次世代の消費経済を担う存在としてデジタル・ネイティブの「Z世代」が期待される中、彼らの価値観や購買行動を反映したビジネス方法が企業に求められています。Z世代には彼ら以前の世代とは異なる特徴が少なからず見られるため、その対応が不可欠と考えられています。

そこで今回の記事では、Z世代に対応するビジネス方法や起業・会社設立する際のポイントについて解説します。Z世代の特徴、他の世代との違いのほか、Z世代に対応することの必要性、対応するためのマーケティング、その起業・会社設立時の重要ポイントや注意点、などを取り上げるので、参考にしてみてください。

1 Z世代の概要

Z世代の概要

Z世代(ジェネレーションZ)とは1990年代中頃以降に生まれた世代のことです。米国では1960年代や1970年代に生まれた人達がX世代と呼ばれ、またX世代に続くのがY世代であり、その後がZ世代になります。

Z世代の主な特徴としては、彼らが生まれたときの世代を反映する社会情勢としてデジタル技術やインターネットが発達している点です。彼らは幼いころからデジタル機器に触れてインターネットから情報を積極的に入手し利用する世代であることから、彼らはデジタル・ネイティブ世代(後期)とも呼ばれています。

また、彼らはポータルサイトや各種の情報サイトから様々な情報を入手するだけでなく、WEB上へ自分の持つ情報を提供したり、意見を表明したりするのも得意です。特にSNSの利用は彼らの日常生活に溶け込んでおり、生活に不可欠な行為とも言えるでしょう。

従って、彼らの主な情報ソースは以前の世代が依存してきたテレビや新聞などの旧主力メディアではありません。Z世代はネット経由で様々な国や人達の情報に触れ多様な感性に接して、新たな価値観や行動特性を保有するようになっているのです。

その1つの表れとして、社会貢献への意識の高さが挙げられるでしょう。Z世代の10代や20代という年齢層では社会貢献活動に関心を持つ割合が他の年代に比べ多く存在しています(株式会社電通パブリックリレーションズ内の「企業広報戦略研究所」の調査など)。

Z世代は2022年現在において、その人口は世界の3割以上を占めるほどに多いです(日本では14%程度)。そのため彼らの考えや行動が世界の経済や政治等に大きな影響を及ぼすことになり得るため、ビジネスにおいてもその点を考慮・反映した対応が求められます。

1-1 他の世代の特徴

Z世代の特徴を把握するためには、他の世代のことも知っておくことが有効です。ここでは日本の主な世代の特徴を確認しましょう。

1)団塊の世代(誕生年:1945年~1949年あたり)

団塊の世代

彼らは1次ベビーブームの世代と言われ、戦後の民主主義教育を最初に受けた世代で戦前の世代と思想や価値観に大きな違い見られました。例えば、男女平等の考えが進み始め夫婦対等の家族観を有する傾向が強かったほか、安保に対する学生運動など変革への強い関心なども見られています。

また、経済環境から見ると、彼らは高度経済成長期やバブル経済期などの超好景気を過ごしてきただけでなく、オイルショックやリーマンショックなどの大不況にも遭遇し、激動する時代を過ごしてきた世代です。

こうした環境を背景とした彼らの主な特徴は、競争意識や仲間意識の高さ、努力は報われるという考え、会社への献身、などが挙げられます。その反面、趣味や自身のこだわりを持ちそれを大切にする人も多いです。

情報の受発信やコミュニケーションについては、彼らが成長期や青春期などにあっては、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌等が主な情報ソースであり、他者とのコミュニケーション手段は電話になります。

 

2)ポスト団塊世代(誕生年:1951年~1959年あたり)

ポスト団塊世代

この世代は団塊の世代の後に生まれた方達で、「ポパイ」や「JJ」などの若者向け雑誌が創刊され時期に青春を過ごした世代です(「ポパイ・JJ世代」とも言われる)。

社会状況は、学生運動も収まった時代で安定した雰囲気があり、女性も含め大学への進学率が増大した時期です。文化面では音楽分野でポップカルチャーが台頭し、消費経済面ではマクドナルドやコンビニなどの新業態が登場しました。

この世代の特徴としては、「シラケ世代」や「三無主義(無気力、無関心、無責任)」と言われるようにあまりポジティブな態度を示さないクールな個人主義だと言われています。

消費行動では、自分に合ったものを選ぶという個人型消費の面がやや強く、多数の意見に左右されずに自分の好みで購買する傾向が見られました。

情報の受発信やコミュニケーションについては、彼らが若い時期の情報ソースはテレビ・ラジオ・新聞・雑誌等ですが、週刊誌など雑誌の影響が大きかったと見られています。他者とのコミュニケーション手段は主に電話ですが、晩年は徐々に携帯電話へ移行していきました。

 

3)バブル世代(誕生年:1960年~1970年あたり)

バブル世代

この世代はバブル経済期に社会人になった方達です。1980年代後半に訪れたバブル景気(株価や土地等の資産価格が投機により高騰して取引される経済状況)の時代に社会人になり、その経済的な恩恵を享受できた世代とも言えます。他方、同世代は同時にバブル崩壊も経験しました。

つまり、彼らは経済の絶頂期に社会人となりその恩恵を受けるものの、崩壊後の「失われた20年」と呼ばれる経済の低迷期を直接的に味わっているのです。

消費行動については、バブル期では派手目の生活を送る傾向が見られ、消費活動は積極的でした。ブランド志向が強く、自分をよりよく見せるためにお金を使うといった傾向が見られています。

バブル崩壊後では、生活は質素な状況が余儀なくされ「消費のむなしさ」などを感じつつ消費を抑える傾向が強まりました。

情報の受発信やコミュニケーションについては、彼らが若い時の情報ソースは主にテレビと新聞・雑誌ですが、やや雑誌の影響が大きく紙媒体に依存する最後の世代と見られています。他者とのコミュニケーション手段は主に電話です(中高年齢以降は携帯電話へ)

 

4)団塊ジュニア世代・ポスト団塊ジュニア世代(誕生年:1971年~1982年あたり)

