会社設立後に販売を安定させることは簡単ではありませんが、新型コロナの影響でそれがより困難になっています。特に消費者や事業者の行動に変化が見られ、従来の販売活動では上手くいかないケースが増えています。

そこで今回は会社設立時から考えたい販売活動の方法や、コロナ禍でも成長できるプロモーション戦略などについて解説します。プロモーション戦略やその施策、コロナ禍でも役立つデジタルプロモーションの内容などに興味のある方はぜひ参考にしてください。

1 会社設立時に把握すべき販売の問題

会社設立時に把握すべき販売の問題

通常の創業時やコロナ禍で創業する場合に知っておきたい販売に関する問題点を説明しましょう。創業前後の企業では、販売に関する課題は「お金」に次いで重要視されています。2020年11月に日本政策金融公庫の総合究所が発表している「2020年度新規開業実態調査」によると(ページ13)、「開業時で苦労したこと」で最多の課題は55.0%の「資金繰り、資金調達」で、次いで46.8%の「顧客・販路の開拓」です。

1-1 創業時の一般的な販売の問題

創業時の一般的な販売の問題

①一般的な創業期の課題

「現在苦労していること」については、47.3%で「顧客・販路の開拓」が最多で、次いで32.4%の「財務・税務・法務に関する知識の不足」となっています。このように販売の問題が創業時の経営で最も影響が大きいのが特徴です。

また、平成26年12月に実施された東京商工会議所の調査「創業の実態に関する調査 報告書」(ページ4~)には以下のような結果が報告されています。

○創業準備段階について

・創業の準備にあたり重要と思われる要素の多い順
⇒「資金調達」(66.4%)、「販路開拓」(54.1%)、「人材確保」(36.2%)

〇創業後について

・創業してから苦労した/苦労している課題の多い順
⇒「資金調達」(51.6%)、「販路開拓」(50.9%)、「人材確保」(38.1%)

以上の調査結果から創業時の企業が「顧客を増やす」「販路を広げる」といった課題で苦労している点が理解できます。

②開業後の売上の低迷

通常の経営環境においても開業してから一定期間が過ぎても売上が伸びないといったケースは少なくありません。たとえば、「居ぬきの店舗を確保して居酒屋を開店したが売上が一向に増える気配がない!」といったケースはよく見られます。

売上が伸びない理由は、立地、外装・内装、メニュー・味・食材・それらの独自性等、各種サービス(ポイントや特典等の付与)などに問題があるほか、販売促進活動の量や質などが原因となっていることも多くなっています。

立地が良くて食事やお酒が美味しいお店でもターゲット層にその存在を認知してもらわなくてはお客が増えるはずはありません。お店の前を行きかう人に手当たり次第にチラシを配ったとしてもターゲット層でない人に来てもらうのは困難です。

お客が自店に足を運ぶには理由があるはずであり、その理由を把握してアプローチしないとお客は増えず売上は伸びないままの厳しい状況が続きます。

③伸びないリピート客

実店舗の販売だけでなくインターネット販売でもリピート客が増えず売上が伸びないという現象はよく見られます。新規で訪れるお客は一定数存在するものの、彼らが固定客にならないために売上が増えて行かないというケースは少なくありません。

つまり、お店には新規客を呼び込むための一定の魅力や仕組みがあるにもかかわらず、彼らがその店のファンに昇華せず1回限りの取引・利用で終わるケースが多く見られます。

新規客が固定客化やファン化しない理由は様々ですが、お店の顧客管理の方法に問題があるケースも多いです。せっかく自店を訪れ利用したにもかかわらず、そのお客にまた来店してもらうための工夫や仕掛けを怠ってはリピート客の増加は見込めません。

利用してくれたお客を認識し定期的にアクセスして関係を維持したり、ニーズを掘り起こしたりするような取り組みをしないと彼らはファンにはなってくれないわけです。

④売上を伸ばすための知識の少なさ

「何故、売上が伸びないのかわからない」といった経営知識が不足しているケースも多いですが、いつまでのその状態が続くと経営はさらに悪化してしまいます。

創業者の多くは特定分野・専門分野の知識は豊富で優れていても経営に関する知識が不足している方は少なくありません。特に営業関係の職種についたことのない方はマーケティングや販売活動に関する知識が希薄であるケースが多いです。

最初はマーケティング等の知識がないのは当然ですが、創業者としては最低限の知識を身につけ徐々に増やしていくことが求められます。たとえば、売上を増やし企業や事業を成長させるには事業コンセプトに基づいたビジネスモデル(誰のどのようなニーズを何でどう充足するのかが不明確)と基本戦略を策定しそれに応じたマーケティング戦略が必要です。

創業時から過度に詳細な戦略・戦術は不要ですが、基本戦略とそれに対応した基本的な販売活動の方法を決めて実施しなくてはなりません。事業に対する理念がなく、不明確なビジネスモデルや販売活動で事業を進めても売上を増大させるのは困難になります。

1-2 コロナ禍でのニーズの変化

現在は新型コロナによる影響で消費者、事業者や労働者などはこれまでと違った生活や行動が強いられており、購入・使用する商品・サービス等に対するニーズに変化が見られるようになってきました。そのニーズの変化が企業の販売活動にどのような問題を生じさせるかを説明しましょう。

①生活者のニーズの変化と販売

コロナ対策として3密が叫ばれ、非対面、非接触、混雑回避や移動の制限などを生活者は強いられており、購買行動に大きな変化が生じています。

具体的には、外出して気軽に飲食や買物ができなくなったほか、人が多く集まる観光地等へ遠出するのも困難な状況です。つまり、実際に店舗や観光場所等へ訪ねてショッピング、サービスや観光などを楽しめなくなっています。

その結果、飲食・サービス・宿泊などの業種は特に客数が大幅に減少して業績を大きく下げている状況です。生活者では、国等からの行動自粛の要請を受けコロナに対する防御姿勢から今までの通りの接触を伴う購買行動を抑制する傾向が強まっています。

