自社で企画・製造した製品を直接消費者に販売するといった意味でのD2Cビジネスが注目されています。確かにネット通販が当たり前の現代において、これまでの人的な接触と複雑なチャネルに依存したビジネスシステムでは事業を成長させることが難しくなってきました。
そこで今回の記事では、D2Cの特徴やB2C事業との違い、D2C市場の現状・将来性、D2Cに取組むメリット、成功するためのポイントやこの分野で起業・会社設立する際の進め方、について詳しく紹介していきます。
D2Cのことを知りたい方、興味のある方のほか、将来、D2C事業で会社設立したい方などはぜひ参考にしてください。
1 D2Cビジネスの概要
D2Cとは、DtoC(ダイレクト・ツー・コンシューマー)の別称で、B2C(ビジネス・ツー・コンシューマー)などのような形で表現されているビジネス用語です。なお、ここではDtoCのことをD2Cとして統一しておきます。
D2Cを端的に表現すると「製造業者が中間流通業者を通さずに自社のECサイトなどを介して、商品を直接消費者に販売するビジネス」と言えるでしょう。
主にメーカーが自社のESサイトで直接消費者に商品を販売する形態が中心ですが、D2Cは自社の理念を商品という形で企画・製造して、その思いを消費者に直接訴え、ファンを作り業績の向上に繋げるというビジネスモデルです。
流通業者を介さずに直接自社の価値観を消費者に届けることで、彼らとの関係性を構築・強化し売上を向上させるほか、中間マージンの削除により競争力の強化と収益向上が期待できます。
このビジネスモデルは2000年代以降の米国のスタートアップ企業を中心として発展してきました。それまでのB2C事業のマーケティング戦略はターゲットをセグメント化して、それに対応できる4P(商品、価格、販売促進、チャネル)を構築して実施するものです。
この方式は、商売する相手、商品を販売したい相手を特定の層として扱い、それに適した商品、価格、販売方法、販売ルートなどを設定して行うため、小資本の場合大きな規模の事業を展開するのは容易ではありません。
しかし、インターネットなどのITの進展により従来のビジネスモデルでは困難だった小資本での事業展開が可能になったのです。具体的には、ITの活用により、企業は個人のニーズを直接的に把握しやすくなったほか、各個人に合わせた商品の提案と提供が小資本で実現できるようになっています。
たとえば、従来の化粧品メーカーのビジネスモデルでは、対象顧客を層別化して、それに対応した商品を企画開発して製造し、中間業者に卸して小売店へ届けるという形態で、顧客への販売は小売店に任せる形態でした。
消費者は小売店に届けられた商品の中から自分に合ったものを選ぶという形で購入するため、必ずしも自分に最適化された商品を入手できるとは限りません。この不適合がメーカーと消費者を離反させる1つの要因になることが少なからず見られました。
しかし、ITが発達した現代では、メーカーが各消費者と直接コンタクトを取ることが低コストで可能になっています。各顧客から要望を引出し最適な商品を提案するアプリと個別対応できる生産システムにより個別最適な商品提供ができるようになったのです。
その結果、D2C事業者は従来のモデルで生じ得る消費者の離反を回避し事業を拡大させることが可能になりました。また、D2C事業はインターネットを中心とした通信販売であるため、特定エリアでは対象顧客が少なくても、広範囲の地域、全世界を対象とし得るため、十分な需要量を確保できます。
1-1 D2CとB2Cとの違い
B2Cとは、事業者が一般消費者に対して行う取引(商品やサービスを提供するビジネスモデル)のことで、具体的にはインターネットによる個人向けオンラインショッピング、各地域におけるスーパーマーケットや家電量販店などの販売などが該当します。
従って、B2Cは消費者に対するビジネスという広い概念を持つ用語であり、その中にD2Cも含まれます。
両者は、「to-Consumer」という対消費者という点は同じですが、「B」と「C」が異なります。つまり、Bは「だれが」を示すものであり、Cは「どのように」という点が異なるのです。B2CもD2Cも「誰が」である部分は事業者や企業という点で同じですが、「直接対応する」という点に違いがあります。
B2Cは消費者を販売相手とするが、その全体や特定の層にマッチしたモノを企画開発・製造し、流通業者などを含めて提供する形態です。一方、D2Cはより個人に適した商品を直接的に提供することに特化した形態になります。
1-2 D2C市場の現状と将来性
ここではD2C市場の現在の状況と今後について概観していきましょう。
①B2C市場の現状と動向
経産省の調査によると、令和2年の日本国内のBtoC-EC(消費者向け電子商取引)市場規模は、19.3兆円(前年19.4兆円、前年比0.43%減)です。なお、令和2年の日本国内のBtoB-EC(企業間電子商取引)市場規模は334.9兆円(前年353.0兆円、前年比5.1%減)でした。BtoC-ECの市場規模19.3兆円であるということは、B2C市場に含まれるD2C市場の規模は19.3兆円より少ないと判断できます。
全体の市場規模としては以上の通りですが、令和2年は前年より減少しており(830億円の減少)、その理由として新型コロナの感染拡大が影響したものと考えられています。
新型コロナの影響としては、外出自粛の要請やEC利用の推奨などにより、BtoC-EC市場の物販系分野で大幅な市場規模拡大が見られました。他方、主として旅行サービスの利用減少に伴い、サービス系分野の市場規模は大幅減少となっています。
以上の状況により、D2C市場においても同様の傾向が生じている可能性が低くありません。
なお、EC化率(全ての商取引市場規模に対する、電子商取引市場規模の割合)は、BtoC-ECで8.08%(前年比1.32ポイント増)、BtoB-ECで33.5%(前年比1.8ポイント増)と増加傾向が見られ、商取引のEC化の進展が強まりました。
