会社法の改正により、有限会社が設立できなくなり、代わりに「合同会社」という新たな法人形態を設立することが可能になりました。しかし、まだ合同会社の数は少なく、認知度も低い状態です。ただし、合同会社には法人の形態としてメジャーな株式会社よりも良い点もあります。本記事では合同会社とはどのような法人形態なのかについて説明し、合同会社の節税対策について紹介します。
目次
1合同会社とは
まずは合同会社とはどのような法人形態なのか、株式会社や個人事業主のような形態とどのような違いがあるのかについて見ていきましょう。
1-1 合同会社とは?
合同会社は2006年の会社法の改正によって新たに設立可能になった法人形態です。アメリカの法人形態である「Limited Liability Company」(LLC)をモデルにして作られた法人形態で、経営者と出資者が同一かつ出資者全員が有限責任であるのが特徴です。
「経営者と出資者が同一」ということは、株式会社との違いについて説明するところで、「出資者全員が有限責任である」ということは、個人事業主との違いの部分で詳しく説明します。
合同会社について数は増えているものの、やはり株式会社と違ってまだまだマイナーな会社形態となるため、「劣化版株式会社」のような印象を持たれることがありますが、実際は違います。合同会社でも従業員を雇用することができますし、年に1回は決算書を作成して税務署に提出しなければなりませんし、法人所得税や法人住民税の課税額は株式会社と変わりません。
むしろ、会社組織の規模や目的によっては合同会社より株式会社の方が向いているケースもあり、近年では大企業でもあえて株式会社ではなく、合同会社の形態になっている企業もたくさん存在します。
1-2 株式会社と合同会社の違い
株式会社と合同会社の大きな違いが、合同会社は経営者と出資者が一致しているということです。
例えば、上場企業の株式はその経営者だけではなく、金融機関や個人投資家など多くの人が保有しています。株式は1株も保有していないけれども、その会社の代表取締役になっているというケースもありえます。
つまり、株式会社においては、会社の資本を出している人と会社の経営をしている人は必ずしも一致しません。株主から選ばれた人が取締役になります。
一方で、合同会社の場合は組織に出資していない人が、その組織の代表になることはありません。合同会社の場合は、お金だけ出資する、経営にだけ参画するということは認められておらず、出資しかつ経営に参画しなければならないのです。よって、合同会社の場合は、株式会社と違い上場することはできませんし、ベンチャーキャピタルのような機関から出資を受けて会社を大きくするということはできません。資金調達の方法は銀行による融資が中心です。
この他にも、役員の任期、意思決定方法、設置しなければならない機関、総会、総会の議事録、決算書の広告の義務、設立費用などの違いがあります。それぞれの詳細については合同会社のメリットの章で後述しますが、出資者と経営者が同一でなければならないという点を除けば合同会社の方が会社組織、役員の任用などの自由度が高いと考えてください。決算の公告をしなくても良く、社員総会(株主総会)を必ず定期的に開かなければならないわけではありませんし、役員の任期についても法律で定められていません。
1-3 個人事業主と合同会社の違い
株式会社や合同会社は「法人」ですが、個人事業主はあくまでも「個人」です。つまり、法人の場合は法人が取引先と各種契約を結んでいるのに対して、個人事業主はあくまでも経営者が個人で取引先と各種契約を結んでいます。よって、そもそもまったくの別物です。理屈上は合同会社と個人事業主はまったく別物ですが、事業をしているという意味では共通点を持っています。社長1人で経営している合同会社と同じく社長1人の個人事業主では外部の企業から見れば大した違いはないでしょう。
ただし、経営する側にとっては、合同会社か個人事業主かには大きな違いが発生します。まず、合同会社は有限責任、個人事業主が無限責任です。例えば、残念ながら経営に失敗して事業に1,000万円の負債が残ったとします。この場合、個人事業主の場合は1,000万円の負債全てを自分で負わなければなりません。個人事業主にとって、個人のお金≒事業のお金なので利益も損失も全て自分で引き受けなければなりません。これを無限責任と呼びます。
