働き方改革の進展や新型コロナの影響でリモートワークのほか、マルチハビテーションやワーケーション等の新しい生活様式や働き方などが普及してきました。そして、その流れに対応したビジネスが登場してきており、この分野で会社設立して事業展開する方も増えています。
そこで今回の記事では、この新しい働き方等に対応するビジネスを取り上げ、事業の進め方や重要点を解説します。ビジネスが普及し始めている理由、マルチハビテーション等の内容と関連するビジネスの種類、それらの事業で起業・会社設立する場合の進め方、成功のポイントや注意点などを説明していきます。
マルチハビテーションやワーケーションなどニューノーマル下で注目される新ビジネスに興味のある方などは参考にしてください。
目次
1 新しいライフスタイルを支援するビジネスが拡大する理由
新しい働き方や生活の仕方などを提案する、支援するなどのビジネスが多く登場してきた理由を確認しましょう。
1-1 新型コロナの影響による暮らしの変化
新型コロナの感染拡大により、人々の日常生活や労働などがどのような影響を受けているか簡単に説明します。
①日常生活
新型コロナにより日常生活では以下のような行動が求められるようになってきました。
1)買物
・通販を多く利用する
・実店舗への買物は少人数で行く
・店舗へは空いた時間帯を利用する
・商品等をあまり触らない
・店舗への出入りの際には手を消毒する
・会計時等ではソーシャルディスタンスを確保する
2)食事
・持ち帰り、出前・デリバリーサービスも利用し、外食の回数を抑制する
・大人数での食事は控える
・野外スペースを利用する
・店内では横並びで座る
・食事中の会話は控える
・グラスの回し飲みやお酌を控える
3)娯楽やスポーツ
・運動は公園などを利用し、空いた時間帯に行く
・室内でのトレーニングは適度な距離を確保する
・観戦等では声を出した応援を控える
・自宅でオンラインによる観戦・応援にする
・ジョギングなどの運動も少人数で行う
4)交通機関の利用
・近場への移動は徒歩や自転車などを利用する
・公共交通機関の込み合う時間帯は避ける
・電車やバス等の中での会話は控える
5)イベント等
・発熱やかぜ等の症状が見られる場合は参加しない
・感染状況が悪化している場合などは行かない
・会場の感染対策が十分に行われているか確認する
②労働
企業および従業員には以下のような内容が求められています。
1)リモートワーク等
・自宅での電話やパソコン等を利用した、「テレワーク」の利用
・少人数で労働できるサテライトオフィスの活用
・自宅でワークスペースが確保できない人向けの個室ブース等の活用
2)ローテーション勤務
・出社時の人数を抑制するためのローテーション勤務の実施
・就業時間の調整による出勤者数の制限
3)時差出勤
・交通機関のラッシュアワーを避けるための出社時刻の調整
4)会社内の洗浄や喚起の徹底
・社内の入出時での手の洗浄や床・机等の洗浄
・適度な窓等の開閉による換気
・外換気ができるエアコンの導入
・打ち合わせや会議等はオンラインで実施
・机上での仕切板の設置
5)研修やレクリエーション等での対策
・勉強会や研修は少人数で実施
・大人数での社員旅行やレクリエーションを回避
以上のような買物やレジャー等のスタイルやリモートワークなどの働き方は、新型コロナの収束後でもニューノーマルとしてある程度継続することが推察されます。
1-2 働き方・子育て・地方への関心
内閣府が実施した「第4回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」によると、働き方や地方等への関心に以下のような変化が見られます。
①働き方
1)地域別・企業規模別のテレワーク実施率
全国、東京23区、地方の3つで分けたテレワーク実施率は以下のような推移が見られました。
(単位:%)
2019年12月 | 2020年5月 | 2020年12月 | 2021年4-5月 | 2021年9-10月 | |
---|---|---|---|---|---|
全国 | 10.3 | 27.7 | 21.5 | 30.8 | 32.2 |
東京23区 | 17.8 | 48.4 | 42.8 | 53.5 | 55.2 |
地方 | 8.1 | 19.0 | 14.0 | 21.9 | 23.5 |
全体的にテレワーク実施率は上昇傾向にあります。地域別では東京23区が地方の倍以上の実施率と高い状況です。もちろん2020年12月の調査のように感染状況によっては減少する可能性はありますが、テレワークの導入後はある程度利用が継続されるものと考えられます。
2)テレワーク実施頻度の変化(就業者)
東京23区の2021年9-10月のテレワーク実施頻度の変化を見ると実施比率55.2%の内訳は以下の通りです。
- ・テレワーク(ほぼ100%):16.4%
- ・テレワーク中心(50%以上)で、定期的に出勤を併用:15.4%
- ・出勤中心(50%以上)で、定期的にテレワークを併用:12.4%
- ・基本的に出勤だが、不定期にテレワークを利用:11.0%
東京23区ではテレワークを実施している企業の半数以上がテレワーク中心の就業形態で、この傾向は2020年12月から継続しています。
3)テレワークのデメリット(テレワーク経験者)
テレワークに従事している労働者が感じるデメリットの内容は以下の通りです。(単位:%)
- ・社内での気軽な相談・報告が困難:36.1
- ・画面を通じた情報のみによるコミュニケーション不足やストレス:30.3
- ・取引先等とのやりとりが困難:25.6
- ・テレビ通話の質の限界:23.0
- ・セキュリティ面の不安:20.7
- ・在宅では仕事に集中することが難しい住環境:16.3
- ・仕事と生活の境界が曖昧になることによる働き過ぎ:15.7
- ・大勢で一堂に会することができない:15.5
- ・通信費の自己負担が発生:14.1
- ・同居する家族への配慮が必要:12.0
以上のように、気軽な相談・報告の困難さ、コミュニケーション不足やストレス、在宅ワークが困難な住環境、仕事と生活の境界の曖昧、家族への配慮、などの問題が生じるケースも多く、それらを解決しない場合テレワークでの生産性の低下が懸念されます。