新型コロナの変異株の出現による第6波で感染爆発している現状においては、上記の傾向はしばらく続き、B2CおよびD2C市場の拡大も続くものと予想されます。
*経済産業のHP 「BtoC-EC市場規模の経年推移(単位:億円)」より
②D2C市場の現状と動向
株式会社売れるネット広告社が2020年9月8日(火)に「デジタルD2C」の市場動向調査の結果を公表しています。
この調査結果は、「デジタルD2Cを、ネットメディアを通じて自社ブランドの商品を消費者に直接に販売する事業と定義し、その上で2019年の市場規模を推計し、2025年までの年間の国内市場規模予測」、として公表されたものです。
その内容は、国内のデジタルD2C市場が25年までに3兆円まで拡大すると見込んでいます。具体的には、2020年が22,200億円、2021年が24,100億円、2025年が30,600億円との予測です。
また、上記の公開資料には、「デジタルD2C」市場の成長する理由として以下の点が示されています。
・インターネット、スマートフォンの普及で、消費者はテレビ等のマスから、メディアやSNSなどのデジタル領域で多くの時間を過ごすようになった
・デジタル化の進展により消費者の消費行動に変化が生じ、ECでの商品購入に抵抗がなくなった
・その結果、来店しても商品を買わず、後日ECで買うという購買行動が増えている
・こうした背景で、SNS等を利用することで企業と消費者が店舗を経由せずに直接接点を持つことができるビジネスモデルとして「デジタルD2C」事業が注目されている
・「仲介業者を挟まず、SNS等を通じて消費者と直接コミュニケーションを図ることで、独自の世界観や今までになかった価値観の提案を明確にできるため、新興企業のみならず大手企業も続々と参入している」
1-3 D2Cビジネスに取組むメリット
D2C事業が、企業にとってどのようなメリットがあるのかを見ていきましょう。
①利益率が高くなる
中間流通業者を通さないD2C事業の場合、卸価格以上の値段で消費者に直接販売できるため、商品1個あたりの利益率の増す可能性が高いです。また、卸売業や小売業のチャネルの構築や維持管理にかかるコストも必要ありません。
従来の流通システムでは販売力の強いチャネルを維持するために、流通業者の社員教育(研修)、リベートの提供やプロモーションの提案・指導などが不可欠ですが、D2Cではそうした手間がかからないという利点もあります。
こうしたチャネルごとの対応(卸売業に対するコントロールや小売店での棚の確保等)、商品在庫を含めた管理にかかるコストがD2Cでは不要となるため、利益率が高まりやすいのです。
②人員も最小限度に抑えられる
D2Cの場合、チャネルの開発・維持管理にかかる手間が発生しないため、従来システムに比べ少ない人員でもビジネスが成立します。従来システムの場合、販売網を拡大・強化するためには、開発・維持にかかる人員を確保する必要があり、大きな資本力が欠かせません。
しかし、D2Cならチャネルの開発・維持管理は不要であるため、少人数でビジネスを大きくすることが可能です。特に顧客への対応について情報システムを最大限活用した方法で実施できれば、限られた少ない人的資源で事業を拡大できます。
③ブランド価値の維持向上がコントロールしやすい
D2Cでは、直接消費者に商品をアピールしたり、説明したり、届けたりするため、自社の思い・考えなどを正確に伝えることが可能です。その結果、自社やその商品のブランド価値を構築したり、維持したりするのが従来の流通システムより容易になります。
たとえば、コマーシャルでブランド価値を高めていても、実際に販売されている小売店で安売りされたり、粗雑な陳列をされたりすれば、その商品の高級感は減退してしまうでしょう。
また、販売員が自社商品の優れた効能を理解せずに、他の商品と変わらないような商品説明や扱いをすれば、自社商品の優位性が消費者に認められず、価値が向上しません。
このように従来システムでは介在する流通業者の対応により自社商品のブランド価値が左右されることがありますが、D2Cではブランドコンセプトなどを直接消費者に訴求できるためそうしたリスクから解放されるわけです。
④直接消費者の声を確認できる
主にインターネットを経由した方法になりますが、それでもD2Cの場合直接消費者の声を確認しそれをビジネスに活かすことが容易になります。
従来システムの場合、流通業者が介在するため消費者の声は彼ら経由となり、時にその情報の内容が歪められる可能性が低くありません。消費者の声と言いながら流通業者の希望が大きく混入した内容であることもあり、情報の信頼性が高いとは言えません。
信頼性の低い情報をもとに商品を企画したり、改善したりしても実際のニーズとかけ離れてしまう可能性があり、結果的にそれが事業の低迷に繋がります。
D2Cは直接消費者から情報を引き出すことが容易であるため、収集・分析の方法を工夫することでそれらを最も適切なマーケティング情報に変換しビジネスを成功へと導くことができやすくなります。
⑤直接消費者を囲い込める
D2Cの場合、消費者へ直接的に販売するとともにコミュニケーションを取り関係性を構築することも可能であるため、従来システム以上に優良顧客を囲い込むことが容易です。
優良顧客を囲い込むとは、自社や自社商品・サービスのファンを作り支持を得てその利用を促すことを指します。一旦、ファンになってもらえれば長期に渡る支持が得られ、商品等の持続的な購買が期待でき収益向上に繋がるのです。
卸売業者や小売業者を通じて消費者へ販売する従来システムでは、直接的なコミュニケーションを取る機会が少なく、また弱くなる可能性があるため、ファン化は容易ではありません。
D2Cは消費者と直接接することで、生の意見を聞き、相談に対応したりして人間関係を作り、またそれを維持して売上に繋げられるという利点があります。
⑥マーケティング戦略の自由度が高い
従来システムの中では自社が考案したプロモーション戦略を実施するのが簡単でないケースが少なくありません。そのチャネルにプロモーション等に関する暗黙のルールがあったり、他のメーカーの影響力が働いたりするなど、自社が思い描くような販売促進活動ができないケースが少なくありません。
