いつかは起業して会社を経営したいと漠然と考えている方も多いのではないでしょうか。しかし、実際に起業を進めるためには何らかのきっかっけやアイデアが必要になってきます。また、具体的な事業内容を決め必要となる経営資源や組織体制を準備・整備し展開・推進していかねばなりません。
そこで今回は、会社設立を実現する場合の事業アイデアから会社を作り上げるかまでの内容・方法等を解説します。起業化・事業化する方法、事業化のタイプ、スピンアウトや副業等からの起業といった具体例、および近年増加している海外での会社設立の手順・方法などを詳しく解説します。将来起業してみたいと思っている方は是非参考にしてください。
目次
1 起業や会社設立を考えるきっかけ
起業して成功するにはそのための準備が不可欠であり、準備は早くから着手するに限ります。早めの着手は起業や会社設立を具体的に考えだすことから始まりますが、ここではその考えだす「きっかけ」について紹介します。
①会社の事業方針に疑問を感じた時
会社全体や自分の所属する事業部門の方針に対して大きな違和感を覚えその方針に納得できなくなる時が起業のきっかけになります。つまり、会社のやり方ではなく自分が理想とするやり方で事業を行いたいという思いが強くなった時です。
会社に勤務して特定の事業に一定年数従事すると、自分なりの分析に基づく事業のあるべき姿を描けることもあります。その場合、自分の考える事業内容や業務内容を所属部門等に提案しても受け入れてもらえなければ、会社の方針に強い抵抗を感じるでしょう。
社員であるからには組織の方針や命令に従うのが当然ですが、間違っていると思える内容に従うのは精神的な負担が小さくなく、人によっては耐え切れなくなることもあります。
そして、その時こそが自分が思い描く事業内容を実現していくための起業のきっかけになるわけです。「自分なら○○の商品には△△の顧客をターゲットとして□□の価値の高いサービスを提供し十分な利益を得て販売する」というような今まで心の中で温めてきた事業アイデアを実現する機会になっていきます。
②自分に対する評価・処遇が低いと感じた時
特定の上司のみならず会社全体や所属部門における自分に対する評価・処遇が低いと感じだした時、その会社を退社し起業するきっかけになることもあるでしょう。
会社側と自分のどちらの評価が正しいか、適切であるかは置いておき、自分が組織から不当に評価・処遇されていると感じた場合、その本人が会社を辞めて転職するというケースは少なくありません。
しかし、退職しても転職先で同様の扱いを受けないとも限らないため、「どうせ辞めるなら自分で会社を設立して自分の考える事業を進めたい」と考える方は少なくありません。
特に自分の考える事業内容や業務のあり方に自信を持っている場合は、起業の意志がより強固になり得るでしょう。転職と起業のどちらが良いと言えるものではないですが、選択肢を増やしておくことは無益ではないため、会社の評価に納得できなくなれば起業についての検討を始めても良いのではないでしょうか。
③会社の事業と異なるビジネスチャンスを見出した時
会社勤めをしていると様々な会社や人と出会い、様々な事業や考えなどを見聞きすることとなり、自社の事業とは異なるビジネスチャンスに気付くケースもあります。
そして、そのビジネスチャンスに対する興味が強くなった時がその起業のきっかけになることもあるのです。
もちろん「これは儲かりそう!」「こんなサービスならうけるはず!」と感じるアイデアが成功できるビジネスになるとは限りません。しかし、起業を実現するためには事業の元になるアイデアが必要であり、そしてそれが成功するビジネスになり得るかの評価が不可欠となります。
そのアイデアを具体的なビジネスコンセプトに置き換えて一定量の需要が期待できそうなら起業は現実的なものへと推進できるでしょう。
④自分の趣味や副業を事業化したいと強く感じるようになった時
会社勤務の傍ら自分でWEBページ制作等の副業をしていたり、趣味でオシャレな服作りやお菓子作りなどをしていたりする場合に、それらに専念してみたいと感じだした時が起業のきっかけになります。
趣味や副業を行っているケースでは、それ自体が会社員として従事している仕事よりも好きであったり興味が強かったりすることも少なくありません。仕事は仕事、趣味は趣味として割り切って各々従事しているケースも多いでしょうが、趣味や副業というレベルでは物足りなくなることもあります。
生活を支えるために従事している会社の仕事よりもより興味が持てる趣味等で稼げるほうが望ましいと思っても不思議ではないはずです。もちろん趣味や副業で行っていることが起業した後成功できるとは限りません。
しかし、事業化して成功できるレベルにするためにどのように取り組んでいけばよいかを考えながら趣味等を継続していれば、近い将来に成功し得る起業の姿が見えチャンスが訪れることもあるでしょう。
⑤アクシデントで仕事に対する価値観が変わった時
病気・ケガや事故など人生では様々なアクシデントに見舞われることもありますが、その際に人生や仕事に対する価値観が大きく変わり、それが起業や会社設立のきっかけになることもあるのです。
たとえば、急に襲われた病気により長期の入院を余儀なくされるケースもありますが、その入院や療養中に今後の人生や職業生活について不安を抱くケースが見られます。
具体的には「会社でこのまま安定した平凡なサラリーマン生活を送るだけでよいのだろうか」などと考えてしまうのです。もちろんこれまでの会社員生活が後悔するようなものでなくても「もっと違うことができるのでは」「自分は仕事でもっと成長できるのでは」などと考えるのは不思議ではありません。
安易に会社を辞めて起業するのはリスクが大き過ぎますが、何らかのアクシデントなどを契機に以降の人生について深く考え直し、その後の取るべき選択肢の1つとして起業を含めることは悪くはないでしょう。
⑥会社が倒産した時や長期低迷している時