4)職業選択・希望の変化とその理由(就業者)
2021年9-10月の職業選択・希望の変化についての質問に対する回答は以下の通りです。
- まだ具体的ではないが将来の仕事・収入について考えるようになった:19.6%
- 新たに転職を検討しはじめた:5.5%
- 新たに副業を検討しはじめた:5.3%
- 転職した:4.6%
- 希望する就業先や異動先が変化した:3.9%
- 副業を持った:3.1%
上記のうち上昇傾向にあるのが、b、d、e、fです。従って、コロナ禍が続く間に、希望する就業先や異動先などが変化し転職や副業をする人が増加したと言えます。
職業選択・希望の変化の主な理由として以下のような回答が挙げられました。
- ・感染症の影響下の収入の減少:34.7%
- ・感染症の影響下の仕事や勤務先の将来性の不安:34.0%
- ・「仕事と生活のどちらを重視したいか」という意識の変化:31.9%
- ・感染症の影響下の仕事のやりがいの感度の低下:30.8%
- ・感染症を契機とした挑戦意欲から:23.6%
- ・感染症の影響下の仕事の多忙さから:16.4%
- ・感染症を契機に、人口過密な地域を離れたいと考えたから:12.9%
以上の通り感染症の影響による収入の減少や勤務先の将来性等の不安が大きな理由となっていますが、仕事と生活のバランスや人口過密な地域からの回避などのライフスタイルの意識の変化なども就業意識の変化へ繋がっていると考えられます。
②子育て
子育てに関する意識の変化などの調査も実施されました。
1)家族と過ごす時間(18歳未満の子を持つ親)
「現在の家族と過ごす時間を保ちたいと思うか(家族と過ごす時間が増加した人への質問)」の質問については以下のような回答が得られています。
2021年9-10月の調査結果は、「保ちたい」が59.4%、「どちらかというと保ちたい」が31.7%と保ちたい派が90%越えです。この傾向は2020年5-6月の調査から一貫して上昇傾向が続いています。
従って、コロナ禍の影響により家族と接する時間を保ちたいという意識が強化されたと言えるでしょう。こうした意識はアフタコロナにおいても一定程度持続する可能性が高いです。
③地方
1)地方移住への関心(東京圏在住者)
地方移住への関心について、東京圏と東京23区と、全年齢と20歳代で見ると以下のような結果が得られています。
2021年9-10月における「強い関心がある」、「関心がある」、「やや関心がある」の合計割合は以下の通りです。
●全年齢
・東京圏:34.0%
・東京23区:37.3%
●20歳代
・東京圏:44.9%
・東京23区:49.1%
⇒以上の通り、都心で若い世代のほうがより高い傾向があり、2019年12月から概ね増加傾向が確認できます。つまり、都会の居住者や若者はほかに比べ地方への移住への関心が高いです。
2)地方移住への関心理由(東京圏在住で地方移住に関心がある人)
2021年9-10月時点での主な「地方移住への関心理由」として、以下のような項目が挙げられました。
- ・人口密度が低く自然豊かな環境に魅力を感じたため:31.5%
- ・テレワークによって地方でも同様に働けると感じたため:24.3%
- ・ライフスタイルを都市部での仕事重視から、地方での生活重視に変えたいため:21.6%
- ・買物・教育・医療等がオンラインによって同様にできると感じたため:10.5%
ほかにも、テレビ等による地方移住の情報、ライフプランの見直し、地元へのUターン、などが挙げられています。
⇒地方の生活などに魅力を感じるようになり、テレワークにより地方で働ける可能性が認識できるようになったきたため、地方移住への意識が高まった可能性が高いです。
1-3 新型コロナによる企業への影響
新型コロナの企業への影響を簡単に確認してみましょう。
①新型コロナによる関連倒産
帝国データバンク社は「新型コロナウイルス関連倒産」の動向調査の結果を以下のように公表しています。
●調査概要
・2021年12月13日16時現在において、新型コロナの影響による倒産は全国に2516件(法的整理2341件、事業停止175件)確認されている
・1億円未満の小規模倒産が1467件(構成比58.3%)で、負債100億円以上の大型倒産は5件(同0.2%)
●業種別倒産状況
・「飲食店」(424件)が最多で、「建設・工事業」(266件)、「食品卸」(131件)、「ホテル・旅館」(117件)
・製造・卸・小売を合計した件数は、食品が275件、アパレルが210件となるほか、ホテル・旅館、旅行業、観光バス、土産物店などの観光関連事業者の倒産は217件
⇒「飲食店」や対面サービスが必要となる「ホテル・旅館」等の観光関連事業者への影響が大きいです。
②新型コロナに対する企業の意識調査(2021年9月)
また、帝国データバンク社は自社のコーポレートサイトで「新型コロナウイルス感染症に対する企業の意識調査(2021年9月)」を以下のように公表しています。
●調査概要
・新型コロナによる自社の業績への影響、『プラスの影響がある』(5.0%)と「影響はない」(17.8%)を合わせて22.8%。『マイナスの影響がある』(「既にマイナスの影響がある」と「今後マイナスの影響がある」の合計)は72.1%(同1.6ポイント減)となり、2カ月ぶりに減少した
⇒マイナスの影響では減少が見られたものの、全体的に割合が高い状況です。
・『プラスの影響がある』を業種別にみると、「放送」が25.0%で最も高く、「教育サービス」(21.1%)、「飲食料品小売」(17.3%)、「各種商品小売」(16.7%)、「娯楽サービス」(9.6%)が上位
・『マイナスの影響がある』の業種別では、「旅館・ホテル」が95.8%と最も高く、「飲食店」(92.9%)が9割台、「広告関連」(89.3%)、「繊維・繊維製品・服飾品卸売」(88.9%)、「繊維・繊維製品・服飾品小売」(86.8%)が続いた
⇒やはり、「旅館・ホテル」と「飲食店」が圧倒的にマイナスの影響を受けています。
2 マルチハビテーション等の内容とその関連事業
