会社を設立する前に支出した費用や開業のための費用は経費として処理することができます。ただし、営業を開始した後の支出とは性質が異なるため仕訳などの会計処理を行う場合は細心の注意が必要です。今回は、会社の立ち上げ時期に必要となる会計処理について、会社設立前後の費用や資本金の仕訳方法などを解説します。会計が苦手な方にも理解していただけるように、簡単な仕訳の仕組みや会社設立の流れなどの基本事項から解説していきます。

1 仕訳とは?

仕訳とは、会社の活動を記録として残すための手段です。簡単に言い換えると、会社が売上や経費の支払いなどのお金が動く活動をしたときに、何のためにいくらのお金が動いたかということを取引ごとに記録する方法が仕訳です。厳密には、お金が動かない取引について仕訳を切る(仕訳を作成すること)こともありますが、まずはお金の単位で会社の活動を記録する方法だと理解してください。また、一定のルールに基づいて仕訳を切ることや、これらの仕訳などを集計する技術を簿記と言います。この集計によって会社の業績や財政状態を把握するための損益計算書や貸借対照表と呼ばれる財務諸表を作成することが簿記の大きな目的です。つまり、仕訳は会社の活動などを記録するための手段であり、簿記の目的である会社業績などを把握するためには必要不可欠なものです。

ここからは、具体的な仕訳のルールや仕訳の切り方について確認してみましょう。仕訳には一定のルールがあり、そのルールに則って仕訳を切ることで様々な集計が可能となります。一番の前提となるルールは、資産・負債・純資産・費用・収益という5つの勘定科目の分類です。これは仕訳を切る際に使用する勘定科目が上記のいずれかに必ず分類されるというルールになります。そしてもう一つのルールは、5つに分類された勘定科目が決まったルールで仕訳の左側と右側に記載されるというルールです。ちなみに、会計の用語では仕訳の左側を借方(かりかた)、右側を貸方(かしかた)と呼びます。それでは、以下で5つの分類の内容とその記載ルールを確認してみましょう。

・資産

現金や普通預金、当座預金、売掛金、受取手形、未収入金などの勘定科目があります。現金や預金のように実際にお金として使用できるものの他、売掛金や未収入金のように将来お金を請求できる権利も資産に該当するものです。また、建物や車両などの実際に形のある設備等は固定資産という資産に分類され、借地権や営業権、ソフトウェアなどは形がないものとして無形固定資産という資産に分類されます。資産はその増加を記録する場合は仕訳の借方に、反対に減少を記録する場合は貸方に記載するルールがあります。

・負債

負債とは、借入金や買掛金、支払手形、未払金などの勘定科目が該当し、将来支払わなければならない義務などのあるマイナスの財産を集計する分類です。負債の仕訳上のルールは資産とは正反対で、その増加を記録する場合は仕訳の貸方に、減少を記録する場合は借方に記載するというルールがあります。

・純資産

純資産とは、返済する義務のない会社の資産を表す分類で、資本金や資本剰余金、利益剰余金などの勘定科目が該当します。返済する義務のない会社の資産を表しているので自己資本と呼ばれることもあります。純資産の仕訳上のルールは負債と同様で、その増加を記録する場合は仕訳の貸方に、減少を記録する場合は借方に記載するというルールです。

・費用

費用とは、製造原価のように直接製品の製造に要したコストや、販売する商品を仕入れるために要したコスト、人件費、広告宣伝費のように営業のために発生するコストを集計する分類です。この費用という分類は通常使用される費用の概念よりも広義のもので、災害などによって生じる臨時的な損失なども費用に含まれます。費用は、その発生を借方に記載し、取り消しを貸方に記載するという仕訳上のルールがあります。

・収益

収益とは、営業活動などによって増加した金銭的な価値を指しており、売上や受取利息などの勘定科目が収益に分類されます。製品の販売やサービスの提供などによる売上が代表的な収益ですが、株式の売却益や固定資産の売却益なども収益に含まれるものです。収益の仕訳上のルールは費用と正反対で、その発生を貸方に記載し、取り消しを借方に記載します。

この5つに分類された勘定科目をルールに従って仕訳を切ることで、最終的には損益計算書や貸借対照表といった財務諸表の作成ができます。完成した損益計算書や貸借対照表のイメージは以下の通りです。

 

 

ここで初めて出てくる損益計算書の利益は「収益-費用」で求めることが可能です。より具体的に内容を把握していただくために、簡単な仕訳例を2つほど以下で紹介します。この例を基に損益計算書の利益の出し方を確認してみましょう。

仕訳1 商品を100円で仕入れ現金で支払った
(仕入) 100  (現金) 100

仕訳2 商品を200円で売り上げ現金で受け取った
(現金) 200  (売上) 200

仕訳1は「仕入」という費用が100円発生し、「現金」という資産が100円減った仕訳です。同様に、仕訳2は「売上」という収益が200円発生し、「現金」という資産が200円増えた仕訳です。まず、「現金」に着目して見てみると、「現金」が増えた取引は左側の借方に記載され、減った取引は右側の貸方に記載されています。これが上記の資産に該当する科目の仕訳を切るルールです。同じように、「仕入」という費用の発生は左側の借方に、「売上」という収益の発生は「仕入」とは反対の貸方に記載しています。これを上記の損益計算書のイメージに当てはめると以下の通りです。

 

 

収益となる売上200円と費用となる仕入100円との差額から利益200円-100円=100円を求めることができます。このように、既に説明した2つのルールに従って仕訳を切ることで損益計算書や貸借対照表の作成が可能になります。厳密には、これらの仕訳を基に集計し、決算処理などを経て損益計算書や貸借対照表を作成しますが、ここでは仕訳が基となって損益計算書や貸借対照表ができるイメージを理解しておいてください。