団塊ジュニア世代

団塊ジュニア世代は、団塊世代の子供の世代であるため人口が多く、進学率の高さから厳しい受験競争を経験しており、卒業時にはバブル崩壊後の就職氷河期に直面しました(氷河期世代の前半)。

こうした状況により、フリーターなどの非正規社員としての雇用が増え始めた世代です。文化・消費面ではビデオ・CD、ファミコンや週間漫画などに熱中する若者やコンビニ利用者が多く見られました。良くない経済状況であったため消費には消極的で財布のひもが固い人の多い世代と言えます。

ポスト団塊ジュニア世代は団塊ジュニア世代の後に生まれた世代です。アジア通貨危機などが発生して不況は長引き就職は超氷河期の状況でした。また、派遣社員の規制緩和などもあり大卒の非正規雇用者が大幅に増加した世代です。

その結果、結婚しない人、結婚しても子供を持たない人が増える反面、経済的な理由から親と同居する生活者も少なくありません。また、この世代は経済的に厳しい状況の中で学生から社会人へと進んでいるため大きな格差が生じ始めた世代であったことから、彼らの消費行動には多様なタイプが見られました。

情報の受発信やコミュニケーションについては、ポスト団塊ジュニア世代は、高校生の時からインターネットや携帯電話に親しみ始めた世代で、卒業後以降ではその利用が一般化しています。

 

5)さとり世代(誕生年:1983年~1994年あたり)

さとり世代

この世代はバブル経済崩壊後に成長し、ゆとり教育を受けた方達です。なお、バブル崩壊後の経済低迷期において、親世代の失業、転職や倒産など厳しい状況を目の当たりにして過ごした方が少なくありません。

こうした背景により、あまり高望みはしない、過程ではなく結果を重視した合理性を尊重する、浪費しない、安定志向を重視するといった「さとった」ような志向する傾向がみられ、この世代は「さとり世代」と呼ばれています。

文化・消費面では、「車に興味がない」「家で過ごすのが好き」「旅行に行かない」などの特徴が見られ、無駄遣いを避け消費には消極的で所有よりも利用を重視し始めた世代です。なお、購買では安くて質のいいものを求める傾向が強いと言われています。

情報の受発信やコミュニケーションについては、彼らは成長期にインターネットを経験してきたインターネット・ネイティブの世代です。携帯電話によるコミュニケーションも学生時代から慣れ親しんでいます。

 

6)デジタル・ネイティブ世代(誕生年:1995年~2003年あたり)

デジタル・ネイティブ世代

この世代は、生まれた時からPC、携帯電話、インターネットなどの情報通信技術が普及しており、それに慣れ親しんで育った方達です。そのためITに対する考え方や接し方が彼ら以前の世代と異なる面が多く、その態度が社会の変化や変革に大きく影響するものと期待されています。

なお、この世代にはミレニアル世代(Y世代)のほかZ世代も含まれると見るのが一般的です。ミレニアル世代はデジタル・ネイティブ世代の初期で、それ以前の世代よりも情報リテラシーがあり、モバイル端末等の利用やインターネットによる情報検索、SNSでの情報発信や共有などを積極に行います。

ミレニアル世代は個人主義的な面が強いですが、インターネットやSNS等を通じた交流には積極的で、SNSを通じて社会への関心を強めるケースも多いです。そのためボランティア活動など社会貢献に興味を抱く者も少なくありません。

消費に関しては、この世代は前世代より収入が少ないこともあり、ゆとり世代と同様に消極的で「モノ」より「コト」を重視する傾向が見られ、シェアリングサービスなどの利用も気にならない方が多いです。

情報の受発信やコミュニケーションについては、彼らは主にスマホを使用し、SNSを利用したコミュニケーションを重視しています。

以上のように各世代には様々な特徴や傾向が見られました。もちろん個人差があるため、各世代の人達が同様の思考や行動を取るわけではないですが、ビジネスの対象者とした場合、その母集団の特徴・性質として認識しておくことは必要です。

1-2 Z世代の特徴

Z世代の価値観等を含む主な特徴を紹介しましょう。

1)特徴全般

Z世代の特徴全般

Z世代は、生まれた時からインターネットやモバイル端末が普及しており、学生時代からスマホを保有し情報収集やコミュニケーションに利用しています。もちろん新しく登場するモバイル端末やサービスへの順応は前のミレニアル世代以上に素早いです。

特にSNSが彼らの生活の中心になっていて、「Twitter」「Instagram」「TikTok」など複数のサービスをその特長に応じて使い分けたり、友達や趣味などによってアカウントを使い分けたりすることも珍しくありません。

彼らは、ネットを通じて情報を収集すること、他者と繋がることに慣れているだけでなく、自分の意見を表明することも得意です。特にそうした繋がりを通じた喜び、感動や楽しさなどを共有することを好み、そうしたことを介して自己成長を図る傾向も見られます。

その1つの表れがSNSの利用です。Z世代の方はインフルエンサー(SNS上で影響力を有する発信者)からの情報を大切にするとともに自分自身もインフルエンサーの役割を無意識のうちに果たそうとしている人が少なくありません。

インフルエンサーの情報を参考に商品・サービスを検討したり、行動の参考としたりする方が多いです。また、自分も誰かの役に立つための情報を積極的に提供する傾向が彼らに見られます。加えて、他者のこと、社会のことに関心を寄せる人も多く、環境問題などの社会問題に興味を抱く方もいます。

なお、彼らはSNS上で自分の考えを示すのが好きですが、時に過激な表現を使ったり、他者を誹謗中傷したりすることがあり、「炎上」するという現象が社会問題になってきました。

そのためプライバシーを保護する、不用意な投稿を避けるなどの対応を求める動きも見られるようになっています。

2)Z世代の価値観

Z世代の価値観

第一に挙げられる価値観としては多様性を重視する点です。Z世代はWEBサイトやSNSから情報を入手するのが当たり前であり、テレビや新聞など画一的な情報源に縛られません。彼らは様々な情報源から多様な情報を入手します。