ここではアフタコロナ以降での新しい生活様式や働き方の内容やそれに対応するビジネスを説明しましょう。
2-1 アフタコロナ以降のビジネス・業務のあり方
コロナ禍後の環境においてどのようなビジネスのあり方が重視されるかを挙げてみます。
①オンライン重視
コロナ禍以前では対面によるコミュニケーションを重視した業務が行われてきましたが、新型コロナの感染拡大によりオンラインによるビジネス展開が強化されました。ニューノーマル下では対面によるサービスの復活もあるでしょうが、業務効率の点からもオンラインを重視する傾向は続く可能性は高いです。
社内ではテレワークが普通に使用され、業務のほか会議・打ち合せなどもオンラインが定着していくでしょう。また、顧客への営業活動もオンラインによるインドアセールスが増加するものと見込まれます。
ニューノーマルの時代においては、対面式のフィールドセールスとデジタル技術を利用したインサイドセールスの両方による対応が必要であり、次第に後者へ比重をかけていく必要性も生じるでしょう。
②デジタル技術の活用やDXの推進
非対面や非接触を回避する業務を実現し、ビジネスを成功させていくにはデジタル技術の活用やDXの推進が欠かせません。
たとえば、テレワークを効率的に実施していくには遠隔地で作業する従業員の業務の進捗状況の把握、業務指示等の管理やコミュニケーションなどを行っていく必要があります。また、業務成果の確認・評価やメンタル面等でのサポートなども不可欠です。
こうした作業を逐次電話連絡やメールで行うと、テレワークの導入以前より管理の手間がかかり業務の遅延や管理コストの増大を招きかねません。そのため業務効率の向上と管理コストの低減に繋がる仕組みが必要であり、デジタル技術の活用やDXの推進が求められるのです。
クラウドやコミュニケーションツールなどを利用していくほか、統合的な管理が可能な情報システムを導入し、業務を効率化していく取組は不可避と言えるでしょう。
また、顧客対応ではオンラインによるインドアセールスを可能とするシステムの導入や、WebアプリケーションやAIを利用した自動の顧客対応システムなどが必要になる可能性が高いです。
③「健康経営」の推進
経済産業省では、「従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」を「健康経営」と定義しています。企業理念に従って、従業員等への健康投資を実施すれば、従業員の活力や生産性の向上に繋がり組織の活性化が実現できるのです。そして、結果的に健康経営が業績や株価の向上をもたらすと期待されます。
コロナ禍により従業員の健康が以前よりも重視されるようになり、ニューノーマル下でもその傾向は続く可能性は高いです。特にテレワークの導入が一般化する状況では、業務の生産性とメンタル面の不安などが心配されるため、健康経営の推進が重要になるでしょう。
「遠隔オンライン健康医療相談サービス」(従業員が医師へ相談できるチャットサービス)や、睡眠、メンタル(意欲や不安等)、食事や運動、などをデータ化して改善の提案等を行うアプリなどのサービスが見られるようになっています。
④継続性重視の経営
新型コロナに加え、自然災害の増加により企業における事業継続への意識が高まってきており、ニューノーマル下でもその傾向が続く可能性は高いです。万が一の状況に備える方法として、経営資源の分散配置も必要になります。
従業員の安全確保に加え、事務所や工場等の資産をリスクから守るためにはそれらを分散しておくのが有効です。従って、従業員の自宅勤務やサテライトオフィス勤務等の拡大や、営業拠点や生産拠点の地方等へのシフトを進めるといった経営が多く見られるようになるでしょう。
2-2 ニューノーマル下の働き方や雇用方法
新しい働き方や雇用の仕方などが登場していますが、ここではそのいくつかを紹介します。
①マルチハビテーション
1)概要
マルチハビテーション(multi=複数とhabitation=住居の造語)とは「複数拠点生活」や「多住居生活」などを意味する言葉で、複数の住居を往来しながら暮らすライフスタイルのことを指します。
たとえば、週の平日は勤務先のある都市部で生活し、週末や連休などに地方の住居で過ごすような形態です。拠点の利用目的は様々で、都市部は仕事、地方は観光や趣味等の遊びというようなタイプや、逆に地方が仕事でと都市部が遊びやショッピングを楽しむといったタイプなどの利用も見られます。
2)実施者のメリット
マルチハビテーションを行う人には以下のようなメリットが期待できるでしょう。
- ・自然を楽しみゆったりとした生活できる(スローライフを楽しめる)
- ・複数拠点で仕事と遊びを分けたメリハリのある生活が実現できる
- ・都心では困難な防音ルーム・倉庫・庭園などを設けて趣味を満喫できる
- ・複数拠点により行動範囲が広がる
- ・子供をのびのびと育てられる
- ・各拠点の地域サービスが受けられる
- ・自然災害等のリスクヘッジになる
- ・暑さや寒さのほかイベントなど好きな季節を選んで暮らせる
②ワーケーション
1)概要
ワーケーションはWork(仕事)とVacation(休暇)の造語で、欧米で芽生えた働き方と休暇の過ごし方の概念の1つです。具体的には、観光地や帰省先などを含む自宅以外で休暇を取るリモートワークの形態になります。
従って、ワーケーションは休暇を前提にしたリモートワークの業務形態ですが、単に会社以外の場所で仕事をする形態ではありません。ワーケーションにより非日常の場所において普段の仕事に従事することで、心身の健康と仕事の生産性を高め、より良いワークライフバランスの実現が期待できます。
なお、ワーケーションには以下のようなタイプがあります。
・休暇活用型
休暇で観光などを楽しみながら普段の仕事を行う
・拠点移動型
生活や仕事の拠点を移す、分散する
・会議型
普段の職場と違う場所で集中的に討議したり、プロジェクトを立案したりする
・研修型
普段の職場と違う場所で集中的に研修する、教育の場とする
・新価値創造型
企業間の交流等により新ビジネスの創出を図る
・地域課題解決型
地域課題の解決を目的とした研修活動、地域の新規事業を創出する活動、ボランティア活動などを行う
