会社設立時に注意したい「見せ金」についてご存じでしょうか。会社設立時には資本金を用意することになりますが、見せ金とはその資本金を大きく見せることのできるお金といわれています。今回の記事では、見せ金の特徴とリスク、そして見せ金に頼らない資金調達方法について見ていきますので、会社設立時の参考にしてみてください。

1 見せ金の内実とそのリスク

見せ金の内実とそのリスク

見せ金とは資本金に関係するお金です。資本金とは会社設立時に用意するお金のことで、会社設立時の運転資金となり、会社の信用力を表します。資本金が高額であればあるほど、その会社はそれだけ体力や財務基盤が盤石であることを示します。

運転資金であり信用力でもある資本金ですから、多額の資本金を用意することで、取引が順調に進む可能性があり、また融資の審査においてプラスに働くこともあり得ます。

さて、この記事の本題である見せ金についてです。見せ金とは、資本金を大きく見せることを目的としたお金のことであり、資本金を大きく見せたいがために、一時的に借りる等して用意したお金のことを指します。

見せ金は一時的なお金であるため、会社の運転資金として用いることはできません。資本金を大きく見せるという目的を果たした後に、見せ金は持ち主に返却をすることになります。

すなわち、見せ金とは不純な動機によるお金の偽造であり、資本金を以て取引や融資の検討材料とする人を欺く行為に当たります。

見せ金は違法行為として「公正証書原本不実記載等罪」の対象となる可能性があります。仮にこの罪に問われた場合、刑法157条によって5年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられることになります。また、刑法だけではなく、会社法の中にも見せ金に関して適用される可能性のある規定があります。

「株式会社の成立の時における現物出資財産等の価額が当該現物出資財産等について定款に記載され、又は記録された価額(定款の変更があった場合にあっては、変更後の価額)に著しく不足するときは、発起人及び設立時取締役は、当該株式会社に対し、連帯して、当該不足額を支払う義務を負う。」(会社法第52条)

これは、資本金を過大に計上した場合、発起人(会社設立者)にはその過大に計上した分の金額を支払う義務が生じる、ということをいっています。すなわち、この条項が適用された場合、会社設立者は見せ金に相当する分を実際に会社に支払わなければいけなくなります。

このほか、見せ金を元の持ち主に返す段となった際、会社からお金を持ち出すことになるため、何らかの会計処理を行う必要が生じます。この処理を経費の架空計上という形で行った場合、その行為は脱税行為に当たります。

すなわち、見せ金自体が違法行為であることに加えて、経費の架空計上により更に罪を重ねてしまうということです。。発覚に至る経緯は次の章で見ていきますが、見せ金はリターンよりもリスクのほうが遥かに大きいでしょう。

例えば、信用を失うリスクです。見せ金は犯罪行為にあたりますので、そのような行為をした会社の評判は地に落ちます。取引先との交渉はうまくいかなくなり、既存の取引先からは取引停止の可能性もあります。

また前述の通り、見せ金が発覚した際には、その見せ金分のお金を会社設立者が結局は負担をすることになります。会社設立者はそもそもそのようなお金を持っていないために見せ金を行います。

もし、会社設立者が自己負担することになった見せ金分のお金を用意できない場合には、逆に会社が会社設立者にお金を貸しているという会計処理を行うことになります。

このような、会社が設立後直ちに会社設立者に多額のお金を貸しているとう状態は、会社の信用力を大きく損なわせるものです。また、会社設立者がこのお金を会社に長期間返すことができないままでいると、その貸付金は会社設立者への報酬として処理されることになります。

そうなると会社設立者は多額のお金を受け取ったことになります。すなわち、所得税の対象になるということです。見せ金という架空のお金によって、自身には税金という実額の負担が発生することになります。

見せ金のリスクには他にも、会社の設立がそもそも無効になるというものもあります。というのも、見せ金を巡った過去の判例に、会社の設立を無効とする判決があるからです。

2 見せ金が発覚する理由

見せ金が発覚する理由

見せ金は、取引先経由ではなかなか発覚しません。取引先、すなわち(殆どの場合)民間の会社は、他社の資本金の出どころを調べる権限や機会がないためです。

ただし、取引先または交渉先の中には、設立後間もない会社が多額の資本金を有している場合、見せ金ではないかと怪しむことがあり、資本金の出どころについて聞いてくることもあります。その際、資本金の出どころを答えられない場合には取引停止、交渉中止の事態もあり得ます。

