日本における法人税は、税引前の所得額に対して35%ほどの実質的な法人税率が課される仕組みになっています。また、所得税率や相続税率も高かくなっており、相続税においては基礎控除も減少している状況です。アメリカをはじめとする海外の国々と比べても課税の水準が非常に高く、経営者は少しでも納税額を減らしたいと考えている方がほとんどかと思います。そこで今回は、法人保険を活用した節税方法についてご紹介したいと思います。

1 生命保険と法人保険

法人保険を活用することで、節税効果を得ることができます。しかし、保険のことはよく分からないから生命保険会社の担当者に任せきりという方も少なくないのではないでしょうか。ここでは法人保険による節税方法に入る前に、その基礎となる生命保険と法人保険の仕組みについて説明します。

 

1-1 生命保険とは

法人保険の説明をする前に、そもそも生命保険とはどういう仕組みになっているのかということについてご説明したいと思います。

生命保険は、一言でいうと「相互扶助」「助け合い」の仕組みとされています。例えばA、B、Cの3人で1人100万円ずつ出し合い300万円の保険を作ったとします。ここで、最初にAが死亡した場合、Aの家族が保険金として300万円を受け取ることになります。つまり、Aは100万円投資することで300万円を受け取ることができ、BとCは100万円を失うことになります。このように、生命保険は先に不幸になった人が得をする「確率商品」という仕組みがベースの考え方になります。

生命保険の保険料は、「事故率」「運用利率」「事業費率」の3つが基礎になって決まります。

事故率は、人がどのくらいの確率で死亡するのか、どのくらいの確率で特定の病気にかかるのか、どのくらいの確率で病気にかかり、どのくらいの期間入院するのかといった確率になります。

運用利率は、預かった保険料を運用してどれくらいの利益を出せるのかという収益率になります。ちなみに、生命保険会社の運用先は日本国債が40%以上を占めているため、なかなか利益が出ず、資産が増えづらいというのが現状です。

事業費率は、生命保険会社の運営コストになります。いわゆる、生命保険会社が受け取る「中抜き部分」になります。日本の保険会社の事業費率は、世界的に見てもトップクラスの高さであることで有名です。

以上が生命保険の基礎になります。生命保険の仕組みは複雑化しているため、こういった基礎的な知識も持たず「保険会社の担当者におすすめされたから」という理由だけで契約してしまう人も少なくはありません。まずは、こういった基礎を踏まえたうえで、法人保険について見ていきたいと思います。

 

1-2 法人保険とは

法人保険とは、その名の通り法人が加入する生命保険になります。法人保険に加入するメリットは、大きく分けて事業保障と節税効果の2つになります。

事業保障というのは、個人が万が一の際に家族の生活資金を確保するために加入する生命保険と同様の考え方になります。経営者の身に何か起きた際に、会社の借入金の返済資金を確保したり、経営者の死亡退職金を準備するために生命保険に加入することをいいます。

また、従業員の保障制度を整備するためにも生命保険に加入します。従業員の退職金の資金を準備しておいたり、従業員の身に何かが起きた際に、従業員の家族への生活を保障するといった福利厚生制度の確立に生命保険を利用します。

そして、これらの生命保険に加入することによって副次的に得られるメリットが節税効果になります。この副次的なメリットが重要で、会社はこの法人保険を上手に活用することで、最大限に節税効果を引き出すことができることになります。

2 法人保険のいろいろな活用方法

法人保険に加入するメリットには、大きく分けて事業保障と節税効果の2つがあることを簡単にご説明しましたが、これらを組み合わせ計画的に法人保険の活用をすることで、さまざまな効果を生み出すことが可能になっています。ここでは、法人保険のいろいろな活用方法についてご紹介したいと思います。

 

2-1 法人保険と節税の関係

法人保険に加入した場合とそうでない場合とでは、支払う税金の額に大きな差が出ます。

現在の日本における法人税率は、実質35%ほどになっています。つまり、1億円の課税所得がある場合、そのうち約3,500万円もの金額を法人税等として支払わなければなりません。しかし、法人保険を活用すると、支払った保険料は損金として所得金額からマイナスできますので、その分だけ支払う税金が少なくて済むことになります。