・ウェルビーイング(福利厚生)型
保養所、健康増進、リカレント教育(学び直し)など社員のモチベーションアップに繋がる福利厚生メニューを提供する
2)メリット
ワーケーションには、導入する企業、ワーケーション先となる地域、利用対象となる個人の3者にメリットがあります。
●企業のメリット
・ワークライフバランスの充実といった働き方改革に対応できる
・休暇取得の向上や福利厚生の充実などにより社員のモチベーションアップが図れる
・自由度の高い働き方を社員に提供し、生産性向上や人材確保に繋げられる
・仕事と休暇をとる環境を変え、クリエイティブな発想を促せる
●地域のメリット
・交流人口や長期滞在者の増加で地元経済が潤う
・地域の空き家や利用頻度の低い宿泊施設等を活用できる
・リモートワーク先としての地位を確立できる
・将来の個人の移住先や企業の移転先の候補になり得る
・地域のブランディングが図れる
●個人のメリット
・自然に恵まれた環境などで裁量の多い働き方ができる
・非日常の地域に接して、その課題解決などに取組める
・複業、副業、趣味などが行いやすい
・心身のリフレッシュが促され、生産性の向上やイノベーティブな発想が進む
・非日常の空間で休暇を過ごせ家族と一緒にいる時間を長くできる
・普段以上に長期の帰省や旅行が可能となる
③マルチハビテーション等に関連したビジネス
以下のようなビジネスが登場しています。
・社員の地方移住や二地域居住を支援するための制度設計や場所の選定、実行までサポートしてくれる、テレワーク等を推進する法人向けのサービス
・水道光熱費込み、敷金等の初期費用なし、何度でも移動が可能な住居が利用できる定額制宿泊サービス
・箱に詰めて送るだけで荷物を保管してくれる収納サービス
・自宅を長期に留守にする際のメンテナンスや管理、問題や悩み等の解決が可能なプラットフォーム・サービス(生活面に関連する仕事のマッチングサービス)
・人が住んでいない空き家や貸別荘等の遊休資産を貸し出す際に利用できるクラウドを利用した入退室管理システム
・車中泊ができる自動車や車中泊が可能な駐車場を探せるプラットフォーム・サービス
・地方企業と都市の人材をマッチングするサービス
2-3 マルチハビテーション等に対応するビジネスが登場する背景
マルチハビテーションやワーケーションなどに関連した新ビジネスが求められる背景を説明しましょう。
①複数拠点生活に関する意識の変化
一般社団法人不動産流通経営協会が2020年7月に公表している「複数拠点生活に関する基礎調査<概要版>」によると、以下のような複数拠点生活に関する意識の変化が確認できます。
●複数拠点生活の実施者・意向者ボリューム
・現在複数拠点生活を行っている人(実施者)は、調査対象(20-79歳)の6.6%(推計約617万人)
・今後複数拠点生活を行いたい人(意向者)は、同じく7.1%(推計約661万人)
⇒実施・意向の内容を見ると、「全くしてみたいと思わない」が57.5%、「なんとなく興味がある程度で、実際にするかはまだわからない」が28.9%で、残りが「行っている」や「今後行ってみたい」という割合です。このうち今後複数拠点生活を行いたい人(意向者)が約7.1%存在しています。
興味があるが実際にするかわからない人なども複数拠点生活を行う可能性もあることから今後の実施者は増加する可能性が高いです。
●複数拠点生活の満足度
・現在複数拠点生活を行っている人(実施者)の中には、消極的な目的も含まれるものの、65.5%は複数拠点生活に満足している
⇒仕事、子供の教育や生活費などで十分な満足度が得られていないものの、総合的な満足度は65.5%となっており、複数拠点生活が今後も受け入れられていく可能性があります。
●複数拠点生活の実施目的(最も大きな目的・理由)
・「自分の時間を過ごす」「避暑・避寒・癒やし・くつろぎ」など趣味的な理由が特に意向者の場合は多い
・ただし、実施者の場合は「転勤・単身赴任」「介護」など消極的な理由も多く、実際には様々な理由・目的から複数拠点生活が行われていることがわかる
⇒意向者の趣味的な理由への対応、実施者の「転勤・単身赴任」や「介護」といった理由に対応したサービスが複数拠点生活者の増大に繋がる可能性が高いです。
②働き方改革の推進
国内の労働問題において、長時間労働、有給休暇や育児休暇等の取得率の低さ、労働生産性の低さ、女性の活躍、などが以前から指摘され、安倍政権時代に働き方改革が推進されることになりました。
働き方改革については様々な改善施策が実施されていますが、年次有給休暇の取得向上もその1つです。そのために国はテレワークの導入を促すほか、有給休暇を地方で過ごす・活用するといった方法を提案しています。
たとえば、労働基準法を改正し2019年4月から年間5日の年次有給休暇を確実に従業員に取得させることを使用者へ義務付けました。また、各都道府県に「働き方改革推進支援センター」を設け、中小企業等の働き方改革への相談等に対応しています。
こうした流れの中で、国は「年次有給休暇を活用して○○県の魅力に触れよう!」といった啓蒙活動も行っているのです。
また、新型コロナの感染拡大により3密を回避した業務が求められる企業においては、テレワーク、オンライン会議、時間差出勤、ソーシャルディスタンスを確保した業務スペース、などの対応が求められています。
こうした中で業務の生産性を維持し、コロナ対応に伴う従業員の心身の負担を軽減、解消する福利厚生制度の導入が必要になっているのです。そして、その対策としてワーケーションなどが期待されています。
●多様な働き方の状況(東京都)
東京都の令和2年度 中小企業労働条件等実態調査「働き方改革に関する実態調査」結果によると、多様で柔軟な働き方について以下のような内容が報告されました。
・「今後導入したい」制度で最も多かったものは「フレックスタイム制」で15.4%、次いで「在宅勤務・テレワーク」(9.8%)となっている
なお、サテライトオフィスなど勤務場所の変更について導入する考えがない企業が56.2%と多いものの、既に導入済(10.1%)、導入済だがさらに拡大したい(1.7%)、今後導入したい(9.4%)も存在しており、リモートワークの進展が期待されます。
