上場企業に対しては「経営が安定している」「就職活動で人気がある」というイメージを持つ人も多いのではないでしょうか。実際、上場企業には日本を代表するような大企業が多く、就職活動においては人気のある企業が多いのも事実です。もちろん、全ての上場企業がこのようなイメージに当てはまるわけではありませんが、企業は上場することによって一定の社会的なステータスを得られるなど様々なメリットを受けることができます。

今回の記事では、上場についての基本的な知識やメリット・デメリットについて解説し、会社設立から10年以内に上場を成し遂げた企業についても詳しく紹介します。すでに会社を経営されている方だけでなく、これから起業を目指す方もぜひ参考にしてください。

1 上場とは

上場とは

上場とは、株式を公開し証券取引所においてその株式を売買できる状態にすることです。これにより、上場企業の株式は証券取引所で不特定多数の投資家が自由に売買できる状態になります。まずは、株式会社が上場する目的と日本の株式市場について詳しく確認してみましょう。

1-1 上場の目的とは

株式会社が上場する一番の目的は事業などに必要な資金を市場から調達するためです。株式会社が資金を調達する方法には主に「金融機関からの資金調達」、「市場からの資金調達」、「資産の売却による資金調達」という大きな3つの方法が存在します。

株式会社が資金を調達する方法

・金融機関からの資金調達

銀行や信用金庫などの金融機関から事業に必要な資金などを借り入れる資金調達方法です。いわゆる借入金と呼ばれるもので、基本的には返済期日を定めて利息と共に借入元本を返済しなければなりません。このほかに、複数の金融機関などが連携して融資を行うシンジケートローンや社債の発行により金融機関から資金を調達することもできますが、これらの資金調達方法も将来的には必ず借り入れた資金の返済が必要になります。

・市場からの資金調達

市場からの資金調達では、主に新規株式を発行する方法と社債の発行により資金を調達する方法があります。新規株式の発行とは、株式会社が発行する株式を買ってもらうことによって資金を調達する方法です。株式の発行によって得られた資金は原則として返済する必要がないため、会社はその資金の返済を考えずに事業に活用することができます。一方、社債で市場から資金を調達する場合は利息の支払いと共に社債の償還が必要となるため、基本的には調達した資金の返済が必要となります。

・資産の売却による資金調達

会社の保有している資産などを売却することによって資金を調達する方法で、アセットファイナンスとも呼ばれる資金調達の方法です。アセットファイナンスによって調達した資金は資産を売却することによって得られた代金のため将来的な返済の必要はありません。しかし、偶然事業に使用していない資産がある場合などはこの方法も有効な資金調達の方法となりますが、そうでない場合は資金と引き換えに売却した資産を失う点が大きなデメリットです。

上記のように、株式会社が資金調達を行う場合には様々な方法が選択できます。しかし、金融機関からの資金調達や市場で社債を発行した場合は綿密な借入金の返済計画や社債の償還スケジュールを定めた上で調達した資金の返済が必要です。

また、資産の売却による資金調達は事業に使用していない資産があるなど一定の条件に当てはまる場合でなければ資金の調達自体が難しい方法となります。一方、株式の発行は将来利益が出た場合に株主に対する配当の支払いなどが必要になりますが、返済する必要のない資金を市場から広く調達できる点が大きなメリットです。

そのため、事業拡大などを目的とした資金調達においては新規株式の発行が有効な手段となります。また、発行した株式を買ってもらうためには証券取引所という多数の株式の買い手が存在する株式市場に参入することが非常に効果的で、これが上場を目指す最も大きな理由です。このほかにも「社会的な信用力がアップする」「人材の確保が有利になる」「社内の管理体制などが強化される」などの上場を目指す理由はありますが、これらについては「2 上場するメリット」で詳しく説明します。

1-2 日本の株式市場と上場基準

ここからは日本の株式市場について説明しますが、まずは株式市場の言葉の定義から確認してみましょう。実は、株式市場という言葉は抽象的な市場の概念を指しており、実際に株式市場という名前のマーケットは存在しないのです。

上場株式の場合、新たに発行された株式は通常証券会社などを通じて発行者から投資家へ売却され、これらの株式はその後証券取引所を介して投資家の間で流通します。前者の新規株式の発行から投資家が引き受けるまでを「発行市場」、その後の投資家間で売買される流れを「流通市場」と言い、本来は「発行市場」と「流通市場」を合わせたものが株式市場という概念です。

ところが、一般的には株式発行後の投資家間で株式売買を行う「流通市場」だけを指していることも多いため、実際に株式の売買ができる証券取引所のことを株式市場と呼ぶこともあります。

4つの証券取引所

現在、日本には「東京証券取引所(東証)」「名古屋証券取引所(名証)」「札幌証券取引所(札証)」「福岡証券取引所(福証)」という4つの証券取引所があり、それぞれの証券取引所に上場している株式は投資家がその取引所において自由に売買を行うことが可能です。しかし、どのような会社でも自由に株式を上場できるわけではなく、それぞれの株式市場に定められた上場基準をクリアしなければ上場することはできません。ここからは、日本の各証券取引所の概要とそれぞれの市場の上場基準について確認してみましょう。

①東京証券取引所(東証)

東京証券取引所(東証)は株式会社日本取引所グループが運営する日本で最大規模の証券取引所です。2013年までは大阪証券取引所として運営されていた株式の現物市場を東京証券取引所に統合したことでさらに規模の大きな取引所となりました。東京証券取引所には市場第一部(東証一部)、市場第二部(東証二部)、マザーズ、JASDAQ、TOKYO PRO Marketという5つの株式市場が存在しており、それぞれの上場基準は以下の図1の通りです。

図1 東京証券取引所上場基準

東京証券取引所上場基準

出典:日本取引所グループ

ここからは図1を参考に、各市場の概要と上場基準について詳しく確認してみましょう。

1.市場第一部(東証一部)

