会社設立時のオフィス選びは、その後の事業の発展を左右する重要なポイントです。オフィスには様々なタイプがあるので、会社の事業内容に合ったものを選ぶことが大切ですが、最近はバーチャルオフィスなども注目されています。今回の記事ではバーチャルオフィスとその他のオフィスの種類、法人登記の手順について詳しく解説するので、ご参考ください。
目次
1 オフィス選びはなぜ重要か
会社設立時には会社の拠点となる場所を選定する、という重要な作業があります。ここでいう会社の拠点とは、登記簿上でいうところの「本店所在地」のことであり、そして営業活動の中心となるオフィスのことを指します。ここでは文中注記しない場合は、両者を特に区別することなく同一の意味として扱います。
オフィス選びは何故重要なのでしょうか。それは、オフィスの賃貸料が収支を左右する経費の中でも重要な固定費にあたるものであり、またオフィスの場所によって自社のイメージや顧客へのアピール、営業範囲、そして資金繰りに影響があるためです。
次の章では、上記のオフィス選びの際に重要となる項目に、それぞれのオフィスの種類がどのように影響を及ぼすのか見ていきましょう。
2 オフィスの種類について
オフィスの種類には「賃貸借型」、「レンタルオフィス」、「シェアオフィス」、「自宅」、そして「バーチャルオフィス」の主に5種類があります。賃貸借型から見ていきましょう。
2-1 賃貸借型の特徴
オフィスの種類の中でも最もメジャーで、かつ歴史が古いものが賃貸借型です。賃貸借型は、賃貸したビルの一室または一フロアーにオフィスを構える形態となります。
賃貸借型の特徴は、エリアや広さ、階層などを自分の好みやこだわりに応じて決定することができること、そしてそのスペースを自社専用とすることができることです。自社専用オフィスであることは、社員の働きやすさやモチベーションアップにも繋がります。
賃貸借型オフィスでは通常、内装や仕切り位置などを自分で決めることができます。一般的に、賃貸料や内装費用を高額とすればするほど理想の環境を手に入れることができます。オフィスの雰囲気は顧客への重要なアピールポイントですので、オフィス作りも経営者の腕の見せどころです。
一方、デメリットは、他のオフィスの種類よりも賃貸料や水道光熱費などの経費が高額になることです。こだわった場合の内装費や、テナント契約時の仲介手数料や保証料などの初期費用も高額となります。
また、通勤によって発生する時間や労力の浪費、そしてストレスも見過ごすことのできないマイナス要素です。昨今のリモートワークの推d奨や様々な働き方が提唱されている状況からすると、自社専用のオフィスを構えるメリットや意義はかつてよりも薄まりつつあります。
2-2 レンタルオフィスの特徴
賃貸借型の持つ自社専用のスペースという特徴と、賃貸借型ほどには費用が掛からないという特徴を合わせ持ったものがレンタルオフィスです。
賃貸借型ほどに費用が掛からない理由は、賃貸借型ほどの広さや内装の自由さなどがないためです。一方、レンタルオフィスにはあらかじめ机と椅子があてがわれており、契約時点でオフィスとしての機能を既に備えた状態となっています。
個室とはいえども自社専用のスペースが割り当てられていますので、面積に指定がなく専用の場所を設けていることを条件とする許認可事業にも対応することができます。
通常、他社と共用となる会議室用途のスペースがあり、日時の予約や追加料金を支払うことでそのスペースを使用することができます。また、会議室以外にも、掃除や郵便の集配、受付案内の利用をオプションで付けることができるレンタルオフィスもあります。
レンタルオフィスは賃貸借型よりも賃貸料を低く抑えることができ、その抑えた費用分だけ賃貸借型よりも立地の良い場所を選ぶことが可能です。一月あたりの賃貸料は、賃貸借型の場合は一坪当たりの単価を基準としますが、レンタルオフィスの場合は一人当たりの単価を基準とするのが一般的です。
契約時の保証金などの初期費用も、賃貸借型よりも安価となるのが通常です。一方、レンタルオフィスでは賃貸借型にはない入室時手数料などを支払わなければならない場合もあります。
