情報化と消費者ニーズの多様化が進む現代で、ビジネスを成長させるためには従来のマーケティング手法だけでは対応が困難になってきました。
売手企業においては、顧客が自社商品等を購入する前から彼らとの関係を作り始め、そこから得た情報を統合・分析して、最適な提案を行い購入へと結び付ける、その後もフォローを続け顧客満足度を高める、といった方法で顧客と個別に向き合う活動が求められるようになってきたのです。
そこでこの記事では、現在の経営環境等を踏まえてCRM(顧客関係管理)、カスタマーサクセスやパーソナライゼーションなどの顧客との関係性を重視した経営手法(システム)を取り上げ、ご紹介します。
顧客との関係や個別に向き合う経営の重要性、従来のマーケティング手法とCRM等との関係、CRMやカスタマーサクセス等の内容や事例、その導入・実施の進め方などを把握したい方は、参考にしてみてください。
目次
1 ビジネスで求められる顧客とのかかわり方とは
ここでの「お客とのかかわり方」とは、商品等の提供に至る、顧客に対するアプローチ、購買促進、購買決定、購入後のフォロー、といった一連の過程での顧客にどう対応するか、という向き合い方のことです。
従来のマーケティング手法でもこうした部分に力点を置いた施策が展開されてきましたが、今日ではより重要なってきています。ここではその背景や従来のマーケティング手法との違いなどを解説しましょう。
1-1 マーケティングとは
「お客とのかかわり方」の理解のために、従来のマーケティングの内容を簡単に確認します。マーケティングを簡単に表現すると「売れる仕組を作る活動」や「顧客が求める価値を提供する活動」と言えるでしょう。
顧客が望む商品やサービス(ニーズ)を明らかにして、その顧客との接点をもって購買を促し、購入による価値の最大化を示すとともに、再購入へと導くための活動を行う、ことがマーケティング活動になります。
従って、企業が自身の技術を活かして開発した商品等を顧客に販売する行為はマーケティング活動の範疇ですが、単に作れるモノ・用意できるサービスを顧客に販売しようとする、市場に投入しようとする行為はマーケティング活動とは言えません。
自社が販売したい顧客を明確に定め、彼らが求める価値を満たした商品・サービスを用意し、彼らが満足できる購入手段なども提供して、その価値を最大限に享受できるようにしていくことがマーケティング活動になります。
マーケティング活動はそうした役割を担う手段であり、一般的には以下のようなマーケティングプロセスを経ることで実施されるのです。
- ・ニーズの把握
- ・環境分析
- ・市場の細分化とターゲットの選定
- ・ポジショニング
- ・マーケティングミックスの構築と実行
マーケティング活動は、商品やサービスを販売するために、誰に、どんな価値を、いくらで、どのように提供していくかの仕組みを作る行為であるため、まず、自社が対応し得る範囲の「顧客ニーズ」を特定する必要があります。
具体的には、どのような人や企業を対象として、そして、彼が欲するモノやサービスの内容を特定するのです。企業には経営資源に限りがあるため、その範囲内で対応できるターゲットとそのニーズを明確にすることが求められます。
そのために最初に行うのが環境分析です。内的環境として自社の強みや弱み、外的環境として市場や競合先等の状況などを調査・分析して、ターゲットの設定、ニーズの特定や事業コンセプトの構築などが進められていきます。
そして、次の作業が市場の細分化とターゲットの選定です。自社の資源や競合状態などの観点から、最も有効となるターゲットを定める必要があるため、市場を一定の基準で分けるなどして主要な商売相手を決定していきます。
以上のターゲットの絞り込みに加え、それと並行して(あるはその後に)実施するのが「ポジショニング」です。ポジショニングは、ターゲッティングで絞り込んだ対象者を分析し、彼らに自社の商品・サービス(の魅力や価値)がどう映るか、どう評価されるか、などを判断してどう訴求していくかを決める作業になります。
つまり、ライバル会社の商品等との比較も踏まえて、自社の商品等がターゲットにより購入される、より望まれるような「位置取り」を検討する、探る行為がポジショニングです。
これらの市場細分化、ターゲットの選定やポジショニングを行ったり来たりしながらターゲットとそのニーズを絞っていく過程が、マーケティングプロセスにおける最も重要な作業になります。
そして、この作業が完了すれば、次は具体的なマーケティング施策のコアとなるマーケティングミックスの構築です。マーケティングミックスは、ターゲットとそのニーズに合わせて、「製品(product)」「価格(price)」「販売促進(promotion)」「チャネル(place)」などの販売する上で重要となる要素を整えていく作業になります。
ターゲットが欲する製品・サービスを開発する、最適な価格を決定する、アクセスしやすい販売ルート・ポイントを用意する、製品等の認知を高めて購入を促す、といった売れるための仕組みを固めることがマーケティングミックスなのです。
こうした売るための、売れ続けるための一連の仕組みを作ることがマーケティングであり、その内容が適切であるほどそのビジネスは成功に近づきます。
1-2 マーケティングと「お客とのかかわり方」
マーケティング活動の中には、顧客とどうかかわるか、向き合うか、という部分も含まれます。従って「顧客とのかかわり方」はマーケティング活動の一部であるため、全体のマーケティング戦略やその施策内容と整合しなければなりません。
例えば、マーケティングミックスの「販売促進」の活動には、「見込客を育成する」、「顧客とのアクセス方法を考案する」、「実際にアプローチする」、「商談等を行う」、「成約・販売する」、「顧客との良好な関係を作る」、「顧客をファンにする」、といった作業が含まれます。
つまり、この一連の活動が主な「顧客とのかかわり方」の部分であり、販売の成否に影響する重要部分なのです。
いくら優れた機能やデザインを有する商品であっても、いかに魅力的な価格であっても、この「かかわり方」で問題があったり、質が低かったりすれば、売れるモノのも売れなくなってしまいます。