市場第一部(東証一部)は東京証券取引所で最も上場基準の厳しい市場です。東証一部にはトヨタ自動車やNTTドコモ、ソフトバンクグループ、ソニーなどの日本を代表する大企業が多数上場しています。日経平均株価と同様に日本の代表的な株価指数であるTOPIX(東証株価指数)はこれらの東証一部上場全銘柄を対象として算出される指数で、日本を代表する株式の指標として重要な役割を果たす指数です。つまり、東証一部は日本の株式市場を代表する市場としての役割を担っているため上場の審査基準は厳しく設定されており、日本でも限られた企業しか上場することができない狭き門の市場となっています。

  • ・株主数…2,200人以上
  • ・流通株式数…20,000単位以上
  • ・流通株式時価総額…10億円以上
  • ・流通株式比率…35%以上
  • ・時価総額…250億円以上
  • ・事業継続年数…3年以上

これらの基準から、東証一部の上場基準においては一定数以上の幅広い株主の存在や相応の会社規模などが求められていることが読み取れます。なお、これらの上場基準はあくまでも形式的な基準で、企業の継続性や収益性、企業経営の健全性、企業のコーポレートガバナンスや内部管理体制が適切に機能していることなどの実質的な基準も満たさなければ東証一部に上場することは不可能です。上場の審査は申請会社が東京証券取引所に「新規上場申請のための有価証券報告書」という書類を提出し、記載された内容の審査や申請会社に対するヒアリング等を通じて基準に適合されるかどうかが判定されます。

2.市場第二部(東証二部)

市場第二部(東証二部)は東証一部に次ぐ規模の株式市場で、中堅企業だけでなく東証一部に上場していない大企業なども数多く存在する市場です。東証二部には、東芝や帝国ホテル、日本KFCホールディングス、ヱスビー食品などの誰もが知っているような企業も上場しています。東証二部上場の審査基準は東証一部よりもいくらか緩和されているものの、以下のように相応の株主数や時価総額などが求められる基準です。

  • ・株主数…800人以上
  • ・流通株式数…4,000単位以上
  • ・流通株式時価総額…10億円以上
  • ・流通株式比率…30%以上
  • ・時価総額…20億円以上
  • ・事業継続年数…3年以上

東証二部も東証一部と同様に上記の形式基準を満たした上で企業の継続性や収益性、企業経営の健全性などの実質基準を満たさなければ上場することはできません。

3.マザーズ

マザーズはこれから成長していく企業向けの市場で、近い将来に東証一部へステップアップすることを目的とした企業が上場する市場です。そのため、上場する企業には高い成長性が求められており、主幹事を務める証券会社などがビジネスモデルや事業環境などをもとにその成長性を判断するシステムとなっています。多くの成長企業に資金調達の場を提供することを目的として創設された株式市場で、マザーズの上場後に東証一部にステップアップした企業も多い将来有望な会社が上場している市場です。そのため、東証二部と比較してもいくらか上場基準は緩和されています。

  • ・株主数…200人以上
  • ・流通株式数…2,000単位以上
  • ・流通株式時価総額…5億円以上
  • ・流通株式比率…25%以上
  • ・時価総額…10億円以上
  • ・事業継続年数…1年以上

マザーズに上場する企業は上記の形式基準の他、企業内容やリスク情報の適切な開示、企業経営の健全性、事業計画の合理性などの実質基準も満たす必要があります。なお、マザーズに上場している代表的な企業にはメルカリやミクシィ、マネーフォワードなどの新興企業が数多く挙げられます。

4.JASDAQ

JASDAQは信頼性や革新性、地域・国際性という3つのコンセプトを掲げた市場です。大阪証券取引所の新興市場だったヘラクレス、JASDAQ NEO、旧JASDAQの3つの市場が統合されもので、規模の大きな新興市場として2010年から機能しています。現在のJASDAQは一定の事業規模と実績を有する企業を対象とした「スタンダード市場」と、将来の成長可能性に富んだ企業を対象とした「グロース市場」という2部構成の市場です。上場基準は東証一部や東証二部よりも随分と緩和されており、主に以下の2点が形式的な基準となります。

  • ・株主数…200人以上
  • ・流通株式時価総額…5億円以上

JASDAQ市場でも上記形式基準の他に実質基準を満たす必要があり、スタンダードでは企業の存続性が最も重視され、グロースでは企業の成長可能性が一番重要な基準です。JASDAQ市場には、日本マクドナルドホールディングスや東映アニメーション(共にスタンダード市場)などの古参企業からリプロセル(グロース市場)のような新興ベンチャー企業まで幅広い企業が多数上場しています。

5.TOKYO PRO Market

TOKYO PRO Marketは2008年の金融商品取引法改正により導入された「プロ向け市場制度」に基づいて新しく設立された市場です。2009年に株式会社東京証券取引所グループとロンドン証券取引所の共同出資により創設された株式会社TOKYO AIM取引所による運営マーケットとして開設されました。日本やアジアにおける成長性の高い企業に新たな資金調達の場と他の株式市場にはないメリットを提供すること、国内外のプロ投資家に新たな投資の機会を提供することなどを目的としており、一般の投資家が売買を行う他の市場とは異なる性質を持つ市場です。現在は東京証券取引所がTOKYO AIM取引所の後を引き継ぎ市場運営しています。

②名古屋証券取引所(名証)

名古屋証券取引所(名証)は愛知県名古屋市で開設されている市場です。東証と同様に株式売買のための市場施設の提供を行っており、1886年に設立された名証の前身となる名古屋株式取引所の時代から地元名古屋を始めとした多くの企業が上場しています。名証も株式市場は市場第一部(名証一部)、市場第二部(名証二部)、セントレックスの3部で構成されており、上場の基準は以下の図2、図3の通りです。

図2 名証一部および二部の上場基準

名証一部および二部の上場基準

出典:名古屋証券取引所

図3 セントレックスの上場基準

セントレックスの上場基準

出典:名古屋証券取引所

これらの3つの市場について、それぞれの概要と上場基準を確認してみましょう。

1.市場第一部(名証一部)

