求人情報サイトを運営するディップ株式会社がまとめた学生起業社数によると、1位は東大で14社、2位は慶応義塾大学9社、3位は早稲田大学7社、4位は立命館大学4社、5位は近畿大学と筑波大学と立教大学の3社同数(2019年)となります。

最近、東京大学の「Tech EDGE NEXT」や慶応義塾大学の「藤沢イノベーションビレッジ」などの大学が大学生の起業をサポートするプログラムを運営するケースが増えています。また前述のディップが運営する学生スタートアップ特化型アクセラレータープログラムである「GAKUCELERATOR」やビジネススクールとビジネスコンテストが融合する学生起業家輩出プロジェクトである「KBBNEXT」など、様々な学生起業家を支援する大学外の企業やプロジェクトもあります。

そこで今回の記事では、日本全体の企業数の減少傾向が続く中で最も必要とされている新しいサービスや価値を生み出す可能性が高い学生起業について、メリット・デメリットや時間のない学生が困らないための会社設立のポイントをまとめたので、ご参考ください。

1 学生起業について

学生起業について

学生起業とは、学生時代に事業を始める事をいいます。日本で有名な学生起業家といえば、ソフトバンクグループの創業者の孫正義氏や、ライブドアの前身であるオン・ザ・エッジを創業した堀江貴文氏などがいます。また、アメリカは学生起業のスケールが日本とは比べて大きくなっています。

例えば、現在の世界のITやビジネスの先頭を行くGAFA(google/Apple/Facebook/Amazon)の創業者のうちでも、Facebookのマーク・ザッカーバーグは在学中にFacebookを設立しています。また、Appleのスティーブ・ジョブスは大学を中退した後に、Appleを設立しています。さらにGoogleを創業したラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンは在学中に出会い、検索エンジンの研究を行っています。

さらにMicrosoftのビル・ゲイツやDellのマイケル・デルやスペースXのイーロン・マスクなども学生起業家になります。
海外のITベンチャーの多くは若くして起業するイメージが強く、その中でも大学自体からすでに起業をするないしは起業のアイデアを得ている事が多くあります。

1-1 日本の起業実態

日本全体の企業数は2012年が386万者だったのに対して、2016年には359万者へ▲27万者に約7.0%減少しています。その内訳は2012年から廃業が83万者で開業が46万者になります。日本の企業数は減少傾向が続いています*。

日本全体が少子高齢化になっているため、起業家の年齢構成も高齢化が進んでいます。以下は男性女性別の起業時の起業家年齢構成推移**になります。男女ともに39歳以下が減少して、60歳以上が増加している傾向が分かります。特に男性においては、サラリーマンなどの勤め先を定年した後に起業する事が多くなっています。

結果、起業家の平均年齢は男性で39.7歳(1979年)から49.7歳(2012年)に10歳上昇しています。同様に女性も37.1歳(1979年)から44.7歳に(2012年)に約8歳上昇しています。

男性 39歳以下 40~49歳 50~59歳 60歳以上
1979年 57.0% 19.3% 15.3% 8.4%
1992年 43.6% 19.6% 17.5% 19.3%
2012年 30.7% 17.5% 16.8% 35.0%
女性 39歳以下 40~49歳 50~59歳 60歳以上
1979年 63.2% 21.8% 10.4% 4.6%
1992年 59.5% 21.9% 11.4% 7.2%
2012年 43.4% 21.2% 15.0% 20.3%

(資料:総務省『就業構造基本調査』より)

〇国際的な比較

国際的な比較によると、アメリカ・イギリス・ドイツ・フランスと比較すると以下のように開業率が相対的に低いといわざるを得ません。

一方、起業に関心がない“起業無関心者”の割合も各国と比較して低い事が分かります。各国は20~40%の範囲内であるのに対して、日本は77.3%(2012年)と大きく各国と乖離しています。また、起業を希望する人の中で起業活動を実施する人の割合は各国と同程度になっています。

アメリカ イギリス ドイツ フランス 日本
開業率 9.3% 14.3% 12.4% 7.3% 5.2%
起業無関心者割合 22.9% 36.0% 30.6% 39.2% 77.3%
起業関心者の起業活動割合 20.0% 13.0% 15.0% 9.0% 19.0%