法人保険に加入することで、会社は利益の一部を生命保険会社に預けておき、解約時に解約返戻金として預けておいたお金を取り戻すことができます。解約返戻率は商品の種類や解約する時期、契約年数によって変わってきます。そのため、どんな商品を選び、いつ解約するのかをプランニングしておく必要があります。

法人保険は、加入することで事業保障のメリット、節税効果のメリットを享受することができる入口効果と、法人保険を解約して解約返戻金を受け取ったり、生命保険を担保として融資を受けたり、さらには譲渡によるメリットを受けることができる出口効果があります。

 

2-2 出口戦略の重要性

前項で法人保険のメリットには入口効果と出口効果の両面があり、その両面を考慮した上でのプランニングが必要であることをご紹介させていただきました。法人保険を活用する際には、入口効果を重要視しつつ、出口戦略はさらに重要なものになります。つまり、法人保険を契約する際には、事前に出口戦略を考えておくことがとても重要ということになります。

法人保険を解約し解約返戻金を受け取った場合には、その全部または一部が雑収入として益金に算入されます。そして、その益金に対して法人税等が課されることになります。つまり、出口戦略を何も考えずに法人保険を契約してしまうと、契約時には節税効果があるものの、解約時には税金を支払うことになり、ただの課税の繰り延べ、税金支払いの先送りということになってしまいます。

しかし、将来的に資金を使う予定が決まっていれば話は変わってきます。「〇年後に大型の設備投資を予定している」「〇年後に退職金を支払う予定がある」「〇年後に建物の大規模修繕が必要」といった予定があれば、その〇年後に解約返戻金を受け取れるようにプランニングしておけばよいのです。必要な資金に法人保険の解約返戻金を充てることで、解約返戻金による益金と支出による損金が相殺され、税金の支払いによる資金の流出を防ぐことができます。このように、出口戦略をしっかりと計画しておくことが、法人保険のメリットを最大限に活かすために非常に重要なポイントとなっています。

 

法人保険の中には、保険料の全額を損金として処理できるものがあります。また、全額損金とすることができない法人保険でも、入口戦略と出口戦略を工夫することで、全額損金算入と同様の効果が得られるものもあります。逆に言うと、全額損金に算入できるという入口効果だけに目を奪われてしまって、出口で失敗してしまうということもあります。節税目的で法人保険に加入したものの、思っていたよりも解約返戻金がもらえず、結局トータルでみると損をしてしまったという話はよく耳にします。法人保険を契約する際には、入口効果だけでなく、出口効果も事前に確認し、両面から考えてバランスのとれた商品を選択することが必要になります。

 

2-3 法人保険による貯蓄効果

法人保険には、貯蓄効果があると言われることがあります。そもそも保険と預貯金とでは根本的に異なるものではありますが、会社の資金の一部を保険会社に預けておき、一定期間後に解約返戻金として受け取ることができるため、預貯金と似たような運用が可能になります。

法人保険と預貯金の異なる点としては、元本保証ではないということが挙げられます。預貯金の場合、預けてある資金が減るということはありませんが、法人保険の場合には預けた資金、すなわち支払った保険料よりも解約時に解約返戻金として受け取る金額が少なくなるケースもあります。法人保険には、投資額に対して回収額が減るというリスクがあることも頭の中には入れておく必要があります。

ただし法人保険の場合には、預貯金にはない保障という機能があります。保険なのですから当たり前のことですが、保険の契約期間中にもしものことがあった場合には、保険金として支払った保険料の何倍もの金額を受け取ることができます。法人保険は、事業保障というメリットを受けながら、預貯金のような運用をすることもできるということができます。

そもそも法人保険は、もしものことが起きてしまった場合に備えて、事業保障を目的として加入するものですが、実際には法人保険に加入した数年後に解約し、解約返戻金を受け取ることで出口効果を得るというパターンが多いようです。

 