名古屋証券取引所でも東京証券取引所と同様に市場第一部(名証一部)が最も上場基準の厳しい市場です。トヨタ自動車や武田薬品工業などの日本を代表する企業が東証一部とあわせて上場しているケースが目立ちます。名証一部は図2の通り、株主数や流通株式、上場時の時価総額などで厳格な基準が設けられており、具体的には以下のような上場基準を全て満たすことが必要です。

  • ・株主数…2,200人以上
  • ・流通株式数…20,000単位以上
  • ・流通株式比率…35%以上
  • ・上場時価総額…250億円以上
  • ・事業継続年数…3年以上

名証一部でも東証一部と同様に上記のような厳しい上場基準が設けられています。これらの形式的な上場基準を満たした上で企業の継続性や収益性、企業経営の健全性などの実質基準を満たさなければ上場することは不可能です。

2.市場第二部(名証二部)

市場第二部(名証二部)は名証一部よりも上場基準が緩和された株式市場で、以下のような形式的な基準をクリアしなければ上場することはできません。

  • ・株主数…300人以上
  • ・流通株式数…2,000単位以上
  • ・流通株式比率…25%以上
  • ・上場時価総額…10億円以上
  • ・事業継続年数…3年以上

名証2部にも東芝のように東証2部とあわせて上場している企業も多数ありますが、名鉄運輸のように地元の企業が名証2部だけで単独上場しているケースもあります。名証一部と比べると上場の形式基準自体は緩和されているものの、上場には相応の株主数や時価総額が必要です。また、名証2部でも上記の形式基準を満たした上で企業の継続性や収益性、企業経営の健全性などの実質基準も満たさなければなりません。

3.セントレックス

セントレックスは将来の成長が期待される企業に対して資金調達の機会を提供することなどを目的として開設された株式市場です。近い将来に名証一部や名証二部といった本則市場へステップアップすることを目指す企業向けの市場となっており、中部地区だけでなく業種や業態を問わず全国の企業に門戸が開かれた市場となっています。本則市場と比べても上場基準は大幅に緩和されており、図3に記載されている以下の形式基準を満たすことで上場は可能です。

  • ・株主数…200人以上
  • ・上場時価総額…3億円以上
  • ・売上高…高い成長の可能性を有していると認められる事業の売上高が上場申請日の前日までに計上されていること
  • ・事業継続年数…1年以上取締役会を設置して継続的に事業活動をしていること

現在のところ、セントレックスに上場している企業はあまり多くはありませんが、将来有望な新興企業が上場する市場です。東証のマザーズやJASDAQと同様に高い成長性が認められるかどうかが上場のために必要な実質基準となっています。

③札幌証券取引所(札証)

札幌証券取引所(札証)は1949年に設立された比較的新しい株式市場です。他の証券取引所と同様に上場株式などの売買に必要な施設を提供しており、地元の北海道を始め多くの企業が上場しています。札証も他の証券取引所と同様に複数の市場から構成されており、本則市場とアンビシャスの2部構成となっています。それぞれの主な上場審査の基準は以下図4の通りです。

図4 札証の本則市場とアンビシャスの上場基準

札証の本則市場とアンビシャスの上場基準

出典:札幌証券取引所

1.本則市場

札証の本則市場には札幌に本店があるニトリホールディングスなどが東証一部とあわせて上場しています。東証や名証の本則市場である市場第一部と比べると上場の基準は大幅に緩和されており、以下が札証の本則市場に上場する際に求められる主な形式基準です。

  • ・株主数…300人以上
  • ・流通株式数…2,000単位以上
  • ・流通株式比率…25%以上
  • ・上場時価総額…10億円以上
  • ・事業継続年数…3年以上取締役会を設置して事業を継続していること

2.アンビシャス

アンビシャスは将来的に本則市場へのステップアップを視野に入れた中小・中堅企業向けの育成市場で、北海道に関連のある企業だけが上場できる札幌証券取引所の新興企業向け株式市場です。上場に必要な形式的な基準は以下の通りで、上場時の時価総額なども特段定められていない新興企業が上場しやすい市場となっています。

  • ・株主数…100人以上
  • ・流通株式数…500単位以上

最近知名度が高くなったRIZAPグループなどもアンビシャスに上場している地元企業の一つです。

④福岡証券取引所(福証)

福岡証券取引所(福証)も1949年に設立された比較的新しい証券取引所です。他の証券取引所と同様に上場株式を売買する施設などを提供しており、九州の地場企業を中心として資金調達の機会を提供し地域経済の発展にも貢献しています。福証も株式市場は本則市場とQ-Boardの2部構成となっており、主な上場の審査基準は図5の通りです。

図5 福証の上場基準

福証の上場基準

出典:福岡証券取引所

1.本則市場

福証も本則市場は上場基準が厳しくなっており、札証などと同様に以下のような一定の株主数や上場時の時価総額が求められています。

  • ・株主数…300人以上
  • ・流通株式数…2,000単位以上
  • ・流通株式比率…25%以上
  • ・上場時価総額…10億円以上
  • ・事業継続年数…3年以上取締役会を設置して事業を継続していること

福証の本則市場には福岡県が発祥の地であるブリヂストンだけでなく、武田薬品工業やキャノンなどの大企業も東証一部などとあわせて上場しています。

2.Q-Board

Q-Boardは地域経済の発展に寄与するために創設され、将来の成長性が見込まれる九州周辺に本店を有する企業、または九州周辺における事業実績・計画を有する企業が上場できる株式市場です。新興企業の育成や資金調達の機会を提供することを目的に創設された市場のため、以下の通り上場基準は本則市場よりも大幅に緩和されたものとなっています。

  • ・株主数…200人以上
  • ・流通株式数…流通株式については定めがなく500単位以上の公募が必要
  • ・上場時価総額…3億円以上
  • ・事業継続年数…1年以上取締役会を設置して事業を継続していること

Q-Boardも他の新興市場と同様に将来性の高い新興企業が中心となる株式市場です。そのため、上場時には成長可能事業の売上高が計上されていることなども要件として定められています。