さらに、起業後5年経過時点の企業生存率***は以下になりますが、日本が他国と比較して非常に高い事が分かります。

アメリカ イギリス ドイツ フランス 日本
5年後起業生存率 48.9% 42.3% 40.2% 44.5% 81.7%

つまり、欧米と比較すると日本においては起業割合や起業を検討する人自体が少ない状況ではありますが、事業継続している企業割合は高い状況を表しています。

起業に関心が低い点は、日本の教育や環境が既存の企業に入社し就業規則に則って決められた業務に従事する働き方に向いているという見解があります。

*中小企業庁『2019年度版 中小企業白書』より
**中小企業庁『2017年度版 中小企業白書 中小企業のライフサイクル』より
***起業した企業を母数として、一定期間経過後に事業継続している企業の割合をいいます。

1-2 学生起業をサポートしてくれる機関

学生の起業意欲を割合でみると増減を繰り返してはいますが、増加傾向*になります。
起業をしたいと考える希望者のうち、在学中の割合は2.9%(1979年)から4.2%(2012)へ1.3%増加しています。割合でみると大きくはありませんが、増加率でみると44.8%の増加となります。

また、起業家の年齢別で見たときに、若い起業家ほど事業を大きく成長させたい、安定的に成長させたいという成長を求める傾向が強くなります。一方で、60歳を過ぎてからの起業はスモールスタートで維持を目指すような形が多くなっています。以下は年齢別にみた起業後にどのような成長を目指すかの調査結果になります。
起業年齢が若くなるほど、高い成長や安定的な成長を希望する割合が高くなっているのが分かります。

≪起業家年齢別 希望成長パターン比較≫

起業年齢 高度成長 安定成長 持続成長
34歳以下 12.9% 60.9% 26.2%
35~59歳 10.2% 55.7% 34.1%
60歳以上 7.3% 49.8% 42.9%

*中小企業庁『2017年度版 中小企業白書 中小企業のライフサイクル』で詳細は確認できます。

つまり、日本経済の新陳代謝を進めて経済成長を促すためにも若い起業家を育成する事は日本全体の課題の一つになっています。また、最も若い層である学生起業をサポート・促していこうとする組織やイベントを記載します。

起業をする上で重要な情報収集やネットワーク構築や、事業を行う段階で必要になる資金繰りの助けを得られる可能性があるため、積極的な利用が求められます。

〇学生限定の起業支援プログラム「GAKUcelerator

東証一部上場のディップが提供する少学生から大学院までの全ての学生スタートアップに特化したサービスです。支援課ネットワークや20万件を超す企業データによるサイト開発やマーケティングノウハウをサポートします。また自社の審査を追加したサービスは最大1億円の出資や事業提携を行えます。

〇筑波学園グループを母体としたインキュベーションセンター『ハッチェリー

インキュベーションとは、起業や創業を支援する活動をいいます。長期的視点で企業育成を行い、『地の利』『人の利』『時の利』を重視したプロフェッショナルサービスを提供しています。また、日本経済大学をはじめとする日本全国に53の大学や専門学校を運用する筑波学園グループが運営しているため、教育の延長にあるベンチャー育成・支援を実現しています。

なお、ハッチェリーから育ったベンチャーは数多くあります。ハッチャリー出身の企業では、日本最大のコスメ・美容の総合サイト@cosme(アットコスメ)を運営する株式会社アイスタイルや、微生物のユーグレナ(ミドリムシ)で世界を変える事を目指してエネルギーや環境改善を事業とする上場会社株式会社ユーグレナなどがあります。他にも株式会社レノバ(旧:株式会社リサイクルワン)や株式会社オーシャナイズなどもハッチャリー出身になります。

〇1996年から続く学生100名の合宿型ビジネスコンテスト『BUSINESS CONTEST KING

学生であればだれでも応募が可能なビジネスコンテストである事と、7泊8日の長期間の合宿形式で行われるコンテストである事が特徴です。チームメートと共に合宿期間中にビジネスプランを作り上げていく濃縮された時間が思考力の強化や気づきや出会いを生み出します。