2 会社設立までの流れ

仕訳に関しては大まかなイメージを掴むことができたでしょうか?
ここからは会社設立に関する費用や仕訳を理解するために、会社設立の流れを確認していきます。現在設立できる会社の形態には株式会社や合同会社、合名会社、合資会社などがあります。それぞれの会社形態に特徴や設立するメリットはありますが、法人設立のメリットが大きく最も設立件数の多いポピュラーな会社形態はやはり株式会社です。全ての会社設立の流れを解説すると膨大な量となるため、こちらでは株式会社の設立までの流れを説明していきます。
株式会社の設立は意外と手間がかかり、それぞれの処理や手続きの段階で費用も発生します。発生する費用については後ほど仕訳の方法と併せて説明しますので、まずは、会社設立に必要な処理や手続を確認してみましょう。株式会社設立の流れは以下のような6つのステップに分けることが可能です。

ステップ1:基本事項の決定や登記申請などに必要な下準備

まずは会社設立の手続きを行う発起人を決めます。発起人は単に手続きを行う人ではなく、会社の基本事項の決定や取締役の選任、会社に出資する役割を担う人です。一人で会社を設立する場合はその方が発起人を務めますが、複数人で会社を設立する場合は複数人で発起人となることも可能です。発起人が決まったら、株式会社の基本事項を決めなければなりません。主な基本事項は以下の通りです。

・社名(商号)

商号として商業登記される会社の名前です。同じ住所に他社と同じ商号の名前は登記できないというルールがあるので、事前に同じ商号が登記されていないかどうか本店所在地を管轄する法務局等で確認しておかなければなりません。また、商標登録されている社名などと同じ、または類似した社名をつけると後々トラブルとなる可能性が高いので、こちらも同様に事前の確認が必要です。

・事業内容

設立する会社がどのような事業を行うのかを決定しなければなりません。ここで決定した事業内容は定款に事業目的として記載することとなりますが、会社はこの定款に記載された事業目的の範囲内でしか事業を営むことができない点には注意が必要です。設立当初から予定していた事業内容に抜けや漏れがあると定款の変更等の手続きが必要となり、手間も費用もかかることとなります。会社の事業として考えられるものは全て挙げておくことが必要です。また、定款に記載する事業内容では最後に「前各号に付帯関連する一切の事業」と記載しておくことで、予定している事業から新たな事業が発生した場合にも対応可能となります。

・本店所在地

本店所在地は登記される会社の住所です。もちろん、どこで会社を設立しても問題はありませんが、同じ建物(住所)に同じ商号の会社がないかなどの確認は必要になります。また、賃貸物件で個人事業を行っている方が法人成りする場合は、その賃貸物件が会社として使用できるかどうかを契約書などで確認しておくことも必要です。

・資本金

資本金は事業を行う元手です。株式会社の最低資本金制度が廃止となってから資本金1円でも会社を設立することはできますが、現実的には設立から開業までの費用や当面の運転資金などが必要となります。

・事業年度

会社の事業年度は設立時に任意で決めることができます。3月決算や9月決算の会社が多くなっていますが1月や2月でも問題はなく、半年を事業年度として定めることも可能です。しかし、事業年度は必ず1年を超えない範囲で定めなければならないというルールがあるので、多くの会社は手間がかからないように最長の1年間を事業年度として定めています。

・株式の譲渡制限

株式の譲渡制限とは、名前の通り株式の譲渡に制限をかけることです。具体的には、定款に株式の譲渡制限を記載することで、取締役会または株主総会の承認を受けなければ株式を譲渡できないようなルールを定めることです。これは会社が望まない人物や会社などに株式が渡ることを未然に防止する手段で、主に中小企業などが必要に応じて株式の譲渡制限を設けます。

これらの他に取締役の人数や監査役の設置なども必要に応じて決定しなければなりません。以上のように、発起人や基本事項を決定することが会社設立の最初のステップです。登記申請を行う際に代表者印が必要となるので、代表者印もこの段階で作っておく必要があります。

ステップ2:定款の作成と認証

定款とは、会社を運営していく上での基本的なルールを定めたものです。株式会社を設立するためには定款を作成し、公証役場で定款の認証を受けるという手続きが必要になります。まずは、定款作成についてですが、定款に記載する事項は以下の3つに分かれます。

・絶対的記載事項

絶対的記載事項とは、必ず定款に記載しなければならない項目で、記載がなければ定款自体が無効となる重要項目です。ステップ1の基本事項として決めた会社の商号や事業内容(目的)、本店の所在地、資本金となる出資の金額、発起人の住所や氏名などが該当します。また、発行可能株式総数は絶対的記載事項に準ずるものとして会社の設立登記までに定款に記載しなければなりません。

・相対的記載事項

相対的記載事項は定款に記載しなければその効力が認められない項目です。絶対的記載事項とは違い、定款に記載がなくても定款そのものが無効となることはありませんが、取締役会の設置などは相対的記載事項として記載しなければその設置が認められません。他には、ステップ1で決めた株式譲渡制限や取締役の任期など様々なことが相対的記載事項に該当します。

・任意的記載事項

任意的記載事項とは、上記の絶対的記載事項にも相対的記載事項にも該当しない項目です。定款に記載がなくても効力自体に影響が出ることはありませんが、内容を明確にするために定款に記載する項目です。基本的には公序良俗に反しない限りどのような事項でも定めることができ、会社の事業年度や取締役の人数などが該当します。

上記の記載事項から必要な項目を全て織り込み定款の作成が完了すると、次は公証役場での認証手続きが必要です。この認証手続きは定款の正当性を公証人によって証明してもらうために必要な手続きで株式会社は必ず認証を受けなければならないこととなっています。なお、定款の認証は株式会社設立時特有の手続きで、持分会社と呼ばれる合同会社や合名会社、合資会社では定款の認証は不要です。

ステップ3:資本金の払い込み

定款の認証が完了したら、次は資本金の払い込みです。この時点ではまだ会社が設立できていないため、会社名義の預金通帳は作れません。そのため、発起人名義の預金通帳で資本金の払い込みを行います。通帳に資本金の額よりも多い残高があるだけでは手続きができないので、必ず資本金と同じ金額を発起人の名義で払い込む処理が必要です。