しかし、D2Cの場合は既存の流通経路を通さないシステムであるため、そうした業者や業界慣習などの影響をほとんど受けません。そのため、D2Cビジネスでは自社の思い切ったプロモーション活動が実施できます。
既存のチャネルでは敬遠されるような独特のイベントの開催、集客方法の実施などが、D2Cでは容易に実施でき売上やブランド価値の向上に繋げることができます。
2 D2Cビジネスの事例から見える事業の特徴と成功のポイント
ここではD2Cビジネスの特徴や成功の重要点を実際の企業例から確認しましょう。
2-1 ダラーシェイブクラブ
●企業概要
・社名:Dollar Shave Club(DSC)
・事業内容等:
2011年に米国・ロサンゼルスで創業したメンズ・カミソリの後発ブランド
カミソリに特別な機能はないが、5年で年間1.5億ドルの売上高を実現し会員300万人を確保
その後ユニリーバに約10億ドルで買収される
●D2Cビジネスの特徴
・DSC社のビジネスモデル
同社は、会員を確保して自社のカミソリを定期購入させるというサブスクリプション型のビジネスモデルを展開しました。月1ドルから購入可能というこれまでの市場では見られなかった低価格で訴求し急激に会員数を増大させることに成功しています。
・差別的なマーケティング戦略の実施
従来のカミソリ業界では、4枚刃や5枚刃などの高機能な商品が主流でしたが機能的な差別化が難しい状況で、収益を確保するにはテレビCMを中心とした活発な広告宣伝が必要でした(販売店の棚を多く確保するためにも)。
こうした莫大な広告宣伝費を賄える企業だけが生き残れる業界の中で、DSC社は圧倒的な低価格と、来店不要で購入できるという利便性を提供する戦略を取ります。
広告宣伝はWEBサイト、動画配信やソーシャルメディアの活用で、スタートアップ企業に適した方法が取られました。ただし、影響力を有するブロガーなどを利用しており、そうしたメディアからの口コミ等により会員数の急増に成功しています。
●成功のポイント
・既存の販売システムの問題点をつく戦略
同社は、既存の業界の競争環境ではスタートアップ企業が同じ戦略で新規参入し成功するのは困難であることを理解し、それを克服するための異なる戦略をとり成功しました。
高性能・高級感のある商品が当たり前の業界に、消費者が低価格の商品を気軽に、便利に買えるシステムで同社は挑んだのです。
・サブスクリプション型のビジネスの提案
一定期間に購入が必要となる消費財はサブスクリプション型のビジネスに適しています。カミソリもサブスクリプションによる提供に適しており、お手軽・利便性を重視する消費者に対して販売店での購入という手間から解放させたほか、ユーザーの囲い込みにも同社は成功しました。
・SNS等の活用
同社の広告用の動画配信(2012年当時)は2,700万回を超える視聴を獲得するほど反響があり、同社ブランドの認知向上に貢献し、成長の原動力になりました。また、著名なブロガーなどを活用した戦略も会員数の増大に繋がっています。
2-2 ワービー・パーカー
●企業概要
・社名:Warby Parker
・事業内容等:
2010年の創業(米国・ニューヨーク)のD2Cのアイウエアブランド(眼鏡ブランド)
2021年9月29日にニューヨーク証券取引所に上場
2021年6月末日時点での店舗数は145店、従業員数は約3,000人、2020年度の売上高は3億9400万ドル(売上高は順調に推移している)
●D2Cビジネスの特徴
・同社ビジネスの主な特徴
同社は高品質・豊富な種類・リーゾナルブな価格のメガネを商品企画から製造・販売に至るプロセスを自社で一貫して実施するD2C事業者です。自宅でメガネを5本まで無料で試用できるサービスを提供し、好みの商品が見つかればECで購入するというシステムで消費者の支持を得るのに成功しました。
・新たなメガネの購入方法の確立・提案
米国では検眼士(医)の処方箋がなければメガネやコンタクトレンズを作れず購入できないため、消費者は検眼士が在籍する眼鏡店へ足を運び高額(処方箋代+レンズ代等)な処方レンズ(メガネ)を求めるしかありません。
同社はこのメガネの購入システムをITの力で打破しました。同社は自宅で視力検査が受けられるアプリを開発し、眼鏡店へ行かなくても眼鏡やコンタクトレンズの購入が可能となる(処方箋が発行される)仕組みを作ったのです。
従来の業界システムの場合、メガネの価格は3万円や4万円といった価格帯が普通ですが、同社の商品は1万円~といった価格で販売されており、購入しやすい価格と実店舗に行かずに購入できる手軽さなどが人気となり売上が伸びました。
●成功のポイント
・既存システムを破壊するようなイノベーティブな発想と行動
長い歴史を有する業界のビジネスに参入する場合、既存のビジネスシステムの中で競争力を維持する古参の事業者が有利です。その中で新規参入して成長を遂げるには、既存システムを破壊するようなイノベーティブなシステムで挑戦することが時に求められます。
同社は利用者目線で既存のシステムの問題・不備を見抜き、そこに潜む顧客ニーズを捉えるための新たなシステムを発想しデジタル技術等を活用して実現しました。
・DX(デジタルトランスフォーメーション)の実践
同社は上記の既存システムをDXによって打破したと言えるでしょう。DXとはIT/デジタル技術による生活やビジネスの変革を指す言葉ですが、デジタル技術でイノベーションを起こしそれによる新たな価値の創造および提供により既存のビジネスを変革するものです。
実店舗の眼鏡店における検眼による処方箋の取得という既存のプロセスをデジタル技術によりアプリで対応できるようにしたのは、まさに同社がDXを実践したと言えます。消費者はこれにより、メガネを自宅にいながらリーゾナブルな価格で買えるようになりました。
2-3 キャスパー
●企業概要
・社名:Casper
・事業内容等:
2014年、米国のニューヨークで誕生した寝具ブランドで、マットレス、シーツ、ベッドフレームなどの寝具関係の商品を扱っている
2014年の発売開始から6年後の2020年に上場を達成
●D2Cビジネスの特徴
・従来の寝具メーカーと異なる、中間業者を省いたビジネスモデル
従来の寝具メーカーが取る一般的なマットレスの販売にかかるプロセスは以下のようになっています。
・消費者の店舗訪問⇒店員との交渉(価格等)⇒店舗での購買⇒配送待ち⇒消費者自身等による搬入・設置⇒引っ越し⇒廃棄
一方、キャスパー社のビジネスモデルでのプロセスは以下の通りです。
・消費者が同社ショウルームへ訪問(訪問しなくてもOK)⇒店員との購買にかかる交渉なし(質問・相談等のみ)⇒オンラインでの購買⇒配送待ち⇒一般的な物流業者による搬入⇒引っ越し⇒廃棄なし
同社の販売システムでは、実店舗での価格交渉や購買決定がなく、消費者はショウルームを訪れて(訪れなくてもよい)品定めしてオンラインで購入します。消費者にとっては店舗で販売員からの販売圧力を受けずに気軽に商品を確認したり選んだりできるほか、気に入らなければ購入する必要がありません。
組立が容易なマットレス(スプリングなしで折り曲げ梱包が可能)であるため、従来のように配送・設置の手間(自分で持ち運ぶか、業者に依頼するか)や負担が少ないです。このネット上で気軽に購買決定できる、扱いが容易であるなどの点が人気を集めました。
また、折りたたんで運べるため、引っ越しする際には自分で梱包して移動が簡単にできるため、従来のように買い替えて廃棄するといった余計な支出を回避しやすくなります。
同社こうした販売システムで従来よりもコストパフォーマンスの高い商品を提供することに成功しており、急激な成長を遂げました。
●成功のポイント
・従来のビジネスモデルとの差別化
(1)スプリングなしのマットレスの開発(差別化できる商品の開発)
スプリングのあるマットレスは一般的ですが、製造や搬送・取扱等の面で手間がかかり、それがコスト高に跳ね返るというデメリットがあります。同社はその欠点を克服するため、スプリングなしのマットレスを開発しました。
(2)従来の販売システムの欠点を解消するモデルの構築
上記に見られるような従来の販売システムの欠点を解消するために、ネット経由の販売を軸にした新たなモデルを構築し、消費者に今まで以上のコストメリットと利便性を提供しています。
従来のモデルは、マットレスは気軽に購入しにくい、搬送に手間がかかりやすい、価格が安くない、引っ越し時の移動が不便であるため廃棄しがちであるなどの不満が存在していましたが、同社はその問題を把握しそれを解決するための商品と仕組みを開発して事業を成功させたのです。
(3)購入を促す仕組み
同社では、100日間の無料トライアル期間の提供、10年保証、使用後のマットレスも返品可能、といったサービスを提供しています。この制度は寝具業界の常識をはるかに超えるもので、リーゾナブルな価格と相まって消費者は購入を促されてしまいます。
(4)ブランド価値の向上
マットレス以外の「睡眠」をテーマとした独創的な商品の開発(その他の寝具や寝室用のライト等)や、インフルエンサーを活用したイメージ向上などに努め、同社のブランド価値を高めています。
2-4 オールバーズ
●企業概要
・社名:Allbirds
・事業内容等:
2016年に米国・サンフランシスコで創業したシューズブランド
環境に優しいシューズづくり、キャッチコピーの「世界一快適なスニーカー」に相応しい履き心地のシューズ、で海外の著名人等も愛用するなど、多くのファンを有する
創業から2年間で約100万足を販売、累計2億ドル以上の出資を受け急成長を遂げる
●D2Cビジネスの特徴
同社は、高級で環境に優しい素材の使用、サスティナブルな製造方法によるシューズづくり、SNSやECサイトを活用した販売方法で成長を遂げたD2C企業です(直営店も有する)。
・高級で環境に優しい素材等の利用
同社は最初から環境に配慮した経営を重視し、羊毛最高品質のメリノウール、ユーカリの樹皮、サトウキビなdの自然素材を利用しています。また、シューレース(靴ひも)にはペットボトルの再生プラスチック、ソールには石油系原料に代えて植物性の材料、梱包にはリサイクルダンボールを使用するといった徹底ぶりです。
・サスティナブルな製造方法
(1)大気中のカーボンを除去するための再生型農業の導入(環境負荷の低いウールの生産、ウール調達先のカーボン排出量ゼロへの取組等)
(2)再生可能な素材の使用
石油系素材の天然素材への置き換え等(持続可能な天然素材とリサイクル素材を75%使用、素材のカーボンフットプリントを25%削減等)
*カーボンフットプリント=商品等のライフサイクル全体で生じる排出CO2の換算量)
(3)エコなエネルギー使用
「より少なく、よりクリーンな燃料・電力の使用」(同社所有・運営の施設における再生可能エネルギーの100%利用、製造プロセスでの再生可能エネルギーの100%利用等)
・SNSやECサイトなどデジタルマーケティング重視の販売方法
同社はECサイトのほか、InstagramやFacebookで消費者とコミュニケーションを取る方法で急成長してきました。もちろん集客するためのSNS広告、サーチエンジン広告、ディスプレイ広告などのデジタル広告、SEO対策、SNSアカウントの運用などデジタルマーケティング全般の適切な運用が実施されています。
●成功のポイント
・業界の常識への挑戦
シューズ業界では「実店舗での販売」「季節ごとのモデルチェンジ」「流通業者を通じた販売」などの常識が存在していましたが、同社は「オンラインによる販売」「季節ごとのモデルチェンジなし」「自社による直接販売」の方針で事業に取組んできました。
両者のビジネスモデルには一長一短がありますが、従来モデルには「店舗に行かなくても手軽に購入したい」「季節に関係なく気に入った商品を買いたい」「もっとコストパフォーマンスの高い商品を買いたい」などの要望が少なからず存在しています。
