人間社会は高度に発展してきた一方、様々な問題も発生しており今後の持続可能な成長が危ぶまれるようになってきました。そのため今世界の多くの国で社会問題の解決に注目が集まっています。社会問題の解決は国や自治体の行政機関が担うべき事案ですが、問題の種類、数・量が多く人・モノ・金などの資源を彼らだけで負担するのが難しい状況です。そのため社会的課題の解決に民間の力が求められるようになってきており、特にビジネスとしてその役割を果たすことが期待されています。
そこで今回は社会貢献型ビジネスについて説明します。ソーシャルビジネスが必要とされる背景、取り組むメリットのほか、そのビジネスモデルや具体例、会社設立や経営のあり方、話題のソーシャルビジネス企業10選をご紹介していきます。社会貢献型ビジネスで会社設立したい方や事業を行ってみたい方などは参考にしてください。
目次
1 社会問題の現状と社会貢献型ビジネスが求められる背景
現在の社会問題が世の中でどのように見られ、どう扱われようとしているのかを確認してみましょう。
1-1 世界の社会的課題の解決とSDGs(持続可能な開発目標)
世界の社会問題の解決に向けて、持続可能な開発目標(SDGs)が設定されその達成に向けた動きが加速し始めています。国際的な社会課題を解決し世界が持続可能な発展が遂げられるように2015年の国連サミットにおいて国際目標としてのSDGsが採択。この目標達成に向けて世界の国々や企業等が多額の投資を行うようとしているため、既存のビジネスだけでなく新たな市場機会が創出されようとしています。
この国際目標は2016年から2030年までのもので、持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成されています。国連開発計画(UNDP)によると、SDGsの目標達成には、世界で年間5~7兆ドルの資金が必要とされ、投資機会は途上国で1~2兆ドル、先進国では最低1.2兆ドルといった金額が試算されているのです。
また、SDGsの達成に伴い労働生産性の向上や環境負荷低減等を通じた外部経済効果が期待され、2030年までに年間12兆ドルの新たな市場機会の創出が期待されています。
デロイトトーマツコンサルティング合同会社では、SDGsに関連するビジネスの市場規模について目標ごとに約70~800兆円になると試算しています。
このようにSDGsの達成に向けて莫大な需要規模を有する市場が新たに誕生する可能性があるため、ソーシャルビジネスに取り組むことが自社の発展に大きく貢献することになるでしょう。
1-2 日本のSDGsに向けた動き
日本でも2015年のSDGsの採択を受け、その実現に向けて政府は「SDGs推進本部」を設置して、国内だけでなく国際的な対応が可能となるように両面で推進できる体制を整備しました。
この本部の下、行政、民間セクター、NGO・NPO、有識者、国際機関、各種団体等の幅広い参加者により日本の取組指針となる「SDGs実施指針」が決定されたのです。
また、2018年12月の第6回会合では「SDGsアクションプラン2019」が決定され、2019年6月の第7回推進本部会合においては更に具体化・拡大した「拡大版SDGsアクションプラン2019」が決定されました。
なお、この政府のSDGsに対する取り組みは、以下の2点を中心として推進されています。
・経済財政運営と改革の基本方針2019:
「G20大阪サミットや第7回アフリカ開発会議を通じ、人間の安全保障の理念に基づき、SDGsの力強い担い手たる日本の姿を国際社会に示す。特に、質の高いインフラ、気候変動・エネルギー 、海洋プラスチックごみ対策、保健といった分野での取組をリードする」
「女性、防災、教育、デジタル化といった分野でもSDGsの取り組みを進める」
・成長戦略フォローアップ:
「SDGsの達成に向けた世界的な動きは、新たな事業機会をもたらす。「Society 5.0」を国際的に展開し、「日本のSDGsモデル」を、我が国におけるG20や第7回アフリカ開発会議(TICAD7)の開催、SDGs首脳会合といった機会を活用して、アフリカ及び東南アジアを重点地域として、国際社会に共有・展開する」
そして、下記の「SDGs実施指針」の8分野に関する取り組みについては、拡大版SDGsアクションプラン2019で更に具体化・拡充されています。
- あらゆる人々の活躍の推進
- 健康・長寿の達成
- 成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション
- 持続可能で強靭な国土と質の高いインフラ整備
- 省エネ・再生エネ、気候変動対策、循環型社会
- 生物多様性、森林、海洋等の環境の保全
- 平和と安全・安心社会の実現
- SDGs実施推進の体制と手段
このように政府はSDGsの達成に向けて動き出しており、国内の様々な社会的課題も踏まえて解決策やそのための支援策を出し始めています。また、各自治体でもSDGsをビジネスの視点から解決するための取組みを促進しており、SDGsに関連した新たなビジネス機会が様々な形で生まれようとしているのです。
1-3 社会的課題の解決に対する意識の高まり
様々な社会問題が頻発する状況を背景として人々の社会的課題の解決に対する意識が高まってきています。ビジネスパーソンでは社会に貢献する事業をしたいと思う人が多くなり、求職者では社会的課題の解決に取り組む企業に就職したいと考える人などが増加しているのです。
①ビジネスパーソンの意識
メディケア生命保険株式会社がインターネットリサーチで「ソーシャルビジネス・社会貢献活動に関する意識調査」(対象者:20~59歳のビジネスパーソン1,000名)を2015年3月30日~3月31日に行いました。
この調査で、「ソーシャルビジネスの手法で産み出されたサービスの利用意向、ソーシャルビジネスでの就労意向、ソーシャルビジネスの起業意向」について調べた結果、利用意向が47.7%、就労意向が34.1%、起業意向が20.4%となっています。
結果を端的にまとめると、対象者の3分の1がソーシャルビジネスで働きたいと思っている、5分の1がソーシャルビジネスでの起業を希望するという内容になっているのです。