ステップ4:登記書類作成

資本金の払い込みが完了したら、会社登記を申請するための書類が作成できます。株式会社の設立登記申請書に必要事項を記載して作成し、以下の添付書類も併せて揃えなければなりません。

・定款

公証人の認証を受けた定款が必要です。

・発起人の同意書

発起人が割り当てを受ける株式数や払い込む金額などが定款に記載されていない場合にこの書面にその内容を記載して作成します。

・設立時代表取締役を選定したことを証する書面

設立時の取締役の決議で代表取締役を選定した旨を証明する書面です。

・設立時取締役、設立時代表取締役及び設立時監査役の就任承諾書

設立時に代表取締役と取締役、監査役に就任する方それぞれの就任を承諾する書類が必要です。

・印鑑証明書

設立時に代表取締役と取締役、監査役に就任する方の印鑑証明書も必要となります。

・本人確認証明書

設立時に代表取締役と取締役、監査役に就任する方の本人確認証明書で、住民票や運転免許証のコピー等がそれぞれ必要です。

・払い込みを証する書面

資本金の払い込みを行ったことを証明するための書面で、払い込みの総額や払い込みがあった株数、1株あたりの払い込み金額などを記載し、預金通帳の写しをつけて作成します。

上記の添付書類はあくまでも1例で、設立する会社によっては必要となる添付書類が増える可能性もあります。

ステップ5:登記申請

会社の登記申請は原則として代表取締役が行います。上記で作成した書類を新設会社の本店所在地を管轄する法務局へ提出し、不備なく受理されれば登記申請手続きは完了です。その後、書類の精査などで問題が無ければ1週間から2週間ほどで登記の手続きは完了します。登記申請時には代表者印も必要となるので、同時に代表者印の印鑑登録も行うことが一般的です。そのため、登記申請時には印鑑登録に必要な書類も併せて準備しておくことが必要です。また、会社の設立日となるのは登記手続きが終わった日ではなく登記申請をした日となるので、この点は注意しておかなければなりません。

ステップ6:登記手続き完了後の行政機関などへの各種届出手続き

登記手続きが完了すると、税務署や市役所などの行政機関への手続きができるようになります。各行政機関に対して以下の届出手続きが必要です。

・税務署

本店所在地を管轄する税務署へ「法人設立届出書」を提出しなければなりません。また、「給与支払事務所等の開設届出書」や必要に応じて青色申告の適用を受けるための「青色申告の承認申請書」などの提出も必要です。

・都道府県税の事務所と市区町村

本店所在地の都道府県と市区町村にも法人設立の届出が必要です。それぞれの行政機関によって届出の書式や名称が異なるので、詳細は届出を行う各行政機関のホームページで確認する必要があります。

・社会保険事務所

製造業や土木建築業などの特定の事業を行う従業員が5人以上の事業所は健康保険と厚生年金保険の強制適用事業所となります。この場合、「健康保険・厚生年金保険新規適用届」や「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」などを社会保険事務所に届出しなければなりません。

・労働基準監督署

従業員を雇用する場合は労働保険の適用事業所となるため、「保険関係成立届」を所轄の労働基準監督署に届出しなければなりません。

・ハローワーク

労働基準監督署と同様に、「雇用保険適用事業所設置届」と「雇用保険被保険者資格取得届」、「概算保険料申告書」等の労働保険に関する届出や保険料の支払いが必要です。

以上が会社設立の簡単な流れです。設立後は、法人の銀行口座も開設できるようになるので、登記簿謄本や印鑑証明書などの必要書類を取得して銀行での手続きも必要となります。

3 資本金の仕訳方法

会社設立の流れも確認できたので次は資本金の仕訳方法について確認します。実は、簿記などで習う資本金の仕訳方法は非常にシンプルで以下の仕訳1つで完了です。

(普通預金) 1,000,000   (資本金) 1,000,000

上記は普通預金に100万円の資本金が入金されたという仕訳です。しかし、実務上は会社設立の流れでも確認した通り会社の設立日が設立登記申請書を提出した日となるため、申請書を提出した段階では登記手続きが完了していないので預金口座も開設できていません。つまり、上記のような簡単な仕訳1つで資本金に関する仕訳が完了するということはないのです。それでは、実務上でどのような仕訳を行うのかを以下の例で確認してみましょう。

例1)4月1日に会社の設立登記申請書を提出し資本金300万円の会社を設立しました。登記手続き完了後の4月15日に会社名義の普通預金口座を開設し、発起人の預金口座に払い込まれていた300万円を会社の普通預金口座へ振り込みました。なお、振込にかかる手数料864円は会社で負担したため、4月15日に会社の普通預金に振り込まれた金額は300万円から864円を引いた2,999,136円です。

この例では2つの仕訳が必要となります。

①4/1
(預け金) 3,000,000   (資本金) 3,000,000

まず、会社の設立日である4月1日に資本金300万円の会社が設立された仕訳を切ります。借方に出てくる預け金は貸借対照表の資産項目に分類される勘定科目です。発起人の口座に払い込まれた資本金がまだ会社の手元にないため、発起人に預けているお金としてこの勘定科目を使用します。

②4/15
(普通預金)  2,999,136  (預け金) 3,000,000
(支払手数料) 864

4月15日に会社の手元になかった300万円が普通預金に振り込まれた仕訳を切ります。これは発起人に預けていた資本金300万円が支払われたので預け金を300万円取り崩し、振込手数料864円の発生と普通預金2,999,136円が増加した仕訳です。

以上が例に挙げた資本金の仕訳です。設立時の資本金は百万円単位などの大金となることが多く、普通預金を使用した受け渡しが実務上多くなります。しかし、設立直後に現金を用意しなければならないこともあるため、資本金を現金と普通預金で複数回に分けて会社が受け取る場合もあります。その場合の仕訳についても以下の例で確認してみましょう。

例2)上記の例1と同じ条件で4/1に現金で50万円を受け取り、残りの250万円を4/15に振り込みで受け取った。

①4/1
(現金) 500,000   (資本金) 3,000,000
(預け金)2,500,000

4/1の創立時点で上記の①と異なる点は現金が50万円増加している仕訳を切ることです。また、受け取っていない資本金が300万円から50万円を引いた250万円となるので預け金も250万円となります。

