新型コロナ感染症の拡大の抑制に苦労している日本の経済では、労働市場にも大きな影響が及んでおり労働力を削減する業界がある一方、逆に不足する業界もあり、企業は慎重な雇用政策が求められています。
こうした状況下、会社設立後の企業の人材確保は一層困難になりやすいですが、逆にコロナ禍以前よりも優秀な人材を確保できるチャンスも存在しています。
そこで今回は、現在の労働市場の状況や新設企業・小規模企業等の雇用情勢を紹介し、コロナ禍で積極的に取り組む人材確保と雇用維持の意義、その取組方法・事例や実施する際の注意点などを説明します。
新設会社や小規模企業などが取り組むべき人材確保・雇用維持の重要点や具体的な実施方法などを知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
1 新設企業・中小企業等の雇用状況
従来から小規模企業等が抱える雇用問題やコロナ禍に直面する新設企業等の雇用状況などを確認しましょう。
1-1 コロナ禍以前の小規模企業等の雇用状況と経営課題
新型コロナの感染拡大前の小規模企業等の雇用状況について説明します。
①国内の雇用情勢
日本の人口は減少傾向にあり、それに伴い生産年齢人口も減少しているため、国内の産業全般において人手不足が問題となっていますが、小規模企業等の状況は特に深刻化しています。
日本の人口は2008年を頂点として、2011年以降より減少が続き今後も継続するものと予測されており、2065年には8,808万人になると見込まれています。
下図は2020年版中小企業白書の第1-1-32図で、国内の就業者数と就業率の推移が示されています。これによると、就業者数は2013年から7年連続で増加しており、就業率も2012年を底に上昇傾向が確認できるはずです。
つまり、総人口や生産年齢人口が減少傾向にある中、就業者数と就業率は上昇傾向にあるため、国内の労働市場は全般的に人手不足の状態にあります。
②中小企業等の雇用情勢
下図の第1-1-34図(上記白書より)は従業者規模別の非農林業雇用者数の推移を示した資料です。これによると、従業者規模30人未満の事業所の雇用者数は減少傾向が見られる一方、従業者規模100人以上の事業所の雇用者数は増加傾向が確認できます。
つまり、規模の大きな大企業などは一定の労働者を確保でき雇用者数を伸ばせていますが、小規模企業等は労働者を十分確保できておらず、人手不足が深刻化しています。
また、2019年度版中小企業白書の第1-4-10図〔1〕と第1-4-10図〔2〕では従業者規模別の大卒予定者の求人数と就職希望者数の推移が確認できます。
第1-4-10図〔1〕は就業者数299人以下の企業の状況が示されており、大卒予定者の求人数は足下では2015年卒から5年連続の増加が見られる一方、就職希望者は2017年卒から減少傾向です。
第1-4-10図〔2〕では従業者300人以上の企業の状況が示されており、これによると2016年卒から求人数も求職者数も微増傾向にあるものの求職者数が、299人以下の企業のものと比べ大幅に多くなっています。つまり、小規模企業の場合、大企業よりも就職希望者数が圧倒的に少なくなっています。
こうした状況からも中小企業の人材確保が上手くいっておらず、人手不足の状況が大規模企業以上に深刻と言えます。
③新設企業等の経営課題
創業間もない企業は様々な経営課題に直面しますが、昨今では人材に関する課題も重視されるようになってきました。
日本政策金融公庫総合研究所が公表している「2020年度新規開業実態調査」のP13には、企業が開業時に苦労した点がまとめてあります。それによると、「資金繰り、資金調達」(55.0%)、「顧客・販路の開拓」(46.8%)を挙げる企業の割合が高いです。
また、現在苦労している点については、「顧客・販路の開拓」(47.3%)に次いで「財務・税務・法務に関する知識の不足」(32.4%)の割合が高くなっていますが、開業時から現在にかけての変化では、「従業員の確保」「従業員教育、人材育成」などの人材に関する課題を挙げる企業が増加しています。