一方で合同会社の場合は、会社のお金と個人のお金がイコールではないので、責任も限定的です。合同会社の融資のために連帯保証人にでもなっていないかぎり、責任は最高でも合同会社の出資した資金だけで済みます。つまり、負債が1,000万円残っていたとしても、合同会社に100万円しか出資していなければ、その出資した100万円が戻ってこないだけです。
また、合同会社は個人事業主とは違い、会社とその会社を経営している個人は別の存在です。個人事業主は会社の売上から経費を差し引いて残った分が自分の取り分になりますが、合同会社では会社から経営者に対して給料を支払います。この仕組みを利用して、個人事業主が事業を合同会社化することによってできる節税対策もあるのですが、これについては合同会社の節税対策の部分で詳しく説明します。
1-4 合同会社として活動している代表的な企業
事業としてきちんと資金調達して節税しながら事業拡大するのであれば、個人事業主から法人化した方が良いでしょう。そして、法人化する際には株式会社と合同会社がオーソドックスな組織形態ですが、株式を公開できない制約がありますが、組織形態の自由度が高いため、上場を目指さずにあえて合同会社として経営している大企業も存在します。
外資の大手企業では日本法人は合同会社にしている企業も多いです。例えば、検索サイト最大手のグーグルやパソコン・スマートフォンを代表するApple、通販サイトのAmazonの日本法人はいずれも合同会社になっています。海外で上場していて、日本で上場する予定がないのなら、経営の自由度が高い合同会社の方が好まれる傾向にあります。
日本の会社でも合同会社の大企業は存在します。例えば、アダルトから太陽光、仮想通貨まで幅広い事業展開をしているDMM.comは2018年5月に株式会社から合同会社の組織体制を変更しました。他にも西友やフジテレビラボなども合同会社の組織形態を採用しています。
まだまだ日本では株式会社の方が知名度が高いため、ビジネスのためにあえて合同会社ではなく株式会社を選ぶ企業は多いですが、今後、合同会社がありふれた存在になれば会社の経営戦略に応じて採用する企業は増えるのではないかと考えられます。
2 合同会社を設立するメリット・デメリット
合同会社を設立することによってどのようなメリットが享受できるのか、またどのようなメリットが発生するのかについて説明し、どのような目的で会社を設立を考えている人が合同会社を設立するべきなのかについて説明します。
2-1 合同会社のメリット
まずは合同会社として会社を設立するメリットについて説明します。
2-1-1 組織を柔軟に構築しやすいです。
まず、株式会社と比較して定款で決定できる範囲が広いです。株式会社は法律によって組織形態に対して様々な制約が加えられています。株式会社は株主総会をはじめとして、取締役会、監査役会など会社の状態によって必要な機関が定められていますし、毎年1回は株主総会を開催して議事録を作成して本店で保存しなければなりません。これに対して合同会社の場合は、どのような機関を設置しなければならないと定められていませんし、株主総会のような会合を開催する必要もありませんし、議事録の作成も義務でありません。
また、株式会社の場合は、決議に必要な表決数が法律によって細かく定められていますが、合同会社の場合は基本的に過半数で承認で、内容によっては定款で表決数を変更できますし、議決権の保有者を限定することも可能です。さらに役員の任期などもありません。
必要な組織を必要なタイミングで作って、会社の業務を執行できるので、株式会社よりも柔軟でスピーディーな経営を行いやすいです。
2-1-2 利益を自由に分配できる
法人が事業により利益を出した場合、法人から出資者に対して配当金という形で利益を還元することができます。株式会社の場合は、出資比率によって利益の分配が決まります。株式の10%しか保有していない出資者が、30%保有している出資者よりも配当金が多くなるということはありません。
一方で合同会社の場合は、根拠さえあれば出資比率に限らず自由に利益の分配比率を決定することができます。出資者=経営者層の判断によって柔軟に利益を分配できるという点では株式会社よりも優れています。
2-1-3 会社法の監査対象外になる
資本金5億円以上等、一定の条件を満たす株式会社は上場しているか否かに関わらず監査を受けなければなりません。そして、監査対応には人員が必要ですし、時間もコストもかかります。しかし、合同会社の場合は、資本金5億円以上であっても株式会社のように監査を受ける必要がありません。さらに、株式会社のように決算公告も義務付けられてはいません。