②ソーシャルビジネスに取り組む企業や製品等に対する人々の意識
株式会社博報堂研究開発局が実施した「2017年 生活者の社会意識調査」によると、「社会・環境に配慮している商品」を選択する意思のある生活者は4割程度、「社会・環境に配慮していない商品」を買わないと答えた生活者は約6割となっています。
社会・環境配慮型商品の購入に関する質問において、「社会課題や環境に配慮した商品であれば、よく知らないブランドでも買う」に「あてはまる」と答えた人が43.0%でした。
また、「社会課題や環境配慮商品なら価格が多少高くても買う」の質問では 36.2%という結果となり、社会・環境配慮型商品を前向きに選択したいという生活者が約3~4割となっています。
逆に「社会や環境に不誠実な企業の商品は買わないようにしている」の質問に「あてはまる」と答えた人は 66.1%、「社会や環境に悪い影響を与える商品は買わないようにしている」では61.0%です。
つまり、約6割の生活者が、「社会・環境に配慮していない商品」を選択しないと回答しています。今後の意向に関する質問では「社会や環境に悪い影響を与える商品は買わないようにする」の質問に対して「そうしたい」の計は 76.8%となり、4分の3 の人が不買の意志を持つという結果になったのです。
こうした社会や環境への配慮を重視した消費者の態度は今後の企業活動に大きな影響を与えていくに違いないでしょう。
1-4 国内のソーシャルビジネスの動向
日本政策金融公庫(日本公庫)国民生活事業の、平成28年度上半期のソーシャルビジネス関連融資実績が、5,051件(前年同期比 132.6%)、351億円(同 117.8%)と増加し、上半期の実績として、件数・金額ともに過去最高を記録しています。
引用先:日本公庫ニュースリソース「ソーシャルビジネス関連融資 上半期の実績として過去最高」
また、ソーシャルビジネス関連融資実績の中のNPO法人向けについては、724 件(前年同期 比 125.3%)、36億円(同102.9%)と、件数に関しては上半期の実績として過去最高となりました。
融資が増加した理由は、日本公庫のSB事業に対する積極的な支援に加え高齢者、障害者の介護・福祉や子育て支援、地域活性化などの地域社会の課題解決に取り組む事業者が増えていると推察されています。
社会問題の増加とともにそれらを解決するための起業や事業拡大に取り組む企業が増加しており、今後もその動きは継続されそうです。
2 社会貢献型ビジネスの意味と普通のビジネスとの違い
ここでは社会貢献型ビジネスとは何か、一般的なビジネスとどう違うのかなどを説明するとともに、そのSBで中心的な役割が期待されているNPO法人について紹介しましょう。
2-1 社会貢献型ビジネスとは
「社会貢献型ビジネス」は、「ソーシャルビジネス(SB)」と同義のものとして扱われることが多く、内容としては収益の確保と社会問題の解決の両方を目指すビジネスと言えるでしょう。また、コニュニティービジネス(CB)もSBの一つとして見なされています。
一般的なビジネスでは利益の追求が主たる事業目的となりますが、SBやCBを主目的にする企業・組織では利益の追求ではなく社会的課題の解決が主たる目的となるのです。
なお、SBを主体とする企業・組織の中には、寄附や助成金などの資金等に頼って運営されるケースも見られますが、そうでないタイプの企業等も少なくありません。寄付等に依存するのではなくSBとして利益を上げその資金で持続的に社会問題の解決を目指す企業等が多く存在します。
ただし、最近では一般的なビジネス、すなわち営利目的を主たる事業とする普通の会社等もSBに取り組むケースが多く見られるようになってきました。
単にニーズがあるから製品やサービスを供給するのではなく、世の中でより困っていることや問題になっていることなどを解決するために商品・サービスを開発し供給する会社等が増えています。
以上の内容からソーシャルビジネスの観点で会社等を区分すると、営利目的ではなくSB等を専門的に行う企業等、営利目的だがSBも積極的に行う企業等、SBに関与しない企業等に分かれるわけです。
企業はSBに関与することが義務付けられているわけではないですが、先に紹介したSDGsに向けた動きなどを考えれば、SBに関与しない企業等は世の中から支持を得るのが難しくなる恐れが生じてくるでしょう。
2-2 ソーシャルビジネスの担い手であるNPO法人とは
ソーシャルビジネスを推進する組織形態は会社組織である必要はなく、「NPO法人」という形態も有効です。特にSBを主たる事業として行う場合、NPO法人のほうが組織を運営する上でのメリットもあるため、会社設立を考える場合にはNPO法人も検討するとよいでしょう。
①NPO法人とは
NPOとは、Non-Profit Organization又はNot-for-Profit Organizationの略称で、団体の構成員への収益分配を目的としないで様々な社会貢献活動を行う団体の総称です(内閣府のHPより)。つまり、「利益追求のためではなく、社会的な使命(ミッション)の実現を目指して活動する組織や団体」と言えるでしょう。
国は特定非営利活動促進法を定め、特定非営利活動を行う団体に法人格を付与するなどにより、ボランティア活動を含む市民の自由な社会貢献活動としての特定非営利活動を促進しています。
この特定非営利活動促進法に基づき法人格が付与された法人が「特定非営利活動法人(NPO法人)」です。NPO法人の財政基盤強化に資する措置等を中心とした大幅な法改正も実施され、NPO法人は多様化する社会的課題(福祉、教育・文化、まちづくり、環境、国際協力など)の解決に取り組むことが期待されています。
②NPO法人の設立(認証制度)
NPO法人の設立には、法律に定められた書類を添付した申請書を、所轄庁に提出し設立の「認証」を受けなければなりません。
提出された書類の一部は、受理した日から1カ月間公衆の縦覧を受けることになり(自由な閲覧)、市民の目によるチェックを受けるわけです。その後、所轄庁は、申請が認証基準に適合するか否かを判定し、認められる場合は設立を認証します。
