昨今、AIの活用が世間で本格的に注目を浴びるようになり自社も導入すべきではと焦りだしている経営者の方もおられるでしょう。実際、AIを自社のビジネスシステムに組み込んで業績を改善・拡大させている企業は少なくありません。このAIの活用は既存の企業にとっていくつものメリットを提供してくれますが、これから会社を設立することになる企業等にとっても有効です。今回はビジネスにおけるAIの活用について説明します。AIの概要、国内外のAIの利用状況、AIの活用分野・活用事例などのほか会社設立時から開業後のAI活用やその注意点を解説する予定です。会社設立時からAIを活用していきたい、現在の事業をAIで改善したなどと考えている方は是非この記事を参考にしてください。
目次
1 AI(人工知能)とその影響
AIの概要とともに、AIの国内外の利用状況などについて説明していきましょう。
1-1 AIとは
①AIの概要
AIは「Artificial Intelligence」の頭文字をとったもので日本語では「人工知能」と呼ばれています。
現在ではビジネスだけでなく個人の暮らしの中でもAIという言葉がよく聞かれるようになってきました。しかし、世に知られるようになったのは1950年代の国際学会からであり、今日のように注目されだしてからの日は浅いと言えるでしょう。
AIの内容については学者などが様々に定義していますが、(社)人工知能学会では「知的な機械、特に、知的なコンピュータプログラムを作る科学と技術」と定義しています。具体的には、「人間の認識、思考や学習という知的活動、すなわちそうした人の脳の働きを、コンピュータプログラムなどで行う」ことがAIの意味するところになるはずです。
もちろん現状ではAIが人間の知的活動をすべて代替できるほど進化しているわけではありません。しかし、「機械学習」や「ディープラーニング(機械学習の一分野)」など様々な技術が次々と導入されAIの能力は格段に向上し人間を上回る成果を生み出すケースもよく見られるようになってきました。
AIが世間で注目されるようになったのはIBMのワトソン(Watson)という「質問応答システム・意思決定支援システム」の普及が大きく貢献しています。ワトソンは音声や画像を認識できインターネット上のテキスト情報を自身で見て参考にして答えを出すことが可能です。
このワトソンが2011年2月に米国のクイズ番組で人間と対戦し勝ったことで注目の的となりました。そして、その頃にはディープラーニング技術がAIへ本格的に活用され出し進化を加速させています。
2016年にディープラーニングを活用したコンピューター囲碁プログラム(AlphaGo)が囲碁のトップ棋士に勝利したことでAIの進化が世に示されたのです。このようにAIは今も進化をしている最中にあり活用の領域を拡大させています。
②AIができること
AIは画像認識、音声認識、文章・言葉認識が可能で将棋・チェス・囲碁のプレイ、自動車等の自動運転システム、などに利用されています。人間が自意識をもって行うような自律的な処理はAIにはまだ困難ですが、人間の能力の一部をより正確に早く持続的に行える点は魅力と言えるでしょう。
そのAIが実施できる内容としては以下の点が挙げられます。
A 文章認識
書かれた言語及びその文章を認識して、翻訳したり要約したりできるほか、その言語情報に基づき一定の記事を作ることも可能です。
人間が日常的に使用している言葉(自然言語)をコンピューターに処理させる技術を自然言語処理(AIと言語学の一分野)と言いますが、この発展により検索サイトの翻訳機能が大幅に向上しています。
B 音声認識
最近では話しかけるだけで操作や会話ができる情報端末やシステムなどが見かけられますが、これは音声認識できるAIを活用したものです。
たとえば、iPhoneやiPadに話しかけるとスマホが代わりに操作を行ってくれるアシスタント機能の「Siri(シリ)」や、テキストや音声を介して会話を自動的に実施するプログラムである「チャットボット」などがあります。
C 画像認識
AIの代表的な活用の一つが画像認識です。画像認識は画像から何らかのパターンを読み取りその画像が何であるかを特定できます。画像認識の面もディープラーニングからのアプローチによりその認識精度は飛躍的に向上し、顔認証システムの実用化・高精度化に貢献しているのです。
ディープラーニングを取り入れた顔認証システムでは、人間の目の代わりのほか人間で判断できない識別も可能になってきています。製造業の製品の不良検査や医療分野の診断などにAIが利用されるようになってきました。
D 学習と推論
「学習」とは大量の「学習データ」の統計的な分布情報をもとに、特徴の組み合せの傾向やパターンを作成するプロセスのことです。学習データとは、「あるデータからその内容を説明するデータ」の組み合わせの情報を指します。
学習では、たとえば「サルの画像」と「それがサルであるという正解の情報」の組み合わせ情報(学習データ)をAIに大量に読み込ませ、サルの典型的な特徴の組み合わせパターン(推論モデル)を作成していきます。
推論とは、分類や識別したいデータを、学習で得られた推論モデルで照合しその答えを得るプロセスです。言い換えると「過去のデータから新たなデータについての解答を得るプロセス」とも言えるでしょう。
たとえば、新しい画像情報を読み込む⇒その特徴を認識し推論モデルと照合する⇒その結果がサルの特徴の組み合わせパターンに近いと判断する⇒「サル」という推論結果を出す というプロセスが行われます。
そして、この学習と推論のプロセスを合わせたものが「機械学習」です。
E 機械制御
工場の機械やロボット、各種センサーやモーター、建設機械、自動車などの制御にAIが多く利用されるようになってきました。生産の効率化や自動化が生産現場で今も進められていますが、それにAIが活用されているのです。
AIを活用した機械制御は、今までのコンピューター制御による機械の自動化とは異なり、AIが生産にかかわる情報を認識・理解するとともに学習しつつ最適な制御を実現します。AIによる機械制御ではその機械が生産状況を認識・学習しながら最適な生産・稼働(最も効率的、優先順位に従った生産等)となるように制御してくわけです。
