法人形態と言えば、株式会社や合同会社、有限会社などの形態が有名ですが、マイナーな法人形態として合名会社、合資会社という会社形態があります。2006年の新会社法施行によって、設立されることが少なくなった形態ですが、今回は両者がどのような会社形態なのか、設立するメリット・デメリット、設立の手続き方法などを解説します。合名会社・合資会社という形態を今ままで知らなかった方などはぜひ参考にしてみてください。

1 合名会社・合資会社

合名会社、合資会社について知るためには、旧商法(新会社法以前)の法人形態について理解する必要があります。合名会社、合資会社がどのような会社形態なのかについて説明するために、合名会社・合資会社について解説しつつ法律の変化について説明します。

 

1-1 合名会社と合資会社の設立件数

東京商工リサーチの調査によると2017年は約13万社の企業が新設されました。この13万社のうちで一番多いのは株式会社で約9万社と全体の7割程度をしめています。その次に多いのが合同会社で約2.7万社と全体の2割を占めています。つまり株式会社と合同会社だけで全体の9割を占めているのです。

残りの一割に様々な法人形態があるのですが、設立件数が多い順番に紹介していくと一般社団法人約6千社、特定非営利活動法人約2千社、医療法人約1.2千社、有限責任事業組合約5百社と続いていきますが、合名会社と合資会社はこれよりも設立件数が低く、合名会社は102社、合資会社にいたっては「その他」にまとめられており計測不能となっています。つまり、現代社会において、合名会社や合資会社はほとんど設立されることがないのです。

また、両者については新設件数が減少しているだけではなく、既存の社数自体も減少しています。新会社法が施行された2006年時には合名会社は約5,700社ありましたが、2014年には約4,000社、合資会社は約32,000社存在したのが約19,000社まで減少し、今後も合名会社や合資会社は減少していくと考えられます。

なぜ、新会社法施行以降に合名会社や合資会社がこのように減少しているのかについては、2006年の会社法施行以前と以後を比較するとわかります。

 

1-2 旧商法における法人の種類

新会社法施行以前に法人の形態について規定していた商法では、会社を作るということは一定のハードルがありました。このときにメジャーだった法人の形態は株式会社と有限会社ですが、株式会社を設立際には最低資本金1,000万円、有限会社の場合は300万円が必要でした。

もちろん、これだけの資本金を用意しなければならないということは起業のハードルが高くなります。これは資本を充実させることにより会社の信用力を担保するための措置だと考えられますが、一方でこれほど資本金を用意しなくても良い業種・業態はたくさん存在します。例えばフリーランスのITエンジニアはパソコンさえあればどこでも仕事をすることができますし、保険の代理店も簡易的なオフィスさえあればあとはカバン一つで営業にいけるはずです。

このようなときに便利だったのが合名会社や合資会社です。このような法人を設立する際には株式会社や有限会社に求められるような資本金が存在しませんでした。よって、初期コストがほとんど必要ない業種・業態でお金はないけれどもすぐに起業したいという人にとって、合名会社や合資会社は都合の良い法人形態だったのです。

 

1-3 新会社法における法人の種類

上記のような理由から、旧商法に基づき法人を設立していた時代においては、個人事業主ではなく法人として会社を設立したいけれども、株式会社や有限会社を設立するほど初期費用を用意できないという起業家に好まれたのが合名会社や合資会社のような法人形態です。

しかし、近年は合名会社や合資会社が持つこのようなメリットはほとんど意味をなさなくなりました。新会社法が施行されたことにより、資本金に関する制限は撤廃されました。株式会社は資本金1円から設立できますし、有限会社は新設できなくなりました。また、新しく設立が可能になった合同会社も1円から会社を設立することができます。

よって、法人として会社を新設したいけれども、お金が無いという場合でも保有している資金に応じた大きさで株式会社や合同会社を設立することが可能になったのです。

更に、後で詳しく説明しますが、株式会社や合同会社として会社を設立した方が、合名会社や合資会社として会社を設立するよりもメリットが多いです。よって、株式会社や合同会社が合名会社や合資会社の上位互換的な存在となっているので、近年ではわざわざ合名会社や合資会社の形態で法人を新設する意味も薄れて、新設する人も少なくなっています。

 

1-4 合名会社とは?

