日本には巨大な市場があり、まだまだビジネスチャンスが残されています。特に近年はグローバリゼーションの潮流から、外国人労働者の受け入れや海外資本の誘致にも力をいれています。本記事では外国人が日本でビジネスをしたいと思ったときに、どのようにビジネスを始めれば良いのか、手続きや費用、最低限知っておくべき知識について説明していきます。あわせて外国人を採用する際の注意点も解説しますので、ぜひご参考ください。

1 会社を設立するために必要なこと

日本で会社を設立するためには大きく分けて3つのステップが必要です。まずは、各ステップで必要な手順と内容を簡単に解説します。

 

1-1 日本で起業の準備をする

日本で会社を設立する際にまずしなければならないのは準備をすることです。これは、日本人が起業の際に行うような、どの様なビジネスで起業するかを考えたり、資本金を用意したりということだけではなく、一定の準備を先にしておかなければこの後に説明する経営・管理ビザの取得ができません。

また、日本に会社を設立するだけが日本進出の方法ではありません。既に外国に法人が存在する場合は、日本にも法人を設立するよりも、海外法人の日本支店という形で進出した方が、メリットが大きいケースも存在します。

一般的に起業する際に必要な準備を行うのはもちろんのこと、外国人だからこそ行わなければならない事前準備があります。

 

1-2 会社の設立登記を行う

2つ目のステップが会社の設立登記を行うことです。このステップ自体は外国人特有の必要事項などは特になくほとんど日本人と同じような手順で行います。ただし、日本の会社制度と出身国の会社制度が必ずしも似通っているわけではありませんので、日本の会社制度と法人設立手続きについては簡単には知っておいた方が良いでしょう。

ちなみに、会社を設立すればすぐ事業が始められるというわけではなく、一部の事業については許認可が必要だったり、開業の手続きで色々な公的機関に行ったりと、登記の後も色々やらなければならないことが存在します。

 

1-3 経営・管理ビザを取得する

3つ目のステップが経営・管理ビザを取得することです。ビザとは、相手国側が入国を許可したことを示す書類で、入国を許可した理由によってビザは別れています。例えば、留学で日本に来た場合は留学ビザが必要になりますし、観光で日本に来る場合は観光ビザが必要になります。

観光などの短期滞在の場合は、日本と相手国の間の協定によってはビザが不要というケースも少なくありませんが、日本で事業をする場合は一部の例外的な場合を除いてほぼ必ず経営・管理ビザという専用のビザが必要になります。仮に観光ビザなどで日本に入国して会社を設立して事業を行ったり就労したりして、その事が発覚すると法律違反で国外退去になる可能性もあるので注意してください。

では、ここからは3つのステップそれぞれについて詳しく解説します。

2 日本で起業の準備をする

まずは、具体的な手続きについて解説するまえに日本で起業する際に知っておかなければならない事前知識、準備について説明します。

 

2-1 日本に進出・起業するメリット・デメリット

まず、日本進出・起業する際に考えなければならないことは、そもそも日本に進出した方が良いのかということです。日本には巨大な市場がありますが、それだけ市場が成熟していることの証であり、企業間の競争も激しいです。よって、新興国に進出・起業するときのように人口増加・市場拡大を期待して進出・起業するというよりは、既に存在する日本マーケットを、何らかの強みを活かして取に行くという判断が必要になります。日本に進出するおオードソックスなメリット・デメリットを以下にまとめましたので、まずは日本に進出・起業するメリットの方が大きいのかについて検討してください。

 

2-1-1 日本に進出・起業するメリット

日本は世界3位のGDPを誇る大国で、巨大なマーケットが存在します。よって、何らかの競争力がある商品やサービスを保有している場合は、魅力的なマーケットの1つです。

日本に進出し、支店や支社を設けることによって日本進出の成功確率はあがります。まず、日本の取引先とのコミュニケーションがスムーズになり日本国内の顧客開拓がスムーズに行えます。更に、顧客に対するアフターサービスやケアといった観点からも日本のユーザーを相手にするのならば支店や支社を設けておくにこしたことはないでしょう。

また、大抵のビジネスは進出する国に合わせてローカライズが必要ですので、日本に支店や支社を設けた方が、ニーズをすばやく掴むことができるのでローカライズしやすくなります。

 

2-1-2 日本に進出・起業するデメリット

メリットがある一方で当然、デメリットも存在します。まず、大抵の市場で競争が激しいということです。冒頭でも説明した通り、日本は巨大な市場でありますが、色々な産業が成熟しているので、新興市場のように何でも新規参入すれば成功するかもしれないというわけではありません。

例えば、飲食店を開業したり、出身国との貿易をしたりするようなスモールビジネスなら商機はあるかもしれませんが、単純に起業するというだけでは成功率は低いでしょう。新興国以上に事業の強みや資本力が求められることが多いです。

また、もちろん物価は新興国と比較して高めです。事務所を開設する費用や日々の営業経費についてはある程度余裕を持って用意しておいた方が良いでしょう。

 

2-2 日本への進出形態

日本に進出・起業するメリットが大きいと判断すれば次に行うべきことが進出形態を考えることです。日本で事業をするといっても、必ずしも日本に会社を設立する必要は無く、支店や駐在所のレベルでも良いケースもあります。日本に進出する場合の形態は大きく分けて4つのパターン分けることができます。

  

2-2-1 日本に法人を設立する

まず、一番日本でしっかりとビジネスをしたい場合の手段が日本に法人を設立することです。一部の国では国内企業保護のために株式の過半数以上を外国資本で出資できないという場合がありますが、日本では100%外資の会社の設立可能です。よって、海外法人が子会社として日本法人を設立して、その日本法人で日本市場の開拓を行うということも可能です。また、そもそも日本で起業して法人を設立するということも可能です。

