新型コロナの感染拡大は収まる気配が見られませんが、これから宿泊業で起業や会社設立を進めたいと思っている方もおられるのではないでしょうか。コロナ禍に見舞われるまでは外国人観光客の増加や東京五輪・パラリンピックの開催を控えて日本の宿泊業は好調でしたが、現在では悲惨な状況に直面しています。

そこでこの記事では、こうした環境でも宿泊業で起業したいと考えている方のために、起業や会社設立して事業を成功させるためのヒントや方法などを説明していきます。コロナ禍の宿泊業の現状や今後の見通し、宿泊業の開業の準備や課題、ウイズコロナ等での宿泊業の取るべき対策や成功のポイント、などを知りたい方はぜひ参考にしてください。

1 新型コロナによる宿泊業への影響と今後の見通し

新型コロナによる宿泊業への影響と今後の見通し

新型コロナの感染拡大が宿泊業にどのような事態をもたらしているのか、今後どう影響するのかを確認してみましょう。

1-1 コロナ禍での宿泊業の現状

コロナの影響が大きい宿泊業ですが、その実態を各種のデータから確認します。

①2020年度の宿泊業者の倒産動向

株式会社帝国データバンクが2021年4月21日に公表している「宿泊業者の倒産動向調査(2020年度)」によると、「倒産件数は前年度比66.7%増、増加率が過去最高」です。そして、その主な調査結果が以下のように報告されています。

・2020年度の宿泊業者の倒産件数は前年度比66.7%増の125件で、増加率が過去最高。125件のうち、新型コロナウイルスの影響による倒産は72件で、全体の57.6%を占めている

・業態別では「ホテル・旅館」(117件)が最多で、前年度比で約1.7倍の増加。コロナ禍でインバウンド需要が激減し、緊急事態宣言後に宿泊予約のキャンセルや施設の休業で経営が成り立たなくなったケースが多い

・地域別では「中部」(30件)が1位。「長野県」(10件)など団体旅行やスキー客の減少に新型コロナウイルスが直撃した事例もある

・負債額別では1億円~10億円が70件となり、全体の56.0%を占める

以上の内容から次のような点を認識しておくべきでしょう。

1)倒産件数が前年度比66.7%増と大幅に増え、新型コロナの影響が全体の半分強となっている点と、それ以外でも半分近くある点
⇒つまり、コロナの影響が大きくそれに対する対策が必要である一方、それ以外での倒産も多くその原因と対策も必要です。

2)業態別で「ホテル・旅館」が最多で、負債額も1億円~10億円規模のケースが多いことから、一定規模の宿泊業への影響が多い
⇒団体客などをターゲットするある程度規模を有する宿泊業への影響が大きかったこと、団体客などの多人数をターゲットする宿泊業はコロナ禍の影響をもろに受け対策を立てるのも容易でないことが推察されます。

②宿泊業界の概況

先の帝国データバンク社の情報では下記のような調査概要が報告されました。

・新型コロナウイルスの感染拡大による東京オリンピック・パラリンピックの延期やインバウンド需要の消失で、観光・宿泊業界は大打撃を受けている
⇒東京五輪・パラリンピックの開催中止や外国人観光客の訪日が回復しない場合、当面、宿泊業の景気回復を望むのは困難です。

・「GoToトラベル」も昨年末に停止され、今年1月には再度の緊急事態宣言が出されて、宿泊業者は苦戦を強いられている
⇒「GoToトラベル」の開始が感染拡大に繋がった可能性が否定しにくいため、感染拡大の収束が見込めない場合、その再開は困難になり宿泊業の景気の急回復は難しくなります。

・特に都市部では感染者数の増加に伴い予約のキャンセルが増大し、京都などの人気観光地エリアでは客室稼働率が10%台まで低下したホテルもある
⇒人が密集しやすい人気のエリアではそれを防ぐための効果的な対策を講じるとともにその点を周知させない宿泊客の回復は期待しにくいです。

今後は新型コロナの収束がカギとなり、コロナワクチンの普及などで需要回復するかどうかの動向が注目される
⇒コロナワクチンの普及速度を考えると2021年の需要回復は厳しくなるため、事業者独自の対策が必要になります。

1-2 宿泊業の今後の景気動向

宿泊業の現状は、「GoToキャンペーンの停止や緊急事態宣言の継続により、予約のキャンセルが相次ぎ、休業状態の事業者もあり、引き続き最悪期の水準にとどまっている」といった状況です(全国商工会連合会の「小規模企業景気動向調査[2021年2月期調査]」。

①景気ウォッチャー調査

全般的には厳しい状況ですが、内閣府の景気ウォッチャー調査(令和3年3月調査結果)から各地域(抜粋)の景気の先行きについて確認してみましょう。

●北海道:(先行き)良い
新型コロナウイルスに対して自己防衛しながら、楽しむことは楽しもうという客が増えてきている。このまま個々で対策しながら日常を取り戻そうという雰囲気が強まることを期待している(観光名所)

●東北:やや良い
観光事業は、個人旅行を中心にビジネス関係も徐々に人の移動は増えていくとみている(食料品製造業)

●北関東:やや良い
緊急事態宣言が解除されたこともあり、春の行楽シーズンは僅かだが増加している。ゴールデンウィークにリバウンドして感染拡大の第4波が来ないことを願っている(テーマパーク)

●南関東:やや悪い
東京オリンピックの海外客の受入れがなくなることで、更に状況が悪化する(旅行代理店)。

●東海:やや悪い
ゴールデンウィークの予約や夏休みの予約も余り増えないので先行きも心配で、このまま店舗を維持できるか閉めるかの岐路にきている。手厚い支援金があれば安心できる(旅行代理店)。

●近畿:やや良い
・GoToTravelキャンペーンの再開を期待するほか、東京オリンピックの開催による観光需要の拡大に期待したい(旅行代理店)

●四国
不変:ゴールデンウィークの客の動きも低迷する見込みである。新型コロナウイルス変異種の感染拡大や第4波に突入したとの報道等の影響が大きい(旅行代理店)。

やや悪い:3月以降、再び新型コロナウイルスのクラスター案件が発生したことにより、人の動きが止まっている(観光遊園地)