提出書類は以下の通りです。
- 定款
- 役員名簿
- 役員の就任承諾及び誓約書の謄本
- 役員の住所又は居所を証する書面
- 社員のうち10人以上の氏名及び住所又は居所を示した書面
- 確認書
- 設立趣旨書
- 設立についての意思の決定を証する議事録の謄本
- 設立当初の事業年度及び翌事業年度の事業計画書
- 設立当初の事業年度及び翌事業年度の活動予算書
この認証の確認は書面審査が原則で、設立の認証を受けた後に申請者が登記すればその申請組織は法人として成立します。以上の内容の通りNPO法人の設立までには早くて4カ月ほどの時間がかかり、通常6カ月程度の時間が必要です。
一般の会社以上に設立に時間がかかるため、一定時期に法人格が必要な場合は早めに・計画的に申請しましょう。
なお、NPO法人の活動分野としては以下の20分野が定められています。
特定非営利活動とは、以下の20種類の分野に該当する活動であり、不特定かつ多数のものの利益に寄与することを目的とするものです。
1 | 保健、医療又は福祉の増進を図る活動 |
---|---|
2 | 社会教育の推進を図る活動 |
3 | まちづくりの推進を図る活動 |
4 | 観光の振興を図る活動 |
5 | 農山漁村又は中山間地域の振興を図る活動 |
6 | 学術、文化、芸術又はスポーツの振興を図る活動 |
7 | 環境の保全を図る活動 |
8 | 災害救援活動 |
9 | 地域安全活動 |
10 | 人権の擁護又は平和の推進を図る活動 |
11 | 国際協力の活動 |
12 | 男女共同参画社会の形成の促進を図る活動 |
13 | 子どもの健全育成を図る活動 |
14 | 情報化社会の発展を図る活動 |
15 | 科学技術の振興を図る活動 |
16 | 経済活動の活性化を図る活動 |
17 | 職業能力の開発又は雇用機会の拡充を支援する活動 |
18 | 消費者の保護を図る活動 |
19 | 前各号に掲げる活動を行う団体の運営又は活動に関する連絡、助言又は援助の活動 |
20 | 前各号に掲げる活動に準ずる活動として都道府県又は指定都市の条例で定める活動 |
引用先:内閣府HP 「特定非営利活動(NPO法人)制度の概要」より
③NPO法人のメリット・デメリット
一般企業として会社設立するか、それともNPO法人として設立するかの判断を行う際の参考となるよう、NPO法人のメリットとでメリットを簡単に説明しておきましょう。
・メリット
A 社会的信用の向上
国の所轄庁の認証を得て設立されるNPO法人になることで、個人や会社組織によるソーシャルビジネスの活動以上に社会からの信用が得られやすくなります。
NPO法人の設立は所轄庁の認証が必要であり、審査から設立まで4カ月程度はかかるため、一般の会社設立より困難です。また、従業員を10名以上確保することも設立要件となっているため、1人でも設立可能な会社以上に社会的な信用が高くなります。
B 事業機会の増大
自治体や公的機関等のSB関連事業に参加しやすくなるとともに、社会的信用に伴い民間での仕事も受注しやすくなるでしょう。各自治体では高齢者や障害者等の福祉、子育て・青少年育成の支援、環境対策や動物愛護などに関する社会問題の解決のためにNPO法人を活用するケースが少なくありません。
自治体等では抱える社会問題を解決する場合に営利目的の一般企業を採用するよりも適正な価格で請け負ってくれるNPO法人を利用するほうが、地域社会も受入れやすいです。そのため今後とも自治体等におけるSB関連事業ではNPO法人は入札に参加しやすく受注も期待できるようになります。
C 税制面の優遇
個人事業をNPO法人化することで累進課税率から普通法人税率(年800万円以下の部分が15%或は19%、年800万円超の部分が23.20%)が適用されることになり有利です。
また、NPO法人が法人税法上の収益事業を実施している場合、その収益は課税されますが、非収益事業に該当する事業の収益には課税されません。
D 各種サポートの増大
国や自治体等からの助成金や補助金等が受けやすくなります。また、公的金融機関からの融資だけでなく民間の金融機関からの融資も一般企業以上に受けられやすくなるでしょう。
国や自治体等に代わって社会問題の解決を引き受けてくれるNPO法人を支援する制度も多く、NPO法人は一般企業以上にそうした制度を利用しやすくなっています。つまり、資金の提供や事業への協力だけでなく仕事そのものも確保しやすくなるといったメリットが得られるのです。
・デメリット
E 税務申告の必要性
NPO法人が収益事業を行っている場合、税務申告が必要であり収益事業で利益が生じている場合にはその税金を納めなくてはなりません。
また、普通法人と同様に事業の経理については正規の簿記の原則に則って適正に処理することが求められます。
F 情報開示の必要性
NPO法人は各年度に事業報告書や収支計算書といった資料を所轄庁へ提出しなければなりません。また、それらの資料は公開されることになっており、活動内容が多くの人の目に晒されることになります。
G 設立時間の長さ
既に説明したとおりNPO法人の設立には認証が必要であり、設立までには早くて4カ月程度という時間がかかります。一般企業の設立なら1カ月もあれば十分可能ですがNPO法人では長時間かかる点に注意すべきです。
3 社会貢献型ビジネスのビジネスモデルと事例
ここでは社会貢献型ビジネスでの会社設立などの参考となるように、ソーシャルビジネスがどのようなものであるのかについて、そのビジネスモデルや具体例を紹介しましょう。
3-1 NPO法人のビジネスモデルと具体例
①収入面から窺えるNPO法人のビジネスの特徴
下図の資料は日本政策金融公庫総合研究所が実施した「NPO法人の経営状況に関する実態調査」(2011年)ですが、収入の内訳には事業性収入と非事業性収入があり両方を比べると前者が圧倒的に多いです。
事業性収入の中では自主事業が37.3%、行政からの委託事業が26.7%と合わせて6割以上を占めます。
自主事業の収入は一般の企業が製品やサービスを提供して対価を得るという収入と同様のものであり、行政からの委託事業収入はその名の通り国や地方自治体などが実施する事業を受託して得るものです。