彼らは多様な情報に触れることで、様々な知識を得てより合理的な思考ができるようになり固定的な価値観に囚われません。その結果、彼らはほかの世代と比べより多様性を重視する傾向が見られます。

また、彼らは多様性を重視するとともに他者の考えを尊重しますが、自分の考えや思いも大切にします。例えば、自分らしさを大切にした行動を日常生活で取るといった点です。他者の考えや行動は尊重するものの、それによって自分が好きなことをあえて変えようとはしません。

消費行動で見た場合、彼らは自分の気に入ったもの、自分にとって価値のあるものを大切にして選ぶ傾向が強いです。なお、自分にとって価値がある、より有益・有効である、より楽しめる、と認めれば所有の有無は問いません。

楽しみ方としては、「ゆっくり過ごす」「のんびり行う」など自分のペースで気ままに行う、といった点が挙げられるでしょう。

3)Z世代とミレニアル世代の価値観の違い

Z世代とミレニアル世代の価値観の違い

同じデジタル・ネイティブ世代であるZ世代とその前期のミレニアル世代では以下のような違いが見られます。

Z世代のほうがより、スマホによる情報の収集と活用が得意です。例えば、Z世代は買物、ゲーム、読書、学習、マンガ、ネットバンキング、など日常生活で必要なことだけでなく、就職活動や仕事のことまでスマホ経由で済ましてしまいます。

その表れとして、Z世代は本や新聞紙などをあまり読まず、テレビ・ラジオもあまり視聴しません。つまり、Z世代はミレニアル世代以上にテレビ離れや活字離れが進み、こうした旧主流メディアからの情報は彼らには届きにくいのです。

SNSを活用した情報提供がZ世代には特に有効ですが、その一方でネット上のいじめやSNSでの誹謗中傷・炎上に対して、ミレニアル世代以上に警戒心の高い人が多く見られます。

また、経済観念では、ミレニアル世代と同様に保守的ですが、やや強いと言えるでしょう。ミレニアル世代では彼らの親は経済的に豊かであるケースが多いですが、Z世代では豊かでないケースの方が多いため、よりムダな消費や非現実的な消費は避ける傾向があるのです。

ただし、モノよりもコトに対する消費を優先する価値観は両者ともに強いと言えるでしょう。

2 Z世代の購買行動と対応する必要性

Z世代の購買行動と対応する必要性

ここではZ世代の購買行動の内容を紹介して、そうした情報を活用することの必要性やメリットについて説明します。

2-1 Z世代の購買行動の特徴

Z世代の購買行動の特徴を捉えることがビジネスの成功に繋がるため、ここでは複数の調査内容からその特徴を紹介しましょう。

1)株式会社SHIBUYA109エンタテイメントの調査

株式会社SHIBUYA109エンタテイメントの調査

同社は「Z世代のSNSによる消費行動に関する意識調査」を実施し、その結果を以下のような内容で発表しました。

●「Z世代はSNSで何してる?デジタル・ネイティブのSNS使い分け実態」

⇒Twitterは趣味・興味領域の情報収集で、Instagramは友達間のコミュニケーションで活用されており、目的によってSNSが使い分けられている、と分析されています。

●「新商品認知経路TOP3はSNSが独占。女性の約70%がInstagramで新商品に出会う」

⇒「SNSが商品を知る場のほか、検索する場としても活用されている」、「女性がInstagramや口コミアプリ等により、利用者情報を事前に収集する傾向が高い」などの点が指摘されました。

●「約60%がインフルエンサー(SNSで影響力のある人)の紹介商品の購入経験あり。人気よりも「紹介のわかりやすさ」がポイント

⇒インフルエンサーは「紹介のわかりやすさ」で評価される、インフルエンサーの人気以外にも丁寧な商品説明が情報として重視される、と分析されています。

●「男性は広告&検索エンジン、女性はSNSを活用!男女別消費行動ジャーニーマップ」

⇒「男性はTVCMでの商品との出会いや、検索エンジンでの検索行動をしている」「女性の消費行動は、よりSNSによる情報収集が活発だ」との分析です。

また、同社は今回の調査結果に基づき男女別消費行動ジャーニーマップ(商品等の知覚から購入・使用に至るまでのお客が取るプロセス)を発表しました。

●「SHIBUYA109 lab.所長が分析!動画による情報収集は今後より主流に。SNSでの情報検索スキルに男女差が生まれた背景にはコミュニケーション量が関係」

⇒「女性の方がSNSも含め情報交換をより活発に行い、情報検索スキルを高め合っている傾向がある」、「消費活動での周囲とのコミュニケーション量の違いが情報検索スキルに影響する」と指摘されています。

 

2)株式会社読売広告社の都市生活研究所の調査

同研究所は次世代の購買行動やコミュニケーションを調べるために、コロナ禍においてZ世代が求める「理想の買い物体験」について調査しました。その調査結果は以下の通りです。

●「コロナ禍の外出自粛が続く中で、Z世代がいい買い物をする時の〈遭遇〉タッチポイントは、店舗からSNSへと変化」

⇒大量の情報が流通する環境で成長してきたZ世代は、従来の広告を「押しつけ」のように感じ、買うモノやするコトに対して、自分が予想していないような新鮮な出会い(遭遇)を重視している、との分析です。

オンラインサービスを日常的に利用するZ世代は、コロナ禍以前では商品・サービスとの遭遇の場は意外に「リアル店舗」であることが判明しています。例えば、「お店で、陳列されている商品の中から、欲しいものを見つけ出すのが楽しい」という意見が少なくありません。

しかし、コロナによる外出自粛の長期化で、店頭で商品に遭遇する機会が大きく減少した、と今回の調査で分かりました。ただ、現在はSNSが買物のタッチポイントとなっている傾向が見られるものの、リアル店舗での遭遇を重視する考えが根底にあることには留意が必要でしょう。