1-2 AI活用の現状
ここではAI活用の現在及び将来の状況について紹介します。
①AIの世界経済への効果
PwC Japan(出典:PwC「Sizing the prize」(2017.6))によると、2030年までにAIの活用が世界のGDPを14%増加させると指摘しています。また、そのGDPの増加分のうち55%が労働生産性の向上により実現されるとのことです。
GDPへの増加効果を地域別にみると、中国の26.1%(7.0兆ドル)、次いで米国の14.5%(3.7兆ドル)、南欧、アジア先進国、北欧などと続いています。このように世界全体ではほとんどの地域でAIによる経済効果が見込まれているのです。
2025年頃までは北米がAI市場をけん引し、その後は製造技術関連のAIを中心に中国が北米に追いつきAI搭載の製品輸出により中国のGDPが押し上げられるという見込みです。
AIの主な活用分野は製造や労働力などの業務の効率化や高度化で、業界としては「ヘルスケア」「金融」「小売」の割合が大きいと見られています。
日本のAI活用の現状は、アジア先進国(GDPの増大効果が10.4%、金額は0.9兆米ドル)に含まれる程度でしかなく北米や中国に大きな差が開けられています。
②日本のビジネス現場におけるAIの利用状況
米国や中国などに後れを取っている日本のAI利用について、その現状や将来の利用について説明していきましょう。
A AIの職場への導入状況
総務省の平成28年度版「情報通信白書」第1部第4章第3節の(1)では「人工知能(AI)の職場への導入状況」が掲載されており、その主な内容は以下の通りです。
- ・現時点でのAIの職場への導入は、日本よりも米国の方が進んでいる
- ・日本の就労者で職場にAIが導入されていると回答した人(「既に導入済み、活用(利用)したことあり」「既に導入済みだが、未利用」の合計)は5.0%、米国は13.7%。
- ・「現在は未導入、今後導入の計画あり(計画中・検討中)」の回答では日本は5.6%、米国は16.5%と約3倍の開きがある
以上の点からAIの導入において今後さらに日本は米国との差が拡大する可能性が大きいと指摘しています。
図表4-3-3-1 職場への人工知能(AI)導入の有無および計画状況
(引用:総務省の上記「情報通信白書」より)
B AIが果たす役割・機能
上記の白書では、「すでに人工知能(AI)が職場に導入されている」或は「今後導入される計画がある」と回答した人に、職場に導入されている(導入される)AIが果たす役割・機能についての調査が行われ、以下のような結果が得られています。
図表4-3-3-2 人工知能(AI)が果たす役割・機能
(引用:総務省の上記「情報通信白書」より)
- 日本:
- ・「既存の労働力を省力化する役割・機能」が41.0%で最も高い
・次いで「不足している労働力を補完する」と「既存の業務効率・生産性を高める役割・機能」が35.0%
- 米国:
- ・「既存の業務効率・生産性を高める役割・機能」が48.6%で最も高い
以上の内容から日本ではAIの利用を労働力の補完とする傾向が強く、米国では業務改革の担い手としての役割を期待する傾向が見られます。
ただし、「これまでに存在しなかった新しい価値をもった業務を創出する役割・機能」に関しては米国19.5%より日本26.5%と日本の方が高いです。これはAIを導入しているもしくは導入予定の職場の4分の1において、AIが新しい価値をもった業務を創出する役割・機能を果たしているものと推察できます。
つまり、AIの導入が新たな業務・事業の創出に役立ちそれがタスク量の増大に繋がるものと期待されているのです。
C AI導入に対する意識
上記の白書の調査では「もし自分の職場にAIが導入される場合、AIの導入を好ましいと考えるか」という就労者への質問があり、以下のような結果が得られています。
日本の就労者の場合、「好ましい(Aの考え方)」、「どちらにもあてはまらない」と回答した人が多数派となりました。しかし、「どちらにもあてはまらない」が約半数を占めていることから、AI導入の必要性を実感している人は少なく利活用へのモチベーションが高いとは言えません。
米国の場合、「好ましい(Aの考え方)」、「好ましいことではない(Bの考え方)」が各々40.8%と35.4%と高い割合で均衡しており受容派と否定派で二分されています。
以上の点から日本の就労者におけるAI導入に対する必要性の認識は低いと考えられます。AIの活用による効果を高めるためには就労者への意識の変革や教育が必要と言えるでしょう。
図表4-3-3-3 自分の職場への人工知能(AI)導入についての賛否
(引用:総務省の上記「情報通信白書」より)
1-3 日本のAI戦略
日本政府は世界からの遅れを取り戻すため「AI戦略」を立案しAIの研究開発から社会実装までを進展させようとしています。
日本では、人工知能技術戦略会議で2017年3月に人工知能技術戦略及びその産業化ロードマップがまとめられ、「生産性」「健康、医療・介護」「空間の移動」「情報セキュリティ」の重点分野を中核に、官民が連携して、AI技術の研究開発から社会実装までに取り組むことになりました。
また、2018年8月には同戦略を反映した政府の取組を具体化・強化するために各取組の目標と達成時期を示した実行計画が作成され、直面する課題を克服するために「AI戦略 2019」が策定されたのです。
AI戦略2019の概要は下記のようになっています。
- A 戦略の目的
-
「Society 5.0の実現を通じて世界規模の課題の解決に貢献するとともに、我が国自身の社会課題も克服するために、今後のAIの利活用の環境整備・方策を示すことである」
「世界への貢献と課題克服、さらには、その先の、我が国の産業競争力の向上に向けて、AIを取り巻く、教育改革、研究開発、社会実装などを含む、統合的な政策パッケージを策定する」
- B 戦略目標
-
戦略目標1
「我が国が、人口比ベースで、世界で最もAI時代に対応した人材の育成を行い、世界から人材を呼び込む国となること。さらに、それを持続的に実現するための仕組みが構築される」