ただし、外国人が日本国内で事業を行うためには、経営者が経営・管理ビザを取得する必要があります。ゼロから起業する場合、経営・管理ビザの取得がネックになることも多いです。ちなみに、既に外国法人が存在する場合でも、日本法人を全く新しく設立する場合も手続きや運営について大きな違いはありません。

  

2-2-2 日本支店を設立する

次に考えられる進出形態が、日本支店を設立するパターンです。つまり、海外法人が既に存在している場合にその法人の営業所の1つとして日本国内で活動するパターンです。もちろん、営業所は勝手に作って良いわけではありません。きちんと日本の法務局で支店の登記を行う必要があります。

日本支店を作れば海外法人であっても日本で銀行口座を開設したり、不動産を借りたりすることもできます。ただし、事業を行うにあたって許認可が必要な業種の場合は、日本に法人を設立しないといけない場合が多いです。

日本法人か日本支店どちらを設立するべきかについて、どのような基準で検討すれば良いのかについては5章で詳しく説明します。

  

2-2-3 日本駐在所を設立する

次に考えられるのが駐在所という進出形態です。駐在所とは日本でビジネスを行う前段階として市場調査や組織作り、広告宣伝活動などを行う目的で設立される拠点のことを指します。日本法人や日本支店はお金を支払って法務局で登記しなければなりませんが、駐在所は登記をする必要はありません。

ただし、営業活動ができなかったり、駐在所名義で銀行口座の開設や、不動産の管理をすることができなかったりするなど活動における制限は大きいです。また、外国人のスタッフを雇用して就労ビザを取得する難易度が高くなるので、あくまでも実際に日本で事業を行う段階では法人か支店にする必要があるでしょう。

  

2-2-4 個人事業主として起業する

最後のパターンとして考えられるのが、日本で個人事業主として起業するパターンです。海外法人などがない状態からまったく新規で日本でビジネスをする場合は、1つ目に説明した法人と個人事業主という2つの形態があります。

法人と個人事業主の最大の違いは誰の名義でビジネスを行うのかということです。法人の場合は経営者とは別に法人という人格が存在して、法人にビジネスが紐づきます。一方で個人事業主の場合は、経営者に直接ビジネスが紐づきます。

よって、法人と個人では税金の制度が異なりますし、事業に失敗したときのリスクも異なります。法人か個人どちらで起業するのが良いのかについては5章で詳しく説明します。

 

2-3 外国人の起業に関する規制はあるのか?

外国人の起業に対して日本には特に厳しい規制はありませんが、外為法という法律によって、一部の業種については、外国資本の参入を規制している場合があります。ただし、多くの事業者にとっては関係ないと考えられます。

外国人の起業においては最大の障壁になるのが「経営・管理ビザ」の取得です。4章で詳しく説明しますが、日本で外国人が経営者として働くにあたっては経営・管理ビザという専用のビザが必要になります。このビザを取得することは外国人が日本で起業するにあたって一番ネックになりやすいです。

3 会社の設立登記を行う

メリット・デメリットを勘案した上で会社を設立しようとなったときに、次に行うべきは会社の設立登記を行うことです。外国人が日本国内で起業する特有の難しさは存在しますが、基本的に外国人でも日本でも会社を設立する際の手続きに違いはありません。会社の設立手続きについて、順番に外国人特有の問題も踏まえながら紹介していきます。

 

3-1 日本の会社の種類

まず、会社を設立する前提としてどのような形態で事業を行うのかについて考える必要があります。日本の企業の約7割は株式会社、2割は合同会社として設立されるので、この2つの会社形態から選ぶと良いでしょう。また、法人を作るのではなく個人事業主として起業するという選択肢もあります。

  

3-1-1 個人事業主と法人どちらが良いか

まず、検討するべきは個人事業主と法人どちらで起業するべきかですが、これは5章に比較方法を記載していますが、経営・管理ビザの取得を考えるのならば法人を設立した方が良いです。

ただし、永住者やその配偶者などのように就業に制限が無く、経営・管理ビザを取得しなくても起業できる方は、どちらでも良いと考えられます。個人事業主は資本金が必要ないので初期費用を抑えることができますし、開業も簡単です。ただし、規模がある程度大きい事業なら法人にした方が節税できるかもしれません。やりたいビジネスに応じて法人か個人を選択すれば良いでしょう。

  

3-1-2 合同会社と株式会社はどちらが良いか

法人として起業する場合は、合同会社と株式会社の2つの方法が存在します。株式会社は零細企業から大企業まで広く用いられている形態で他人から出資を受けたり上場したりすることができます。一方で合同会社は株式という概念が無く、出資者=経営陣となります。そのため、出資だけを受けたり上場したりすることはできませんが、法律による規制が株式会社よりも少ないので柔軟でスピーディーな組織運営が可能になります。

会社の信用力という点では株式会社の方が合同会社よりも優れていますが、起業したての小規模事業者にとっては合同会社の方が運営しやすい組織形態です。

  

3-1-3 設立に必要な費用

個人事業主、株式会社、合同会社でそれぞれ設立に必要な費用は異なります。個人事業主の場合は無料で開業手続きが可能なので手数料はかかりません。株式会社の場合は登録免許税として15万円、合同会社は6万円の費用が必要になります。これに株式会社、合同会社それぞれに収入印紙代4万円(電子定款の場合は不要)、株式会社の場合は公証人手数料5万円などが必要になります。株式会社で25万円、合同会社で10万円を純粋な設立手続きにかかる費用の目安と考えれば良いでしょう。