海外の大手企業が日本法人をあえて株式会社ではなく合同会社にしているのはこのようなメリットによる理由が大きいです。日本法人を合同会社にすることによって、監査に関わるコストも手間も削減できるので、海外で上場していて、日本国内からの資金調達が必要ない場合は、合同会社の方が有利な面も多いです。
2-1-4 イニシャル・ランニングコストが抑えられる
イニシャル・ランニングのコストを抑えられるというのも合同会社の魅力です。さきほど説明した通り、大会社でも合同会社にすることによって、監査コストの削減が可能です。
また、これから事業をはじめるという小規模な企業でも合同会社として設立することによるメリットがあります。まず、設立費用の方が合同会社の方が安いです。合同会社は自分で手続きを行えば最低6万円程度で設立できるのに対して、株式会社は最低でも20万円程度の手数料が必要になります。
資本金は合同会社でも株式会社でも1円から設立できますし、創業当初は色々と資金が会社から流出していくので、事業に使える費用を手元に残しておくためにも合同会社にして設立費用を抑えるのも良いでしょう。
中小企業の場合のランニングコストには合同会社か株式会社かによって、大きな違いは発生しません。ただし、公告が必要ない分だけ決算に関する費用が少しだけ安くなります。
また、追加の出資について株式会社の場合は会社法によって一定金額を資本金として増資しなければならないのですが、合同会社はこの法律が適用されません。よって、定款の変更が無い分だけ増資にかかる費用が少し安くなります。
2-1-5 株式会社と同様に節税ができる
以上のように合同会社のメリットについて説明してきましたが、最後に紹介するのが株式会社と同様に節税対策ができるというメリットです。株式会社よりもコストが安く、柔軟に組織を変更してスピーディーな経営ができるのが合同会社の強みですが、株式会社と遜色ない節税対策ができます。
例えば、個人事業主と株式会社は税制が異なり、個人事業主の最高税率は法人税の最高税率よりもかなり高いので、一定以上の事業規模になれば個人事業主よりも株式会社の方が税制面でお得になってきます。
一方で株式会社と合同会社の税制は同一なので、事業規模が大きくなっても株式会社の方が合同会社よりも税金が安くなるということはありませんし、同じような節税対策を行うことができます。
また、有限責任なので倒産した際の経営者にもたらされるリスクも低いです。
2-2 合同会社のデメリット
もちろん、良いことばかりではありません。合同会社として設立することによるデメリットも存在します。
2-2-1 信用力があまり高くない
合同会社という制度ができて10年以上経ちますが、まだまだ合同会社に対する認知度が低いです。経営者でも年配なら設立できなくなった有限会社は知っていても、合同会社については良くわからないという方も多いでしょう。
また、事業規模が小さい企業も多いです。合同会社はどちらかと言えば小規模の自己資金で経営している会社に向いている組織形態なので、自然と事業規模も小さくなります。
このような認知度と事業規模から株式会社よりも信用力は少し低くなります。堅い企業と取引するのならば、馴染みのある株式会社の方が受け入れられやすいかもしれません。
2-2-2 資金調達に制限がかかる
また、資金調達にも制限がかかります。合同会社は先ほどから説明している通り、経営者と出資者が同一になっているので、株式を上場したり、出資を募ったりすることはできません。よって、資金調達については株式会社と比較すると選択肢が少なくなっています。
多くの会社によっては大してデメリットではありませんが、一部の資本金への資金調達で会社を大きくしようとしている企業には、大きなデメリットになります。いわゆるスタートアップ、ベンチャー企業などと呼ばれている企業は銀行からの融資ではなく、ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家から出資を集めて、その資金により事業拡大を狙います。もちろん、合同会社はベンチャーキャピタルやエンジェル投資家から出資を募れないのでこのような戦略を実行することはできません。
2-2-3 事業譲渡しにくい
事業譲渡をしにくいというデメリットもあります。株式会社の場合はその会社の株式を買収先の企業に譲れば会社を譲ることができますが、合同会社の場合は経営者と出資者が同一なので事業だけ譲り渡すということが困難です。