また、既存の中小企業等における課題についても人材に関する課題が多く見られます。2020年小規模企業白書の第3-2-23図は、自社が直面する経営課題の中で重要と考える課題を企業規模別、業種別に示した資料です。
これによると、規模や業種に関係なく「人材」と「営業・販路開拓」と回答する者の割合が6割超となっており、中規模企業の非製造業では、「人材」と回答する者の割合が8割を超えています。
新設会社や小規模企業等において人材確保や従業員教育・人材育成が大きな課題となっています。
1-2 コロナ禍に晒された企業の雇用情勢
ここではこうしたコロナ禍で大きな影響を受けた業界・企業の経営や雇用の状況について説明しましょう。
①新型コロナによる関連倒産
株式会社帝国データバンクが2021年6月15日に公表している「新型コロナウイルス関連倒産」動向調査によると、新型コロナ関連倒産は1606件で2021年は同日までで756件となっています。
1606件のうち、負債1億円未満の小規模倒産が909件(構成比56.6%)と過半を占めていますが、負債100億円以上の大型倒産は5件(同0.3%)と過小です。つまり、事業規模が小さい企業ほど倒産に陥りやすいことが伺えます。
倒産の発生月別で見ると、2021年3月が182件で最多です。昨年11月の感染第3波とその影響による年末年始の需要消失、加えて年明けの緊急事態宣言の再発出の影響により2020年12月以降の倒産が著しく増加し、年度末となる3月以降に急増しました。
6月15日現在で5月発生の倒産は137件、6月発生の倒産は25件となっていますが、緊急事態宣言の延長などが続けば今後の増加も危惧されます。東京オリンピック・パラリンピックの開催を控え、感染拡大防止対策が緩和されにくい状況にあるため、関連倒産の波をくい止めるのは困難な状況です。
倒産を業種別で見ると、「飲食店」(265件)が最多で、「建設・工事業」(156件)、「ホテル・旅館」(97件)、「食品卸」(81件)が続きます。なお、「建設・工事業」は飲食店・小売店の休業や倒産増の影響のほか、最近ではウッドショックによる資材の高騰・調達難の要因も影響が大きいです。
従って、上記の業界では雇用の維持が難しくなっており、失業者の発生や他の業界への流出に繋がっていると推察されます。
なお、倒産件数全体では、2020年7月から10カ月連続で前年同月を下回っており、4月度においては1990年の526件を下回るなど1972年以降の50年間で最少でした((株)東京商工リサーチ調べ)。
この状況はコロナ禍における政府の支援効果によるもので、企業倒産を抑制していると見られています。また、新型コロナによる業績低迷から回復したり、新たな需要を取り込んだりしてしている企業の存在も影響しているようです。
②企業業績
東京商工リサーチ社は2021年1月14日に2020年上場企業「新型コロナウイルスによる業績上方修正」調査を公表しました。
これによると、2020年に売上高や利益を上方修正した上場企業(上方修正企業)は551社で、複数回の上方修正を含むと延べ社数は654社に達します。
この551社は全上場企業3,837社の14.3%で、2020年9月18日の前回調査(4.9%)より9.4ポイント増加しました。10月以降の経済活動の再開や「Go To キャンペーン」などの消費刺激策により、コロナ禍での業績回復が見込まれる上場企業が増えた、と分析されています。
上方修正した企業の業種別では、製造業が214社(構成比38.8%)と最多で全体の約4割を占めます。生活様式の変化で需要が伸びた食品、衛生用品、家電製品など家庭内消費関連分野が大きく伸びました。
巣ごもり需要の恩恵をうけた食品スーパーやホームセンターなどの小売業、テレワーク需要やEC販売の伸長などオンライン関連の業績が向上した情報・通信業も好調を維持しています。