2-4 法人保険の活用で簿外資産を形成

保険料の全額が損金に算入される法人保険では、将来返ってくる解約返戻金は法人の資産としての要素が強いにもかかわらず、その金額は貸借対照表には計上されません。つまり、法人保険に加入することで、簿外資産という隠れた資産を形成することができるのです。

簿外資産があれば将来に備えることができます。もちろん、簿外資産とせずに、内部留保として社内に蓄え将来に備えることはできますが、内部留保金額はあくまでも税金を支払った後の金額を積み立てたものになります。しかし、法人保険を活用すれば、税金を支払う前の利益をそのまま簿外資産として蓄えておくことが可能になります。

法人保険を活用して簿外資産を形成する際には、注意しなければならない点があります。それは、簿外資産の比率が増えすぎると表面上は資産が少なくなってしまうため、金融機関等から融資を受ける際の評価が低くなってしまう可能性があるということです。近年では、銀行自身が法人保険の販売をしていることもあり、解約返戻金相当額を資産としてみなしてくれるところも増えていますが、金融機関によっては法人保険の解約返戻金は融資の審査対象外となってしまう場合があります。そのため、帳簿上の資産と簿外資産とのバランスには注意を払う必要があります。

 

2-5 個人契約と法人契約の税効果の違い

経営者が自身の保障のために個人で生命保険に加入していることもあると思います。しかし、個人で保険に加入するよりも、法人契約で生命保険に加入した方が、より高い税効果を得ることができる場合もあります。

例えば、会社から役員報酬として5,000万円を支払う場合と保険料を5,000万円支払い場合で考えてみたいと思います。役員報酬が5,000万円の場合、所得税率は55%になりますから最大で約2,750万円かかることになります。税金を引かれた後の手残りで保険料を支払うことを考えると、残りの2,250万円しか保険料として使うことができません。しかし、法人保険の場合には、5,000万円をまるまる保険料として支払うことができ、その保険料の全部または一部が損金として算入できるため、法人税等の課税対象額を小さくすることができます。

医療保険やがん保険といった、一般的に個人で加入する保険の場合でも同じことが言えます。個人で保険に加入している場合には、所得税における所得控除額は年間で最大4万円、住民税の所得控除学は年間で2.8万円にしかなりません。しかしながら、法人保険であれば金額に上限はなく、100万円の保険料を支払った場合には、最大でその全額を法人税の所得金額から控除することができるのです。このように、節税効果を考えると個人で保険に入るよりも法人契約で保険に入った方が有利であることが分かると思います。

 

2-6 個人契約の方が有利なケース

先ほど個人で保険に加入するよりも法人で保険に加入した方が税効果が高いことをご説明しましたが、個人で加入した方がメリットがある場合もあります。それは、医療保険ががん保険の給付金の受け取り時になります。

入院や手術の際に支払われる給付金や、がんと診断された際に支払われる給付金などは、法人契約の場合には雑収入として扱われ、その全部または一部が法人税等の課税対象となってしまいます。しかし、個人の場合にはこれらの給付金は非課税になります。つまり、保険に加入して保険料を支払う際には法人契約の方が有利で、給付金を受け取る際には個人の方が有利ということになります。

これらの問題を解決する仕組みとして、契約名義の変更という方法をとることができます。法人契約で保険に加入したとしても、のちに個人契約に変更することができるのです。すると、保険料の支払時には保険料を損金算入することで節税効果が生まれ、給付金を受け取る際には個人名義に変更しておくことで、税金を支払うことなく給付金を受け取ることが可能になります。

名義を変更する手続きはそれほど難しくなく、保険会社にもよりますが、必要書類を提出することで1日から数日で変更手続きが完了します。法人契約と個人契約を上手く使い分けることで、法人保険のメリットを最大限に活かすことができるのです。

 