そうした消費者の表面化しにくい要望を充足することに勝機を見い出して、「オンラインでの販売」「シンプルなデザインと履き心地の良い商品」などを特徴としたビジネスモデルで同社は成長を実現しました。
・サスティナブル消費への対応
エコなモノづくりを行い、それを消費者にアピールしてサスティナブル消費の需要を取込むことに同社は成功しました。流通経路を短縮した販売、環境に優しい素材とモノづくりで高品質でコストパフォーマンスの高い商品を提供して、環境意識の高い消費者の支持が得られたのです。
・適切なデジタルマーケティングの実施
先に紹介したデジタルマーケティングが各国、各地域で適切に実施されています。広告やキャンペーンなどの方法は各国・各地域に任される形態で、各地域に合った方法が提供され収益の向上に繋がっています。
・オンライン購買の障壁の除去
オンラインで靴を購入する場合、購入後のサイズ感やフィット感などの履き心地の点で問題になり得るため、同社は30日間返品可能(一部7日間)という制度を用意しました。この制度では野外で靴を履いて使用した場合でも適用されるため、消費者には購入の不安が軽減され気軽に注文しやすくなっています。
2-5 FABRIC TOKYO
最後に日本のD2Cブランドを紹介しましょう。
●企業概要
・社名:株式会社FABRIC TOKYO
・事業内容等:
事業内容はカスタムオーダーアパレルブランドの「FABRIC TOKYO」の運営
2012年に創業し、「オンラインで自分好みのスーツ・シャツをだれでも手軽に低価格でオーダーメイドできるインターネットサービス」を始める
2018年3月1日に社名を「株式会社ライフスタイルデザイン」から「株式会社FABRIC TOKYO」に変更
2021年9月にはレディース用として、働く女性のためのオーダーウェアブランド「INCEIN(インセイン)」を展開
●D2Cビジネスの特徴
・同社のD2Cビジネスの基本形態
(1)SNSやサイトなどオンラインでブランドを認知させる
(2)それを契機に採寸を行う実店舗への来店を促す
(3)実店舗は関東、関西、名古屋に14店舗が設置されているが、基本的に採寸のみを行い、注文はオンラインで受ける
以上の内容が基本の仕組みです。
・低価格のオーダーメイド・スーツ
オーダーメイド・スーツが39,800円という価格で提供されています。オーダーメイド・スーツといえば、10万円以上もするような高価格で高級なイメージがあり、若い世代にはそうした実店舗へ行くことすら抵抗を感じるかもしれません。
そのオーダーメイド・スーツを同社は、中間業者を通さずに工場とカスタマーを最短ルートで繋ぎ、ECで気軽に購入できる仕組み作り、若者を呼び込むことに成功したのです。
・採寸は3タイプ
基本は来店による採寸ですが、以下の2つの方法も用意されています。
*2022年2月現在、来店による採寸の受付は一時停止中で、代わりに同社のコーディネーターが採寸に伺うという方法が取られています。
(1)送って採寸
希望者が自身のスーツやシャツを同社へ送ってサイズを登録する方法です。
(2)自分で採寸
希望者が自身でスーツやシャツのサイズを採寸して登録します。
上記(1)と(2)の方法は、「送る」や「自分で採寸する」という手間がかかりますが、来店不要で注文が可能となるため便利です。
●成功のポイント
・オーダーメイド・スーツに関する購買の障壁の打破
オーダーメイド・スーツは高価格・高級で実店舗でないと購入できないといったイメージで気軽に購入できない印象があり、特に若者には近寄り難い商品に感じられます。
同社はオーダーメイド・スーツを低価格、ECで購入という仕組みを作り、若者等が抱いていた印象を払拭し購買に対するハードルの高さを下げることに成功したのです。つまり、既存の業界システムの問題や隠れた消費者の不満を捉え、同社はそれを解決する手段として上記のシステムを考案しました。
・デジタル世代に適したシステムの提供
価格が低価格或はリーゾナブルであること、実店舗で店員の販売攻勢に合わないこと(購入を強いられないこと)、ECサイトで気軽に購入できること、自宅だけでも採寸から購入まで可能なこと、といった仕組みは特にデジタル・ネイティブ世代のニーズに適しています。
・優れた顧客体験の提供
「自分に合うスーツが欲しい」という顧客の要望を叶えるため、素晴らしい顧客体験を提供するために、以下のことを特に注力されています。
採寸をきめ細かく行う
顧客の好みを反映できるように対応する
ECサイトで気軽に購入できるようにする
カスタマーサポートで迅速な対応を行う
ウェブ接客での対応を充実させる
こうした顧客体験を向上させるシステムを実施して同社のファンを増大させているのです。
3 D2C事業で成功するための重要ポイント
これまでの内容を踏まえて、個人などが起業・会社設立してD2C事業を開始し成功するためにはどのような点を重視して取組んだらよいかについてまとめてみましょう。
3-1 D2C事業のブランド化
小資本の個人が会社設立して既存の業界で生き残り成長していくためには、他社との差別化が不可欠です。その有効策の1つが自社および自社商品・サービスのブランド化になります。
既存の商品のタイプであっても、そこに他社とは一線を画する性能、独創性やこだわり等を表現・提案・創出することで、特定の顧客層の熱烈な支持を得ることも可能です。
消費者の中には、自分の個性に適した機能、デザインや感性にフィットする商品・サービスを求め、他者との違いを表現しようとする方も少なくありません。そうしたこだわりのある顧客層を対象にした商品・サービスを開発・PR・販売することで起業後間もない会社でもブランド力を保有できます。
そのためには業界のライバルには見られない独自の発想や自身のこだわりをビジネスモデルに昇華して消費者等にアピールすることが不可欠ですが、適切な方法を取れば小資本の会社でも十分に実現可能です。
3-2 業界の欠点や常識を打破する着想
独自の発想・こだわり等をビジネス化する際、業界の欠点や常識を打破する着想が1つのポイントになります。