以上の通り地域によって多少違いが見られますが、全般的に厳しい状況であるものの、個人などでは感染に注意しながら旅行しようという機運が見られ始めビジネス需要などの回復も期待されそうです。こうした動きへの対応が苦境を乗り越えるヒントになり得ます。

一方、第4波以降の感染拡大が心配されており、拡大が止まらないと五輪・パラリンピックの開催や外国人観光客の回復が困難となり、団体旅行客を中心とした宿泊業では経営の維持が厳しくなる可能性が高いです。

②全国中小企業景気動向調査

信金中央金庫が全国の信用金庫の協力を得て作成している「全国中小企業景気動向調査(調査期間:3月1日~5日)」によると、「旅行関連産業ではGoToキャンペーン停止に伴う苦境を指摘する声が多い」ことが確認できます。

同報告書のページ6に(図表7)GoToキャンペーンの停止に関連したコメントが掲載されており、「GoToキャンペーン再開の具体的なめどは立っていないことから、これらの業種では、今後も厳しい環境に置かれることが予想される」と指摘しているのです。具体的には以下のようなコメントが見られます。

・GoToトラベル停止により観光客が激減し、ビジネス客の宿泊が主体となっている(温泉ホテル業)

・コロナにより、引き続き業況回復の見通しは立たない。自ホテルから感染クラスターを発生させれば致命傷となるため、神経質になっている(ホテル業)

・1~3月期に長期の休館をしていた。売上は大幅に減少したが、従業員の育成をはじめとする来季からの営業へ準備を進めている(旅館業)

・コロナが収束しないと旅行需要が期待できない現実がある(旅行代理店)

以上のことから、コロナの収束とその後のGoToキャンペーンの再開がないと宿泊業の経営の厳しさはさらに増すものと推察されます。

2 宿泊業の特徴、開業準備と経営課題

宿泊業の特徴、開業準備と経営課題

ここでは、宿泊業の基本的な特徴、開業準備の重要点、主要な経営課題について説明しましょう。

2-1 宿泊業とは

①宿泊業の定義

旅館等の業務を規定する「旅館業法」において、旅館業とは「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」のことです。また、「宿泊」とは「寝具を使用して施設を利用すること」と規定されており、旅館業は「人を宿泊させる」行為になります。

しかし、生活の本拠を置くアパートや間借り部屋などは貸室業・貸家業であって旅館業には該当しません。また、「宿泊料を受けること」が要件となっているため、宿泊料を徴収しない場合は旅館業法が適用されない行為になります。

その宿泊料は名目とは関係なしに実質的に寝具や部屋の使用料と考えられる場合、宿泊料と見なされ旅館業に該当することになるのです。たとえば、休憩料、寝具賃貸料、寝具等のクリーニング代、光熱水道費、室内清掃費なども宿泊料に含まれます。

また、宿泊施設付きの研修施設(セミナーハウス)等で研修費を徴収しているケースにおいても、その研修費の中に宿泊料相当のものが明確に含まれないことが明らかでない限り研修費に宿泊料が含まれると推定されるのです。もちろん、食費やテレビ・ワープロ使用料など宿泊に付随しないサービスの対価は宿泊料には含まれません。

上記の旅館業を行うには旅館業法上の許可が必要です。個人が自宅や空き家の一部を利用して宿泊料を受けて他者を宿泊させる場合は、「人を宿泊させる営業」に当たるため旅館業法上の許可が求められます

なお、個人の住宅等を利用して旅行者等に宿泊サービスを提供する「民泊サービス」は、平成30年6月15日より「住宅宿泊事業法」で規定されることとなり、住宅宿泊事業者としての届出により住宅での宿泊サービスの提供が正式に可能となりました。

ただし、住宅宿泊事業については、年間180日以内の実施制限(条例によりさらに短縮される場合あり)があるため、180日超の民泊サービスを行うには、原則として旅館業法に基づく許可が必要になります。

②宿泊業の種類

上記の法律に基づき宿泊業の種類を説明しましょう。

●旅館業法上の種類
旅館業法上の種類は、以下の4種類です。

旅館業法上の種類

1)ホテル営業
洋式の構造および設備を主とする施設を設けてする営業

2)旅館営業
和式の構造および設備を主とする施設を設けてする営業。駅前旅館、温泉旅館、観光旅館の他、割烹旅館が含まれ、民宿も該当するケースがある

3)簡易宿所営業
宿泊する場所を多数人で共用する構造および設備を設けてする営業。ベッドハウス、山小屋、スキー小屋、ユースホステルの他カプセルホテルが含まれる

4)下宿営業
1月以上の期間を単位として宿泊させる営業

*営業の許可が必要
旅館業を営業しようとする者は、都道府県知事(保健所設置市または特別区にあっては、市長または区長)の許可を受けなければなりません。旅館業の許可は旅館業法施行令で定める構造設備基準に、旅館業の運営は都道府県の条例で定める換気、採光、照明、防湿、清潔等の衛生基準に従う義務があります。

●住宅宿泊事業法
1)住宅宿泊事業の民泊サービス
住宅宿泊事業としての届出が必要ですが、要件を満たさないケースは認められません(登録の拒否)。また、同事業の届出をしない場合は旅館業法に基づく許可を受けなければなりません。

2-2 宿泊業での開業に向けた準備

宿泊業を営業するためには特に施設面に関する準備が重要となるため、ここではその点を中心に説明します。

宿泊業での開業に向けた準備

①事前相談

宿泊業を開業する前には自治体や公的支援機関等へ相談するのが望ましいです。宿泊業には許可・届出が求められる事業であるため、保有しているあるいは取得する物件およびその設備等において要件を満たしていない場合には許可等が受けられません。

そうした点を事前に明らかにして要件を満たせる内容を把握して、物件を確保したり設備等を導入したりする方が円滑に準備は進められます。そのため申請前に都道府県等の旅館業法担当窓口へ相談するようにしてください。

なお、相談の際には施設の所在地、施設の図面、建築基準法への適合状況、消防法への適合状況、マンション管理規約(民泊禁止事項等の有無)などの確認を求められるケースが多いため、用意しておきましょう。