デメリットは、賃貸借型と比べると、窮屈さやあてがわれたオフィスであることから借り物感を否めないことです。また、レンタルオフィスによってはそのスペースを本店所在地として認めない場合がありますので、トラブルの元とならないようにあらかじめ確認をする必要があります。
2-3 シェアオフィスの特徴
シェアオフィスとは、一フロアーを他社と共同使用する形態のオフィスです。会社ごとに簡潔なパーティションを設けているところもあれば、パーティションはなく会社の島が割り当てられているところもあり、またその割り当てもなく好きな場所を作業スペースとするところもあります。
シェアオフィスの特徴には、開かれた場所でのオフィスであるため、同業種、あるいは他業種とでも情報の交換や収集ができ、知見を広められることがあります。コミュニケーション次第では、展示会への共同参加など会社間のコラボレーションに発展することもあります。
賃貸料はレンタルオフィスよりも割安です。あらかじめ一定の賃貸料が定められているところもあれば、人数などを基準として単価を設定しているところもあります。
デメリットは、プライバシーや企業秘密の漏洩の恐れがあることです。また、他者と一定の密となる距離感となりますので、隣人トラブルや健康状態にも気を付ける必要があります。
2-4 自宅の特徴
設立したばかりの会社の場合には、自宅をオフィスと兼用することも有用な選択肢です。自宅兼オフィスの場合、通勤の手間と、オフィス家具を改めて揃える場合を別として事務所の体裁を整えるための費用や追加の賃貸料を省くことができます。
自宅をオフィスにすることは利便性の面でメリットとなる反面、プライベートとの切り分けが難しくなることがデメリットです。自宅であることから生じる雑用によって、思うように営業活動が捗らない場合もあります。
また、登記簿上の本店所在地は公開情報となっています。インターネット上でも、法人番号公表サイトなどには本店所在地が記載されますので、自宅の住所が公開されるというリスクを踏まえなければなりません。
自宅が賃貸物件である場合、物件オーナーがその賃貸物件を会社の本店所在地とすることを認めていないことがありますので、あらかじめ確認するようにしてください。
2-5 バーチャルオフィスの特徴
さて、この記事の主題であるバーチャルオフィスの紹介です。バーチャルオフィスは近年登場した新しいオフィスの形態で、一言でいうと実体を持たない住所だけの架空のオフィスです。架空のオフィスといえども、本店所在地とすることに問題はありません。
実体を持たないため、会社の営業活動や事務処理は自宅など別の場所で行います。バーチャルオフィスが選ばれる理由の一つは、自宅などの実際の作業場所を公開情報である本店所在地となることを避けるためです。
そのため、リモートワークを中心に事業を行う場合や、顧客先に常駐する業種である場合には相性が良い形態といえます。
バーチャルオフィスは住所のみのレンタルですので、かかる費用は自宅を除く他のオフィス形態の中でも最も安価となります。また、レンタルオフィスの強みは、安いというメリットに加えて、賃貸した場合には高額となるエリアであってもそのエリアにオフィスを構えているように見せられることです。
このことは、会社のブランド力にとって大いにプラスに働きます。また、そのエリアの開拓を狙っている場合にも非常に有用です。
実体がないといっても、バーチャルオフィス事業者の中にはレンタルオフィスやシェアオフィスと同様に、郵便物や電話の転送、電話や来客の応対、会社名の表札などをオプションサービスとして設けているところもあります。
また、事業開始までの期間短縮も期待できます。賃貸借型の場合には、エリア候補地となる不動産屋を巡って内見を繰り返し、審査を経て契約に至るというプロセスを経るため、賃貸借契約を締結するまでにも数ヶ月を要する場合があります。
更に、契約の後に机や椅子の設置、そして内装を施してオフィスとしての体裁を整える、という準備期間と費用を必要とします。