●「コロナ禍以降、Z世代の〈遭遇〉タッチポイントのトップとなったのは、Instagram」

⇒コロナ禍以前の2019年と比べてInstagramでの出会いが、2倍に増加していることが判明しました。なお、2021年10月の時点において、Z世代の〈遭遇〉タッチポイントの上位は、1位:Instagram、2位:YouTube、3位:Twitterとなっており、SNSが独占しています。

他の世代と比較しても、Z世代は特に「SNS」を通じて商品・サービスとの〈遭遇〉経験率が高い傾向にあると、との分析です。

●「店頭での〈遭遇〉率は低下しているものの、〈購入の場〉のタッチポイントは、コロナ禍以前と変わらず、「店頭」がトップ(53%)」

コロナ禍においてもZ世代の購入の場のタッチポイントは「店頭」がトップであることが判明しました。Z世代には「手に入れる瞬間の、買い物体験」を楽しむ傾向があり、リアル店舗は、コロナ禍以降においても依然として、購買活動での重要なタッチポイントであると、指摘されています。

以上のようにコロナ禍以降のZ世代では遭遇場所としてはSNSへのシフトが見られるものの、購入の場としては「店頭」が引き続き重視されており、その特徴をビジネスシステムに反映することも必要です。

 

3)株式会社マイナビの調査

株式会社マイナビの「マーケティング・広報のお役立ちサイト」で、「Z世代の特徴とは?価値観・購買行動をアンケートから徹底分析!」が公表されています。

同調査では「Z世代の購買行動~美容・旅行・ファッション・飲酒・エンタメ」と「Z世代の価値観~仕事・結婚・社会問題」の2つに分けて、各々の分野について調査されました。

 

(ⅰ)Z世代の購買行動に関する調査

以下のようなテーマごとに複数の質問が行われ、その結果が報告されています。

●「可処分所得の低いZ世代は、価格に敏感で、安価なモノを購入する?」

⇒Z世代は価格の安さを重視する割合が多くなく、便益に対するコスパを重視した購買行動の傾向がみられる、と分析されました。そのため質に対する納得感を彼らに与えることができれば、価格が高めでも購入を促すことが可能だと、指摘されています。

●「Z世代が高額なモノに対し求めるものは?ハイブランドや高級なサービスの購入意向はある?」

⇒Z世代のステータス消費は大きくなく、「自分へのご褒美」の購買でも、頑張った分に見合ったものが欲しいと考えるものの、ハイブランドのアイテム購入には繋がりにくい、との分析です。

また、彼らの購買行動の特徴として、「エクスペリエンス消費」が指摘されています。例えば、エンタメ性のある体験、実便益のあるもの、などのほか、購入する際の好ましい体験(例えば、エンタメ性のある接客や情報提供 等)などに購買意欲が高い、と指摘されました。

●「Z世代が旅行に求めるもの・出かけるきっかけは?」

⇒Z世代の旅行の目的が、主に「地域ならではの体験がしたい」と「家族や友人などと時間を共に過ごしたい」の2つだと分析されています。

この結果から、旅行のプロモーションはスポット自体の魅力を訴求するよりも、「その場所で誰とどういう時間を過ごせるか」「共に体験することで何を得られるか」をアピールするのが有効だ、と指摘されているのです。

●「Z世代はどこでファッションアイテムを購入する?」

⇒Z世代がファッションアイテムを購買する際、「好きなブランド」ではなく、「欲しいアイテム」から見い出す、と分析されました。

その欲しいアイテムに関して、Z世代は「どこの場所・どのブランドで買うか」が決められておらず、「何を買うか」を前提として、それに最適な購入場所を選択する傾向がある、と指摘されています。

●「アルコール離れが進むZ世代に、お酒への興味喚起はできる?」

⇒Z世代は飲酒に関して「気の合う人たちと・好きなタイミングで・好きな種類を・好きな量だけ飲む」という態度へと変化していることが報告されました。

そのためZ世代へのお酒のPRには「お酒を飲む時間の楽しさ・有意義さ(エクスペリエンス消費)」を状況場面に応じて演出する訴求が有効との分析です。

●「Z世代はエンターテインメントにお金をかける?どんな作品・どんなきっかけが若者世代の財布を動かす?」

⇒同世代は、体験を重視するためエンターテインメントにお金をかけることに抵抗はない、と指摘されています。

なお、お金をかける作品、ハマるきっかけは、個人により多岐にわたる、との見解ですが、「ハマる」という状態が彼らの消費を動かす、と分析されました。

 

(ⅱ)Z世代の価値観

●「Z世代の仕事・働くことに対する考え方は?」

⇒Z世代は「地に足のついた持続可能な幸せ」を求める傾向がある、と指摘されています。具体的には、日常生活が持続することに喜びを感じ、遠い憧れを追い求めない傾向がある、との分析です。

独立志向より安定志向が強く、プライベートとの両立が可能な働き方を求めていることが指摘されました。

●「Z世代は、結婚についてどう思っている?」

⇒結婚生活の多様性に関する情報が多く流れる今日において、結婚しなくても充実したライフスタイルが取れることを認識しており、「必ず結婚したい」という人が減少している、と分析されています。

●「Z世代の消費行動におけるSDGsへの本音は?」

⇒Z世代は社会問題への取組に関心はあるものの、それを日常の消費行動に十分に反映できていない、との分析です。

彼らの本音は、「SDGsは理解しているが、何をすればいいか分からない。私達がやれるタスクとして示してほしい」といった傾向が見られる、と指摘されています。

実際、経済的な余裕が少ないZ世代にとっては、「環境に良い」だけで価格が高くなるものは購入しにくくなるのも事実です。そのため、まず「おしゃれで、地球環境にも良い」「美味しくて、地産地消にもつながる」などの考えが優先され、その上でSDGs視点が加わる可能性が高い、と分析されています。

Z世代はSDGsに関心がある、と指摘されるケースが多く、彼らに対する商品の販売や求人などについては、SDGsを考慮した対応は重要です。しかし、彼らがSDGsを前のめりで意識していない点も留意する必要があるでしょう。