具体的には、外出する機会そのものを減らす、人ごみの多いお店は避ける、お店のお客が多くなる時間帯に行かない、ネット上で商品を買いサービスを利用する、近場で人が集まりにくい場所でレジャーを楽しむ、といった行動が重視されているのです。

また、子供の教育や結婚、家の新築・建て替えや車の購入などについて企業の事務所へ行って相談したい場合でも気軽に訪問できず、自身の購買問題の解決に悩む方も少なくありません。

このように生活者や消費者に大きな行動変容が見られているため、コロナ以前の販売活動のままではニーズに対応できず売上を伸ばすどころか減少を回復させるのも難しいのです。

②労働者のニーズの変化と販売

コロナの影響で企業に勤める労働者の行動にも変化が見られ労働者が仕事や生活をする上でのニーズも変わってきました。たとえば、働き方改革が叫ばれる中でもあまり進展しなかったリモートワーク(在宅勤務や社外勤務等)が急速に普及してきています。

その結果、週の大半は家庭や郊外のサテライトオフィスなどで仕事に就くというスタイルが増え、労働者の消費行動が一変し始めました。今までは会社帰りに同僚と飲食したり、ショッピングしたりする機会も多かったですが、今ではそうした行動は激減しているのです。

また、仕事帰りに英会話などの習い事やスポーツジムでのトレーニングなどを楽しんでいましたが、習い事はオンラインサービスに変更しスポーツなどは自宅のトレーニングなどに替えるケースが見られます。

今まで会社帰りのサラリーマンなどをターゲットとしていた企業では、こうした彼らの行動変容により売上が大きく落ち込んでいます。

③事業者の行動変容と販売

コロナの影響を受けた企業を顧客としている事業者にも悪影響が及んでいます。飲食・宿泊・サービス業などは上記の通りコロナ禍で売上を大幅に落としていますが、彼らに商品・サービスを提供している事業もそれに伴って業績が悪化しているのです。

飲食・宿泊の企業に食材や衛生資材などを納入している事業者では売上が半減するようなケースが多く見られます。たとえば、居酒屋などに魚介類を卸していた事業者などがその典型です。

今までは特定の飲食店への販売が不調になれば、他の地域などの飲食店を新規開拓するという方法などが取れました。しかし、現在では飲食業界全体がほぼ不調であるため、これまでの新規開拓の方法では対応できません。

また、生産財などのBtoB企業の場合、自社が扱う製品の販売は顧客へ訪問してのPRが主体でしたが、現在ではそのPR方法がこれまで通りに実施できないケースが増えています。

コロナ対策で顧客企業から自社の訪問について制限を受け思うようにPRや打ち合わせができなくなっているのです。電話やメールだけの説明ではPRとして弱く、また顧客担当者との関係構築も不十分になりかねません。

加えて飲食を伴う打ち合わせや接待なども控えられるため、親密な関係構築は困難です。このようにコロナの影響によりBtoBなどの事業者を相手とする業界においても今までの販売活動が困難になっており、抜本的な販売活動の改善が求められます

2 プロモーション戦略の進め方

プロモーション戦略の進め方

販売活動の中心となるマーケティング戦略とその構成要素の1つであるプロモーション戦略のポイントを説明しましょう。

2-1 マーケティング戦略と販売活動の関係

まず、マーケティング(戦略)と販売活動がどのような関係にあるのか、あるべきなのか、ついて確認します。

①マーケティングとは

マーケティングを簡単に表現すると、「販売して儲けるための仕組み」と言えるでしょう。日本マーケティング協会などの定義を参考にすると、マーケティングは以下のような内容になります。

・顧客ニーズをモノやサービスで充足するために、市場調査から製品開発、価格・販売促進・チャネル・物流の設計のほか、顧客やステークホルダーとの関係構築などを行う組織の統合・調整された一連の活動

つまり、マーケティングは販売活動全体を示す概念です。消費者や事業者の購買活動はお金、モノやサービスなど必要なものを各当事者が交換する活動であるため、マーケティングはその交換活動を自社の目的に合わせて実現する、円滑に行う、効果的に行うための仕組みになります。

適切な交換活動を行うには、買手のニーズを把握しそれを充足するモノやサービスを用意しなければなりません。競争相手がいれば、競争に勝てる要素をビジネスに組み込んで買手にアプローチすることも必要です。

そうした点を踏まえ環境分析してターゲットを絞り販売促進等の事業要素を組立てて実行し、買手との良い関係を作って販売を進めていくという「マーケティング」がビジネスに求められています。

②マーケティングのプロモーション

マーケティングの要素は、「製品(price)」「価格(product)」「販売促進(promotion)「流通(place)・チャネル」の4つ(4P)です。

製品は買手が欲するニーズを具現化したモノやサービス、価格はそれらの値段・コスト、販売促進は商品等を買手に認知させ購入を促す活動、流通はそれらを買手に届ける仕組み、といった内容になります。

ここでは創業期の企業において特に重要となるプロモーションの内容を簡単に説明しましょう。

2-2 プロモーション戦略の概要

プロモーション戦略はマーケティング戦略の1要素であるため、まず基本のマーケティング戦略を策定してから次にプロモーション戦略を検討するという流れになります。

詳細なマーケティング戦略を作れない場合は、ビジネスモデル(誰にどのニーズを何の商品・サービスでどのように提供するか)を前提として、それに沿ったプロモーション戦略を策定するようにしましょう。

①マーケティング戦略の策定手順

マーケティング戦略の策定は一般的に以下の手順で実施されます。

マーケティング戦略の策定手順

1)環境分析

まず、自社が属する業界、対象事業の市場、ライバルや顧客の動向、関係する政治・経済・法律等の状況などの環境を分析します。もちろん自社および自社事業の強み・弱みなども分析の対象です。

なお、環境分析の分析手法(フレームワーク)には以下の3つがよく利用されます。

・PEST分析
PEST分析はマクロ環境を分析するための代表的なフレームワークです。主な分析対象は「政治(Politics)」「経済(Economy)」「社会(Society)」「技術(Technology)」の4つになります。