会社設立自体は個人でも行うことができますが、日本語で書類を用意しなければなりませんし、一定の知識が必要になるので行政書士や司法書士などの専門家にサポートを受けた方が確実にスピーディーに会社を設立できるでしょう。ただし、そのためには報酬を支払う必要があります。

ちなみに、株式会社や合同会社を設立する場合は資本金という法人の事業運営のもとになるお金を出資する必要があります。後の経営・管理ビザの取得の部分で詳しく説明しますが、1人で会社を設立して経営・管理ビザを取得する場合、最低500万円以上は資本金を用意した方が良いです。

資本金は事業のために使うお金なので、会社設立の手続き費用のようにすぐになくなってしまうということはありませんが、会社の設立準備から実際に事業を開始できるようになるまでにタイムラグがあり、その間も家賃や人件費などで会社からお金は流出するので余分にお金は用意しておいた方が良いでしょう。

 

3-2 会社の設立登記

事業を始める際には会社設立の登記をしたり、開業届を出したりする必要があります。どのようにすれば良いのか、手続きの流れについて説明します。

  

3-2-1 個人事業主として活動する場合

まず、個人事業主として開業する場合について説明します。個人事業主として活動する場合は、税務署に開業届を提出することによって事業を始めることができます。ちなみに、開業届を出した方が色々な恩恵が受けられますが、出さなくても事業自体は行うことができます。ただし、開業届を出すにしても出さないにしても、1年に1回確定申告を行い、きちんと事業所得を申告して税金を支払わなければなりません。

永住者や日本人の配偶者などにとっては一番簡単な手続き方法です。ただし、外国人で就労が自由にできない場合は、個人事業主として起業するのはおすすめしません。経営・管理ビザを取得する際の難易度が高くなってしまうからです。

  

3-2-2 オフィス・銀行口座を確保する

法人を設立する際に、まず行わなければならないのはオフィスと銀行口座の確保で、外国人が会社を設立する際に一番難しいのもこのステップです。

そもそもビザを取得していない外国人の場合、自分名義で日本国内に銀行口座を持つことも困難ですし、不動産を借りることも困難です。よって、大抵の場合は日本に居住する協力者を用意して、その人名義で会社を設立して、経営・管理ビザを取得したあとに名義人と経営者として交替するという流れが一般的です。

ただし、2015年の法改正によって4か月ビザという会社を設立する為の短期間の経営・管理ビザも取得できるようになったので、これを使用すれば外国人が自分名義でもオフィスや銀行口座を用意して会社を設立することが可能になりました。

  

3-2-3 定款を作成、必要書類を用意して法務局に登記する

オフィスや銀行口座が用意できれば、資本金を銀行口座に払い込み、定款の作成を行います。定款とは会社の名前や事業目的、本社所在地などを定めた書類で、定款のルール通りに会社を運営します。また、株式会社の場合は、作成した定款を公証人役場で認証してもらう必要があります。

さらに、日本では海外のサインのように自分の署名に印鑑を使用します。また、印鑑の中でも家やマンションを購入するなど重要なときに使う印鑑を実印と呼び、自治体に印鑑を登録しています。押印している印鑑が本人のものか確認する書類を印鑑証明と呼びますが、会社設立の際には申請書類に押されている印鑑が本人のものかを確認するために印鑑証明を求められます。ただし、海外在住の外国人で印鑑を登録できない場合は、日本の大使館や領事館でサイン名証明書手続きを行って、印鑑の代わりにサイン証明書で本人確認をすることも可能です。

 

3-3 設立登記後の手続き

設立登記の書類に不備がなければ1週間程度で会社の登記が完了しますので、会社設立は完了となります。ただし、実際に事業を開始するためには、この他にも開業届を提出する必要があります。

まず、税務署や市区町村事務所にきちんと納税するために開業届を提出しなければなりませんし、年金保険事務所に厚生年金保険の適用届を提出する必要があります、また、従業員を雇う場合にはハローワーク(労働基準監督署)にも届け出をださなければなりません。

更に飲食業やリユース業などのように事業を行うにあたって許認可が必要な業種もありますので、自社の事業に適用される法律を調べた上で必要な許認可はきちんと取得してください。

開業の準備が無事に完了すれば、次に行うのは日本で経営者として活動できるように、経営・管理ビザを取得することです。ちなみに、後述する4か月ビザのように会社設立のためのビザも存在しますが、基本的には会社を設立してからビザ申請という流れになります。

4 経営・管理ビザを取得する

日本国内で起業する場合は、経営・管理ビザの取得が必要になります。この経営・管理ビザを取得するのが、日本での起業のステップ3になります。経営・管理ビザとはどのようなビザなのか、どのように取得すれば良いのかなどについて説明します。

 

4-1 経営・管理ビザとは?

日本で滞在するためには、滞在理由や期間に合わせてビザを取得する必要があります。このうち観光や知人の訪問など90日以内の滞在で報酬を得る活動をしない場合は、ビザが不要になる場合もあります。

一方で、日本で90日以上の長期滞在や短期であっても報酬を得て仕事をする場合はビザを取得する必要があります。日本で働くために必要なビザのことを就業ビザと呼びますが、就業ビザには色々な種類があります。例えば、大学教授などのための教授ビザ、歌手やスポーツ選手などが興行で来日する時の興行ビザなどです。

そして、会社社長や役員などが日本でビジネスのために滞在する際に取得しなければならないのが経営・管理ビザです。

  

4-1-1 日本で働くために必要なビザ

ちなみに、経営・管理ビザは日本で社長や役員として活動するために必要なビザであって従業員には他のビザは必要になります。例えば、外国法人の日本支店に転勤する場合は企業内転勤ビザ、海外子会社等から受け入れる技能実習生は技能実習ビザなどの交付を受ける必要があります。

  