以上のような点を踏まえた上で、合名会社や合資会社はどのような法人形態であるのかについて説明します。まずは、合名会社とはどのような組織なのかについて説明します。

合名会社は原初的な法人形態です。複数の個人事業主が集まって共同で事業を行うことを想定した法人形態が合名会社でその起源は12~13世紀にヨーロッパで誕生したコンパーニアまで遡ります。個人事業主が共同で事業をして、その事業による第三者に対する責任は出資者=経営者達がそれぞれ全責任を負うというのはコンパーニアです。

合名会社の起源であるコンパーニアは12~13世紀には成立していたのに対して、現代においてメジャーな法人形態である株式会社は17世紀の前半に誕生したと言われているので、実は合名会社の方が古くから存在します。

 

1-5 合資会社とは?

合資会社も株式会社よりも早い時期から起源を確認することができる法人形態で、その起源は合名会社と同じ時期に見ることができます。中世ヨーロッパ―で海上交易をする際に、出資者と借主(交易の経営者)が事業をする際の契約に合資会社の起源を確認できます。

ちなみに、ドイツやフランスなどのヨーロッパ大陸の国とアメリカやイギリスなどでは法体系が異なっており、前者は大陸法、後者は英米法と呼ばれています。日本の合資会社の概念は日本が大陸法の体形を輸入したことより発生しています。

英米法でも合資会社をベースにしたリミテッド・パートナーシップという法人形態がありますが、これは日本に概念を輸入する際に投資事業有限責任組合となりました。

合資会社の特徴は有限責任社員と無限責任社員の両者から構成されていることで、同じような起源を持っていても無限責任社員だけで構成されている合名会社と性質が異なります。

この有限責任社員と無限責任社員という概念は、法人形態を考える上で重要な概念なので、合名会社のデメリットのところで詳しく説明します。

2 合名会社のメリット・デメリット

では、合名会社を設立することにどのようなメリット・デメリットが存在するのかについて説明します。

 

2-1 合名会社のメリット

まずは合名会社のメリットとして挙げられるのが、個人事業と比較して複数の経営者が合同で経営できるということです。個人事業の場合は誰か一人が経営責任者となり、その人の元で業務を執行します。一方で、合名会社はその起源の通り、複数の事業主が共同事業を行うための事業形態ですので、複数の経営者が経営に携わることができます。ただし、このようなメリットは株式会社や合同会社、合資会社にも存在します。

ちなみに、個人事業主との比較に関して、個人事業主の場合は経営者自身が国民年金保険に加入しなければなりませんが、合名会社の経営者は厚生年金保険に加入することができます。

また、株式会社と比較したメリットが、会社の設立コストが安く、定款自治の範囲が広いことです。株式会社を設立する場合は資本金を除いても登録免許税や定款の認証だけで約20万円前後の費用が発生しますが、合名会社の場合は約10万円程度のコストで法人を設立することができます。

定款の自治が広いということに関して、例えば株式会社の場合は毎年の決算公告が義務付けられるのに対して、合名会社の場合は決算公告を行う必要はありません。また、株式会社は法律によって組織形態や役員の任期など様々な制約を受けますが、合名会社はこのような規制が適用されず、定款で決められるルールが多いのもメリットだと言えます。

ちなみに、株式会社や合同会社の資本金を1円にすることも可能になったので、メリットも相対的に薄れていますが、資本金の制度が無く、資本金を用意する必要が無いというのも合名会社のメリットだと言えます。

 

2-2 合名会社のデメリット

一方で合名会社のデメリットとして挙げられるのが、社員(出資者=経営者)が全員無限責任社員にならなければならないことです。

個人事業主は個人のお金と責任でビジネスをしているので、収益を上げたときも、損失が発生したときも、自分の責任でそのリスクを背負う必要があります。極端に考えれば事業に失敗して、多額の負債を抱えて事業を継続できなくなると、その負債は事業主個人も背負わなければなりません。このように事業に無限に責任を負わなければならない出資者のことを無限責任社員と呼びます。

一方で有限責任社員とは事業の一部に関してだけしか責任を負わなくて良い出資者のことを指します。仮に事業に失敗したとしても、自分が出資したお金などの範囲でしか責任を負わなくて良いのが有限責任社員です。

個人事業は経営者の無限責任、合同会社や株式会社は出資者や経営者の有限責任になっています。合名会社は出資者≒経営者全員が無限責任を負う必要がありますし、合資会社には無限責任と有限責任の社員の2種類が存在します。よって、合名会社を設立したとしても、実は個人事業主として事業をするのとほとんど違いはありません。

また、全国に4,000社程度しか存在しない法人形態なので、認知度が低く株式会社や合同会社程ブランド力が無いというのも合名会社のデメリットです。

3 合資会社のメリット・デメリット

続いて合資会社のメリット・デメリットについて説明します。

 