見せ金が発覚する理由の一つは税務調査です。前章で触れたように、見せ金の返済を架空の経費計上で行った場合、設立したばかりの会社で高額の経費が計上されている状況は、税務調査官が怪しむには格好の材料となり、調査の結果、発覚するという流れです。

他にも見せ金が発覚するケースとして、融資の審査時が上げられます。融資の申込み時には、返済不能(貸し倒れ)となった際には金融機関側のダメージが大きいため、厳しい審査が行われます。

融資の審査では、返済できる目途や体力があるかを判定するために、資本金が重点審査項目的となります。例えば、後の章で見ていく日本政策金融公庫の創業融資を受けようとする場合、審査項目に会社設立者の自己資金額の確認、すなわち会社設立者個人の通帳の確認が含まれます。

もし、会社設立前後の会社設立者の通帳上には大きなお金の移動がないのに、またはそもそもそのようなお金がないにもかかわらず、会社には多額の資本金が計上されていたら。当然、融資担当者の怪しむ理由となります。

これが、サラリーマンを辞めて会社を設立することにしたので、退職時の退職金であるというような説明と退職金の資料を用意できれば、融資担当者も納得するでしょう。

また、親からの資金援助の場合でも、贈与に対する確定申告を行っているといった事実や確定申告書類を説明することで、審査への悪影響は避けられます。

上記のような明確な理由を説明できない、降って湧いたように見える高額の資本金には、融資担当者の疑念は深まるばかりです。

金融機関側としてはそのような出所不明の資金を持つ会社に融資をして、果たして完済されるのだろうか、そもそも見せ金ではないだろうかと考えるに至る可能性が大です。

では、一度の振込ではなく少額の振込が細かく行われた結果の高額の資本金の場合、融資担当者はどう考えるでしょうか。それらの細かい振込人名義が会社設立者である場合は問題ありません。

例えば、起業をする前のサラリーマン時代に毎月の給料から積み立てていったもの、という説明ができれば融資担当者も納得するでしょう。

しかし、振込名義が会社設立者ではなく第三者の場合は、一回ずつは少額であっても結果として高額になるのであれば融資担当者はその理由を尋ねてきます。そして、振込名義者について説明できない場合、融資担当者は見せ金であると判断する可能性も高いので、注意しましょう。

3 見せ金と判断されないためには

見せ金と判断されないためには

前章では、退職金の振込や給料からの一定額の積み立てには、通帳の振込人名義や退職関係の資料を用意すること、親からの援助に対しては確定申告書を用意することを、見せ金と判断されないための方法として見ました。

それ以外にも、見せ金ではなくても高額の資本金を用意できる場合がありますが、見せ金と判断されないようにするにはどうすれば良いでしょうか。例えば株式や不動産等の資産を売却して資本金の元とした場合には、売却時の資料を融資担当者に見せましょう。

説明に苦慮する可能性が大きいものとして考えられるのは、銀行に預けないお金、いわゆる「タンス預金」です。タンス預金の場合、会社設立者個人の通帳に現れないため、タンス預金を資本金とした場合には、正に降って湧いたような、すなわち見せ金のような印象を融資担当者に与えてしまいます。

融資担当者に不信感を与えないためには、日頃からタンス預金の積み立て推移や金額をメモしておくことです。給料から一定額を積み立てる場合は、その引き出し額と引き出し日、そしてタンス預金残高の推移を記録しておきましょう。

なお最も安全なのは、会社を設立すると決めた時点で定期的に預金口座に振込をしておくことです。できれば毎月のペースで振込むようにして、振込名義人を会社設立者(自分自身)とすれば、融資担当者からの信用度が大きく上がります。

上記以外にも、高額の資金調達の場合はできる限りその資金の資料を用意しておきましょう。例えば宝くじが当たってそれを資本金とする場合は、当選した宝くじの控えと当選番号を記載した資料等です。

4 見せ金ではない資金調達方法

見せ金ではない資金調達方法

見せ金はリスクの大きい、見返りの少ない方法です。見せ金の目的が融資の実現である場合は、そもそも見せ金に頼らなくても会社設立者に優しい融資がありますので、最後にそれを説明しましょう。

会社設立時の融資として最も安全でメジャーなものに、日本政策金融公庫による創業融資があります。日本政策金融公庫とは政府系の金融機関で、会社設立者への支援等を行う金融機関です。