他方、上方修正の要因別でみると、出張自粛やテレワークの浸透などによる「経費減少」が289社(構成比44.1%)で最多です。次いで、「巣ごもり消費増加」163社、「内食需要増加」105社、「テレワーク需要の高まり」85社となっています。
つまり、経費削減以外ではコロナ禍に伴う人々の生活様式の変化への対応が好業績に繋がっているわけです。
このように新型コロナの影響で経済活動が大きく制約され業績に悪影響がおよびやすい状況でしたが、経費を削減したり新たなビジネス機会を捉えたりして業績を伸ばす企業も多く見られています。
③2022年卒の新規採用予定の状況
就職支援等を営む株式会社ジェイックは、2021年3月30日に「2022卒 新卒採用 企業調査(第1回)結果」を発表しています。
その調査結果の主な要点は以下の3点です。
- 「新卒採用目標人数を維持が58.8%、大幅に増えた・若干増えた15.2%、大幅に減った・若干減った18%と、中途採用と比べると落ち込みは少ない傾向」
- 「すでに内定を出している企業は16%、21卒と比較して内定出しを早めた(早める)という企業も33.5%と、採用の早期化に拍車がかかっている傾向が明確」
- 「選考のオンライン化は浸透し、説明会のオンライン化は85.9%、面接も75.2%、また最終選考(内定出し)までオンラインで行う会社も20.9%という結果」
1)と2)の状況を見ると、2021年の新型コロナの感染拡大は22年度の新規採用にあまり影響していないことが確認できます。倒産に至る企業が特定の業界に集中しているものの全体では減少し、企業業績も感染状況ほど悪化していない点からこの状況は理解できるでしょう。
また、3)の選考のオンライン化の浸透により採用活動をスムーズに進められるようになった点も採用活動の積極化に貢献しています。
2 コロナ禍で積極的に人材確保と雇用維持に取り組む意義
コロナ禍で会社設立後の企業等が、何故、積極的に人材確保や雇用維持の対策に取り組むべきかについて説明しましょう。
2-1 人材確保の好機
新設企業や小規模企業は特に人材不足が深刻であり、社員の採用も大企業と比べ容易でないため、コロナ禍による人材の流出や採用の手控えといった状況は人材確保の大きなチャンスです。
新型コロナの感染拡大で業績が悪化し事業継続が困難になっている企業も多く、社員の削減を進めるケースもよく見られます。また、コロナ禍でなければ通常人手不足で悩む業界でも採用活動は控えられる状況です。
その結果、飲食業、宿泊業、建設工事業やサービス業の多くの企業で労働力の余剰が見られることから、他の業界の新設会社等はその受け皿になるチャンスが生じています。
経済活動の本格的な回復が見えない状況ですが、その兆しが鮮明に見えるころには企業の採用活動が活発化することが予想されます。そうした時点になって大企業等と人材獲得で競争しても小規模企業等は不利になるため、先んじた確保に向けた活動も必要になるはずです。
2-2 業務改善や組織の活性化に貢献
小規模企業や新設会社が新規採用者を増やし離職者を抑制するには、労働条件や職場環境を整え働きやすい雇用形態を提供することが重要となります。そして、それらの整備は業務の効率化や社員のモチベーションアップに繋がるケースも多いのが特徴です。
働きやすい雇用形態を導入するには、業務方法をその形態に合わせて改善しなければならないケースも少なくありません。短時間労働者の利用、リモートワークの導入、フレックスタイム制の採用や有給休暇の促進などを実現・維持するには、今までの業務方法をそれらに合わせて見直す必要性も生じます。
つまり、多様で働きやすい労働環境を整備すれば、業務改善が必要となり結果的に業務の効率化に繋がることもあります。また、労働環境や労働条件等の改善は社員のやる気の向上や会社へのロイヤリティに繋がり、既存社員の雇用維持に役立ちます。
そうしたモチベーションの高い社員が多い会社は求職者にとっては魅力的に映るため、新規採用者の獲得にも有効です。