・3C分析
3C分析は「顧客(Customer)」「競合(Competitor)」「自社(Company)」の3点を分析するフレームワークです。PEST分析はマクロ環境で、3C分析は主に業界分析といった位置づけになります。現状での自社事業の立ち位置、有利・不利などの把握に有効です。

・SWOT分析
SWOT分析は、自社に関しての「強み(Strength)」「弱み(Weakness)」「機会(Opportunity)」「脅威(Threat)」という外部と内部の環境を分析するフレームワークです。

4つの視点で収集された情報は戦略目標を導き出すための根拠として利用されます。SWOT分析は環境分析とその結果から導く戦略目標の導出がセットになるフレームワークとして利用されるケースが多いです。

2)セグメンテーション

セグメンテーションは「市場細分化」のことで、環境分析の結果に基づき自社事業に最適な市場を探すために、市場を様々な基準で細分化することです。

たとえば、地理的(地域や気候等)、人口統計的(年齢・性別・職業・学歴等)、心理的(価値観・ライフスタイル等)、行動変数(商品等の使用頻度・使用方法・態度等)、生活者のニーズや価値観などをもとに分析し細分化していきます。

3)ターゲティング

ターゲティングは、セグメンテーションの結果をもとに自社事業にとっても最も有利で顧客に選ばれる可能性が高い市場を選定する作業です。自社事業の魅力やライバルの特徴などを踏まえて自社の強みで事業を有利にできる市場を特定していきます。

つまり、標的市場を選定していく作業がターゲティングで、誰に対してビジネスをどう展開していくかを決めるわけです。その具体的な方法として、以下の「市場ガバレッジ戦略」などがあります。

●無差別型
細分化された市場の特徴における各々の違いを考慮せず、また特定の市場をターゲットとしないで不特定多数に向けて、共通の商品・サービスを提供していく方法です。多くの人に訴求できる一方、多様化するニーズへの対応が困難になります。

●差別型
細分化された各市場のニーズに合致する商品・サービスを提供していく方法です。各市場のニーズに合わせた方法であるため、良好な売上が期待できる一方、各市場に異なるマーケティング手段を講じるためコストが多くかかります。

●集中型
1~3つといった少数の市場(セグメント)をターゲットとしてそれに合わせたマーケティング手段を実施していく方法です。差別型よりはコストを抑えつつ、特定のセグメントで売上を伸ばせる可能性があります。

4)ポジショニング

ポジショニングはビジネスを展開する上での自社事業の立ち位置を定める作業です。顧客やライバルから見て自社事業がどのように映るのか、どう魅力があるのか、有利なのか不利なのか、といった点を様々な要素からポジショニングします。

ポジショニングの作業では「ポジショニングマップ」というフレームワークがよく利用されます。ポジショニングマップは業界内での自社事業の位置づけを示すマトリックス図で、重要度の高い要素を縦軸と横軸にとり自社やライバルをプロットして競争状況の有利・不利などを把握するのです。

5)マーケティングミックス

マーケティングミックスは、これまでの作業の結果に基づきその内容に合わせて4Pの内容を決定する、という作業になります。

②プロモーション戦略の構成要素

プロモーション戦略の構成要素の内容を簡単に説明しましょう。

●プロモーションの要素
プロモーションの役割は、買手に自社商品等を認知させ購入を促すことであるため、買手との良好なコミュニケーションを実現することです。

そのプロモーションの要素は、主に「広告」「販売促進」「人的販売」「パブリシティ」の4つで、他には「顧客関係の構築・維持」や「口コミ」なども含まれます。

プロモーションの要素

1)広告

広告とは、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌のほか、ダイレクトメール、WEB上の広告、電車等の交通広告、屋外看板、ノベルティなどを通じて行うプロモーション施策です。

ターゲットが自社の商品・サービスに気づき、購入したいと思わせる情報を提供するのが広告の役目になります。そのため広告では、買手がいつ、どこでその情報を認識するかがポイントとなるため、メディアの選択や情報発信の時期の選択等が重要です。

つまり、買手の行動パターンや趣味嗜好などを把握してそれに適した時期やメディア等を選択することが求められます。もちろん広告内容(情報の内容や表現等)や情報発信者(CMに起用するタレント等)の選択も重要です。

2)販売促進

販売促進は「セールスプロモーション(SP)」のことで、一定期間内(主に短期)での購買頻度や購入量の増加を目的に買手に対して実施される一連の需要刺激策と言えます。

具体的には、最寄店等の店頭におけるPOPや陳列の実演や販売コンテスト、見込顧客へのダイレクトメールの発送、販売店等への奨励金の付与(リベートを含むインセンティブの提供等)、サンプル・ノベルティの提供、ポイントの付与、などです。

なお、価格に関連したSPは商品価値、ブランド価値を下げることもあるため、その点を考慮した方策が必要になります。

3)人的販売

人的販売は販売要員等を使って販売を促進する双方向的な活動で、店舗での店頭販売や訪問販売などが該当します。各買手に合わせて商品等の説明や使用法の指導などについて対話を通じて行う手段が人的販売です。

広告と違って人的販売は買手と相対して直接的に買手へ商品の認知や購入意欲をアップさせることができます。ただし、人的販売の効果を得るには人的資源を一定期間継続して投入することが必要となるため、広告以上の継続的なコストが多くなりやすい点がデメリットです。

また、人的販売の効果は販売員等の能力や意欲に左右されるため、その対策(教育、インセティブの付与等)が欠かせません。

4)パブリシティ

パブリシティは、売手が自社の商品・サービス等についてテレビ、新聞、雑誌などのメディアにニュースや記事として取り上げてもらい発信してもらう一方的なコミュニケーション施策です。