 

②4/15
(普通預金)  2,499,136  (預け金) 2,500,000
(支払手数料) 864

4/15は資本金総額300万円から現金で受け取った50万円を差し引いた250万円の預け金を普通預金で受け取る仕訳を切ります。振込手数料は会社負担のため250万円から864円を差し引いた2,499,136円が普通預金への入金額です。

以上が資本金の仕訳方法です。会社の設立時期よりも資本金の受け取り時期の方が遅れる場合があるので、預け金などの勘定科目を使用して発生した取引ごとに仕訳を切ることがポイントとなります。

4 創立費・開業費になる経費と仕訳方法

ここからは会社設立前後に発生する費用について確認します。会社の設立前後に発生する費用は創立費や開業費として会計上処理することとなります。

 

4-1 創立費・開業費とは?

創立費とは、会社の設立準備の段階から設立完了までにかかる会社の設立に要する費用です。一方で、開業費は会社の設立後から営業開始までの期間で開業準備のために特別に要した費用を指します。それぞれの例を挙げると、会社を設立するために支払った定款の認証手数料は創立費となり、会社設立後の営業開始までの期間に新聞広告などの宣伝を行った場合は開業費です。

ここで、「なぜ、これらの費用は支払手数料や広告宣伝費として処理をしないのか?」という疑問を感じませんか?本来、会社が経費として支払う手数料は支払手数料として処理し、同様に新聞などで広告を行う場合は広告宣伝費として処理することが一般的です。しかし、会社の開業前後に発生する創立費や開業費には普通の費用と区別して処理する理由があります。まずは、下の図で創立費や開業費の発生時期を確認してみましょう。

 

 

主に創立費は設立準備の開始から会社設立まで、開業費は会社設立から営業開始までの時期に発生します。そのため、これらの経費はあくまでも設立や開業のためだけに要した費用としての性質が強く、会計上は営業開始後の通常の会社経費とは区別して集計する必要があるのです。また、創立費や開業費は今後継続していく会社としての活動に何年にもわたってその効果が見込めることから一括で費用計上するのではなく繰延資産(注1)として計上し、5年間で均等償却することが会計上のルールとなっています。

(注1)

繰延資産とは、会社や個人事業主が支出する費用のうち、その支出による効果が1年以上に及ぶ資産のことです。支出後に長期間にわたってその効果が見込めるものは会計のルールで定められた償却年数で償却することとなります。

ここからは少し難しい話になりますが、創立費と開業費の償却について詳しく説明します。創立費や開業費は繰延資産として計上することが会計のルールであると言いましたが、これは半分正しくありません。なぜなら、平成18年に企業会計基準委員会が実務対応報告で示した繰延資産の会計処理に関する取り扱いでは、創立費や開業費は原則として支出時に費用処理することが求められているからです。

しかし、例外として繰延資産として計上し、会社の設立から5年間で均等償却することも認められています。では、なぜ原則である費用処理ではなく例外である繰延資産として処理する方法が選ばれるのでしょうか?その理由は、創立費や開業費は税法上任意償却が可能だからです。つまり、赤字が出た時には償却をせずに繰延資産として翌期へ繰り越し、黒字の時に償却することで節税を図れることが大きな理由となります。そのため、創立費や開業費は繰延資産として会計処理を行うことが一般的な処理となっています。

 

4-2 創立費になる経費と仕訳方法

創立費となる経費は会社設立のために要した費用で会社の設立までに発生したものが主な対象です。具体例を既に説明した会社設立の流れと照らし合わせながら確認してみましょう。

・基本事項を決めるために要した費用

会社設立の流れのステップ1における基本事項を決めるために要した費用には、発起人の交通費や報酬などが挙げられます。また、発起人が複数いる場合は集まるための会場費などを支払うこともありますが、これも基本事項を決めるために要した費用として創立費に含めることが可能です。

・会社の代表者印などの費用

登記申請を行う際は基本的に印鑑登録も同時に行うため、印鑑登録のために購入した代表者印は創立費として計上することが可能です。また、代表者印と併せて会社印(角印)なども購入した場合、その費用も創立費として計上することができます。ただし、会社の角印などは会社の設立に直接必要ではないことから、創立費ではなく開業費として処理する考え方があるのも事実です。しかし、代表者印と同時に購入している場合は領収書等も1枚にまとまっていることも多く実務上は創立費として処理することがあります。

・定款の作成や認証に要した費用

会社設立の流れのステップ2における定款の作成や認証では必ず発生する費用があります。それは、公証人に支払う定款の認証の手数料5万円と定款に貼付する収入印紙代4万円(電子定款だと0円)、謄本の交付手数料約2千円(定款のページ数によって異なる)です。また、定款の作成や認証を行政書士などの専門家に依頼した場合の費用も創立費となります。

・資本金の払い込みに要した費用

ステップ3の資本金の払い込みに要した銀行の振込手数料も創立費となります。

・登記申請書の作成に要した費用

ステップ4の登記申請書の作成に要した費用には役員の印鑑証明書や身分証明として提出する住民票などの取得費用などが挙げられます。

・登記申請に要した費用

ステップ5の登記申請では必ず登録免許税という税金が発生します。株式会社の場合は資本金の金額の1,000分の7(15万円に満たない場合は15万円)の登録免許税の支払いが必要で、この登録免許税は全額創立費となります。また、司法書士などの専門家に設立登記手続きを依頼した場合の報酬も全額創立費として処理することが可能です。