戦略目標2
「我が国が、実世界産業におけるAIの応用でトップランナーとなり、産業競争力の強化が実現される」
戦略目標3
「我が国で、『多様性を内包した持続可能な社会』を実現するための一連の技術体系が確立され、それらを運用するための仕組みが実現される」
戦略目標4
「我が国がリーダーシップを取って、AI分野の国際的な研究・教育・社会基盤ネットワークを構築し、AIの研究開発、人材育成、SDGsの達成などを加速する」
以上のように政府はAIの進展に向けた明確な目標を立て具体的に進めようとしており、日本の産業界におけるAIの導入・活用は加速していくものと期待されます。
2 AIの活用意義と活用事例
AIには以下のような特徴があります。
- ・長時間かつ連続でデータに基づく単純な作業の継続が可能
- ・正確かつ迅速なデータ処理や分析が可能
- ・データ同士を照合して類似点・共通点の発見が可能
- ・一定のデータ量に基づき今後の状況等の予測が可能
- ・音声認識や画像認識の技術・情報の応用が可能
以上のAIの特徴に関連するAIのメリット・デメリットを説明するとともに具体例を紹介しましょう。
2-1 AI導入のメリット・デメリット
①AI導入のメリット
A 業務の効率化と労働力の補完
Iot等とAIを組み合わせて利用することで業務の作業や労働者の行動における問題点やミスなどを認識し、その結果から業務を改善し人員削減を可能にします。
AIは機械や作業員などの状況を画像や音声の情報で収集し、人間では気づきにくい問題の見逃しやミスを発見することが可能です。問題点が発見できれば改善が可能となり、改善のアドバイスも今後はAIに期待できるでしょう。
人的ミス等が大幅に減少し、業務内容が改善されると生産性が高まりコストダウンに繋がります。また、人員も少なくできるようになるため人手不足の解消も期待できるはずです。
B 業務に関する分析と予測
販売や経理など様々な業務をAIで分析することで販売・仕入や売上・利益に関する予測などが行えるようになります。
販売量、仕入量、顧客、天候、景気など様々なマーケティング情報をAIで分析することで、今後の売り筋商品や仕入拡大商品などを予測することも可能です。雨の日には何がよく売れ、何が売れ残りやすいのか、何をどれだけ仕入れておけばよいのか、などの解がAIから得られます。
売れるものを多く揃えて販売できれば業績を大幅に改善することも困難ではなくなるでしょう。
C ニーズの発見から新商品・サービスの開発
自社業務の各種情報、顧客情報のほかビッグデータなどの解析により今まで気付かなかった顧客ニーズをAIで発見することも可能です。
大企業などではマーケティング部門の専門スタッフなどが新しい市場ニーズや顧客ニーズを発見するために、膨大な社内外のデータを収集して分析するケースが多く見られました。
しかし、AIにそうした作業をさせれば短時間で有望な市場ニーズの発見ができるようになります。また、自社の業務内容、製品・サービスなどの情報をAIに読み込ませ市場ニーズとの関係から製品・サービスを考案させることも可能です。
D 顧客満足度の向上
顧客からのクレームや問い合わせ等の内容についてAIで分析すれば販売員、営業アシスタントやオペレーターなど顧客と接する従業員の対応の問題点、商品・サービスの欠点などを掴むことも可能です。
それらの問題点の原因と改善策までAIで分析・提案できるようにすれば、短期間で顧客満足度を改善することも困難ではありません。
②AI導入のデメリット
E 雇用の減少
定型的な業務などはAI搭載の情報システムや機械等に置き換わる可能性があり、いくつかの職種などではAIに仕事が奪われる可能性があります。
従業員の労働負担の軽減や人手不足の対策にAIの活用は有効ですが、単純な定型作業などはAIが担当しその業務に携わる従業員は削減されていくでしょう。過度に削減すれば従業員の間に雇用不安が生じモチベーションの低下や離職率の増大に繋がる恐れがあります。
F AIのトラブルによるリスクの増大
人員を削減しAIに特定の業務を完全に移管した場合、AI側にトラブルが生じれば業務が完全にストップしたり、誤った業務が遂行されたりします。その結果、企業は大きな損失を被ることになるでしょう。
AI側のトラブルが解消されない間は、人間が作業を肩代わりすることになりますが、作業量や人員の点でAIの業務量を直に穴埋めすることは困難です。そして、結果的に業務効率が大幅に低下し、納期の遅れや品質の悪化に繋がり業績を押し下げてしまうことになります。
G AIの運用のための人材確保が困難
AIを活用して業務改善や新商品開発などを進めて行くには運用ができる人材の確保が不可欠です。しかし、日本での「AI人材(AIに関する業務を遂行する者等)」は多いとは言えず確保していくのは容易ではありません。
先の「AI戦略2019」などで国がAI人材育成に本格的取り組むようになりましたが、現状はAI人材が不足しており会社設立して間もない中小企業等ではより確保が困難になるでしょう。
また、資金や人材に余裕のない中小企業等ではAI人材を育成していくことも簡単ではありません。
2-2 ビジネス等でのAI活用事例
・医学
①事業者:Medmain(メドメイン)株式会社
AI活用内容:病理診断サービスの提供(そのソフトの開発)
AI活用の効果:病理医の業務負担の軽減、時間・コストの削減
九州大起業部の第1号ベンチャー企業であるメドメインはAIを使用した病理画像診断ソフト「PidPort(ピッドポート)」を開発し実証実験など経て提供し始めています。
PidPortはディープラーニングを用いた病理画像診断ソフトで九州大学病院、広島大学病院や順天堂大学病院など国内外の医療機関20施設と共同開発が進められ、タイの病院などでも試験運用が始まっているのです。
開発の際協力病院からの細胞や組織の画像を九州大学のスーパーコンピューターシステム「ITO(イト)」を使ってAIに数万単位の症例として学習させた結果、医療現場の実用に利用できる診断精度が実現されました。