従って、パブリシティは、自社がメディアに費用を支払って商品等を宣伝する広告や、自社のWEBサイトで発信するニュースリリースとは異なります。

広く社会に中立的に情報を提供するメディアを利用するパブリシティは、そのメディアの信頼性に基づいた評価を得やすい点がメリットです。

そのためメディアが独自に取り上げたニュース(自社やその商品等の紹介など)には信頼が寄せられ、その商品等の認知度や信頼度がアップし購入促進の効果が期待できます。

ただし、パブリシティは宣伝広告でないため費用はかからないですが、どのように取り上げられるかがコントロールできません。そのため自社やその商品等についてネガティブに扱われ企業にとってマイナス効果が生じる可能性に注意が必要です。

2-3 プロモーション戦略のポイントと策定手順

プロモーション戦略のポイントは、広告、販売促進、人的販売やパブリシティなどの要素をターゲットに合わせて選定・組合せて最適化することです。事業の状況によりどの要素が主体になるかは異なりますが、予算内で最大限効果が期待される最適な組合せを事業やターゲットの特徴などから決定します。

その上で要素ごとの施策を検討しそれらについても最適化するのです。広告が最も有効な手段である場合、どのメディアを利用するかが課題になりますが、費用対効果を踏まえ効率よくアピールできて集客効果の高いメディアやその組合せなどを検討します。

特に現代では消費者の購買行動はWEB情報をもとにWEB上で行われる傾向が強くなっており、売手の事業者もその対応が求められます。従って、現在のプロモーション戦略ではWEB上でのプロモーション施策が不可欠となっている点に留意しなければなりません。

なお、一般的なプロモーション戦略策定の流れは以下のようになります。

プロモーション戦略のポイントと策定手順

1)ターゲット(顧客や視聴者等)の特定

2)プロモーションの目的・目標の設定

ターゲットからどのような反応を引き出すかの内容を決定します。認知の対象や程度、態度変容の促進、購買行動の喚起、などです。

3)メッセージの作成

理性的や情緒的などのアピール内容の作成、テキスト、画像や動画などのフォーマットの選定などになります。

4)プロモーションチャネルの選定

各プロモーション要素の選定や組合せ(プロモーションミックス)の最適化を行います。

5)プロモーション予算の決定

予算の検討の際に「過去の売上高に対する宣伝広告費の割合」が利用されるケースも多いです。しかし、この方法はプロモーション目標に対してそれを達成するために必要なタスクを設定して必要なコストを求める方法でないため、当然達成確率は下がります。

ベターな方法としては、目標に対するKPI(重要目標達成評価指標)を設定し、どのタスクをいつ、どれくらいの期間実施して、どれだけの反応を得るか、売上・利益を上げるか、などを決めて算出するのが望ましいです。

6)プロモーションミックスの決定と実施

予算の決定を受けて実際に行うプロモーションミックスの内容を決定し実行に移します。

7)結果の測定・評価と改善(再設計)

プロモーションミックスを実施してから一定期間後にその効果測定を行うべきです。KPIについてどの程度達成できたかを確認し、結果によって「継続」「中止」「強化(テコ入れ)」などの手立てを講じる必要があります。

3 プロモーション戦略の事例

プロモーション戦略の事例

実際のプロモーション戦略の実例を確認していきましょう。

3-1 ①株式会社ジャパネットたかた

*参考情報
・J-Net21:「ジャパネットたかた」ネット時代に合わせメディアミックスを進化
・同社のホームページ

●会社概要

・本社所在地:
長崎県佐世保市

・事業内容:
商品のバイイング、ショッピング媒体のコンテンツ制作、商材マーケティング

同社は主に家電を対象とした通信販売の会社です。ラジオ放送でのカメラのコマーシャルをスタートとして、チラシやカタログ等の紙媒体、テレビに加え、現在ではインターネットによる通信販売を行っています。

複数のメディアを今でも巧みに活用して視認率の高いメディア利用を実現して、業績拡大に繋げているのです。

●ビジネスモデルの内容

・who:
各メディアを視聴する通信販売に抵抗がない消費者へ

・what:
消費者が欲しい、得だと思える魅力的な家電等を提供する

・how:
各メディアをミックスして他社と異なる、差別化できる通販事業を行う

●プロモーション戦略の内容

同社の戦略はメディアミックス戦略です。現在ではテレビやECサイトでの通販が主流ですが、ラジオでの通販のほかチラシの利用も行っています。その主な内容は以下の通りです。

・買いたいと思えるように商品の魅力をじっくり説明する紹介、購買心理に影響する限定数の設定、といった売り方で差別化する

・放送時間帯はターゲットに合わせる(ゴールデンタイムや深夜等)

・自社スタジオによる放送などで費用を削減し他社以上のPR量を確保する

・注文や問い合わせへの満足度を上げるためコールセンターを充実させる

●成功のポイント

家電の通信販売を独自のメディアミックス戦略を駆使し、大手家電量販店との差別化を図った点が同社の成功ポイントと考えられます。

同社は大手家電量販店のように全国に多数の店舗を展開しないため、業績を拡大させるには通信販売に特化した戦略が有効でした。会社の状況、消費者の行動・ニーズや通信環境などの変化に合わせて有効活用できるメディアを選び利用してきたことが成長に繋がっています。

メディアの利用では単なる宣伝広告に終わらない、購入に結びつくメディア・放送時間帯の選定、放送量・放送回数の多さや独特の商品説明の仕方などに取り組み他社との差別化に成功しました。

3-2 ②佐賀市

*参考情報
Think with Google:2060万視聴のインバウンド広告「佐賀モデル」を発明したGoogleと佐賀市の戦略

●会社概要

・本社所在地:
佐賀県佐賀市

・事業内容:
佐賀市のインバウンド旅行客の拡大

●ビジネスモデルの内容

・who:
海外の日本に興味のある人々(潜在旅行者)へ

・what:
日本および佐賀の美しい観光名所、美味しい料理やお酒等、楽しいイベント、などを通じた観光の楽しみ方・味わい方を発信する

・how:
従来のアナログ的なプロモーション戦略ではなく、Googleが保有するデジタル広告データや政府系プロモーションの実績データも活かした最適なデジタル戦略で行う