従って、NPO法人がそのビジネスを成立させ維持させていくためにはこの2つの事業を継続的に行い拡大させていくことが求められます。
引用先:日本政策金融公庫論集 第17号(2012年11月)「NPO法人のパフォーマンスと経営戦略」(藤井辰紀 氏)
②事業性収入の増大に必要な経営
事業性収入を増やすための戦略として上記の「NPO法人のパフォーマンスと経営戦略」の論文の中で3項目が指摘されています。
1)「製品やサービスの改善」
NPO法人が現在提供している製品やサービスの付加価値を向上させる、コストに適した売値で販売や流通できるシステムを整備する などにより事業の採算がとれるビジネスモデルに仕上げる戦略が必要です。
優れた社会貢献事業を継続させていくにはその運営費用を賄えるだけの事業収入が必要であり、ソーシャルビジネスを一般のビジネスのように成立させねばなりません。
そのために対象とする利用者のみならず一般消費者のニーズにマッチできることが必要であり、一般製品以上に満足の得られる製品・サービスの提供が求められるのです。
・NPO法人!-style(エクスクラメーション・スタイル 京都市)の例(上記論文より)
!-styleは障害者が自立した社会生活を営むためのサポート事業として、彼らの職業訓練(陶器の製作や食品の加工などの職業訓練を通じた就労支援等)を行っており、それが同法人の主要な事業性収入となっています。
同法人は障害者が製作した陶器などの作品を「商品」として流通させることに成功し事業性収入の増大に繋げました。これまでバザーで販売されていた作品を、美大出身デザイナーにデザインしてもらい付加価値を高め大手通販会社など一般の流通ネットワークで販売できるようにしたのです。
つまり、一般の消費者が社会貢献のために障害者の作品をバザー等で購入するという形態ではなく、作品そのものの価値が高いから一般の販売ルートでも購入するという形態のビジネスに同法人は進展させたと言えます。
また、「自分たちが加工した食材で調理した食品を、自分たちが手掛けた陶器に盛りつけて提供するレストラン」も運営しており、ここでの売上も!-styleの収入になっています。
同法人は対象とする障害者への職業訓練というサービスの提供にとどまらず、彼らの就業の機会を増大させ同法人の収入の増大にも繋げるビジネスモデルを作り出したのです。
2)「新市場の創出」
社会的課題の解決を目指す事業は、既存市場での通常取引の対象とならないケースも多いですが、新たな価値観を加えた製品・サービスを開発・投入することで新市場を作ることもできます。
たとえば、温室効果ガスの排出削減を推進するためのエコポイント制度が導入されました。この温室効果ガスの排出削減への対策がエコポイント制度の促進に資する商品・サービスの提供や省エネ推進サポートといった新たな市場を生み出したのです。
引用先:環境庁資料 エコポイント等CO2削減のための環境行動促進モデル事業 (担当:総合環境政策局環境経済課)
地震や台風などの災害への備えや復旧などを支援するビジネスなどは現在も渇望されていますが、様々な社会問題の発生に伴いそれらを解決するための新市場が創出されていくでしょう。
・NPO法人I-DO(福岡県北九州市)の例
NPO法人I-DOは地域に密着した自転車対策や地元商店街との連携による中心市街地の活性化などの社会貢献事業に取り組んでいます。
同法人がSBを始めるきっかけになったのが小倉駅周辺での放置自転車という社会問題でした。同法人は、フランスなど海外で市民の一般的な移動手段となっているレンタルサイクルを参考に小倉駅周辺や門司港地区に計300台の電動アシスト付自転車を設置して8千万円の事業収入を得るのに成功しています。
同法人はレンタサイクル事業のほか、駐輪場の運営・管理、カーシェアリングなどの事業を通じて、まちづくりの推進、環境の保全、高齢者等の福祉の増進などに貢献しているのです。
3)「事業の多角化」
SBの事業規模はあまり大きくならないケースも多いことから小規模な事業をいくつか関連させて行うなどの事業の多角化戦略がSBを成功させる上で重要になります。
上記の2つの事例が良い参考になるはずです。NPO法人!-styleの場合、職業訓練から陶器の販売、販売商品のラインアップの拡大(Tシャツや加工食品等)、さらにはレストランの出店というようにシナジーを活かし多角化に成功しています。この多角化の運営によって、職業訓練の利用料に加えて商品や食品等の収益が事業性収入の柱として成長し始めているのです。
NPO法人I-DOの場合は、レンタルサイクル事業に加えて駐輪場管理を請け負うことで人件費の効率化と収益の増大によりSBとして事業継続を可能にしています。また、自転車運転のアカデミーの開催やカーシェアリングなど交通手段にかかわる様々な関連事業に手を広げているのです。
3-2 一般企業のソーシャルビジネスのビジネスモデルと具体例
SBを主目的としない一般の企業等であっても社会的課題の解決に取り組むケースが多く見られるようになってきました。彼らはSBを通じて自社やその事業の成長に繋げられるように取り組んでいます。
①一般企業のソーシャルビジネネスとは
一般企業のSBは営利の追求を前提としながら商品・サービス等の提供により社会問題の解決を図るものと言えます。企業による寄付やボランティア活動といった社会貢献の方法もありますが、企業の本業である事業を通じて社会貢献できることも少なくありません。
具体的には、世の中で多くの人が困っている問題を解決できる商品・サービスの提供等を通じて行うことになります。
たとえば、介護や作業の補助が可能なロボットスーツ、遠隔地の医療診断が可能なシステム、食品廃棄物のリサイクル、防災・避難用グッズ、空き家の活用、老朽インフラのメンテナンス、不登校児支援 などに関連した商品・サービスを開発・提供することでそれらに関連した問題の解決に貢献できるはずです。
また、資本が大きく事業規模も大きな大企業などでは国内の様々な地域への対応だけでなく、海外においてもその地域の問題解決に役立つ商品・サービスの提供ができます。