その点、バーチャルオフィスの契約にあたって勘案するポイントは、エリアとオプションサービスを決めるという位のため、実際に事業を開始するまでには早ければ数日~一週間程度で済みます。
ここまではメリットを中心に見てきましたが、注意点やデメリットにも目を向けてみましょう。注意点は、許認可事業を営む場合、オフィスの実体を有していることや規定以上の事業所面積が条件となっている場合です。
例えば、税理士や弁護士、司法書士などの士業や、職業紹介業、人材派遣業、建設業などの業種にはバーチャルオフィスは使えません。
もし、バーチャルオフィスにも関わらずそれらの事業を行う場合(バーチャルオフィスであることを隠匿した場合)は、法律を遵守していないことになりますので注意してください。
また、バーチャルオフィスでは、他社も自社と全く同じ住所を本店所在地としている場合があります。社名が同じでない限りは、一つの住所に複数の会社が存在しても問題ないのですが、もし他社が犯罪や違法行為を行った場合、その住所は信用力を損なうことになります。
そして、バーチャルオフィス事業者にとってバーチャルオフィスの運営は一事業ですので、思うように収益が上がらないと判断した場合はバーチャルオフィス業からの撤退もあり得ます。
撤退の可能性は、賃貸借型やレンタルオフィスよりも、事業内容が簡素な分だけ高いものとなります。もし撤退した場合、次のオフィスの選定や登記の変更などの想定外の手間や費用が発生することになります。
そして、バーチャルオフィスの有用性を論ずる上で良く上がるものが、銀行との取引です。特にこの点に関して、次の章で詳しく見ていきます。
3 バーチャルオフィスの銀行取引
バーチャルオフィスは良く、銀行口座開設に不利であるとか、融資面で審査が通りにくいなどと言われることがあります。その理由は、実体を持たないため事業の実態を掴みにくいのと、住所だけの存在というバーチャルオフィスの特性を過去に詐欺などの犯罪に悪用されたことがあるためです。
また、近年では銀行側でも、インターネット上で振込や残高照会を行えるサービスを設けたり、支店などの実体を持たないネット銀行が普及したりしています。これらのインターネット上の取引を鑑みて、政府や警察では銀行口座に関する取り扱いを厳しくしている背景があります。
バーチャルオフィスでは銀行口座の開設ができないということは決してないのですが、バーチャルオフィスの場合は実在のオフィスを持つ会社以上に、厳密な本人情報の確認などの要求や審査を設けられているのが実情です。
それでは、バーチャルオフィスで銀行口座の開設をできるだけスムーズに行うためにはどのようにすれば良いのでしょうか。バーチャルオフィスの審査が厳しくなる原因は「不透明さ」「不明瞭さ」というイメージにありますので、事業としての実体をしっかりしていることをアピールすることが鍵となります。
アピールポイントの一つは資本金の金額設定です。現在、資本金は幾らでも良いことになっていますが、事業を行うためにはそもそも資本金が必要となるものですので、しっかりとした事業を行っていることをアピールするためには、出来れば資本金を100万円以上としたいところです。
もう一つのアピールポイントは事業内容の明確化です。核となる事業を持ち、銀行側から確認があった際に事業や取引の内容を明確に説明できる資料を提出したり、契約書や請求書などの証憑を整理しておくことをアピールしたりすることで、銀行の信頼を勝ち得ることに繋がります。
また、上記のような会社の資本金の地盤アピールと事業内容の明確化は、融資を受ける際にも大変重要な要素となります。銀行側としては融資の場合は尚更、会社の財力と経営状況を確認してくるものです。
現在は新型コロナウィルスの影響もあり、リモートワークが推奨されています。リモートワークとバーチャルオフィスの相性は良好であるため、今後銀行口座の開設や融資を検討している場合は、リモートワークであることを全面に押し出してしっかりと説明をすれば銀行側の心証も良くなります。
