玩具最大手とも言える米トイザらス本社が9月、米連邦破産法11条(日本で言う破産申請法に当たる)の適用を申請したことが明らかとなりました。米トイザらスは50億ドル(約5575億円)を超える債務を抱えており、米国とカナダの事業が法的整理の対象となるものの、現時点では日本などアジアでの事業展開に影響はないとされています。

米ウォールストレートジャーナルによると、同社は破産手続の一環として不採算店舗の一部を閉鎖するとしていますが、世界中に展開している「トイザらス」および「ベビーザらス(Babies ‘R’ Us)」を合わせた計1600店舗は通常営業を続ける予定です。

経営破綻に追い込まれた背景には、アマゾンなどネットショップの存在が大きく、実店舗を持たない企業との低価格競争に敗れた形となりました。

どのようにしてトイザらスは破綻に至ったのか。その経緯を詳細に見ていきます。

1 経営破綻したおもちゃ屋の巨人

世界最大の玩具店チェーンの1つであるトイザらスは、2018年に4億ドル(約450億円)の債務支払いに直面しており、首が回らなくなっていました。そこで、バージニア州リッチモンドの連邦裁判所に破産法11条に基づく破産申請を行い、50億ドル(約5575億円)以上におよぶ巨額債務の見直しに踏み切りました。

同社最高経営責任者(CEO)のデイブ・ブランドン氏は米紙取材に対して「この度の破産保護申請は当社の事業に投資する財務上の柔軟性を高めるとともに、ますます挑戦的かつ急速に変化する小売市場における当社の競争上の地位を強化するものである」と述べました。

(インタビューに答えるトイザらスCEOのデイブ・ブランドン氏)

1-1 借金に苦しんでいたトイザらス

トイザらスはプレスリリースにて、店舗の“大半”が利益を上げていると述べた。しかし実際は、同店の売上高が前四半期比4%以上減少し、1億4,400万ドル(約162億円)の損失を計上していたことが後に判明しました。

トイザらスの負債の多くは、プライベートエクイティ企業のKKR(Kohlberg Kravis Roberts)とベイン・キャピタル(Bain Capital)、そして不動産会社のボルネード・リアルティ・トラスト(Vornado Realty Trust)を、2005年に約66億ドルでレバレッジド・バイアウト(LBO)で買収したことによります。株式を非公開としていたため、トイザらスは借金に苦しんでいました。

経営再建を目指すトイザらスは、JPモルガン・チェース主導の銀行シンジケートから30億ドル(約3373億円)の事業再生融資を確保。デイブ・ブランドンCEOは、「トイザらスは今日、新しい時代の幕開けを迎えている。私たちの財政的制約が永続的で効果的な方法で対処されると期待しています」と述べました。

米国の破産裁判官は、今後のクリスマスのショッピングシーズンに備えるために、トイザらスに対して20億ドル以上の貸付を承認しました。

(出展:TYPICA)

1-2 実店舗はただの“ショーケース”と化す

「誰もがネットで買い物をし、ショーケースとして店舗を利用している−−」
米国では日本よりも早くこの現象が起きていました。

子供たちは欲しいおもちゃがあればトイザらスで買い物をしていましたが、今では多くが、店で商品を確認し、店にいる間にウォルマートとアマゾンで価格を調べてより低価格で商品をゲットしているといいます。

ニュージャージー州ウェインに本拠を置くトイザらスは、最終的に、19日月曜日の遅くに破産申請の提出を発表した。同社はリチャード・モンゴルのバージニア東部地区連邦破産裁判所を通じて破産保護を求め、カナダ子会社はオンタリオ州のカナダ裁判所で同様の保護を求めることとなりました。

※ レバレッジド・バイアウトとは、企業買収の方法の一つで、買収対象の企業の資産などを担保に、買収に必要な資金を調達して行なう方法。借り入れた資金は、LBOの実施後、買収された企業の負債になる。(参照:大和投資信託)

1-3 日本トイザらスへの影響は?

東京商工リサーチによると、日本トイザらスの担当者は東京商工リサーチ(TSR)の取材に応じ、「(日本トイザらスは)米トイザらスに対する債権債務はない」としたうえで、「チャプター11申請(破産法申請)が日本事業に影響を与えることはない」との認識を改めて示したとされます。

しかし、日本トイザらスのある取引先は、「現金で今のところ遅延はない」とするも、「日本トイザらスは、米トイザらスの現状を踏まえ、しっかり説明してほしい」と心配する声が紹介されました。

2 実店舗はオンラインショップに勝てないのか

米国の小売業者にとって厳しい時代が続きています。

今年に入ってから、子供服チェーン大手のジャンボリー(Gymboree)、靴専門店のペイレス・シューソーツ(Payless ShoeSource)、アパレル小売大手のルー21(rue21)なども相次いで連邦派参照11条の適用を申請しました。他の小売業者も、コストを削減してネットショップと競争しようとするも、数千店舗が閉店し、何万人もの労働者が解雇されている状況です。

 

2-1 ネット販売に乗り遅れた企業の末路

調査会社のグローバルデータ・リテール(GlobalData Retail)によると、2016年、おもちゃ全商品のうち、オンライン化したおもちゃ商品販売は過去5年間で2倍超となる約13.7%になりました。

同社マネージングディレクターのニール・サンダースは「過去10年間で、新しいチャンネル、競争の激化、新技術の登場による国内玩具市場の劇的な変化が見られ、これらの分野に(トイザらスは)効果的に対応していませんでした」と述べました。

 

2-2 閉店相次ぐ米小売店舗

百貨店チェーンのシアーズ(Sears)は、売り上げが減少、巨額損失に苦しんでおり、今年1月には100店舗以上を閉店し、7月には43店舗を追加閉鎖すると発表しました。

百貨店大手のメーシーズ(Macy’s)は昨年末の商戦で売上高予想を下回り、1万人におよぶ従業員削減の方針を掲げたばかりで、株価も急落しています。

このほか、アパレルチェーン大手のザ・リミテッド(The Limited)やウェット・シール(Wet Seal)は今年初めに破産申請しました。

(出展:Business Insider)

(破産した「ウェット・シール」と「ザ・リミテッド」の店舗 / 出展:Business Insider)

大きな衝撃を与えた、この度のトイザらス経営破綻。いずれもネット販売の台頭に伴う顧客離れに歯止めがかからず、今後も米小売店舗の閉鎖が続くと予想されています。