●プロモーション戦略の内容

佐賀市はGoogleの協力を得てデータや根拠を前提とした説得力のあるデジタル戦略立案に取り組みました。

広告媒体として、動画での月間視聴数が20億もあり国際的に認知されたYouTubeが採用されています。YouTubeはインバウンド観光誘客に最適なメディアであり、動画での広告費用が動画視聴ごとに発生して費用対効果が明確になる点も採用の理由となっています。

プロモーション予算の配分は、理想の「製作費:広告配信実費:運用分析費」=「3:6:1」での設定です。広告の配信費用も充分に確保され、加えて配信後の分析費も確保されています。これで配信後にデータを分析し、改善策を立て次に生かすことが可能となり成功確率を高めることができたのです。

動画の内容は、佐賀市の強みの「のどかさ」や「豊かな自然」などを海外の視聴者が好きな着眼点から撮影し、佐賀市の魅力を効果的に伝えることに注力されました。

広告配信では、最寄りの空港に直行便が就航している、といった客観的な要因を考慮してターゲットの国・地域が検討されています。また、配信フォーマットでは、ターゲット国の潜在旅行者を対象に配信し、スキップ機能をつけて佐賀市に興味を持つ人に焦点を合わせられるYouTubeTrueView広告を選択されました。

動画広告を見て佐賀市に関心を示す人向けに、来訪を促すランディングサイトも制作し、ウェブサイトへ導く「Call-to-Action(行動喚起の仕掛け)」で動画から誘導する工夫もされています。

動画広告の配信により得た国別の視聴データ、視聴者の各種情報(年代や興味等)の分析から、佐賀市に興味があると推定されるターゲット層が確認でき、そのデータをもとに今後の施策に活かすという流れが作られました。

●成功のポイント

・デジタルマーケティングのプロに協力を得て、彼らのマーケティング手法、ツールやデータを活用できた
⇒自治体の外国人来訪者のさらなる誘客強化という目的に、マーケティング戦略という経営手法をプロの力を活用して実施されたことが成功に繋がっています。

・明確なターゲットの設定、PR効果の高いYouTubeの採用、ターゲットに適した(訪問したいと思わせる)広告動画の作成と配信を的確に実現した

以上の内容により以下の効果が得られています。

・TrueView広告配信の結果は、当初目標の250万視聴の8.24倍となる2,060万視聴を達成、Like率は98.5%を達成する

・コメントは333件で、世界各国から好意的なコメントが寄せられた

・佐賀市の外国人宿泊者数の増加などに貢献した

3-3 ③オイシックス・ラ・大地株式会社

*参考情報
同社ホームページ #夏休みのかーちゃんおタスケ大作戦

●会社概要

・本社所在地:
東京都品川区

・事業内容:
ウェブサイトやカタログによる一般消費者への有機野菜、特別栽培農産物、無添加加工食品等、安全性に配慮した食品・食材の販売

●ビジネスモデルの内容

・who:
食品の安全性と味を重視する消費者に

・what:
自然食品、有機食品など安全性が高くかつ美味しい食品を消費者が手軽に購入できるように提供する

・how:
同社が設定した安全基準を満たす食品を提供する(安全基準はHPで公表)
食品の見た目の大きさ・美しさ・収穫時ではなく、「おいしさ」を重視して提供する
消費者目線の利用のしやすさで提供する(会費なしで1個からの注文も可能、配達は週7日6つの配達時間帯で選択可能、価格は他の自然食品専門通販と同等)

●プロモーション戦略の内容

同社では様々なプロモーションが展開されており、「#夏休みのかーちゃんおタスケ大作戦」もその1つです。同社では農産物やミールキットの宅配サービスを実施していますが、顧客の増大や売上アップのために上記のようなキャンペーンが実施されています。

このキャンペーンは、子供が夏休みに入って昼間も家にいる子供の世話で忙しい母親(かーちゃん)を対象として、食事面で支援することを目的としたものです。このキャンペーンは以下のサービスで構成されています。

・全額返金宣言
⇒お試しの商品・サービスに満足できない場合、返金が受けられる(条件あり)

・送料100%負担宣言
⇒おためしセットに限り送料無料

・火を使いま宣言
⇒夏の台所の暑さを緩和するための火を使わない5分以内献立を紹介(夏の調理の負担を軽減するための支援サービス)

・献立難民ゼロ宣言
⇒食べたい商品を選ぶだけで食材とレシピが届くサービス(毎日の献立はOisixが考え、顧客は選ぶ)

●成功のポイント

・ターゲットとそのニーズを明確にして、それを捉えるためのプロモーションを設定
⇒夏場の忙しい母親をターゲットとして、そのニーズを充足するための一連の仕掛けをキャンペーンとして構成し提供されています。

・行動喚起を促すキャンペーン構成
⇒興味があっても直接確認できない通販ビジネスにとって、初回の利用のハードルを下げることが顧客の増加に直結しますが、メニュー提案、火力の回避、時間短縮の提案に加え、おためし品の返金や送料無料のサービスがあり初めての方でも利用しやすいです。

3-4 ④ライフネット生命株式会社

*参考情報
同社HP
LINE株式会社HP 「ネット生保の先駆者が語る、LINE活用の実態と今後のフルファネル戦略」

●会社概要

・本社所在地:
東京都千代田区

・事業内容:
生命保険のオンライン販売

同社は「若い世代の保険料を半分にして、子育て世代が安心して赤ちゃんを産み育てられる世の中にしたい」という思いで、2008年に事業を始めたオンラインの生命保険会社です。