また、日頃から銀行に定期的に立ち寄って、担当者と顔を突き合わせておくことを心掛けておくと良いでしょう。現在は多様化の社会であり、コロナ禍によってリモートワークが推奨されていますので、今後バーチャルオフィスがますます普及することは十分に考えられます。
4 法人登記の事前作業と必要書類
会社は「法人登記」を行うことによって設立されます。法人登記とは、会社という疑似人格(法人格)を社会に生みだすための、法務局にて行う登記手続きのことです。法人登記の手順や書類のことを知らずに会社を設立しようとすると、後戻り処理が何度も発生することになるので、基本的な手順や必要書類を確認しておきましょう。
4-1 定款準備まで
この法人登記ですが、法務局に赴くことで即座に申請でき処理が進むという訳ではありません。法人登記には所定の事前作業と添付書類を用意する必要があり、それらの用意なしに法務局に行っても門前払いとなります。
最初に行う法人登記の事前作業は「定款」についての処理です。定款とは、会社の法律集にあたる書類のことです。まずは、この定款を作成するまでの手順を見ていきましょう。なお、以後文中に特に断りのない場合は、「株式会社」の設立を前提に話しを進めていきます。
定款を作成するための、すなわち法人登記を行うための事前作業の第一歩目は「発起人」の選定です。発起人とは会社を設立する人のことであり、また会社の設立に対して責任を負う、多くの会社にとってその会社の代表取締役(社長)となる人のことを指します。
事前作業の2つ目は会社名(商号)を決める作業です。会社名は顧客や取引先にとってその会社を知るための最初の情報となる重要なものです。
会社名は、シンプルなもの、事業内容がイメージできるもの、インパクトがあり思わず会社名の由来を聞きたくなるものなど、会社の看板でありアイデンティティであるといえます。会社名次第で宣伝効果にもなり、取引が進むことにもなり得ますので、大事に決めるようにしてください。
事前作業に戻り、次の「資本金」を決定するという作業に目を向けましょう。資本金とは、会社設立時の事業運転資金となるもので、会社設立者(出資者)が捻出するものです。
かつて株式会社の資本金には最低1000万円という下限が設けられていましたが、現在ではその下限は撤廃され、資本金を1円とすることも可能となっています。
資本金の縛りの撤廃には、会社設立のハードルを下げる側面がありますが、一方資本金を安易に低く設定することにはリスク面もあります。なぜなら、資本金はその会社の信用力を表す数値であり、取引先や銀行がチェックをする項目です。
資本金が低すぎると事業存続に疑義の念を抱かれ、取引や融資の話しが先に進まないことがあり得ます。業種によりますが、一般に資本金は100万円以上、できれば300万円以上を用意するのが望ましいとされています。
事前作業には上記以外にも、「事業目的」(事業内容)や「本店所在地」、そして「発行可能株式総数」を決定するという作業があります。
本店所在地とは公開情報となる会社の住所のことです。法人成りをする場合、自宅を本店所在地とするケースが多いですが、自宅が公開情報になること、また賃貸物件の中には本店所在地とすることを認めていない物件があることに注意してください。
発行可能株式総数とは、設立する会社が株式会社である場合の項目で、その株式会社が発行できる株式総数のことを指します。もし、将来的に株式総数を変更する事になった場合は、この後説明する「定款」の変更と変更登記を行う必要があります。
4-2 定款作成から資本金の払込まで
定款には、前章で取り上げた発起人(の住所と氏名)、会社名、資本金、事業目的、本店所在地、発行可能株式総数の6項目を必須事項として記載します。
ただし、上記の必須項目をまとめて書類の形にしただけではただの規定集に留まり、定款としての効力を発揮しません。それを定款にするためには、4万円分の印紙を貼り付けて発起人の実印にて消印をする、という処理が必要です。
定款を作成したら、「定款認証」という手続きを行います。定款認証とは、「公証役場」という公的機関にて5万円の手数料を支払って行う、定款を公的なものとするための処理です。