②施設物件の確保

1)認可基準の適合

宿泊業を営むには他者を宿泊させるための施設が必要となるため、取得等により確保しなければなりません。施設は旅行業法や住宅宿泊事業法に対応したものとする必要があり、宿泊業の種類に応じた準備が不可欠です。

つまり、旅館業ではホテル営業、旅館営業、簡易宿所営業および下宿営業の各々の認可基準、住宅宿泊事業(民泊サービス業)の要件を満足する施設でなければなりません。

もちろんこうした施設の選定は、どのような宿泊業を行うかというビジネスモデルが前提です。基準の適合とともに、どのお客を対象として、どのような食事・体験・宿泊・サービス等を提供する宿泊業を営むのか、というビジネスモデルと資源の制約等の面からも物件を検討しましょう。

2)物件の選定

コンセプト・モデルにあった物件を確保するには、施設の内容と立地の検討が重要になります。

●立地
誰をターゲットにするかで立地の内容が異なってきます。観光名所やアトラクションなどが近くにあり多くの旅行客等を呼び込める地域ではそれらへのアクセスのよい場所が候補になります。現在だけでなく近い将来の観光地や行楽地としての魅力なども踏まえて検討しましょう。

なお、個人などの訪日外国人を対象とする場合は、交通の便が良いことに加え、わかりやすい、駅から近い・移動が楽、飲食・買物のがしやすい、などの利便性の良い立地の検討が重要です。

ビジネスホテルなどのビジネス客をターゲットする場合、彼らにとっての交通アクセスの便利な場所が候補先になるでしょう。

●宿泊施設
立地や対象客の求めるニーズに合致した宿泊施設を確保することが重要です。建物については、立地する周辺環境と調和していることと美観が特に求められます。

ただし、建物が斬新できれいな状態であっても周辺にマッチしない奇抜なものである場合ターゲットの好みに合わず、リピーターの増加や口コミ等からの増加は望みにくくなるでしょう。独創性をあまり強調し過ぎるとかえって逆効果です。

ターゲットが望む部屋の広さ、設備・機器の整備、食事等の各種サービスの提供のしやすさ、などが適しているかについても考慮する必要があります。

なお、物件探しは、当然予算の範囲内で行わなければなりません。無理して予算(計画)以上の高額な物件を確保した場合、営業後の運営の難易度が上がるため注意するべきです。

投資額や運転費用を抑えるためには、既存の施設(居抜き物件)を利用することも検討しましょう。居抜き物件などでは宿泊業に必要な設備等が設置されていたり、手を加える手間が少なくなったりして、投資額を大幅に削減できることも多いです。

③許可・届出の要件を満たすための施設に関する準備

確保した施設が目的の宿泊施設として許可等を受けられるための改築や設備・機器等を整備していかねばなりません。事前の相談の結果を受けて必要な事項を整理の上、そのための資金を調達して計画を進めましょう。

④許可・届出の手続

確保した物件に対する宿泊施設の準備に目途がたったたら、次は開業の申請手続になります。旅館業の営業は旅館業営業許可証を取得することにより可能となるため、都道府県知事あるは各自治体の担当窓口で申請しなければなりません。

申請に必要な書類は以下の通りです。

1)旅館業営業許可申請書
施設・構造設備の概要などを示します。

2)申告書
欠格事由に該当しないことなどを示します。

3)見取図
周辺の道路、住宅、学校などを示します。

4)配置図・各階平面図・正面図・側面図

5)配管図
客室にガス設備がある場合

6)定款の写しと登記事項証明書
(法人の場合)

なお、申請には手数料が必要です。費用は自治体や申請の種類により異なりますが、1万円~3万円程度になります。

また、上記の許可を受けるためのポイントとしては、以下の3点が重要です。申請に不安がある場合などは司法書士などに相談や支援を求めるのも良いでしょう。

  • ・施設の構造や設備が法令の基準を満足している
  • ・施設の設置場所が公衆衛生上の問題がない
  • ・申請者が欠格事由に該当しない

申請後には保健所の実地検査があります。保健所職員等による立ち入り検査で、建築基準法や各法令の基準を満たしているかどうかがチェックされるのです。審査終了後、営業許可書が交付されるまでに10日間~1カ月程度必要です(期間は地域によって異る)。

なお、宿泊業のタイプによって、様々な申請や登録などあるため事前に確認しておきましょう。たとえば、民宿業を営む場合には以下のような申請が必要です。

  • ・簡易宿泊所の営業許可申請、または農林漁業体験民宿の登録
  • ・料理を作って提供する施設は飲食店の営業許可の申請
  • ・飲食店の営業許可を受ける場合、施設に1人の食品衛生責任者の登録

⑤運営体制の整備

上記の準備が進めば開業に向けて施設を稼働できるように運営体制を整備しなければなりません。具体的には、営業内容や施設に合わせた適正な人材の確保、各種資材、事務機器や厨房設備などの必要なものを揃える必要があります。

そして、必要な人とモノが準備できれば適切なオペレーションができるように業務マニュアルを作って従業員の訓練を行いましょう。開業までに適切な訓練を行い必要なスキルを習得させるとともに、業務の問題点を確認しこの期間で改善することが重要です。

資材や機器等の過不足を確認するほか、食事のメニューやサービス内容の変更や追加などについて検討し直すことも必要になります。なお、宿泊業では従業員の確保が容易ではないため、早めに募集をかけ確保することが重要です。また、離職率も低くないため、彼らが働きやすい職場づくりにも注力しましょう。

2-3 宿泊業の特徴と経営課題

宿泊業で成功するには、この事業の基本的な特徴や経営課題を把握しておくべきです。

宿泊業の特徴と経営課題

①幅広い業務

●特徴:
種類によって異なりますが、旅館やホテルなどでは宿泊以外にも一般の宴会、結婚式、レストラン、売店、ケータリング、体験サービス、など多様なサービスを提供しています。取り入れていないサービスを加えていく、新たなサービスを開発することで、既存の事業の枠を超えた成長も可能です。