「正直に、わかりやすく、安くて、便利に」を理念として満足される保証を提供することで保有契約件数は40万件を突破しています(2020年9月10日時点)。

●ビジネスモデルの内容

・who:
主に若い世代や子育て世代で、生命保険をできるだけ安く抑えたい人、ネットなどで情報を調べネットでの申込みに躊躇いがない人が主なターゲット

・what:
一定の保証を確保できる契約内容でできるだけ安くなる生命保険を提供する

・how:
Web経由の販売・契約となるため、申込みや契約等での手続の「分かりやさ」と「簡単さ」が感じられる「利便性」を提供する

●プロモーション戦略の内容

・WEB上での各種のPR
⇒自社HPの充実のほか、各種のポータルサイトや検索サイトなどへの広告でPRし、各種SNSでの情報発信で利用者との双方向的な関係を作っています。

⇒「ライフネットジャーナル オンライン」を設置して、WEB上で健康、年金や保険等の情報提供や相談対応を行い、見込客を自社サイトへと導いています。

・露出度の高いテレビCMの利用
⇒PR効果の高いテレビCMに注力し同社の知名度を大きく上昇させ業績を拡大させました。

・経験豊富な保険プランナーによる電話での相談対応

・LINEのトーク機能を利用した「ほけん相談」や「お問い合わせ受け付け」の24時間サービス
⇒LINEの中で全コミュニケーションが完結するため、運用作業の負担が軽減されました。また、LINEでの24時間対応の質問受付が、利用者の安心感や信頼感に結びついています。

・「無料で10秒保険料見積り」サービスの提供
迅速性、気軽さを求める若い世代のニーズに対応したサービスで保険契約を促すことに成功しました。

●成功のポイント

・生命保険を手軽に安く、対面を避けて利用したい人などをターゲットとして、それに合わせたプロモーション戦略の実施
⇒非対面だからよりわかりやすく情報提供したり、相談対応したりできる方法を取り入れ不安やストレスを感じさせない方法が成功に繋がっています。

・自社サイトによる情報提供だけでなく各種SNSを使った情報発信で利用者や見込客との関係性の構築・維持

・対面して保険などについて話し合える「ふれあいフェア」の開催
⇒直接、相談したい、保険のことを聞いてみたいという人のニーズに応えるために、利用者等とのリアルな接点が設けられています(同社本社、大阪、名古屋、福岡、札幌等で開催)。

4 コロナ禍で成長するためのデジタルプロモーション

コロナ禍で成長するためのデジタルプロモーション

ここではコロナ禍で活用の重要性が増してきているデジタルプロモーションについて説明しましょう。

4-1 デジタルプロモーションとその有効性

デジタルプロモーションとは、自社の商品・サービスをターゲットに対して「認知」から「購買」「関係構築」、そして「リピート」「関係維持」へと結びつけるために顧客・購買に関するデータ、IT機器やインターネット上の各種サービス(WEBサイトやSNS等)を活用して行う販売促進です。

つまり、それはマーケティングプロモーションを主にデジタルな要素の利用により行う方法と言えるでしょう。現代人の消費行動や事業活動において、インターネットを活用した様々なサービスが利用されており、商品・サービスの販売促進にもデジタルプロモーションは不可欠な方法になってきています。

現代ではテレビやラジオでの視聴者が減少して、新聞や雑誌などの紙媒体の発行部数も減少傾向がみられる一方、WEBサイトやSNSなどの利用の伸びが顕著です。人々の生活はスマホやPCを通じたWEB上のサービスの利用なしには成り立たない状況になりつつあります。

そのため従来のマスメディ等による一方向的・一時的な情報発信のプロモーションでは顧客・売上を増やすことが難しくなっているのです。他方、WEBを通じたプロモーションなら情報の提供はいつでもどこでも可能であり、双方向な情報のやり取りや連携も簡単にできます。

さらにデジタルプロモーションの方法の中には利用者の行動を分析したり追跡したりすることができ、その結果をビジネスに活かし顧客増や売上増に繋げることも可能です。

現在、新型コロナの影響により事業者は非接触な販売活動が求められ従来の人的販売が困難の状況です。そのためデジタル化したコミュニケーション施策が必要とされ、デジタルプロモーションがより重要となってきています。

なお、WEB上のプロモーションに限定する場合、デジタルプロモーションは「WEBプロモーション」と表現されることもあります。

4-2 デジタルプロモーションの進め方

デジタルプロモーションの進め方は通常のマーケティング戦略と同じです。デジタルプロモーションを行う場合も、それはあくまでマーケティング戦略の一環として実施されるべきです。

ただし、デジタル技術等を活用して行うため、以下のような要素が当事者において必要になります。

・デジタルデバイス
スマホ、タブレットやPC等

・デジタル技術
SEO対策やリターゲティング(インターネット広告におけるターゲティング手法の1つ。自社のサイトの訪問者に自社の広告を配信することなど)等

・デジタルメディア
Webサイト、ECサイトやSNS等

・デジタルデータ
上記のデバイス、技術やメディア等により蓄積される各種データ

デジタルプロモーションでは上記のリソースを活用して、Webサイト、ECサイトの閲覧やアクセス履歴の状況、SNSでの発信情報(意見・提案、画像・動画等の情報)の内容、などのデータを収集・分析して、対象顧客やそのニーズを発見し、最適なデジタルメディアを活用してプロモーション施策が実施されます。

①STP分析の実施

STP分析は、セグメンテーション、ターゲティングとポジショニングの頭文字をとったもので、既に説明した通りマーケティングの作業として必要です。

②カスタマージャーニーマップの作成

カスタマージャーニーマップとは、ある商品・サービスに遭遇した消費者等が、実際に購買へと至るまでの行動や心理状態を時系列で把握し、その内容を把握するための方法です。

カスタマージャーニーマップの作成は通常のマーケティング戦略においても実施しますが、デジタルマーケティングにおいてより効果が期待できます。なお、カスタマージャーニーマップの作成では、性別、年齢、職業などを具体的に設定する「ペルソナの設定」が重要です。

セグメンテーションからターゲティングする際にカスタマージャーニーを設定することで、ターゲットの特定が的確に行えます。ペルソナの設定後は、ペルソナの行動の想定です。彼らが、いつ、どこでどのように自社の商品・サービスを認知し、何をきっかけに購入したかについて仮説を立てます。