2-2 Z世代の特徴に対応するマーケティングの必要性

ビジネスの出発点はターゲットと彼らのニーズの特定ということになりますが、その特定には彼らの特徴を把握することが前提になります。また、商品・サービスを準備し、彼らに認知させ購買を促すための活動においても彼らの特徴を反映した対応が必要です。

従って、Z世代をターゲットにするなら、彼らの特徴を把握しそれに合わせたマーケティング活動を展開することが求められます。

例えば「こんな商品・サービスが欲しい」という要望を聞きとるほか、どのような購買行動を取るか、どのような価値観がもつか、などを把握することもニーズを捉え、商品を購入してもらえるように促すなどの活動において欠かせません。

マーケティング活動では、対象顧客(市場セグメント)の選定から4P(製品、価格、プロモーション、チャネル・物流)などのビジネスを展開するための要素の構築・実行・管理に至るまで顧客の要望、購買行動や価値観などの特徴が前提となります。

例えば、「○○の行動を取る傾向が高いからSNSを通じたプロモーションを中心として行う!」「□□の価値観が見られるため、自然素材で作るエコな商品を投入する!」といった考えでビジネスを組立てることが必要です。

ビジネスではZ世代に限らずターゲットの特徴を前提として、それに対応したマーケティング活動を構想し実行することが成功に繋がると理解しておきましょう。

なお、Z世代を対象とするにしても全体を対象とするのか、その特定のある一部にするのか、といった検討も必要です。日本のZ世代は人口の15%に満たないですが、それでも1千万人を超える人口であり、彼らの特徴が一様とは限らない点を認識しておきましょう。

3 Z世代向ビジネスのマーケティング

Z世代向ビジネスのマーケティング

Z世代向ビジネスで成功するためのマーケティング戦略の重要点を説明しましょう。

3-1 インターネットを活用したビジネスの仕組み

Z世代を対象とするビジネスではインターネットを活用した情報の収集・提供、コミュニケーション、購買、アフターケアなどの対応が不可欠であり、それをコアとした仕組みを作る必要があります。

Z世代はスマホ中心の生活者であり、欲しいもの、やってみたい事などに関する情報収集から購買に至るまでネットを活用しています。また、購入後にはその使用感や体験などについてSNSを通じて発信することが当たり前に行われており、他者の購買に影響することも多いです。

そのためZ世代向ビジネスではインターネットをコアとしたのビジネスシステムが必要になります。その仕組みは主にマーケティング活動として実施されますが、特に情報の受発信のあり方などが重要です。

彼らは商品等を販売するコーポレートサイトや関連する情報サイト(紹介サイトやランキングサイト等)などを閲覧することはありますが、あまり熱心とは言えません。実はそうした積極的な情報探索より、たまたま読んでいたサイトのページで気になる商品を発見し、そこから移動するケースも多いです。

そのため他社サイトで自社の商品に遭遇し、そこから自社サイトへと移動を促すような仕掛けが求められます。また、Z世代はSNSが商品との遭遇ポイントになるケースも多いです。

友人・知人の情報のほか、フォローしているブロガーやインスタグラマーなどからの情報が商品とのタッチポイントになっています。つまり、SNS上で自社商品がいかに多くの人に好意的に扱われるかが販売に大きく影響するため、その点を考慮した対応が必要です。

具体的には動画投稿サイトでの再生回数が多い動画やダウンロード数ランキング上位のアプリなどに広告を出すほか、実際にSNSで商品評価や体験談を投稿してもらえる仕掛けが求められます。

3-2 複数のプラットフォームで情報収集

Z世代は日常的に複数のSNSを使い分ける傾向があるため、自社ブランドを認知させたり、アピールしたりする場合はその利用の多いSNS等で彼らのニーズや行動等の情報を入手することが重要です。

Z世代がSNSを含めどのプラットフォームを多く利用しているのか、そのプラットフォームで彼らがどのようなモノ・コトに関心を持ち、何処で商品等に出会いどの場所で購買するのか、などを確認しプロモーション活動を検討する必要があります。

なお、情報収集においてプラットフォームとともにそれを利用して情報発信している人気のブロガーやインスタグラマーなどのインフルエンサーの投稿内容も重要です。とりわけ自社商品と同類のものに関するフォロワーからの情報は自社のマーケティング活動の参考になります。

また、想定している彼らのニーズ、行動特性や価値観の変化などもモニタリングして見逃さない努力が必要です。変化の激しい現代において、新技術や新商品等の登場によりZ世代の考えや思いは急速に変化する可能性も否定できないため、注視し情報収集の手を緩めることができません。

3-3 価値の伝達

Z世代へのアピールは、単に欲しいモノ・コトの情報を提供するのではなく、それらが適度な価格帯にあってかつ質の高さや独創性等について語ることが重要です。

つまり、「コスパの良さ」や「パーソナライズ」が重視されます。たとえ、適度な価格帯の希望商品であっても価格以上の実質的なモノの良さが実感されなければ簡単には購入に至りません。また、自身が大切にする個性にマッチしたものでないと価格に関係なく興味の対象になりにくいです。

例えば、広告やインフルエンサーの情報発信などで、自社商品が「優れている」や「かっこいい」と叫んでもZ世代の心には響きにくいのです。そのためどのようなシーンでどのように使用したら「かっこいい」のかを具体的に伝達することが求められます。

「こんな使い方をしたらこんな効果が得られた!」といった解説情報とともにわかりやすく印象的な画像や映像を添付することが重要です。つまり、Z世代がその内容を読んで見て、ワクワクするような記述や描写になっていなければなりません。

また、Z世代は体験を重視するため、彼ら自身が体験しているかのような状況を想定したシーンを作りその中でアピールすることが重要です。

3-4 新鮮な情報の提供

Z世代はSNSなどネットを利用している際、目新しい情報に敏感に反応するため、彼らへの広告やコミュニケーションでは新鮮な情報提供が求められます。

彼らはネットの利用時に複数のSNSやWEBサイトを訪れますが、その際に注目しているブランドやブロガー等が情報を更新したり、新しい情報を投稿したりするのを待ち構えています。