合同会社の代表社員に法人を設定することができますが、法人から実際に業務を執行する職務執行者を選任しなければなりませんし、その法人が代表社員になる前に合同会社の代表社員だった人たちは引き続き会社の代表権を保有しているので、出資を引き上げてもらって、代表社員から退いてもらう必要があります。
株式会社と比較すると、事業を譲り渡す際の手続きが面倒です。
2-2-4 税務申告が個人事業よりは複雑
税務申告の方法は株式会社と同様ですが、もちろん個人事業主と比較すると合同会社の税務申告は一般的に面倒です。個人事業主でも簡単な確定申告なら自分で行うことができるかもしれませんが、合同会社の場合は、確定申告よりも更に手続きが複雑になります。
間違った申告をして、後から修正申告や追徴課税となると面倒なので、税理士を雇った方が良いでしょう。
2-2-5 経営陣の間で関係性がこじれると修復しにくい
合同会社は自由でスピーディーな経営ができる反面、経営陣の中で一度関係性がこじれると株式会社よりも悪化しやすいです。利益の分配は自由にできるので利益の分配でもめるかも知れませんし、経営者=出資者は原則として全員代表権を持っているので、お互いの業務執行に対して不満を持っていて、会社の方向性で揉めて組織が空中分解するというケースも考えられます。
そうならないために、出資者を限定するか、代表社員同士での緊密なコミュニケーションが必要になります。
2-3 合同会社を設立するのにおすすめの人
以上のように合同会社のメリット・デメリットを説明してきましたが、どのような人が合同会社を設立するのがオススメなのかについて説明します。
2-3-1 事業所得500万円を超えるフリーランス
まず、事業所得500万円を超えるフリーランスは個人事業主から合同会社への法人成りを検討した方が良いでしょう。事業所得が少ない場合は、個人事業主の方が法人よりも得する場合がありますが、事業所得500万円以上から法人税の方が個人税率の方が安くなる場合があります。税務申告が少し複雑になりますが、税理士に大部分を任せているのならほとんど手間は変わりないでしょう。また、合同会社は代表社員同士の意思疎通が問題になりやすいと説明しましたが、フリーランスとして一人で活動しているのならば、その心配も必要ないです。
個人事業主の法人也で一点注意しておきたいのが給料の設定です。会社の事業所得をそのまま全部自分の給料にしてしまうと、結局自分に入ってくる所得に違いは無いので、合同会社を作っても個人事業主のままであっても所得税に大した違いはありません。むしろ、法人住民税の均等割り分などが発生する分だけ税金を多く支払うことになる可能性があります。
これを防ぐためには、自分への給料の支払いを抑えて、会社に資産を蓄積することが必要です。会社に蓄積した資産を事業に使っても良いですし、家族を雇用することによって、個人事業主よりも低税率で自分の家族の財産にすることができます。
2-3-2 自己資金で会社を大きくするワンマン企業
合同会社を設立した方が良い2つ目のパターンは、自己資金で会社を大きくするワンマン企業です。合同会社は投資家から資金を調達できないというデメリットはありますが、銀行からの融資は受けられるので、投資家からの資金調達を予定していない企業にとってはあまりデメリットになりません。ワンマン企業で代表社員が自分の他にいないのなら経営者の仲についても気にする必要はないでしょう。
ワンマン企業をあえて、法人化するメリットは上で説明した節税の他にも、資金調達をしやすくするというメリットもあります。一般的に、個人事業主よりも合同会社の方が会社と経営者個人が分離していて信用力が高いので銀行からの融資を受けやすいです。また、個人事業主と比較すると使える助成金や補助金の幅も広くなるのでこのような公的な制度も利用しやすいでしょう。
従業員を雇っている場合でも、例えば飲食業のようにパートやアルバイトなど経営に絡む人材は必要ない業種の場合は、合同会社として設立するのも良いかもしれません。
2-3-3 少数精鋭で活動するIT・コンサルティングなどの業種
3つ目のパターンとして少数精鋭で活動するIT・コンサルティングなどの業種は合同会社の方が向いているかもしれません。一定以上の事業所得があるフリーランスは合同会社に法人成りした方が良いのは上で説明した通りですが、1人だけで活動していると受注できる仕事の量も幅も限られています。プロフェッショナル同士で合同会社を設立して自分達でプレイヤー兼経営者として協力して活動することによって、より多くの仕事をこなせるようになります。
ただし、このような目的で会社を設立すると、メンバー全員が代表権を持つ事になると考えられるので、会社の意思決定や代表社員同士のコミュニケーションを円滑に行えるように注意してください。
