電通新人社員の過労自殺をきっかけに長時間労働に対して見直す風潮が強まった雇用環境。政府は「長時間労働削減推進本部」を設置し、「働き方の見直し」に向けて長時間労働が疑われる事業場に対しては監督指導を徹底するなど企業への働きかけを強めています。

また、厚生労働省は10月、2回目となる「過労死等防止対策白書」の公表を行いました。白書によると、過労死による労災認定件数が昨年最も多かった業種は「運輸業・郵便業」だったことが明らかとなりました。請求件数、支給決定件数(認定件数)ともに最多で、次点である「製造業」(41件)の2倍以上となる97件でした。

あらためて浮き彫りとなった配達ドライバーの過酷な労働環境。政府は、「過労死等が多く発生しているとの指摘がある重点業種」として、「自動車運転従事者」「外食産業」の2業種を挙げ、より掘り下げた調査・分析を行いました。

1 過労死認定が最も多い「運輸、郵便」業

過労死とは、過労死等防止対策推進法によれば、「業務における過重な負荷による脳血管疾患・心臓疾患を原因とする死亡」「業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡」と定義されます。

政府は、過労死等をゼロとするために、「平成32年までに週労働時間60時間以上の雇用者の割合を5%以下」「年次有給休暇取得率を70%以上」などを目標に掲げています。

 

1-1 過労死による労災認定件数は合計191件

10月に公表された「過労死等防止対策白書」によると、昨年、「脳・心臓疾患による支給決定(認定)件数」は260件で、うち107件が「死亡」(過労死)に関するものでした。

また自殺など「精神障害による支給決定件数」は84件となり、過労死による労災認定件数は合計191件でした

・ 脳、心臓疾患による死亡に対する労災認定件数(支給決定件数)の推移

平成21年度 106件
平成22年度 113件
平成23年度 121件
平成24年度 123件
平成25年度 133件
平成26年度 121件
平成27年度 96件
平成28年度 107件

・ 自殺に対する労災認定件数(支給決定件数)の推移

平成21年度 63件
平成22年度 65件
平成23年度 66件
平成24年度 93件
平成25年度 63件
平成26年度 99件
平成27年度 93件
平成28年度 84件

(「過労死等防止対策白書」より作成)

1-2 過酷な「運輸業、郵便業」の実態

業種別に脳·心臓疾患に対する認定件数を見ると、「運輸業、郵便業」が最も多い97件となります。次いで、「製造業」41件、「卸売業、小売業」29件、「その他の事業」27件、「宿泊業、飲食サービス業」20件、「建設業」18件、「医療、福祉」10件、「情報通信業」9件、「農業、林業、漁業、鉱業、採石業、砂利採取業」10件、「教育、学習支援業」3件、「金融業、保険業」1件と続きました。

・業種別「脳・心臓疾患による死亡の支給決定件数」

順位 業種 支給決定件数
1 運輸業、郵便業 97件
2 製造業 41件
3 卸売業、小売業 29件
4 その他の事業 27件
5 宿泊業、飲食サービス業 20件
6 建設業 18件
7 医療、福祉 10件
8 情報通信業 9件
9 農業、林業、漁業、鉱業、採石業、砂利採取業 10件
10 教育、学習支援業 3件
11 金融業、保険業 1件

(「過労死等防止対策白書」より作成)

・請求件数の推移

1-3 精神的に追い込まれやすいのは製造業?