勤めている会社が倒産したら当然次の仕事を探すことになり起業のきっかけになりますが、会社の業績が低迷して将来に不安を抱き始めた場合なども起業のきっかけとなるはずです。
急に会社の経営状態が悪くなり倒産や廃業に至る場合、前もって起業の検討をしておかないと倒産後直ぐに会社設立を果たすのは容易ではないでしょう。そのため、会社の業績が悪くなりはじめその状態からの回復が難しいと思えるようになれば、転職や起業の検討のきっかけになるはずです。
会社の状態が悪くなってから退職して転職や起業するのは気が引けると思う方もいるかもしれません。しかし、会社が倒産して退職金ももらえないようになれば転職や起業の準備に必要な資金を確保することもできなくなるのです。
会社の倒産や業績悪化は会社員としての起業のきっかけになりますが、倒産後から起業の検討を始める場合収入が得られないため起業や生活に大きな影響を受けかねません。
また、倒産後から起業する場合に安易に起業を進めてしまうと準備不足により様々な問題が起きやすくなります。そのため、倒産前から転職や起業の検討を行い会社の業績が目に見えて悪くなる前には具体的なアクションの取り方などを固めておくことも重要です。
⑦自分のまわりで起業する者が現われだした時
会社の同僚や学生時代の友人など自分の身近な人達が起業し出すと自分もやってみようかという意欲が湧きそれがきっかけとなることもあるでしょう。
親しい友人などが自分の好きな事で起業する姿を目の当たりにすると、自分も挑戦してみようかと思っても不思議ではありません。特に苦労しながらも夢の実現に向けてひたむきに努力している人間の姿は魅力的であり、また羨ましく思えるものです。
サラリーマンとして会社に勤める場合でも仕事に対する生きがいや興味などを感じられるケースも少なくないですが、自身の自己実現へ取り組むことはより大きな生きがいをもたらすこともあります。
他者の行動とは関係なく起業するケースは多いですが、知人の行う起業の姿に触発されて検討し出すのも悪くないはずです。
⑧学校や会社でビジネスプランの募集があった時
ビジネス系の学校や会社の中には新規事業のビジネスプランを募集するケースがよく見られますが、それに対する応募が起業のきっかけになるケースも少なくありません。
経営学などを教える学校等では学生に新規事業のアイデアを考えさせ事業化のプランを提出させるといった授業が行われることがあります。また、一般の会社でも社員に既存の自社事業のみならず様々なタイプの新規事業のビジネスプランを求めるケースも多くあります。
こうした機会に事業のアイデアから事業化までのプロセスを学んでおくと、その際に提出したビジネスプランが実際に事業化されなくても個人の起業に関する知識や興味が大幅に増大します。
つまり、起業化のプロセスの知識を得て起業化の練習もできているため、起業を決意することへのハードルが低くなるのです。起業した際の収入の不安定さというリスクや、起業に関する知見がないことからの不安などが起業の障害になることも少なくありません。
しかし、ビジネスプランへの応募により起業に関する知見が得られている方にとってはそうした不安も解消されるため起業のきっかけになるでしょう。
2 起業や事業化のためのアイデアの発想法
起業するにしてもまずどのような事業を行うかを決める必要があります。そのためどのような事業を始めるかというアイデアの発想が不可欠であり、その発想方法を把握しておくことが起業する上で重要になるはずです。
2-1 アイデア発想の前提
起業する際の事業に関するアイデアは「自社、お客、ライバル、マクロ環境」の関係中で発想するのがよいでしょう。
何となく「このサービスは人気がでる!」「このタイプの商品は世の中にほとんど出回っていないから売れる!」と思い込んでも、実際に商品やサービスを提供しても売れないことは珍しくありません。
事業の着眼点が良くニーズがあっても既に大手が取り組んでいる場合、価格や品質などで優位に立てなければ失敗する可能性は高くなってしまいます。
起業する自分たちにはどのような強みがあり、それをどのようなモノやサービスに変換できるかを考えるほか、それらの提供を喜んでくれるお客が誰でどれくらいの人がいるか、そしてライバルが誰で彼らに勝つためにはどうしたらよいかなどを考えた上で事業化しないと起業の成功は難しいです。
また、経済状況、法令や技術トレンドなどのマクロ環境なども起業にあたって考慮する必要があり、ヒントになることもよくあります。たとえば、「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」が制定され太陽光発電の固定価格買取制度が始まり、太陽光発電の設置事業などが急増しました。
技術の進化では近い将来導入される5G(第五世代移動通信等)化により、モノとインターネットとの接続が本格化され、自動車の自動運転や医療機関の遠隔診療など高度な水準での実用化が期待されています。こうした法令や新たな技術トレンドに即した新製品や新サービスが登場するわけです。
このように起業化するためのアイデアは様々ですが、自社、お客、ライバル、マクロ環境の関係をベースとして考案することが重要になります。
2-2 アイデアの着眼点
具体的なアイデア発想のポイントを説明していきましょう。
①顧客ニーズ
お客や取引相手が求める具体的な商品やサービスのみならず、数多い要望や問い合わせ、品質・価格・納期などに対するクレーム、相談などが事業のアイデアになるケースが少なくありません。
顧客ニーズを満足することが事業の基本となりますが、お客が有するニーズは多様です。お客から直接「こんな商品はないか?」「こういったサービスは提供している?」などと問い合わせされるケースは少なくないはずですが、それに気を留めなければ起業へと結び付く事業内容には発展しないでしょう。
