調査会社のA.T.カーニーによる「グローバル都市ランキング」で12位に入るなど、世界屈指の国際都市となった韓国ソウル。同市には韓流スターが在籍する芸能事務所も多く、ファンたちの間では聖地として人気の観光地にもなっています。また、東亜日報によれば10億ウォン以上(約1億円)の富裕層は14万人いるとされ、平倉洞(ピョンチャンドン)や清潭洞(チョンダムドン)は有名な高級住宅街となっています。
ところが、韓国紙によれば、ソウルに暮らす若者の4割が最低住居基準に満たない暮らしをしていることが明らかとなりました。全体の住宅貧困率が減少傾向にあるものの、若者の住宅貧困率は2000年以降、悪化の一途を辿ります。
さらに、ソウルで一人暮らしする高齢者は過去10年間で2倍以上に増え、現在は4人に1人が一人暮らしで、うち2割以上が劣悪な環境で暮らしていると報じられました。
韓国経済発展の裏で進んでいた貧困、経済格差。果たして韓国最大の首都に今何が起きているのでしょうか。
目次
1 広がる若者の貧困〜10人中4人が最低基準スレスレの生活〜
韓国紙ハンギョレは10月、韓国当局資料をもとに若者世帯の分析を行ったところ、一人暮らしをする若者の4割が、最低住居基準に満たない住まいで暮らしていると報じました。全国の住宅環境は改善されているのに対し、ソウルに一人で住んでいる満20〜34歳の若者の住宅貧困率は悪化しています。
(出展:hani.co.kr)
1-1 ソウルの住宅貧困率37.2%
韓国都市研究所「最低住居基準未達世帯および住宅貧困世帯の実態分析」によると、全国の住宅貧困率は1995年の46.6%から2015年には11.6%まで低下した。
一方、ソウル市内に住む20〜34歳の若者世帯の住宅貧困率は、1995年の58.2%から2000年に31.2%に急減したものの、2005年に34.0%、2015年37.2%にと増加しています。
住宅貧困率は、住宅法が定める最低住居基準に達していなかったり、コシウォン※(考試院)と呼ばれるなど住宅以外の場所に居住したり、地下・屋根裏部屋に居住する割合を意味します。
(一般的とされるコシウォン)
・一人暮らし世帯の若者住居貧困率
(参照:ハンギョレ ※赤線が全国の住宅貧困率、黒線がソウルの住宅貧困率)
1-2 非住居世帯の急増が原因?
コシウォンなどの非住居に暮らす若者世帯数は2005年の2818世帯から2010年には2万2644世帯と急増、2015年には3万8096世帯となりました。主に大学街となっている町で多く、その比率は、ソウル大学のある冠岳(クァナク)区で55.5%、銅雀(トンジャク)区で53.3%、衿川(クムチョン)区で53.1%、城北(ソンブク)区で45.2%となっています。最も低かったのは、江南(カンナム)区の15.1%となりました。
都市別に若者の住宅貧困率を見ると、大田(テジョン)が23.9%で、ソウルの次に高くなりました。続いて京畿道(キョンギド)20.9%、仁川(インチョン)18.6%、釜山(プサン)18.1%と続きます。最も低いのは慶尚北道(キョンサンプクト)で8.6%でした。
都市研究所研究委員のチェウンギョン氏は、「ソウルなど若者の一人暮らし世帯の住宅貧困率は、他の世代とは異なり逆走している。高齢者や障害者など伝統的住宅弱者のほか、新たに注目しなければならない層が増えたため、その実態把握と対策が必要になる」と述べました。
※ 韓国の住宅形態の一つ。司法試験など受験生が住むことを想定した施設で、建物やフロアを2畳前後の部屋に仕切って構成されている。生活に必要な基本的なものはそろっており、各部屋にはベッド、冷蔵庫、本棚等が置かれている。また入居者が共同で使用できる台所、ご飯、キムチ、インスタントラーメン等が置かれている。シャワー、トイレは共同で、各部屋に設置されている場合は(コシテル)とよぶ。(参照:韓国語辞書-ケイペディア)
2 ソウルに住む高齢者、4人に1人は一人暮らし
韓国紙によると、ソウルに住む一人暮らしの高齢者の数が過去10年間で2倍以上増加しており、高齢者全体の22.2%を占めることがわかりました。毎年1万5000人程度増加しており、このうち23.0%は劣悪な環境で暮らしていると報じられました。
(出展:hani.co.kr)
2-1 女性高齢者のほうが男性よりも2倍以上多い
一人暮らしをする65歳以上の高齢者は28万1068人で、全体(126万2436人)の22.2%を占めます。2005年時点では12万4879人でしたが、10年間で2.2倍に増加しました。
男女別では女性(19万2519人)の方が男性(8万8549人)よりも2.1倍多くなります。
自治区別にみると、最も多いのが蘆原(ノウォン)区の1万7285人で、次いで、江西(カンソ)区の1万5024人、冠岳区の1万4974人となりました。
一方、最も少なかったのが、中(チュン)区で5374人、次いで、鍾路(チョンノ)区の7044人、龍山(ヨンサン)区の8495人と続きました。
韓国では20年以上連れ添った夫婦が離婚する「黄昏離婚」(日本で言う熟年離婚)が増えており、一人暮らしの高齢者の数が増えるのに影響を与えているとされます。
2-2 6万人以上の高齢者が誰かの助けを必要としている
実際、2015年ソウルに居住している高齢者の数は2005年(73万5932人)と比較すると1.7倍以上多くなりました。また、同年、黄昏離婚を選択した夫婦の割合は34.1%で、過去10年間で(22.2%)より11.9ポイント増加しました。一部の韓国紙は、親の扶養を当然と見る儒教文化が希薄になってきたことが増加の主な原因ではないかと分析しました。
ソウル市が昨年行った調査によれば、13歳以上の市民のうち、親の老後の生活について「親自らが解決しなければならない」と回答した割合は19.2%にのぼりましたし。2006年の同調査では7.7%だったため、過去10年間で11.5ポイントも増加しました
一方、市内の一人暮らしの高齢者のうち23.0%にあたる6万4656人は、行政の助けが必要な状況にあることが明らかとなりました。
調査結果によると、一人暮らし高齢者のうち17.5%(4万9122人)は、基礎生活保護受給者であり、5.5%(1万5534人)は低所得層に所属します。劣悪な環境に直面している一人暮らしの高齢者が最も多い自治区は、蘆原区(基礎生活保障受給者4200人及び低所得層1434人)で、最も少ない自治区は、瑞草区(708人及び279人)でした。
(出展:pressian.com)
明らかとなったソウル市における若者と高齢者の貧困問題。格差解消や低所得所救済に向けて、韓国政府の早急な取り組みが必要とされています。