2-7 法人保険を活用した資産の移転

保険の契約を法人名義から個人名義に変更することで、節税効果が図れることについてご紹介しましたが、この仕組みを利用して資産を法人から個人に移転することも可能です。

保険の種類によっては、解約返戻金の返戻率が契約期間の途中で急激にあがるパターンのものがあります。例として、1年間の保険料が1,000万円、解約返戻金の返戻率が4年目で15%、5年目で95%という法人保険で考えてみたいと思います。法人で保険料を4年間支払い、4年目で法人契約から個人契約に変更します。この場合、保険の税務上の買取金額は解約返戻金相当額になるので、4,000万円×15%=600万円になります。そして、翌年に個人で保険料1,000万円を支払えば解約返戻率は95%に上がるため、解約返戻金は5,000万円×95%=4,750万円にものぼります。つまり、解約返戻金4,750万円-買取金額600万円-保険料1,000万円=3,150万円が個人の所得として移転したことになります。

この3,150万円には所得税がかかることになりますが、一時所得として扱われるため、所得額から50万円の特別控除を差し引いた金額の50%が課税対象となります。つまり、(3,150万円-50万円)×50%=1,550万円だけが、所得税および住民税の課税対象となるのです。役員報酬や賞与として支給するよりも圧倒的に有利な条件で、法人から個人へ所得の移転をすることができます。

 

2-8 法人保険を利用して決算書をきれいにする

銀行からの融資を受けるために、法人保険を利用して決算書をきれいにするという活用方法もあります。特に中小企業の場合、会社のお金と経営者個人のお金とを混同してしまっているケースがあります。具体的には、会社が経営者にお金を貸しているという状態を指します。

銀行側では、融資の審査の際、会社から経営者への貸付金は不良債権のような扱いになります。そのため、融資の承認が出しづらい状況になってしまいます。この不良債権を、法人保険を利用して消してしまい、決算書をきれいにするというスキームがあります。

このスキームを使うには、まずノンバンクが登場します。会社の経営者に対する債権を買い取ってもらうことで、不良債権に該当するものが消えることになります。しかし、ノンバンクも無担保では融資はしてくれないので、ここで法人保険を活用することになります。会社は、ノンバンクに債権を買い取ってもらったお金を利用して、経営者を被保険者とする積立型の生命保険に加入します。そして、その生命保険に対してノンバンクが担保設定をすることになります。こうすることで、会社の決算書からは不良債権が消えてきれいになり、銀行からの融資が受けやすくなるようになるのです。

その後は、会社はノンバンクに対して返済をしていくことになります。返済が完了した後は、その生命保険は純粋に会社の資産ということになります。積立型の生命保険なので、そのまま保有していれば解約返戻金は少しずつ増えていきますし、また、解約して会社の資金として使うこともできます。

 

2-9 相続・事業承継にも活用できる法人保険

近年では、相続税率は最大で55%まで上昇し、基礎控除額についても減少してきている状況にあります。経営者が亡くなりその子供が会社を引き継ぐ場合など、事業を承継するためには、自社株を相続する必要がありますが、その相続に対する相続税の準備不足などにより、事業承継が難しくなるケースもあります。そこで、法人保険を活用して相続税を軽減する方法が考えられます。

法人保険の死亡時に保険金が支払われる仕組みと、保険の名義変更の仕組みを利用して、事業を承継する人になるべく低い税率で資産を移転し、事業承継を可能にすることができるのです。具体的な方法については、次章で詳しくご紹介したいと思います。

3.MHPスキームとGHTスキーム

法人保険を活用した資産移転の方法はいくつかありますが、その中でも特によくつかわれる手法にMHPスキームとGHTスキームというものがあります。ここでは、その2つのスキームについて詳しく見ていきたいと思います。

 

3-1 MHPスキーム

法人保険を活用して資産を移転するスキームの1つにMHPスキームというものがあります。10年以上に渡って長く活用されているスキームで、法人保険を活用した資産移転の代表的ものになります。MHPスキームではどのように資産が移転されるのか、具体的にご紹介したいと思います。