お客や取引先の少なからぬ要望や問い合わせ等に耳を傾け、彼らが抱える問題を解決できる方法を業務の中で考えていくことがアイデアとして結び付き起業化の第一歩にもなるはずです。
②創業者の強み
起業して事業を興す場合その創業者が持つ強みを活かすことが不可欠であり、その内容が事業のアイデアになるケースが多く見られます。
一般的には会社員として蓄積してきた知識、ノウハウや人脈などが強みとなるケースが多く、設計の知識を活かした新商品、蓄えたマーケティング力を活かした新たなビジネスモデルなどを開発するケースなどが少なくありません。
もちろん知識やノウハウがあるだけでは事業の発想に繋がるとは限らず、それらを顧客ニーズなどに結び付けることも必要です。顧客等が困っているモノ・コトを創業者が強みとする知識・ノウハウ等で解決できるという内容が新たな事業の元になり得るでしょう。
③他社や業界の動き
ライバル会社や業界のビジネスの内容・取り組み方などを比較することで新たなビジネスの発想に繋がることもあります。
自社の事業内容の善し悪しはライバル会社や業界との比較により明らかになるケースも少なくありません。お客等から直接「貴社は○会社よりもサービスが落ちる」「△会社では貴社にないこんな製品を売っている」などと指摘されるようこともあるのではないでしょうか。
お客から指摘されなくても日常の業務を通じてライバル会社等に対する分析を行い、彼らよりも優位に立てる方法を検討しているケースもあるはずです。そうした分析をしていなくても他社や業界の動きを注視していれば、彼らを打ち負かす新たビジネス手法や異なるタイプの事業内容に気付く可能性は低くありません。
その気づきを会社として事業化しなければ、個人が起業化するための事業アイデアになるはずです。
④趣味や副業
会社の仕事とは関係ない趣味や副業が事業アイデアになることも珍しくありません。趣味はそのまま個人が私的に楽しむ行為として継続していけばよいものですが、その活動の中で事業として十分成立できるケースもあります。
たとえば、趣味でコンピューターグラフィック(CG)の動画制作を楽しんでいる方がその技量を活かしてCG制作の会社を設立したり、CG制作の学校を運営したりするといった起業に結び付けることが可能です。
或は簡単手軽にできるお菓子作りのユーチューブ配信を副業としていたところ、特定のお菓子に人気が集まり商品化して起業するというケースも考えられます。
このように趣味や副業などに一生懸命従事していた結果が起業のヒントになることも珍しくないのです。
⑤海外のニュービジネス
海外では情報通信関連事業、配車サービスや宿泊先マッチングサービスなど新たなビジネスが登場し大きな成長を遂げるケースも少なくないですが、そうした海外のニュービジネスが日本での起業のアイデアに役立ちます。
インターネット通販のアマゾン、インターネット検索システムのGoogle、配車サービスのウーバー、電気自動車のテスラやSNSのFacebookなど新しいビジネスが誕生し世界を席巻するに至るケースも多く見られます。
こうした事業は海外で成功しているというだけでなく日本国内においても発展する可能性が高いため、海外の成功しつつあるニュービジネスの中で日本ではまだ注目されていない事業などは起業の事業アイデアになるはずです。
ネット関連ビジネスのほか、自動車・航空機・ドローンなどの輸送機器、AI関連のサービス、IoTやロボット関連事業などでのニュービジネスの登場が期待されるでしょう。
⑥異業種交流での情報や協力
起業する際自分の持つ知識やノウハウだけで具体的な事業イメージが描きだせない場合などで自分の属する業界とは全く違う異分野の人達の交流を通じて事業の輪郭が浮き上がることもあります。
多様な業界の人達が集う異業種交流会に参加したり、コワーキングスペースなどを利用したりすると、異分野の業界人との頻繁な接触が可能となり未知の情報を得られる機会が増えます。
最近では手軽に利用できるコワーキングスペースも増えてきており、月に2回や土日のみの利用ができる施設もあるため、会社に勤めながら起業のアイデアを練ったり準備を少しずつ進めたりしやすいです。
こうした場所では他者の経営資源を活用したいと思っている方も多いため、起業に向けた知見や人脈なども得やすくなるほか、共同で事業化を進めるアライアンスなどにも結び付きやすいでしょう。
創業者一人だけでは情報も経営資源も不足する可能性が高いため、異業種との交流を通じて事業化に必要な情報の入手や経営資源の補完に取り組むことは有効です。
⑦成長産業の動向
成長する産業や業界の動向を観察してどのような事業なら将来性が高いのか、大きく成長しそうなのかを分析し、その結果を事業アイデアとして固めるのも悪くないでしょう。
新規参入が活発に続く業界やスタートアップが多く登場しそうな産業などの事業に着目し、それらに関連した事業の提供ができないかなどを検討することは重要です。
5G関連業界やAIなどのように高度なITの活用が人の暮らしに大きな変化を与えるため、関連する事業の中には大きな成長が期待できるケースもあるでしょう。そうした成長分野の仕事を自分の強みなどに関連付けることで事業アイデアに昇華できることもあります。
3 起業・会社設立の種類・方法
ここではどのような起業・会社設立のタイプや方法があるのかを説明して行きましょう。
3-1 従来型の起業・会社設立
①スピンオフ(或は社内ベンチャー制度)
スピンオフとは自社の全部または事業の一部(開発チームや特定の研究開発部門等)を別会社として分離・独立させ、新規事業を展開することです。この場合に社内ベンチャー制度によりスピンオフが進められるケースも少なくありません。
会社側が社内で新しい事業について社員に提案を求め、社員が新規事業計画の概要などを提出し採用されれば新規事業開発チームが編成されます。その後の開発で事業化の目途が立てばスピンオフで子会社等(別会社)としてスタートすることになるのです。