逆に機能・デザインや価格などがそれほど魅力的でなくても、他社よりも多少劣っていても「かかわり方」の部分が優れていれば、一定の売れ行きが期待できるのです。
そして、情報化した今の社会では、従来の情報を十分に活用していない「顧客とのかかわり方」では対応が不十分になってしまいます。
消費者や企業などでは、欲しい、必要とするモノ・サービスについて、WEBサイトやSNSなどの情報を活用し、購入もインターネット上で行い決済も済ませる、といった購買活動が普通になってきました。
つまり、ネット社会になる前と後では、顧客の購買行動が大きく変容して、従来の「顧客とのかかわり方」だけでは十分な対応が取れなくなってきているのです。その結果、ネット社会に適したマーケティング、情報化社会での「顧客とのかかわり方」が今求められています。
2 CRMなどの顧客とかかわる方法
今必要とされる顧客とかかわり方について、具体的な方法を示してその内容を見ていきましょう。
2-1 CRM
顧客との関係をマネジメントするCRMの概要と活用方法を紹介します。
1)特徴と求められる背景
CRM(Customer Relationship Management)は、日本語では「顧客関係管理」と一般的に訳されています。具体的には、顧客と望ましいコミュニケーションを取り、良好な関係を作り維持して、自社と顧客との関係を一元的にコントロールする活動のことです。
例えば、連絡先、購入履歴、面談・電話・メールやソーシャルメディアを通じたやりとり、業務管理、商談状況、などからの情報を収集・保存・分析し、効果的な営業施策や関連業務の遂行方法などの考案・実施に役立てるのがCRMの役割になります。
CRMの重要な目的の一つは、顧客との良好な関係性を通じた顧客生涯価値(LTV)の向上による企業収益の増大です。顧客生涯価値とは、顧客がその生涯において自社からいくら購買してくれるかを示す指標で、顧客との良好な関係が持続するほど数値は高くなります。
現代のビジネス環境では、消費者ニーズが多様化する傾向が強まるほか、ライバル会社との競争や異業種の参入などにより、顧客が他社にシフトしてしまうリスクが小さくありません。
その一方で、新規の顧客を開拓するのは容易でなく、コスト面でも既存の顧客を維持するコストよりも5倍かかる(経験則)と言われています。
そのため接点を持ったターゲットと関係を作り、自社商品等への購買へと誘導し、購入以降も良好な関係を持続させることは、企業収益の向上に有効な方法となるのです。一旦、築いた顧客との関係を良好に維持し、自社のファンに育成できれば、長期に渡っての収益増大が期待できます。
2)CRMの方法
CRMの方法は様々です。例えば、街の魚屋や青果店などの場合、お得意様の情報が店員の頭に入っていて、彼らが来店した時に、その好みや家族構成などの情報をもとに今日のおすすめ食材の提案、調理方法の助言などを行い、購買を促す、といった方法がとられますが、それが彼らのCRMの方法になります。
こうした方法は多数の顧客に対応するビジネスでは困難ですが、現代では情報機器やソフト(CRMシステム)を活用することで多数の顧客に対応することができ、より高度な内容を実施することも可能です。
これからそうした内容・機能について紹介しましょう。
1.顧客情報管理
CRMシステムの代表的な機能が「顧客情報管理」です。顧客情報は様々ですが、氏名、電話番号、住所、メールアドレス、などの基本情報のほか、購買履歴、相談・問い合わせの内容、クーポンの取得・利用の実績、キャンペーンの応募状況などが含まれます。
こうしたデータは様々な場所やツール等で入手されますが(実店舗やWEB上など)、業務のIT化を進めることで各種のデータ(複数のシステム等から得られるデータ)を一元管理し、分析して部門横断的に活用することが可能です(販売や問い合わせ対応などに活用)。
2.顧客分析とマーケティング支援
現在のCRMでは、収集した顧客情報を顧客データベースとして管理するケースが多く、そのデータを多角的に分析して、マーケティング施策に活用されています。
例えば、CRMシステムでは、電話等による問い合わせやWEBサイトへのアクセスなど様々な顧客との接触情報から潜在顧客を探り出し、さらに見込客を絞り込んでいくという分析が可能です。
また、会員になったり、実際に購入してもらったりした後は、問い合わせ・購買履歴・イベント参加・ポイント利用などの情報から顧客ごとの趣向や行動傾向などが分析され、マーケティング活動やカスタマーサポートで活用されます。
このように見込客や顧客に対して、彼らに適したマーケティング施策を立案し実施するための支援もCRMが担っているのです。具体的には、彼らの好みと考えられる商品・サービスを選び、魅力的な価格設定やポイント付与、さらに限定サービスなどの特典を付与し購入を促す施策などが実施されます。
会員等に対しては、彼らの基本情報や問い合わせ・購買履歴・ポイント利用履歴などをデータベースに集約して分析し、層別化したマーケティング施策や個別対応の施策が考案・実施されるのです。
層別化した施策とは、顧客を購買金額や購買頻度などの基準で層別化し、その層に応じたマーケティング施策を実施することです。顧客に対して一律同じの扱いをするのではなく、各層の特徴や重要度に適した対応を行うことで企業全体の収益向上が図られます。
個別対応は、顧客一人一人に合わせた施策を実施することです。各個人の特性に合わせるため、マンパワーだけで大人数の顧客に対して実施することは難しいですが、情報システムを利用すれば可能です。
マーケティング施策としては、購買履歴やポイント取引情報から購買行動を把握・分析して、商品等の案内を発信する、クーポンを配信する、イベント等に勧誘する、などがよく見られます。現代のCRMでは、これらを層別で行ったり、情報化の程度により個別で行ったりしているのです。
3.プロモーション管理