MHPスキームでは、低解約返戻金型の逓増定期保険を活用するのが一般的です。低解約返戻金型というのは、保険料の払込期間における解約返戻金を低く抑える代わりに、保険料を割安にしたものになります。保険料の保払込期間中に解約してしまうと損をしてしまうことになりますが、払込完了後に解約返戻金の金額が大きく跳ね上がり、満了後に据え置くことでさらに解約返戻率が上がるという特徴があります。割安な保険料で保障を確保しつつ、貯蓄も兼ね備えることが可能になります。

MHPスキームでは、契約時には契約者を法人、被保険者を経営者、保険金受取人を法人にしておきます。保険の種類については次の章で詳しくご紹介しますが、逓増定期保険では保険料の50%を損金に算入できますので、この時点でまず法人の節税効果のメリットを受けることができます。

その後、解約返戻金が大きく跳ね上がる前年に、法人名義の逓増定期保険を経営者個人の名義に変更します。変更時の契約内容は、契約者を経営者、被保険者も経営者、保険金受取人を経営者の遺族というようにします。税法上、保険の評価額は解約返戻金相当額になっていますから、経営者は低く抑えられた解約返戻金相当額で保険を買い取ることができます。そして翌年に1年分だけ保険料を支払うことで、大きく跳ね上がった解約返戻金を受け取ることができるようになります。

解約返戻金は、所得税の計算上は一時所得として扱われ、特別控除額50万円を差し引いた後の金額の2分の1だけが課税対象の金額となります。これを仮に役員報酬や役員賞与として経営者に支給した場合、所得税・住民税を合わせた税率は最大で55%にものぼることを考えると、税金の支払をかなり抑えた形で資産の移転ができることがお分かりいただけるかと思います。また、法人側でも4年間に支払った保険料の50%が損金として処理され、さらに名義変更時にも雑損失が生じ、これもまた損金に参入することが可能になります。法人と経営者個人を双方合わせて考えると、とても大きな節税効果が得られることになります。

MHPスキームは、10年以上に渡って長く活用されている手法ですが、名義変更をするタイミングを誤ってしまい、資産移転ができなくなってしまったというケースもよく見られます。名義変更のタイミングを逃してしまうと、解約返戻金は大きく跳ね上がってしまうため、買取金額も大きくなり、資産移転のメリットがなくなってしまいます。MHPスキームを利用する際には、契約時から解約時まで計画的に行うことが重要になってきます。

 

3-2 MHPスキームの応用 -相続・事業承継-

保険会社にもよりますが、保険は被保険者である経営者からみて3親等内の親族まで、名義変更により譲渡することが可能になっています。つまり、事業承継などを考えた場合、契約名義を後継者である経営者の子供や孫、その他の親族に変更して、資産を移転することができるということになります。

例えば、後継者を経営者の息子にしたいと考えた場合、契約時の内容が、契約者を法人、被保険者を経営者、保険金受取人を法人としていたものから、契約者を経営者の息子、被保険者を経営者、保険金受取人を経営者の息子の遺族という形で名義変更することで、経営者の息子への資産移転を図ることができます。将来の相続人である経営者の息子への資産移転をしておけば、相続税の納税資金として備えておくこともできますし、事業を承継する場合でも、自社株の購入資金に充てることも可能です。

MHPスキームは、保険会社の引受限度が残っている限り何度でも利用することができます。そのため、毎年1本ずつ法人保険を契約していき、例えば4年後に名義変更をするというプランニングをしておいたとすると、最初の契約時の4年後以降は、節税効果を得ながら資産の移転をすることが毎年できることになります。

 

3-3 MHPスキームの応用 -出口戦略の工夫-

MHPスキームでは、個人に名義変更したのち、解約返戻金を受け取ることで節税効果を経ながら資産移転ができるというご説明をしましたが、名義変更した後も解約しない、または、部分的に解約するなど、他にもさまざまな出口戦略が考えられます。

名義変更後に保険を解約しない場合、保険を万一の場合の保障として保有しておくことができます。この場合、保険を払済保険にすることになります。払済保険とは、以後の保険料を支払うことなく、これまで支払った保険料に見合った保障を受け続けることができる制度になります。