●経営課題:
多様なサービスを展開している場合、従業員の確保が重要となりますが、その確保が容易ではありません。また、そうしたサービスへの対応(訓練等)や長時間労働(休みが取りにくい等)などは従業員の負担となるため、離職の増加が懸念されます。

従業員のスキルの向上やホスピタリティの精神の啓蒙などに向けた訓練や研修などを定期的に実施することも必要です。

②投資額の大きさと固定費の高さ

●特徴:
宿泊業では宿泊施設に関わる建物や設備等の高額な資産を保有するケースが多いため、投資額も大きくなる傾向が見られます。また、それらの資産の確保とともに多様なサービスを展開するための人員も確保する必要があるため固定的な費用が高水準になりやすいです。

●経営課題:
投資額が多額に上ると、初期費用の調達が開業時の最大の課題になります。特に旅館業やホテル業の場合10億円以上、民宿などの簡易宿舎業などでも1千万以上の資金が必要となることも珍しくないため、資金の確保は容易ではありません。

また、施設・設備等に加え多数の従業員を雇用する場合、固定的な費用が増大し損益分岐点が上昇することになるため、利益を出すのが難しくなります。

開業に際しては精度の高い事業収支のシミュレーションを行い、利益を出せる投資や運営方法を練って実施しなければなりません。宿泊業の種類や業態、立地、事業規模、シーズンの有無やその影響など、その事業の特性を十分考慮して採算が見込める事業計画を策定しましょう。

*民泊業の場合、住居の一部などを宿泊施設として利用するため開業費は数百万円以下に抑えることも可能です(事業内容による)。

③経営の柔軟性の低さ

●特徴:
多額の投資や多くの人員を必要とする宿泊業では、整備した施設や設備などの内容を大幅に変更したり、従業員数を大幅に削減したりするといった経営の柔軟性は高いとは言えません。

宿泊業では上記のような事業上の性質があるため、事業コンセプトを変更したり、ターゲットを変更したりすることが簡単ではないです。

●経営課題:
一度多額の投資を行ったり、多くの人材を抱えたりすると、環境の変化に迅速に対応することが難しくなりやすいため、悪化をくい止めるのは容易ではありません。

しかし、悪い状態を放置すれば悪化は増すばかりとなるため、環境を見極め業態の変更などを迅速に決断することも必要です。団体客から個人客への対応、海外の特定地域から多様な地域からの集客、宿泊関連サービス主体から体験・癒し等のサービスの提供や商品販売などの多様な事業展開、事業の見直しを柔軟に進められる経営が求められます。

④集客方法の重要性

●特徴:
以前の宿泊業における集客方法は、おもに旅行代理店などの旅行会社に依存する傾向がありましたが、現在ではインターネット宿泊予約サイト経由の方法の利用などが多くなっています。

もちろん国内および海外でも団体客などは旅行代理店経由での利用も多いですが、外国人観光客を含む個人の場合インターネット経由での利用が増加しているのです。

●経営課題:
旅行代理店等経由の集客に加え、WEBを利用した集客方法にも注力することが求められます。

自社のホームページの内容を充実させ、SNSとも連動させて自社の魅力を発信し続ける取組が不可欠です。加えて利用の高いネット専門の旅行予約サイトへの登録や広告の出稿なども積極的に実施するべきでしょう。

また、リピーターの増加に向けた取組も必要で、利用した顧客には自筆のはがき・手紙やメールなどによる継続的なコンタクトを取り、良好な関係を維持することが重要です。

3 コロナ禍での宿泊業の取るべき対策

コロナ禍での宿泊業の取るべき対策

創業前後にコロナ禍のような非常事態に直面した場合、宿泊業者がどう対応するべきかについて簡単に説明しましょう。

3-1 ウイズコロナの対応

コロナ禍の状態は宿泊業に危機的な状況をもたらすため、その主要な経営課題は「経営の持続」になります。「装置産業」とも言われ、投資規模が大きく固定費の割合が高い事業構造の宿泊業でいかに運営を持続させるかが最優先課題なのです。

宿泊業はその費用構造から損益分岐点売上高が高めの水準になりやすく、売上高が少しでも減ると赤字になる確率が高まります。タイプにより損益分岐点に違いはあるものの売上が2~3カ月も大幅に下がれば経営が困難となり、倒産しかねない状態に陥りやすいです。

ウイズコロナでは、その売上の減少に直面して倒産している宿泊業が増加しています。売上を回復させることが必要ですが、その間の経営を維持するために資金繰りの悪化をくい止め、運営資金を確保していくことも欠かせません。そのため特に以下の3点に取組むことが重要になります。

ウイズコロナの対応

①いざという時の繋ぎ資金の調達に目途をつける

繋ぎ資金として利用できるものは、政府や自治体等の金融支援策、民間金融機関等からの借入、クラウドファンディングを利用した資金調達、などです。

公的な金融支援策は幅広く重層的に用意されているため、利用できるものは全て使い果たすといった意識で取組みましょう。民間の金融機関からの融資は簡単ではないですが、やり方次第では利用できる可能性は小さくありません。

ただし、経営が維持できる、改善できる見通しを客観的に金融機関に説明することが不可欠です。運営コストの削減、コロナ禍でも個人客などを呼び込める業態への変更や体験・癒しに関わる新サービスの提供、などの取り組みをアピールする必要があります。

地域によっては地元の金融機関が地場経済に影響の大きい宿泊業との関係を大切にしているケースも多いです。そのため、彼らとの関係を良好に維持して、経営改善などについて相談しておけば、資金調達での支援も受けられやすくなるでしょう。

また、新たな取組をする上での資金をクラウドファンディングで集めることも可能です。その地域の観光産業を守る、新たな魅力的な宿泊サービスを提供する、といった目的で出資や融資を募ることができます。

②運営コストを下げる

稼働率が低い状況の中、今まで通りの費用構造では直ぐに経営が破綻しかねないため、業務内容を見直し生産性を高めなければなりません。

多様なサービスと手厚いホスピタリティを提供する宿泊業では、従業員の労力で業務サービスが支えられていますが、業務が効率的であるとは限りません。古くからのしきたりや暗黙のルールなどで遂行されている業務も多く、それが従業員の負担にもなっていることもあります。