逆に情報が更新されない、新しい投稿がないなどの状態が続けば、彼らはそうしたサイトやSNSから離脱していく可能性が高くなるのです。広告等においても興味のありそうな内容や画像等があれば最初は読んでくれますが、内容に変化がない、新しさがない場合は興味の対象から外れてしまいます。

コミュニティを形成している場合でも同じテーマで会話を長く引っ張ると離脱者を増加させる要因になりかねません。そのため適度な期間でテーマを切り上げ次の新たなテーマを提供していくといったコントロールが必要です。

3-5 適度な独創性への対応

Z世代には、多様性のほか自身のこだわりも重視する傾向が見られるため、個性や独創性への対応が求められます。

他者の多様な趣味嗜好を尊重しつつも、自身については独自の感性に基づく表現にこだわりたいという方が少なくないです。つまり、自身の独創性に基づき購買するケースがよく見られます。

そのため対象とするZ世代がどのようなオリジナリティを好むのか、こだわるのか、といった傾向をSNSなどの情報から捉える事が重要です。当然、独創的であれば何でもよいというわけではなく、派手過ぎる・奇抜過ぎるといった度を越えたものは受け入れられにくいでしょう。

こうした留意点は、ニーズ等を充足する商品・サービスの検討だけでなく、マーケティング活動全体に及ぶことを忘れてはいけません。斬新なアピールの仕方や情報提供は彼らの興味を呼び起こし購買へと誘導しますが、あまり度が過ぎるとかえって敬遠されかねないため適度を心掛ける必要があります。

4 Z世代向マーケティングの成功事例

Z世代向マーケティングの成功事例

ここではZ世代向ビジネスに適したマーケティング活動の成功事例を紹介しましょう。

4-1 TikTokの活用事例

TikTokは、ByteDanceが運営する動画に特化したソーシャルネットワーキングサービス(動画共有アプリ)で、利用者は15秒(撮影時間は最大60秒)のショートムービーの配信・閲覧が可能です。TikTokは企業のマーケティング手段(主にプロモーション)としても活用されています。

1)コカ・コーラの「#リボンでありがとうチャレンジ」キャンペーン

#リボンでありがとうチャレンジ

(引用:日本コカ・コーラ株式会社公式X)

●活用内容

日本コカ・コーラ株式会社は、2018年12月に「#リボンでありがとうチャレンジ」というTikTokを利用したキャンペーンを行いました。そのキャンペーンは、「コカ・コーラ リボンボトル」の販売に合わせたもので、ハッシュタグを利用したチャレンジ形式で実施されています。

応募については、公式のキャンペーンソング「リボンでありがとう」に合わせた振り付けなどで撮影した動画をハッシュタグ「#リボンでありがとうチャレンジ」を付けて投稿すれば、キャンペーンに参加できるというものです。

採用された作品は渋谷の街頭ビジョンで放映されるという特典(8名)が付与され、100名にはQUOカード(1,000円分)のプレゼントが用意されていました。

また、コカ・コーラはキャンペーンに際して、キャンペーン・キャラクターとしてZ世代に人気のあるTikToker(TikTokのインフルエンサー)「こたつ」氏などを起用し、公式アカウントではプロモーション用の動画も発信されています。

●結果と成功のポイント

Z世代に人気のあるTikTokerを起用しことや、渋谷の街頭ビジョンでの放映特典などの効果により本キャンペーンは大盛況でした。

また、企業としての認知度や信頼度(情報の扱い等に対する信頼度)が高いと感じられるコカ・コーラのキャンペーンでもあったため、ハッシュタグ「#リボンでありがとうチャレンジ」の表示回数は4千万回を超えています。

成功のポイントとしては、第一に他のSNSよりも動画投稿における拡散性の高いTikTokをキャンペーンに活用した点が挙げられます。15秒程度の動画であるため通学時間などの隙間時間でも楽しめ、作成する場合もあまり負担になりにくいです。

また、ハッシュタグをつけて投稿すれば拡散しやすいため、TikTokはZ世代での人気が高く、彼らの関心を集めるのに適したSNSと言えます。

第二のポイントは、投稿しやすいように同じ振付に合わせ内容の動画にした点です。お手本などを真似る動画なら短時間で気軽に楽しく作成でき、自己表現できる機会になります。

第三は人気のインフルエンサーを起用して興味を誘い、注目度の高い特典を用意した点が挙げられ、キャンペーンの盛り上がりに貢献したと言えるでしょう。

4-2 インフルエンサーの活用事例

Instagram、YouTube、TwitterなどのSNSを活用したマーケティングではインフルエンサーの影響が売上に直結します。ここではInstagramにおけるインフルエンサーを活用したマーケティング事例を紹介しましょう。

1)ユニビューティ株式会社

ユニビューティ株式会社

(引用:ユニビューティ株式会社公式HP)

事業内容:カラーコンタクトレンズの通販

●活用内容

同社はイメージモデルとしてファッションモデルの山神アリシア氏を起用して顧客の獲得に活用しています。

彼女は複数のファッション関係の企業でイメージモデルを務めており、ファッション製品やコスメ製品の紹介、フィットネス・トレーニングや旅行などに関して投稿しており、Instagramでのフォロワーは約2万人(2022年4月)、YouTubeのチャネル登録者数は約4万人です。

その彼女にInstagramを利用して同社の商品紹介やキャンペーン情報を発信してもらうという方法が取られています。添付写真には同社の商品であるカラコンをつけたものも投稿されました。

●結果と成功のポイント

彼女の投稿に対して多くの「いいね」が得られており、同社のECサイトへの集客アップに貢献しています。

成功のポイントとしては、単に商品を紹介するだけでなく、ターゲットがECサイトに訪れたいと思えるインセンティブなどをセットして誘導したことです。

インフルエンサーが実際にその商品を使用し、その良さが感じられる写真と言葉で興味を高めて、「今ならポイント10倍」といった特典を示すことで見込客をECサイトへ集客するという仕組みが成功に繋がっています。

なお、インフルエンサーは有名であれば誰でも良いということはありません。その選定においてはZ世代に受け入られ、彼らが身近に感じられる人や支持される人物であることが重要です。