2-3-4 グローバル企業の日本法人
最後に紹介するのが、グローバル企業の日本法人です。先ほど、外資系大企業の日本法人にはあえて合同会社で活動している企業も多いと説明しました。株式会社なら大会社として監査を義務付けられる会社でも、合同会社なら監査は必要ありませんし、決算も公告する必要はありません。
3 合同会社の設立方法
以上のことを踏まえて合同会社の設立を検討している方に、合同会社の設立について説明します。
3-1 定款を作成する
合同会社を設立するには、まずどのような会社を設立するのかを考える必要があります。会社名は何にするか、どのような事業をするのか、資本金はどのくらい用意するのか、本店はどこにするのかなどを決定してください。また、手続きの都合上、法人の印鑑と個人の印鑑証明が必要なので取得しておいてください。
どのような合同会社を設立するのかを決定したら、それをまとめた「定款」という書類を作成します。定款は会社のルールを決めた最も基本的な書類です。合同会社は定款で自由に決められる範囲が多いですが、定款で規定するオーソドックスな規則は以下のとおりです。
3-1-1 会社名
合同会社の名前を定めます。後から改名することはできますが、登記の変更が必要になります。後から後悔しないようにお客様の覚えてもらいやすい、自分としても愛着を持てる名前を考えてください。
3-1-2 会社の事業内容
設立する合同会社がどのような事業をするのかを規定します。定款外の事業を後からする場合は定款の変更が必要になりますし、定款に記載している事業の中に行っていない事業があっても良いので、将来的に行いたい事業を含めて、事業内容を決めてください。
3-1-3 本店の所在地
本店の所在地を規定します。これは自宅などでも構いませんが、居住用の賃貸だとオーナーから許可が下りない場合も考えられます。きちんと登記して問題ない場所を本店の所在地にしてください。物件を借りる予定がある場合は、定款を作成するタイミングで契約を進めておいた方が良いでしょう。
3-1-4 公告の方法
公告とは、会社の情報について公に告知するための手法のことを指します。株式会社の場合は決算を公告しなければなりませんが、合同会社には決算の公告義務はないので、あまり広告する機会はありません。ただし、会社の合併や解散などは合同会社でも公告が必要になります。官報による掲載、日韓新聞紙による掲載、電子公告の3種類の手法がありますが、定款に定めないと自動的に官報による掲載となります。
3-1-5 社員と出資金
誰が社員(ここでいう社員とは従業員のことではなく、出資者=経営者のことを指します。以下、同じ)でどの位の金額を出資するのかを定めます。このときには会社用の口座に出資金を用意しておく必要があります。(ただし、会社名義の口座はまだ作れないので、仮で個人の口座に集める可能性が高いです。)
3-1-6 社員の入社・退社のルール
社員の入社や退社のルールについて定めます。ちなみに社員が加わる場合はその都度定款を書き直す必要があります。退社のルールについては社員が勝手に辞める任意退社だけではなく、どのような場合に強制的に退社させることができるのかのルールも定めておいた方が良いです。
3-1-7 事業年度
どのタイミングで決算をするのか事業年度を定めます。事業年度は最長1年間です。また、最初の年の事業年度も定款で定めておいた方が良いでしょう。事業年度の選び方にはいくつかのポイントがありますが、繁忙期ではない時期に定めた方がベターです。
また、節税のことを考えるなら、利益が大きくなるタイミングで決算をすると利益の圧縮が間に合わない場合もあるので、事業年度のはじめの方に利益が発生するタイミングを考えた方が良いです。
3-1-8 損益の分配方法
株式会社と違い、合同会社では配当の方法については柔軟に決定することができます。定款で書いておけば、社員同士の話し合いで利益の分配方法を決めることもできます。
もちろん、本記事で定めること以外を定款に記載しても構いません。具体的にどのように定款を書いて良いのか分からないという場合はWEB上に合同会社の定款フォーマットが色々紹介されているので参考にしてみても良いでしょう。
3-2 設立登記をする
定款が作成できて、出資金の振り込みが完了すれば、その他の必要書類とともに法務局に持ち込むかオンラインで法人の設立登記をします。登記に必要な書類は以下の通りです。
- 設立登記申請書(+登録免許税分の収入印紙)(必須)