次に、精神障害による労災の認定件数を業種別に見ると、「製造業」が最も多い91件となりました。次いで「その他の事業」83件、「医療、福祉」80件、「卸売業、小売業」57件、「建設業」54件、「運輸業、郵便業」45件、「宿泊業、飲食サービス業」33件、「情報通信業」27件、「金融業、保険業」11件、「教育、学習支援業」10件、「農業、林業、漁業、鉱業、採石業、砂利採取業」7件、となりました。

・ 業種別「精神障害の支給決定件数

順位 業種 支給決定件数
1 製造業 91
2 その他の事業 83
3 医療、福祉 80
4 卸売業、小売業 57
5 建設業 54
6 運輸業、郵便業 45
7 宿泊業、飲食サービス業 33
8 情報通信業 27
9 金融業、保険業 11
10 教育、学習支援業 10
11 農業、林業、漁業、鉱業、採石業、砂利採取業 7

(「過労死等防止対策白書」より作成)

・ 請求件数の推移

2 過労死を食い止めろ!重点業種を徹底分析

白書は過労死などが特に多く発生している自動車運転従事者と外食産業の2業種について、より深い分析を行いました。

 

2-1 時間外労働の理由「人手不足」が最多

自動運転従事者(バス運転手、タクシー運転手、トラック運転手など)に、時間外労働が発生する理由を調査したところ、特にバス運転手で「人員が足りないため」とする回答が最も多く、58.8%となりました。

次いで、「仕事の特性上、所定外でないとできない仕事があるため」28.5%、「欠勤した他の従業員の埋め合わせが必要なため」22.7%、「予定外の仕事が突発的に発生するため」22.0%、「残業を前提に、仕事を割り当てられているため」21.6%、「残業手当等を増やし、収入を確保するため」20.6%、「業務の繁閑の差が激しいため」16.2%となりました。

・ 時間外労働が発生する理由

理由 バス運転手 タクシー運転手 トラック運転手
人員が足りないため 58.8% 23.7% 24.7%
仕事の特性上、所定外でないとできない仕事があるため 28.5% 13.7% 26.9%
予定外の仕事が突発的に発生するため 22.0% 18.5% 25.3%
取引先の都合で手待ち時間が発生するため 2.4% 1.0% 25.1%
業務の繁閑の差が激しいため 16.2% 16.4% 19.0%
残業を前提に、仕事を割り当てられているため 21.6% 5.8% 9.2%
残業手当等を増やし、収入を確保するため 20.6% 12.7% 6.3%
欠勤した他の従業員の埋め合わせが必要なため 22.7% 5.8% 6.5%
社員間の業務の平準化ができていないため 8.9% 1.6% 4.9%

(「過労死等防止対策白書」より作成)

 

2-2 外食では次点で「業務の繁閑の差が激しいため」

昼食、夕食時や祝祭日に忙しくなる外食。時間外労働が発生する理由を調査したところ、「人員が足りないため」が51.7%で最も多くなり、次点で「業務の繁閑の差が激しいため」(28.2%)が挙げられました。

次いで、「客対応が長引くため(例:閉店時間でも客が帰らない等)」28.2%、「予定外の仕事が突発的に発生するため」23.6%、「欠勤した他の従業員の埋め合わせが必要なため」18.2%、「仕事の特性上、所定外でないとできない仕事があるため」16.9%と続きました。

理由 割合
人員が足りないため 51.7%
業務の繁閑の差が激しいため 28.2%
客対応が長引くため(例:閉店時間でも客が帰らない等) 23.9%
予定外の仕事が突発的に発生するため 23.6%
欠勤した他の従業員の埋め合わせが必要なため 18.2%
仕事の特性上、所定外でないとできない仕事があるため 16.9%

(「過労死等防止対策白書」より作成)

3 過労死をゼロに

政府は、昨年末、長時間労働削減推進本部にて、「『過労死等ゼロ』緊急対策」を取りまとめ、違法な長時間労働を許さない仕組みの強化に取り組んでいます。

たとえば、「違法な長時間労働」時間の定義を100時間から80時間に短縮し、さらに要件となる事業場数を3から2にするなど、要件を緩和しました。

またパワーハラスメント防止対策として、長時間労働が行われている企業に対する監督指導等の際に、「パワーハラスメント対策導入マニュアル」やパンフレット等を活用し、パワハラ対策の取組内容について指導を実施しています。

本格的な見直しが始まった労働環境。人手不足の時代だからこそ社員一人ひとりを大切にして行かなければならないのかもしれません。