バックヤードでの業務の生産性を高めるとともに、お客から特に指示されない、必要と感じられない業務は取り除いたり、別の負担の軽い業務に置き換えたりして効率化を図るべきです。

新規に開業する場合、お客のニーズを考えた上で最も効率の良い業務方法の構築を目標としましょう。

また、効率的な運営には従業員のスキルの向上も必要となることから彼らの教育訓練も重要です。特に新たなサービス等を導入する場合は意識の変革と適切な訓練の提供が欠かせません。教育訓練は従業員にとってのモチベーションアップにもなるため、コロナ禍の不安の払拭にも役立つでしょう。

③売上を少しでも増やす

コロナ禍で人々や事業者の行動が大きく制約されニーズも変わってきているため、今までにないサービスの取組みを増やす、業態を変更する、集客方法を改善する、などの取組も必要です。

宿泊業では人を宿泊させること以外にも、食事、ビジネス、観光・レジャー、リラクゼーション、ショッピング、体験、など多様な行動に関連するサービスを提供できます。

そのため宿泊業はアイデア次第で多様なサービスを提供できる拠点となるため、事業の可能性は大きく売上を増やせる方法はコロナ禍でも少なくありません。従来からの宿泊サービスに囚われなければ経営を維持する方法を見つけることも不可能ではないはずです。

3-2 アフタコロナの対応

ワクチンの全国的な普及が今年後半から実現していく可能性もあるため、感染収束後の状況を想定した対策を検討しておく必要があります。

アフタコロナの対応

①ワクチン普及後の経済活動の正常化に伴う対応

ワクチン効果でコロナ感染が収束し始めれば、各種の営業制限や外出自粛などが緩和されていき経済活動は平時の状態へ戻っていくでしょう。

そうした状態になれば、旅行やレジャーを楽しみたい個人客が第一に増加し始め、多少時間はかかるものの、徐々に団体客の増加も見られるようになるはずです。

しかし、ウイズコロナの状況下と同様に当面は個人客を確実に捉えるための満足度の高いサービスを提供することが重要になります。戻ってきた個人客を単に確保するだけの取組ではなく、彼らを自社のファン、リピーターにしていくことが大切です。

堪能してもらえる地元食材を活かした独創的な食事、その地域でしか味わえないイベントへの参加や文化・工芸等の体験サービス、この施設でないと入手できなお土産品や農産物の販売、地域資源を絡めた癒しのすリラクゼーションサービス、などの提供でファンを作っていくことが求められます。

なお、いつアフタコロナへ移行できるかは不透明であるため、個人顧客との関係維持は重要です。そのためSNSやメール等を使った情報発信や直接的なコンタクトの継続は欠かせません。

②GoToキャンペーンの再開による需要の急増への対応

ワクチン普及の目途が立てば、GoToキャンペーンが再開される可能性が高く、宿泊需要は急増するものと予測されるため、それに備える対策も必要です。

コロナの感染拡大の第1波が収束後にGoToキャンペーンが導入され、その結果経済活動が大きく回復できたことは各種の経済指標から明らかです。そのためワクチンの普及により感染拡大の収束が確認されるようになれば、GoToキャンペーンは直ぐに再開されるでしょう。

そうなれば、以前と同様に急激な宿泊需要の増大が期待されます。何故なら自粛生活を長期に渡って強いられてきた国民の中には旅行やレジャーを直ぐにでも楽しみたいという方が少なくないからです。もちろん宿泊料が大幅に削減される点も大きな魅力になっています。

当面は個人客が急増する可能性が高いですが、その状況に対してサービスの品質を落とさず、非効率にならない運営を心掛けるべきです。数をこなすために効率を優先しサービスの内容を下げたり、品質を落としたりするのはブランド価値を下げることになるため注意しましょう。

その後、団体客や訪日客も次第に増加していくことが予想されるため、その対応も検討しておくべきです。ウイズコロナで団体客から個人客への対応にシフトしてから、今後また団体客への対応に戻すのは容易ではありません。

アフタコロナで業態を戻すことを考えている場合は、施設の変更などは短期間で費用をあまりかけずに行える方法で実行する必要があります。また、訪日外国人旅行者も徐々に回復しインバウンド需要も増大していくことが予想されるため、その対応にも早めに着手しましょう。

施設、サービス内容やサービスの提供方法など外国人のニーズに合わせた変更や導入が必要です。もちろんそれに対応できる従業員の訓練や運営システムの構築も欠かせません。他にも外国人観光客を呼び込むための旅行代理店等へのアプローチやWEBマーケティングなども積極的に行う必要があります。

4 コロナ禍でその対応を図る宿泊業の事例

コロナ禍でその対応を図る宿泊業の事例

ここではコロナ禍での生き残りに取組む宿泊業の事例を紹介しつつ、その重要点を確認していきましょう。

4-1 徹底した感染対策

●社名
株式会社萬世閣

●所在地
北海道虻田郡洞爺湖町洞爺湖温泉

●事業内容
同社は、「北海道に愛されるホテルに!」を理念として、洞爺湖万世閣ホテルレイクサイドテラス(北海道洞爺湖町)、定山渓万世閣ホテルミリオーネ(札幌市南区)、登別万世閣(北海道登別市)の3ホテルを経営しています。

●コロナによる影響
・コロナの影響により同社では、団体ツアー、修学旅行に加え個人客のキャンセルも相次ぎ、宴会や歓送迎会が激減

・政府からの大皿提供自粛要請で2020年3月からビュッフェ・バイキングによる食事提供を休止(テーブルサービスへ変更)

・4月にはインバウンド需要がほぼゼロ、4月24日から6月19日まで3ホテルとも休館

こうした状況のため、2~5月の宿泊人員は前年同期比で21.24%の激減となり、2~5月の売上高も前年同期の21.92%と減少しています。

●対策内容
・徹底した安全対策で安心・安全をお客に届ける
⇒以下の取組を実施されました。
A:飛沫・接触感染を防止するためのホテル内の換気や従業員の手洗い消毒、マスク・手袋の着用などの徹底