3-1 合資会社のメリット

合資会社のメリットについても合名会社と重複する部分が多いです。

まず、個人事業主と比較すると、法人ということで複数の経営者が共同経営できますし、厚生年金保険に加入できます。また、株式会社と比較して設立費用は安価で済みますし、定款で決められる会社の運営ルールの範囲も大きいです。

合名会社と合資会社の最大の違いは、合名会社が無限責任社員だけによって構成されているのに対して、合資会社は無限責任社員と有限責任社員によって構成されていることです。つまり、合資会社には責任の範囲が限定されている有限責任社員も設定することができるのです。有限責任社員を設定できるという点では、合名会社よりも合資会社の方がメリットはあります。

 

3-2 合資会社のデメリット

合資会社のデメリットについても、合名会社と重複する部分が大きいです。株式会社や合同会社が有限責任社員によって構成されているのに対して、合資会社は無限責任社員と有限責任社員の2種類によって構成されているので、無限責任社員として事業に参画する方は当然失敗した時のリスクが高くなります。更に、社数が少なく新設法人も少ないため知名度という点で株式会社や合同会社には劣るでしょう。

また、合名会社は社員1名から設立できるのに対して、合資会社は無限責任社員1名、有限責任社員1名の最低2名以上の社員が必要になります。株式会社、合同会社、合名会社は社員一名から設立できるのに対して、合資会社は社員2名以上でないと設立できないのもデメリットだと言えます。

4 法人形態の選び方

以上のように合名会社、合資会社のメリット・デメリットについて説明してきました。では、実際に法人を設立する際に、株式会社、合同会社、合名会社、合資会社の4つの選択肢からどのように法人形態を選べば良いのかについて説明します。

 

4-1 法人形態の選び方

結論から説明すれば、合名会社や合資会社を合理的な理由により選択するというケースはほとんど存在しません。新設法人の中に合名会社や合資会社がほとんど存在しない事、既存の合名会社や合資会社が毎年減少していることからもこのことは読み取れます。

先ほど説明した、合名会社や合資会社のメリットも実はほとんど合同会社でも得られることができます。合同会社も合名会社や合資会社と同じ程度の費用で設立することができますし、定款自治の範囲も合名会社や合資会社と同様に広いです。

さらに合同会社として設立すれば、会社形態の知名度が高いことはもちろんのこと、社員は有限責任となるので事業に失敗したときに経営者の負担となるリスクもコントロールすることができます。(ただし、株式会社、合同会社に限らず中小・零細企

業が銀行から融資を受ける際は経営者個人も融資について連帯保証人になることが多いので、必ずしも事業に失敗した際のリスクは小さいわけではないです。)

以上のような理由から、4つの中から法人形態を選択するというよりも、実質的には株式会社と合同会社の2択となります。合名会社や合資会社のメリットに魅力を感じるという方は合同会社を設立した方が良いでしょう。

ちなみに、株式会社と合同会社の違いについて、認知度が高く、上場したり、他人から資本金を受け取ったりしやすいのが株式会社です。一方で、株式会社と比較して相対的に知名度が低く、他人から出資だけを受けることはできませんが、定款自治の範囲が広くスピーディーな経営ができるのが合同会社です。

基本的には、合同会社と株式会社の二択だと考えられれば良いでしょう。

 

4-2 合名会社・合資会社の使い分け方

以上のように、基本的には株式会社と合同会社の2択ですが、例外的に合名会社や合資会社を選択する企業は存在します。あえて、経営者の責任を無限責任にしなければならない、出資金を0円にしたいという場合は、株式会社や合同会社ではニーズを満たすことができないので、合名会社もしくは合資会社を選択することになります。

また、合名会社と合資会社を選択する際の目安となるのは、社員すべてを無限責任にするか、無限責任の社員と有限責任の社員を設定するのかということです。社員すべてを無限責任にするのならば合名会社を設立しなければなりませんし、一部の社員を有限責任にしたいのならば合資会社を設立しなければなりません。

ちなみに、全ての社員を有限責任にするためには、株式会社や合同会社を設立する必要があります。

 

4-3 法人を設立しない方が良い場合

株式会社や合同会社ではなく、あえて合名会社や合資会社を設立したいという方が次に考えるべきは本当に法人を設立して良いのか、個人事業主のままで良いのではないかということです。

合名会社や合資会社は無限責任になるとはいえ法人となります。法人と個人の事業運営の手間は大きく異なります。

例えば、個人事業なら、少しの会計の知識と根気さえあれば自分で確定申告をすることができるかもしれません。しかし、法人の会計は個人と比較すると複雑になることが多いので、税理士や会計士を雇って代行してもらうことが一般的です。この費用だけで年間数十万円は覚悟しなければなりません。