3 会社設立前後から取り組むべき人材確保と雇用維持の方法
ここでは小規模の新設会社等がどのような雇用政策をとるべきか、コロナ禍でどう対応すべきかを説明しましょう。
3-1 小規模企業等に求められる雇用政策
まず、コロナ禍以前から小規模企業等で問題となっている人材不足や高い離職率について、その原因と改善方法を解説します。
①人材不足の原因
1)労働者の売手市場である状況
小規模企業の場合、大企業に比べ採用募集に対する応募者数が少ないため(1-1参照)、一般的な募集方法では小規模企業等は希望の人材を確保するのが困難です。
コロナ禍以前の労働市場は特に労働者の売手市場となっており、労働条件や会社知名度などで劣る小規模企業は有能な人材を上手く確保できていません。そのため単に学校機関などへ募集を出すなどの一般的な方法だけでは希望通りの採用が困難になってしまいます。
2)条件面での魅力の低さ
応募が少ない主な理由の1つは大企業等比べた条件面の格差です。たとえば、大学卒の初任給を大企業(常用労働者1000人以上)、中企業(同100~999人)と小企業(同10~99人)のように企業規模別で比較すると、初任給の多さはこの順序になります(令和元年賃金構造基本統計調査結果(初任給)の概況:2)。
賃金について企業規模別でみると、男性は、大企業が380.3千円、中企業が323.2 千円、小企業が297.1千円、女性では、大企業が270.9千円、中企業が248.1千円、小企業が228.7千円です。このように企業規模が小さくなるほど賃金が低い状況です。
また、企業規模別(従業員数別)の労働時間を見ると(一般社団法人日本経済団体連合会の「2020年労働時間等実態調査」より)5000人以上規模の企業の総実労働時間が最短になっています。
このように賃金を含む労働条件の格差が小規模企業等の人材確保を不利にしています。
3)労働環境や働き方の魅力の低さ
職場(オフィス等)の立地(交通の便、駅からの近さや周辺の施設等)、職場の綺麗さ・使い勝手の良さ・明るさ、食堂・カフェ・談話室等の完備、など働きたいと思える環境でないと求職者は惹きつけられません。
また、働き方改革が推進される今日おいて、フレックスタイム制やリモートワーク制など柔軟な雇用形態のない勤務先は、魅力が感じられなくなる恐れがあります。こうした対応が取れていない小規模企業は人材の確保や維持に不利です。
4)会社の魅力の伝達不足
各会社には、やりがいのある仕事、風通しの良い職場・人間関係、熱心な社員教育、活気溢れる組織、など様々な魅力が存在しますが、それを採用活動の中で求職者へ伝えきれていないケースが少なくありません。
賃金・条件・環境などで劣る小規模会社でも上記のような魅力がありそれを求職者に伝えられれば、採用に繋がることもあります。
②高離職率の原因
厚生労働省の「新規学卒者の離職状況」の「新規大卒就職者の事業所規模別就職後3年以内離職率の推移」を見ると、「5人未満」の離職率(平成29年)は56.1%と最も高く、「1000人以上」が26.5%となっており、企業規模が大きくなるほど値が低くなっています。
*離職率=離職者数÷1月1日現在の常用労働者数×100(%)
つまり、小規模企業ほど離職率が高いという状況です。小規模企業の高離職率の原因は人材不足の原因と同様の点も多いですが、一般的には以下のような点が指摘されます。
1)賃金の低さや労働時間の長さ
小規模企業は大企業よりも初任給や平均賃金で劣り、特に従業員の年齢別で比較した賃金格差が大きいです。子供の進学などで教育費が多額になってくる年代での収入格差は離職を促す大きな要因になり得ます。
また、小規模企業の労働時間の長さも定着率を悪化させる大きな要因です。大規模企業と比べ賃金水準が低い上に労働時間が長い、休みが少ない・取りにくいなど労働条件等が悪ければ、企業に留まろうとする思いも希薄になってしまいます。
2)人的資源管理の不備