日本政策金融公庫の融資は金利が安いのが特徴です。そもそも民間の銀行に融資をもう申し込んだとしても、設立したばかりの会社への融資はリスクが高いため、融資が通る可能性は極めて低いものとなります。

それでは日本政策金融公庫による創業融資の幾つかを見ていきましょう。その融資の一つは「新規開業資金」です。当制度は「女性、若者、シニア」向けのもの、「廃業歴等があり、創業に再チャレンジする」人に向けたもの、「中小会計を適用して創業する」人に向けたものの3つに分類されます。

「女性、若者、シニア」向けとは、女性、若者(35歳未満)またはシニア(55歳以上)の起業者に、特別利率で支援をする融資制度です。

「廃業歴等があり、創業に再チャレンジする」制度は、以前会社を設立したものの廃業の憂き目に会い、起業を再チャレンジする人に向けたものです。当制度では、以前廃業した際の債務を返済するために用いることもでき、他の融資制度よりも長い返済期間となっています。

「中小会計を適用して創業する」人に向けたものとは、中小会計、すなわち中小企業の実態に即して設けられた会計方法に準拠する会計を取り入れた会社が適用できる、特別利率で利用できる制度です。

以上の3つの分類からなる新規開業資金は、おおむね会社設立後7年以内であることが利用条件となっています。更に最初の2つ(女性~、廃業~)の制度は、雇用等の一定の目標を達成する場合には利率を0.2%引き下げる「創業後目標達成型金利」制度も設けられています。

3つ共通事項として、融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)で、返済期間は設備資金の場合は20年以内(うち据置期間2年以内)、運転資金の場合は7年以内(うち据置期間2年以内)というものがあります。また、担保や保証人に関しては「ご希望を伺いながらご相談」となります。

また、上記の「新規開業資金」以外にも、日本政策金融公庫には「新創業融資制度」という、会社を設立しようとする人、または事業開始後税務申告を2期終えていない人に、無担保・無保証人で活用できる制度があります。この新創業融資制度は先の新規開業資金と併用することもできます。

この制度の活用には、前述の事業開始後2期以内ということと、事業開始後1期以内の場合には会社設立時に資金総額の10分の1以上の自己資金を確認できることが要件です。融資限度額は3,000万円(うち運転資金1,500万円)となっています。

5 会社設立時の資本金はどうやって会計処理する?

会社設立時の資本金の会計処理

会社設立時には様々な決め事や準備、お金が必要となります。資本金は会社設立時に必要なお金ですが、この資本金についての理解を疎かにしていると、会社設立後につまずいてしまう可能性があります。

そのため、スムーズな会社設立と事業開始のために、資本金の意味と会計処理について確認しておくことが大切です。

会社には「会社法」と呼ばれる会社の設立から運営、管理に関して定めた法律があります。資本金はその会社法第445条の中で、次の鉤括弧内のように規定されています。

『株式会社の資本金の額は、この法律に別段の定めがある場合を除き、設立又は株式の発行に際して株主となる者が当該株式会社に対して払込又は給付をした財産の額とする。』

すなわち資本金とは、会社設立時に、または株式を発行する際に、会社の運転資金となるように株主が出すお金のことです。

運転資金になるお金というからには、資本金が多ければ多いほど事業がスムーズに進むということになります。現在の会社法に改正される前の旧会社法では、株式会社においては資本金を1000万円用意しなければいけないという規定がありました。しかし、現在の会社法ではその規定は廃止されて、1円からでも設立可能となっています。

5-1 資本金の書類上の手続き

会社を設立する際には「定款」という会社の規定集・法律集にあたる書類を作成する必要があります。その定款の、必須ではありませんが記載事項の一つに、資本金額を定める項目があります。

しかし、定款を作成する時点ではまだ会社は設立されていません。それではどのようにして会社設立者のお金を資本金として処理するのでしょうか。その処理は「資本金の払込」と呼ばれる方法で行います。

まず、会社設立時には会社の法人口座がないため、発起人(会社設立者)の個人口座を用意することから始めます。用意するといいましたが、新しく口座を開設する必要はなく、払込用の口座は既存の口座で問題ありません。

そして、その口座に「振込」をすることが、資本金の払込を行うという処理にあたります。振込むことで、通帳に「誰から」「幾ら」入金があったかが明記されることになります。すなわち、第三者から見て発起人から資本金額が払込されたことを確認できる状態となります。