マーケティング施策として、様々なプロモーション活動が展開されますが、その活動の実績を把握し、さらに効果的なプロモーションの実施に結び付けるためには、プロモーション活動を管理する必要があり、それをCRMが担っています。
例えば、見込客に対してメールやDMを配信したり、優良顧客にクーポンや優待券を送付したりするといったプロモーションとその結果をCRMでデータとして管理するケースは多いです。
そして、そのデータを分析・加工して、より効果的なプロモーション施策に繋げるという作業も実施されます。
4.カスタマーサポート機能の充実
顧客は企業の商品・サービスに関して様々な疑問を抱き、利用について相談したいと思っているケースが多いため、その要望に応えることは顧客との良好な関係維持に欠かせません。そして、その実現のためにカスタマーサポート機能の充実が必要となっているのです。
カスタマーサポート機能とは、顧客等の疑問を解消するためのサービスを整備し提供することになりますが、その実現にCRMが役立ちます。例えば、質問や相談の多い内容を分析して、その答えとして分かりやすい説明をWEBサイトに掲載する、といった方法です。
商品等の利用方法、商品等のコース内容の違い、各種特典の取得や利用の方法、購入・利用・支払い・解約に関する手続、などを適切に説明できることが求められています。
こうした対応の善し悪しが顧客満足度に影響するため、顧客に不満を抱かれる対応すれば、顧客との関係は破綻し自社との取引から離脱されることになりかねません。そのためCRMによる適切なカスタマーサポートを迅速に提供できることが不可欠となっているのです。
2-2 カスタマーサクセス
顧客関係の構築及び維持向上に重要となる「カスタマーサクセス」の内容を確認していきましょう。
1)特徴と求められる背景
カスタマーサクセスとは、商品・サービスの販売以降においても顧客との接触を継続し、その顧客が商品等を使用して期待する成果を享受できるように積極的に関与して顧客満足度を高めていく活動のことです。
今日のビジネスでは、自社の商品等を販売して終わりというわけではなく、継続して利用してもらう対応がより重要になっています。その理由は、購入者が実際の購入後にその商品等の購買について後悔や失敗の不安といった感情が生じやすいからです。
例えば、「バイヤーズリモース」と言われる「この購買の判断は正しかったのだろうか?」という疑問や不安が購入者の多くに見られます。また、そうした場合に、「認知的不協和」と言われる「自分の感情に矛盾が発生した場合に理屈をつけて不安を解消しようという心理」が働くケースも多いです。
具体的には、購買の失敗の懸念を払拭するために、「他の商品との仕様を比較する」、「様々な使用方法を試し効果を確認する」、「長所を列挙してみる」などを行い購買判断の正しさを納得しようとする行為が挙げられます。
しかし、購入者が購入に対して満足できるような情報を入手できる、あるいは入手するとは限らないため、購入を後悔することも少なくありません。その結果、その商品等に対して悪い印象が持たれ、再購入や継続利用が期待できなくなるのです。
こうした購入者のバイヤーズリモース等を回避するために、購入後の満足度を高める活動が必要であり、カスタマーサクセスが重要となっています。なお、内容的にはCRM等でのカスタマーサポートの役割に類似していますが、同一の活動ではありません。
カスタマーサポートは、顧客からの問題や疑問の情報を待って、それらの解決に向けたサポートを行う「待ちの対応」です。他方、カスタマーサクセスは、顧客からの連絡を待って行うのではなく、企業側から積極的に顧客の満足度の向上(顧客の成功)に向けて行う「攻めの対応」になります。
顧客に疑問や不安を抱かれる前に企業から顧客にアプローチして「購入者の成功」=顧客満足度の向上に繋げる活動として、カスタマーサクセスが今求められているのです。
2)カスタマーサクセスの方法
カスタマーサクセスには以下のような機能で進められます。
・オンボーディング
商品等の導入後に実施する、活用方法を顧客に理解してもらうための支援
・アダプション
オンボーディング後に顧客が本格的にサービス等を運用・活用し、定着できるようにするための支援
・エクスパンション
契約の更新や客単価の向上(アップセル・クロスセル等により)に繋げるための活動
・プロダクトフィードバック
継続利用を促すためのサービスの改善や新機能の提案
具体的には下記のような機能が業務として実施されます。
1.商品・サービスの利用・導入の支援
顧客が商品等の購入に関して満足感を得るようにするためには、その商品等をスムーズに購入し上手く利用できるようにして期待の成果が得られるようにすることが不可欠です。そのためにカスタマーサクセスでは、「商品・サービスの利用・導入の支援」が実施されます。
例えば、アプリケーションの販売では、その導入や利用の仕方をわかりやすく説明する、スピーディーに利用できるような人的なフォローやシステムからのサポートを用意する、といった対応が挙げられるでしょう。
ゲームソフトのチュートリアルのように、ゲームの操作やルールの内容・進め方のコツなどを早く理解させ、ストレスなくゲームを早く楽しめるようするといった仕組みの提供が重要です。
顧客がカスタマーサポートへ問い合わせすることにならないように、問題や悩みなどになりそうな点を企業側が把握して事前に解消できる方法を提供しておくことが求められます。そうした顧客が利用できる手段を用意しておけば、自社の顧客対応の負担も減少するはずです。
2.定期的な状況確認
顧客との長期的な関係継続には、少しずつ増える不満を早めに解消することが重要となるため、購入後の顧客の利用状況などを定期的に確認する活動が必要になります。
購入後の利用で問題や不満がないか、などの確認メールもその一つです。もちろん重要な案件に関しては電話や面談で行うのも有効でしょう。
企業を相手とする生産財などの営業の場合、購入後に顧客を定期的に訪問して利用状況を確認し問題になりそうな点を事前に解消するといった取組がよく行われます。BtoC(企業が個人等に販売する形態)の事業でもそうした対応を実施することは重要です。