先にご紹介した例でご説明すると、4年目に保険の名義変更をしたのち、翌年に1年分の保険料を個人で支払い、その時点で払済保険にします。すると、その後は保険料を支払う必要がなく、保障が一生涯続くことになります。もし、万一のことがあった場合には、保険金は遺族に渡ることになります。また、解約せずに据え置くことで、解約返戻率が上がっていくことになりますから、保障が得られると同時に貯蓄効果も受けることができます。

税務処理についてですが、払済保険にした時点では課税所得は生じないため、特に何もする必要はありません。資金が必要になった際には、その時点で解約して解約返戻金を受け取り、そこで初めて一時所得が生じることになります。

払済保険の解約は、一括だけでなく分割で解約することもできます。そのため、毎年の所得金額を考慮しつつ、100万円だけとか300万円だけを分割で解約し、所得税・住民税の額を調整することが可能になります。極端なことを言うと、一時所得には年間50万円の特別控除があるので、毎年50万円ずつ解約していけば税金の支払はゼロで解約返戻金を受け取ることができます。

払済保険にしたあとの、もうひとつの出口戦略として、借入をするという方法があります。ほどんどの保険商品は、保険会社から解約返戻金の70%~90%の範囲で借入をすることができるようになっています。当然のことながら借入金は所得ではありませんので、ここで税金を支払う必要はありません。

保険会社から借入をする際には注意点があります。それは、借入金に対して金利が発生するということです。借入は、解約返戻金の70%~90%の範囲となっているため、借入金と金利の合計がその範囲に達してしまうと、この保険はオーバーローンのため失効してしまい、消滅することになってしまいます。借入金と金利が解約返戻金と相殺され、最終的に借入金の元金部分だけを回収して終了という形になります。失効してしまった場合には、解約と違って支払調書が発行されないため注意が必要です。

 

3-4 MHPスキームの応用 -法人間の資産移転-

これまで、法人から個人への資産移転についてご紹介してきましたが、MHPスキームでは法人から法人への資産移転も可能になっています。複数の法人を所有していて、メインの法人が変更になった場合、M&Aや組織再編といった場面で活用されることが多いです。

方法は法人から個人へ名義変更する場合と同じです。例えばA法人からB法人への資産移転をしようとした場合、保険の契約時は契約者をA法人、被保険者を経営者、保険金受取人をA法人にし、解約返戻金が大きく跳ね上がる前の年に名義変更をします。名義変更後は、契約者をB法人、被保険者を経営者、保険金受取人をB法人とすることで、翌年にB法人が保険料を1年分支払うだけで、B法人への資産移転をすることができます。

この時の税務処理ですが、A法人ではこれまでに支払った保険料が損金に算入され、さらに名義変更時に雑損失が生じることで節税効果を受けることができます。一方、B法人では保険を解約すると多額の解約返戻金が入り、雑収入として益金が生じることになりますが、このときB法人が赤字であれば、解約返戻金による収入が相殺され支払う税金を抑えることができます。これも、法人から個人へ名義変更した場合と同様に、解約の方法を工夫することで税金の支払による資産の流出を抑えることが可能になります。

この法人から法人への名義変更をさらに応用すると、A法人からB法人へ資産を移転し、さらにB法人から経営者個人への資産移転をするという方法も考えられます。A法人で契約した法人保険を1年目にB法人に名義変更したとします。1年目の解約返戻金がゼロだとすると、B法人ではA法人への支払なし、つまり資産を流出することなく保険の契約だけ入手することができます。2年目以降はB法人で保険料を支払っていき、解約返戻金が大きく跳ね上がる前の年に経営者個人へ名義変更をします。経営者は、その翌年の保険料を支払うことで、解約返戻金を受け取ることができ、資産の移転が完了します。