〇大学生の“変態”を支援する『海外ビジネス武者修行プログラム

累計3,477名(2019年夏まで)の海外インターンシップ受入実績を持つ大学生向けアジア新興国インターンシップを行うプログラムになります。
このプログラムのためにベトナムに10店の店舗を経営しており、この店舗で立案したビジネスプランを展開する事ができます。そしてお客様のリアクションを直に確認する経験ができます。

今後日本だけではなく、海外に向けて事業展開を考える学生起業家にマッチするプログラムになっています。

〇学生が起業を学ぶビジネススクール『WILLFU

起業スキルを学ぶことや実際の起業体験から、学生の成長速度を引き上げる事を実現させます。また、ビジネススクールを卒業する時点では“経営スキル”と“起業イメージ”と“プロフェッショナル達に磨かれた事業プラン”が揃った起業準備が整った状態になる事を実現します。

また、本気の学生起業家のための“フルコミット居住空間”WILLFU STARTUP VILLAGEもあります。これは、学生起業家のためのシェアハウスになっていて、ワークスペースやミーティングスペースもあるため、企業後の事務所コストが不要になります。

2 学生起業のメリット・デメリット

学生起業のメリット・デメリット

企業自体は簡単ではなく、苦労も多いです。“苦労は若いうちにしろ”ということわざがありますが、起業も学生のうちにする事はメリットが大きいです。
一方で、デメリットもあります。学生起業が成功するように、デメリットの影響が小さくできるようにデメリット対策もあわせて解説します。

学生起業のメリット・デメリット

2-1 リスクが抑えられる

年齢を重ねていくうちにやらなければいけない事が増えていきます。学生の本文は勉強です。大学生であれば講義やその予習や復習等になります。文科省によれば、学生が1日の中で勉強に充てる時間は4.6時間と少ない事が分かります(文部科学省「学生の学修時間の現状2007」より)

社会人になって5時間も働かない人は稀です。学生のうちは自由にできる時間が多いという点があります。また、社会に出れば自分自身や家族を養うために働く人も多くなっていきます。社会人になって会社を起業するという事は、会社に就職する機会や給与を手放す事になります。

会社員であれば安定的な給与や仕事があります。一方、起業するという事は自ら仕事を獲得し、商品やサービスを納品しなければ売上はあがりません。事業が軌道に乗るまでは収入より支払いが多くなるいわゆる赤字状態が続く事もあります。

つまり、起業するという事は「安定的な収入を得る機会を捨てて、不安定な収入になる道を選択する」といえなくもありません。具体的な数値を用いると、毎月40万円の手取りがある会社員が起業し、月々10万円の赤字になってしまっている場合には、40万円分の機会損失と10万円の損失で合計50万円を失っていく計算になるという事です。

一方、学生時代であれば、バイトをする機会を失う程度で大きな損失にはなりません。起業をするために会社を辞めて時間を捻出する必要がない学生起業は、社会人になってからの企業と比較してかなりローリスクであるといえます。

2-2 リカバリーがしやすい

2020年3月現在では、学生の就職は売り手市場が続いています。現在の少子高齢化の日本において、新卒採用は売り手市場=学生が有利な状況が続いています。そのため、仮に起業はしたものの事業継続を諦めて新卒で社会に出るという選択肢もあります。

また、起業したこと自体はPRポイントになります。面接のときだけではなく、実際に会社で勤務を開始してからも起業や事業実施の経験は主体性の発揮や問題発見など役に立つ機会があるはずです。特に、企業に入社後は横ならびでスタートする新卒の評価で、起業・事業を行った経験は違いを生む要因になります。

その結果、責任ある仕事を任される機会が増える事や、上司から良い評価を得る事もあるかもしれません。

また、仮に事業を精算して借金が残った場合にも、20代前半で返済を開始できるため、同じ額を返済するのであれば返済期間が長く取れるため学生起業は、社会人になってからの起業よりリカバリーの難度が低いといえます。

2-3 利用できるものが多い

学生起業では大学の設備やゼミの協力などを受けられる場合があります。例えば、大学においては集まる場所は困りません。また、パソコンやインターネット環境やコピー機などの通信機器もあります。大学には事務所として必要なものはほぼ揃っているといっても過言ではないといえるかもしれません。家賃や通信費などの固定費は開業時には大きな負担になります。それが必要なければ大きなメリットになります。