一般的に新規事業の考案者や開発チームのリーダーなどが別会社の経営者となってその会社を引き受けるケースが少なくないため、社内ベンチャー制度を活用したスピンオフが起業化の有効な手段になります。
スピンオフのメリットは会社員として勤務しながら自分のやってみたい事業を会社の経営資源を使って事業化できる、会社経営が実現できるという点です。収入面や経営資源の確保などでの不安がなく自己実現が図れる点が魅力といえるでしょう。
また、親会社がバックにあることから一般のベンチャー企業よりもベンチャーキャピタル(VC)からの投資が受けやすい点も有利です。
一方、資本の大部分が親会社から出されて子会社や関係会社となっている場合、親会社からの圧力が大きく経営の自由度が狭められるというデメリットもあります。別会社であるため、親会社の一事業部よりは迅速な意思決定が可能ですが事業の推進や資金を含む経営資源の調達などでの制約も少なくありません。
なお、スピンオフと同じような概念として「カーブアウト」があります。その内容はスピンオフと近似していますが、カーブアウトは親会社の経営戦略の観点から新会社として設立されるケースが多く資本関係も強いです。
他方、スピンオフは社員主導で新会社が設立されるケースを指すことが多く、親会社との資本関係はカーブアウトよりも希薄になり経営の自由度が高いと言われています。
②スピンアウト
スピンアウトは今まで勤務していた会社との関係を断って退職した元社員が独立してベンチャー企業などを設立するケースを指します。
スピンオフなどのように転籍して別会社に異動(その後の退職もあり)するのではなく会社を退職するため、元勤務先からの資金等の経営資源の提供を受けられないケースも少なくありません。もちろん元勤務先から応援してもらい資金、施設や技術などの提供を受けられるケースもあります。
スピンアウトの場合、元社員は今まで従事していたい業務に関して事業化するケースが多いため、元勤務先とライバル関係になったり、元勤務先の下請けなどの業務の補完先になったりするケースが少なくないです。この場合、事業の新規性は低いですが、自分が思い描く経営ができるという自己実現は達成できるでしょう。
なお、元勤務先のライバル会社となり対立する関係になれば、経営資源や取引先等の確保が難しくなるため、慎重な事業運営が求められます。その場合元の企業からの資金提供や技術供与などが受けられなくなり、カーブアウトやスピンオフよりも事業の推進・継続は困難になります。
③大学発ベンチャー企業
大学の先生や学生がそこでの研究開発の成果について事業化・起業化するという大学発ベンチャー企業の誕生も多く見られます。
国の産業政策として「新産業創出に向けたイノベーションシステムの構築・ベンチャー育成」が目標として設定されており、過去には「大学発ベンチャー1000社計画」が策定され実施されました。
経済産業省のホームページによると「大学発ベンチャーは、大学に潜在する研究成果を掘り起こし、新規性の高い製品により、新市場の創出を目指す『イノベーションの担い手』として高く期待されるもの」とされており、国の支援は今後とも期待できるでしょう。
なお、大学発ベンチャーには以下のようなタイプがあります。
*平成30年度産業技術調査事業(大学発ベンチャー実態等調査)報告書より
・研究成果ベンチャー
大学で達成された研究成果に基づく特許や新たな技術・ビジネス手法を事業化する目的で新規に設立されたベンチャー
・共同研究ベンチャー
創業者の持つ技術やノウハウを事業化するために、設立5年以内に大学と共同研究等を行ったベンチャー
・技術移転ベンチャー
既存事業を維持・発展させるため、設立5年以内に大学から技術移転等を受けたベンチャー
・学生ベンチャー
大学と深い関連のある学生ベンチャー
・関連ベンチャー
大学からの出資がある等その他、大学と深い関連のあるベンチャー
3-2 最近の新しいタイプの起業・会社設立
①SNSの利用
ブログによるアフィリエイトの収入やユーチューブ配信による収益を目的とした起業が期待できるようになってきました。
SNSの利用では会社形態ではなく個人として多額の収入を得ている方も少なくないですが、収益化できている内容を教えるスクールの開校やテクニックを解説する教材の販売などの事業を手掛ける会社の設立が可能です。
趣味で蓄積したノウハウをSNSで発信して人気を集め、趣味を事業化するという方も少なからずおられます。一昔前では趣味を事業化するためには、生徒の募集や商品・教材の販売等のためのチラシやパンフレットなどを制作・配布し、口コミなどで緩やかに認知度を高めるケースが多かったです。
しかし、現在ではSNSを上手く活用できれば短期間で多くの人に自社や事業内容について知ってもらうことができるため、急激な成長も期待できます。
一般の企業の事業についても言えることですが、SNSの活用は会社のマーケティング戦略に不可欠であると理解して取り組まねばなりません。
②事業承継やM&A
会社員が後継者のいない企業を買い取るM&A、事業承継を目的とした起業などが見られるようになってきています。
インターネットを含むITの進展により企業情報が簡単に入手できるようになり、後継者のいない会社等のM&A情報が入手できる、ネット上でマッチングの機会が得られる、といったことが可能となってきました。
M&Aを支援する会社や自治体等が後継者のいない事業承継を望む企業の情報を提供したり、ネット上でのマッチングサービスを提供したりするケースが見られます。
こうした情報やマッチングを利用して、個人がその会社を買い取るなどにより事業を引き継ぐ形で起業するケースが増えているのです。伝統技術など希少価値を有する地域独自の事業を引き継ぎ、現代的なマーケティング手法を取り入れその事業が継続・発展することが期待されています。
③フリーランス起業から会社設立
会社で従事していた業務内容や副業としている業務などでフリーランスとして起業する方もよく見られるようになってきました。