このシステムの利用は簡単で、病理画像のデータを送信すればそのAIが1分程度で解析し、可能性の高い病名や病変の部位を示すというものです。PidPortの利用費用は一般的な病理診断費用の半額から3分の1程度であり、従来の費用負担を大幅に削減できます。
・製造業
②事業者:オークマ株式会社と日本電気株式会社(NEC)
AI活用内容:AIを使った工作機械の自律的ドリル加工診断
AI活用の効果:不良加工品及ぶ工具費の削減
オークマとNECは共同でAI(ディープラーニング)を利用して工作機械が自律的にドリル加工の診断が行える「OSP-AI加工診断」を開発しました。
OSP-AI加工診断は、オークマの工作機械に搭載されるAIにドリル加工の異常検知と工具摩耗の可視化をリアルタイムでできるようにしたのです。この診断システムを利用すればドリル工具と工作物の損傷防止を実現し、工具費も大幅にコストダウンできるようになります。
様々な加工条件で得られた加工データを適切に組み合わせた学習結果がOSP-AIに反映されており、従来の工作機械の機能では不可欠な主軸速度毎、送り軸速度毎の個別設定も不要となり、適切なドリル加工が実現できるのです。
③事業者:サントリー食品インターナショナル株式会社と株式会社日立製作所
AI活用内容:AIを活用した最適な生産計画の自動立案
AI活用の効果:生産計画立案時間の短縮と需要変動への機動的対応
両社は協力して最適な生産計画を自動的に立案できるシステムを、AIを活用して開発しました。このシステムは「人とAIの調和」をコンセプトとして開発されたもので、サントリーが計画立案ノウハウを、日立がAI技術を提供することで実現されたのです。
食品の需要変化や生産等での複雑な制約条件に対して、最適な生産計画を立案できるシステムが開発されサントリーの製造拠点で実証されています。その生産計画の立案業務での検証では、作業時間が従来の平均約40時間から約1時間に短縮できる結果が得られました。
サントリーではこのシステムにより生産計画の最適化、需要変動への即応による商品の安定供給体制の構築、業務効率改善による生産性向上、働き方改革の実現が期待されています。
・交通/輸送
④事業者:みんなのタクシー株式会社(ソニーグループと大手タクシー会社による共同開発)
AI活用内容:AIを活用したタクシー利用の需要予測
AI活用の効果:乗務効率の向上
株式会社グリーンキャブ、国際自動車株式会社のほか計タクシー会社5社と、ソニー株式会社、ソニーペイメントサービス株式会社により事業会社として2018年9月に「みんなのタクシー」が設立されました。
ソニーが有するAI技術、イメージング/センシング技術などがみんなのタクシーに供与され、同社を通じてタクシーの配車サービスや決済代行サービス、後部座席広告事業などのサービスが提供されています。
みんなのタクシーの需要予測システムは、時間帯、場所、天候によって潜在客を割り出し、ドライバーの乗務効率を向上させるもので、この配車アプリは顧客の囲い込みや新たな乗客の開拓にも期待されているのです。同社は本システムの導入を全国のタクシー会社に展開していこうとしています。
・農業
⑤事業者:パナソニック株式会社
AI活用内容:AIを活用したトマトの自動収穫
AI活用の効果:トマトの収穫作業の自動化と人手不足の解消
パナソニックは距離画像センサーや搭載カメラなどによりトマトの場所を特定し、AIがその色や形を認識し適切な収穫時期を判断した上で自動的に収穫する農業ロボットを開発しました。
トマトの収穫ロボットは前から存在していましたが、AI技術を活用しそのシステムを搭載させたことで収穫の正確性や効率性が格段に改善できたのです。トマトが一部しか見えない場合でも認識できるように、一部が見えている写真を学習させたことで認識性が大幅に改善されました。
AIの導入よりトマトの収穫率は約80%から96%まで向上し、人間の作業時間3~4時間に対し最大連続10時間の稼働を可能となっています。3Kと言われる農作業における人手不足の解消とともに生産性の向上にAI搭載の収穫ロボットが貢献していくでしょう。
・防災
⑥事業者:損害保険ジャパン日本興亜株式会社
AI活用内容:AIを活用した防災、減災
AI活用の効果:災害発生前後の正確な被害予測(被害地域や被害規模の予測等)、実際の発生時の被害状況の情報収集等(により防災計画や復興計画の適切な作成の容易化)
損害保険ジャパン日本興亜は米国のOne Concern社及びウェザーニューズとともに防災・減災システムを共同開発しています。このシステムは、熊本市での実証実験を経て2019年9月より実際の利用が開始される予定です。
One Concern社はAI等を活用した災害予測と防災・減災システムを提供しており、米国のロサンゼルス市などの自治体でも実績があります。彼らの技術力に日本のウェザーニューズによる過去の気象データや気象予測データが利用され、災害時での精密な被害シミュレーションが可能となりました。また、同システムを利用すれば災害対策や復興計画などの策定が容易になります。
3 会社設立前後から開業後のAI活用
ここではこれから会社設立を果たして事業を始める方、始めて間もない方、一定の操業年数のある経営者などがAIをどのように活用していくか、という点について説明します。
なお、ここでの活用はAIシステムのサービスを開発・提供する事業としてではなく、そうしたシステムを自分の事業に導入・活用するという目的・用途になるため、ご注意ください。
3-1 AIを起業する事業・業務で活用
起業や会社設立を検討したり準備したりする段階ではそのビジネスモデルを固めていく必要がありますが、そのビジネスシステムの中にAI活用の要素を加えることも重要になります。
何故なら今まで見てきたようにAI活用はGDPを押し上げ事業上の競争優位性をもたらす可能性が高いからです。そのためここでは自分が始めるビジネスにどのようなAIの活用が考えられるかを確認していきましょう。
その確認には、平成28年度版の情報通信白書の第1部第4章第2節2の(2)「人工知能(AI)の利活用」の「人工知能(AI)の利活用が望ましい分野」の内容が参考になります。
白書の内容では、AIの利活用が望ましい分野について有識者に対してアンケート調査が実施されており、下表(図表4-2-2-5)の結果が確認できます。