なお、この定款認証という手続きは株式会社の場合に必要となる処理で、合同会社などには必要ありません。すなわち、合同会社の場合は定款認証手数料5万円も必要ないということになり、会社設立費用をその分だけ安くすることができます。この費用削減方法については最後にまとめて振り返ります。
さて、定款認証を行った後は、この後に続く処理のために定款謄本を公証役場で最低2冊取得しておきます。定款謄本は定款の枚数一枚ごとに250円必要で、多くの会社は一冊あたり1000円が相場です。
これで、法人登記に必要な書類の一つである定款についての準備は整いました。ですが、法人登記を行うにはもう一つ重要な準備作業が残っています。それは、先に触れた資本金に関する処理です。
この時点で資本金の金額は設定してあるはずですが、資本金は金額を設定するだけでは不十分で、その資本金を会社に振り込んだという「資本金の払込」という手続きを取る必要があります。
もちろん、この時点では会社はまだ存在せず、会社用の銀行口座もありませんので、払い込んだという体を取る形式的な処理です。
資本金を振り込む口座は発起人の既存の口座で問題ありませんが、後に資本金の払込が行われことを証するために、通帳のある口座にしてください。
資本金の払込は、必ず資本金の払込を行った人(発起人)の氏名が通帳に記載されなければなりません。そのため、払込は必ず振込処理にて行うことになります。もし、発起人が複数いる場合は、漏れなく全員の氏名と入金が通帳に記載されるようにしてください。
なお、この資本金の払込には実行するタイミングがあります。そのタイミングとは定款認証後です。仮にこの資本金の払込を定款認証前に行った場合は、それは資本金の払込とは認められない可能性がありますので注意してください。
資本金の払込を終えた後は、払込が記載された通帳ページのコピーを取り、法人登記に必要な書類の一つである「払込証明書」を作成します。
定款認証と資本金の払込を行い、定款謄本と払込証明書を準備したら、残る書類を用意します。その書類とは「登記申請書」、役員の「就任承諾書」と「印鑑証明書」、監査役の「就任承諾書」と「本人確認書類」、「登記すべき事項の記載書類(または電磁的記録媒体)」、そして「印鑑届出書」です。
上記最後の印鑑届出書とは設立する会社の実印の届出書です。印鑑は登記をすることによって実印としての効力を発揮します。実印登記は必ずしも法人登記と同時に行う必要はありませんが、同じタイミングで処理することによって手間を削減できます。
会社の印鑑には実印の他にも、認印や銀行印、そして住所・会社名・代表取締役名をまとめたゴム印などがあります。実印以外は任意に用意するものですが、実印は印鑑文化が根強く残る日本では強い効力を持ちますので、普段遣い用の認印を用意しておくことをお勧めします。
なお、会社の印鑑は、実印・認印・ゴム印をセットにした「印鑑セット」として販売されています。印鑑の材質や業者などにより価格は異なりますが、数千円から数万円で購入することが可能です。
5 法人登記の申請手順
さて、以上の事前作業と書類の準備を終えたらいよいよ法人登記の順番となります。法人登記には登録免許税という税金が発生します。登録免許税は資本金によって変動する種類の税金で、資本金が2143万円以上の場合はその資本金の0.7%が税額となります。2143万円未満の場合は一律15万円です。
なお、上記は株式会社の場合の税額となります。合同会社の場合の登録免許税は6万円となり、これも会社設立費用を安く抑えることができるポイントとなります(後述)。
法人登記を申請して完了するまでの期間は、書類に不備がなければ一週間から10日程度です。法人登記に行き着くまでの事前作業と書類の準備期間を考え合わせると、会社設立をゼロから初める場合は余裕を持って一ヶ月程度の期間が必要と考えておいた方が良いでしょう。