古くからの業界のビジネスシステムの中には顧客やユーザーが不満に思っていることや、「もっとこんな商品やサービスがあればいいのに!」というような要望が見え隠れしていることが少なくありません。
しかし、既存の事業者は業界の常識となっているシステムを破ることなく、これまでのやり方で商品・サービスを提供するのが一般的です。
また、そうした既存の業界システムの中にはチャネルの構築・運用といった小資本の個人や企業には不利なることも多いため、彼らが同じシステムで勝負して勝利するのは容易ではありません。
そのため個人等の新規参入者が勝利するには、既存のシステムと異なる方法で挑戦することが重要となり、従来システムに隠れた課題を掘り起こし特定のニーズに対応するビジネスの発想が求められます。
ビジネスの成功の重要ポイントは、ユーザーが抱える問題の発見と解決を提案・提供することです。そして、それはD2C事業を着想する場合も同じであり、その点を既存の業界のシステムの不備や欠点に求めることは成功のカギの1つになり得ます。
3-3 デジタル技術の活用
従来の業界システムの常識を覆すようなビジネスモデルを構築する場合、今日では高度なIT、デジタル技術の活用が重要です。先に紹介したデジタルトランスフォーメーション(DX)の活用などがその良い例と言えるでしょう。
既存の業界では、長期に渡って継続されてきた流通システムや販売方法などが存在します。長く持続されてきた理由は様々にあるでしょうが、技術的・物理的に代替が困難になっているケースも少なくありません。
たとえば、メガネ、靴や衣服などの商品は実際の店舗へ足を運び、自分でサイズや感触等を確かめたり、検査してもらったりといった行為が必要です。つまり、既存の業界の中には、物理的・技術的等の理由から実店舗で販売するのが当然という常識が多く見られます。
こうした困難さもIT/デジタル技術等や斬新なサービスなどで克服することが可能です。DXと言われるようなイノベーションを起こすデジタル技術の活用は簡単ではないですが、一定のデジタル技術とサービスを組み合わせることで従来システムの欠点を解消できることもあります。
また、デジタル技術の活用は、買手に対しての個別最適化の実現に有効です。従来ではターゲットを層別してそれに合わせた商品を開発し提供する形態でしたが、D2Cではデジタル技術を駆使すれば、顧客が望む最も近いものを提案・提供することも可能です。
たとえば、化粧品の場合、顧客の肌の状況、好みなどの情報を聞き取りそれに適した商品を調合して提供するという仕組みをデジタル技術の活用により実現するといった仕組みになります。個別最適化はユーザーにとって価値の高いサービスであり、既存のライバルとの差別化にも有効です。
IT/デジタル技術の進歩はまさに日進月歩であり、様々な技術が誕生してきているため、開発が困難と思われてきたシステムもやがて実現できる可能性は増していくでしょう。そのため、「従来の方法を解決できるデジタル技術が登場していないか」という目でITの進展を随時確認する姿勢が必要です。
3-4 適切なデジタルマーケティング戦略の実施
D2Cビジネスでは、消費者に直接商品やサービスを提供する形態であるため、インターネットを活用したマーケティング活動が有効な戦術になります。そのためいかに自社に適したデジタルマーケティング戦略を考案し実施できるかが事業の成功を左右します。
起業して間もない知名度のない会社が既存の業界で生き抜くためには、一刻も早くターゲットに自社を認知させ、自社のECサイトへ呼び込む流れを作り、商品等を購入してもらわなければなりません。
そのためには、ネット上に数多存在するライバル企業の商品等の中から自社を発見してもらい、サイトに訪れ商品等を気に入ってもらい、試しに使ってみようかと思わせ、実際に購入してもらう、といった一連の仕組みをデジタルマーケティング戦略として実施することが必要です。
単に自社のホームページに販売するためのページを設置するだけでは、ターゲットどころかアクセスそのものが増えず、売上も伸びない状況になってしまいます。
ターゲットの自社や自社商品等への認知や集客、サイトでの滞在時間の長期化や購入したくなるための工夫、購入をプッシュする仕掛けの設置、購入後の関係性の維持や囲い込むためのコミュニケーション、ビジネスを改善するためのユーザーの声の収集などをデジタルマーケティングとして実施することが不可欠です。
3-5 顧客の支持を得るSNS等の活用
デジタルマーケティング戦略の一環としてSNSの活用はD2Cビジネスでは特に重要になります。なぜならD2Cでは顧客とのコミュニケーションの取り方が事業の成功に大きく影響するからです。
若い世代を中心に現在の消費者は購買に関わる情報をネット上で探索するケースが主流になっていますが、特にSNSの情報が購買の意思決定に結び付くケースが少なくありません。
ツイッター、インスタグラム、フェイスブックなどのSNSでは、登録者数の多いインフルエンサーからの発信により特定の商品・サービスが爆発的に売れるケースも多いです。
SNS上で誰かが自社のECサイトやSNSサイト(インスタグラム等)を紹介してくれると、その紹介が他の紹介を呼び込み、急激にサイトへの訪問者数が増大することも珍しくありません。
また、SNSはユーザーやファンとのコミュニケーションを取るのに優れており、関係性の構築・維持に有効です。ターゲットに直接自社のビジネスに対する思い、熱意やこだわりなどを伝達することができ、改善に有効な意見や批判なども直接入手できます。
インスタグラムでは2018年6月から投稿画像から直接ECサイトで購入できる「Shop Now」というショッピング機能が導入され、投稿を見て気に入った利用者がそのECサイトへ直接移動して購入できるようになりました。
こうしたSNSでの販売をアシストする機能などを有効活用して知名度とともに商品等の売上の拡大を図ることも重要になっています。
4 D2Cビジネスの進め方のポイント
個人や事業者がD2Cビジネスで起業・会社設立する、事業を始める場合の進め方のポイントを説明しましょう。