ただし、多数の個人を相手とするBtoCでは直接訪問したり電話したりするのが困難となるため、メールなどWEB上での対応が中心になります。
3.利用状況の分析
顧客の利用状況の確認後には、それに関する分析が必要となりますが、その代表的な方法が「ヘルススコア」の活用です。ヘルススコアとは、顧客が自社の商品・サービスの利用を継続するかどうかを測る以下のような指標を指します。
- ・ログイン情報
- ・運用体制(運用担当者人数、レクチャー会等への参加人数、ミーティング等の回数、サポート窓口への問合件数、新規アカウント発行数など)
- ・満足度や愛着度(ネットプロモータースコア=顧客ロイヤルティの指標、ユーザー会やコミュニティサイトへの参加人数、「お客様の声」等への協力度、アンケートへの協力度、友人等の紹介など)
- ・ログイン時間
- ・データ登録数
こうしたヘルススコアが高ければ、今後も自社を継続して利用してくれる可能性が高いです。逆にヘルススコアが低いと、自社から離脱する可能性が高まるため、スコアが高くなるような改善策を打たねばなりません。
4.ユーザーコミュニティの運営
顧客同士の交流の場を用意し運営することもカスタマーサクセスとしての機能の一つです。自社の商品等の利用方法、要望・問題、商品開発などに対する意見交換のほか、関連する分野での趣味や悩み等に対する相談、などができるコニュニティーがWEB上で運営されています。
こうしたコニュニティーで取り上げられる自社への不満等が高まると、顧客が自社から離れていく可能性も強まるため、そうした情報を早めにキャッチして対応する必要があるわけです。
また、新たな商品・サービスへの要望の把握は潜在ニーズの発見でもあるため、新事業の開発に繋がります。このようにコミュニティからの情報を活用すれば顧客満足度の向上と自社の発展が期待できるのです。
コニュニティーでの企業の対応としては、「○○商品の操作が難しい」「△△サービスのお得な利用方法がわかりにくい」といった声が多く見れる場合、企業側から「□□のように利用していくと簡単に扱えます」などと分かりやすい説明を行い、フォローすることなどが考えられます。
また、新たな機能やサービスなどを求める声に対して、それらを商品化してオプションなどで提供するといった方法も有効でしょう。
5.イベントやセミナーなどの開催
購入・利用してもらう商品・サービスを理解してもらうために、顧客等に説明会や試用機会を提供する、利用に関するコンテストを行う、なども顧客満足度を高める方法になります。
こうしたイベントやセミナーは、顧客にとっての問題や悩みを解決したり、より効果的な利用法を学べたりする機会になるため、顧客満足度の向上に繋がるのです。
こうしたイベント等は、リアルやWEBのどちらの開催でも有効ですが、両方を上手く組み合わせて実施すればより高い顧客満足をユーザーに提供できるでしょう。ユーザーの意見を反映して開催すれば、顧客満足度を一層高めることが可能です。
2-3 パーソナライゼーション
個人の好みに合わせた商品等の提案を行い購買に結び付けるというパーソナライゼーションを確認していきましょう。
1)特徴と求められる背景
パーソナライゼーションは、企業が顧客に合わせて商品等を最適化して彼らの興味や関心を引き購買に繋げるというマーケティング施策の1つです。
個別の対応手段には「カスタマイゼーション」もありますが、これは企業側ではなく顧客自身が商品やサービスを最適化する行為になります。
例えば、企業がある商品を顧客に販売する際、共通する基本機能以外の機能、デザインやカラーの選択、上位グレードへの変更、オプションの保険や各種サービス等の追加、などを顧客が選べるケースが多いです。
これらの内容を顧客が自分の好みに合わせて選べるようにして、提供するのがカスタマイゼーションになります。この顧客への対応は、顧客にとって有益ですが、顧客がその企業やその商品等を認知しアクセスすることで実現されるものです。
つまり、顧客がその企業や商品を知らずアクセスしてこなければ、カスタマイゼーションという行為は成立しません。一方、パーソナライゼーションは企業側から顧客に合わせた商品等を提案する行為であり、自社及びその商品等を認知させる行為を伴うものです。
もちろん単に商品等を認知させるだけは、顧客の興味を引くことは簡単でないため、顧客の情報を集めてその人が最も好むような内容で商品等を最適化して提案することになります。
興味のある商品のタイプで、かつ、顧客が最も好むような仕様や形態などになっていれば、初見から有力な購入候補となり、購買の検討や商談が進む可能性が高まるはずです。こうした効果をもたらすのがパーソナライゼーションであり、今多くの企業が活用しようとしています。
パーソナライゼーションが注目される背景は、情報化の進展と消費者ニーズの多様化が大きく影響しているでしょう。世の中には類似の商品やサービスが溢れており、高度に情報化が発達した現代において消費者はそれらの情報を容易に入手することが可能です。
つまり、消費者は多数存在する商品等の中から自分の欲しいものを自身で探すことが簡単にできるようになっています。従って、企業としては、消費者のその探索活動に自社の情報発信等が引っかからないと、自社商品等が購買される可能性は極めて低くなってしまうのです。
消費者が自社の店舗やWEBサイトなどへアクセスしてくれるのを待つ、促す、といった行為だけでは購買の確率が高まらないため、企業側から顧客にアクセスする方が有効になります。
WEBサイトやSNS上で接点を持った消費者、会員などを見込客としてパーソナライゼーションを実施していけば、購買確率の向上が期待できるようになるのです。
2)パーソナライゼーションの方法
具体的な方法として、以下のような機能が挙げられます。
1.見込客等へのメール配信
会員などを対象として、その各々に合わせた商品・サービスをメールで案内するという方法が多く利用されています。会員登録などでの氏名、年齢、職業や趣味といった基本情報をもとにセグメントして、その結果に基づき最適化した商品等を提案といった方法が取られるのです。