新設会社や小規模企業などでは人材を社内ルールに基づいて管理する体制が整っていないケースが多く、ワンマン経営や成行の慣習による不適切な人事制度が行われるケースがよく見られます。
就業規則はあるものの、それを従業員に具体的に実行させる・守らせる社内規定が存在せず、また、そうした内容を適切に運用するための管理者が不在でマネジメントが実施されていないケースも多くなっています。
終業時間や残業時間は規定されているものの、上司が所定時間外の労働に対して残業代をつけない場合、部下もそれに倣わざるを得ません。上司等がそうした行為を強要しなくても部下としては上司と同様の行動をとってしまいます。
このような社内ルールではなく社内の慣習等により労働が支配されるケースが、小規模企業等では多く見られます。社員としては望まない就労形態であるため結果的に離職へと繋がってしまいます。
ほかにも人事考課、社内教育、キャリア開発、福利厚生などの人事制度が整備されていないと、不満の増大やモチベーションの低下に繋がり離職を促進してしまいます。
3)セクハラ・パワハラの発生
セクハラ・パワハラは小規模企業のほうがより離職率を高める要因になり得ます。小規模企業等では、経営者や一部のリーダーが職場運営の支配権を握り乱用するケースが多く、セクハラ・パワハラが行われることも少なくありません。
職場内のセクハラ・パワハラが行われれば、小規模企業のほうが従業員の逃げ場が少ない、改善・相談できる管理者等がいない、などの理由から離職に直結するケースが多いです。
4)求人募集の条件と実際との差
求人募集の広告や求人票などに示す労働条件等の内容と実際とに大きな差が生じる場合、それが離職の原因になります。
残業時間や休日数などは、労働者の就業に関する重要な判断材料です。そのため多くても少なくても募集内容と実際とで極端に異なると労働者の生活設計に悪影響が及ぶため離職に繋がります。
5)高い水準のノルマ設定
営業目標の達成が厳しく求められる、いわゆる「ノルマの要求が強い」企業などでは離職率が高くなる傾向が見られます。このノルマの設定は大企業でも見られますが、要求水準の設定は小規模企業のほうが経営者の裁量で自由に設定しやすいため、離職率を高める原因になります。
ノルマの達成・未達は給与に反映され、未達の場合は給与が大幅に少なくなりかねません。また、未達の際に上司等から厳しい叱責を受けたり、なじられたりして精神的な苦痛を受けるケースも多くあります。こうしたことが離職の原因になるケースは少なくありません。
③人材確保と雇用維持の対策
上記の原因を踏まえ、以下のような対策が必要です。
1)募集方法を含む採用活動の改善
教育機関やハローワークなどに依存した募集以外にも多様な募集活動を行うことが求められます。求人募集の方法はいくつもありその中で自社が利用しやすく有効な方法を複数取り入れ活用することが重要です。
募集方法としては、以下のような方法が挙げられます。
- ●高校・大学・専門学校への求人
- ●ハローワークへの求人
- ●人材紹介事業者への求人
- ●人材紹介サイトへの求人(登録)
- ●自社サイトでの求人(採用案内)
- ●SNSを利用した求人案内
- ●就職・転職イベントや合同就職説明会への参加および開催
- ●求人誌への広告(地域等の求人誌への掲載、求人チラシの発行等)
- ●取引先・関係会社・取引のある金融機関等への人材紹介の依頼
もちろん募集方法を多様化するだけでは効果的な採用活動はできないため、それを可能とする体制整備も不可欠です。まず、採用活動を専門的に行う部門や担当者の設置(人事部等)が必要になります。
また、人事部や担当者の設置とともに、採用活動の有効な作業方法も設定しなければなりません。具体的には以下のような内容です。
・人材募集から採用面接までの準備方法
⇒募集広告や採用面接方法の内容設定 等
・採用面接と人材評価の方法
⇒履歴書等や採用面接の評価の仕方等、採用面接時の質問・評価の例の準備 等