また、税制についても異なります。法人の方が赤字の繰越期間が長かったり、節税対策の種類が多かったりするので、ある程度事業が大きくなければ法人成した方が良いと言われることがありますが、事業としてほとんど所得が無いのならば、個人事業主の方が税額は少なくなります。

更に、合名会社や合資会社を設立するだけで10万円程度の費用は必要になりますし、個人の税金とは別に法人の税金も支払わなければなりません。

このようなことを考えると法人の方が色々と手間がかかるので、個人事業主として事業を継続した方が良い場合も多いです。

5 合名会社・合資会社の設立手順

上記のような前提のもとで、それでも合名会社や合資会社を設立するという場合、どのような手順で設立しなければならないのかについて説明します。

 

5-1 基本は株式会社や合同会社と同じ

基本的には株式会社や合同会社を設立する際の手順と違いはありません。定款を決めて設立時社員≒出資者が出資金を払い込み、法務局に必要な書類を提出すると登記が完了します。もちろん、株式会社や合同会社と同様に投棄したあとは、税務署や都道府県事務所などの開業の申請をしなければなりません。

ちなみに、株式会社の場合は、作成した定款について公証人役場で認証を受ける必要がありますが、合同会社、合名会社、合資会社は定款の認証は必要ありません。

合同会社、合名会社、合資会社はほとんど設立手続きが同様ですし、3つとも登録免許税も資本金の0.07%(最低価格6万円)ということで、合同会社、合名会社、合資会社の間には会社設立にあたって必要なコストについてもほとんど違いはありません。

 

5-2 会社の大枠を決める

会社設立にあたってまず必要なのが会社の大枠を決めることです。どのような事業をするのか、設立時のメンバーはどうするのか、資本金はどの位用意するのか(合名会社や合資会社の場合は必ずしも出資金は必要ありませんが)、本社をどこに置くのかなどを決めます。

この大枠を決めるということは実は一番大切です。例えば、創業に相応しくないメンバーを入れてしまえば、後から組織内の不和が発生し、事業の失敗につながるかもしれません。また、資本の用意が少なければ、銀行からの資金調達に支障をきたし、十分な運転資金を用意できずにいきなり倒産寸前から事業を開始しなければならないかもしれません。

 

5-3 定款作成と出資金の払い込み

会社の大枠が決まれば次は会社の基本ルールを定めた定款を作成し、創業時の社員全員の同意を得て署名、押印を集めなければなりません。法人設立にあたっては必ず定款に記載していなければならないルールである「絶対的記載事項」が存在するので注意してください。絶対的記載事項は以下の通りです。

  

5-3-1 目的

どのような事業を行う法人なのかを記載します。記載している事業内容をすべて実行しなければならないというわけではないので、将来的にやりそうな事業を含めて記載しておくと良いでしょう。

  

5-3-2 商号

会社の称号を記載しています。合名会社の場合は、名前の前後いずれかに「合名会社」、合資会社の場合は、「合資会社」と記載されることになります。後から変更可能ですが、あまり頻繁に名前を変えるのは得策ではありませんので、長く使える名前を考えてください。また、手続きに社印が必要になるので、社名が決定した時点で社印を発注しておくと良いでしょう。

  

5-3-3 本店所在地

本店所在地について記載します。本店所在地は自宅などでも大丈夫ですが、物件の所有者の許可なしに自由に本店所在地を決定することはできません。オフィスの仮押さえなどは定款作成時には行っておいた方が良いです。

  

5-3-4 社員の氏名、名称(法人の場合)及び住所

創業時に参画する社員の氏名や住所について記載します。法人を社員にすることも可能です。ちなみに、定款には押印をする必要がありますが、法務局に登記する際に、その印鑑が本人のものか確認するための印鑑証明書が必要になるので、印鑑登録を行っておいてください。

  

5-3-5 社員が無限責任か有限責任か

創業時に参画する社員の責任範囲について記載します。合名会社の場合は全員が無限責任社員となります。合資会社の場合は無限責任社員、有限責任社員を最低1人ずつ設定しなければなりません。

ちなみに、合資会社として設立して無限責任社員、有限責任社員のどちらかがいなくなった場合は、他の社員を追加するか会社形態を変更しなければなりません。

  