さらに、基本情報に加えて、アンケートへの回答内容、問い合わせ内容や購買履歴などの情報を加えて、よりパーソナルな購買行動の情報も蓄積できれば、その結果に基づいたより個別性の高い提案がメールで行えます。
パーソナライズする基準は様々ですが、対象者(自社の基準によるステータスやランク等)、配信コンテンツの種類、タイミング(アクセスなどの特定の行動の回数に達するタイミング等)、各種の行動結果などです。
2.オンラインストアでの商品等の掲載
自社のオンラインストアなどにアクセスしてきた会員などに対して、「おすすめ商品」として表示させる方法が挙げられます。
アクセスしてきた会員等に対して、彼らの基本情報や購買行動に関する情報(閲覧情報、カードに入れた情報等を含む)をもとに彼に適した商品等を画面に表示させるという方法が取られているのです。
最近ではAI(人工知能)を活用したシステムが使用されるケースも多く、会員等へより最適化した提案が実現されています。
3.パーソナライズド広告
これは、個人のwebサイトの閲覧履歴をもとにパーソナライズされる広告のことで、その代表的な広告(ツール)がGoogle AdSenseです。具体的には、顧客が過去に検索したキーワード、地図情報、現在の位置情報などをもとに、その人の興味や関心を予測してその人に最適な広告が表示されることになります。
例えば、Googleで「クレジットカード」で検索した場合、その後WEBサイト、ECサイトやYouTubeなどにクレジットカードの広告が表示されるといったケースです。
パーソナライズド広告は興味や関心を予測して配信対象者を決定するため、事前に設定したターゲットのほか、それ以外の潜在顧客に対しても表示させることができ、見込客の開発手段として有効と言えます。
4.パーソナライゼーションツール
WEBサイトやオンラインストアにアクセスしてきた顧客等が、そこで自社の商品等について自分の好みに合わせて内容(仕様等)を決めていく、絞っていく手助けをするシステムがパーソナライゼーションツールです。
そのツールの中核を担うシステムが「リコメンドエンジン」になります。実店舗の場合は、店員が顧客データをもとにその顧客に最適な商品を提案するわけですが、オンラインストアなどの場合はリコメンドエンジンがその役割を果たすわけです。
例えば、ワインのオンラインストアにリコメンド機能を有するシステムを設置すると、そのシステムが顧客の味の好み、飲酒する際の食事の内容・場面などについて質問を行い、その回答によりその顧客に最適なワインが回答(提示)されます。
つまり、ワインショップの店員、レストラン等のソムリエのように顧客から好みのワイン等の情報を聞き出し、それに基づいてワインをリコメンドするやり方をWEBサイトやオンラインストアのシステムが行うのです。
3 顧客関係の維持向上に活用するCRM等の事例
ここではCRM、カスタマーサクセスやパーソナライゼーションの具体的な事例を紹介しましょう。
3-1 CRMの事例
会員サイトの運営に関するCRMの事例をご紹介します。
●会社概要
- 会社名:パナソニック株式会社
- 所在地:東京都港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル
- 従業員数:97000人
- 事業内容:家電・空質空調・食品流通・電気設備・デバイス等の開発・製造・販売
●企業の経営課題
パナソニック社は2007年当時において、販売に貢献する仕組みにより「新しい売り」を作りだしたいと考えていました。その仕組みの一つが「CLUB Panasonic」(以下「クラパナ」)という同社の会員サイトです。
クラパナでは、入会すると様々な特典が得られます。例えば、購入したパナソニック商品を登録(「ご愛用者登録」)しておくと、サポート情報が簡単に確認できる、ゴールド会員専用の商品お問い合わせダイヤルが利用できる、といった会員サービスが利用できるのです。
同社はこの愛用者登録からの情報をもとに顧客サポートを行い、関連商品や新商品をPRするほか商品開発にも役立てたいと考えていました。
●CRM導入の内容及び事業への活用内容
同社のCRMの導入目的は、クラパナを軸とした「顧客サービスの一元化による顧客の利便性向上」を通じた販売への貢献です。そのために、同社はクラパナについて、以下のような活用を検討していました。
- ・愛用者登録をした人からの意見をもとに商品力を強化する
- ・宣伝や販促活用のためにコミュニケーションに基づく継続的な関係を作る
- ・ネット経由で提供する顧客サービスを一元化する(クラパナIDによる統一)
運営方針としては、同社のファンを集めて、ロイヤリティを抱くよう育成し、優良顧客へと進化させていく、というもので、商品開発→商品認知→商品体験→商品購入、という流れの各段階で有効な施策が実施されたのです。
クラパナ設立時からの「愛用者登録」は、顧客が同社の商品を購入した場合に、その品番や製造番号、購入日などを登録すると、商品に付随するプレゼントキャンペーンやアンケート情報が届くといったサービスです。
このサービスは購入者がその製品を利用する上での利便性を向上させ満足度を高める手段として機能する一方、同社にとっては使用感などの生の声を収集する手段になります。つまり、クラパナからの情報は商品開発や販売促進などの重要なデータになるわけです。
「商品認知」では、同社の商品を知ってもらうために、クラパナの顧客データが各商品サイトで活用できるようにして、その顧客に適した商品をレコメンドするといった機能が導入されています。
「商品体験」では、顧客に実際に商品を使用してもらう方法として、「レンタルによる商品体験」が実施されました。新しいコンセプトの新商品の利用機会をクラパナ会員限定で提供する(募集・抽選の上)といった方法が取られています。
「商品購入」では、「CLUB Panasonicコイン」というポイントサービスを活用して自社商品の購入を促す取組が強化されました。このコインを既存の販促施策にも活用して、その販促効果の向上や従来キャンペーンのコスト削減などに役立てられています。
●導入効果