少し説明は長くなりましたが、日本における証券取引所の概要と上場基準は以上です。これら証券取引所の中でも市場規模が最大の東京証券取引所は日本の株式市場の大半を占める株式の売買が行われており、多くの投資家が国内外から参加する株式市場となっています。

2 上場するメリット

上場するメリット

上場するためには各株式市場の定めた上場基準をクリアしなければなりませんが、上場することによって企業には様々なメリットがあります。主な上場のメリットは以下の5点です。

上場するメリット

①資金調達しやすくなる

上場することの大きなメリットは既に説明した通り資金調達がしやすくなる点です。株式会社の場合、新規株式や社債などを発行することで資金調達することも可能ですが、これらの方法は株式や社債の買い手がいなければ成立しません。また、買い手が見つかったとしても、買い手となる投資家がこれらの株式や社債を売却したいと考えたときに簡単に売買できる環境でなければ投資を募るのは難しいのが現実です。

そこで貢献するのが株式市場における株式の流動性で、多数の売り手と買い手が存在する株式市場に上場することで容易に株式などを売買することができるようになります。これによって、新規発行する株式や社債などの買い手が見つかりやすくなります。

②社会的な信用がアップする

社会的な信用がアップすることも上場の大きなメリットの一つです。既に説明したように上場の際にはそれぞれの市場で定められた厳格な審査基準に通過しなければなりませんが、これらの審査基準に適合することで財務的な健全性や一定以上の収益力などを備えた企業であるとのお墨付きがもらえます。これらの審査基準は各証券取引所が市場参加者に安心感を持って株式などの取引をしてもらうために定めている基準で、これらの審査基準に適合することで財務的な健全性や収益力を保証してもらうのと同様の効果が得られるのです。これが社会的な信用がアップする要因となっています。

これにより、新規株式の発行の際などに買い手が見つかりやすくなるのはもちろんのこと、金融機関や取引先などからも高い信用を得られる点は大きな利点です。金融機関に対しての信用力がアップすると、金融機関からの資金調達においても貸付利率を低く抑える効果や借入可能額の増額が見込めます。また、様々な商取引においても信用が高いと評価されることによって決済期日を長くすることや有利な条件で商品を納入してもらえるなどの利点が見込めるため、上場による信用力アップは大きなメリットです。

③人材の確保が有利になる

上場企業は上場することによって株式市況欄をはじめとする新聞やニュースなどにより報道される機会が増えます。これによって企業の知名度が大きく向上するため有利に採用活動を進めることが可能です。知名度が高い企業は就職活動などを行う際にも目につきやすい存在となるため応募者数が増える傾向にあります。

また、求職者の立場からすると上場企業はある程度の企業規模を伴った会社であり、給与や福利厚生などの待遇面においても求職者自身にとって有利であると考えられることが理由で応募者が増えるのです。これらの上場による恩恵で新規の採用活動などは有利に進めることができます。また、会社は従業員や役員に対して予め定めた価格で将来株式を買い取る権利を与えるストックオプション制度や、従業員が自社の株主となる従業員持ち株制度などを導入することも可能です。

上場することによってこれらの制度は大きな利益をもたらすこともあることから、既にその会社で働いている従業員などにとっても上場は大きなモチベーションアップにつながります。このように、新規採用だけではなく雇用の繋ぎ止めにおいても大きな役割を果たすため、上場は人材確保の面でも大きなメリットとなります。

④社内の管理体制などが強化される

上場企業は株主や投資家に対して企業情報の開示を行う義務があります。そのため、上場企業はIR活動として損益計算書や貸借対照表などの書類を用いて経営状態や財務状況、業績、今後の見通しなどの様々な情報を開示することが求められているのです。

これによって、上場企業は情報を開示する投資家や株主などの第三者の厳しいチェックを受けることとなります。そのため、上場企業では組織的な企業運営や会社内部の管理体制の充実が求められることとなり、結果として社内の管理体制などが強化されることにつながるのです。これも企業が上場するメリットの一つになります。

⑤創業者や株主が利得を得られる

株式会社は上場することによって創業者や既存の株主が利得を得られる点も株式上場のメリットです。新規に株式を証券取引所に上場し、投資家へ株式を売却することをIPOと言いますが、株式上場に際しては新たに株式を発行する公募だけでなく上場前の株主が保有している株式を売り出すこともあります。IPOは事前に株式の公開予定日を定めて上場するため市場での注目度も高く、よほど市況が悪くない限り事前に定められた公募価格や売出価格よりも高値で取引されることが一般的です。

これにより、創業者や上場前の株主は出資した金額よりも高値で株式を売却できるようになり利益を上げられる仕組みとなっています。

3 上場するデメリット

上場するデメリット

株式の上場には多くのメリットがありますが、同様にデメリットも存在する点には注意が必要です。上場する前にはメリットとデメリットの双方を確実に理解した上で上場の可否を判断しなければなりません。ここからは上場するデメリットを3点紹介します。

上場するデメリット

①投資家に魅力的な企業でなければ市場での資金調達はできない

株式を上場するメリットに市場からの資金調達がしやすくなる点を挙げましたが、これは上場後の企業の状況によってはデメリットとなることもあるので注意が必要です。新規に株式を上場する段階では話題性や今後の期待などから実際の実力以上に上場した企業が評価されることも少なくありません。

そのため、上場時点では株式の公募などで資金を調達することもそんなに難しくはありませんが、その後は投資家や株主の厳しいチェックを受け続けることとなります。特に、業績の悪化や今後の見通しが不透明な企業に対しては市場の見方も厳しくなるため、業績好調時と比べて資金調達がしにくくなる点は上場の際に理解しておかなければならないポイントです。投資家に魅力的に映る企業でなければ安定的な資金調達はできなくなるため、上場後もこの点には気を付けて会社を運営していかなければなりません。