これらの創立費は一覧表などにまとめて会社の設立日付で仕訳を切る方法が一般的な処理となります。それでは、具体例で仕訳の方法を確認してみましょう。

例3)発起人が自身の口座に払い込まれた新設会社の資本金から創立費30万円を支払った。なお、新設会社の設立日は4/1である。

4/1
(創立費) 300,000   (預け金) 300,000

まだ会社の手元にないお金で支払っているため、資本金の仕訳と同様に預け金の勘定科目を使用します。上記のように、預け金を取り崩して創立費という繰延資産を計上する仕訳だけで創立費の仕訳は完了です。
以上のように、創立費の仕訳自体は非常に単純なため、創立費となる経費の集計を漏れなく行うことが重要です。また、創立費として支出した費用は全て領収書の保管が必要となりますが、領収書の宛名は新設会社の名前でも発起人の名前でも問題はありません。

 

4-3 開業費になる経費と仕訳方法

開業費となる経費は基本的に会社設立後に支出された費用で、営業開始のために特別に支出する費用です。開業費として処理できる経費には以下のものが挙げられます。

・広告宣伝費

新しく開業することを新聞広告やインターネットの広告などで顧客などに宣伝するために要した費用。

・事務用品費や消耗品費

開業するために必要な机や椅子、筆記用具などが該当します。ただし、コピー機などの10万円以上(注2)の資産は減価償却資産となるため開業費ではなく固定資産として計上し、減価償却費として費用化していきます。

(注2)
資本金1億円以下の中小事業者は「少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」を利用して、30万円未満の減価償却資産の取得価額の全てを購入した期に損金算入できます。

・名刺作成の費用

会社設立後、開業のための挨拶周りのために作成した名刺の費用などは開業費に含めることができます。

・会社案内などのパンフレット等作成費用

会社の営業開始前に会社案内や業務案内などを掲載したパンフレットを作成した費用は開業費に含めることが可能です。

・打合せのための交際費や会議費等

会社を設立してから開業までの期間に将来取引先となる得意先や仕入先などと打ち合わせを行った交際費や会議費などは開業費に含めることができます。ただし、営業を開始した後は交際費や会議費として計上することとなります。

・調査費用等

開業後のビジネスを円滑に進めるための市場調査費用なども開業費に含めることが可能です。

上記はほんの一例に過ぎないので、会社設立から開業までに支出した費用については個別に開業費に該当するか否かを判断する必要があります。特に、固定資産に該当する支出は開業費に計上することができないので注意が必要です。
それでは、ここから具体的な開業費の仕訳について確認していきます。まずは、以下の例で開業費に関する仕訳を確認してみましょう。

例4)
4月1日に会社設立後、5月1日からの開業に備えて以下のような準備を行いました。なお、以下の支出は全てその日のうちに現金で支払いをしています。

  1. ①4/5に会社の事務所で使用する文房具などを5万円で購入した
  2. ②4/10に新規オープンする店舗の新聞折り込みチラシを15万円で依頼した
  3. ③4/20に店舗で使用する仕入品に関する打ち合わせを業者と行い喫茶店で3千円を支払った

まずは、支出したそれぞれの金額を仮払金で処理します。

①4/5
(仮払金) 50,000   (現金) 50,000

②4/10
(仮払金) 150,000   (現金) 150,000

③4/20
(仮払金) 3,000   (現金) 3,000

その後、開業日となる5/1に開業費に該当するものを一括で仮払金から開業費に振り替えます。今回の例では全てが開業費に該当するので、①50,000+②150,000+③3,000=203,000円を全て開業費で計上することが可能です。

5/1
(開業費) 203,000   (仮払金) 203,000

以上が開業費の仕訳です。通常、開業日は会社設立の流れのステップ6で出てきた開業届に記載した「事業開始の日」となります。また、今回のように仮払金処理をせずに創立費と同様に開業日に集計した開業費を一括で仕訳することも可能です。しかし、会社の現金を使用している場合は期中の現金残高が合わなくなるので、あまりおすすめできる処理ではありません。

5 注意点

ここまで、創立費や開業費として処理できる経費やその処理方法について確認してきました。しかし、創立費や開業費については代表者が立て替えた場合の処理などいくつかの注意点があります。ここでは、その注意点について確認してみましょう。

 

5-1 代表者などが立て替えた創立費や開業費の処理

上記の会社設立の流れでも確認した通り、会社の設立手続きが終わっただけでは経費などの支払いをする現金や預金は新設会社にありません。そのため、発起人の口座に払い込まれた資本金を新設会社に移すまでは、会社の経費を代表者などが立て替えて支払うこともあるのです。

ここでは、代表者が会社の経費などを立て替えた場合の処理について確認していきます。まずは創立費についてですが、創立費は会社設立前の費用となるので発起人が自身の預金口座に払い込まれた資本金を引き出して支払うことが一般的です。その場合は、創立費の仕訳方法で確認した通りに預け金から創立費を支払った仕訳を切ります。しかし、払い込まれた資本金を使わずに発起人や代表者が創立費を立て替えて支払うことも可能です。その場合は以下の例のような仕訳処理を行います。

例5)
4月1日に会社を設立し、発起人が支払っていた設立に関する費用30万円を現金で支払った。

4/1
(創立費) 300,000   (現金) 300,000

会社設立のタイミングで払い込まれた資本金を現金などで会社に渡すことができれば上記の仕訳処理だけで完了です。4月1日に現金がない場合は発起人から設立費用を借りているという以下の仕訳を切ることもあります。

4/1
(創立費) 300,000   (短期借入金) 300,000

これを後日現金で精算するときは以下の仕訳が必要です。

(短期借入金) 300,000  (現金) 300,000

このように処理することで発起人などが立て替えた創立費に関する処理を行うことが可能です。複数人の発起人で設立する場合は資本金の払い込みを受けた発起人と支払いをする発起人が違うこともあるため上記のような処理が必要となるケースもあります。しかし、一人で設立する場合は払い込まれた資本金を使用して支払うと余計な仕訳処理の手間が省けるのでこの点については考慮する必要があります。

開業費についても同様で、会社に資本金が払い込めていない場合は発起人の口座にある資本金を使用するか代表者の方などが立て替える処理が必要です。上記の例4と同じ開業費の支払いについて2つのパターンの処理を確認してみましょう。