2007年11月に開設された「CLUB Panasonic」は、800万人超とも言われる会員数を誇り、月間のPV(ページビュー)は億を超える数に至っています。このクラパナは、当初の目的である商品開発に貢献しているほか、既存顧客のLTVの増大や新規顧客の開拓にも貢献しているのです。
3-2 カスタマーサクセスの事例
サービスの導入支援に関するカスタマーサクセスの事例です。
●会社概要
- 会社名:Sansan株式会社
- 所在地:東京都渋谷区神宮前5-52-2 青山オーバルビル13F
- 設立:2007年6月11日
- 事業内容:働き方を変えるDXサービスの企画・開発・販売
●企業の経営課題及びカスタマーサクセス導入の目的
Sansan社は、営業やマーケティング活動に最適なデータを活用する、営業DXサービスの「Sansan」を提供しています。Sansanに取り込まれたデータは、CRMなどの複数の営業支援システムと連携・統合することが可能です。
その連携により、Sansanを通じて営業・マーケティング活動や企業全体のガバナンスの強化など、様々な業務でデータが活用できるようになります。
顧客にSansanのサービスを利用してもらうには、「顧客にそのサービスを使いこなしてもらう」ことが必要であり、そのことが継続的な利用に繋がると同社は考えてカスタマーサクセス部門を創設しました。
そして、同社はカスタマーサクセスの主要機能として「オンボーディング(導入支援)」に注力したのです。顧客におけるサービスの導入効果を最大に高め、成功に導くためにサポートサービスとしての「カスタマーサクセスプラン」などが用意されています。
●カスタマーサクセス導入の内容及び事業への活用内容
同社のオンボーディングは、主にSansanのサービスを導入してから使用方法に慣れてもらうまでの間のサポートになります(導入→定着→活用のステップで)。
・導入
導入ステップでは、スケジュール策定、社内周知、過去名刺の取り込み、ユーザートレーニング、などの作業がユーザー側に発生し、担当者には業務での負担が重くなりますが、Sansan社は専属の担当者をユーザーに付けて要望する作業(メニュー)の支援を行います。
・定着
Sansanの導入後、最大限にそれが活用されるために、活用方法が学べる各種セミナーやWebコンテンツなどの提供が用意されているのです。例えば、その一つが「サクセスマネジメント」で、顧客のビジョン実現のためのサクセスプランが立案され、それに基づいた計画の実行や活用状況の確認が行われます。
・活用
活用ステップは、イノベーションの実現などを支援する活動です。同社のサービスを利用したユーザー等が登壇するカンファレンスの開催、サービス利用者同士の交流会、座談会や親睦会の開催、イノベーション等を実現した顧客への表彰、などです。
●導入効果
同社は2012年からカスタマーサクセスに取り組んできましたが、その成果は同社の直近12カ月平均解約率(既存契約の月額課金額に占める、解約に伴い減少した月額課金額の割合)で確認できます。
2017年5月期Q4末の値は0.95%でしたが、2020年5月期Q4末の値は0.6%と0.35%も改善されており、同社のカスタマーサクセスの取組による効果が出たものと評価できるでしょう。
2020年5月期末において、SansanはこうしたSaaS(クラウド上のソフトを、ネットを経由で利用できるサービス)業界ではトップクラスの解約率0.60%という実績を誇っています。
3-3 パーソナライゼーションの事例
WEBサイトのパーソナライゼーションに関する事例です。
参考:株式会社ブレインパッドが運営している、「Rtoaster」のWEBサイトより
●会社概要
- 会社名:株式会社さとふる
- 所在地:東京都中央区京橋二丁目2-1京橋エドグラン13階
- 設立:2014年7月1日
- 事業内容:ふるさと納税ポータルサイトの企画・運営 等
●企業の経営課題及びパーソナライゼーション導入の目的
さとふる社は、ふるさと納税の推進と地域活性化の支援に貢献する、いわゆる「ふるさと納税サイト」の「さとふる」を運営しています。
その「さとふるサイト」の特徴は、寄付先である自治体やお礼品の選定のほか、寄付金の支払い、お礼品の受け取り、といった一連の手続等を、ECサイトで買物するかのように利用できる点です。
同社は「さとふる」の認知度アップのためにテレビCMなどの広告を積極的に実施し、サイトへの来訪者数も増加させたのですが、寄付額の目標は未達でした。その結果を受けてサイトの利用状況を分析すると、来訪者の多くが同じバナー、同じページを利用していたことが判明したのです。
この状況を改善するために、顧客ごとに適した情報を出し分けたりできるWeb接客の施策を取り入れたいと同社は考え、そのためのツールとして、ブレインパッド社のRtoasterの導入が検討されました。
●パーソナライゼーション導入の内容及び事業への活用内容
Rtoasterのサービスは、そのデータ分析やAI学習などの機能を利用して、さとふる社が有するデータ(サイト内行動データ、顧客の属性データ、顧客のふるさと納税データ・寄付データ、自治体のお礼品データ)を下記のサービスに利用するというものです。
・Web接客
顧客の属性データや行動データに基づいてコンテンツを最適化する
・レコメンド
機会学習に基づいたお礼品のレコメンドを行う
・メール連携
メール内容をパーソナライズして配信する
・デジタル広告連携
DMP(マーケティングに必要なデータを蓄積・管理するプラットフォーム)のセグメントを利用したデジタル広告を行う
Rtoasterの具体的な活用として、[初回来訪][非会員][寄付実績のない会員][寄付実績のある会員]の4つに分類された各顧客セグメントと、「さとふる」トップページ等のバナーを対応させ、情報の出し分けを行うという方法が取られています。
初めての訪問者には会員登録を促すバナー、会員の方にはレビュー件数の多いお礼品特集など寄付を促し得るバナーなどが対応して掲出されているのです。
●導入の効果