また、人的な部分でいえばゼミや大学の仲間の協力もあります。学生向けのビジネススクールやビジネスコンテストもあります。事業を行おうとすると様々な出会いがあります。また、しがらみのない学生だからできる仲間とのつながりは、社会人になるとなかなか取り返せない部分です。

また、学生起業家は社会人からも注文や応援を得やすいという点もあります。起業自体少ない中で学生のうちから起業を行うという事自体、志や意識が高いといった評価や支援をひきだしやすくなります。起業自体やその後の事業運営において、必要となってくる資金やアドバイスや協力を得やすいのは大きな違いを生みます。

2-4 実績がない

デメリットの段になると、社会人と学生を比較して最も不足しているのはビジネスの実績です。「習うより慣れろ」という言葉はビジネスの世界でも同じです。分かっている事とできるという事の違いに学生起業家は悩まされる事になります。いくら優れたビジネスモデルや商品アイデアがあっても実現できなければ売り上げはあがりません。また、商品やサービスができ上がったのちは、それをどのように世に広めていくか、という課題もあります。

学生起業家はこれらの事を全て初体験の中で陣頭指揮を執る必要があります。実際にビジネスを行ったことがあれば、経験に基づく判断ができます。しかし、経験がないため一つずつの事に根拠を持った判断をしていく必要があります。

間違いを少なくするために、経験のある人を採用する事も一つの手段です。しかし、自分でやろうとするならば、一つずつ着実に実施していくしかありません。経験がない中、自分ですべてやっていく事は、前向きに捉えれば前例や慣習に捕らわれにくいという事もいえます。

2-5 資金調達が難しい

資金調達が難しい

一般的な起業において用意する事が望まれる資金の目安は、不動産業や飲食業など初期投資が必要な業種で1,000万円から、その他の初期投資が不要な業種で500万円からとなります。このうちで貯金や株式などの自分で用意する“自己資金”の割合が、1/2程度になります。残りは金融機関や日本政策金融公庫からの融資や、知人・友人・家族などからの出資や投資家からの出資などを利用して資金を集めなければなりません。

社会人であれば退職金やそれまでのサラリーマン生活で起業の準備のために自己資金をコツコツと貯める事も可能です。一方で、学生起業家には退職金はありませんし、アルバイトなどを除けば元々収入が少ないため貯められる自己資金も多くありません。
また、融資を受ける事は簡単ではありません。創業や起業時点の融資を行う上では、以下の4点を中心に審査が進められていきます。

  • ・自己資金の金額
  • ・経営者の職務経験・ナレッジ/ビジネスモデル
  • ・代表者の個人信用を含めた返済能力
  • ・資金使途

前述のとおり、自己資金は起業時点で必要とされることが予想できる資金の1/3以上を自己資金で用意する事が審査上求められます。しかし、前述のとおり学生起業の際には自己資金が多く用意できない事が一般的です。
また、経営者の職務経験は5年程度が目安になってきます。この点も学生起業家には実務経験に基づくものはありません。

また返済能力は、JICCやCICなどの個人信用情報機関の登録情報を確認します。学生時代は金額の大きい借り入れ自体の経験が少なく、信用情報機関に登録されている返済実績がない事も一般的です。このような理由から、学生起業家にはまとまった金額の融資は通りにくいのが現実です。

学生起業においては、できるだけ計画する事業資金を抑える事が必要になります。借入を行わなければ開始できないような初期投資が必要な事業プランではなく、いうほど簡単ではありませんが初期投資が不要で支出が少なく入金サイクルが早いビジネスモデルを見つける事が望ましいです。

また、通常の起業では取引先を獲得する際や採用を行う上で多少の見栄が必要になる場合もあります。しかし、学生起業には見栄は不要です。元々資金が少ない事は想定範囲であるため、事業資金が少なく見えてもマイナスの影響は限定的です。そのため、前述の学生起業のメリットを生かして、できるだけコストを抑えるべきです。

そのうえで、ビジネスコンテストやその他の方法を用いて投資家や出資をしてくれる人を探していく事が良いでしょう。事業計画に基づく資金計画から計算して起業時点で必要な資金を決めて、まずその資金集めから始める事が必要になります。「早く起業したい」という気持ちから焦って必要な資金も不足した状況で起業する事は結局資金ショートに陥る可能性を高めてしまう事を忘れてはいけません。