B:体温チェックのための「サーモグラフィー」の導入、レストランと男女大浴場入口には「混雑状況通知システム」の設置、「次亜塩素酸水生成器」や「空間除菌清浄機」の導入

C:館内や客室に「新北海道スタイル安心宣言」のボードを掲示し、感染リスクを抑える「新しい生活様式」を提案。お客へもマスク着用や手洗い、利用時間・人数の制限、室内換気などの協力を要請

国と北海道のコロナ特別貸付を活用して上記の3密回避への取組を素早く実施されています。また、消毒液やマスクなどの調達は困難を伴いましたが、取引先との良好な関係から確保に成功されています。

感染防止対策の遂行には従業員への教育が重要となりますが、正しい知識を学ぶ機会を提供し従業員の感染への不安を払拭し、お客に自信を持って安心・安全を伝達することに成功されました。

また、メディアの取材があって上記の取組が紹介されたため、徹底した感染対策を行っているホテルと伝わりブランド価値が向上しています。

●ポイント
・安心・安全に対する意識の高さと実行力
⇒パンデミック下で宿泊客を呼び込むためには、感染に対する不安を払拭することが不可欠であり、その点を同社は理解し徹底した取組を行いました。その結果、6月20日の営業再開から北海道で主流のビュッフェスタイルを復活させています。

⇒感染拡大の状況下の業務遂行は従業員を不安にさせますが、同社は教育をしっかり行って不安を払拭させ安全・安心の確保に向けた積極的な取組へと導いています。衛生資材や機器などが導入されても、それを適切に運用するスタッフの姿がなければお客に安心感を与えることはできないでしょう。

・コロナ特別貸付の活用
⇒安全対策の徹底には衛生関連資材のほか、消毒・換気関連の機器や検査機器などの導入も必要となるため少なからぬ資金が必要となりますが、その資金調達の手段として公的な支援策を上手く活用されました。

4-2 プレミアムチケットの発行

●社名
みやぎおかみ会

●所在地
宮城県。みやぎおかみ会は、宮城県の観光振興に注力するため、1991年3月に県内の旅館・ホテル事業者によって作られた組織で、36施設が参加しています。

●事業内容
参加施設は旅館・ホテル事業者です。

●コロナによる影響
・宿泊・観光業は、緊急事態宣言の2020年1月に休業を要請され、売上は前年同月比で9割減となる月があるほど影響が大きかった

・繁忙期となる大型連休にも休業や短縮営業を余儀なくされて大きな痛手を受け、人々が宿泊・観光を抑制するようになり宮城県の経済も落ち込んだ

・収入の大幅減少の中で、人件費の維持やコロナの感染防止に必要な設備投資の負担が経営の重しとなる

・観光地は繁忙期などには密になりやすいというイメージが経営を困難にさせた

●対策内容
・17施設連携による3割お得なプレミアムチケットの発行
⇒1万円の購入で1万3000円分(1000円券×13枚)が使用できる「みやぎお宿エール券」を販売する事業が開始されました。宿泊代のほか、会員施設内の飲食・入浴・土産代に使用可能で3割もお得になるプレミアムチケットの発行です。

・全施設で計1万3000セットの販売で事業継続に貢献
⇒「みやぎお宿エール券」は、7月から12月の利用が促進され、同事業に参加した全施設で計1万3000セットが販売されました。施設の事業継続に貢献したほか宣伝効果にも役立ち、券を利用した宿泊予約が7月と8月に増加しています。

●ポイント
・お客の背中を押すプレミアムチケット
⇒GoToキャンペーン等での集客効果からも窺えますが、宿泊料等の大幅な値引きとなる施策は有効です。国等の施策に加え事業者が同様の効果のあるプレミアムチケットを提供することは、感染の不安で旅行等に消極的なお客の背中を押すことになるでしょう。

・地域の同業者の連携による取組
少数の施設で利用できるだけのチケットは魅力が低くなりやすいですが、17施設の連携ならその魅力も高まり集客効果も期待できるはずです。観光はその地域全体で担われるものであるため、チケットが使用できる施設が多いほどその価値・魅力は高まります。

1施設の努力だけでは地域全体の経済効果を向上させることは困難ですが、同業者等が連携すればそれも可能です。

4-3 非対面型のビジネスモデルの導入

●社名
ランドシステム株式会社

●所在地
北海道岩見沢市4条

●事業内容
同社は北海道岩見沢市にて「岩見沢ホテル4条」や「岩見沢ホテル5条」を運営するほか、居酒屋なども経営しています。

宿泊業としては、長期出張者を主要な標的顧客とした宿泊・飲食サービスを提供するビジネスホテルの経営です。札幌圏内に位置し、スタイリッシュな客室とリーゾナブルな宿泊料金により、開業以来高い稼働率を誇ってきました。また、近年ではインバウンド需要への対応も行っています。

●コロナによる影響
・緊急事態宣言が発令されたことにより、2020年2月以降の宿泊予約のキャンセルが増加し、売上が大きく減少。飲食店も休業するに至る

●対策内容
・非対面型のビジネスモデルの推進
⇒安心して利用できるホテルを目指し、顧客と従業員との接触機会を減らせる運営が可能となるホテルのビジネスモデルが推進されました。

また、その実現の一環として、岩見沢ホテルでは新型コロナの感染拡大防止に資する「新北海道スタイル」に基づいた「7つの習慣化」に取組み顧客の安全・安心に努めています。

・補助金の活用
⇒感染拡大防止の実現には設備等の導入が必要であり、そのための投資資金の確保が欠かせません。同ホテルでは補助金を活用し、有人で対応していたチェックイン業務について「自動セルフチェックインシステム機」を使用する対応に変更しています。