②企業買収されるリスク

会社買収などのリスクにさらされる点も株式上場のデメリットの一つです。上場会社の株式は原則として市場で自由に取引される仕組みのため、意図しない企業などに株式を取得されるリスクがあります。通常、市場で取引される株式には議決権が付与されているため、この議決権を一定数以上抑えられることによって会社の運営が思い通りに進められなくなる点は大きなリスクです。これに対しては安定株主の確保に努めるなど買収されない対策が重要になります。特に、取締役の選任・解任などの際に行われる普通決議(議決権の1/2超で可決)や会社の合併や事業譲渡などの際に行われる特別決議(議決権の2/3以上で可決)の議決権数について常に意識しながら買収されないための対策を練ることが重要です。

③上場には手間とコストがかかる

上場には手間とコストがかかる点も株式を上場するデメリットの一つです。上場企業は投資家や株主に対して自社の経営成績や財政状態などの経営に関わる情報を適宜開示する義務があります。そのため、上場企業にはIR活動などによって情報開示できる体制が求められるのです。これらの体制構築には手間がかかるだけでなく人件費等のコストもかかり、

さらに上場審査手数料や幹事会社に支払う手数料、監査報酬などの費用も必要になります。また、上場後も年間単位で証券取引所に支払う上場維持費用や監査報酬などが必要で、IR活動になどに必要な内部の管理体制強化や維持に関わるコスト、株主総会運営コストなども継続的に発生する点には十分な理解が必要です。

4 会社設立から10年以内に上場した企業10選

会社設立から10年以内に上場した企業10選

ここまで株式会社の上場について概要やメリット・デメリットを説明しました。上場の際の審査基準は上場する市場によって差はあるものの、概ね高いハードルが設けられており一定以上の株主の存在や時価総額などが必要です。そのため、上場できる企業は無数にある株式会社の中でもごく一部の限られた存在で、これらの企業の多くは長い期間かけて会社を成長させることで上場にこぎつけています。

ところが、個人の資産運用などでも株式投資がクローズアップされる最近では新興市場における個人の株式取引なども盛んに行われており、会社の設立から10年かからずに上場する企業も少なくないのが現状です。ここからは、会社設立から10年以内に上場した企業10社を紹介します。なお、こちらで紹介する時価総額や従業員数、前年売上などの数値は本記事執筆時点である2020年4月23日時点で企業が開示している情報です。

①株式会社Macbee Planet

株式会社Macbee Planetはマーケティングの課題をテクノロジーの活用によって解決するサービスを提供する企業です。データを基盤とした分析・予測・最適化によって新たなソリューションを提供し続けており、既成概念にとらわれない発想とマーケティングでクライアントのマーケティングにおける課題解決を行っています。主にインターネットを活用して販売促進や集客、知名度向上を目指す企業に対してサービスを提供している企業で、会社設立から5年足らずでマザーズに上場した急成長を遂げている企業です。

  • 上場市場:マザーズ
  • 会社設立:2015年8月
  • 上場  :2020年3月
  • 上場までの期間:約4年7か月
  • 時価総額:6,875百万円
  • 従業員数:47名(正社員のみ)
  • 前年売上:4,685百万円

②株式会社くふうカンパニー

株式会社オウチーノと株式会社みんなのウェディングとの共同持株会社として設立された株式会社で、設立と同時にマザーズへ上場した企業です。「えらべる結婚式をお得な価格でつくる」を事業ミッションに掲げる総合情報メディア「みんなのウェディング」における結婚関連事業や、住まい探しのポータルサイト「オウチーノ」をはじめとする不動産関連事業、家計簿サービス「Zaim」や「くふう少額短期保険」などの様々な事業を行っています。また、最近では投資・起業家支援として起業家やベンチャー企業の経営支援や新規事業の創出にも取り組んでいる企業です。

  • 上場市場:マザーズ
  • 会社設立:2018年10月
  • 上場  :2018年10月
  • 上場までの期間:0年(前身の㈱オウチーノ設立から約14年6か月、㈱みんなのウェディング設立からは8年)
  • 時価総額:12,762百万円
  • 従業員数:30名
  • 前年売上:4,493百万円

③株式会社ツクイスタッフ

東証一部の上場企業である株式会社ツクイが出資して設立された会社で、主に介護と医療を専門とした就業支援サービスの提供を行っています。全国38の支店で地域に密着した求人情報を収集しており、その地域に詳しいキャリアアドバイザーがスムーズな仕事の紹介などをサポートするシステムです。現在も深刻な人手不足に直面している介護や医療の現場で安定的な人材供給の役割を担っています。

  • 上場市場:JASDAQ
  • 会社設立:2016年1月
  • 上場  :2019年3月
  • 上場までの期間:約3年2か月
  • 時価総額:1,982百万円
  • 従業員数:196名
  • 前年売上:8,130百万円

④株式会社識学

成果の上がる組織をつくる識学という理論によってハイパフォーマンスな組織作りのサポートを行う会社です。経営者やマネージャーをはじめ全ての社員が無駄なストレス無く仕事に集中できる組織を作り上げることによって成果を上げるマネジメント理論が識学の根幹的な考えとなっています。理論のマスタートレーニングや社内評価制度の構築サービス、集合研修などのサービスを提供しており、講師の数と講師一人当たりの売上高を継続的な成長を遂げるための重要な戦略として掲げている企業です。

  • 上場市場:マザーズ
  • 会社設立:2015年3月
  • 上場  :2019年2月
  • 上場までの期間:約4年
  • 時価総額:5,957百万円
  • 従業員数:90名
  • 前年売上:1,720百万円

⑤名南M&A株式会社

明南M&A株式会社は東海エリアでトップクラスのM&A専門会社です。経営コンサルタント会社の株式会社名南経営コンサルティングが母体となり、東海・近畿エリアを中心にM&Aの支援サービスを展開しています。地方銀行や信用金庫、地元の税理士や司法書士などと積極的に連携し、友好的なM&Aを積極的に支援しています。M&Aにつきものの後継者問題や業界再編などの経営課題に対して専門サービスを提供することや、製造業や医療・介護業界における業種特化チームによる課題解決によって円滑なM&Aを推進している企業です。