4-1-2 経営・管理ビザを取得している外国人の数

経営・管理ビザは会社社長や役員が日本で事業を行う為に必要なビザで、2018年6月末時点で約2.5万人の外国人がこのビザを取得しています。ちなみに日本の在留外国人が約260万人なので、経営・管理ビザを取得しているのは在留外国人のわずか1%未満ということになります。ちなみに、2015年の在留外国人と比較すると全体は約217万人から260万人と約20%アップしているのに対して、経営・管理ビザは1.6万人から2.5万人ということで約55%アップしています。

  

4-1-3 経営・管理ビザが必要ない場合

ちなみに、基本的に外国人が日本で起業する際には、基本的に経営・管理ビザが必要になりますが、例外として就労制限のない在留資格を持っている場合は経営・管理ビザを取得しなくても、自由に会社を設立することができます。具体的には以下の4つの資格を持っている場合は、経営・管理ビザを取得せずとも事業を行うことができます。

  • 永住者
  • 永住者の配偶者
  • 日本人の配偶者
  • 定住者

まず、永住者とは日本に永住権を認められた外国人のことで、原則として10年以上日本に在留しているなど厳しい条件をクリアしていないと永住者とは認められません。しかし、永住者として認められれば選挙など一部の活動を除き原則として日本で自由に活動できるようになります。また、日本人、永住者の配偶者も同様に日本国内で自由に活動できます。

定住者とは、「法務大臣が特別な理由を考慮し一定の在留期間を指定して居住を認める者」というように定義される在留資格です。例えば、日系人や日本の配偶者と死別した外国人などが定住者として認められることがあります。

  

4-1-3 経営・管理ビザを取得できる要件

経営・管理ビザを巡って問題となりやすいのがその取得要件です。既に外国で一定の成功を修めている企業が日本に進出するならともかくとして、新規で外国人が日本で起業する場合は、経営・管理ビザの取得要件の厳しさがしばしば問題となります。要件について説明します。

   

4-1-3-1 事業のための施設が日本に確保できていること

まず、必要なのが日本に事業のための事務所や店舗を確保しているということです。もちろん、このタイミングでは法人はまだ設立できていないことになりますので、外国人の個人名義でいったんは物件を確保する必要があります。

ただし、新規創業かつ与信リスクが日本人よりも高い可能性があるということで、外国人が事業用に個人で物件を取得、賃貸するというのは少しハードルが高いかもしれません。また、物件を確保してからビザを取得して会社を設立して実際に事業を始めるまでの間も家賃を支払う必要があるので、手続きの期間分だけ操業コストは高くなります。

   

4-1-3-2 日本に居住する者を常勤2名以上雇用すること

日本に居住する者とは、日本人や永住者、その配偶者、定住者などが該当します。また、常勤2名のうちに経営者本人はカウントされません。外国人経営者を含めて3名以上で圧胴しなければならないということで、最初から一定以上の人件費が必要となります。

また、会社を作る前段階で以下に日本に居住する者にアプローチして従業員を確保するのかというのも手続き上のハードルの高さとなります。

   

4-1-3-3 常勤2名を満たせない場合は資本金500万円以上

常勤2名を設立時に雇用できない場合でも、資本金500万円以上で会社を設立することができれば要件を満たせます。ただし、500万円というのは大きな金額ですし、その出所も聞かれる可能性が高いです。

自分でコツコツと貯めたお金ならともかく、金融機関や親族から借りて来たりした場合は金銭消費貸借契約書や親族との関係性を示す公的書類などを求められる可能性が高いです。

   

4-1-3-4 事業計画書も作成しなければならない

経営・管理ビザの審査の際には、起業しようとしている会社の事業計画書も提出する必要があります。事業計画書を作成することもさることながら、日本語で日本人に理解できるように書類を作成しなければならないというのもハードルの高さの1つになっています。事業計画の見通しが甘かったし、倒産する可能性が高そうな事業計画であればビザの審査も当然厳しくなりますので、銀行に融資を受けるときのように説得的な事業計画を作成しなければなりません。

   

4-1-3-5 個人事業主でも経営・管理ビザは必要

ちなみに、法人を設立して経営者になるだけではなく、個人事業主として外国人が日本で事業を営む場合も経営・管理ビザの取得が必要になります。ただし、個人事業主の方が法人を設立するよりも経営・管理ビザの取得のハードルが高いです。

法人の場合は、資本金500万円以上を用意すれば、審査に必要な要件を満たせますが、個人事業には資本金という概念が存在しないので、常勤2名以上を雇用するかどのように500万円規模の事業を行うかという証明が必要になります。証明の仕方については個人の口座に500万円を入れても証明にはならないので、個人事業主は実際の出資などを持って証明するしかありません。

よって、経営・管理ビザの取得難易度だけを考えるならば、個人事業主よりも法人を設立した方が良いでしょう。

 

4-2 経営管理ビザの取得手続き

以上のような準備をした上で経営管理ビザを取得するためにはどの様な手続きをしなければならないのかについて説明します。

  

4-2-1 入国管理局にビザの申請をする

3章で説明した開業の準備ができた時点でビザの申請書類を用意して、入国管理局にビザの申請をします。手続きには原則として本人が行かなければなりませんが、行政書士などに代理申請してもらうことも可能です。

  