ここでのポイントは、1年目の解約返戻金がゼロであるというところにあります。税務処理を見てみると、A法人は1年目に保険料を支払い、その50%が損金として算入されます。そして、B法人へ名義変更することで雑損失が発生し、結果として支払った保険料の100%が損金に算入されることになります。B法人から経営者個人への名義変更については、先に述べた通りになります。このときB法人において大きな赤字が生じているのであれば、経営者に名義変更せずにB法人で解約返戻金を受け取り、赤字と相殺することで税金の支払を抑えるという方法も考えられます。A法人とB法人、経営者個人の経営状況や財政状態を考慮しつつ、計画的に法人保険を活用することで、さまざまな効果を生み出すことが可能になっています。

 

3-5 GHTスキーム

MHPスキームと並んで活用されているものにGHTスキームというものがあります。GHTスキームは、逆ハーフタックスプランとも呼ばれており、MHPスキームのように保険を譲渡する仕組みはありませんが、法人から個人にダイレクトに資産を移転することができます。

これも次章で詳しく説明しますが、養老保険の50%損金タイプがハーフタックスプランと呼ばれるものになります。この保険の場合、契約者は法人、被保険者は経営者、役員、および従業員、死亡保険金の受取人は経営者、役員および従業員の遺族、満期保険金の受取人は法人という契約になります。法人としては、保険料の50%を損金に算入することで節税効果のメリットを受けつつ、経営者、役員または従業員に万一のことがあった場合には、福利厚生として保険金が遺族に支払われるという保障があり、何事もなく満期を迎えた際には保険金を法人で回収し、経営者、役員または従業員の退職金の資金に充てることができるという仕組みになっています。

これが、GHTスキームすなわち逆ハーフタックスプランになると、契約者は法人、被保険者は経営者、役員および従業員、死亡保険金の受取人は法人、満期保険金の受取人は社長、役員および従業員の遺族という契約になります。つまり、死亡保険金の受取人と満期保険金の受取人が逆になっているのです。保険が満期を迎えた際に、ダイレクトに個人に保険金が支払われ、資産を移転することが可能になっています。

GHTスキームでは、満期保険金の受取人を個人にすることで、法人から個人への資産移転を可能にしていますが、契約時に満期保険金の受取人を個人にすることが基本的にできないことになっています。そのため、契約時には通常のハーフタックスプランの形で契約し、契約後すぐに受取人の変更を行うことで、逆ハーフタックスプランの形を作ることになります。この受取人変更の手続きは保険会社に申し出れば可能なのですが、代理店や担当営業者によっては受け付けないことにしているところもあるため、GHTスキームを利用する際には事前に相談しておくことをおすすめします。

4.法人保険で使われる保険の種類

ここまで、法人保険を活用した事業保障・節税効果といった活用方法についてご紹介してきました。それでは、実際に法人保険として利用される保険にはどのようなものがあるのでしょうか。ここでは、具体的な保険の種類とその内容についてご紹介したいと思います。

 

4-1 長期平準定期保険

法人保険でよく使われる保険は、保険料の全部または一部を損金に算入でき、解約返戻率が高いものになります。その代表的なものとして、長期平準定期保険と逓増定期保険があります。逓増定期保険については次項で詳しくご説明しますが、長期平準定期保険と近いところがありますので、両者を比較する形でご紹介いたします。

本来、定期保険と呼ばれるものは100%損金算入が原則となっていますが、長期平準定期保険と逓増定期保険については、特別に経理処理のルールが定められています。具体的には、長期平準定期保険は保険料の1/2損金、逓増定期保険は1/2損金、1/3損金、1/4損金のいずれかとなっています。

長期平準定期保険と逓増定期保険の違いは、まず保障の仕組みにあります。長期平準定期保険は、契約期間中の保障額が一定なのに対し、逓増定期保険は保障額が年々増えていく形になっています。解約返戻金については、いずれの保険も徐々に増えていき、ピークを迎えた後は下がり、最終的にはゼロになる仕組みになっています。つまり、解約返戻率がピークを迎えたところで解約することが重要であり、また、何年後にピークを迎えるようにプランニングするかがポイントになってきます。

長期平準保険は、解約返戻率が5年目付近にピークを迎える商品と、10年目付近にピークを迎える商品に分けられます。10年も先のこととなると、会社の状況がどうなっているのか分からないということがほとんどであるため、まずは5年目付近にピークを迎える商品を検討するケースが多いです。しかし、5年目付近にピークを迎える商品は少ないというのが現状になります。