- 登記用紙と同一の用紙(必須)
- 定款2部(1部は会社保存、1部は法務局提出)(必須)
- 出資金の払込証明書(必須)
- 代表社員の印鑑証明書(必須)
- 本店所在地、資本金決定書(場合によって)
- 代表社員就任承諾書(場合によって)
- 財産引継書・資本金の額の計上に関する証明書(現物出資をする場合)
ちなみに、株式会社の場合は定款について公証人役場で認証する必要がありますが、合同会社の場合は公証人役場での認証は必要ありません。その分だけ設立費用も安く済ませることができます。
3-3 開業の届け出をする
法務局で登記が終了すれば、無事会社設立となりますが、意外に大変なのが設立したあとの各種手続きです。税務署や都道府県の所轄の機関に対して、きちんと書類を提出する必要があります。必要な届け出としては以下のようなものがあります。
3-3-1 税務署に対する届け出
税務署に提出する書類としては、法人設立届出書や青色申告の承認申請書、給与支払事務所等の開設届出書などがあります。また必要に応じて、源泉所得税の納金の特例の承認に関する申請書、棚卸資産の評価方法の届出書、減価償却資産の償却方法の届出書なども提出します。
節税のことを念頭に置くならば、青色申告の承認申請書は必須ですし、棚卸資産の評価方法の届出書、減価償却資産の償却方法の届出書も一部の業種で節税する上では重要な書類です。具体的にどのように棚卸資産を評価したり、減価償却資産を償却したりするのかは税理士と話し合った上で自社の戦略にあったプランを設計してください。
3-3-2 都道府県/市区町村に対する届け出
税務署だけではなく、都道府県/市区町村も会社から地方税を徴収するので、所轄のとど府県/市区町村に対して法人設立届出書を提出しなければなりません。書類のフォーマットは、都道府県や市町村によっても違いがあると考えられるので、都道府県や市区町村の採用しているフォーマットをWEBサイトで確認してください。提出先は各都道府県の税事務所、市町村役場の法人住民税課です。
3-3-3 労働基準監督署/ハローワークに対する届け出
従業員を雇う場合は、従業員が入社した翌日から10日以内に労働保険への加入手続きを行う必要があります。労働保険 保険関係成立届、労働保険 概算保険料申告書、雇用保険 適用事業所設置届、雇用保険 被保険者資格取得届などの提出が必要です。
ちなみに、社員だけで事業を行っている場合は、従業員を雇ってないということで届け出を提出する必要はありません。
3-3-4 年金事務所に対する届け出
社会保険に関する手続きもしなければなりません。健康保険・厚生年金保険新規適用届、健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届、健康保険被扶養者(異動)届などを年金事務所に提出する必要があります。
ちなみに、労働基準監督署/ハローワーク関連の届け出は従業員を雇用しないならば必要ありませんが、社会保険に関する手続きは代表社員だけの会社であっても行わなければなりません。法人は強制的に社会保険に加入しなければならないからです。よって、個人事業主として国民年金保険に加入していたとしても、法人成りした場合、厚生年金保険に切り替えることになります。
4 合同会社の節税対策
以上のように合同会社について説明してきましたが、上記の中にも合同会社における節税対策のポイントをいくつか紹介してきました。本章ではさらに節税ということに絞っていくつかのオーソドックスな節税対策について紹介します。なお、これらの節税対策は株式会社でも実行することができます。合同会社か株式会社、いずれを使って節税対策をおこなうべきなのかは合同会社の設立に向いている人について述べた章を読みながら検討してください。
4-1 社宅による節税
まず、代表的な節税対策が社宅に関する節税です。個人事業主でも、住宅全体の面積のうち事業に使用している面積分の家賃は経費に算入することが可能です。この手法を用いれば一定の節税効果が期待できますが、法人の場合は、社宅を利用することによって更なる節税が可能になります。
例えば、家賃10万円の物件について全額会社負担で役員や従業員に住まわせると、10万円分だけ役員や従業員の給料が増加したとみなされて、所得税や住民税、社会保険料の金額が増加してしまいます。
ただし、無償で役員や従業員を住まわせるのではなく、実際に社宅に居住している人から毎月一定以上の家賃を徴収しているのならば、給料が上がったと見なされずに、税金や社会保険料を増加させずに社宅に住むことができます。