なお、発起人が一人だけの場合は、振込ではなく預入でも問題ありません。また、発起人が複数人いる場合は、発起人総代(会社設立の代表者)の個人口座を使用します。

発起人総代の個人口座に、各発起人から自身に割り当てられた(=株式を購入する分の)振込を行うことで、誰から、幾らの金額が振込まれ、それらを合計すると資本金額になった、ということが分かるようにします。

払込を行った後には、それが会社の資本金であると証する「払込証明書」という書類の作成に移ります。払込が行われた通帳の表紙と、1ページ目(支店・口座名義人氏名・口座番号などが記載されているページ)、そして払込が行われたページのコピーが、払込証明書の一部となります。

なお、通帳がないネット銀行を払込用口座とすることも問題ありません。ネット銀行の場合は、「金融機関名」と「預金種類」、「口座番号」、「口座名義人氏名」、そして「払込金額」が分かるページを印刷します。

鑑となるページの作成も行います。鑑には特定の様式というものはありませんが、払込の金額と、その金額に対する株式数、1株あたりの払込額、そして払込日が記載項目となります。払込日は、通帳上の払込日と一致するようにします。

そして、本店所在地(会社の住所)と商号(会社の名前)、代表者の役職(代表取締役社長等)と代表者氏名、会社代表者印を押印すると鑑の完成です。

この鑑と通帳のコピーをホッチキスで綴じます。このとき、綴じたページの境目には会社代表者印を押印します(割り印)。なお、鑑の上部には捨印を押しておくと、訂正がスムーズに進みます。

なお、資本金は払込をした直ぐ後に会社の運転資金として使用しても構いません。会社設立後(会社設立登記完了後)まで使用してはならないということはないということです。

なお、資本金を払い込むタイミングに注意が必要です。払込のタイミングは規定化されており、そのタイミングは定款認証後となります。定款認証とは、先に説明した会社の規定集である定款を、正式な手続きをもって作成されたことを認証するための手続きです。定款認証は、公証役場という場所で、その地域を管轄している法務局に所属している公証人が行います。

資本金の払込はこの定款認証後に行う決まりとなっています。なお、法務局によっては定款認証前の日付でも資本金払込日として認められることがありますが、法務局、また担当者によって扱いが異なるので、決まり通りに行うのが良いでしょう。

以上がお金を資本金とする際の書類上の手続きとなりますが、会社にはお金にまつわる事柄の場合は、必ず行わなければいけない処理があります。その処理とは会計処理です。資本金も例外ではなく、お金を会社の資本金とするための会計上の処理をしなければいけません。

5-2 資本金の会計処理

会社の会計処理は「複式簿記」という会計方法によって行います。複式簿記とは、複式という名称にあるように、お金を複数の見方・捉え方をして記録(帳簿付け)をするものです。複数の見方の1つには、お金の「状態」があります。つまり、お金の残額のことで、増えたり減ったりすることで、手許の現金や預金口座の残額が変わります。複式簿記ではこの増えたか減ったかした金額を記録しますが、同時にそのお金の変動がどうして生じたかという理由も記録します。

例えば、預金が増える理由の1つに、売却した商品の入金があったというものがあります。減った理由には給料の支払いや材料の購入等があります。複式簿記では「勘定科目」という、以上見てきたお金の状態や理由を表すための特有の語句を設けて記録を行います。

その勘定科目の1つが資本金です。資本金とは、今までみてきたように会社の運転資金として幾ら用意されたのかを記録するための勘定科目です。それでは複式簿記における資本金の仕訳(記述)例を見ていきましょう。

まず、会社設立時に資本金は、その時点では会社の口座がまだないことから、発起人の個人口座上にあります。資本金を100万円として、発起人の口座に資本金100万円が払込まれた状況を、複式簿記では次のように仕訳します。

(借方)預け金 1,000,000 (貸方)資本金 1,000,000

これは、資本金の100万円は会社の手元にはない(預けている)ということを表します。借方や貸方についてここでは気にする必要はありません。借方や貸方は複式簿記特有の会計用語で、お金を複数の見方で記述するためにいわば便宜上つけた複数項目の見出し名称です。借りるや貸すという意味合いはありません。