例6)
4月1日に会社設立後、5月1日からの開業に備えて以下のような準備を行いました。なお、以下の支出は全てその日のうちに支払いをしています。

  1. ①4/5会社の事務所で使用する文房具などを5万円で購入した
  2. ②4/10新規オープンする店舗の新聞折り込みチラシを15万円で依頼した
  3. ③4/20店舗で使用する仕入品に関する打ち合わせを業者と行い喫茶店で3千円を支払った

・発起人の口座にある資本金で支払う場合

①4/5
(仮払金) 50,000   (預け金) 50,000

②4/10
(仮払金) 150,000   (預け金) 150,000

③4/20
(仮払金) 3,000   (預け金) 3,000

仮払金を5月1日に開業費に振り替える仕訳は例4と全く同じのため省略します。また、資本金の仕訳例で確認したように、これらの経費を支払った後で300万円の資本金を会社の預金口座に移す場合は以下のような仕訳を切ります。

(普通預金) 2,796,136   (預け金)2,797,000
(振込手数料)864

ここで注意しなければならないのが貸方の預け金の金額です。会社設立時は300万円の預け金が計上されていますが、上記の①から③の支払いで50,000+150,000+3,000=203,000の預け金が取り崩されています。そのため、新設会社に移す預け金は300万円から203,000円を差し引いた2,797,000円です。

・代表者などが立て替えて支払う場合

①4/5
(仮払金) 50,000   (短期借入金) 50,000

②4/10
(仮払金) 150,000   (短期借入金) 150,000

③4/20
(仮払金) 3,000   (短期借入金) 3,000

こちらも5月1日に仮払金から開業費に振り替える仕訳は同じなので省略します。この仕訳では代表者などが立て替えた金額が短期借入金として会社の負債に計上されているため、立て替えたお金を清算する場合には以下の仕訳が必要です。

(短期借入金) 203,000   (現金) 203,000

代表者などが創立費や開業費を立て替えている場合は以上のような処理が必要となります。ただし、会社のお金と経営者などのお金は明確に区分しなければならないため、このような立替金の清算は厳密に行う必要があります。特に、個人事業主が法人成りで会社を設立する場合には個人と会社の区別が曖昧になりがちです。そのため、会社のお金と個人のお金は厳格に区分するよう注意を払って処理を行う必要があります。

 

5-2 会社設立前に支払った開業に関する費用

ここまで説明してきた創立費は会社設立までに要した設立に関する費用がその対象です。また、開業費は会社設立後から開業日までに開業の準備として特別に要した費用が対象となっていました。それでは、会社設立前に開業の準備のために支払った費用がある場合はどのような取り扱いとなるのでしょうか。

結論から言えば、この費用も設立する会社の経費として処理することが可能です。ここからは、税法の解釈や取り扱いに関する話となるので少し難しい話になりますが、法人税法基本通達2-6-2に「法人の設立期間中の損益の帰属」に関する記載があります。この中に、「法人の設立期間中に当該設立中の法人について生じた損益は、当該法人のその設立後最初の事業年度の所得の金額の計算に含めて申告することができるものとする」という記載がある通り、設立初年度の費用として処理することが可能です。

そのため、設立前の費用であっても例外的に創立費以外の勘定科目で経費として処理することができます。ただし、設立に要する期間が通常の設立よりも長い期間を要している場合や、個人事業の引き継ぎで設立する際に個人事業の延長として設立前に発生している費用については新設会社の経費として処理することができない点には注意が必要です。

 

5-3 創立費は定款への記載が必要

ここまで創立費となる経費や仕訳処理などを確認してきましたが、この創立費は定款への記載がなければ会社の経費として処理できないと会社法で定められています。ただし、創立費が以下の支出だけであれば定款への記載は不要です。

  • 定款に貼付する収入印紙代
  • 資本金の払い込みをした時の銀行に支払う振込手数料など
  • 会社法第33条の規定で決定した検査役の報酬
  • 株式会社の設立登記申請時に支払う登録免許税

つまり、上記の創立費の仕訳例で出てきた代表者印の作成費用や基本事項を決めるために要した費用などがある場合は定款への記載が必要となります。これは、発起人が設立費用の不正使用などで新設会社に損害を与えることなどを防止するための会社法の規定です。しかし、法人税法基本通達8-1-1では「法人の設立のため支出する費用で、当該法人の負担に帰すべきもの」として定款に記載のない創立費を会社の経費として処理することを認めています。つまり、会社法では創立費を会社で負担する場合は定款への記載が必要だと定めていますが、法人税では通常会社の設立に要する費用であれば定款の記載がなくても会社の経費として処理して構わないという状態です。

そのため、実務上は個人で設立する中小企業などで創立費を定款に記載することはあまり例を見ません。しかし、税務署へ提出する設立届には定款の写しを添付することが必要で、許認可事業を行う場合や金融機関との取引を行う場合、設立後に行う登記の手続きなどでも定款の写しの提出が必要となることがあります。このような場面では、定款に創立費の記載をしていることで「正規の処理を行っているキチンとした会社」というイメージを与えることも可能です。定款の記載事項が増えると謄本の交付手数料などが少し高くなる場合もありますが、できる限り正規の処理については忠実に行っておいた方がいいでしょう。

仕訳の基本に関しては5つの勘定科目分類と仕訳の法則を理解することが重要です。また、資本金や創立費、開業費の仕訳では会社設立の流れや対象となる経費を正確に把握することが最初の重要なポイントとなります。そこから、それぞれの取引の内容を詳しく理解することで正確な仕訳処理も行うことができます。

6 2018年度の会社設立の動向

2019年の会社設立の動向について、東京商工リサーチ2019年6月末現在の最新データをもとに、近年における会社設立の統計データを分析しました。その上で、会社設立の数は増えているのかどうか、また、どのような会社形態が多いのか、今後の会社設立の動向などについて見ていきます。

2018年度は、2017年度と比較し、会社設立の総数は2.7%の減少という結果となりました。2018年度(2018年1月~2018年12月)が128,610社、2017年度(2017年1月~2017年12月)が132,291社と、3,681社の減少でした。

 