5-3-6 社員の出資の目的とその価額等

社員が会社に対してどのような出資をしたのかについて記載します。合名会社や合資会社の場合は資本金制度が精度はありませんが、有限責任社員は現金出資しかできません。

また、この他にも定款に定めていないと後からルールを作っても効力が発生しない相対的記載事項と法律に反しない限り定款でルールを設定できる任意的記載事項があるので必要に応じて定款に記載しておくと良いでしょう。なお、一度定款を作成して会社を登記してしまっても後から変更登記を行うことができます。

また、定款に全員の同意を得たら、各社員に出資金の振り込みを行ってもらいます。まだ法人名義の銀行口座は作れないので社員の代表の口座でも大丈夫です。全員の出資金が揃ったあとは、法務局が資本金を確認できるように残高証明書を作成します。

 

5-4 法務局で登記をする

以上の手続きが完了すれば、必要書類を作成して法務局で合名会社や合資会社の設立登記をします。必要な書類は以下のとおりです

  • 合名会社(もしくは合資会社)設立申請書
  • 定款
  • 出資を証明する書類
  • 社員に法人が含まれる場合は、その法人の登記事項証明書

何も問題がなければ約1週間程度で登記が完了して、登記簿謄本などの取り寄せが可能になります。

 

5-5 登記後の手続き

登記が完了すれば会社設立の手続きが完了するというわけではありません。会社を設立したことを関係機関に知らせる必要があります。税務署や都道府県事務所、ハローワーク、社会保険事務所などに必要に応じて届け出をださなければならないので忘れないようにしてください。

 

5-6 専門家に頼った方が良いのか?

必ずしも専門家に頼る必要はありません。定款のフォーマットや具体的な書類の書き方について解説した書籍やWEB記事がたくさん存在しますので、そのようなコンテンツを見ながらやれば、必ずしも専門家の力を借りる必要はありません。

ただし、会社設立のサポートは行政書士や司法書士が安価に行っていることも多いですし、専門家の意見を聞いた方がスムーズに会社設立を行うことが可能です。お金と手間を勘案した上で専門家に依頼するべきかを決定してください。

6 なぜ、合名会社や合資会社が残っているのか

以上のように、合名会社や合資会社の設立方法について説明していますが、新設される合名会社や合資会社はほとんどありませんし、法人の総数も減少傾向にあります。

未だに合名会社や合資会社の形で事業継続している企業も、何か合名会社や合資会社の形態でなければならない理由があるというよりは、特に変えるべき理由がないからそのままの法人形態で事業を継続しているという企業が多いのではないかと推測されます。

長期的には、合名会社や合資会社の求められる設立時のニーズが合同会社に吸収されていき、株式会社と合同会社の2つの会社形態が二大巨頭になると考えられます。

合名会社や合資会社として会社設立を検討している場合は、一度合同会社と比較して、どちらの形態で設立する方が得なのかを考えてみると良いでしょう。

7 まとめ

本記事では、合名会社や合資会社とはどのような法人形態なのか、そのメリットやデメリット、設立手順について説明してきました。両形態ともその起源を遡れば株式会社より古く、中世ヨーロッパに発生した法人形態です。

日本でも欧米の法制度を輸入してきたことにより、合名会社や合資会社を設立できるようになりましたが、そのメリットもほとんどなくなりつつあります。旧商法下では、株式会社は最低1,000万円、有限会社でも最低300万円の資本金が必要になるので、資本金に制限が無い合名会社や合資会社による起業が資本金を十分の用意できない起業家やスモールビジネスを法人として行いたいというニーズに合致していました。しかし、新会社法が施行されて、資本金1円から株式会社や合同会社を設立できるようになったことから、資本金が充分に用意できない、スモールビジネスを法人として行いたいという場合でも株式会社や合同会社を設立できるようになりました。

合名会社や合資会社を設立するメリットとしては、設立費用が安かったり、定款自治の範囲が広かったりすることが挙げられますが、このようなメリットは合同会社を設立しても得られることができます。また、合同会社は有限責任社員で良いのに対して、合名会社も合資会社も最低1名以上の無限責任社員が必要となります。無限責任社員は事業に失敗した時に会社と共に責任を負わなければならないのでリスクが高いです。よって、株式会社と合名会社や合資会社を比較したときには定款自治の範囲や会社法の規制、設立費用などの点で比較することができますが、合同会社は同じようなメリットを持っていてかつ有限責任になっているので、合名会社や合資会社の上位互換のような存在になっています。

合名会社も合資会社も総数は減少傾向ですし、新規で設立する企業もほとんど存在しないので、設立を検討しているのならば、一度合同会社とメリット・デメリットを比較して設立の是非を検討してみても良いでしょう。