図表4-2-2-5 人工知能(AI)の利活用が望ましい分野
(引用:総務省の上記「情報通信白書」より)
上記の結果は国内で抱える様々な課題を解決するために、どのようなAIを活用したらよいかという観点からその利用が望ましい分野が挙げられたと言えるでしょう。
その主な分野としては、医療、交通・郵送、渋滞・混雑の緩和、監視等のセキュリティ、生産関連、需要予測、犯罪の検知、金融資産の運用、信用管理、顧客満足度の向上などです。
上記の分野はAI活用が求められており需要があるとも考えられます。つまり、それらの分野でその関連する製品、機械・設備及びサービスなどでAIを活用して付加価値の高い商品・サービスを提供すれば業界で優位に立てる可能性があるわけです。
上記分野におけるAIの活用を起業する事業分野として考えてみてはどうでしょか。
3-2 会社設立後からのAI活用
AIの自社事業への活用は、過去の業務データを分析、学習させ法則性を発見するなどして業務に活かされるのが一般的です。ここではそのAIの活用方法の内容を説明します。
①会社設立後間もない時期でのAIの活用
会社設立後や事業開始後からあまり時間が経っていない企業の場合、蓄積された事業・業務に関するデータが少ないためAIの活用が十分に行える状態にあるとは言えません。しかし、そうした時期においてもAIを活用すれば少しずつでも事業の改善に繋げることはできます。
たとえば、AIを活用した経営診断などです。AIの活用方法は多様ですが、開業後から半年といった時期などでも会社の経営状態の把握に利用できます。半年間等での販売・会計データをもとにAI技術を利用した経営診断システム等の診断を受ければ現時点での客観的な経営状態が確認できるでしょう。
AIによる予実分析で予実差異に基づく問題点の特定、その改善策の提案などが受けられるシステムを提供する事業者も少なくありません。また、売上予測なども可能なタイプも多く、利用すれば人、もの、金の経営資源の準備をスムーズに実施して無駄を削減できるようになります(無駄に人を雇い、材料・部品や機械等を購入しなくて済む)。
経験の少ない新米経営者などでは経営分析の知識が乏しい、或は能力が低いケースも少なくないため、自社の経営状態の分析ができず的確な対策を打てない、打つのが遅れるケースがよく見られます。
そうした問題による経営状態の悪化を防ぐにはAI技術を取り入れた経営診断を受けるのも有効です。
②会社設立後からある程度時間が経ってからのAIの活用
事業の開始から1年以上といった時間が経てば現在の事業・業務の特徴・法則性などを分析できるだけのデータが得られるためAIによる自社業務の改善が十分に期待できるようになります。
具体的なAIの活用領域を業務レベルでみると、業務の改善・自動化、顧客分析、売上・需要予測、顧客対応などに利用されるケースが多いです。具体的な活用内容を確認してみましょう。
・品質検査の自動化
製造工場などの生産現場における製品の品質検査をAI搭載の品質検査システムに置き換えるケースが見られるようになってきました。部品・製品等の製造物の検査では目視検査などの特定の検査が必要ですが、AIに検査の判定学習を行わせることで検査員以上の高精度の判定が期待できるようになります。
もちろん機械・システムでの検査であることから長時間の稼働が可能となるため、品質検査の生産性はさらに向上するでしょう。
・機械や設備などの故障の予知
機械・設備の磨耗や劣化など故障に繋がる状態や動作をAIに学習させ異常を自動で検知するシステムも登場してきました。このシステムが機械・設備の稼働状況をモニタリングして故障の予知を行ってくれるものであれば、機械等のトラブルを未然に防ぎ生産停止や不良品の増加を削減できます。
・売上予測
現状の自社の販売・会計データやマーケットデータから今後の売上予測や予算達成のための改善策などの提案を行うシステムやサービスがAIの活用により登場してきました。
たとえば、複数店舗の運営でも各店舗の来店者数、リアルタイムの売上額、その時点までの業績などから各店舗の売上金額をAIが予測して本社等に連絡するというシステムも見られます。
売上金額の予測時間は1時間後、数時間後、翌日、一定週後などの単位で設定でき、天候やイベントなどの要素を反映できるタイプもあり、様々な場面を想定した予測が可能です。
また、新規出店を行う場合の売上予測が可能なサービスもあります。出店候補地の売上予測、複数候補地の一律評価、店舗の最適規模や重要なカテゴリ構成 などを予測できるシステム・サービスを利用すれば新規出店の成功確率を高められるでしょう。
・顧客分析
AIを活用した様々な顧客分析が可能になってきました。顧客の属性データ、購買実績、購買行動、自社の商品及びプロモーションの情報、各種マクロデータや天候情報などのデータをAIが参照・分析し、売上予測や顧客層・顧客ごとの効果的なプロモーション等を提案するというシステムも見られます。
AIの顧客分析では、顧客ごと、顧客層ごとにどのような購買傾向があるかを特定し、推奨品及びプロモーションが提案されるため、売上アップに繋げることが可能です。また、AIシステムから優良顧客の抽出⇒彼らに適したプロモーションの提案を受け実施すれば、優良顧客の囲い込みが容易になり長期間に渡る高収益の維持も可能となります。
加えてAIの顧客分析は営業員の業務プロセスを改善することにも有効です。分析で一定以上の評価(ある点数以上等)のある顧客だけに集中的な営業アプローチを行うことで販売や成約の確率を向上させやすくなるでしょう。
また、自社の顧客データ、販売データに加え、天候、地図データやエリアデータなどを利用すれば、エリアベースの見込み客の抽出も可能となり、地域に密着したビジネスを推進する事業などでも役立つはずです。
・顧客対応
顧客からの問い合わせなどの対応業務にもAIシステムは大いに役立っています。不特定多数の人に商品やサービスを販売する事業をはじめ、多くの業種では顧客からの問い合わせ、相談や質問などがあり、ビジネス上それらへの適切な対応が不可欠です。