2-6 学生生活が満喫できなくなり、就活も難しくなる

起業をすると、毎日の生活に充実感を感じるはずです。一方で、時間の不足も感じるはずです。

もともと大学生が学業に割り当てる時間は少ないと記載していますが、しかし毎日の事でありビジネスと学業の同時進行は簡単ではありません。そのため、就職活動や卒業旅行や友人との飲み会など様々な一般的な大学生が実施している事ができなくなります。

事業が軌道に乗っている時には、同年代との飲み会や旅行も気にかからないかもしれません。しかし、事業が思うように軌道に乗らず、ストレスが溜まる日々を過ごす事もあります。そんな時は、高い志が折れかける事もあるかもしれません。起業家としての本気度が試されていると考えて良いでしょう。

息抜きなどの、事業を行う上でストレス対策は非常に重要です。しかし、立てた目的・目標があるならば、その目的・目標に到達するための息抜きであるべきです。どんなに忙しい時でも割り切って息抜きを行い、リフレッシュしてまた事業に向かう事が必要になります。

また、就職活動についても悩む部分です。事業を継続すべきか就職すべきか、簡単な選択ではありません。事業がうまくいっている場合や、逆に全くうまくいっていない場合は比較的選択は簡単です。しかし、もう少しやれば希望がみえそうだ、という時は選択がやりにくく、両立の時間配分も難しくなります。これに関しては、自分の行っている事業と親和性の高い企業へ就職先を絞る事が有効です。

そうする事で、就職活動における事前知識などの習得時間が短縮できながら、即戦力として自身を売り込む事が可能です。また、就職したとしても自分の興味のある分野で仕事ができます。

3 学生起業を成功させるための5つの要素

学生起業を成功させるための5つの要素

学生である事はメリットとデメリットが非常に明確です。学生起業を成功させるためには、学生だからできる要素を前面に出す事でその効果を最大化して、資金力不足などの学生起業のマイナス部分を帳消しにしていく事が必要です。
学生起業を成功させる確率を高める4つの要素について解説します。

学生起業を成功させる確率を高める4つの要素

3−1 勝負ができるビジネスアイデアを見つける

起業する上で最も重要な事の一つが“何をやるか”になります。経験がなく、資金力が少ない事を前提にすると、どんな事業を行うのかというアイデアで勝負していく必要性が高くなります。もちろん簡単ではありませんが、まだこの世になくてニーズがある商品・サービスのアイデアを見つける事ができれば起業の成功確率が高まります。

ここで重要になるのは、学生らしい思考やアプローチになります。“学生らしい”というのは、社会人として社会に関わっていないという点で、良い意味で社会慣れしていない視野や感覚です。現在ある商品やサービスやもっと広く社会に対して、慣れていないからこそ感じる事ができる「ここがおかしい」「ここをこうするべきだ」というニーズと現実とのズレや問題を拾っていく事が大事になります。

この“学生だからこそ発見できた問題”をベースとして、ビジネスにつながるアイデアを見つける事ができます。そのアイデアを広げていく事で自分にしか発見できなかったビジネスアイデアに出会う事になります。

3−2 専門家や経験値のある人を見つける

専門家や経験値のある人を見つける

学生起業は学生だけですべてやる必要はありません。起業やビジネスの立ち上げを経験した人の意見やアドバイスは非常に貴重です。ビジネスのコアになる部分まで人の意見で変えすぎてしまうと、ビジネスの魅力が薄れてしまう事もありえます。

但し、契約ごとや届出などの法務関連やお金周りの経理やリスクマネジメントなどは経験と知識に基づいて正しく適切に対応していく必要があり、専門家や経験値のある人が大きな助けになります。学生起業においてウィークポイントになる部分については、アドバイスをもらえる人を見つけておくことが必要です。

エンジェル投資家は起業して間もない事業や企業に投資を行う投資家をいいますが、このエンジェル投資家以外にも起業に関わろうとする人は多数います。自分自身のアドバイスをもらえるネットワークを広げて、ケースバイケースでアドバイスをもらえる関係性を構築しておけると、思わぬ失敗を防ぐことが可能です。