4-1 D2Cで成功するビジネスモデルの構築
最も重要な点は、D2C事業として成立する、成功できるためのビジネスモデルを作り上げ、それを実施するためのシステムを適切に運用していくことが求められます。
①D2Cビジネスのアイデア
全てのビジネスの出発点はそのアイデアを発想することで、D2Cでもそれは同様です。具体的には、個人のこだわり、業界の問題点、ユーザーの不満や要望(もっと便利で早く安いビジネスへの要望等)などをビジネスのアイデアとしてまとめていきます。
事例にあったように、シューズ業界では店舗へ来店して、見て・試着して購入を決定するという手間が消費者にかかりますが、ネット利用を含む新たなサービスでその手間を解決できないか、といった発想がD2Cビジネスに繋がりました。
メガネ事業の例では店舗での検眼が業界の常識で、それが商品価格を押し上げるという潜在的な不満が消費者にありましたが、検眼をネット上で済ませ来店不要での購入ができないか、という発想が新ビジネスに繋がっています。
こうした既存の業界の問題点を解消する着想のほか、個人の商品・サービスに対するこだわりや思いをビジネスアイデアの着眼点にするケースも多いです。自然に優しい、環境負荷の少ない商品を提供したい、社会課題を解決するサービスを行いたいなどの思いをもとに発想されるケースがよく見られます。
②ターゲットの設定
次はアイデアを事業化するために、業界やユーザーを調査・分析し、ビジネスの対象とするターゲットを設定しなければなりません。なぜなら、たとえ業界の問題点を解決する、自身の思いを具現化するアイデアであっても、商売相手のニーズに合致しなければビジネスとして成立しないからです。
既存の業界システムに不満を抱くユーザーがどれくらい存在するのか、その不満を解消する新ビジネスをどれくらいのユーザーが支持してくれそうか、自身のこだわりのある商品やモノづくりなどに共感してくれるユーザーは誰なのか、といった調査・分析が必要になります。
そして、そうした調査のもとに自社がビジネスとして主に対象とするターゲットを特定するのです。業界のライバルよりも自社を選び、そしてファンになってくれそうな層をターゲットとして明らかにしなければなりません。
限られた資源であっても明確なターゲットを設定することで効率的かつ効果的なビジネスの仕組みを作り実施することが可能になります。
③ビジネスコンセプトの設定
ビジネスコンセプトとは、「ビジネスとして、誰に、何を、どのように提供するか」を端的に表現する考えです。つまり、アイデアをもとに誰をターゲットとして、どのようなビジネスを行うのかを簡単に表現することがビジネスコンセプトになります。
たとえば、メガネ事業の例の場合、「メガネへ来店せずに手軽に、そして安く購入したい消費者に、ECで購入できるようにするビジネス」と表現できるでしょう。
また、シューズ事業の例では、「環境意識が高く、素材や履き心地などのこだわりがあるユーザーが、ECで気軽に購入できるビジネス」といった内容になります。
④ビジネスモデルへの昇華
ビジネスコンセプトの設定後、より具体的なビジネスの内容へ昇華させるビジネスモデルの構築が必要です。具体的には、誰に、何を、どのように提供するのか、の点をもっと具体的な内容で固めていきます。
D2Cビジネスの場合、消費者に直接アプローチするためその視点を軸にビジネスを組立てなければなりません。なお、消費者との接触にはフェーストゥフェースのほか、ネット上のコンタクトも含まれますが、個人の起業者にとっては投資負担が比較的小さいネット販売が重要になります。
そのためECを中心とした販売システムを中心にビジネスモデルを考案するケースが多いです。また、デジタル技術を駆使して仕組みのコアを作るケースもよく見られます。
たとえば、メガネ事業の例では「検眼をアプリで行い処方箋レンズをネット上で購入できるシステム」、化粧品事業などでは「アプリで自分の肌に合った化粧水を入手できるシステム」などです。
ユーザーの問題・悩み・要望を解決する、という仕組みをデジタル技術で実現しその商品・サービスをネット経由でユーザーに直接届けるシステムが多く見られます。
ビジネスモデルは、ターゲットに対してそのニーズを具体的にどのように捉えていくかをまとめた内容になりますが、D2C事業ではネットやデジタル技術の活用が特に重要となっているのです。
⑤ビジネスシステムの展開
ビジネスモデルを実際のビジネスとして進めるためには、モデルの内容を実際に稼働させていくビジネスシステムを作り運用できるようにしなければなりません。
一般的にはマーケティング戦略を中心としたシステムを構築していくことになりますが、D2Cビジネスの場合では特に以下のような肝となる部分について念入りに作り上げていく必要があります。
・既存の業界の問題点を打破する、潜在するニーズを捉える「技術、商品や仕組み等」の開発
(例で言うと、ネット上で検眼できるアプリの開発、サスティナブルなものづくり体制の整備、長期のお試し期間と返品可能の保証サービス、低価格・定期購入による提供 等)
・商品やサービスを作り出せる、提供できる体制の整備
(開発人員の獲得、材料等の入手ルートの確保や生産体制の整備 等)
・ブランドの構築、認知拡大
・ターゲットの集客や購入促進の仕組みの構築
*後の2項目については、ECサイトの制作、ネット広告・SNS広告、SEO対策、SNSを活用したターゲットの囲い込みなどのデジタルマーケティングを中心とした取組などになります。
4-2 D2Cビジネスを進める際の注意点
D2Cビジネスにもデメリットがあるため、事業を進める際にそれが障害にならないように注意しましょう。
①ECサイトの構築・運用のコストと手間
D2Cビジネスでネット販売を主力にする場合、ECサイトの構築や運用に少なからぬコストと手間がかかる可能性があるため注意が必要です。
D2Cビジネスでは実店舗を持たない或いは最小限で保有するといった形態が多いことから初期の投資や人員確保などの負担が小さく済むと考え事業をスタートする方もおられるでしょう。