衣食住に関連した安全で衛生的な商品等の提供、衣食住環境を整えるための機器やインフラの整備、教育関連の支援、地場産業の育成に貢献できる工場等の設置、就業機会の増加に寄与する輸入やサプライチェーンの設置など大企業ならではの大規模なSBが期待されているのです。
②CSRの一環やブランド価値の向上に向けた取り組み
大企業を含め一般の企業はコーポレートシチズン(企業市民)としての役割があり、多様なステークホルダーの要望に応える責務を背負っています。
その役割の1つとしてのCSR(企業の社会的責任)があり、納税、法令順守、安心・安全な商品・サービスの提供、公正な事業活動、コーポレートガバナンスの履行、環境改善の向上、サプライチェーンの適切な管理、地域課題の解決などが企業に求められているのです。
こうした要望に応えることは株主、地域住民や消費者等の支持を得ることに繋がり、業績の拡大や自社ブランドの向上にも貢献します。もちろんSBの多くは事業規模が小さく収益性が低いケースも少なくないですが、社会貢献事業を推進することで本業や他の事業に好影響を与え企業全体としての成長に結び付けられることもあるのです。
③一般企業のSBのビジネスモデルのコア
ソーシャルビジネス研究会 報告書(平成20年4月)によると、ソーシャルビジネには社会性(社会的課題に取り組むことを事業活動のミッションとすること)、事業性(ミッションをビジネスの形に表し、継続的に事業活動を進めていくこと)と革新性の3つの要素が必要とされています。
そして、一般の企業がSBを推進する場合その企業は社会性と事業性を重視する「社会志向型企業」とみなされます。NPO法人でも同様ですが、社会志向型企業がSBを事業として成立させ発展させていくには革新性の実現が不可欠です。
なお、革新性とは、「新しい社会的商品・サービスや、それを提供するための仕組みを開発したり、活用したりする。また、その活動が社会に広がることを通して、新しい社会的価値を創出すること」を意味します。
どこにでも手に入るありふれた商品・サービスの提供では自社の利用価値は低く、また十分な収益を確保することも困難です。そのため利益を追求する事業主体がSBを推進するためには、新たな価値を提供できる商品・サービスの開発・提供が必要となり、その実現により十分な収益の確保が望めるようになっていきます。
つまり、社会的課題を解決するために新たな商品・サービスを開発・投入していくことが一般企業におけるSBのビジネスモデルのコアとなるのです。
・ユニリーバのSDGsに向けた取り組み
ユニリーバは、自社のビジネスモデルが地球と社会に繁栄をもたらすものと位置づけ、SDGsが制定される以前から「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン(USLP)*」を制定し世界の社会的課題に対応するべく努めています。
*「すこやかな暮らし」「環境負荷の削減」「経済発展」の3分野で、9つのコミットメントと50以上の数値目標が設定されている
たとえば、「すこやかな暮らし」の実現のため、水道が普及していない地域などにおける洗濯の節水に役立つ柔軟仕上げ剤入り洗剤「ワン・リンス・コンフォート」を開発し販売しています。
この商品は洗濯物のすすぎに必要な水の量をバケツ3杯から1杯に削減するもので、1回の洗濯につき約30リットルの節水と洗濯での時間と労力の削減に役立っているのです。その洗剤は東南アジア等の地域における市場で大きなシェアを獲得し地域社会に貢献しています。
・UCC上島珈琲株式会社のSDGs達成に向けた取り組み
UCCは、「多様な生物が共存する豊かな地球環境で育った、安全・安心でおいしいコーヒーを提供」するために「UCC生物多様性宣言・指針」をまとめて活動しています。
同社はSDGsの17目標を認識し、同社の事業に関連の大きな6分野を通じて社会貢献に取り組もうとしているのです。
たとえば、ジャマイカでは直営農園「UCCブルーマウンテン直営農園」を設置し、地域住民の労働の場を提供しています。また、農園の運営では水資源や生態系の保全、廃棄物の管理、苗木の栽培 など環境保全や労働環境の整備等へ誠実に取り組んでいるのです。
ほかにはエチオピアでの「森林保全プロジェクト(生産管理方法や物流体制等での技術指導)」、ルワンダでの「持続可能なコーヒー栽培の実現(荒地でのコーヒー栽培の指導)」などが行われています。
UCCでは上記のようなサプライチェーンの整備や強化に繋がる事業をSDGsに関連した取り組みとして推進しているのです。
・パナソニックのSDGs達成に向けた取り組み
パナソニックはSDGs達成に向けた取り組みとして、ソーシャルビジネスではない寄付事業の「ソーラーランタン10万台プロジェクト」を行っています。
このプロジェクトは、一台で部屋全体を照らせる100ルクスの明るさを誇る「ソーラーランタン」を無電化地域に寄贈するものです。ソーラーランタンはそれらの様々な地域の生活照明や電源として人々の生活に貢献しています。
このプロジェクトでは、持続可能で近代的なエネルギーへのアクセスの確保、健康的な生活の確保・福祉の推進、包摂的かつ公平で質の高い教育の提供、ジェンダーの平等の達成 などが必要な現場にソーラーランタンが提供されているのです。また、手術等の医療現場で活躍するコンパクトソーラーライトなどの提供も行われています。
ソーラーランタンを販売するのではなく、寄贈という形で社会貢献しているわけですが、この行為はパナソニックの社会的信頼性を高めることになるでしょう。その結果、それらの地域で知名度の低い企業であってもその信頼性や知名度の向上から今後のビジネス展開にプラスに働き市場浸透が進みやすくなるはずです。
4 社会貢献型ビジネスの会社設立及び経営のポイント
今まで見てきた社会貢献型ビジネスの内容等を踏まえソーシャルビジネネスでの起業や会社設立、その事業を推進してく経営において特に重要な点をまとめておきましょう。
4-1 ソーシャルビジネスの事業内容の明確化
世の中に存在する様々な社会問題の中で自社の強みやアイデアを生かして何が解決できるかという観点から、事業内容やビジネスモデルを明確にしていくことが重要です。