4-2-2 申請のために必要な書類

最低限必要な書類としては以下のようなものがあります。これは最低限で手続きや審査の内容によっては追加の書類を求められることがあります。

  • 在留資格認定証明書交付申請書
  • 証明写真(4cm×3cm)※申請時から3か月以内
  • パスポート及び在留カードとその写し
  • 履歴書
  • 会社の登記簿謄本(法人が未登記の場合は定款や資本金の払い込み証明書など事業を開始することを明らかにする書類の写し)
  • 直近の決算書(事業承継等ですでに事業が開始されている場合)
  • 事業計画書の写し
  • 会社案内、商品やサービスがわかる書類
  • 事務所の賃貸借契約書の写し
  • 常勤従業員の名簿
  • 従業員の雇用契約書または内定通知書の写し
  • 従業員の直近の雇用保険納付書控えなどの写し
  • 事務所の写真
  • 株主(出資者名簿)
  • 日本への投資額を明らかにできる書類(500万円以上、資本金の残高証明等)
  • 招聘理由書
  • 返信用封筒

設立したばかりの法人では提出することができない書類も多いので、必ずしもすべてが用意できないといけないというわけではありません。ただし、500万円以上の投資を明らかにする書類、事業計画書、事務所の賃貸借契約書の写しは審査において重要になります。

また、厳密には経営・管理ビザはカテゴリー1から4までに分かれており、カテゴリーによっても必要な書類は若干異なるので注意してください。

  

4-2-3 ビザの在留期間

経営・管理ビザの在留期限は他のビザと同じように1年3年、5年のパターンがあります。起業当初から3年や5年の在留期間のビザが認められることはほとんどなく、基本的に1年のビザから実績を積んでビザを更新していくことになります。

ちなみに、経営・管理ビザには他のビザと異なり4か月の在留期間のビザがあります。これは日本に投資を呼び込むために2015年に新設された制度で、会社の設立準備を行う事を証明すれば許可されるビザです。この4か月の間に日本で会社設立の準備をして、期限が切れるタイミングで1年ビザの切り替えてもらおうというのが制度の狙いとなります。

ただし、実際には4か月ビザの申請の際も会社登記や事務所の確保は?などと聞かれる事が多く、まだまだ日本人の協力者がいないと会社設立は難しいと言われています。

  

4-2-4 ビザが不許可になる場合もある

経営・管理ビザは一定の要件を満たしていれば必ず行われる交付されるというわけではありません。入国管理局の裁量によって、経営・管理ビザの申請を不許可とする場合もあります。

不許可になっても入国管理局は不許可理由を明確に教えてはくれませんし、2回目の審査の方が1回目の審査よりも厳しくなりがちです。不許可になる可能性を減らす、不許可になった場合も原因を分析して再申請で通りやすくするためにも、専門家を利用して経営・管理ビザの申請を行った方が良いでしょう。

 

4-3 スタートアップビザとは?

上記のように経営・管理ビザを取得するハードルは高いですが、外国人の日本国内での起業を促進するために、国家戦略特区(福岡市)の中だけ例外的にスタートアップビザという起業のためのビザが認められるようになりました。

経営・管理ビザの取得のためには、常勤の従業員2名以上、もしくは資本金500万円以上を用意する必要がありましたが、スタートアップビザでは要件が整っていなくても、創業活動計画書等を福岡市に提出して、福岡市が常勤2名以上、資本金500万円以上などの条件を満たす可能性があることを確認できれば、入国管理局が審査して6か月の経営・管理ビザが取得できる制度のことを指します。

5 外国人が会社を設立する際のよくある疑問

以上で、会社設立やビザ申請に関する手続きについて説明しましたが、外国人が会社を設立する際に悩みがちなポイントについてピックアップして解説します。

 

5-1 「日本支社」と「日本法人」をどのように使い分けるのか

まず、海外に既に会社があって、日本に進出したい場合日本支社か日本法人のいずれをつくるべきかという問題点について説明します。

まず、事業を行うにあたって許認可が必要な場合、外国法人の日本支店では許可が下りないことが多いので、日本法人を作った方が良いでしょう。また、日本では資本金1億円以上になると税制面で受けられる優遇が少なくなります。本国の親会社が大企業の場合は、1億円未満の資本金で日本法人を作った方が税制上得することも多いです。

更に、日本支店の場合は本国の株式名簿や株主情報を公開しなければなりませんし、情報が変更されると登記しなおさなければなりません。海外法人の親会社の情報を公開したくない、いちいち登記変更の手続きをするのが面倒だという場合も日本法人を設立した方が良いでしょう。

一方で日本法人を設立せずに支店として進出した方が良いケースも存在します。例えば、日本の事業で赤字が継続的に発生することが見込まれる場合、本国の法人の支店として経費計上した方が、本国の会社の利益が減って節税効果が発生することが見込めます。また、日本支店と海外本社が同一事業体と見なされるために、送金に対して課税されませんし、手続きも簡単です。一長一短があるので、事業計画に合わせて進出形態を変更してください。

 

5-2 法人、個人事業主どちらで起業するのが良いか

続いて法人、個人事業主どちらで起業する方が良いのかについて説明します。

まず、外国人で経営・管理ビザを取得して日本で事業を行うことを計画している場合は、法人を設立した方が良いです。前述の通り、個人事業主として起業すると、経営・管理ビザの取得難易度が上がってしまうからです。

就労制限のない永住者や日本人の配偶者のように特別ビザを持っている場合は、一長一短があるので、自分にあった起業の仕方で個人事業主か法人かを選べば良いでしょう。

一般論として個人事業主の方が開業は簡単で、税務申告なども簡単です。ただし、個人事業主は法人と比較して信用力が劣るので銀行融資などを受けるのが難しいですし、採用や顧客開拓でも不利になりやすいです。一方で法人は信用力が個人事業主よりも高くなりやすいものの、設立に費用がかかりますし、税務申告などにも手間がかかります。

法人と個人事業主の1つの境目が想定される営業利益の金額です。個人事業主は所得税、法人の場合は法人税が利益に対して課税されますが、課税割合は異なります。所得税は累進課税といって利益が大きくなればなるほど課税率も高くなるのに対して、法人税の課税率は利益額に関わらず一定です。