但し、注意すべきは信用できない人もいるという事です。事業を行っていると、人から騙されそうになる事や実際に騙されることがあります。いわゆる詐欺師のような犯罪や、合法ではあるものの思った事と違う契約などをさせられてしまうなどは、信用する人を間違えたことが原因になる事が大半です。

人を使う時には自分だけの感覚を頼るのではなく、他人の評判を確認する事が必要になります。評判が悪い場合や恣意的な評判の場合は注意が必要です。

3−3 小さく始める

事業資金が少ない事を前提にすると、事業は必然的に小さく始める必要があります。小さく始めるという事は具体的には「自分だけで事業を回せる」事になりますので、当然支出が少なくて済むというメリットはあります。また、それ以外にも次のようなメリットがあります。

  • ・コアな事に集中する事ができるメリット
  • ・失敗のリスクを最小化できるメリット

事業規模を広げていくと仕事が増えます。例えば、従業員を雇えば指示や指導やマネジメントを行う必要ができますし、外注先が増えれば打ち合わせの数も増えます。この中には組織や事業規模の維持・拡大のために必要な仕事も含まれてきます。
全ての起業にいえる事ではありますが、学生起業ではやならなければいけない事はたくさんあります。しかし、時間は有限です。やらなければいけない事を一つでも減らす意味で、ビジネスモデル上で絶対にやらなければいけないコアを絞り込んだうえで、それを実行する事に集中できる余計なもののないスモールスタートが望まれます。

学生起業のメリットで述べたように、学生時代の起業経験は就職にはプラスです。その意味で学生起業の事業の失敗における最大のリスクは負債です。小さく始める事で、必要になる事業資金は抑えられるため、必然的に借入も一定程度で抑える事ができます。そのため、負債を負う場合でも負債額を抑える事ができます。

3−4 本気でやる

学生起業には社会人経験やビジネス経験が不足しています。そのため、どうしても一般的な会社や社会人と競合する時が来ると、負けてしまう部分もあります。しかし、事業を成功させるためにはそこで負け続けるわけにはいきません。

そのためには、失敗をリカバリーして、不足点を補っていかなければいけません。これらのことは実際に行うのは簡単ではありません。失敗をリカバリーする方法が見つけられないと思う時もあります。1人で起業していれば、つらい状況でも1人で克服しなければいけません。

そのような時には本気でなければ続けられません。つらい状況においても逃げずに挽回策を考え続ける事やできる事から実行していく事が必要になります。

また、本気度は取引先と事業を行っていくうえでも必須です。法人同士の取引や提携などにおいては、必ず本気度を測られていると思って応対をすべきです。会社にはゴーイングコンサーン(Going concern)という企業の継続性という前提があります。明日無くなるかもしれない会社とは誰も取引をしないため、企業経営において継続的に続いていくという事を大前提にします。

この前提を確認せずに長期的な契約や提携をする法人は一般的にはありません。そのため、学生であっても経営者として会社や事業を継続的にやり続ける事を本気で考えているかという事は確実にみられています

4 会社設立

会社設立

起業する上で必要になるのが、会社設立です。会社を設立する事は、手間がかかります。しかし、前述のゴーイングコンサーンが成立するのは、法人であるからです。つまり、個人事業主と比較すると法人格がある事は“信用度”が明確に向上します。

学生起業落は本気度を試されるということは前述のとおりですが、法人格になっておく事で本気度は1ランク上に見られるという事になります。

信用度が上がるメリットを得ながら、手間を少しでも軽減できるように、事前知識と何から手をつければよいかがわかるように全体の手順と留意すべきポイントを解説します。また、その後に会社設立の費用感と資金調達を行う上で知っておくべき助成金についても要点解説をします。

4-1 全体の流れとポイント

まず、会社を設立するには、会社の種類を選択する必要があります。一般的な起業時点で選択肢としては、“株式会社”と“合同会社”になります。

合同会社は株式会社と比べて広く出資を受けいれにくい点などはありますが、会社設立と維持コストが低い点でスモールスタートに向いています。しかし、一般的な知名度でいうと株式会社が優位です。