・人材戦略に基づく採用戦略の策定
⇒経営戦略に基づいた人材戦略を策定しそれに適応する採用活動の展開、経営環境や労働者ニーズの変化に対応する採用活動などの検討 等
なお、人的資源に余裕がなく、また経営者自身が担当できない場合には人材紹介事業者などを活用することも必要になります。特に会社設立後から間もない企業などでは採用活動のノウハウが足りないため、専門の支援事業者などを活用してそのノウハウを吸収することが重要です。
2)賃金・労働時間等の雇用条件面の格差解消
労働者の生活設計に最も影響する労働条件面の水準を大企業に近いレベルに改善していくことが求められます。たとえば、初任給が大企業よりも大きく劣ると感じられる水準の場合、新卒者の応募の増加は期待しにくいです。
また、平均賃金が大企業よりもかなり低い水準なら経験・ノウハウを有する転職者の獲得も難しくなります。また、初任給の水準を上げても年齢や経験に見合った水準の賃金が得られない場合、年齢や勤務年数が増すにしたがい離職率が高まりかねません。
そのため賃金・労働時間等の水準を大企業と比べあまり見劣りしないように設計し運用することが求められます。
3)職場・労働環境の整備
小規模企業であっても職場の環境が快適であれば大きな魅力となり、応募者を惹きつけることも可能です。職場である事務所や工場などが交通の便が良く駅からも近い、周囲に買物や娯楽を楽しめる施設がある、金融機関や役所などが近い、などの立地にある場合それが魅力になります。
また、事務所等の建物が綺麗である、室内は明るく整理・整頓されている、デスクや事務機器等のレイアウトが仕事のしやすい状態になっている、などの環境も応募の動機づけ要因になるでしょう。こうした環境を整備していくことが応募者を増加させるために必要です。
製造業や建設工事業など危険な作業を伴う仕事では安全重視の職場環境、作業負担が軽減される方法なども入社の動機になるため、その対応が求められます。安全・安心の業務遂行や管理の実施、作業負担を軽減する機器・ジグ等の導入、などの実施が重要です。
4)人間関係が良好な職場環境の整備
上司のパワハラ・セクハラのない職場、上司と社員間・社員同士間のコミュニケーションがよい職場、人間関係でのトラブルの少ない職場、などは応募者の増加と離職率の低下に貢献します。
たとえば、社員がどのような扱いや言動を受けると傷ついたり、やる気をなくしたりするか、を明らかにしてパワハラ・セクハラ等を防止する組織的なマネジメントの導入・運用が必要です。
パワハラ・セクハラを防止する社内ルール(禁止事項と罰則の規定等)を設定したり、社員全員で研修を受講したりするなどの取り組みが求められます。
また、上司と社員との間で定期的・非定期の面談の機会を設け、仕事の不満・悩みなどの相談を受けるとともに、仕事のアイデア、やりたい仕事や挑戦したい業務などの意見も聞き意思疎通を良好に維持することが重要です。
加えて社員間のトラブルを回避するために、社員同士の交流の機会(食事会やレクリエーションの提供等)などを設けるようにします。社員との面談で社員間のトラブル情報を確認したら放置せずに解決に向けた手助けを講じることも必要です。
5)自社の魅力のアピールや応募が増える工夫
自社に労働者にとっての魅力があってもそれが伝わらなくては応募者が増えないため、自社の魅力を最大限にアピールできる取り組みや工夫が求められます。
求人票や求人広告で掲載できる情報量には限りがあるため、会社概要、事業内容や労働条件などの基本情報だけしか募集対象者へ伝達できないことが多いです。しかし、これでは自社の魅力を十分に伝えることができず、結果的に応募に繋がらないため、十分にアピールできる方法の導入・活用が必要です。
具体的には上記で示した各対策で実施している内容を自社サイトに分かりやすく丁寧に掲載しアピールします。たとえば、自社の立地や職場の現状を社員の言葉により説明したり、上司と社員の関係、社員同士のコミュニケーションの良さなどを語ってもらったりするのが有効です。