6-1 各種年次報告に見る最新動向

会社設立の総数は減少していますが、会社設立を検討している人にとって気になるのは、「資本金の額はどれくらいが多いのか」「会社設立の形態(株式会社・合同会社・一般社団法人など)」「業種はどのような業種が多いか(つまり、どの業種が活気があるか)」などでしょう。

①資本金の額の価格帯

資本金の額の価格帯で特徴的なのは、資本金が100万円以下のマイクロ法人が前年比1.47%、29,419件と増加傾向にあるということです。

新会社法施行前は、株式会社の設立に1千万円以上の資本金が必要でした。しかし、現在9割近くの会社が1千万以下の資本金で設立され、さらに資本額500万円未満が全体の67%を占めるなど、全体的な資本金額のボリュームゾーンが減少している傾向です。

②会社設立の形態

会社設立の形態としては、株式会社が87,527社で全体の68%を占め、一番メジャーな形態といえましょう。また、合同会社は28,940社で全体の22.5%になり、以前より一般化してきました。

また、一般社団法人が5,982社、NPO法人が1,732社とNPO法人よりも一般社団法人の方が、設立数は多い状態にあります。

③設立数が多い業種・増加傾向・減少傾向にある業種

業種として多いのは、サービス業他の分類ができない業態(53,405件)、次に不動産業(15,701件)、建設業(13,595件)となります。

増加傾向にある業種は、運輸業20.65%、金融・保険業12.74%、情報通信業11.91%となる一方、減少傾向にある業種は、建設業▲25.62%、卸売業▲8.9%となっています。

7 法人形態の種別と種別ごとの増減

それでは、法人形態ごとの増減と、各法人形態の概要などを踏まえ、増減の傾向、推測できる理由などを記載していきます。

 

7-1 株式会社

2018年度の統計で株式会社の設立が全体の7割近く占めるなど、株式会社は最も選ばれる会社形態です。株式会社の特徴は、下記のとおりです。

  • 一般的に知名度が高いため、相手に違和感を与えない
  • 業務を執り行う実務者と、お金を出す出資者が異なっても問題ない
  • 公証人役場での定款認証手続きなど、後述の合同会社に比べ、時間と費用がかかる(公証人役場の定款認証手続きでおよそ5万3千円、加えて専門家の電子定款認証など専門家費用でプラス数万と、印鑑押印や印鑑証明などの書類集めも含め、数日から2週間の期間)
  • 業務執行者に任期があり、2年~10年。期間経過後は、必ず法務局に登記手続きを行う必要がある。
  • 毎事業年度ごとの決算公告(官報・webサイト・新聞など)の必要がある。
  • 株式譲渡は原則自由であるが、実務上は第三者への勝手な売却がないよう、譲渡制限を掛ける場合が多い

このように、株式会社は、設立コストと時間がかかるものの、一般的かつ確実な会社の形態と言えます。

 

7-2 合同会社

次に、近年増加傾向にある合同会社です。合同会社は2006年の会社法改正により設立できるようになりましたが、当初はあまり知名度がありませんでした。

しかし、会社の運営に柔軟性があり、一人会社や個人資産管理会社、不動産投資の受け皿などとして、近年はよく活用されるとともに、アップル、日本ケロッグ、シスコシステムズなどの外資系企業が合同会社の形態を選択するケースも増えました。

合同会社の特徴を挙げると、下記のとおりです。

  • 業務執行者と出資者は同一。業務執行者を出資者以外からは選任できない
  • 業務執行者の任期が存在しないため、株式会社のように任期ごとに法務局に届け出る必要はなく、あくまで役員の変更時だけ法務局に届け出ればよい。
  • 決算公告は不要なので、官報などの形で、自社の決算内容を外部に出さずにすむ
  • 出資者への利益配分は、出資割合に関係なく、社員の合意があれば自由に配分できる
  • 持分譲渡(株式会社でいう、株式譲渡)は、社員(株式会社でいう、株主)の全員の同意が必要
  • 公証人役場での定款認証の手続きが不要(ただし、紙の定款を作成し4万円の印紙を貼り付けるか、定款を電子定款化し、電子署名を専門家から受ける必要はある)

以上のような特徴から、株式会社より若干敷居が低い点があります。一方で株式会社より認知度が少し低い点もあることは留意したほうがいいでしょう。

 

7-3 一般社団法人

一般社団法人は、制度としては2008年末よりスタートした、比較的新しい制度のため、意外と認知度が低いといえましょう。公益法人制度改革により、旧来の社団法人が、厳格な認定を受けた公益社団法人と、事業に制限がなく、登記だけで法人格が取得できる一般社団法人に分かれました。

一般社団法人の特徴としては、下記の点が挙げられます。

  • 団体名に「一般社団法人」という文字を入れる必要がある。
  • 剰余金の分配を目的としない(利益を出してはいけない、というわけではない)
  • 設立には2名以上の社員が必要
  • 定款は公証人の認証が必要
  • 理事の任期は2年以内
  • 事業年度ごとの計算書類や事業報告書などの評議員、債権者への開示が要され、貸借対照表の官報、インターネットなどによる公告が必要

など、株式会社、合同会社より複雑な点が多く、通常の起業に使われるケースは少ないといえましょう。

 

7-4 NPO法人

NPO法人については、法人の主流の4形態の中では、一番登録数が少ない(1千732社)です。管轄官庁の認証手続きの煩雑さや毎年の報告などがあることから、起業という観点では、よほど社会性の高い分野の起業でない限り、そぐわない側面があるかもしれません。

その他のNPO法人の特徴を挙げると、下記のとおりです。

  • 平成24年度より、認定特定非営利活動法人制度(認定NPO法人制度)がスタートし、設立後1年を超える期間が経過した上で、一定の要件を満たし、所轄庁の相談、書類提出、確認などを経て、認定NPOとして認定・特例認定を受けると、税制優遇措置が受けられる制度が運営されている
  • 保険医療・福祉、社会教育、まちづくり、地域振興、環境保全、国際協力、男女共同参画・消費者保護など政府が認める20種類の分野に該当する活動で、不特定多数に寄与する活動であることが求められる
  • 毎事業年度ごとに、所轄官庁に事業報告書などの報告義務があり、明確な会計作成も必要。3年以上報告を怠った場合、NPO法人としての認可が取り消されることもある
  • 非営利活動(利益を挙げることはよいが、利益を分配してはいけない。給与などは問題ない)を前提としている