社宅として借り上げている家賃の何割程度を徴収すれば、給料と見なされないのかは計算方法と根拠にもよりますが、だいたい社宅として借り上げている家賃の5割程度、場合によっては2割程度の負担で社宅を借りられると言われています。
もちろん、社宅として借り上げている家賃より、実際に住んでいる人から徴収する家賃が少なければ、その差額の分だけ会社は損をしますが、この差額は全額損金として算入できます。
よって、会社の利益を圧縮することができますし、社宅の分だけその人に支払っている給料を下げれば、その人に対する税金や社会保険料を軽減することもできます。
住民から徴収する家賃が高すぎると節税効果も薄くなりますし、低すぎると税務署から役員報酬とみなされて、税金や社会保険料が増加します。どの位のバランスが良いのかは税理士と相談しながら決定した方が良いでしょう。
ちなみに、家賃については社宅を利用すれば節税することができますが、社宅での生活によって発生した、水道や電気、光熱費、駐車場代などの経費は会社の費用とすることはできません(社宅兼事務所の場合は適切な割合を経費にできますが)。これらの費用を会社が支払うと役員報酬とみなされる可能性があるので注意してください。
4-2 旅費規程・日当による節税
旅費規程・日当による節税対策も可能です。給料は税金や社会保険料の課税対象となりますが、日当は非課税収入になるので税金も社会保険料も発生しません。日当とは出張手当のことを指し、実費の交通費や宿泊費とは別に手当として支給する現金です。よって、総支給額が同じであったとしても、支給金額内に占める日当の金額が多ければ、課税対象の所得も少なくなるので、役員個人に対する税金や社会保険料も少なくなります。
ただし、日当は自由に決められるわけではありません。税務署にきちんと日当として認めてもらうためにはいくつかのポイントがあります。
まず1つ目が旅費規程をきちんと作成することです。支給基準を無しに日当を支給しても、それは日当として認められません。日当を認めてもらうためには、どのような社内ルールに基づいて日当が支給されることになっているのか、旅費規程で客観的に確認できる状態にする必要があります。ちなみに旅費規程で定めているのならば、経営者や管理職、一般社員で日当の支給額を変えることも可能です。
旅費規程の作成においては2つの注意点があります。日当の絶対額が多すぎないこと、役職の差によって日当の金額が不当に開きすぎないことです。具体的に1日当たりどの位の金額までの支給なら日当と認められるのか、役職の差によって日当に違いにどの位の差を設けてはいけないのかについては法律で決められているわけではありませんが、バランスを考慮した方が良いでしょう。
また、出張に行ったということがきちんと証明できるように出張報告書も作成した方が良いです。出張に行ったという証明が無いと、個人的な旅行に行ったのではないかとみられるかもしれません。
日当は便利な節税方法ですが、誰に対しては支給しない、誰に対する支給はするという判断ができないので、恣意的に役員にだけ日当をつけるということはできません。従業員の出張が多い場合、従業員に対して日当をたくさん支払うことによって、会社の利益が圧縮される割には、経営者の給料に対する節税には大きく貢献しないという場合も考えられるので注意してください。
4-3 会議費・接待費による節税
接待・交際費による節税は誰もが思いつきがちですが、個人事業主と合同会社ではルールが違うので説明します。個人事業主の場合は青天井で接待・交際費の計上が認められていますが、法人の場合は青天井で接待・交際費の計上が認められているわけではありません。(青天井と言っても事業規模に対してあまりにも高いと税務署からチェックされる可能性がありますが)
接待・交際費の上限は、中小企業の場合は、「飲食費の800万円を全額損金算入、以降は不算入」もしくは「飲食費の50%相当を損金算入」のどちらか、中小企業以外の場合は、「飲食費の50%相当を損金算入」となります。
ちなみに、1人当たり5,000円以下の場合は、飲食が行われた日時や取引先、参加者、代金などを明確にすれば会議費として接待・交際費に含めずに全額損金に算入することができます。
ただし、社内の飲み会は会議費ではなく福利厚生費として処理することになりますし、お酒が提供される場での飲食は、社内通念上「会議」と見なされず、会議費としてみなされない恐れがあります。