  • 上場市場:セントレックス
  • 会社設立:2014年10月
  • 上場  :2019年12月
  • 上場までの期間:約5年2か月
  • 時価総額:4,210百万円
  • 従業員数:29名
  • 前年売上:800百万円

⑥株式会社ZUU

株式会社ZUUは金融のオウンドメディア「ZUU online」などを運営する会社です。フィンテックプラットフォームを通してお金に対するリテラシーを向上させるサービスの提供などを行っており、個人に対しては「ZUU online」、金融業界関係者に対しては「FinTech online」などを通じて金融やフィンテックに関する情報などを発信しています。これらの他に金融特化型の就職支援サービスのプラットフォームである「ZUU CAREER」なども運営し、転職紹介などのサービスも開始しています。

  • 上場市場:マザーズ
  • 会社設立:2013年4月
  • 上場  :2018年6月
  • 上場までの期間:約5年2か月
  • 時価総額:5,414百万円
  • 従業員数:57名
  • 前年売上:1,317百万円

⑦株式会社メルカリ

最近誰もが知っているスマホ向けフリマアプリを提供している株式会社メルカリも10年以内に上場を果たした企業の一つです。新たな価値観を生み出す世界的なマーケットプレイスの創造をミッションに掲げており、既に日本では国内首位のフリマアプリとなっています。日本だけでなくアメリカでもフリマアプリ事業を展開しており、最近はスマホ決済に使用できるメルペイなどの金融事業を強化している最中です。

  • 上場市場:マザーズ
  • 会社設立:2013年2月
  • 上場  :2018年6月
  • 上場までの期間:約5年4か月
  • 時価総額:398,270百万円
  • 従業員数:1,827名(連結)
  • 前年売上:51,683百万円

⑧株式会社Gunosy

株式会社Gunosyは新聞や雑誌などの記事を配信するキューレーションサイト「グノシー」などを展開する会社です。テレビCMを積極的に活用することによって知名度を上げた企業で、簡単な操作で話題のニュースがチェックできる無料アプリの「ニュースパス」や、女性のためのトレンド情報アプリ「LUCRA(ルクラ)」などのスマホ用アプリの配信・運営も行っています。株式会社Gunosyは創業からわずか2年5か月ほどでマザーズへ上場し、それからわずか2年8か月ほどの期間で東証一部へとステップアップを果たした企業です。

  • 上場市場:東証一部
  • 会社設立:2012年11月
  • 上場  :2015年4月(当初はマザーズへ上場し、2017年12月に東証一部へ市場変更)
  • 上場までの期間:約2年5か月
  • 時価総額:18,601百万円
  • 従業員数:175名
  • 前年売上:15,017百万円

⑨株式会社マネーフォワード

株式会社マネーフォワードは個人向け家計簿アプリの「マネーフォワード」と法人向け会計ソフトの「MFクラウド」が事業の2本柱となっている企業です。「マネーフォワード」は誰にでも簡単に無料で続けられる家計簿をコンセプトにしており、現金だけでなく銀行口座やクレジットカード、証券会社、ポイントなどの口座を自動でまとめて家計簿を自動作成できる時代に則した家計簿アプリとなっています。また、クレジットカードや証券口座などのお金にまつわるサービスを比較検討できるサイトなども運営しており、個人から法人までのお金に関わるサービスをトータルでサポートする会社です。

  • 上場市場:マザーズ
  • 会社設立:2012年5月
  • 上場  :2017年9月
  • 上場までの期間:約5年4か月
  • 時価総額:110,941百万円
  • 従業員数:504名
  • 前年売上:7,156百万円

⑩株式会社クラウドワークス

日本最大級のクラウドソーシングサービスを提供する企業です。最近話題になった働き方改革により多くの企業でも副業が容認されつつありますが、そのような環境の下クラウドワークスでは企業と個人が直接オンラインで仕事を受発注できるシステムが構築されており堅調に売上を伸ばしています。主力となるクラウドソーシングサイト「CrowdWorks」だけでなく、「Crowdtech」というフリーランスのエンジニアやデザイナーに向けたキャリアサポートサービスも提供しており、さらなるシェアの拡大を目指しています。

  • 上場市場:マザーズ
  • 会社設立:2011年11月
  • 上場  :2014年12月
  • 上場までの期間:約3年1か月
  • 時価総額:17,570百万円
  • 従業員数:184名
  • 前年売上:8,749百万円

5 あえて上場しない企業も

あえて上場しない企業も

株式会社は上場することによって様々なメリットを得られますが、あえて株式を上場しない大企業も少なくありません。こちらではこれらの企業が上場という方法を選択しない理由について確認してみましょう。

上場基準を十分にクリアしている大企業でも、あえて上場という選択肢をとらない企業が少なからず存在します。例えば、サントリーや朝日新聞社、竹中工務店などの抜群の知名度を誇る大企業は全て非上場です。これらの企業が上場しない理由は様々ですが、サントリーは創業者である鳥居信治郎氏が決めた方向性に従い社員が何事にもチャレンジしてみる「やってみなはれ」精神が根付いており、会社経営についても株主の意見に左右されずに様々なチャレンジができるようにあえて上場しないと言われています。

また、竹中工務店にも長期的な視点に立った次の時代に活かすことができる建築物を建設するという理念があり、市場から短期的な利益を求められることや株主の意見に経営が左右されることの無いように上場していないと考えられています。一方、朝日新聞社は日本を代表する5大新聞社の一つですが、読売新聞や日経新聞、毎日新聞、産経新聞を含めて株式を上場している新聞社は皆無です。

これは、新聞社が報道をメインとした社会の公器として存在していることが大きな理由となっており、株主との関係により報道に偏りを起こさないよう上場していないと考えられています。このように、上場によるデメリットが会社経営に悪影響を及ぼすと考えられる場合は、あえて上場しないという選択をすることも可能です。