個人として社会問題の解決に役立ちたいとの強い思いを有する方は少なくないですが、その解決行動をビジネスとして行うには当然一定の経営資源が必要になります。また、SBを継続させていくには特に資金が必要であり一定の収益を確保することも不可欠です。
つまり、いろいろな社会問題の解決に取り組みたくても資源や経営上の制約があり、多くの問題への対応ができません。まずは限られた資源で解決できそうな問題に絞りその事業内容、すなわちビジネスモデルを確立することが求められます。
闇雲にいろいろな社会的課題に取り組むのではなく、自社の強みや資源の制約を踏まえ収益が確保できるビジネスのあり方を固め進めて行くことが必要です。
4-2 ソーシャルビジネスでも収益の確保が重要
寄付金や補助金等に過度に依存することなくSBを継続させていくには一定の収益の確保が欠かせません。SBに取り組む企業には社会的課題を解決する事業で収益を生み出せる仕組みをつくる、関連事業などで収益の増大を図るといった努力が求められます。
たとえば、駅周辺の放置自転車の問題を解決するために自転車のレンタルサイクル事業で収益を確保するという事例がありました。しかし、こうした1つの事業だけで十分な収益が確保できないケースも多いため、関連する事業の展開も必要になってきます。この事例では駐輪場の併営でした。
また、自転車の問題から交通に関する問題へと視点を広げることで交通渋滞など自動車に関する問題への対応もSBの候補として浮かび上がってきます。具体的には自動車のカーシェアリング事業です。この事業により交通渋滞の緩和に貢献するとともにSBとしての収益の増大にも繋がっています。
複数の事業を運営していくには資金や人材などを増やしていく必要も出てきますが、関連する事業を複数行うことで費用を抑えながら収益の増大を図ることが可能です。また、複数の関連事業を行うことで自治体からその分野に関連した事業も受託しやすくなるというメリットも得られるでしょう。
そして、事業が拡大するにつれて資金や人材を確保するのも容易になっていきます。
4-3 ソーシャルビジネスの遂行には革新性も必要
社会問題の解決には従来から存在する商品・サービスや技術などでは、コスト、性能、安全性などの点で利用できないケースも少なくないことからSBの実施には革新性が重要になります。
たとえば、介護の現場では要介護者を支援する介護スタッフの重労働が問題になりがちですが、パワーアシストが可能な装着型機器がその問題解決に有効です。こうした機器を低コストで開発して提供できればSBとして歓迎されます。
また、水道水などが普及しておらず安全な水の確保が困難な地域では洗濯に使う水は貴重です。事例で紹介したように洗濯に必要な水を大幅に削減できる洗剤を開発・提供することによって水問題を緩和し、地域の人々の水利用の用途が広げられます。
もちろん従来からある商品・サービスで解決できる社会問題も少なくないでしょうが、コスト面等で普及しにくいこともあるはずです。そのため何が普及を妨げるのか、解決するためには何が必要なのかを明らかにして、その解決手段を革新的な技術やアイデア等で対応していくという取り組みが求められます。
4-4 国や自治体等の支援も活用
国や自治体等は社会問題の解決のために様々な支援策を用意しているため、SBを推進していくにはこれらの支援策を活用することも欠かせません。
たとえば、先の介助者支援の機器などは「福祉用具・介護ロボット実用化支援事業」の中で支援対象となっているものです。もちろん介助者だけでなく要介護者に対する支援策では、移動、排せつ、見守り・コミュニケーション、入浴 など幅広い範囲が対象となっています。
これらの領域で活用できるロボット介護機器等の開発が重点的な支援対象となっており、関連事業者はその開発や実証実験などの面で多様な支援が受けられるのです。経営資源が脆弱な新設会社が製品等を開発し現場に導入・利用されるように事業を確立していくにはこうした行政の支援事業等を活用することも欠かせないでしょう。
4-5 経営資源の確保
ソーシャルビジネスの場合、事業規模が小さい割に商品・サービスの開発やマーケティングなどの費用、人手などが多くかかるケースもあるため、活動資金を含む経営資源の確保が重要になります。
NPO法人の場合は設立に従業員が10名以上必要となることから個人で会社設立するケースよりも設立のハードルが高いです。もちろん会社の場合でも人手不足が深刻化する現代において新設会社での社員確保は容易ではありません。
そのため人材の確保に向けた取り組みが重要になります。たとえば、起業前に様々なボランティア活動等に参加してその参加者に起業するSBについてPRしてその共感者を社員として勧誘するといった方法です。
或はボランティア活動を通じて特定の目的で活動するグループを作りそれを基盤として法人化するといった方法もあるでしょう。起業後は自社SBの説明会、講演会などを開催しその参加者との交流の中で人材を発掘していくなども有効です。
資金については自己資金だけでは不足するケースが多く、事業による収入も事業開始直後には十分に確保できにくいため、様々な手段で調達していく取り組みが求められます。たとえば、寄付金や補助金・助成金などを確保できるようにするほか、クラウドファンディングなども検討するべきです。
寄付金は自社SBに関心のある企業、ボランティア活動などを行っている企業、協賛してくれる企業などに寄付を依頼していくことになります。補助金・助成金などには各自治体の情報を早めに入手し見逃さずに応募しなければなりません。
クラウドファンディングはインターネットを利用した不特定多数からの寄付金集めと言えるかもしれません。一般の株式会社などの場合は資金提供の対価として株式や製品等を提供するケースが多いです(購入型)。
ソーシャルビジネスの場合、寄付の返礼としては事業やその関連イベント等への招待などが見られます。つまり、資金的な返礼をしない「寄付型」のクラウドファンディングがSBでは中心になります。もちろんケースによっては商品・サービスを返礼するのも悪くないでしょう。
5 ソーシャルビジネス企業の定義とは?