そのため、学生起業においては将来的には広く出資を受けられる形で、かつ信用度を得流事を目的とした場合に、株式会社を選択する事が賢明です。

〇会社摂設立の流れ

株式会社設立の流れは以下の順番とその概要になります。

会社摂設立の流れ

1)事前準備 会社名(商号)を決定します。決定には、いくつかの注意点(※1)があります。
会社の印鑑を作成します。印鑑は代表印=実印と銀行届出時に使う銀行印と角印が必要になります。
設立時の資本金をいくらにするかを決めます。現在では1円から株式会社の設立は可能ですが、資本金額は会社の体力や“信用”を測る数値になります。そのため、ある程度の資本金が必要です。
会社の役員の報酬を決定します。役員報酬を決定する期限は会社設立から3ヶ月以内と決まっています。しかし、役員報酬を決めないと報酬が支払いできません。また、役員報酬は株主総会決議によって決定します。
2)定款の作成 定款はその会社の順守すべき基本原則になります。定款に記載される事項は大きく3つに大分します。記載がないと定款として成立しない『絶対的記載事項』、記載がないと規則の効力を失う『相対的記載事項』、法的拘束力等はないものの記載すべきと会社ごとで自主的に定める『任意的記載事項』があります。絶対的記載事項を記載しない場合には、定款が無効になります。必ず以下の絶対的記載事項を決定・記載するように注意してください。

  • ・目的…ここで記載された事業以外を法人は実施できません。
  • ・商号
  • ・本店所在地
  • ・会社設立に際して出資される財産の価額またはその最低額(※2)
  • ・発起人(※3)の氏名または名称及び住所
  • ・発行可能株式総数(※4)
3)資本の準備 資本金は発起人の口座に振込を行う事が必要です。資本金が振り込まれた口座通帳の表紙と1ページ目と振込金額が記載されたページの計3枚のコピーと、払込証明書(※5)とを綴り、各書類の継ぎ目に会社代表印で割印をします。
4)登記の申請 登記申請は会社によって異なってきます。事前に管轄する法務局へ相談する事をお勧めします。登記申請には収入印紙が必要です。金額は15万円前後となります。なお、法務局でチェックが完了した登記申請書に収入印紙は貼るようにしてください。なお、登記申請の届出書類を郵送する事も可能です。普通郵便で送る事も可能なので、必ず封筒に『登記申請書類在中』と記載する事を忘れないようにしてください。
5)行政での届出・手続き 次項の『行政手続き』にて解説します。

※1複数の企業が同一住所で同じ商号を登記する事はできません。また、有名な起業名やブランド名や銀行業ではない企業が”銀行“などの名称を付ける事はできません。
※2会社設立した後の資本金を指します。
※3会社設立の手続きを実施する人(法人を含む)をいいます。発起人は会社設立後には株主になります。
※4絶対的記載事項ではないものの、会社設立登記までに定款への追記が必須となるため、実質上の絶対的記載事項となります。
※5払込証明書は現在口座に残高証明になります。

〇行政手続き

会社設立に必要な行政手続きが複数あります。会社の登記手続きが必要となるタイミングは、登記前と登記時点と登記後の3つになります。

一覧でみると量が多く感じるかもしれません。しかし、株式会社設立時には必ず実施している手続きになり、誰でもできる内容になっており、決して難しくはありません。また、対象とする行政機関は変わりますが、会社の設立届出を繰り返す事になります。必要な手続きを理解し、手戻りを発生させる事なく届出が受理されるように、準備と知識を整える事が必要です。