3 新たな働き方・生活様式に対応する事業の例
これからの新たな働き方などに対応するビジネスの事例を紹介しましょう。
3-1 定額・全国住み放題のADDress
●会社概要
会社名:株式会社アドレス
所在地:東京都千代田区平河町
資本金:1億円
事業内容:多拠点移住サービス
●事業の特徴
ADDressとは、アドレス社の「日本各地で運営する家*に定額で住めるサービス」で、以下のような特徴があります。
*「全国に100カ所以上の家具家電完備&通信環境も整った拠点」あり
・月額4.4万円(税込)からという低額・定額で住み放題の利用が可能
定額料金には水道光熱費が含まれ、敷金等の初期費用は不要で何回でも移動が可能です。
・生活や仕事に必要なものが完備
Wi-Fi・個室の寝具・キッチン・調理道具・洗濯機が揃っています。
・同伴者も無料で滞在可能
家族(二親等以内)・固定のパートナー1名は追加費用なしで個室利用が可能です(一部有料あり)。
・個室の予約が可能
個室を予約して利用できるためプライバシーを守りつつ長期に渡って滞在するのにも適しています。
※一部の家はドミトリーのみ
●事業の利用方法や将来性等
1)ADDressは、「忙しい暮らしのなかでも生活の質を高めたい人や、自然豊かな環境でリモートワーク・テレワークを行いたい方など、幅広い年代・目的」での利用に適しており、多拠点生活希望者に適したサービスです。
2)利用方法
・フリーランスや会社員
平日の日中はADDressの住居でリモートワークし、仕事の後や週末はその地域の自然や観光地等を楽しむという生活が期待できます。
・シニア層
シニアの方は定年後などに好きな土地に好きな季節に生活するといった楽しみ方が可能です。
・ファミリー層
会員家族の利用は無料のため、週末や長期休暇は家族でADDressを利用した別荘生活等が楽しめます。
3)企業の利用
・ワーケーションとしての利用(法人プランあり)
ADDressは、仕事の時間と場所に束縛されないワーケーションとしての働き方に有効です。ADDressの拠点でリモートワークしたり、研修を受けたり休暇を有意義に過ごすことができます。
・企業のメリット
従業員のストレスの解消やモチベーションアップ、クリエイティブ能力の向上、福利厚生充実による採用能力の向上、都心オフィスの固定費の削減、人脈形成、などが期待できます。
3-2 社員の地方移住や二地域居住のサポート
●会社概要
会社名:株式会社デュアルライフ
所在地:山梨県北杜市大泉町
資本金:9百万円
事業内容:働き方改革時代の二地域居住/移住に関するサポートおよび不動産、建築プロデュースなど周辺サポート事業
●事業の特徴
同社は以下のようなサービスを提供しています。
・八ヶ岳をもうひとつの拠点としたい人のための伴走型サポート
デュアルライフ社は「最短」で「効率的」な失敗のない二地域居住や移住を実現するためのサービスを提供しています。
そのサービスは「アクティブサポート」「ライフサポート」「ビジネス・プロデュース」からなり、マルチハビテーションを希望する個人や活用したい企業などのニーズに対応する手段として効果が高いです。
●事業の利用方法や将来性等
1)主に個人の利用
・アクティブサポート
利用者の「二地域居住/移住実現」を1つのプロジェクトと考え、成功するためのプロジェクトマネージメントが提供されます。具体的には「構想期」の疑問解決、ライフプランの作成支援、「検討期/行動期」での不動産、新築・リノベーションのなど拠点選びの支援等を伴走型で受けることが可能です。
・ライフサポート
「行動期」での不動産の選定、建築、リノベーション等、専門家からの具体的な提案とサポートが提供されます。また、二地域/移住実現後の各種サポートサービスを受けることも可能です。
2)企業の利用
企業向けのサービスとして「ビジネス・プロデュース」が用意されています。八ケ岳南麓の豊かな自然、産業、人、ナレッジ等の資源と、地方ビジネスを検討している企業とのリンクを図る支援、地域へのマーケティング活動の支援を受けることが可能です。
また、リモートワークに対応する地方拠点整備や従業員の住環境整備など、企業のニューノーマル下での新しい働き方の提案や実務支援などもあります。
3-3 JOB HUB WORKATIONとJOB HUB LOCAL
●会社概要
会社名:株式会社パソナJOB HUB
所在地:東京都千代田区丸の内
資本金:5千万円
事業内容:顧問ネットワーク事業、ProShare事業などのpasona professional事業と、JOB HUB ローカル事業やJOB HUB ワーケーションなどのpasona jobhub事業
●事業の特徴
1)JOB HUB WORKATION
これは、地域におけるワーケーションや企業研修、サテライトオフィスの設置を支援する企業向サービスです。パソナJOB HUB社と地方自治体が提携し、地域と企業・団体等との連携が図られ、企業のワーケーションの導入が進められています。
なお、提供されている企業向プログラムは以下の通りです。
・ワーケーションプログラム
(1)人材育成・事業創造型ワーケーション
(2)SDGs体感型ワーケーション
(3)福利厚生型ワーケーション
・企業研修プログラム
(1)次世代リーダー育成研修
(2)キャリア研修
(3)SDGs研修
2)JOB HUB LOCAL
これは「地域企業と想いを持った人々が共感・信頼でつながる地域複業マッチングサービス」になります。これを利用すればユーザーは旅行先や短期滞在先での就労も可能です。
また、このサービスは都市部の人材の複業を推進するタレントシェアサービスでもあり、利用者の居住・移動支援も提供されています。マルチハビテーションなどを希望する人が仕事を見つけた後に同サービスを利用そればその実施も容易になり、利用促進に繋がるでしょう。
●事業の利用方法や将来性等
同社は、企業や個人のワーケーションやマルチハビテーションの活用を支援するほか、地域企業と都市人材のマッチングなどにより地域の活性化に役立つサービスを多く提供しています。