6 初めてでもできる!会社設立の手順と方法を簡単解説

初めてでもできる!会社設立の手順と方法を簡単解説

会社設立の手続きは専門家に頼まなくても自分で行う事もできます。会社を設立する際には、まず会社の種類を決めます。一般的な営利目的の会社は次の4種類があります。

  • ・株式会社
  • ・合同会社
  • ・合資会社
  • ・合名会社

この中で、一般的な知名度があるのは『株式会社』になります。会社設立のうちおよそ80%が株式会社最も多く、その次が『合同会社』になります。
ほぼ、会社設立時に選択されるは株式会社と合同会社のどちらかです。

〇合同会社

合同会社は、近年その設立数が増加しています。合同会社の設立数は、2017年から会社設立全体の中で20%を占めています。

合同会社のメリットは、設立と維持の費用が低い点です。
合同会社の設立を電子定款で実施すれば設立費用が6万円となります。これは株式会社の設立費用の約1/3となっています。
また、合同会社には決算公告の義務がありません。一方で、株式会社は毎年決算書を作成して官報に掲載する義務があり、掲載料に6万円の費用が掛かります。

一方で、合同会社のデメリットは株式会社と比較しての知名度の低さです。近年増加傾向であることは前述のとおりですが、まだ一般的な人にとっての知名度は株式会社には勝てません。

6-1 会社設立の手続き概要と費用

事業を行う場合には、会社設立をしない場合には、個人事業主として事業を行う事になります。事業開始段階で、会社設立と個人事業主にある差は“手続き”と“費用”になります。

〇会社設立の手続き概要

会社設立をする時には、設立準備と設立時と設立後に分かれていくつかの手続きが必要になります。詳細は後述しますが、会社設立手続きをやるべきタイミング別にまとめると以下のようになります。

〈会社設立手続き概要〉

実施時期 手続き
設立準備
  • ・発起人の決定
  • ・定款事項(商号/資本金額/所在地など)の決定
  • ・印鑑の作成
  • ・資金の準備
設立時
  • ・定款の作成と認証
  • ・資本金の払込
  • ・法人登記の申請
設立後
  • ・税務署/地方自治体(都道府県と市区町村)への設立の届出
  • ・社会保険の加入
  • ・法人口座の開設

一方で、個人事業主が事業を開始するために必要な事は、税務署に開業届をするだけです。会社設立をせずに個人事業主として事業を行っていくうえでは、この手軽さは大きなメリットになります。

〇費用

株式会社の設立には、約24万円の費用が発生します。
少し蛇足しますが、自身で全て実施した場合も外部(司法書士や行政書士)に依頼した場合も費用はあまり変わりません。専門家のアドバイスが得られる事や自身の時間の節約のためにも外部へ依頼する事は得策といえます。

〈株式会社設立の費用〉

発生項目 自分で実施 外部で実施
定款認証費用 50,000円
定款印紙代* 40,000円 0円
定款謄本代 2,000円
登録免許税 150,000円
登記事項証明書代 600円/1通
印鑑証明書代 450円/1通
外部依頼費用** 0円 30,000円
費用合計 243,050円 223,050円

*電子認証で届出を行った場合には、定款印紙代は必要ありません。
**外部依頼費用は、依頼先によって異なりますが、概ね費用は自分で実施した金額と同程度ないしは少し安くなる設定になっています。

個人事業主の開業に費用は掛かりません。この点も、個人事業主の開業を選択するメリットです。

6-2 会社設立の必要性

会社設立の必要性を考える場合の軸は“事業規模”になります。事業規模を大きくしていく計画がある場合、会社設立を検討すべきです。規模が大きくなるために必要な信用度や資金調達や節税について、法人である方が個人事業主より有利だからです。

また、従業員を雇用しようとする場合にも会社設立をしておいた方が有利です。そして、ビジネスの相手によっても法人にすべきか決まってくる場合もあります。法人相手の事業では、法人同士でないと取引が出来ない場合もあるからです。

全て事業を開始する場合には、法人になっておいたほうが良いわけではありません。法人設立には、前述したとおり手間と費用が掛かるからです。
事業を大きくするわけではなく、特定の顧客と継続的に仕事をしていくのであれば、個人事業主として事業を行うメリットが大きくなります。

6-3 会社設立の事前準備

会社設立の事前準備について一つずつ解説していきます。

〇発起人の決定

発起人とは、会社設立の手続きを行い、その手続きについて責任を負います
発起人の決定は、設立会社の定款に記名・押印する事で決定します。そして、発起人は設立会社に出資し、会社設立後には株主になります。

発起人には、15才以上の人物ないしは法人がなる事が可能です。会社設立に最低1名の発起人は必要ですが、人数の上限はありません。

〇定款事項(商号/資本金額/所在地など)の決定

定款は“会社の憲法”と呼ばれる、会社運営の基本的規則を定めたものになります。定款に記載事項は大きく3つに分けられます。

絶対的記載事項 記載がない場合には、定款としては成立しない事項をいいます。
相対的記載事項 記載がない場合には、その定めの効力が発生しない事項をいいます。
任意的記載事項 絶対的記載事項ならびに相対的記載事項ではない、その会社で独自に決定した事項をいいます。

会社設立の事前段階において、絶対的記載事項は事前で決定する事がほぼ必須になります。
絶対的記載事項に該当する事項は以下の6つになります。

  • ・会社の名称=商号
  • ・事業内容=目的
  • ・会社の住所=本店所在地
  • ・設立時点の出資金額(あるいは最低額)
  • ・発起人の氏名(法人の場合には名称)と住所
  • ・発行可能株式数(発行する事が出来る株式の上限)

絶対的記載事項は会社設立や、事業の開始において必須の実務的にも必須事項となるため事前に決定しておきます。

また、次の手続きに進むために決定が必要になります。
具体的には、本店住所が決定する事で会社設立の届出を行う管轄の法務局が決まります。設立時点の出資額が決定する事で、出資の振込が行えます。

〇印鑑の作成

法務局での会社設立登記を行う際に、代表者印の登録を行います。この代表印の登録を行う事で、印鑑証明書が作成できます。法人としての契約締結を行う際には、一般的には代表者印と印鑑聡明のセットが必要になります。