今まででもフリーランスでの起業は珍しくないですが、顧客を探し仕事量を確保することは簡単ではなかったでしょう。しかし、インターネットを介して顧客を探したり仕事を受注したりすることが容易になってきた今日では以前よりもフリーランスの仕事は楽になってきたはずです。
特にクラウドサービスで仕事の仲介を支援・マッチングをサポートする会社が増えてきたこともあり、フリーランスの受注環境は大きく改善しています。そのためフリーランスの仕事が安定しさらに仕事量が増大する方は法人化へと進んでいくのです。
フリーランスはノマドなどと言われるように特定の施設を保有しないで業務を遂行するため、多額の事業資金を準備する必要がなく比較的容易に事業を始められます。そのため資金不足の会社員などの場合、フリーランスとして起業しクラウドサービスを活用しながら事業を拡大させていくという方法も有効な起業の手段の一つになるでしょう。
④クラウドファンディングの利用
クラウドファンディングは事業化するための資金が集められるとともに、事業の事前告知等により認知度を高められる効果も期待できることから起業に利用する方が増えてきています。
クラウドファンディングとはインターネットを通じて多くの個人や企業などから事業に必要な資金を調達する方法です。クラウドファンディングを利用する場合、一般的にはクラウドファンディングを支援するWEBサイト(支援サービスの提供会社)を利用することになります。
支援サイトに自分の事業内容等を登録し簡単な事業計画の審査などを経て合格すればクラウドファンディングは利用できるようになるのです。なお、支援サイトによって支援のタイプが異なるので注意しておきましょう。
クラウドファンディングを利用するケースでは起業化前の準備中やプロジェクトの開発段階であることが多いですが、支援サイトの活用により起業前に事業内容を広く告知できるというメリットがあります。
また、支援サイトの登録ベージで出資希望者等とのコミュニケーションが取れるケースもあるため、事業に対する反応やニーズの強弱などを把握して事業の改善に繋げることも可能です。
こうした支援サイトを有効利用することで資金調達だけでなくマーケティング戦略の手段としても期待できます。
4 起業・会社設立を支援する制度等の具体的な威容
起業するに当たり役に立つ支援制度や支援策などについて事例を交えて紹介しましょう。
4-1 社内ベンチャー制度の利用
会社員なら是非活用してみたい制度の一つが社内ベンチャー制度でしょう。この内容については既に説明しましたが、多くの企業で採用され国内でも著名な企業がこの制度から誕生しています。
代表的な例は、富士電機から誕生した富士通、豊田自動織機からのトヨタ自動車、日本電信電話からのNTTドコモやソフトバンクからのYahoo!JAPAN、大日本インキ化学工業からのルネサンス(スポーツクラブ) などです。これらの企業のように社内ベンチャーとして生まれ業界を代表するような企業に発展したケースも少なくありません。
事業の内容自体が優れているだけでなく、親会社の経営資源力や協力を背景に事業機会を逃さず捉え事業を発展しやすい点が社内ベンチャー制度の大きな魅力です。グループ全体の組織力が高いほど社内ベンチャーの成功確率は高くなりますが、親会社のベンチャーへの関与の仕方により成否が大きく影響される点には注意する必要があります。
4-2 公的機関等による支援プログラムの利用
民間に加え都道府県などの各自治体では創業予定者やスタートアップなどを対象に起業や事業拡大等のサポートを提供しています。
たとえば、東京都では東京都産業労働局が「東京都創業NET」のサイトを運営し、「創業・起業する方々を応援する情報プラットフォーム」として、「スタートアップから事業計画、開業支援、さらには創業者どうしの交流まで、様々な情報を幅広い方々にワンストップ」を提供しているのです。
また、東京都では多様な支援プロブラムが用意されていますが、「青山スタートアップアクセラレーションセンター」や「インキュベーションHUB推進プロジェクト」などは創業予定者にとって利用価値が高いでしょう。
青山スタートアップアクセラレーションセンターは5カ月間のアクセラレーションプログラムを創業予定者やスタートアップ企業などに提供しています。同プログラムでは、アクセラレーターや先輩起業家、その他メンター陣からの支援が受けられリーディングカンパニーへと成長するための機会と場所の提供が受けられるのです。
特に女性起業家や成長産業等、東京都の政策課題に取り組む者、ソーシャルビジネス、ものづくりなどのほか、通常ベンチャーキャピタルが投資しにくい分野で起業する方などが支援対象となっています。
インキュベーションHUB推進プロジェクトは、「創業・起業者の支援能力・ノウハウを有する複数のインキュベータから成る連携体(=インキュベーションHUB)を構築し、それぞれの資源を活用し合いながら、創業予定者の発掘・育成から成長促進までの支援を一体的に行う取組を、東京都が後押しする創業・成長支援施策」です。
この対象となるインキュベーションでは創業者に対して、そのライフサイクル(創業⇒事業基盤確立⇒成長等)を通した総合的な創業支援に向けた環境づくりが行われているため、利用できれば創業から成長まで手厚いサポートが受けられるのです。
4-3 マッチングプラットフォームの利用
現代は創業予定者等と協力者や投資家などをネット上で結び付けるマッチングプラットフォームを提供するWEBサイトが増えてきています。
たとえば、Beyond Next Ventures株式会社は、日本初である大学等の技術シーズや研究者に特化した共同創業者マッチングプラットフォーム「Co-founders」を提供しています。
このマッチングプラットフォームを通じて選りすぐりの技術シーズや研究者と、有能な経営人材がオンライン上で出会えるようになるのです。また、同社は現実の世界でもリアルのサポートも提供しています。