単に有名人であるよりも、Z世代に近い世代のユーチューバーやインスタグラマーとして影響力の大きい人をインフルエンサーとして活用することが集客アップや売上増に貢献します。

4-3 リアル体験の活用事例

Z世代はリアルな体験を重視する傾向もあり、実際に見たい・触れたい・試してみたい、などの要望は小さくありません。そうした彼らのニーズをECサイトとリアル店舗を組合わせた方法で彼らの支持を得る企業が見られるようになりました。

1)株式会社シロ(SHIRO SELF)

株式会社シロ(SHIRO SELF)

(引用:株式会社シロ公式HP)

事業内容:化粧品等の自社ブランド「SHIRO」の企画、開発、製造、販売、店舗運営

●活用内容

SHIRO SELFは対面接客をしないコスメ店舗です。利用方法は、顧客がSHIRO SELFのリアル店舗に行く、そこでスマホを使って製品情報や使用方法などを音声・画像により確認する、気に入ればスマホから注文しレジで精算して、そこで商品を受け取る、という形態になります(事前に注文・支払いを済ませ受け取るだけにすることも可能)。

店員による接客がないため気軽に自分のペースで買物を楽しめるほか、知りたい情報はスマホ(商品のQRコードをスキャンして)から入手できるため、購買でのストレスがかかりません。日本語以外に英語での対応もしているため外国人の利用も可能です。

また、SHIRO SELFではエシカルな対応を重視ており、紙箱や紙袋無しでの販売も行われています。一般的に化粧品はファッショナブルで高級感のあるパッケージで梱包されて販売されますが、同店ではパッケージレスでの販売も実施されているのです。パッケージレスでの購入の場合は、通常価格の3%値引きとなる特典が付与されます。

●結果と成功のポイント

Z世代は対面の接客を苦手とする方が多い反面、実際に自分に合うものを見つけたい、実際に確認したい、などと感じる方も多いです。そのためデジタルとリアルのサービスの組合による販売方法は有効と言えるでしょう。

SHIRO SELFのように、自分の個性にマッチするもの、パーソナライズできるものなどをECショッピングのように自分のペースで購買できる空間を提供することはZ世代への有効なマーケティング手段になり得ます。

また、パッケージレスの販売は、無駄なモノには支出したくない、エコなことに貢献したい、という考えを有する方が多いZ世代にはこの販売方法は有効と言えるでしょう。

4-4 ナラティブ・マーケティングの活用事例

ナラティブ・マーケティングとは、一言で言うと「共感性を高めるマーケティング」と言えます。ナラティブ(narrative)とは、登場する人物やキャラクターが主人公となる「ストーリー」ではなく、発信者などのユーザー自身が主人公となる「物語」のことです。

また、ナラティブにはストーリーのような、「始まり」「中間」「終わり」といった区切りがなく、ユーザーの行動のとり方で物語の内容が変化します。そのためナラティブの会話では、ユーザー自身の物語を話したい相手に伝え、共感を呼びながら共に物語の内容を変化させて作っていくという手法が取られるのです。

この手法を取り入れたナラティブ・マーケティングは、企業とユーザーの対話やユーザー自身の「物語」などを見聞きして、それに対応したコミュニケーションを取って価値観の共有や信頼関係の構築に役立てます。また、商品・サービスの開発に活用することも可能です。

1)パンテーンの「さあ、この髪でいこう。#HairWeGo

*パンテーンはP&G社のヘアケアブランドです。

パンテーン#HairWeGo

(引用:パンテーン公式HP)

●活用内容

同社はこのハッシュタグで以下のようなメッセージを発信しました。

「服装もメイクも髪も、内に秘めた気持ちも、本当は自分の個性を出して就活したい。でも本当の自分を隠してしまったり、偽ってしまうことも。いま、一緒に考えてみませんか。…」

同ブランドはこのようなメッセージを発信して様々なキャンペーンを行い、「髪」に関する一人ひとりの個性について考える機会をZ世代などに向けて提供したのです。具体的には、同ブランドは学校の髪型校則への問題提起として「#この髪どうしてダメですか」キャンペーンなどをSNS等で展開しました。

●結果と成功のポイント

上記のキャンペーンでは、Twitterなどで多くの反応があり、学校の教師からの応援メッセージなども見られています。

このキャンペーンでは、実際に悩みを抱える生徒と先生が真剣に話し合う場の様子を映し出したドキュメンタリームービーも制作され、同世代の若者などを中心に多くの人の共感を呼ぶことに成功したのです。

実際、SNSで盛り上が見られ、様々なメディアでも取り上げられたことから、黒染め指導の廃止を求める署名活動などへと発展しました。

この「#この髪どうしてダメですか」キャンペーンは、社会の行動変容を促進する取組として評価され、2019年に「PRアワードグランプリ」でゴールドを受賞し、ブランドのイメージと売上をアップさせたのです。

5 Z世代向ビジネスでの起業・会社設立の進め方のポイントと注意点

Z世代向ビジネスでの起業・会社設立の進め方のポイントと注意点

Z世代を主なターゲットとして、起業・会社設立し事業を始める場合の重要ポイントや注意点を説明しましょう。

5-1 ターゲットの考え方

ビジネスは誰を対象者として定めることから始まるため、その対象者の事をよく理解し明確に特定することが重要です。

Z世代をターゲットにすると言ってもその人口は日本で約1,750万人も存在します。2022年における彼らの年齢は12歳~26歳程度ですが、他の年齢層と異なる特徴も多いです。

これまで確認してきたようにZ世代には様々な特徴、価値観、購買・消費特性などがあるため、ターゲットをZ世代として一律に捉えたビジネスモデル、特にマーケティング戦略を取ると失敗する可能性を高めかねません。

つまり、自社の事業として、Z世代のどのようなニーズを持つ人を対象とするのか、どんな価値観や行動特性を有する人を相手にするのか、を明確にしてマーケティング手段を整える必要があります。