そのため、設立の準備段階で代表者印(丸印)を作成します。
代表者印のサイズには、1㎝~3㎝以内の正方形に収まる大きさという定めがあります(商業時規則第9条)。サイズ以外に計上や刻印の内容に規定はありませんが、一般的なものは丸型に『商号』+『代表取締役印』とします。

代表社印作成の際に、銀行届出に利用する“銀行印”を作成しておきます。また、任意で領収書や請求書など社外の書面に利用する“角印”等も作成しておきます。

〇資金の準備

会社設立時には資本金を準備します。

資本金は、最低1円から会社設立は可能です。
しかし、元々信頼を得るために会社設立をした場合などは資本金額によってその信頼度が変わってくる事を前提に資本金額を決定し、準備すべきです。

会社設立前の準備が完了したら、会社設立を行っていきます。会社設立の手続きが終了すると会社が設立できます。そして、会社設立した後に1ヶ月以内などに行わなければいけない手続きが続きます。

そのため、会社設立とその後の手続きはセットで計画していく必要があります。

6-4 定款の認証、資本金の払い込み、登記申請

会社設立においては、法務局で定款の認証を行った後に、資本金を払込し、法務局で法人登記の申請を行います。

定款の認証と法人の登記申請は、両方ともに法務局で行うために1回で済ませたいと思うかもしれませんが、資本金の払込は定款の認証を実施した日以降に実施しなければなりません。また、資本金払込の後でなければ法人の登記申請もできません。

〇定款の作成と認証

定款は前述の通りに、絶対的記載事項と相対的記載事項と任意的記載事項からなります。絶対的記載事項とその他で必要とする記載事項を網羅して、定款を作成します。

定款には定められたフォーマットなどはありません。ワード等を利用してA4サイズの横書きで作成します。
また、定款は公証役場保存用と登記用謄本と自社での保管の3通を製本します。この際に末尾に発起人全員の署名と押印が必要になります。

なお、製本にする前に定款の事前チェックが公証役場で可能です。管轄する公証役場に問い合わせを行えばチェックの方法を具体的に教えてもらえます。

定款の製本が出来たら認証を行います。認証は、会社の本店所在地を管轄する法務局か公証役場で行います。
認証の手続きは、原則発起人が行います。また、発起人が複数いる場合には全員で行きます。

認証手続きに必要なものは以下になります。

  • ・定款3通
  • ・発起人の実印と印鑑証明書(発行後3ヶ月以内)
  • ・本人確認書類(運転免許証等)*
  • ・収入印紙4万円
  • ・現金5万円(認証費用)

*発起人以外の代理人が定款認証を行う場合、委任状と代理人の本人確認書が必要です。

〇資本金の払込

発起人の銀行口座に資本金と同額を入金します*。
この際に、必ず“発起人の名前”と“入金額”が通帳に印字されるように払込をします。この印字された通帳の以下の3か所から払込証明証を作成します。

  • ・通帳の表紙
  • ・表紙の裏面
  • ・払込が印字されたページ

*資本金額より多い入金は資本準備金となります。

〇法人登記の申請

登記申請は、資本金払込2週間以内に管轄の法務局に必要書類を提出します。
法人登記申請に必要な書類等は以下になります。

  • ・登記申請書
  • ・登記すべき事項(登記簿に記載する事項)のデータないしは紙
  • ・定款
  • ・資本金の払込証明証
  • ・登録免許税分の現金 最低が15万円で資本金額×0.7%
  • ・その他添付資料*

*添付書類については取締役会の設置有無などによって異なります。事前に管轄する法務局に問い合わせを行ってください。

法人の登記申請から完了するまでには、法務局の審査を経るので2週間前後かかります。

6-5 会社設立後の手続き

法人登記を行うと、会社が設立されます。会社設立が出来たら、すぐに会社設立後の手続きを実行します。

〇税務署/地方自治体(都道府県と市区町村)への設立の届出

税務署と地方自治体に、法人設立届出を行います。提出の期限は会社設立日から1ヶ月以内になります。

税務署での届出では、国税庁のホームページでフォーマットや詳細が確認できます。税務署では法人設立届出と合わせて、給与支払事務所等の開設届出も必要になります。

都道府県ならびに市区町村も会社の本店住所を管轄する地方自治体のホームページや問い合わせをする事でフォーマットや必要書類が確認できます。

〇社会保険の加入

会社設立をしたら、社会保険への加入を会社設立から5日以内に行います。
届出は必須で提出するものと、加入要件を満たす場合に提出するものに分かれます。それぞれ日本年金機構のホームページで詳細が確認できます。
必須(会社設立から5日以内に届出)

〇法人口座の開設

事業を開始し、支払いや入金などを行う際には法人名義の口座が必要になります。法人名義の口座は信用の有無に直結します。
法人口座開設には、金融機関の審査が2週間前後とカード送付に1週間前後かかります。早めに開設の手続きを行うようにしてください。

実際に設立してから設立後の1ヶ月に複数の手続きをまとめて行わなければいけません。そのため、情報収集やタスクの整理などを含めて事前に出来る事は全て行っておく事がスムーズに進むポイントになります。

また、書類作成や手続きが苦手な方は行政書士や税理士などの専門家に依頼する事も、会社設立をスムーズに行い事業の立ち上げを成功させる上では必要になります。

7 まとめ

今回の記事では株式上場の概要から証券取引所の上場基準、上場のメリット・デメリット、設立から10年以内に上場した企業や、会社設立の方法などについて解説しました。株式の上場によって返済不要の事業資金を市場から調達できるため、事業の拡大などを考える局面では株式の上場が非常に有効な手段です。しかし、上場するためには各市場の上場基準をクリアする必要があり、デメリットなども存在するため、これらもキチンと理解した上で最終的な判断を下さなければなりません。単純に会社を大きくすることイコール上場と考えるのではなく、戦略的に上場のタイミングなども見計らってから上場可否の判断を行うようにしてください。