実際、ネット販売のシステムを自分で構築・運用できれば費用を最小限度に抑えることも可能ですが、その知識や経験が少ない方にとっては時間がかかり過ぎる上に適切なシステムを作れないということになりかねません。
まったく知識のない方はシステムを外注することになりますが、内容によっては相当なコストがかかる可能性もあります。
わかりやすく使いやすい、そして魅力的で購買を促せるようなサイトを構築することがD2Cでの重要な成功要因の1つになるため、一定のコストを費やしてでも満足のいくシステムの構築が必要です。
そのためそうした納得のいくシステムにどれだけのコストがかかるかを事前に把握し資金を調達する取組が求められます。
②ブランディングの難しさ
世の中に認知されていない商品・サービスを市場に投入して収益を増大させるためには自社および商品・サービスのブランド化が欠かせません。しかし、このブランディングは容易ではなく、知名度が上がらず売上が一向に伸びないというケースはよく見られます。
ブランド価値を有するとは、その名称を聞くと高品質、高性能、優れたデザイン性や高級感といった印象が想起され、その商品を保有することで満足感や優越感といった感情をわき起こさせる力を商品等が有することにほかなりません。
そのため商品等にブランド力が備わると、その価値によって集客が可能となり、多く売れる、高く売れる、といった効果が得られ、新しいビジネスでも成長を早めてくれます。
しかし、このブランディングが簡単ではないのです。ターゲットに商品等を認知してもらうための適切なデジタルマーケティングを行い、その商品等の魅力をアピールしなければなりません。
もちろん単に広告量を増やすという行為だけでは不十分で、「こんな機能があるのは驚きだ」「今まで経験したことないサービスだ」「手軽に利用でき自分にピッタリだ」「身につけてみてその感触をためしてみたい」といった興味を抱かせるアピールや伝達が不可欠です。
そうした訴求のためには、魅力的なECサイトの運営、効果的な広告、SNSを通じた情報発信やインフルエンサー等を利用したPRなどを適切に実施していくことが求められます。
動画配信やSNSを利用したPRは、はまれば爆発的な情報拡散に発展し知名度の急激な上昇と売上の増大をもたらしますが、思い通りにいかないことも少なくないため、試行錯誤による地道な改善も欠かせません。
③DXなどの競争優位性を確保する困難さ
いくらターゲットへの認知や集客にある程度成功しても、提供する商品・サービスに魅力となる競争優位性がなければ、ブランドの形成や収益の増大に繋がりにくいです。
他社の商品以上の価値が自社商品にないと、不特定多数のみならずターゲット層に対しても支持を得るのは簡単ではありません。たとえば、DXを駆使して構築したビジネスモデルなら他社にない価値をターゲットに提供できファンを獲得しやすくなります。
業界の常識(昔からの商慣行等)を、アプリを中心としたシステムで覆しターゲットにコスト削減、利便性や時間短縮などを提供できれば、自社の商品およびその提供のシステムは受け入られ、ブランディングも容易です。
しかし、こうしたDXなどの優れた競争優位性を確保するのは簡単ではありません。既存の業界のビジネスシステムの問題や不備などを把握する、そうした点にどのようなニーズが潜んでいるかを分析する、そして、何よりそれらを解決する手段についてデジタル技術を含む新たな仕組みを考案し実現する必要があります。
その実現のためには、業界システムについての深い分析、ユーザーの不満や多様な要望を収集する姿勢、問題解決に向けたアイデアの発想、アイデアを具現化するための能力・資源の確保とその実行などが不可欠です。
しかし、こうした競争優位性のある仕組みを作りだすのは容易でないため、実現に必要な内容やプロセスをもとに能力や資源を明確にして、計画的に確保し作り上げる努力が求められます。
また、あまり強力な競争優位性にこだわり過ぎて開発が長引くと勝機を逸することになりかねないため注意が必要です。
④低品質の物流システムによる悪影響
D2Cでは商品を顧客に直接販売しますが、ネット販売の場合は主に物流業者を通じての納品になります。その場合、実店舗で購入するケースよりも入手に時間がかかるため、それが長すぎると買手の不満を招くことになりかねません。
在庫のある商品の場合は、発注から納品までのリードタイムを最短で設定し厳守できる体制を整え実施していかないと、いくら商品に魅力があっても時間がかかり過ぎると顧客離れを引き起こすこともあります。また、商品梱包も適切に行い、商品が破損したり汚損したりしないような丁寧な取扱も不可欠です。
物流業者を使用する場合には自社の物流方針を理解し厳格に実行できる業者を選択するとともに、その運用状況を定期的にチェックするといった管理が求められます。
また、生産リードタイムを短縮することも重要になります。在庫のないオーダーメイド的な商品の場合、納期が長時間に及ぶケースは少なくありません。この場合でも業界の常識やライバル会社の納期よりも遅くなれば、顧客の支持を失いブランド価値を損ねる恐れが生じます。
「オーダーメイドでもこんなに短納期なのか」と顧客が驚くような納期で提供できるように生産リードタイムの短縮化に取組み、この面でも差別化できるように努めましょう。
5 まとめ
D2Cビジネスはターゲットに直接販売するため、ECサイトの構築と運用、直接的なアプローチやコミュニケーションの仕方が成功のカギになります。
たとえば、ECサイトを設置するだけでは売上への効果は低く、自社商品の知名度を上げるブランディングなども必要です。そして、そのためのネット広告やSEO対策、SNSを通じた情報発信とターゲットとのコミュニケーションなどが欠かせません。
差別的で魅力のある商品・サービスを提供できる仕組みを構築し、適切なデジタルマーケティングを駆使して、ネット上に数多存在する商品の中から自社を選び購入してもらえるD2Cビジネスを作ってみてください。