また、人事評価・処遇制度、教育制度やキャリア開発などの人事システムの状況を社員の感想を交えて具体的に説明するなども効果が期待できます。どんな事業をするのか、会社はどのような雰囲気なのか、働きやすい職場なのか、評価と処遇は適切か、などをイメージできるように伝達する工夫が必要です。
3-2 コロナ禍で取り組みたい雇用政策
コロナ禍の状況でも先に取り上げ雇用政策は重要ですが、ここではそれら以外で特に取り組みたい方法を紹介しましょう。
①多様な雇用形態の導入
新型コロナの影響で働き方変革が促進されるようになったため、新設会社等においてもその対応が求められます。
コロナ禍以前では、勤務場所や勤務時間などの条件が決まった固定的な働き方が一般的でしたが、コロナ対応でリモートワークやフレックスタイム制を導入する企業が一気に増加しました。
こうした柔軟性の高い働き方が一旦導入されれば、アフタコロナにおいても継続される可能性が高く、導入していない会社は働く場所として見劣りすることになりかねません。
また、単に見劣りするというだけでなく、多様な働き方の選択肢の多い会社は求職者の企業選定における有効な判断材料になります。子育てや介護がしやすい、通勤時間が少なく体への負担が小さい、趣味や自己啓発に時間がもちやすい、障害者も働きやすい、などは社員にとって大きなメリットです。
つまり、柔軟な働き方ができる会社は、労働者に選ばれやすく、多様な人材を受け入れやすくなるため人材確保が容易になります。なお、フレックスタイム勤務・短時間勤務、在宅勤やサテライト勤務、などの柔軟な働き方が具体的にどのように実施できるか、について募集対象者に示すことが重要です。
②多様な労働力・人材の確保・活用の仕組み
コロナ禍の中で、企業においては副業人材の活用や労働者の企業間シェアリングなど労働力の需給を調整する方法の導入が進みました。新規採用者の確保が容易でない新設会社等においては、こうした調整する仕組みを構築・活用することも必要です。
これまでの会社では社員の副業や他の会社で働く人材(個人事業主等も含む)を社員として雇用する、そうした労働行為を認める企業は多くありませんでした。しかし、コロナ禍で雇用の維持が困難なった会社では社員の副業を許可するケースが増えています。
また、企業同士が連携して一定期間に自社の社員を出向させるような取り組みが多く見られるようになりました。こうしたフレキシブルな人材の活用方法は人材確保が難しい会社設立直後などの企業にとっても有効な方法になります。
また、新設会社や小規模企業など業況の変化が激しく仕事量の増減に大きな波がある場合も、上記の仕組みは労働力の需給調整に役立つはずです。固定費となる正社員の役割を副業人材などで代用したり、逆に他社に一時的に移動させたりできれば、固定費の変動費化が実現でき事業継続が容易になります。
③多様な働き方ができる環境整備
リモートワーク、事務所外労働やフレックスタイム勤務など多様な働き方を会社が推進していくには、それらに社員が取り組める環境を用意していかねば実現できません。つまり、多様な働き方の制度が絵に描いた餅にならないように会社がそのための環境整備を進める必要があります。
在宅勤務を進めるにしても社員にはそれを可能とするPCやネットワーク環境が必要となり、会社でも社員のリモートワークに対応できる情報通信システムを準備しなければなりません。サテライトオフィスでの勤務ではその事務所、情報端末やセキュリティ対策などが必要です。
こうした社外で業務を行う形態を進めるにあたり、会社側はその環境整備やスキルの習得等を指導・支援することが求められます。自宅でのリモートワークを行う場合の環境を社員任せにするのではなく、金銭面や技術面などを含めて会社がその環境整備を主導し支援することが重要です。
リモートワークなどが当たり前の時代になれば、その運用方法の質が求職者の会社選定の評価要素になるため、その環境整備の質を高める取り組みが求められます。