また、社宅を使った節税や、出張旅費規程を使った節税など、節税のバリエーションは法人の方が多いです。1つの目安として利益(人件費を除く)が500万円~1,000万円位発生しそうなビジネスであれば、個人事業よりも法人として行った方が良いでしょう。

ちなみに、個人事業主として事業を開始しても後から法人に変更することも可能です。

 

5-3 来日しなくても会社は設立できるのか

外国で既に事業を行っており、忙しくてわざわざ会社設立のために、長期間来日できないという場合は、来日しなくても会社を設立できないのかというのは気になるポイントになります。法改正によって、発起人全員が海外に在住していたりしても、日本に会社を設立できるようになりました。

ただし、実際には日本で銀行口座を用意したり、オフィスを確保したりしなければならないので、全て遠隔で手続きを行うということはできませんし、日本側に会社設立の協力者を用意する必要があります。

日本での会社設立をサポートしてくれるサービスもあるのでそのようなサービスを利用するか、日本法人で雇用予定の内定者に協力してもらい、とりあえずはその人に経営者になってもらって会社設立の手続きをするなどすれば、経営者自身は海外にいながら日本法人の設立手続きを行うことも可能です。

 

5-4 日本での企業運営で最低限知っておくべきルールは?

最後に日本で企業を運営するにあたって最低限知っておくべきルールについて説明します。

  

5-4-1 消費に応じて消費税が加算されます。

日本では、消費に応じて消費税が加算されます。2018年4月時点での税率は8%になっています。つまり、100円のものを販売した場合は、代金100円+消費税8円=108円をお客様から受け取ることになります。そして、企業は受け取った消費税と支払った消費税の差額分を税務署に納税しなければなりません。(ただし、基本的に2期前の売上高が1,000万円を超えていない業者は消費税の納税が免除されます。)

なお、消費税は2018年10月から10%に増税される予定です。

  

5-4-2 厚生年金保険に加入しなければならない

日本では国民皆保険制度を採用していて、社長1人の法人であっても厚生年金保険に加入しなければなりません。また、従業員についても勤務時間や勤務状況による一部の例外を除けば日本で現地採用した従業員は基本的に厚生年金保険に加入させる必要があります。

また、厚生年金保険の保険料の半額は企業側の負担、もう半額は従業員側の負担となります、

  

5-4-3 従業員の雇用ルールは労働法に基づく

日本では従業員との雇用契約などについて労働法がルールを定めています。例えば、従業員の有給休暇や労働時間に関するルールもこの法律以上の待遇をしなければなりません。また、解雇規制が厳しいので、経営者が経営判断で自由に従業員を解雇することはできず、一定の手続きに従って解雇しなければなりません。

  

5-4-4 所得税、社会保険料は給料から天引きして会社が納める

従業員に支払う給料に対して所得税や社会保険料が課税されますので、会社は従業員の負担額を給料から天引きして従業員に給与を支払い、税務署や保険事務所などに所得税や社会保険料を代わりに納税します。また、1年に1回年末調整といって、1月~12月に会社が支払った給料と所得税の金額調整をしなければなりません。

6 外国人を採用する際の注意点

いよいよ改正出入国管理及び難民認定法(以下、本稿では「改正入管法」と呼称します。)が施行され、新制度の下で外国人雇用が本格化しています。今回、改正入管法のもとで、事務手続きを含めた外国人採用における注意点を見ていきましょう。

7 外国人を雇用する手続き

外国人が、日本に在留して活動ができるのは、「在留資格」と「在留期間」の範囲内です。外国人の雇用手続きにあたっては、この2つの要件の確認から始めることになります。

 

7-1 在留資格と在留期間の確認

在留資格は、日本国内における就労の範囲とともに以下のとおり規定されています。

  在留資格の種類 就労・雇用の可否
日本で一定の活動を行うことを目的とするもの。 外交(外国政府の大使、公使、総領事等とその家族)、

公用(外国政府大使館・領事館の職員等とその家族)、

教授、芸術、宗教、報道、高度専門職(1号、2号)、

経営・管理、法律・会計業務、医療、研究、教育、技術・人文知識・国際業務、企業内転勤、介護、興行、技能、

特定技能1号、特定技能2号、技能実習

就労、雇用が認められている。
文化活動、短期滞在、留学、研修、家族滞在 就労、雇用は認められていないが例外がある。 【例外】 ・入局管理局の許可を得て就労できる在留資格(教授~特定技能)に変更した者 ・資格外活動の許可を受けた者(後掲)
特定活動(外交官等の家事使用人、経済連携協定に基づく外国人看護師・介護福祉士候補者、ワーキング・ホリデー等) 個々の許可内容による
身分・地位などにより国内での活動制限のないもの。 法務大臣が認めた永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者(法務大臣が特別な理由を考慮し一定の在留期間を指定して居住を認める者) 就労、雇用は認められている

この在留資格と在留期間を確認する手段として、「在留カード」の存在があります。在留カードは、日本国内に在留する外国人に交付され、当人が適法な在留者であることを証明するものです(在留カードは資格や要件によって、交付される場合と交付されない場合があります)。上陸許可、在留資格変更許可、在留期間更新許可等の手続きに伴って交付され、カードは写真付きで、下記の項目を記載し、偽造防止を目的にICチップが搭載されています。

【在留カードの記載事項】

  1. 氏名、生年月日、性別
  2. 国籍・地域
  3. 日本国内における住居の所在地
  4. 在留資格、就労制限の有無
  5. 在留期間(満了日表示)
  6. 許可の種類(例:在留期間更新等、原因が記載されます)
  7. 許可年月日及び交付年月日
  8. 資格外活動許可を受けているときは、その内容、期間等