・公式HP限定の割引プランの提供
⇒同ホテルへの予約を公式HPより行うとお得な割引プランが利用できます(素泊まり宿泊および朝食付き宿泊)。

●ポイント
・感染拡大防止対策と業務の効率化
⇒パンデミック下では利用する顧客の不安を除くことが最優先されるため、それについて補助金を活用して推進されました。

⇒安全・安心の確保では経営陣と従業員が一体となった取組が求められますが、感染拡大防止の行動の習熟のため「習慣化」に努めています。

⇒自動セルフチェックインシステム機の導入もあり、チェックインなどの業務の効率化や従業員の負担軽減なども目指されています。

・独自の割引プランで利用促進
⇒GoToキャンペーンの割引対象外ですが、同キャンペーンが停止する状況においては集客に貢献するはずです。

4-4 宿泊施設のオフィス利用

●社名
エイムズ株式会社

●所在地
東京都目黒区中目黒

*施設は「IMPREST STAY Tokyo Kamata」(東京都大田区西糀谷)等

●事業内容
同社は築古不動産再生のプロで、企画、設計、施工、工事後の運用まで全ての工程を自社で対応しており、賃貸、マンスリー、宿泊施設を運営しています。同社はその宿泊施設の運用において、コロナ対策として宿泊施設のオフィス利用プランを導入しました。

●コロナによる影響
不明

●対策内容
・宿泊施設のオフィス利用プランの提供(宿泊ニーズからオフィス利用ニーズへのモデルの変更)
⇒各企業では、コロナ対策としてテレワークやリモートワークなどの導入を進めていますが、ネットワーク環境や業務への集中等を考えた場合に自宅等が業務遂行の場としての環境が整っていないケースが少なくありません。

そうしたテレワーク等に適した環境を求める企業や個人のニーズに応えるため、同社は宿泊施設のオフィス利用を進めたのです。

⇒テレワーク等での生産性を高める環境として、室内での無料高速Wi-Fiの提供、キッチン・トイレ・バスルームの完備、などにより長時間の業務遂行でも快適に従事できます。

⇒エントランスへの消毒液の設置や換気の徹底、接触部分の消毒液による清掃など感染拡大防止にも注力されています。

⇒サービスプランは以下の通りリーゾナブルな内容です。
テレワーク2dayプラン:1日10,000円/1室(最低利用日数2日~)
テレワークWeeklyプラン:5日40,000円/1室
最大収容人数:6~8人程度

●ポイント
・逆風下での新たなニーズへの迅速な対応
⇒感染症の拡大は宿泊業にとって顧客の減少、収益の低下に直結する脅威であり、感染防止対策をしても集客は容易ではありません。そのため旅行やビジネスを目的とした用途では宿泊業の経営維持は厳しくなってしまいます。

そうした状況の中、テレワーク等での需要が急増しており、同社はその新しいニーズを迅速に取り込むことでこの厳しい状況を乗り越えようとしたのです。守る経営よりも責める経営を重視したやり方を同社は選んでいます。

4-5 VRを活用した新サービスの提供

●社名
てしま旅館

●所在地
山口県山口市阿知須

●事業内容
同館は、長州「山口」の海の幸を活かした会席や高森牛等の美食と、天然温泉の「源河の湯」を堪能できる6室の宿泊施設を運営しています。

また、同館は猫の山口県における殺処分0を目標に掲げたクラウドファンディングに取組み2016年6月に保護猫シェルターとしての「猫庭」(保護ネオの受入や里親探し等の運営)を完成し運営しています。同館は、猫を愛する人、動物を大切にする人などを繋ぐ施設の役割も担っているのです。

●コロナによる影響
新型コロナの感染拡大により旅行に対する自粛の念が人々に広がっており、てしま旅館や猫庭へ訪れる来館者に影響が出てキャンセルが多発しました。

●対策内容
・【VRてしま旅館 福ふく会席】プランの実施
⇒コロナのために旅行を控えている方に向けて、自宅でてしま旅館の本格会席を実際に味わえ、その上で同館のサービスを疑似体験できるVRサービスが開始されています。

時期によって異なりますが、旬の「ふぐ会席」などのリアルな料理が発送されます。たとえば、ふぐ会席2~4人用19500円、とらふぐ身皮セット3500円、などです。

そして、VR(安価なVR用ゴーグルで視聴可能)などで同館のサービスを疑似体験することができます(購入者限定あり)。「天然温泉に浸かるの巻」「猫庭で遊ぶの巻」「ロビーで寛ぐの巻」「お部屋で寛ぐの巻」が用意されています。

・新型コロナの感染防止対策
⇒もちろん、スタッフ対策、除菌対応、換気対応、チェックイン・アウト業務での対応、客室対応、など顧客や従業員が安全・安心に利用できる感染防止対策が実施されています。

●ポイント
・「何かできないか」の気持ちの具現化
⇒来館できないことを残念に思う顧客も多く、そんな声に応える方法が何かないかという思いからこのVRプランが生まれました。同館にとっても来館者の減少は経営上の大きな痛手にもなるため、何らかの売上を補完する手立てが必要であり、このVRプランが実施されたのです。

感染防止対策だけでは旅行を控えようとする雰囲気を払拭することは困難であるため、経営維持に向けた業態の変更や新たなサービスの導入などが求められます。

⇒こうした新しい取組は顧客との関係維持にも効果があり、アフタコロナにおいての利用者の増大に貢献するはずです。また、同館の知名度やブランド価値の向上にも役立ち、将来のファンを作るきっかけにもなるでしょう。

5 コロナ禍でも成功するための宿泊業経営のポイントと注意点

コロナ禍でも成功するための宿泊業経営のポイントと注意点

最後にまとめとして、今まで見てきた内容を中心にコロナ禍でも成功するための宿泊業の会社設立や経営等に関する重要点と注意点を説明しましょう。

5-1 投資額の大きさ等を踏まえ身の丈に合ったタイプで創業

宿泊業では開業に多額の資金を必要とすることから個人が創業するにはハードルが高く、稼働率が低くなると事業継続が困難になりやすいため、自身の資金や経営ノウハウなどを熟慮した判断が必要です。特に宿泊業の種類によってその経営の難易度が異なるため、その点を踏まえて創業の準備を進めましょう。

旅館やホテルの経営を始めるには初期投資で億円単位の資金が必要となるため、事業経験のない個人がこの種類で創業するのは難しいです。また、大きな宿泊施設の運営では建物、各種の設備・機器などの負担も大きくなるほか、多様なサービスを提供することになれば、運営は複雑になり経営の難易度は高くなります。