1)JOB HUB WORKATION
以下のような企業に適したサービスです。
・新しい働き方を導入していきたい
・ワーケーションを推進したい
・社員の越境を進めたい
・地域での研修を取入れたい
2)JOB HUB LOCAL
以下のような地域企業と都市人材等に適しています。
地域企業等:
・地域課題の解決に取組んでいる
・人材不足で困っている
・多様なスキル等を有する人材とコンタクトをもちたい
都市人材:
・地域課題の解決に関心がある
・旅行が好きである
・故郷との接点を持ちたい
3-4 Akerun入退室管理システム
●会社概要
会社名:株式会社Photosynth(フォトシンス)
所在地:東京都港区芝
資本金:45億2千万円
事業内容:IoT関連機器の研究開発、「Akerun入退室管理システム」の開発・提供
●事業の特徴
・Akerun入退室管理システム
同システムは、入退室管理を中心として事務所や施設における様々な空間管理の課題解決に役立ちます。同システムを利用すれば、オフィスセキュリティの強化や業務の効率化のほか、無人管理といった新しいビジネスモデルを生み出すことも可能です。
具体的には以下のような機能が期待できます。
・入退室管理システムの導入および管理が簡単
Akerun入退室管理システムは容易に導入でき、また、いつ、誰が、どこに出入りしたかの記録や管理も簡単です。
たとえば、Web管理ツールにより誰もが容易に事務所等の入退室ログの確認、複数拠点の一元管理、合鍵権限の管理が可能です。
また、ユーザーが普段使っているICカードやスマホがオフィスのキーとして利用でき、デジタルな合鍵の権限設定もクラウドから柔軟に管理できます。
・貼り付けるだけの設置
同システムで簡易工事のみで利用できるコントローラーを使用すれば大規模工事も必要ありません。
・業務効率の向上に貢献
同システムと勤怠管理サービス等とリンクした運用を行えば、労務関連業務の改善や工数削減が可能となり、受付・予約、決済業務との連携による会員制ビジネスの無人化運営、事務手続の効率化による生産性の向上が期待できます。
●事業の利用方法や将来性等
1)一般オフィスでの利用
同システムの活用により、受付エントランス、執務室、会議室、サーバールームなど各々に適した管理が可能です。
2)シェアオフィス・コワーキングスペースでの利用
自由な働き方や新型コロナ対策などの対応で利用が増えたシェアオフィスやコワーキングスペース等での入退室管理に同システムは役立ちます。
3)マルチハビテーション等に関連した施設での利用
マルチハビテーションやワーケーションなどの推進には未利用の住宅・宿泊施設等の活用が必要ですが、そうした施設のセキュリティや管理の業務を効率化し、コストを低減するのに同システムは有効です。
3-5 スマホ収納サービスのサマリーポケット
●会社概要
会社名:株式会社サマリー
所在地:東京都渋谷区千駄ヶ谷
資本金:1億円
事業内容:サマリーポケット事業(スマホ収納サービスの運営)、サマリー事業(モノのソーシャルネットワークサービスの運営)
●事業の特徴
サマリーポケットとは、低価格(1箱・月間で税込み275円~)な料金の上、箱に詰めて送るだけという簡単な作業で荷物を保管してくれる収納サービスす。同サービスでは箱ごと、またはアイテム個別撮影による登録・管理が行われ、送った荷物をスマホで確認・管理できます。
なお、サービスプランは以下の通りです。
・スタンダードプラン
荷物を写真で1点ずつ管理できるプラン(1箱30アイテムまで撮影)で、1点ごとにクリーニング等のオプションサービスが利用できます(手入れが可能)。
・エコノミープラン
写真撮影なしで箱ごと管理する経済的なプランです。
・ブックスプラン
点数制限なしで書籍を1点ずつ管理できます(表紙・タイトル・作者の自動登録が可能)。
・スタンダードプランのみのオプションサービス
クリーニング(衣服、布団、シューズ、ラグマット)、シューズリペア、ハンガー保管、「おまかせヤフオク出品」、「あんしんサポート」などが提供されています。
●事業の利用方法や将来性等
1)宅配型トランクルームとしての利用
レンタル型のトランクルームが自宅の近くにない場合など、宅配型トランクルームとしての利用が可能なサマリーポケットは便利です。
また、同サービスでは荷物の内容が登録・管理でき、必要な時には直ぐに発送してくれるため、自分で取りに行くといった手間もかかりません。あまり使用しない衣服・活用品等を同サービスで保管してもらえば、必要なものだけで快適な生活がおくれます。
2)マルチハビテーション等の際の利用
複数拠点生活などを行うと、モノの移動も多くなるため、サマリーポケットを利用すればそのモノの移動・管理の負担が軽減され便利です。季節ごとに滞在先を変えても同サービスを利用すれば、簡単に必要なモノを送ることができます。
4 マルチハビテーション等の分野で起業・会社設立する場合の進め方とポイント
新たな働き方等に関連した事業で起業・会社設立等を進める場合の重要ポイントを説明しましょう。
4-1 マルチハビテーション等の事業分野の認識
この事業分野でビジネス展開する場合、どのようなニーズやビジネスが存在しているのか、潜んでいるのかを把握することが不可欠です。ここではその内容を確認していきます。
①住居・施設の提供
複数拠点生活や複数拠点事業を行っていくためには、適切な住宅や事務所などの施設を確保しなければならないため、そうした施設を紹介・提供するビジネスが必要です。
たとえば、地域の空き家、旅館・ホテル、遊休状態の集合住宅の共同スペース、研修施設やスポーツ施設、キャンプ場、など拠点として利用できるところを探し、それをマルチハビテーションやワーケーションなどを希望する人や事業者に紹介・提供するといったサービスになります。
なお、こうしたサービスを実施するには、上記のような施設を使用できる状態にするための水道・電気・ガスの敷設やメンテナンスのほか、利用上の管理業務も必要です。従って、単に場所のマッチングだけではなく、生活・使用できる状態に整備する等のサービスも欠かせません。