例えば、株式会社dot等が運営する「Z世代会議」が実施した調査の「Z世代レポート2018」によると、Z世代は「様子見フォロワー」「省エネペシミスト」「ソーシャルよいこ」「人生ガチ勢」の4つのタイプに分類されるとのことです。

そうした分類なども参考にして、Z世代のどのような特徴を有する人達を対象者とするか選定して、それに適したビジネスモデルやマーケティング戦略の構想へと繋げましょう。

5-2 ターゲットの特徴に対応したマーケティング戦略の構築

マーケティング戦略の前提はターゲットのニーズですが、表面的な「好きなモノ・コト」の要望を認識するだけでなく、価値観や行動特性といった特徴からニーズを捉え、マーケティング手段へ反映させなければなりません。

具体的には、「好きなモノ・コト」を確認するとともに、彼らの価値観、日常の行動特性や購買・消費行動の特徴などを、製品開発から認知のための情報発信、彼らとのアクセスポイントの設置、売り場へ導く集客、購入を促すプロモーション、関係作り、などに反映させていくことです。

例えば、製品を考える場合、彼らが「個性を重視する」「パーソナライズしたものを好む」「ブランドよりも本質を重視する」といった特徴を製品の企画や開発に反映させていきます。

価格では、「倹約志向である」「価値を認めるモノは高くても買う」といった面があれば、コストパフォーマンスの良いものや、実質的な性能・品質が高く独創的な製品などを対象として、彼らが購入可能な上限の価格設定にする、といった方法が考えられるでしょう。

このように製品開発から購買後の関係維持に至るビジネスの仕組みは、ターゲットのニーズや特徴に基づいて設計し、実行することが重要です。

5-3 特に重要なマーケティング要素の項目

各マーケティング要素を分解すると多くの項目に分かれますが、Z世代を対象とする場合、特に以下の3つが重要になります。

 

1)共感を呼ぶ企業のブランディング

ブランド化は重要なマーケティング手段の1つですが、Z世代をターゲットとするビジネスの場合、彼らからの共感が得られるブランディングが必要です。なぜならZ世代は、自身の価値観だけでなく他者との共感を大切にするため、同様の態度を取る企業の商品・サービスを重視しするからです。

そのため企業としては、企業の存在意義、ミッション、商品・サービスへの思い、社会に対する責任、などを明らかにしてそれらをZ世代に確認してもらえるようにすることが求められます。

「どのような思いで製品を作るのか」「何を使命としてサービスを提供するのか」「社会に対してどう貢献するのか」などをホームページ等に掲載するだけでなく、商品・サービスを広告・提供する際にそれが伝わる取組も求められます。

Z世代の購買において、彼らの価値観にマッチするものであり、共感を持てる企業であることが、購入対象としての条件になり得ることを忘れないことが大切です。

 

2)双方向・個別の関係やコミュニケーション

ターゲットに購買対象の企業として選んでもらうには、彼らと自社との繋がりを持ち深めることが欠かせません。そのため企業は彼らとの双方向なコミュニケーションや良好な関係の構築・維持が求められます。

なぜなら彼らとの繋がりを深めることにより、自社およびその商品・サービスに対する愛着を感じさせ、ファンになってもらうことが期待できます。しかし、その双方向の関係や意思疎通を確保するためには、以前のような一方通行の広告や連絡・案内では実現は容易ではありません。

例えば、単なる挨拶でしかないような文章による連絡、不特定多数を対象とした性能等をアピールするだけの広告やわくわくすることのない平凡な内容のキャンペーン、などを継続的に流すような形態に対して、Z世代は興味を持たず、共感を覚える可能性は低いです。

そうならないためには、企業がユーザーごとに彼らを認識して、彼らにマッチした内容・形態の連絡・広告・キャンペーンなどを実施する必要があります。

具体的には「○○さんにおすすめの商品を今紹介させていただきます」「前回□□をご利用いただいた○○さんにポイントが3倍になるキャンペーンセールをご用意いたしました!」といった内容です。

提供する商品・サービスを各ユーザーに合わせてパーソナライズするように、コミュニケーションの取り方や関係の作り方も同様にパーソナライズし1対1のコミュニケーションや関係を維持していくことが重要になります。

もちろん商品・サービスの提供や広告にはナラティブ・アプローチも重要になるでしょう。

 

3)遭遇・購買の地点を反映したメディアの活用

一連のマーケティング活動にはWEBサイトやSNSなどのメディアを利用することが不可避ですが、Z世代のターゲットに適した利用メディアを設定することが重要です。

特にZ世代にとってはSNSが生活の中心になっているため、Twitter、InstagramやYouTubeなどの主要なSNSのほか、利用率が高まってきているTikTokやSpotifyなどもターゲットに合わせて利用することが求められます。

例えば、Z世代は自分の目的に合わせて使用するメディアを使い分ける傾向があるため、その特性を把握して売手側も使い分けが必要です。具体的には、情報検索ではGoogle等の検索サイトやInstagram(検索欄やハッシュタグで情報収集が簡単)、可愛い系やおしゃれ系の情報に関してはInstagram、面白系の情報に関してはYouTube、といった使い分けです。

ターゲットの特徴や行動特性などに応じて利用するSNSを使い分けたり、複数組み合わせて使用したりする、といったメディア設計が求められます。

6 まとめ

Z世代向ビジネスでの起業・会社設立

Z世代を対象とするビジネスにとって、彼らはそれ以前の世代と異なる面も少なくないため、その特徴を考慮したビジネスの仕組み作りが重要です。

彼らには、SNSを使いこなす、リアルな体験も好む、所有より利用を優先する、多様性を重視する、環境問題に関心がある、消費には慎重である、個性を大切にする、コスパを重視する、などの特徴があり、こうした面を踏まえたビジネス設計が求められます。

Z世代向ビジネスを成功させるためには、こうした特徴に対応できるマーケティング戦略を練る必要があり、特にSNSの活用を中心としたマーケティング手段の構築が不可欠です。適切なメディアを設定し双方向なコミュニケーションを取って良好な関係を築き、認知度や売上の向上に繋げることが大切です。