8 今後の会社設立の傾向

今後の会社設立の傾向を考慮すると、Fintech(金融×IT)、Agritech(農業×IT)、HR tech(人材・人事事業×IT)など、X-tech と呼ばれる、各種分野とITを絡ませた業種が増えるなど、事業を一般的な業種で定義できない事業がより増えていくことが想定されます。

この点を踏まえつつ、一般的な業種の分類を見ていきましょう。

 

8-1 今後の業種ごとの会社設立における傾向

近年の会社設立の傾向としては、東日本大震災の復興需要やオリンピックなどの建設需要を受けて、建設業の法人設立の増加が目立つ傾向にありました。復興需要については落ち着きを見せ、設立数自体は前年25.62%と大きな減りを見せたものの、やはり建設業は重要な産業であることにかわりはありません。

あわせて、サービス業その他を除くと設立数ナンバー1である不動産業についても、今後の先行きに関しては、空き家の増加、建築需要の先行きなど不確定な部分もありますが、動く金額の大きさなどから、今後も設立数は多い状態になることが推測されます。

また、情報通信業に関しては、以前よりITの様々な分野への普及を通し、業界自体の存在感が非常に大きくなっており、前年比伸び率は11.91%と、今後も伸びが期待されます。あわせて、運輸業が20.65%の伸び、金融・保険業が12.74%の伸びを見せています。

このように、業種ごとにボリューム感や特徴はありますが、起業分野も、時流に合った分野を選択する傾向は強いといえます。

なお、専門家、特に税理士は、様々な企業の決算書を見る関係上、どの業種が景気が良いのか、どの分野や現在求められているかなどを数値をベースとした実績値と、経営者や経理担当者との打ち合わせによる面談で理解しています。起業する際は、税理士など起業の専門家に最近景気のよい分野を聞くというのもひとつの策です。

 

8-2 今後想定される、業種のボーダーレス化

前述の通り、近年は、X-techと呼ばれる業態が増えています。旧来の業種に、テクノロジー活用をかけあわせる、という形で、X-techと呼ばれていますが、現在メジャーなテック業態を列挙すると、以下の通りです。

  • フィンテック(金融)
  • アグリテック(農業)
  • ガブテック(公共)
  • リーガルテック(法律)
  • フィンテック(金融)
  • (HR)ヒューマンリソーステック(人事・採用)
  • ヘルスケアテック(健康)
  • Med tech(医療)
  • Re tech(不動産)
  • Retail tech(小売)

例えば、Retail techで突出する事業者の一つが、九州を本拠地とするトライアルです。トライアルといえば、ディスカウントストアという認識を持つ人が多いですが、実はもともと、トライアルはソフトウェア開発の事業会社でした。

ここから、小売や物流、商品開発、顧客購買を踏まえたビッグデータの活用など、そして現在は、リテールAI戦略など、幅を広げています。

このように、一つの会社が、小売、運輸・情報通信を兼ねるという形態が、幅広い分野で起こっています。ただ、一つの軸として必ず「IT」が存在しますので、既存業種、特にこれまで変化の余地が少なかった業種をITの活用で変革していけるかは、大きな課題かつビジネスチャンスとなりうるでしょう。

9 まとめ

新設法人が増える分野というのは、やはり産業の伸びの余地があるために、参入者が増えるという点は確実に言えるでしょう。しかし、前述の通り、企業を○○業でひとくくりにして定義することは難しくなっていくでしょう。

たとえば、ドローンを飛ばして荷物配送(現在は規制がありますが)をしたり、測量、被災地などの撮影を行う業種があれば、どの業種にカテゴライズされるのか、とか、水田の水量をIoT(インターネット・オブ・シングス。あらゆる機械をwebにつなげ、リアルタイムで状況がわかるようにするしくみ)でwebと接続する機器を開発する一方、実証実験も兼ねて農作物にIoTを活用して農場を運営するという場合は、どうなるのか。

また、6次産業という形で、農業・食品製造業・レストランなどのサービス業を行う地方の会社はどのように定義するのかなど、どれを主とした業態とするべきか、そもそも業態を区切ることが今の時代に適しているかどうかも、もしかすると問われるかもしれません。

いずれにせよ、「業界の常識」や「業界の垣根」、そして「業態の明確な分類」というのは、難しくなっていくでしょう。

そして、あらゆる分野がITに関わっていくことは、今後も続くでしょうし、様々な産業が人手不足などの困難を解決するために、ITの力を活用し、省力化、省人化を図っていく流れも、不可避といえましょう。

もうひとつ、今後の会社設立分野で増えそうなのが、人口減少社会に対応するビジネスと考えられます。(こちらもITが大きく絡んでいくと推測されます)

例えば、人手不足を補うためのロボティクス化や、増加する空き家対策・活用・管理のサービス、医療・介護の省力化、終活や家の片付けなど、社会全体の人口も労働人口も減り、高齢化するからこそ求められるサービスは、今後増えていくことが推測されます。業態の定義が難しくなる中、会社設立を考える上で重要なのは、「自社の商品やサービスが、時流に合い、求められるプロダクトであるか?」「そして買い手はいるのか、BtoB、対法人なら、既に契約の見込みや実績はあるのか」などの観点は、とても重要になるといえるでしょう。

そして今後、あらゆる業態がITを軸に回っていく可能性が高くなるなか、ITリテラシーのない層、薄い層に対しリーチしたり、教育、営業ができる人の存在も求められることも考えられます。

起業の形態は人それぞれ異なりますが、自身の得意分野、時流などを鑑みて、ぜひ良いタイミングで専門家の力を借りた、会社設立をすることをおすすめします。