なお、これらのサービスの提供にあたっては、その施設で何ができるかをアピールすることが重要です。「場所は提供するから、利用については勝手にどうぞ!」というスタイルもありますが、ユーザーの利用を促すには、「ここでは○○ができる、楽しめる、学べる、人脈を作れる!」といった場所の特徴を訴求することも事業の成功には必要になります。
生活・事業面での支援
複数拠点での生活や事業を行う者にとっては、その場所での生活支援や事業支援を受けられることが重要です。そうした支援サービスが、住居・施設を提供する事業者や彼らの提携者等により行われています。
複数拠点での暮らしでは、慣れない土地で衣食住、娯楽・趣味や健康管理などに適切に行っていく必要があるため、それをサポートするビジネスも欠かせません。たとえば、食事の面ではその地域の食材を使用したメニューや郷土料理等の提案、有名料理店等の紹介やグルメツアーの開催、などです。
娯楽・趣味ではアトリエや音楽室となるような施設の紹介、地域の行事への勧誘・招待、趣味・体験教室等の紹介、観光・レジャーの機会の提供、などが挙げられます。健康面では地域の医療機関の紹介などが必要でしょう。
また、子供がいる家庭などでは教育関連のサービスも不可欠で、進学に備えた学習、教養や趣味、地域の歴史・産業に関する知識を学ぶ機会を提供するといったサービスも有効です。
事業者への対応としては、地方と都市部の企業間のマッチング、研修のサポート、自治体の支援機関等の活用方法の提案、ビジネス展示会の開催やマーケティング支援、などが求められます。こうした拠点での生活や事業のサポートも有望なビジネスになるはずです。
③人材のマッチング
都市人材と地方企業等のマッチングは、マルチハビテーション等の推進における核となる重要なサービスです。都市人材を地方へ流入させていく手段としてもこのマッチングが期待されています。
拠点先で新しい仕事に就ける機会が多くなり実際に拠点先で副業(あるいは複業)に就けば、複数拠点生活にかかる費用を補うことができ、複数拠点生活者の増加に繋がるのです。
また、定年退職後に複数拠点生活をしたい方などにとっても生活費を稼げるため、地域に溶け込むために、その地域で仕事に就くことはプラスになります。このマッチングサービスは地域の活性化に貢献するため、地域の企業や自治体および企業支援機関などと連携した取組も必要です。
④移動関連の支援
複数拠点生活等を行う際の移動に関する問題も多いため、それを解決するサービスは有望なビジネスになります。
移動に関する問題としては、主に拠点先への長距離の移動、拠点間の往来、拠点先での移動、モノの移動、などです。拠点先への長距離の移動では、飛行機、電車、船やバスなどの公共交通機関の利用のほか、マイカー等による移動になります。
どの手段を利用するかで異なりますが、拠点先が長距離になる場合交通費が高くなり、さらに拠点間を往来するとなるとユーザーの負担は相当重いです。そためこうした移動の交通費を削減するためのサービスも必要になります。
たとえば、交通機関や拠点先の自治体などと協力して移動費用を抑えるためのサービスの提供です。また、拠点先で自動車を運転しない人向けの移動手段を提供するサービスも求められます。
地方では車を運転しない高齢者も増加していることから効率的な交通手段の確立・提供が必要となっており、デマンド交通(利用者ニーズに柔軟に対応する交通手段)、ライドシェア(自動車等の相乗り)、自動運転車、などの導入が求められているのです。自動車等のレンタル、カーシェアリングなどのビジネスを含めて新たな移動手段を提供するビジネスが必要になっていくでしょう。
ほかにも移動に伴うモノの発送や収納などのビジネスも有望です。拠点先へ生活に必要なモノをすべて送るわけにはいかないため、複数拠点生活者は季節ごとに必要なモノをその都度取りに帰るか、新たに購入するかといった問題に直面します。
拠点先へ必要なモノを直ぐに発送できる、拠点であまり使用ないモノを簡単に整理・収納・管理・発送したい、というニーズが今後増大する可能性は低くありません。
4-2 ビジネスモデルの確立から会社設立までのポイント
マルチハビテーション等に対応するビジネスを始める場合のその手順の中で特に重要となる点を説明しましょう。
①強み等からビジネスコンセプトの設定
先の事業分野や自身(自社)の強みなどからどのようなビジネスが可能か、どの分野でどのようことができるか、といったビジネスコンセプトを考えます。
ビジネスを発想する場合、対象分野でどんなことができるかを具体的に描いていく必要がありますが、「やってみたい、取り組んでみたいこと」と「自身(自社)ができる、得意であること」を列挙し整理していくことが重要です。
その上で、自身・自社の強み・弱みと外部環境の機会・脅威の観点から対象分野での事業の方向性を探っていきます。たとえば、人と仕事、人材と企業などを結びつけるマッチングサービスが得意ならそれをマルチハビテーション等の分野に適応させて検討するわけです。
都市人材を求めるような地方企業の会員や、地方で働いてみたいと思っている都市の労働者の会員を既に有する企業ならその強みを活かしたマルチハビテーション向けのマッチングサービスの提供は難しくないでしょう。
②ビジネスモデルの確立
事業の方向性やビジネスコンセプトが決まれば、次はそれをビジネスとして成立させるための仕組みをビジネスモデルとして作り上げます。
この仕組みは、単に「○○をする」といった内容ではなく、誰を対象に、どのようなニーズを、具体的に何で充足し、かつ、ライバルに勝って事業として成長できる、という内容が伴わねばなりません。具体的には以下のような内容を含む必要があります。
・誰に:
子供がいる都市の労働者と、人材不足の地方企業
・どのようなニーズに:
都市労働者の地方で働きたいと思いや、地方企業の都市人材を確保したいという希望
・何でニーズを充足する:
マッチングサービスで都市人材と地方企業を結び付ける
・どのようにニーズに対応しライバルと差別化するか:
都市人材には地方企業の労働条件のほか、生活環境や子供の教育環境等、地域のイベントやレジャー関連などの情報を提供する
地方企業が提供する福利厚生の細かな情報を都市人材等に提供する