対応を誤れば顧客を失い売上の低下に結び付くため的確な顧客対応が求められますが、人手不足により対応できる質の高い人材を確保するのは容易ではありません。そうした状況の中、現在ではAIを活用した顧客対応システムが登場してきたのです。
蓄積された問い合わせや質問等のデータやQ&AのデータをAIに学習させ、的確な回答や他の手段への切り替えなどができるシステムが登場しています。実際、電話、メールやWebの問い合わせ、チャットなどによる対応でAIを活用した方法が増えてきているのです。
AIによる顧客対応を導入することでオペレーターの人員を削減できるため、人手不足の解消と人件費の低減が可能になります。こうした点では会社設立後間もない企業も早めに導入すれば人員を増やすことなく適切な顧客対応の実現が可能になるでしょう。
③業種別のAI活用の可能性
どのような事業、業種でAIを活用できるかを簡単に紹介しておきます。
・製造業
AIが搭載されたロボットの導入が進められており、先に紹介した品質検査や故障の予知などに活用されているなど、ほかにも多くの用途での活用が見られます。
- ・製造ラインへの材料投入量の調整
- ・不良品等の自動検査
- ・工場の完全自動化
- ・設備、機械等の予兆監視及びメンテナンス提案
- ・作業者スキルの伝承
・交通及び物流等
自動車の自動運転の促進、配送ルートの最適化の提案、商材の予測出荷、物流業務全般の効率化 などにAIシステムが役立っています。
・金融業
金融業では以下の用途などを中心にAIの活用が進んでいます。
- ・融資審査や与信管理の自動化
- ・金融商品の取引
- ・不正な取引・不正送金などの監視
- ・市場動向の分析及び自動投資
- ・保険金支払いの審査事務の自動化
・不動産業
- 不動産管理業:
- 空調や照明などの設備運用の最適化、マンション等の管理人代行(入出者のチェック、入居者からの相談対応等) など
- 不動産の賃貸・売買の仲介業:
- 物件の提案システムや不動産投資のシミュレーター
などが不動産業で利用されています。
・小売業
小売業の主なAI活用は以下の通りです。
- ・ビッグデータ分析による需要予測
- ・プロモーション策の最適化
- ・仕入、在庫の最適化
- ・WEBの閲覧履歴分析による推奨システム
- ・店舗内のレイアウトや商品陳列の提案
・教育分野
教育分野ではAIを活用した教育システム(ロボット等)や教材が注目されています。
教育ロボット等では、各生徒の解答、速度、理解度などのデータを収集・蓄積して、間違う原因や苦手分野等を分析し、各生徒に適した学習方法(適応学習)が提案されるようになってきました。
こうした機能を持つAIロボットには各生徒に提供したサービスの結果をフィードバックして学習しさらに自身のレベルアップが図れるタイプも登場しています。
4 AI活用で設立された会社 厳選7社
AI活用により、様々な業種が設立され、これまでのレガシーな業務に存在した「非効率」を改善しようという動きが出始めています。AI活用、そしてAI活用により様々な業務を改善していくことを目的とした、比較的新しい会社を7社厳選しピックアップしましたので、ご紹介します。
4-1 AI審査サービスを提供する、Dayta Consulting株式会社
金融機関が融資を行うときに要される、「審査業務」というプロセスがあります。
個人であれば信用情報機関のデータや過去の取引履歴、資金使途・担保や保証会社が保証を許諾するかなどの要素、法人であれば決算書や業務内容、代表者の人となり、これまでの取引実績、資金使途、担保、保証協会などの第三者保証などを踏まえ、支店の審査担当、大きな決済では本店の審査部門が審査を担っています。
これまでも審査を行うシステムはありましたが、データに基づき、機械的に融資のスコアリングを行う物が多く、機械審査に加え、人の目での審査を加える必要がありました。
機械審査は、AIのように様々な過去のデータ、そして現在のデータを活用するのではなく、元々決められた基準に応じて審査を行います。
そのため、伸びしろがあるのにデータだけでは融資判断が難しい会社、過去の取引、蓄積がない会社、新業態の会社などは、審査部門の「目利き」に頼る必要があり、融資の可否判断にも時間がかかるというデメリットがありました。
しかし、AIを活用した審査であれば、他の金融機関の傾向や債務者の返済傾向など様々な要素が匿名のデータとして集まり、AI分析、活用がなされます。結果として自行だけで判断するよりも、より確実性のある融資ができる可能性が高まります。
4-2 既にAI活用を行った融資を個人へ行う、J.Score
前述のDayta Consulting株式会社は、金融機関向け、つまり法人に対してAIを活用した融資審査システムの可否判断を行う会社でした。
次に紹介するJ.Scoreは、利用者の行動記録、生活様式など様々な尺度を活かし、個人向けに融資サービスを提供しています。
J.scoreは現在の職業・年収などでデータを算出した後に、スコアアップの要素も設けることで、利用者の生活改善そのものを行うとともに、利用者・借入者のデータ分析などにもAIを活用しています。
4-3 動画作成をAIで行うSoVeC株式会社
5G、Wi-fi6など通信環境の改善により、動画作成に対するニーズがさらに高まっています。一方、動画製作を行う上では、時間と費用がかかり、相応の工数も割かなければなりません。
SoVeCは、ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社と、PR Timesなどのメディアビジネスで拡大する、株式会社ベクトルの合弁会社です。
絶大な知名度、技術力を持つソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社と、PR業界で急拡大を続ける株式会社ベクトルがジョイントすることにより、AIの動画自動作成エンジンを作り、動画の企画・作成からPRまでのプロセスを短時間化、省力化し、より低コストで実現したり、異なるタイプの動画を作成することにより反応率の変化を見る、「A/Bテスト」の実行など、「消費者の反応・バズを得られる動画」の作成がより行いやすくなります。