なお、技術シーズを有する研究者や経営人材はこのプラットフォームを無料で利用できます。
ほかにも創業チームへの参加を希望する経営人材を対象として経営者の道を進むためのキャリア構築支援なども提供されているのです。
ocosba(オコスバ)は、「起業・複業仲間を探すユーザーや、コアメンバーを探すスタートアップチームと、スキルや空き時間を活かして参画したいユーザーがつながるマッチングプラットフォーム」です。
たとえば、ocosbaを通じて起業・複業に参画したいユーザーをスカウト・募集したり、募集投稿により構想中・準備中のビジネスアイデアやスケールフェーズのビジネスへの参画者を見つけ出したりできます。
また、上記のほか投資家へのダイレクトメッセージの利用により資金調達に向けた投資家を探すことも可能です。
これらのサイトのほかにもM&Aマッチングサイトなども多く運営されており、起業に活用できるケースも少なくないでしょう。
4-4 日本政策金融公庫の利用
創業支援を行う公的機関は中小企業基盤整備機構、各都道府県の経営支援部署、商工会議所・商工会などがありますが、日本政策金融公庫の活用は起業・会社設立に極めて有効です。
日本政策金融公庫は個人や法人が事業を行う上での事業資金などを提供する公的金融機関ですが、創業融資のほか創業を支援するための様々なサービスを提供しています。
創業融資やベンチャー企業融資などにおいては、民間の金融機関が融資するのが困難な事案でも事業計画等の内容により融資されるケースも少なくありません。また、民間よりも金利が低く返済期間が長いなど融資条件が借手にとって有利となるケースが多いです。
同公庫では全国で創業支援セミナーの開催、女性・若者向け創業相談ウィークの開催、高校生ビジネスグランプリの開催、創業サポートデスクの設置などの創業者支援サービスが提供されています。
同公庫での創業の相談から事業計画作成などの支援を受けて創業融資を申請すれば、資金調達の可能性も高まるため、創業予定者にとっては利用価値の高い支援機関として期待できるでしょう。
5 起業・会社設立での注意点
今まで起業や会社設立を実現していくためのアイデアや設立のタイプ・方法などを確認してきましたが、実際に起業を進める際に特に注意しておきたい点を最後に説明します。
5-1 ビジネスプランの作成とブラッシュアップ
起業のアイデアだけでは具体的に事業化できないため、アイデアを事業として成立できるビジネスコンセプトを作成しそれを計画することが必要です。「絵にかいた餅」を「実際に手にして食べられる状態の餅」にするために、その手順を示さなければなりません。
誰を対象とするのか、どのようなニーズ(求めるもの、解決してほしいことなど)を事業の対象とするのか、どのような方法でニーズを充足するのか、といったコンセプトを明らかにします。そして、コンセプトを実現するために不可欠な経営資源(人、モノ、金、情報等)を明確にして確保・展開できることが必要です。
これらの内容を検討する際に経済、法規制、技術動向、顧客・業界・ライバルなどの状態や動きを分析し、上記の内容を5W1Hなどの視点で計画化していきます。単にやってみたいことを並べるだけのメモ書きのような内容にならないように注意しましょう。
ビジネスプランなしでは計画性のない無駄な事業となって失敗する可能性が高くなります。そのため計画作成は不可欠ですが、あまり詳細な計画を作り過ぎると実現不可能な計画に陥りやすくなるため注意が必要です。
まずは資金調達の審査がクリアできる水準の内容で計画が作成できるようにしましょう。
5-2 経営全般の知識の習得
起業や会社設立を進めて行くには経営全般に関する一定の知識を保有することが求められます。
事業計画の作成についても経営に関する知識を保有しておくと特に抵抗感もなく作成に取り組めるはずです。しかし、知識が不足しているとどのように起業したらよいか、どう計画を練ればよいかわからず、事業化を進める場合に問題も生じやすくなります。
あまり膨大な経営知識を事前に習得する必要はないですが、公的支援機関等が開催する創業塾などに通い経営に必要な基本知識を学んでおくと実務で何かと役立つはずです。また、経営では基本的な会計知識も不可欠となるため、簿記3級程度の知識も学習しておくほうが望ましいでしょう。
5-3 経営資源の確保
どんなに立派なビジネスプランを作成してもそれを実行するには経営資源を確保しなければ始まりません。
経営資源は事業に必要な人、モノ、金、情報などですが、事業計画でその内容を明らかにして準備する必要があります。特にお金は他の資源の獲得にも影響するため、不足すると事業化全体の動きが遅れることになりかねないため、遅滞することなく確保しなければなりません。
自己資金だけで創業資金を賄えないケースも多く融資を求めるのは一般的ですが、既に説明した日本政策金融公庫などからの融資を活用することが重要です。
また、起業したばかりの会社では経営に必要な人材を確保するのは容易でないため、早めに募集活動などを始めなければなりません。友人・知人、元勤務先や取引先のほか、ハローワーク、民間の人材紹介事業者、人材紹介WEBサイトなど多様な方法で人材を確保できるように取り組みましょう。
6 海外で会社を設立するメリットと手順の概要
近年、海外で会社を設立する流れが増えています。日本と違い、人口面・市場面でも成長の余地が大きいこと、規制が比較的ゆるやかで、柔軟な企業活動ができるメリットの一方、手続きの問題と、現地の慣習や言葉の壁など、「会社を作ることの難しさ」と「設立後の経営面における難しさ」といった課題が存在します。そのため、実際の手続きは専門家に依頼することが必須ですが、手続きの概要や注意点などは経営者自信も押さえてみてください。
6-1 海外で会社を設立するメリット