その仮説を検討する場合、「認知」「興味・関心」「検討」「購入」というようなペルソナの行動を段階別に捉え(消費者行動モデル等を参考に)、そのペルソナの行動を抽出してニーズを把握し効果的なプロモーション施策の検討に繋げるのです。

③KPIの設定

有効なプロモーション施策の検討と同時にその効果を測るためのKPIも設定します。プロモーション施策の進捗状況、実際の効果、問題点の把握などのためにKPIの設定と効果測定が必要です。

④デジタルプロモーションの施策

具体的なデジタルプロモーションの施策(方法)を紹介しましょう。

●WEBサイトを利用したプロモーション

・SEO対策
SEOは「検索エンジン最適化」のことで、インターネット上でキーワード検索した場合に、上位のページに自社のWebサイトが表示されるように、コンテンツの内容や構成を工夫してアクセス数を増やすための方法です。

・インターネット広告
1)リスティング広告
インターネットで検索した際の画面に、検索されたキーワードに関連して表示される広告です。画像などをクリックすると広告主が設定したWebサイトへと移動したりします。

各キーワードに対応した広告が打て、配信ターゲットを細かく設定することも可能なため、費用対効果の優れた広告が期待できます。

2)ディスプレイネットワーク広告
GoogleやYahooのサービス、提携サイトの広告欄に表示されるテキスト形式やバナー形式の広告です。その商品・サービス等の認知度を上げるのに有効な方法で、潜在的なニーズの掘り越しに役立ちます。

3)ネットワーク広告
ネットワーク広告は、広告配信会社が複数の広告掲載メディアに対して広告を配信する「アドネットワーク」を利用して行う広告です。この広告では各メディアとの手続は事業者が行うため、広告主の手間が大幅に削減できます。

また、広告のタイプによっては、自動でコンバージョン(Webサイトでの最終的な成果)率の高いメディアを選んでくれるケースも多いです。

4)動画広告
動画による広告で、YouTubeなどを視聴している際に配信される広告動画が該当します。動画広告は商品・サービスを視覚的に直接その魅力を伝えられるため効果が高いですが、制作費や広告料が多くかかる点が問題です。

5)ネイティブ広告
この広告は各メディアの記事やニュースなどのコンテンツ内に融合するように表示されるもので、「PR」や「広告」で表示される広告です。広告の性質を抑え、ターゲットなど視聴者に嫌がられないようにサイトへ誘導する工夫が行われています。

従って、自然な認知でコンバージョンに繋がりますが、高い効果を望むのは難しいです。

●SEMプロモーション

SEMプロモーションはWEB上の検索結果を基にして行う方法です。検索した結果で表示される画面に広告(リスティング広告)を出したり、オーガニック検索(検索結果画面の広告枠を除いた箇所)で上位に表示させたりする手段が該当します。

ターゲットが自社のWEBサイトへ訪問する回数を増やし、商品・サービスの購入・申込みを増大させるのに有効です。

●Eメール

メールマガジンや広告メールなどの発信もプロモーション施策として多く利用されており、メールの内容で直接商品・サービスをアピールしたり、Webサイトへ誘導したりすることができます。

具体的には、購入履歴から類似商品の案内送付、消耗品の再度の購入を促す案内などのほか、最近ではLINEを利用したアプローチも多いです。

●SNSプロモーション

SNSプロモーションは、SNSを使用して商品・サービスの認知度アップ、ブランディング、販売促進などを行うことです。具体的には、LINE、Twitter、Instagram、Facebook、などのSNSをプロモーションの目的に合わせて選定し、購入やエンゲージメントに結びつく情報拡散を引出します。

SNSプロモーションの代表的な施策は以下の通りです。

・インフルエンサー施策
この施策はSNS上で大きな影響力をもつ「インフルエンサー」に商品・サービスをPRしてもらい、口コミの拡大により購買を増やしていく方法になります。

・リアル・マス連動施策
この施策は、認知として圧倒的に強い実店舗等のリアルなマーケティングやテレビ等のマスメディアの情報とデジタルメディア等を連携させたPR方法です。デジタルプロモーションにリアルとマスメディアも組み合わせてより効果の高いマーケティング効果が狙えます。

・デジタルインセンティブ施策
デジタルインセンティブは、デジタルコードによって付与される「電子景品」(電子マネー・ギフトコード、現金・ギフト券、ポイント交換、景品・商品引換)のことです。

以前は携帯電話の待ち受け画面や着信メロディーなどでしたが、現在ではスマホの普及でAmazonのギフト券プレゼントなど種類も豊富になってきました。また、消費者等でポイントやデジタルギフトが重視される傾向があり、事業者の運用コストも小さいことから「来店・アンケートの謝礼」や「販促キャンペーン活用」などでの利用が盛んになっています。

・キャンペーン企画との連携
商品・サービスのキャンペーンを行う際にキャンペーンサイトを作り、それにSNSを連携させて商品等の認知度や好感度を増大させ売上増大に繋げる取組が多く見られるようになってきました。

ほかにもチャットボットなどを使った「Web接客」やバーチャルリアリティ(VR)技術を駆使したオンラインでの「仮想現実の体験」などの利用も広がっています。

4-3 コロナ禍でも有効なデジタルプロモーションの事例

①株式会社コーセー

同社は2020年3月25日から自社サイトの「Maison KOSE」内にスタッフコンテンツページを開設し、店舗の美容部員が自身で行うメイクやスキンケアなどの紹介記事・画像の投稿を開始しました。

メイク画像の投稿では、各美容部員の「年代」「肌質」「肌色」「まぶたのタイプ」の情報が掲載されており、ユーザーはその情報をもとに自分の肌や顔立ちに適したメイクを検討することができるため、商品選定が容易になります。

コロナの影響により店舗で直接アドバイスや実演することが難しくなりましたが、上記のサービスは減少する顧客との「接触」の影響を軽減し彼らとの関係維持・強化に繋げているのです。