つまり、規模の大きな宿泊業になるほど必要資金は多額になり、求められる運営ノウハウも高度になるため、経験の浅い者が事業を進めるのは容易ではありません。

将来の事業展望は別としても、創業時にはその人の資金調達力と実務ノウハウ等に合わせた種類の宿泊業とその規模を適切に選ぶことが成功に繋がります。資金力が低く経験のない個人が宿泊業を始める場合、民泊や民宿などの簡易宿泊業からスタートする方法は有望な選択肢になるはずです。

無理をせずに身の丈に合った創業を行い資金と経験を蓄え、将来には規模の大きい旅館やホテルなどの運営を目指すとよいでしょう。

5-2 宿泊業のコスト構造等の特徴の把握と対策

宿泊業は多額の建物・設備等の固定資産を必要とし、多人数の従業員を雇用して事業を行うことも多く、固定的な運営コストが高くなる傾向があるため経営が難しくなりやすいです。そのため固定的な費用をできるだけ削減し、稼働率を高める対策が求められます

民泊などを小規模で開業する場合何百万円といった資金で対応できますが、規模を大きくする、民宿業などを始める場合などでは何千万円、旅館やホテルなどでは10億円といった多額の資金が必要になります。また、規模が大きくなるほど運営スタッフも多くなりやすいです。

つまり、規模に従って固定的な費用が多くなり経営が難しくなります。そうした経営の負担を軽減するには、固定的な費用をできるだけ抑えるとともに施設の稼働率を高めなくてはなりません。

固定的な費用の大きさは、建物、提供するサービスの種類・数、設備・機器・資材の内容によって異なってきます。そのため流行している、他の宿泊業が導入している等の理由から安易に建物の構造やサービスを導入すると単に財政上の負担を増すだけになりかねません。

投資する前、事業を始める前には、事業内容から得られる収益をもとに収支シミュレーションを行いましょう。想定される稼働率で本当に経営が維持できるのか、稼働率がどの程度まで下がったら赤字になるのか、などを確認して事業計画や投資計画を作り検討するべきです。

また、必要なサービスはターゲットのニーズに適合しているもので、かつその利用から収益の向上に結び付くことが前提となるため、その点を踏まえて採用の是非を決定しなければなりません。ターゲットに特に必要とされていないサービスを、費用をかけて提供しても経営上の負担になるだけです。

集客には新サービスの導入が有効ですが、あくまで顧客満足の点と自社の経営資源の制約なども合わせて検討するようにしましょう。また、サービスの導入だけでなく、自社によるHPやSNSなどの情報発信と顧客との関係づくり、旅行代理店や旅行情報提供サイト等の積極的活用、など集客に関するマーケティングにも注力することが求められます。

5-3 コロナ禍を乗り越える安全・安心の対策

コロナ禍を乗り越える安全・安心の対策

パンデミック下でも顧客に足を運んでもらうには施設の利用に対する不安を取り除く必要があるため、感染防止対策の実施が前提になります。ただし、そうした安全・安心を担保する取組を施設が実際にどの程度実現できているかという点と、その内容を顧客に伝える取組も必要です。

まず、各施設で顧客が本当に安心して利用できる、また従業員の安全も確保できる内容の感染防止対策を立案する必要があります。宿泊業や飲食業関連の業界団体等が作成するガイドラインなどを参考にして顧客だけでなく従業員にとっても安心できる対策内容を検討しましょう。

そして、次に重要なのは対策案を実施していくことです。これには経営者が陣頭指揮をとって従業員を巻き込み進めて行くことがポイントとなります。そのためには安全対策に対する意識を経営者も従業員も改めなければなりません。

特に従業員には業務で感染するという不安を抱かれてもおかしくないため、正しい感染防止対策の実施が従業員の身を守る点を研修等で認識してもらうことが不可欠です。施設内の安全・安心を確保することが自身と施設の事業継続を支えるという点をしっかり理解してもらいましょう。

こうした感染防止対策を1施設が行っても地域全体の観光・レジャーに対する不安を払拭することは困難であるため、できれば地域の複数の施設が連携して取組むことが重要です。地域全体で質の高い安全対策を実行していれば、その地域への旅行等に対する不安が和らぎ客足を早めることに繋がるでしょう。

5-4 業態の変更や新サービスの導入など収益を確保する取組

パンデミックに対する安全対策だけでは経営の維持は困難になるため、業態の変更や新サービスの導入など収益を確保する取組も不可欠です。守るだけの経営ではこの苦境を脱するのは難しいため、攻めの経営を取り入れることも考えましょう。

もちろん新たな取組をする前に今までの事業内容や費用構造等を分析し、厳しい状況に少しでも耐えうる事業運営を検討するべきです。従業員の理解と協力も得てこの機会に低コスト運営できる業務改善に取組みましょう。

昔からやっているから行う、というのではなく客に求められることだから行う、という考えで業務のやり方を見直すことは重要です。特に今後は個人客が主要な対象となるため、個人客目線での改善が求められます。

業務のムダをなくした上でお客を呼び込む、お客が来なくても収益が得られる、今までとは異なるお客を呼び込む、などコロナ禍の影響を受けにくい新たな取組を攻めの経営として実行しましょう。たとえば、以下のような取組が候補になるはずです。

  • ・ホテルをリモートワーク等の労働の場として提供する
  • ・地域で活用できる割引チケットや将来利用できるプレミアチケット等を販売する
  • ・施設や地域の自慢の料理や食品のほか工芸品などを販売する
  • ・地域で有名な工芸や農産物等に関連した体験・学習の機会を提供する
  • ・近隣地域限定の魅力的な割引プランを提供する
  • ・癒しをもたらすリラクゼーションサービス等を提供する
  • ・地域で協賛している施設が割安で利用できるサブスクリプションサービス(毎月一定額の支払いで利用できるサービス)を導入する
  • ・AI技術を活用したセルフサービスを導入する
  • ・ケータリングを行う

ほかにも多様な新サービスの導入が進められています。自社や地域の保有する有望な資源を棚卸して他社とも協力して検討しましょう。なお、感染拡大の勢いが止まずワクチンの普及に遅れが見られるような場合は起業・会社設立は少し先送りすることも検討してください。