《在留カードが交付されない場合》

※ 以下のいずれかに該当する場合には、在留カードは交付されません。

  1. 3カ月以下の在留期間が決定された者
  2. 短期滞在の在留資格が決定された者
  3. 外交又は公用の在留資格が決定された者
  4. 特別永住者
  5. 在留資格を有しない者

企業が外国人労働者を雇用するとき、この在留カードに記載された資格と在留期間を確認した上で、適法に受け入れることが外国人雇用手続きの最初の作業となります。なお、在留期間は資格に応じて一定の幅がありますので、個々の在留期間についての説明は省略します。

 

7-1 労働関係法令と社会保険関係法令への対応

企業が外国人労働者を採用して使用する場合、日本の労働関係法令の規制を受けます。すなわち、労働基準法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法、労働契約法、最低賃金法等です。これは、外国人不法就労者や外国人アルバイトについても同様ですが、雇用契約を締結していることが前提となります。この場合、実態として雇用関係にあることが要件ですが、外国人材の戦力化が目的なのですから、必ず雇用契約(労働契約)を締結するべきです。

また、社会保険関係法令についても、日本人労働者と同様に適用されることになります。日本は、「難民の地位に関する条約」に加入した1981年を機に、適法な在留資格を持つ外国人に対しては、社会保障制度を日本人と同様に適用しています。しかし、社会保障制度そのものは日本国民のセーフティネットとして想定されている為、外国人にとっては理不尽な場面が多いことも確かです。

公的年金を例にとると、65歳から受け取るための年金のために、短期間しか在留しない外国人も保険料を負担するわけです。現実的に見れば、これは外国人にとって不利益以外の何物でもないでしょう。受給資格である加入期間25年を満たすことは不可能に近く、介護保険とともに、外国人にとってはただの掛け捨て保険と同じとなってしまうからです。

一方、医療保険については、外国人労働者の多くは協会けんぽに加入することになりますが、母国に残した親族も、現行の健康保険法では年収などの一定条件を満たせば扶養家族にすることが可能です。日本の医療保険制度には海外で治療を受けた場合、3割の自己負担で済む海外療養費制度があり、海外の扶養家族も利用することが可能です(悪用されると日本の医療費が増大する懸念があります)。
いずれにしても、労働関係保険並びに社会保険関係についても、日本人同様の届出が必要となります。

 

7-2 就労環境の改善

労働力が不足しているのは日本だけではありません。今や中国でさえ労働輸入国となっています。近隣のアジア諸国との労働力獲得戦で優位に立つためには、受け入れる労働者の属性を把握した上で、彼らが日本で働く目的や希望を理解することが重要なポイントとなります

生まれ育った国の慣習や言葉の違い、宗教の違いは当然として、トラブルのもととなるのが、賃金、雇用形態、職場環境等々であり、国の違いによる労働事情やビジネス環境の違いから生まれる問題です。トラブルを最小限にとどめ、外国人材を戦力化するためには、まずは、双方の納得性の高い雇用契約書(労働条件通知書兼用)の締結が不可欠です。当然、外国人が理解できる言語で記載したものが必要となります。

契約締結上最も重要なのが賃金です。外国人であっても法定の最低賃金以上の支払義務があります。実態はそうでもないようですが、改正入管法の施行や労働力の争奪戦という現実を考えれば、法令違反はその企業にとって致命傷となりかねません。法定の最低賃金額を確保するとして、妥当な額はいくらぐらいでしょうか。

合理的理由のない賃金差別も法令で禁止され、同一労働同一賃金の原則に従うことになります。法令に従えば、その外国人を配置しようとする仕事に現に従事している同一の就業形態の日本人の賃金が目安となります。その賃金を基準として、その外国人の能力、学歴、職歴等を加味することで合理性の確保とともに、双方の納得性の高い賃金を決定することが肝要です。

ちなみに、賃金については、外国人同士の盗難問題や、外国人の銀行口座開設の困難さから、厚労省が電子マネーによる支払いを解禁することを決めました。これまで、支払記録が残らない現金払いが最低賃金を下回る要因ともなっていただけに、就労環境を整えるという意味ではこれは大きな一歩と言えるでしょう。

8 届出書類等

外国人の雇用に当たっての事業主の責務と必要な届出書類等について見てみましょう。

 

8-1 ハローワークへの届出

外国人の雇入れ及び離職の際には、外国人の支援や不法就労防止のため、その氏名や在留資格などをハローワークに届け出なければなりません(事業主の外国人雇用状況届け出義務)。届出対象となる外国人の範囲は、日本の国籍を有しない、在留資格「外交」及び「公用」以外の人です。届出の方法は、その外国人が「雇用保険の対象者となるか否か」によって、様式や期限等が異なります。それぞれの届出方法等は以下の通りです。

8-1-1 雇用保険の被保険者となる外国人の場合

項  目 雇入れ時 離職時
書類等 雇用保険被保険者資格取得届 雇用保険被保険者資格喪失届
届出事項 ①氏名、②在留資格、③在留期間、④生年月日、⑤性別、⑥国籍・地域、⑦資格外活動許可の有無、⑧雇入れに係る事業所の名称及び所在地等記載が必要な事項 ①氏名、②在留資格、③在留期間、④生年月日、⑤性別、⑥国籍・地域、⑦離職に係る事業所の名称及び所在地等記載が必要な事項
届出方法 雇用保険被保険者資格取得届用紙の所定欄に、「国籍・地域」や「在留資格」などを記入してハローワークに提出することにより、外国人雇用状況の届出を行ったことになります 雇用保険被保険者資格喪失届・氏名変更届の様式の、被保険者の住所または居所欄他に」、「国籍・地域」や「在留資格」を記入して」ハローワークに提出することで、外国人雇用状況の離職の届出を行ったことになります。
届出先 雇用保険の適用を受けている事業所を管轄するハローワークに提出。 同左
提出期限 雇用保険被保険者取得届の提出期限と同様(被保険者となった日の属する月の翌月 10日まで)。 雇用保険被保険者資格の喪失届の提出期限と同様(雇用保険の被保険者でなくなった日の翌日から数えて10日以内)。

