりません。

②財務管理

財務計画書を管理ツールとして活用し、事業や企業の状況を把握し改善・向上していくことが求められます。特に事業の状況把握には「月別収支計画書」、毎月の資金の流れの把握には「資金繰り表」、年ベースの現金の流れの把握には「キャッシュフロー計算書」などが有効です。

収支計画書としては日本政策金融公庫の月別収支計画書などが参考になります。資金繰り表としては、下表のタイプが一般的利用されています。経営者としては、管理ツールに数値を記入できる、記入後の状態が評価できるための知識が必要です。

資金繰り表

売上高
前月繰越
経常収入 現金売上
売掛金回収
受取手形入金・割引等
経常支出 現金仕入
買掛金支払
手形決済
諸経費
外注費等
経常外収支 経常外収入
経常外支出
財務収支 財務収入(借入金等)
財務支出(借入金返済等)
翌月繰越金

③財務諸表

経営者は貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書の内容から企業や事業の状態を把握できなければなりません。まず、経営者としては各諸表の数値から凡その状態が把握できるようにしましょう。

そのため経営者には一定の会計知識が必要であり、簿記3級程度の知識は学習しておくべきです。数値に弱い経営者は信用面でも不利になり得るため、少しずつでも学習し克服しておくことも大切です。

4 創業者等に必要な「人脈」

創業者等に必要な「人脈」

事業を起こし拡大させていくためには様々な資源を確保する必要がありますが、創業者だけですべてを用意することは困難です。そのため他者の力を借りる必要があり、起業や事業の拡大には人脈の拡大が欠かせません。

創業者等に必要な「人脈」

4-1 パートナーの確保

起業の際にまったく関係のなかった他者から力を借りるのは困難であるため、起業を共にしてくれるパートナーを確保することが起業や事業の成功確率を高めます。

創業者等に求められる能力は沢山ありますが、パートナーがいればそれらの負担の軽減も可能です。起業時の資金負担が半分になったり、販売と生産の機能を分担したりできて、起業や事業推進が楽になり、企業活動が円滑に進みやすくなります。

また、人脈もパートナーの数だけ広がるようになるため、様々な経営資源の確保も捗るでしょう。

パートナーの一般的な候補としては、起業前の会社の同僚や取引先・関連会社の担当者等、学生時代からの友人、家族や親戚などです。ほかにも創業塾や経営セミナーなどの参加者、異業種交流会等のメンバー、パートナーのマッチングサイトの登録者などが候補になるでしょう。

なお、候補者の判断では、パートナーとしての信頼関係を持てるかどうかを重視すべきです。単に同じ事業に興味がある、自分にない知識やスキルを持っている、資金が豊富であるといった点だけで判断しないようにしましょう。

厳しい状況でも投げ出さない忍耐力がある、人を騙したり嘘をついたりしない、コツコツと取り組める誠実さがあるといった信頼できる人間であるかどうかを見極める必要があります。

4-2 取引先・経営資源に関連した人脈

販売先や仕入先を起業前から確保していくと事業を円滑に推進できて事業の拡大も容易なります。そのため取引先の確保に繋がる人脈を広げていくことが重要です。また、資金や人などの資源を確保するための人脈の拡大も欠かせません。

創業者とそのパートナーだけでは、取引先も各種経営資源もその確保できる数や量は限られてしまいます。しかし、創業者とパートナーが力を合わせて人脈を拡大していけば、それに応じてその範囲も拡大できるようになるのです。

そのためには起業前から会社の社員および取引先・仕入先・協力会社などの担当者との接点を増やし、有望な担当者との人間関係を作るようにします。親しい関係を築くことができれば、起業後は応援してくれる可能性も高まります。

特に販売先や仕入先の増加は重要であるため、販売先や仕入先になってくれる人、紹介してくれるような人との交流を深めることが重要になります。もちろん従業員の確保についても同様です。

一般的なSNSやビジネスネットワーク向けのSNSの利用、経営支援機関や金融機関などからの紹介なども活用するべきです。

5 まとめ

起業や会社設立には経営者として多くの知識・能力が求められます。その知識・能力等の範囲は広く、質も高いことが望まれます。もちろん創業時からすべてについて確保する必要はないですが、事業規模の拡大とともにそれらも増大させねばなりません。

しかし、創業者1人で知識・能力等のすべてを確保するのは困難であるため、他者に補ってもらうことや、その確保を支援してもらうことも重要です。創業者の努力とともに他者の力を上手く利用して、起業や経営に必要な知識・能力を少しずつでも蓄えてください。