動画作成をAI活用で行う会社は、他にも複数あります。今回、ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社と株式会社ベクトルというモンスター企業がAI活用の合弁会社を設立したことにより、今後AIで作成された動画がWeb上などで出てくることも頻繁になる可能性は高いといえましょう。
4-4 AIを活用した職場環境改善・離職予測を行うHuRAid株式会社
AI活用は財務・人事などのバックオフィス分野にも及んでおります。
人材不足、人材の定着率の上昇がさけばれる中、HuRAid株式会社(フレイド株式会社)の勤怠管理システムでは、勤怠データのみ(遅刻・休みの頻度・その他のデータ)で将来の離職リスクをAIで判定するシステムをアピールしています。
AIを活用することにより人材離職リスクの把握ができるようになるなど、「いかに離職リスクを把握し、定着させるか」という点や、企業に対するエンゲージメント、メンタルなどの変化など、人材にかかるリスクを低減させることを強みにしています。
4-5 AIのデータセット構築・運用などを行う、グローバルウォーカーズ株式会社
AIに限らずRPA、チャットボットなど、作業を自動化し、機械に任せるサービスの重要性は以前より叫ばれています。
しかし、材料がないと料理は作れないのと同様、学習させるデータそのものがないと、AIなどの自動化サービス活用はできません。そこで、アノテーション、つまりAIに読み込ませるデータを作成する作業やラベリングが重要となってきます。
グローバルウォーカーズ株式会社が提供する、AnnotationOneでは、学習させるデータを様々なリソースから自動で取得し、暗号化されたクラウド上でデータを処理(作業を行った担当者のPCにデータが残らないため、データ漏洩のリスクが低減できる)、AIが間違えた部分や修正が必要となった部分でも再学習させることにより、AIの認知を改善できます。
プログラムの世界に、「Garbage in, garbage out.」(ガラクタを入れるとガラクタが出てくる)という言葉があります。AIでも適切なデータを学習させないと、AIが正しくない結論を導き出してしまうおそれがあります。
そのため、AIが学習する素材に間違いはないかという点で、AnnotationOneのような、「素材選び、素材が正しいかから始まり、チェック、運用、改善までの一連の流れを行ってくれるサービスは重要といえましょう。
4-6 人工知能でファッション業界を変える、株式会社ニューロープ
AIは、ファッション・アパレル業界でも実用化のフェーズに入っています。
ファッションに限らず、物販の業界は、在庫が経営を圧迫する「デッドストック」の問題に長年悩まされています。在庫、帳簿上としては財産となっているものの、現金にはなっていない。また、処分する場合に価格を大きく引き下げると、ブランドイメージを毀損する。そのため、財務・税務面他様々な意味で、「デッドストック」の問題に対処する必要がありました。
株式会社ニューロープは、デッドストック問題に対処するため、売れる商品は売れる量、売れにくい商品はニーズに合わせた量をつくることで、必要とする人に届けて売り切ることで、「デッドストック」という課題をAI活用で解決しようとしています。
デッドストックに対処するためのAI活用手法が興味深く、株式会社ニューロープのサービス、#CBK forecastは、2014年から蓄積しているTwitter、ブログ、ECサイト、メディアなどに掲載されているファッションスナップ画像のアイテム50万点以上をAIで解析、色・柄・素材・形・ディティールなどを分析する作業をAIに行わせています。
2014年より蓄積したデータと、AIをかけあわせることにより、どのようなアイテムが実際によく着用されているのかを分析し、得られた傾向を定量データとしてメーカー、卸、リテールなどファッション関連の企業に提供したり、過去に販売はしていないものの、仮に棚に並べていたら売れたはずの商品を再現的に見つけることを助けるなど、「人の目利きでは到底行き届かない部分を、AIと蓄積された大量のデータによる分析で補完する」ことを可能にしています。
4-7 契約書のリーガルチェックをAIで効率化するGVA TECH株式会社
契約書はあらゆるビジネスにおいて重要な要素といえます。しかし、個人やフリーランス・スタートアップの経営者が契約書を読み込み、自社に極端に不利になっていないかなどを確認するリーガルチェックは、相当な負担になります。
また、弁護士などの専門家に依頼しようと思っても、費用・時間がかかるなど、スピードが要されるベンチャー・フリーランスにとって、契約書のリーガルチェックは大きな課題でした。
特に契約書チェックは、契約を行う当事者全体にとって、リードタイムの短縮が望まれる分野であります。一方、契約書をチェックする法律事務所などは、抜け、漏れなどがあっては、信用問題、時には損害賠償請求に発展しかねません。ゆえに、必然的に時間をかけた慎重な確認が要されます。
契約書のリーガルチェックの高速化・精度向上・自動化の実現という契約当事者の課題に対し、GVA TECH株式会社の提供する「AI-CON」サービスは、契約書のチェックをAI活用により自動化し、契約上懸念がある条項、自社に不利となる条項などもしっかりチェックしてくれます。
また、登記手続きのAIチェックなど、契約書以外の法律・法務分野にもAIを活用し、弁護士・司法書士などの法律・法務実務者にとっても、比較的考案を要しない作業、AIに取り組ませた方が早い事業に取り組むことで、機械でできる作業はAIに、人でないとできない作業は人にと振り分け、リソースの最適化を図ることができます。
5 AIは、AI開発そのものからAIをツールとするフェーズに入った
近年設立されたAI活用の新会社や、既にAIを実用フェーズに盛り込み活用している会社の多くは、AI開発そのものやAIの制度ではなく、「AIを使って何ができるか、どこが改善できるか」などを売りにしています。
以前は、AIそのものがもてはやされていましたが、現在は「AI活用」の方に、社会が大きくシフトしています。