今後日本の人口減少は、総務省統計局のデータでも言及されているとおり、増加は望めない状態です。さらに、人口、特に若年人口の減少は、そのまま労働力不足や質の低下に直結します。購買力、人口の高齢層の消費意欲の衰えにより購買額も減少する可能性があり、嗅覚の鋭い経営者は、海外拠点の設立や、海外人材確保を積極的に考えています。
海外で会社を設立するメリットの一つは、日本と違い許認可などの基準が異なるということです。
日本の場合、あらゆる業種で許認可が必要となり、業種によっては厳しい基準をクリアしないと、営業のスタート地点にも立てません。
一方、規制などはそれぞれの国により異なりますが、日本では難しいビジネスでも海外だと取り組みやすいケースもあります。閉塞感を打破するためにも、前向きな海外進出を念頭に入れるのも一つの考え方でしょう。
海外の株式会社設立は、日本に住みながらでも可能なケースが多くあります。日本と違い、金融機関融資などの間接金融ではなく、「投資家からの直接金融が望みやすい」「税金が国により異なる」「日本に不測の事態が発生しても海外拠点などバックアップとして利用できるなど」のメリットも魅力です。
6-2 海外で会社を設立するポイント
海外での会社設立手続きは、日本に比べ柔軟であるケースが多いですが、手続き自体は海外での会社設立に精通した専門家の力を借りることが重要です。
また、現地につながりがない場合は、専門家に対して、設立後も顧問として協力を依頼したり、現地事情に通じている人物を紹介してもらったりする必要があります。反社会的勢力と関与がないかの反社確認の専門会社を通したチェックなど事前にスクリーニングをかけ、問題ないとわかった後、極力直接のコンタクト・対面を行うことをおすすめします。
なお、当記事では、会社設立手続きの大まかな説明にとどめ、より個別具体的な部分については、必ず専門家に相談することをおすすめします。
7 東南アジア・南アジアで会社を設立する流れ
東南アジア・南アジアは、近年成長著しい国が多いです。そのため、東南アジア・南アジアへの進出を考えている方も多いでしょう。
7-1 マレーシアの会社設立の場合
マレーシアの場合、現地法人を設立するケースが多く、日本に会社がある場合は、日本の会社と別個のものとしてとらえられます。
日本貿易振興機構(JETRO)によると、“外国企業がマレーシアで会社を設立する場合、株式有限責任会社(Company Limited by Shares)を選択するのが一般的”とされており、日本の株式会社に近い形態といえます。
また、マレーシアは、以前よりIT企業の誘致に積極的で、MSCステータスを取得したIT企業に対し税制優遇を行っておりますが、2019年より一定数の常勤スタッフの雇用など基準が厳しくなりました。
マレーシアでの会社設立の大まかな手順は次の通りです。
- ①会社名の使用申請許可(ネームサーチ)
- ②書類提出・会社設立・登記料支払い(1千リンギ)
- ③設立後30日以内に会社秘書役の任命
- ④設立時から18ヶ月以内に株主に会社報告書を送付
7-2 シンガポールの会社設立の場合
シンガポールも近年の経済成長は著しく、注目され続けている国です。日本の事業者がシンガポールで法人を設立する場合、外国企業の支店として設立もしくは現地法人の子会社を設立するのが一般的です。
外国企業の支店設立の場合、大まかな手順を書くと、
- ①会計企業規制庁(ACRA)を登記先として登記
- ②シンガポール居住者である授権代表者を1人以上専任
- ③弁護士事務所・会計事務所などに支店登記を委託
- ④ACRAより支店名の許可を取得
- ⑤各種書類を用意、英文に翻訳し支店登記手続きを行う
また、現地法人の子会社(有限責任株式会社)として設立する場合は、次の通りです。
- ①ACRAへ会社名の申請
- ②法人設立手続きを行う。株主が最低一人、シンガポール居住者の取締役が最低一人必要。登記料は300シンガポールドル
- ③登記完了、設立後、取締役会議などで、取締役・秘書役の専任、銀行口座開設など必要事項を定める手続きを行う。
- ④法人設立後は18ヶ月以内に最初の年次株式総会を行い、開催日より30日以内に財務諸表・年次報告書をオンラインでACRAに登録。
これらは会社の形態や規模によりケースバイケースで異なるため、専門家に依頼することが大切です。
7-3 ベトナムでの会社設立の場合
ベトナムは、日本より安価にIT人材が確保しやすいこと、優秀な人材が多いことから、ベトナムに目を向ける日本法人も増えています。
会社設立の大まかな手順は以下の通りです。
- ①投資プロジェクト登録を行い、投資登録証明書(IRC)を発行して貰う。財務書類や投資プロジェクトなど専門的な書類が多く、専門家に依頼することをおすすめ。
- ②企業登録を行う
- ③駐在・支店形態で日本企業が法人を作ることは難しく、制約もあるため、会社形態という形で現地法人を設立する。
7-4 インドでの会社設立の場合
インドもIT分野で大変強い存在感、開発力を示しています。
会社の形態は非公開会社(有限責任会社)が一般的です。手続きの流れは次の通りです。
- ①会社名の承認を企業省よりオンラインで受ける
- ②会社設立証明書を中央登録局(CRC)より受ける。添付書類・人的要件などがあるため、現地事情に強い専門家に依頼することは必須
- ③企業登録局に必要事項を登録後、事業開始
以上、東南アジア・南アジアでの会社設立について、極力簡略化して示しました。それぞれのプロセスには複雑な書類の提出や各種費用の支払いなどが発生しますので、ぜひそれぞれの国の現地事情に通じた専門家に依頼しましょう。
8 東アジアで会社を設立する流れ
中国・韓国・台湾も、経済・科学技術の面で著しい成長をしています。こちらの国々についても大まかな手順を説明します。
8-1 中国の会社設立の場合
中国での会社設立の場合、駐在員事務所の設立、合弁・合作企業の設立、独資企業の設立と3種類の方法があります。どれも複雑、かつ様々な事情を考慮する必要があるため、専門家と協議した上で最適な方法を考える必要があります。