また、法人登記が完了したからといって会社設立作業がすべて終わったということにはなりません。この後にも会社設立時の作業は残っています。法人登記完了後は、その後に続く作業のために、添付書類となる会社の登記簿謄本や実印の印鑑証明書を少なくとも1通ずつ取得しておくようにしましょう。
6 法人登記後の作業
法人登記後の作業にも触れておきましょう。その作業の一つは税務署に関する手続きです。税務署へは「法人設立届出書」、「青色申告の承認申請書」、そして従業員がいる場合は「給与支払事務所などの開設届出書」といった書類を税務署に提出します。
また、都道府県と市区町村の地方自治体にも会社設立の届けを提出します。税務署とこれら地方自治体の届けは、主に税金に関する手続きとなりますので、忘れないように行ってください。
会社に給料(または役員報酬)を支払う対象者が一人でもいる場合は、「社会保険」(ここでは厚生年金保険と健康保険を指します)に関する手続きも必須となります。
会社を社会保険適用事業所とするためには「健康保険・厚生年金保険 新規適用届」を、自分自身(代表取締役)や従業員を社会保険の加入者とするためには「被保険者資格取得届」を、日本年金機構の事務センター(年金事務所)宛に提出します。
また、従業員がいる場合は「労働保険」にも加入する必要があります。労働保険とは「労災保険」と「雇用保険」の2つの保険を合わせた、労働者(従業員)のための保険です。
労働保険の手続きは幾つかの段階に分かれており少々複雑です。初めに、労働保険の「保険関係成立届」を労働基準監督署または公共職業安定所(ハローワーク)に提出します。その後、提出年度分の労働保険料の概算額を納付します。
次に、雇用保険の適用手続きのために「雇用保険適用事業所設置届」と「雇用保険被保険者資格取得届」を公共職業安定所に提出して受理されることで労働保険手続きの完了となります。なお、二元適用事業と呼ばれる農林漁業・建設業等の場合は以上の労働保険の手続きが少々異なりますので注意してください。
以上の会社設立にまつわる作業は、税理士事務所などにより代行を行っている事業者があります。もし、資金に余裕のある場合や時間をかけたくない、またはかけられない場合は、代行を依頼するというのも一つの選択肢です。
7 会社設立費用の削減方法(合同会社について)
最後に、本文中に何度か触れた「合同会社」による法人登記について(法人登記費用を削減する方法について)まとめます。まず、株式会社の法人登記にかかる概算費用は次のようになります。
1.定款用収入印紙…4万円
2.定款認証手数料…5万円
3.定款謄本請求手数料…2千円
4.登録免許税…15万円(資本金2,143円未満の場合)
5.印鑑セット代…2万円(目安額)
6.登記簿謄本、印鑑証明書(計1,050円)
=(合計)263,050円+資本金
対して、合同会社の場合の法人登記費用は次のようになります。
1.定款用収入印紙 4万円
2.登録免許税 6万円
3.印鑑セット代 2万円(目安額)
4.登記簿謄本、印鑑証明書(計1,050円)
=(合計)121,050円+資本金
比較すると、合同会社の方が株式会社よりも約14万円安く会社を設立することができます。なお、合同会社と株式会社による最も大きな違いは、会社の種類による知名度の差です。株式会社の方がメジャー感に溢れており、資金面がより盤石であるという印象を持ちます。
一方、合同会社には株式会社ほどの知名度はありません。また、株式会社の場合は株式を発行することで外部から資本金を調達できますが、合同会社の場合は会社内部からしか資本金を調達することができません。
しかし、合同会社は株式会社ほどには規則や縛りが少なく、より会社設立者の思うように運営を行うことができるというメリットがあります。事業規模が大きい場合は株式会社が、スモールビジネスに特化している場合は合同会社が適しているといえるでしょう。
以上、ここでは法人登記を中心に会社設立時の申請手順や必要書類を見てきました。通常一度しか行わず、その時にしか行わない作業ばかりですので、記事を読み返すことで時間と気持ちに余裕を持って会社の設立に繋げましょう。