5-1 AIの立ち位置は既に「ツール」となっている
現在、AI、また作業の自動化を実現するためのRPA、チャットボットなども含め、「何を自動化できるか」が重要なテーマとなってきています。
つまり、AIと名がついていれば何でもよいというわけではなく、「AIを使って、自社・自分たちの課題をどのように解決してくれるか?」という「ツール・道具」としての側面が問われています。
5-2 いかに多くのデータを握れるか
AIにおいては、どんなに学習機能があっても、学習させるデータが存在しないと意味がありません。
そのために、前述のアノテーションを行うAnnotationOneのような、データ選定、AIが学習しやすい加工をするような、「AI活用まわり」のサービスのニーズも高まるのです。
5-3 AIでいらなくなる「単純作業」
現在、様々な作業がAIに置き換えられ、特に誰にでもできる「単純作業」は、次々と機械に置き換えられつつあります。
一方で、新しい仕事を創造したり、独創的な物を創る、人間でないとできない対応(例えば、医師・看護師・カウンセラーなどの、対面での心理ケア、経営者・管理職の人材育成や直接の指導)ができる仕事以外は、どんどんAI・ロボティクス(機械化)に取って代わられ、自動化されていくでしょう。
今後のビジネスにおいて、いかにAI、機械にできないことをするかは極めて重要な要素となりますし、AI・機械などのシステムができる部分は、割り切ってAI・システムに任せるという取捨選択も必要になってくるでしょう。
AI活用は、既にAIそのものから、「AIを活用し、社会の不便をどのように解決していくか、社会をどのようによりよくしていくか」というフェーズに入ってきています。「AIを使ってこれを解決する」「AIを使う前段階でここに課題があるので、課題を解決する」など、「AI」ありきでではなく、「AIを使って何をするか、何をよくしていくか、変えていくかありき」という発想に、AIを事業活用する会社はシフトしています。
既存の事業会社のAIシフト、AI開発・AIを用いたサービスを用いる会社の数は今後も増え続けるでしょうが、AIをどのように活用するか、という「利用者目線」「ユーザーファーストの目線が重要であることは、改めて意識することが大切です。
6 まとめ:AIの導入・活用の注意点
最後にまとめとしてAIを会社の事業・業務に活用し成果を得るための注意点を説明しましょう。
6-1 AIの活用は課題解決の手段とする
AIの導入や活用が世間の注目を浴び自社の事業にも取り入れたいと考える経営者が増加しています。しかし、「役に立ちそう」「業績を伸ばしてくれそう」という安易な発想で導入すると失敗することも少なくありません。
導入・活用にあたっては、「AIの活用で何ができるか」の発想ではなく、「現状の経営課題を解決するためにどのようなAIが活用できるか」という発想で検討するべきです。
まず、課題を明らかにしてそれに対してどのAIを活用したら解決できるのか、その場合の時間的、金銭的な効果はどれくらいあるのか、といった点も評価して導入を検討しなければなりません。
6-2 AIには事業等によって向き不向きがある
AIの活用方法は非常に幅広いですが、すべてがどの事業にも適するわけではなく、向き不向きなどの特性がある点に注意して検討しましょう。
これまで確認してきたようにAIの活用で、業務の効率化(自動化・最適化等)、労働力の補完、業務の分析と予測(問題の発見・予知等)、市場・顧客ニーズの発見、顧客満足度の向上 など様々なメリットを得ることが可能です。
しかし、こうしたメリットは各企業の事業や業務の内容や、AIの活用の仕方やレベルなどにより異なってきます。そのためどの業務ではどのようなAIの活用方法があるのか、AIを活用できる業務であるのか という点を調べて導入を検討しなければなりません。
たとえば、自社の業務内容に、反復性があり定型化が容易である、AIに学習させるための情報量が十分ある、計算式や方程式など客観的・論理的に解が導けるなどの特徴がある場合にAIの活用が有効になります。
逆にそうした特徴がなければAIを導入しても業務に十分活用できず効果が得にくくなる点は留意しておきましょう。
6-3 AI活用の社内体制を整備する
AIの導入により業務の効率化、人手不足の解消だけでなく、事業上の競争優位性の獲得にも繋げていくような場合、AIを活用するための社内体制の整備が求められます。
端的にいうとAIを活用していくための人材確保が不可欠です。単に業務の生産性を高め人員削減などに繋げる程度ならAIサービス事業者にシステムを作ってもらったり、AI利用の経営診断システムをクラウドサービスで使ったりすれば、その目的を達成することはさほど困難ではないでしょう。
しかし、業界で勝ち残るため、さらなる成長を遂げるための競争優位性を構築するためにAIを活用していくには自社のAI人材も必要になってきます。外部の者が自社のAIシステムを構築する場合、業界、自社の事業・業務の知識・情報を十分に把握していないと自社に競争優位性をもたらすシステムの構築は容易ではありません。
外部の事業者の協力を得ることは重要ですが、本格的にAI技術を事業に活用していくなら社内にAI人材を確保する努力は惜しんではならないでしょう。
6-4 AIに完全さを求めない
AI搭載の機械・情報システムでも設計において想定された目的を必ず達成できるとは限らないため、AIに完全さを求めず人間の協力もプラスした解決方法も取り入れるべきです。
たとえば、コンベアで流れる複数の製品をAIで識別させるような用途は多いですが、製品が重なり合って判別できないケースも生じます。こうした場合に短期間で識別できるようような改善がAIシステムで難しければ、人間や簡易な装置などで重なりを解く作業を付加することも必要です。
AIシステムだけに解決を任せるのではなく、費用対効果や解決時間などを考慮して他の方法も取り入れた解決策を導入するようにしましょう。
また、AIの活用に依存した業務になってしまうとトラブルが生じた場合に業務が大きく滞ってしまう可能性があります。そうしたリスクを想定した対策を事前に立てておき、万が一の時でも迅速に対応できるようにしてください。