いずれにしても、手元に現金が残るわけでもありませんし、一部の業種を除けば接待によって著しく業績が向上するわけではないので、節税対策としての優先順位は他で説明している対策よりも少し低めです。
4-4 役員報酬による節税
役員報酬の設定を工夫することも節税におけるオーソドックスな手法です。所得税は累進課税制度といって、所得が多くなればなるほど税金も多くなるようになっています。
例えば所得税は、課税所得195万円以下の場合は税率5%しかありませんが、段階的に税率が上がって、4,000万円を超えると最高税率の45%になります。もちろん、住民税や社会保険料も所得が高くなるに応じて割合が変化します。よって、1人でたくさんの報酬を受け取るよりも、何人かで分散して同じ金額を受け取った方が支払う税金や社会保険料の金額は少なくなります。
つまり、自分1人で給料をもらうよりも、妻や親族を社員や従業員にして給料を支払って、課税所得を分散させた方がトータルでの税金が少なくなるので家族として手に入る手取り金額は大きくなります。
ちなみに、役員報酬に関してはいつでも改定できるわけではないので注意してください。役員報酬を毎月のように変更できるのなら決算期前に簡単に利益調整ができてしまうのでもちろん認められません。基本的には毎月同額の金額を役員報酬と支払って、役員に賞与を支払う場合は事前に税務署に届け出なければなりません。このルールに従わずに役員報酬を支給していると役員報酬の一部が損金として認められない可能性も考えられます。
なお、役員報酬を変更したい場合は基本的にその事業年度が開始して3か月以内に変更する必要があります。期中に著しく業績が悪化したり、役員が入院したりして業務を執行できていないなどの理由がある場合は、例外的に期中の役員報酬改定が認められることもあります。
5 まとめ
いかがでしたでしょうか。合同会社とは会社法の改正によって新たに設立できることになった法人形態で、株式会社よりも組織や利益の分配などを柔軟に決定できます。それでいて、節税対策は株式会社と同じように行えます。
株式会社よりも信用力が低かったり、経営と出資が一体化しているので、上場したり投資を受けられないというデメリットはありますが、小規模ビジネスにおいては何かと都合の良い法人形態です。個人事業主として一定の利益が発生しているのならば、事業を合同会社化することを検討してみても良いでしょう。
また合同会社を利用すれば、個人事業主よりも節税対策の幅が広がります。上場している株式会社は社会の公器としての性質を持っていますが、中小・零細の合同会社においては、会社≒社長の財産です。つまり、社長は会社という財布と個人の財布の2つを持っているわけです。
個人の財布には所得が発生すると、所得税だけで45%、住民税や社会保険料なども入れると最高で半分以上の所得は税金として取られていきますが、会社の財布に発生した所得はだいたい30%程度しか税金が発生しません。
つまり、一定以上の事業で利益を得ている場合は会社の財布にお金を入れた方が税金は少なくなるのです。これが一定以上の事業所得は発生するなら法人成した方が良いという理由です。
ただし、法人の財布から個人の財布に給料という形でお金を移すと税金が発生するので、結局は個人事業主と変わりません。節税対策とはいかに法人の財布から個人の財布に移すときの税金を少なくするか、給料を支払わずに経営者が快適に生活できるようにするのかの工夫なのです。
本記事で紹介した、社宅や接待費を使った節税は給料を支払わずにすむための節税対策、日当や役員報酬を使った節税は税金を少なくするための節税対策です。もちろん、過度の対策は節税の度を越して、脱税となりかねないので節度をわきまえる必要があります。ただし、きちんとしたルールに基づいて行っている範囲においてはこれらの節税対策は合法です。
他にも節税対策の手法はたくさん存在するので、役員報酬を減らす、役員報酬にかかる税金を少なくするという2つの観点から有効な節税対策を考えてみてください。ただし、本質的に重要なのは節税対策それ自体ではなく、会社という財布と個人の財布のバランスです。節税対策を行って会社のお金を減らして、個人の財布を充実させても、ぜいたくな生活をして浪費してしまうだけかもしれません。それよりも、会社の財布に多めのお金を残して事業を成長させる方が将来的に得をするかもしれません。重要なのは、個人と会社の財布のバランスを戦略的に考える事であって、節税対策はそのツールにすぎません。現在フリーランス・自営業の方で法人成りの検討をしている方はぜひ今記事を参考に合同会社の設立も検討してみてください。