上記のような分かりやすい情報の出し分けが実施されてから約2週間で該当バナーのCVR(Webサイトが目的としている成果の達成割合)は2.07倍に向上しています。
4 会社設立時からのCRM等の導入・実施の進め方
既存の会社や会社設立して間もない会社などが、CRMなどの顧客と適切に関わるための方法を導入していくための進め方やそのポイントをご紹介します。
4-1 経営課題の把握とCRM等の活用手段の選定
マーケティングでの課題など、特に顧客とのかかわり方に関する部分の課題を明確にすることが最初のステップであり、最も重要な検討項目になります。
マーケティングでは、特定製品の売上高や販売数量の伸び悩み、利益の低さを改善するといった大きな目標から、見込客の増加、成約率の増大、WEBマーケティングではCVRやCTR(クリック率)の改善、などが課題になるでしょう。
マーケティング目標の達成には、こうした課題の中から最重要課題を絞り込み、それを引き起こす原因を特定することが不可欠です。そして、その原因を解決するにはどうすべきかを考案し、CRMなどの手法が利用できないかを見極める必要があります。
つまり、重要な問題と原因を特定し、それを解決する手段としてCRM等の利用の可能性を最初に検討しなければなりません。
しかし、その判断を適切に行うにはCRM等の方法の存在や特徴を理解しておく必要があります。自社内でそうした知見があればよいですが、ない場合には専門家のいる経営支援機関、コンサルティング会社やCRM等の導入が得意なIT会社などに相談しましょう。
経営課題の把握とCRM等の活用手段の選定に目途が付いたら、次はその手段の導入の進め方やポイントを把握していきます。
4-2 CRM等の導入のプロセスのポイント
採用するCRM等の手段の内容や企業の状況などにより進め方が異なってきますが、ここでは主にCRMの基本的な導入プロセスのポイントを見ていきましょう。
カスタマーサクセスやパーソナライゼーションにはCRMと異なる導入プロセスもあるためその点を確認して進めましょう。
1)CRM等の特徴の理解
導入するCRM等の機能などの特徴を導入する会社自身が理解しておくことが第一に必要です。例えば、CRMでは先に確認した以下のような機能や要素が活動を実施する上で重要となります。
・顧客情報管理
マーケティング活動全般に不可欠な情報を集め一元管理するという顧客情報管理は、CRM等の手段のベースとなるため、課題や導入の目的に合わせた適切な構築が必要です。
・顧客分析
顧客満足度や自社へのロイヤルティを高めるためのマーケティング活動等を行うには、「顧客分析」が欠かせません。顧客情報管理のデータを活用して、各顧客の趣向や購買行動などが分析され、その結果が顧客に適した施策の実施へと繋がっていきます。
・会員サービス
見込客等を顧客やファンに成長させていくためには会員向サービスを適切に提供することが重要です。しかし、その内容が対象者にとって魅力的なものでないと効果は得られないため、対象者にマッチしたサービス等を用意してタイムリーに提供することが求められます。
サービスの内容等が再訪率・定期購入率・年間利用回数などに直結するためデータに基づいて有効な内容を検討しましょう。
・マーケティング支援
CRMでは、運営する複数のECサイトなどの顧客情報を収集・統合して、マーケティング活動の支援に活用されるケースが多く見られます。例えば、集めた情報を統合して、各ターゲットに最適なマーケティング施策をレコメンドするサポート機能などです。
ターゲットをセグメントして実施する層別の施策のほか、各顧客への最適化を図る施策などが提供されておりOne to One(1対1)マーケティングも可能になります。
・カスタマーサポート
製品・サービスについての質問や相談の対応は、収益の拡大及び顧客関係の構築・維持を図る上で不可欠です。こうした対応の善し悪しは、対応する担当者の受け答え、提供する情報の質・量や対応スピード等が重要となりますが、CRMがそうした対応の質を高め顧客満足度の向上に繋げてくれるのです。
購買履歴や購買行動の内容から適切なレコメンドができる、回答が素早い、過去の問い合せ内容を踏まえた提案ができる、といった機能をCRMが果たせると顧客との関係は良好に維持できます。
なお、カスタマーサクセスやパーソナライゼーションを主たる目的として導入する場合は、上記の機能のほか、その各々で重要となる機能の活用が必要です。
2)導入目的の明確化
マーケティング上の課題を解決することを前提とした上で、CRM等を何のために、何を達成するために導入するのか、という目的を明らかにしておかねばなりません。
曖昧な目的でもってCRMを導入すると、CRMの機能が現状に適合しない、能力が不足する、結果的に期待する成果が得られないということなってしまいます。
目的に合ったCRMとその機能をマッチさせて初めて成果が得られます。会員サービスを強化して関係性を向上させる、顧客情報の一元管理と分析から各顧客に最適なレコメンドを行う、カスタマーサポート機能を充実させて顧客満足度の向上を図る、といった目的に合わせてCRM等を導入しましょう。
3)KPI(重要業績評価指標)の設定
CRM等の活動やそのシステムが成果に繋がっているかどうかを判断する、すなわち、目標の達成を判断するには、何らかの基準が必要であり、一般的にはKPIが利用されます。
例えば、CRMシステムの運用により顧客のLTVの向上を目指す場合、それを判断し得る指標が採用されるわけです。具体的には、リピート率や離脱率のほか、お試し商品からの本商品への購入割合である「引き上げ率」などです。他には客単価も指標として利用されます。
なお、目標の評価に相応しい指標の設定が望まれますが、成果を確認してから改善活動を実施するという管理サイクルを回すことが重要であり、その活動にも注力しましょう。
4)CRM等の内容やシステムの選定
次は、上記の1)~3)を進めながら(あるいは並行して)、導入すべきCRM等の内容やシステムを選定していきます。
選定にあたっては、実際に運用できるか・しやすいか、という点も考慮することが重要です。システムの機能や内容が優れていても、実際の業務に適合しにくい、顧客等が扱いづらいという状態では期待する成果は得られないでしょう。