 

8-1-2 雇用保険の被保険者とならない外国人の場合(雇入れ及び離職時

項目 内容
届出事項 ①氏名、②在留資格、③在留期間、④生年月日、⑤性別、⑥国籍・地域、⑦資格外活動許可の有無、⑧雇入れ又は離職年月日、⑨雇入れ又は離職に係る事業所の名称、所在地等
届出方法 外国人雇用状況届出書(様式3号)に上記届出事項を記載して届け出る。
届出先 当該外国人が勤務する事業所施設の住所を管轄するハローワークに提出
提出期限 雇入れ・離職共に翌月の末日までに。

これらの届出事項の確認は、前述した「在留カード」又はパスポートなどの提示を受けて行います。また、「留学」や「家族滞在」などの在留資格の外国人が資格外活動許可を受けて就労する場合は、在留カードやパスポート又は資格外活動許可書などで当該許可を受けていることを確認することになります。

 

8-2 年金事務所への届出

外国籍の従業員が厚生年金関係の手続きを行う際に、「ローマ字氏名届」を提出しアルファベット氏名を登録する必要があります。

 

8-3 法務省への許可申請

現に有している在留資格に属さない収入を伴う事業運営の活動又は報酬を受ける活動を行なおうとするときは、当該の外国人は、住居地を管轄する地方入国管理署へ「資格外活動許可申請」を行わなければなりません。

9 採用面接時の質問等

現状で、外国人雇用に係る採用行動を見ると、書類審査と面接を中心とし、筆記試験などはほとんど行われていないようです。今後は、外国人を「戦力」として意識すれば、面接と書類の重要度は一層高まります。面接時の質問項目は、一般的には次のような項目と考えられます。①自己紹介、②来日理由、③日本に対する認識、④キャリア、⑤応募の動機、⑥将来展望、⑦自社に対する質問等です。ただ、これからの外国人採用にあたっては、その人材によって、持てる技術・技能、知識水準等を深掘りして確認する必要があります。外国人の場合は自分を高く売り込むため、自身の能力や実績を誇張する傾向が強いとされるためです。

面接選考時に、これらを確認する時の要点は次の通りです。

  • 技術系スキル:実際にやらせてみる。
  • 専門知識:当該専門分野の社員等が面接を行い、その水準を測る。
  • キャリア:具体的な役割や実績としての職務権限にまで踏み込んだ書面(資格・免許等含む)を提出させ、面接で信憑性を確認する。

なお質問時に、宗教・信条を含め機微情報に触れてはならないことは日本人労働者と同様ですので注意が必要です。

外国人を戦力として雇用することが、いまの日本企業によって焦眉の急となっています。当面は、改正入管法で新設された特定技能1号への対応が中心となりますが、通常3年、最長5年と言う期間でどのように戦力化するのかという課題に取り組まなければなりません。

10 まとめ

以上のように外国人が日本で会社を設立するために必要な手続きや費用などについて紹介してきました。日本への進出形態としては、日本法人を設立する、日本支店を設立する、駐在所を設立する、個人事業主として日本で事業を始めるという4パターンがあります。

また、日本で経営者として活動するためには、永住者や日本人の配偶者のように活動に制限のないビザを取得するか、経営者や役員が日本国内で活動する為の経営・管理ビザを取得する必要があります。

どのような形態で日本の事業を始めるのかは、その人の経営戦略によって様々ですが、経営・管理ビザを取得して事業を行おうとしている場合、個人事業主として事業を行おうとするとビザ取得の難易度が上がってしまうので、法人を設立した方がベターです。また、駐在所は事業の準備段階で市場調査などを行う為の進出形態なので日本で本格的にビジネスをしたい場合には不向きです。よって、本国の利益と日本の利益を損益通算して本国の納税額を少なくしたい、本国とのお金のやりとりをスムーズに行いたいのならば、日本支店の方が良いでしょう。一方で本国の株主の情報を公開したくない、本国の企業が資本金1億円を超える場合は日本法人を設立した方が良いです。日本でゼロから起業する場合は当然「支店」を設立することはできないので、日本法人を設立することになります。

法人の形態としては株式会社か合同会社のいずれかを選択すれば良いでしょう。法人の設立方法は日本人が法人を設立する場合と違いはありませんが、オフィスを確保したり、銀行口座を開設したりするのは、外国人の場合少し大変なので日本側に協力者を用意しておいた方が良いです。

事業の準備が完了すると経営・管理ビザを取得する必要があります。審査の際にポイントになると考えられるので、経営の実態がきちんとありそうか、継続的に事業を行いそうかということです。オフィスなどをきちんと用意したうえで、常勤2名を雇用するもしくは資本金500万円以上であることを証明し、事業を継続できるような事業計画を作成・提出しなければなりません。

なお、在留期間は会社設立のための4か月ビザを除けば、1年、3年、5年のパターンがあり、基本的には1年のビザからスタートして実績を積んでいくことになります。

また、ビザは入国管理局側の裁量によって不許可になる可能性もあります。不許可になってもなぜだめなのか明確には理由を教えてくれないため、失敗の原因をきちんと分析できるようにあるいは申請を一発で通すためにも、経営・管理ビザに詳しい専門家などのサポートを受けて手続きを行った方が良いでしょう。