②三越伊勢丹

新型コロナで長期休業を余儀なくされ三越伊勢丹は、5月30日からオンライン会議システムのZoomを使ったランドセルの販売を開始しました。本サービスの目的は、密を避けながら顧客の満足のいく商品を提供することにあります。

ランドセルの販売では、利用者(子供)に確かめてもらう(背負った際の重さ、色、形状等)工程があるため、来店しての試着が重要です。そうした試着を伴う接客には時間がかかり、連休などではどうしても密を避けることが困難になるため、オンライン接客が導入されました。

オンライン接客の手順は「LINEでのチャット」「Zoom」「来店予約」という3段階の流れで行われます。LINEでのチャットは、子供の特徴、ランドセルの好み、希望価格などを確認する相談です。

次はZoomを使った接客で、予約制で接客時間は1組40分となっています。チャットで商品の絞り込みが進んでいるため、従来の接客時間がより少なく済み、買手にも売手にも有効です。また、Zoom段階での成約率は5割もあり、オンライン接客の有効性が窺えます。

③カルビー株式会社

同社もコロナの影響により従来の実店舗におけるマーケティングプランからデジタルプロモーションへと変更されています。その施策の1つが「おうち夏祭り」です。「暮らしの写真投稿サービス」である「RoomClip」と連携したオンラインイベントとして開催されました。

「おうち夏祭り」では、テーマに関連した「投稿イベント」、ワークショップや「おうち花火大会」などの投稿を促す「ライブ配信」、そしてカルビーなど協賛企業と連携した「モニターキャンペーンやライブ配信」が実施されています。

イベント期間は年8月3日から9月2日までで、参加企業は共同でニュースリリースを出し、1週間毎にSNSで告知して、9月以降はInstagramでフォローアップするといった工程でイベントは進められました。

イベントは盛況で「おうち夏祭り」関連の投稿画像は1,000枚以上集まり、新しいパッケージデザインへの反応や、新しい食べ方の提案などの有益な情報も得られています。

目標のリーチ数は180%に到達し、夏に落ち込みがちなスナック菓子の売上に貢献しました。

5 プロモーション活動での法律等の注意点

プロモーション活動での法律等の注意点

プロモーション活動を行う上での法律等の注意点を簡単に説明しましょう。

①法律について

プロモーション活動の広告、販売促進や人的販売の各施策では、知的財産権法、景品表示法、不正競争防止法、独占禁止法、薬事法、食品表示法、食品衛生法、JAS法、など様々な法律・規制の影響を受けます。

広告には広告規制があり、「記載・表示してはいけないこと」と「記載・表示しなければならないこと」が定められており、違反すれば罰則が適用されるのです。たとえば、医療広告ガイドラインに違反すれば「6カ月以下の懲役、または最大30万円の罰則」を受けることになります。

違反したプロモーションを行えば、単に罰則を受けるだけでなく商品・サービスの販売に支障が生じるほか会社や商品等のブランド価値を大きく損ねかねません。そのため実施するプロモーションの内容によっては法律の専門家の意見を確認することも必要です。

②WEBでのプロモーション活動

WEBでのプロモーション活動として、商品・サービスの認知度アップや売上・顧客の増大、企業のイメージの向上アップを狙った施策が多く行われていますが、内容によっては逆効果になる点にも注意しましょう。

WEBでのプロモーション活動

1)口コミ
口コミや使用レビューなどの数の増大や好評価により商品・サービスの認知度や売上増大を図ることは重要ですが、口コミ投稿代行業者を利用したり自作自演で投稿したりする「ヤラセ行為」には手を出してはいけません。

ヤラセ行為が発覚すれば景品表示法違反で罰せられるほか企業や商品等の価値を大きく下げることになります。また、人為的にクチコミを発生させて商品等をアピールし広めていく「バズマーケティング」も同様で注意が必要です。

2)アフィリエイト広告
アフィリエイト広告は、「アフィリエイト・サービス・プロバイダ(ASP)」が広告主の依頼受けて各サイト運営者のサイトで表示させる方式の成功報酬型広告です。

ASPが勝手に広告内容を事実と異なって内容を変えたり、誇張したりする場合、その商品・サービスの提供者である広告主は景品表示法違反に問われる可能性が生じます。「ASPが勝手に広告内容を変え、知らなかった」で済まないこともあるため適切な対応が必要です。

3)企業のSNS活用
企業がSNSでアカウントを作り、プロモーションに活用するケースが増えていますが、使用する際には各SNSの特徴や違いを認識し、その上で自社に最適なSNSを選ぶようにしましょう。

また、企業が自社の商品・サービスに関する記事を掲載・投稿する場合に競業他社と比較して、自社が著しく有利であるように掲載・投稿すれば「比較広告」の不当表示として扱われる可能性があるため注意すべきです。

以上のほかにも「フリーミアム戦略(無料利用と有料利用を混ぜて実施する手法)」や「フラッシュマーケティング(短期間のクーポン等の発行により利用者の増大を図る手法)」など多様なプロモーション施策がありますが、不適切な扱いにならないように注意しましょう。

6 まとめ

まとめ

会社設立時からの経営課題として、顧客や販路の拡大などを挙げるケースが多く見られます。開業から事業を安定させ成長軌道に乗せるには顧客を増やしていく必要があり、適切なマーケティングの実施が不可欠です。

特に自社の商品・サービスをターゲットに認知させ購入に繋げる適切なプロモーション戦略の策定と遂行は欠かせません。なお、現代はデジタル社会になりつつあるため、デジタルプロモーションの導入が企業の成長に影響する点を考慮し利用を検討する必要があります。

特にコロナ禍の非接触・密の回避・行動自粛など消費者や事業者の行動に制約が課される環境においてはデジタルプロモーションの活用は重要です。ポストコロナ後でもデジタル社会は進展するため、この機会にデジタルプロモーションの活用を検討してみてください。