都市人材が地方企業やその地域に求める様々な情報を企業側に提供する
マッチング以外の移動や生活の面での各種支援サービスを提供する
こうした内容を核にして仕組みを構築していきます。
③事業化に向けた重要な経営資源の確保
ビジネスモデルを絵に描いた餅にせずに事業として実現していくためには、事業計画等に従って経営資源を適切に確保していかねばなりません。特に事業の核となるプロセスの業務の質・量にかかわる資源の確保が必須です。
ビジネスモデルの内容によりキーとなる資源は異なってきますが、ターゲットのニーズの充足やライバルとの競争に直接的に関わる資源の確保は欠かせません。
たとえば、先の地方企業と都市人材のマッチングサービスでは両者に関する豊富な情報がマッチングの成否に影響するため、その情報収集がキーファクターになります。そして、その実現には的確な情報を提供してもらうための仕組み(情報提供を促す施策の考案やアプリの開発等)が必要です。
また、地方企業と都市人材との交流のある企業や自治体等と連携することでターゲットに情報提供や会員登録などを促すことも可能となるため、協力者との連携等は重要であり、それを外部資源として活用することが求められます。
④クラウドファンディングを利用した資金の確保と会社設立
マルチハビテーション等の事業ではサービスが多様化して必要資金が予想以上に多額になる可能性もあるため、資金の確保にはクラウドファンディングの利用も必要です。
この事業では働き方改革への対応、新型コロナの感染対策や地方の活性化といった社会課題の解決に貢献することになるため、クラウドファンディングによる資金調達が十分に期待できます。
クラウドファンディングは起業時や会社設立時での開業資金の獲得に利用できるほか、自社や事業の知名度を高めるのにも有効です。クラウドファンディングはブランディングやプロモーションに役立つ上に人材確保にも利用できます。
5 マルチハビテーション等の関連事業を行う場合の注意点
最後に新しい働き方・生活の仕方等を支援するビジネス展開で失敗しないための注意点を説明しましょう。
5-1 新しい働き方等のニーズへの柔軟な対応
対象とする新しい働き方等のニーズを狭め過ぎると、ビジネスが小さくなり成長が困難になる恐れが生じるため注意が必要です。経営資源の量などを考慮しつつ対象ニーズにある程度の幅を持たせて周辺ビジネスを取り込んでいくことも検討しましょう。
たとえば、都会で生活する人には自然に接する環境で子供を育てたい、ゆったりした生活空間で趣味を満喫したい、地方や故郷などと関わりを持ちたい、などの考えを持つ方が少なくありません。
この希望を実現してもらうために、複数拠点生活を支援するというサービスが成り立ちますが、そのサービス内容は多岐にわたります。
具体的には「住む」「趣味を行う」「食材・料理を堪能する」「アウトドアを楽しむ」「子供の学習環境を確保する」「住居・施設等の管理が適切にできる」「拠点間や拠点地域での移動を楽に・低コストで行う」などの方法や場所を紹介・提供する、といったサービスです。
ニーズの対応を「住居・施設の紹介・提供」というサービスに限定すれば、ビジネス量も限られる上、その他のニーズ(サービス)に対応するライバルに後れを取る可能性を高めてしまいます。
複数拠点生活等の希望者がまだ多いとは言えないため、対象ニーズの幅をある程度広げて柔軟にサービスの幅を広げることも検討しましょう。
5-2 ユーザーへのプロモーション
複数拠点生活の希望者を増やし、自社のサービスを利用してもらうためのプロモーション活動に注力することが求められます。複数拠点生活の実施者はまだ多いとは言えないため、希望者を増加させ実施者へと導く啓蒙活動やプロモーション活動が欠かせません。
複数拠点生活等のメリットや自社ビジネスの魅力などを、都会の労働者・生活者や地方の企業・自治体等に広くアピールして、認知してもらい興味から利用へと促す行動がこの分野の事業者には必要です。
具体的には、自社ビジネスのターゲットが利用するメディアやサービス企業等での広告・PR、ターゲットの情報を豊富に保有する企業や機関との協力・連携による情報発信、自社によるPRのための動画配信やセミナー・研修等の開催、などになります。
現状のマルチハビテーション等に関連するビジネスでは、需要を掘り起こし、自社サービスを認知してもらう活動が不可欠です。
5-3 ネットワークの構築・連携
サービスが多様化するほど自社の経営資源だけでは対応が困難になるため、他者との協力・連携が重要となりその構築が求められます。
複数拠点生活等に関わるビジネスには、住居・施設、生活、娯楽、移動、管理、などに関連した多くのサービスが存在しますが、1社だけで多くのサービスを提供するのは困難です。
自社がメインで提供するサービスの事業をユーザーにとってより魅力的にするには他の優れたサービスを他者の協力により提供してもらう方法が有効になります。
各々が得意とするサービスを連携させることでユーザーの利便性や快適性を高め自社サービスを選択してもらうわけです。また、先に取り上げたプロモーション活動の点でも他者との協力・連携は重要となり、自社事業の成否に直結することもある点を理解しておきましょう。
5-4 IT・デジタル技術の活用
現代のビジネスでは情報の質・量・スピードが成功に不可欠であり、IT・デジタル技術を活用したビジネスの構築と運用が必要となっています。そして、その点においては新しい働き方等に関連したビジネスでも同様です。
労働者、生活者や事業者等はインターネットを利用して情報を収集し、仕事を探したり、生活を楽しんだり、ビジネスに取組んでおり、インターネットおよびその情報等が彼らの行動の前提になっています。
こうした状況は新しい働き方等に関連したビジネスでも同様です。住居・施設、生活、娯楽、移動、管理、などの各サービスにIT・デジタル技術が活用され、その質がユーザーの支持に直結します。
地方企業と都市人材のマッチング、住居・施設の紹介・提供、移動サービス、食事・観光・アウトドアの情報提供や優待等などのサービスを的確かつ迅速に実施できるようにデジタル技術を活用し事業の成功確率を高めることが大切です。