会社設立後、法人口座(口座種類は普通預金)を開設し、資本金の100万円を個人口座から会社口座に移した場合は次のように仕訳します。

(借方)普通預金 1,000,000 (貸方)預け金 1,000,000

もし上記の移動時に振込手数料550円が発生していた場合は次のように記述します(内税方式)。

(借方)普通預金 999,450 (貸方)預け金 1,000,000
    支払手数料  550

なお、前章にて資本金は会社設立前に使用することができるといいました。例えば、会社設立登記費用である登録免許税の15万円を資本金から支払った場合には次の仕訳となります。

(借方)創立費 150,000 (貸方)預け金 150,000

これは、資本金はまだ個人口座に預けている状態なので預け金という状態であり、その預け金が15万円減った、ということを表します。そして創立費とは、会社設立時に発生した費用に用いる勘定科目です。

以上が会社設立時の資本金の会計処理となります。会社設立時には、資本金の他にも上記の創立費や、開業費といった勘定科目が出てきます。混同しないように次の章ではこれらを見ていきましょう。

5-3 資本金、創立費、開業費の違い

資本金はこれまで見てきたように、会社の運転資金となるお金です。他の2つ、創立費と開業費は、最後に「費」となっていることからも、資本金のようにお金の種類ではなく、お金が使われた理由を指す「費用」を表す勘定科目となります。

この創立費と開業費は、名前の印象は似ていますが、会社設立前後の費用として明確に使い分けをします。まず創立費とは、会社を設立するためにかかった費用です。

例えば、前章で上げた会社設立登記の登録免許税や、定款等の会社設立時の規則や書類の作成にかかった費用、専門家への会社設立委託費用、従業員への会社設立にあたっての事務の給与等が創立費となります。

開業費とは、会社設立後に開業するまでの、すなわち事業を開始するまでに生じた費用のことです。例えば、開業にあたっての広告宣伝費や、開業の協力者との飲食費などです。会社設立前にかかった費用が創立費、会社設立後の開業までにかかった費用を開業費ということになります。

なお、創業費と開業費は先に費用といいましたが、実はこの2つは会計上「繰延資産」と呼ばれるものになります。

資産とは、長期間に渡って会社の運営に影響を及ぼすものを指し、創業費と開業費は、その後も長く会社の存続に関わる類のものという考えから、実体のない資産を表す繰延資産、という扱いとなっています。

資産は長く会社に影響を及ぼすものというその考えから、費用化も数年に渡って行います。このときの数年に渡る費用化のことを会計上「償却」と呼んでいます。創立費は会計上次のように仕訳します。

(借方)創立費償却(繰延資産償却費) 100,000 (貸方)創立費 100,000

なお、創立費と開業費は税務上任意償却をしても良いことになっています。任意償却とは、償却年数や償却額を定めていない、ということです。すなわち、好きな時期に好きな額を費用化しても良いということです。

費用とは会社の黒字額を減らすことに繋がります。黒字額が大きくなることで税金額も大きくなるという関係性のため、黒字となった年度に創立費と開業費を償却(費用化)することで黒字を減らし、そして税金額も減らすことに繋がる、ということになります。

5-4 資本金を増やす、または減らすには

最後に資本金を増やす、または減らすことについて説明しましょう。資本金を増やすということは会社の運転資金を増やすということです。資本金を増やすことを「増資」といいます。会社は株式を発行することで資本金を調達する、すなわち増資をすることになります。

また、資本金は減らす、すなわち「減資」することもできます。減資は、減資する分のお金を株主に払い戻したり、赤字が積み重なった際にその減資する分を赤字に充てて赤字額を減らしたりする際に行います。

資本金を減資する理由には税金面もあります。決算に関わる税金である法人税等は、所得(利益)と資本金額によって税額が算出されます。

所得がマイナスとなった際、すなわち赤字となった際には、法人税等は固定の「均等割」という法人税等しか発生しませんが、黒字となった場合には所得に応じて税額も変動します。その税額は、所得から資本金額に応じた税率を乗じることで算出します。

例えば、法人税等の中の法人税では、資本金1億円以上の場合の税率は23.2%、資本金1億円以下の場合は、所得額800万円超に対して23.2%で、所得額800万以下に対しては15.0%となります。このように資本金額が低いほうが税率も低くなることから、減資をする場合があるということです。

会計処理は営業活動とは直接関わりませんが、会社の決算や営業活動の分析には会計を避けて通れません。特に資本金は会社の設立と存続に深く関係しますので、資本金の知識を持つことで一段階上の経営を目指せるでしょう。