長期平準保険の保障の内容は、主に次のようなものがあります。

死亡保障一定タイプ 死亡時に一定の保障がされるタイプの保険
死亡保障変動タイプ 当初の10年間は災害死亡保障のみで、11年目以降は病気死亡も保障されるタイプの保険
生活障害保障タイプ 死亡または障害(介護)状態で保障されるタイプの保険
三大疾病タイプ がん、脳卒中、心筋梗塞で保障されるタイプの保険
介護保険タイプ 一定の介護状態でのみ保障されるタイプの保険

近年では、上記のうち死亡保障タイプがもっとも売れている商品になります。こちらの保険は、死亡保障が10年後に実質的に逓増するため、逓増定期保険に近い商品であり、経理処理についても長期平準定期保険のルールを適用するか、逓増定期保険のルールを適用するかで意見が分かれるところになります。契約する際には、事前にしっかりと確認しておかないと、思わぬところで追徴課税が生じる事態にもなりかねませんので注意が必要です。

 

4-2 逓増定期保険

逓増定期保険は、前述の通り1/2損金、1/3損金、1/4損金のいずれかのタイプに分かれますが、法人保険でもっとも使われるのは損金算入額が大きくなる1/2損金にタイプになります。逓増定期保険は、さらに解約返戻率がなだらかに上昇する通常型と、一定期間まで解約返戻率が低く抑えられている低解約返戻金型に分かれています。

前章でご紹介したMHPスキームでは、このうち低解約返戻金型の逓増定期保険が使われることが多いです。個人または法人への資産の移転を主な目的としつつ、保障も確保するときには、この低解約返戻金型の逓増定期保険が活用されます。また、資産移転は考えておらず、長期に渡って事業保障と節税効果を得ることを目的とする場合には通常型の逓増定期保険を選択することになります。

 

4-3 養老保険

養老保険とは、貯蓄型の生命保険になります。養老保険は、原則的には100%資産計上の商品ですが、従業員の全員が対象となっていること、契約者を法人、被保険者を経営者、役員、および従業員、死亡保険金の受取人を経営者、役員および従業員の遺族、満期保険金の受取人を法人という契約内容になっていることといった一定の要件を満たしている場合には50%損金に算入することができます。この仕組みが、ハーフタックスプランと呼ばれるものになります。

法人としては、50%損金算入による節税効果を受けつつ、死亡保障により従業員の福利厚生を確保し、満了時には法人が保険金を受け取ることで従業員の退職金の資金に充てることができるというメリットがあります。このハーフタックスプランは昭和の時代から長く活用されている仕組みで、現在でも多くの企業で採用されているものになります。

 

4-4 終身がん保険

がん保険と聞くと、個人で加入するイメージが強いかと思いますが、法人保険でも活用されています。ただし、法人で利用されるがん保険は、個人でよく契約されているものと内容が少し異なります。

個人で加入するがん保険は、がんと告知された際に一時金として100万円が支給され、入院した際には日額2万円が支給されるといった掛け捨てタイプのものが多いかと思います。それに対して、法人が加入するがん保険は、解約返戻率が高く貯蓄性のあるタイプのがん保険を利用することが多いです。

このような、貯蓄性の高い終身がん保険は、以前は全額損金に算入することができましたが、現在では新たな通達が出され、契約当初の50%の期間を50%損金として算入できるという内容に変わりました。終身がん保険は、万一が会った際の従業員の保障という福利厚生としても活用できますが、解約返戻率が高いため養老保険と同様に、従業員の退職金の資金準備としても使うことができます。

5.まとめ

法人保険の活用方法についてご紹介させていただきました。法人保険に加入していても、その仕組みを正しく理解し、法人保険によるメリットを最大限に活かしきれていないという経営者も多いと思います。法人保険に加入する目的を明確にし、計画的な活用をしていく上で、今回の内容が参考になれば幸いです。