関係する部署のスタッフなどがそのシステムを確認する(操作性や拡張性など)、試用する機会をもつ、顧客に試用してもらう、といった取組が求められます。特にCRMやカスタマーサクセスなど、導入する活動手段やシステムの機能や内容が、課題や導入目的等に合致しているかの確認は不可欠です。
なお、CRMやカスタマーサクセスなどの活動手段は各々別物として扱うのではなく、課題解決のために必要に応じて各々の機能を予算や運用能力などを踏まえて取り入れるようにしましょう。例えば、CRMシステムをメインとしつつ、カスタマーサクセス機能も充実させるといった活用です。
5)社内体制の整備
CRM等の導入を円滑に進め運用させていくには、導入前に社内体制を整えておく必要があります。新しい活動やシステムを自社に導入していく場合、その受け入れの準備をしておかないと関連する業務に悪影響を及ぼし顧客を巻き込んだ問題を生じさせかねません。
導入にあたっては、全社員に導入の意義や目的を説明して理解してもらい、協力を得ることが最優先事項です。また、導入のプロジェクトチーム等を立ち上げ、CRM等の運用部署や担当者を決定しておくことも必要になります。
なお、システムの稼働前には運用に関する研修会などを開き、マニュアルや運用ルールなども作成して、社員が対応できるようにしなければなりません。
6)定期的な見直し
CRM等の導入後、大小の問題が発生する可能性があるほか、顧客や自社の営業部門やシステム関連業務などから様々な要望も起こり得ます。こうした要望や問題等に適切に対応することが重要であり、定期的にシステムの機能や運用方法などを見直すことも必要となるのです。
例えば、月一回の運用等に関するミーティングを開催し、システムの効果測定や分析のほか、顧客からの要望やクレームなどへの対応を協議し改善活動に繋げるといった取組が求めれます。
5 CRM、カスタマーサクセス等の導入・運用での注意点
CRM等の導入時やそれ以降で、これまで確認してきたことも含め注意しておきたい点を見ていきましょう。
5-1 顧客満足度の向上の意識
CRM等の導入はマーケティング施策の一環として顧客満足度を向上させ事業の発展や収益の増大に繋げるためのものであるため、導入から運用に至るまでこの点を踏まえた取組が求められます。
顧客満足度の向上に貢献するシステムの検討が重要となりますが、社内の既存業務との関係性や社員の運用の容易性などを考慮し過ぎると、十分な顧客満足度が得られないシステムになりかねない点には注意が必要です。
運用する側にとっては都合の良いシステムでも、実際に利用する顧客等にとっては分かりづらい、操作しにくい、魅力的でない、というようなサービス等の提供となれば、顧客の利用は進まなくなってしまいます。
利用する側にとっての価値の大きな仕組みやサービスを提供できてこそ、収益の増大等に繋がることを忘れずにシステムの内容や運用のあり方を検討しましょう。
5-2 社内体制と運用ルールの見直し
CRM等の活動やシステムの機能については、導入時のトライアルから運用開始以降において定期的な見直しが必要ですが、それに合わせて社内体制と運用ルールの見直しも必要です。
導入以降も、運用が安定して実行されるように体制を調整し関連業務に従事する者への指導や訓練などを適宜実施するようにしましょう。また、マニュアルや運用ルールなどは実際の運用に合わせて修正・追加するといった対応が必要です。
また、導入後の既存業務への影響には注意しておかねばなりません。導入によって、新たな業務や面倒な作業などが発生する場合、社内で問題となるため、そうした情報を早めに入手して改善していきましょう。
問題を放置しておくと運用への協調・協力(データ入力等)が得られず、運用が停滞してしまい、結果的に期待する成果が得られない、ということになりかねません。
5-3 運用の計画的なステップアップ
新しい仕組みやシステムを会社に導入する場合、段階的な活用・運用を進め確実に運用レベルを上げることが重要です。導入時から運用が安定するまで様々な問題が発生しやすいため、利用したい活動・機能などをすべて最初から組み込み実行するとリスクが大きくなります。
そのため導入時からの体制や社員及び顧客の慣れなどを考慮して、段階を踏んでステップアップするのが賢明です。事例のクラパナのように目標を「商品開発→商品認知→商品体験→商品購入」というように設定して、それに合わせた機能や運用を広げていくのが望ましいでしょう。
5-4 成果の確認
CRM等のシステム導入により企業収益など、どのような成果をもたらしたかを把握できるようにしておかないと、導入に疑問が生じ運用・活用の停滞を招きかねません。つまり、導入による効果が見えないと社員の運用への協力が弱くなり結果的に導入が失敗することもあるのです。
運用にあたっては採用する活動や機能に対して適切なKPIを設定し、その状況を確認しながら適宜改善へと繋げる取組が求められます。指標には先に紹介したもののほか、「顧客獲得効率」「顧客満足度」「顧客維持効率」「口コミ効果」など様々なものがありますが、自社のシステムやサービスなどにより適した指標を採用することが重要です。
そして、そうした指標と売上高、販売数量、利益や費用、などとを対比させて導入による具体的な成果を社員に示し運用のモチベーションを挙げていきましょう。
6 まとめ
現代では消費者や企業のニーズの多様化が進み、売手としては顧客の幅広い情報を集め分析して売れる仕組みを作ることが不可欠です。その仕組みの中核となる要素は顧客満足度を高める良質な「顧客とのかわかり方」であり、その実行の手段としてCRM等の活動やシステムが利用されています。
顧客に関する様々な情報から自社の商品・サービスの販売増に繋げるための情報を統合・分析して具体的な施策に活かしていくことがCRM等の導入・活用により可能となるのです。
この機会に顧客とのかかわり方をあらためて考え、効果的に顧客満足度を高められるCRM等の導入・活用を検討してみてください。