近年、社会課題の解決を目的とした社会起業・社会起業家が増加しています。NPOのように、非営利組織の形態をとらず、民間企業として事業を行い、社会課題を解決させつつ、収益を挙げていくという課題に取り組む会社が次々と設立されています。
ソーシャルビジネスという言葉の定義は幅広いです。社会の課題を解決し、適正な収益を挙げつつ、事業運営に長期的視点を持ち取り組む事業全般を、ソーシャルビジネスと呼ぶケースが多いといえます。
5-1 社会課題の解決と利益の両立
日本・世界には、解決する必要がある課題がたくさんあります。例えば、食品の廃棄ロスを例にあげます。
日本では、平成28年度推計値で、年間2,759万トンの食品廃棄物等が出されていると、消費者庁のホームページに掲載されています。このうち、まだ食べられるのに廃棄される食品、いわゆる「食品ロス」は643万トンにも及びます。
この食品ロスとなってしまう食材を別の用途に活用する。このような手法も、社会課題の解決という観点から、ソーシャルビジネスと言えます。
また、現在の日本では、高齢世帯化が進んでいます。買い物に行こうにも、近くの商店・スーパーがなくなり、日常的な買い物が難しいという状況に置かれている人も多く存在します。
日常買い物が難しい世帯や地域のために、移動販売車を利用して、生鮮品も含めた食料品・その他日常品の販売を行うサービスも、ソーシャルビジネスと定義できるでしょう。
5-2 事業の継続性と社会的価値の創出(持続可能性の観点)
社会課題の解決に関わる事業を行うことは、社会的意義がある一方、ビジネスとして「持続可能か?」「成長していけるか」という観点も欠かせません。
例えば、NPO活動の場合、たしかに社会的意義がある活動を行う団体も多いです。しかし、利益は最小限、寄付に頼る財政、職員の給与の少なさなど、「長期的に見ると、持続可能性があるのだろうか、そして組織で働く人は幸せになれるのだろうか」という問題を内包しているケースも想定されます。
例えば、篤志の気持ちで若い世代が20代、30代前半をNPO事業に捧げたとします。そこで事業が拡大したり、収益が大きくなっていき、それ相応の給与を得ないと、結婚、子育てなども見込めず、結局組織を離れる人も出てくるでしょう。組織そのものとしても納税、規模拡大や安定化が図れなければ、持続可能とはいえません。
このように、現在のNPOの活動が様々な課題を持つ中、「社会的意義のある事業を行い、利益を出し、成長していこう、そして長期的に安定したサービス・製品づくりなどを行おう」というのがソーシャルビジネスといえます。
日本政策金融公庫も、「ソーシャルビジネス支援資金」として、ソーシャルビジネスを行うNPOだけでなく、企業・保育サービス・介護サービスなどにも特別金利で融資を行っています。
このように、国だけでなく公的団体も含め、ソーシャルビジネスに対し支援する姿勢を示していることがうかがえます。
6 ソーシャルビジネスに取り組む企業
それでは、ソーシャルビジネスに取り組む企業をピックアップしましょう。基準として、「公益性」「持続性」「拡大性」「ビジョンの具現化などの観点からピックアップしています。
6-1 ソーシャルビジネスに取り組む企業10選
①株式会社ボーダレス・ジャパン
ソーシャルビジネスを全面に押し出し、様々な地域・分野で社会課題を解決する事業を手掛ける、ソーシャルビジネスのパイオニア的企業と言えます。
- ・アフリカの貧困解決のために小規模農家のプラットフォーム「アルファチャマ」をつくる
- ・フィリピンのスラム街住人の自立のために、Okinawa Taco-Riceなど飲食業の事業展開
- ・バングラデシュに法人を設立、現地住民に技術指導を行う
など、ここには書ききれないほどの、「国内及び海外の課題解決」に力を入れた事業を多種行っています。
②株式会社MISOL
株式会社マイソルは、LGBTQ、障がい者、ひとり親、刑務所からの出所者など、様々な「働きづらさ」を抱える人たちのために、「自分らしく働く社会を実現する」ことを目指しています。
社会でマイノリティであるために、様々な意味で働くことに対し、ハンディや課題を持つ人が多い中、マイソルは、様々な立場の人達の融合を目指した事業創造を目指しています。あわせて、ダイバーシティ(多様性)の啓発セミナーなども行っています。
③Sunday Morning Factory株式会社
一見、ベビー服のネットショップに見えますが、バックグランドには、
- ・家計を支えるために子供たちが働いている問題の解決を目指す。
- ・子どもたちが働かなくていい安定した雇用を親に創る。
- ・貧困の負の連鎖から抜け出せる社会に。
というテーマを持っています。
工場をバングラデシュに設け、バングラデシュの住民が安定した雇用、健全な労働環境で働けるように配慮しています。
製品についても、オーガニックコットンなどの天然素材の利用、子育てへの配慮、おさがりとして使い回しやすい、3名分のおなまえタグ、サイズが調整できるスナップボタンなど、長く使い続けられるよう配慮がされています。
④a.ladonna.合同会社
国籍・性別・障がいなどにとらわれない、バリアフリーファッションを提唱しています。ハンディキャップなどがあっても着られる、ジェンダーレスにまとえる、世代・年代・性別・ハンディキャップの壁を超えた製品を提案しています。
アパレルだけでなく、Webを通した情報提供、様々な分野の職人、アーティストとのコラボレーションを行い、ビジネスとしても三方よし(作り手×買い手×世の中の問題解決とのバランス)を思考するなど、社会課題をスタイリッシュに解決していこうという姿勢が垣間見えます。
⑤オールビジョン株式会社
現在の日本では、労働人口の減少という課題があるとともに、働きたくてもハンディキャップなどがある、スキル不足のため雇用に従事できないなど、仕事のミスマッチも課題となっています。
オールビジョン株式会社は、障がい、LGBT、シニアの方など様々な立場の方が、働くことにより自己実現をできる組織を作るとともに、ソーシャルビジネスの提唱者である、ムハマド・ユヌス博士の7原則を事業の根底においています。
この7原則は下記のとおりです。
- ・事業の目的は、利益の最大化ではなく社会課題を解決することである。