駐在員事務所の場合
- ①中国の主管部門に申請し、日本国内の会社の規約、全部事項証明など関連文書を提出。批准を受けた後、工商行政管理局で登記手続き。
- ②駐在員事務所の代表者か代理者を指名
- ③事務所登記の場合、各種申請書を、国籍・責任形式を明確にした上で書類提出。
合弁・合作企業の場合
- ①審査機関に必要書類を提出し、審査を受ける。また、合弁企業が政府の規定する外商投資参入特別管理措置の分野(ネガティブリスト)に該当する場合は、一定の審査書類を提出。
- ②認可が下りた場合、90日以内に、合弁企業の所在地で登記手続きを行う。
独資企業の場合
- ①ネガティブリストに該当する場合は人民政府に申請すると共に、設立申請の前に地方人民政府に対し、外資設立申請書など必要書類を提出する
- ②その後設立続きを行う
中国の場合は、設立手続きが大変複雑で、本当にごく一部しか書き切れていないですが、明文化された情報だけで会社設立を行うのは非常にハードルが高いため、こちらも中国の事情に精通した専門家に依頼することが肝要です。
8-2 台湾の会社設立の場合
- ①経済部中部弁公室で会社名・営業項目調査の事前審査を受ける
- ②経済部投資審議委員会に外国人投資を申請、許可を得る
なお、外資制限項目(外資規制業種)が存在するため、こちらも専門家と協議し、あわせて投資資本額の面も含めて、相談しておくといいでしょう。
8-3 韓国の会社設立の場合
韓国の会社設立は、下記の通りです。
- ①外国人投資申告を(外為銀行・KOTRA(大韓貿易投資振興公社)などに提出
- ②現地設立登記(裁判所)
- ③事業者登録(設立会社の所在地の税務署)
- ④外国人投資企業登録(外為銀行・KOTRAに提出)
簡略化するとこの4ステップですが、提出資料は韓国語、かつ膨大な量ですので、こちらも専門家に依頼することが必要です。
9 北米で会社を設立する流れ
アメリカでの会社設立については、設立できる会社の種類が8種類となります。また、制度など州ごとに少し違いはあります。
9-1 アメリカの会社設立の場合
子会社(現地法人)を設立する大まかな手順は下記の通りです。
- ①会社の定款作成
- ②発起人が署名した定款を。州務長官へ提出(登録税・手数料が必要)
- ③州当局より会社設立許可証の公布を受ける
- ④事業主は、内国歳入庁(IRS)にオンライン申請し、雇用主証明番号(納税者証明・Tax ID)を取得する
また、アメリカの法人形態には次の種類があります。
- ①株式会社(C Corporation)
- ②支店(Branch)
- ③駐在員事務所・・州政府の登記は不要だが、商業活動を行えない
- ④共同事業体・・2社以上での合弁事業で、事業費の損失をパートナーの所得と相殺できる
- ⑤有限責任共同事業体(いわゆるLLP)・・法律事務所・会計事務所が多い
- ⑥有限責任会社(LLC)・・日本のGoogleやAppleもLLC、日本で言う「合同会社」の形態
- ⑦小規模法人(S Corporation)
- ⑧個人事業主(Sole Proprietorship)・・無限責任を負う
アメリカの法人格の種類は多いため、ご自信に最も適した形態はどれになるのかを専門家と協議し、進めていった方がよいでしょう。
海外での法人設立は、簡略化・オンライン化が進む国はありますが、それでも日本人が専門家の力を借りずに海外で会社を設立することは、極めてハードルが高いといえます。また、各国、ここには書き切れないローカルルールや不文律、様々な事情があります。設立後の運営を踏まえても、専門家に相談し、最適な国・手段・形態などを慎重に検討することが大切です。
このほか撤退・解散するときも複雑な手続きが必要です。海外の場合、言葉の壁や現地従業員の問題もあるため、日本から指揮命令を行う場合は、コンプライアンス・経理上の問題はないかに目を光らせ、現地への進出度合いに応じ、法人設立や駐在所開設など、設立する法人・事務所の形態を使い分けていく必要があります。
経営がうまくいかなかった時は、撤退することでどのような手続きが必要か、損失やその他ペナルティはあるかなど、撤退の事も念頭に置いておき、状況に合わせて、柔軟に対処できるよう考えておくことが重要です。以上の注意点を含めてしっかりと現地事情に通じた専門家に相談し、確実な海外進出を果たすことができるよう、積極的に専門家とのコミュニケーションを行ってください。
10 まとめ
将来、起業や会社設立を検討している方は、まずそのためのアイデアを発想しビジネスコンセプトとしてまとめる必要があります。
起業等のきっかけは、会社の方針に疑問を感じる、会社が倒産する、病気等で価値観が変わる、といった時になりますが、事前に事業のアイデアを考えておかないと起業への意欲は高まらないでしょう。
起業のアイデアは顧客ニーズ、創業者の強み、ライバル・業界の動き、趣味・副業の内容、海外のニュービジネス、成長産業の動き などから発想することが重要です。そうすることでビジネスコンセプトへの昇華も容易になります。
また、ビジネスコンセプトを実際の事業として進めるためには起業・会社設立の方法やタイプを把握し活用するとよいでしょう。たとえば、スピンオフ、スピンアウト、大学発ベンチャーから最近のSNSの利用、事業承継やM&A、クラウドファンディングなどが参考になるはずです。
さらに起業等を支援する制度を利用することも重要になります。社内ベンチャー制度、公的機関等の支援プログラム、マッチングプラットフォーム などを利用すると起業に必要な知識や経営資源を補えるとともに起業に対する不安も軽減されるはずです。
なお、会社設立にあたっては、ビジネスプランの作成、経営知識の獲得、経営資源の確保の3つは特に重要になるため、適切に実行できるように取り組んでいきましょう。