⦅行政手続き一覧⦆

届出先の各機関(金融機関は除く)は本店所在地を管轄する機関で実施が必要になります。

いつ 届出先 実施手続き
登記前 公証役場 定款認証を受けます。定款認証とは、正しい手続きと内容の定款である事を公的機関である公証役場が認証することをいいます。
登記時 法務局 会社代表印の提出を行います。
設立登記の申請を行います。
登記後 法務局 登記事項証明書を取得します。
会社代表印印鑑証明書を取得します。
税務署 法人の設立届出を行います。*適切に税金を納めるために、税務署で『法人設立届出』と共に、青色申告**をするための『青色申告承認申請書』を届出します。なお、従業員を雇う場合には『給与支払事務所等の開設届出書』ならびに『源泉徴収の納期の特例の承認に関する申請書』もあわせて届出するのが一般的です。
都道府県・市町村税事務所 設立届出を行います。*税務署に提出した法人設立届出は複写式なので、複写部分になる2枚目分からを提出する事で問題ありません。
年金事務所 設立届出を行います。*
労働基準監督署 設立届出を行います。*但し、雇用する従業員がいない場合には届出は不要です。
公共職業安定所 設立届出を行います。*但し、雇用する従業員がいない場合には届出は不要です。
健康保険組合 設立届出を行います。*社長1名の会社でも届出と社会保険への加入が必須です。社会保険とは、健康保険と厚生年金と雇用保険と労災保険の総称になります。このうちの雇用保険と労災保険は従業員の雇用を開始した場合に加入が必要になります。
金融機関 法人名義での口座開設を行います。***必ず、法人口座と個人口座を分けて利用するようにしてください。

*登記事項証明書が必要です
**青色申告をすると、期をまたいで赤字を繰り越しできる『欠損金の繰越』ができ、それにより節税ができます。
***登記事項証明書もしくは会社代表印印鑑証明書が必要です。

〇専門家へ依頼の検討

ここまでの解説で、会社の設立が自分だけの手では難しいと感じる方もいるかもしれません。その場合には、専門家に相談する事も可能です。会社設立をアウトソーシングする、またはサポートをお願いしたい場合には、士業の専門家に依頼する事ができます。

士業の専門家とは、『税理士』『社労士』『司法書士』『行政書士』『社会保険労務士』などです。担当専門分野の知識が弱い場合には相談を検討する事が賢明となるため、それぞれの専門分野を紹介します。

≪士業別専門分野≫

税理士 税法上の専門家であり、税務関係の処理や節税などの相談可能です。
司法書士 法人設立の登記手続きが代行できるのは司法書士だけです。その他、法務局や裁判所等への提出書類の作成や登記申請代行などを依頼可能です。
行政書士 行政手続きの専門家であり、許認可が必要な業種(飲食業や運送業等)の許認可の手続きも相談可能です。
社会保険労務士(社労士) 経営の3資源の一つである“ヒト”に関わる専門家です。具体的には、社会保険や厚生年金の手続き(1号業務)や、就業規則や賃金台帳等の帳簿書類作成(2号業務)や、労務関係や社会保険に関する事項のコンサルタント業務(3号業務)などがあります。

4-2 会社設立の費用

会社設立の費用

会社設立には必ず費用が発生します。資本金は振込するものの、自分の会社でこれからの将来で利用できる資金になります。一方で、会社設立にかかる費用は、戻ってきません。そのため、しっかりこれから事業で利用する資金とは別にしっかりと用意しておく必要があります。

手続き別に費用を記載します。

〇定款認証合計92,000円
公証人手数料:50,000円/印紙代40,000円/謄本代金2,000円
(定款を電子データ化する電子定款で認証する事で印紙代4万円が必要なくなります。)

〇株式会社登記費用合計150,000円
株式会社の登記の際にかかる費用が登録免許税になります。費用は15万円になります。

〇銀行口座開設費用合計1,050円
金融機関で法人口座を開設する際には、登記簿謄本代600円(1通)と印鑑証明書代450円(1通)の計1,050円の費用が必要です。

なお、会社設立の届出の際には登記簿謄本を必要とする機会が多くあります。金融機関での取引や助成金や許認可申請以外は複写でよい場合が多数です。管轄する行政機関に事前に問い合わせを行い、必要数を確認したうえで登記後の法務局で必要数を取得してください。

会社設立費用合計:243,050円(電子定款を利用した場合は203,050円になります。)なお、行政書士などの専門家に会社設立手続きを任せる対価は、電子定款を利用する事でコストダウンできる4万円前後に設定されています。そのため、自分で全て実施して書面で定款認証するのであれば、専門家に依頼したほうが会社設立にかかる費用を抑えられる場合もあります。

5 まとめ

学生起業の概要とメリットとデメリット、学生起業を成功させるための要素や会社設立の方法について解説しました。

学生起業は失敗したとしてもその経験自体が将来の糧になるチャレンジになります。また、起業や会社設立自体はほかでは得難い経験や喜びを与えてくれる貴重な機会となるので、興味のある方はぜひ検討してみてください。