- ・財務的、経済的な持続可能性を実現する。
- ・投資家は投資額を回収する。しかしそれを上回る配当は還元されない。
- ・投資の元本の回収以降に生じた利益はソーシャルビジネスの普及とよりよい実施のために使われる。
- ・環境に配慮する。
- ・雇用者は良い労働条件で給料を得ることができる。
- ・楽しみながら取り組んでいく。
⑥RE100電力株式会社
こちらも電力発電に関する事業を取り扱っています。CO2の削減に加え、「電気をどこの発電施設から買い取るかを選べる」というサービスを提供しています。
各発電施設ごとに特徴を出す、発電所に支援をすることで御礼の品がもらえる、学校など公的施設の電気を買い取ることで、間接的に支援ができるなど、電気の利用を通して、援助を行いたい施設や団体に、直接の費用支払無しで協力することができます。
また、ブロックチェーンを活用し、農畜産物と同様、改ざんができないブロックチェーン技術を用いたトレーサビリティーの実現にも着手しています。
⑧株式会社トビラシステムズ
振り込め詐欺・様々な勧誘などの迷惑電話が、以前より社会問題となっています。トビラシステムズは、迷惑情報データベースを作成し、システムを電話事業者・電話機製造会社に提供することで、振り込め詐欺や様々な勧誘業者からの電話をシャットアウトしたり、7億件以上のデータを統計・機械学習することで、より精度の高い迷惑電話防止のシステムを構築しています。
新しい番号で振り込め詐欺他迷惑電話があった場合は、利用者側からも登録ができます。2019年11月には、国際電話の番号を悪用した「ワンギリ詐欺」関与が疑われる番号もフィルタリングできるようになるなど、不正電話に対する対応システムが日々改良されています。
⑨株式会社ツクルバ
現在、空き家・集合住宅の空室問題が様々な地域で深刻化しています。また、働き方の多様化により、コワーキングスペースなど、働きやすい場所を求めるフリーランスも増加しています。
株式会社ツクルバは、中古・リノベーション住宅の流通プラットフォームであるcowcamoの運営やコワーキングスペースの運営などを通し、住宅のリノベーション・流通や、コワーキングスペースの提供などを行っています。
⑩Waste4Change
最後は、インドネシアのごみの山という課題を解決する企業です。
インドネシアは、大量の人口と、ゴミ施設の不足から、各地にごみの山が点在し、ときに雪崩を起こすなどし、死亡者が多数出るケースさえあります。
一日にゴミ山に集積されるゴミは、12万トンにも及ぶとのこと。
2005年には、ゴミ山が倒壊することにより、麓の村がなくなり、140名以上の死者が出てしまったという悲しい事例まであります。
Waste4Changeは、企業・住民に対し、
- ・3R(Reduce, Reuse, Recycle)の啓蒙活動を行う
- ・ゴミを回収、回収したゴミの仕分けを行って生ゴミは堆肥化
- ・プラスチックゴミはリサイクルする
などを通し、ごみの山を減らし、インドネシアの環境・公衆衛生の工場のために尽力しています。
6-2 ソーシャルビジネスに取り組む企業の傾向
多くの企業が、「はじめにソーシャルビジネスありき」ではなく、「ソーシャルビジネスの理念だけでなく、使ってもらえるようなプロダクト・サービスを提供する」など、「ソーシャルビジネス」という看板がなくても、利用したくなるようなプロダクト・サービスを提供しています。
また、最初はソーシャルビジネスを主体にしていない会社もありますが、社会が求めるサービスを突き詰めた結果、ソーシャルビジネスの要素を強く持つようになった企業も複数存在します。
社会課題の解決という観点では、日本・世界各国それぞれに、様々な課題があります。例えば、バングラデシュのような発展途上国は、雇用の提供・基盤整備、インドネシアの場合はごみ問題の解決がソーシャルビジネスとなりえます。(もちろんこれは、ごく一部です)
一方、日本の場合は、高齢化・少子化・犯罪の巧妙化・地域の過疎化など、今後多くの国が迎えるであろう高齢化社会・そして高齢社会をいち早く、自国で体感することになります。
すると、高齢者の運転問題、自動運転の普及、買い物の代行、インフラの整備、ドローンなどを通した人では届かない部分の確認や配達におけるラストワンマイルの問題・・・、その他書ききれないくらい、現在及び将来の日本だけでも、様々な社会課題に溢れてくることが考えられます。
確かに大変な問題ではあります。しかし、社会課題に直面し、実際に解決していくことで、今後同じように少子高齢化を迎える他の国にとっても有用となる、様々な先行事例が蓄積できると想定されます。
現在の社会課題の多さ、そして解決の難易度は様々な意味で高く、社会起業においても、全ての課題を解決することは難しいかもしれません。
ですが、課題を定義し、事業として収益を出しながら解決していくことで得た様々な知見・ノウハウ・つながりを活用することにより、横展開を行い、課題解決の幅を広げていくことも期待できるでしょう。
NPOが一時期ブームになったときは、「社会課題」への着目はあったものの、「収益性」「持続性」「拡張性」という観点がさほど顧みられていなかった感覚もあります。それゆえに、現在の社会起業が注目を浴びているとともに、社会起業そのものが一過性のブームで終わらないように定着させるための、当事者の取り組みや、社会の理解、国や地方自治体の支援や規制緩和などの支援がより重要になってくるでしょう。
7 まとめ
社会貢献事業(ソーシャルビジネス)は一般ビジネスよりも事業規模が小さく収益も少なくなる傾向があるため事業を維持発展させていくのは容易ではありません。
そのため経営資源が不足がちな新設のNPO法人や株式会社などは、国・自治体等の支援のほか企業等からの寄付・援助などに頼ることも必要です。
しかし、既存の商品・サービスとは異なる革新性のある技術やアイデア等を活用して事業化し、1つの事業から複数の関連事業を展開するといった取り組みを行えばSBを維持・発展させて行けます。
ソーシャルビジネスは会社設立や経営において困難が少なくないですが、成功させる手段も少なからず存在するため、学ぶべき成功事例などを参考に起業を検討してみてください。