④新しい人材マネジメントの確立
ニューノーマルの時代に対応した雇用形態に取り組むことが求められますが、その実現のためには以下のような新しい人材マネジメントの確立が不可欠です。
1)ルール作りやマニュアル等の整備
リモートワークや社外労働などの新しい働き方で業務を行うための勤務の仕方や作業に関するルール作りが必要であり、マニュアル等の作成と運用も求められます。
たとえば、在宅勤務の場合、就労時間・休憩時間、昼食・トイレ等を含む適当な休憩の取り方、在宅での基本的な業務の取り組み方、仕事量の割当て方、目標と成果の認識(合意)の仕方、業務連絡の仕方、などについてルール化しておくべきです。
なお、新たな雇用形態のルールや業務マニュアル等の策定にあたっては、社員からの不満が高まらないように彼らの意見を十分に反映し社員が納得できるように取り組む必要があります。
2)評価と処遇の整備
人事システムの中核は評価と処遇の制度ですが、新しい働き方に対応したその制度が求められます。その制度の実現のために各雇用形態に合わせた目標・成果・評価・処遇の関係を合理的に設定していかねばなりません。
たとえば、社外労働の場合、各業務でどれだけの質と量の業務を割当て、それに対する成果をどのように評価するかを合理的に定めることが不可欠です。これまでの社内で実施された業務の平均値、業務の困難度、会社側の目標値や社員の意見などもとに設定する必要があります。
そして、目標値と実績、業務遂行過程の取組内容・努力、他の事業・業務・社員への影響、などの成果を合理的に評価し対応する処遇を実行しなければなりません。基本的な考え方は社内で業務を行う形態と同様ですが、社外労働での困難度などを配慮し大きな不満が生じない設定・運用が求められます。
なお、アルバイト・パート社員などの短時間労働者、副業社員などを積極的に活用していく場合、彼らへの処遇を改善することも必要です。短時間労働者であってもボーナスや退職金を出す、入社のための準備金を用意する、といった制度の導入も検討すべきです。
3)教育・支援の整備
リモートワークなどを導入する場合、PCやネットワーク環境などを扱うための教育・訓練の機会を設けたり、社外勤務者への情報提供などを支援したりするための体制も整備する必要があります。
新規採用者をリモートワークで従事させる場合、PCの操作能力が業務処理量に影響するため、彼らへの教育・訓練の機会を設ける必要があります。事務所内であれば、先輩社員の指導が随時受けられるため技能をアップさせるのも容易ですが、在宅勤務などは簡単ではありません。
また、営業部の社員などで事務所に立ち寄らず主に社外勤務に従事する者への教育も重要になるほか、商品や技術等に関する情報提供の支援も必要になります。営業活動に関する様々な情報を随時参照できるシステムやアドバイザーの設置などの準備も重要です。
4)適切な勤怠管理とコミュニケーション方法の確立
多様な雇用形態に対応するためには、適切な勤怠管理と良好なコミュニケーションの確立と運用が求められます。
在宅勤務等において、その業務遂行方法を社員に委ねることは重要ですが、任せっぱなしにしない一定の確認行為は必要です。業務の進捗チェックや問題点の確認なども必要であり、業務での悩み等の相談に応じることも欠かせません。
社外勤務が主体になると、労働での阻害感を感じやすくなり会社へのロイヤリティが低下して離職に繋がるため、定期的な業務連絡や相談のほか、会社での面談や会食の機会を随時設け上司・部下間、社員間での関係性を良好に維持できるように取り組みましょう。
また、在宅勤務で、労働時間が過小でも過多になっても問題となるため、社員の意見を尊重しながら適切な労働時間と休憩時間が取れるようなコントロールも必要です。また、有給休暇やリフレッシュ休暇などを適宜とれるような配慮・工夫もモチベーションを維持・向上させるために求められます。
4 コロナ禍でも役立つ人材確保と雇用維持の事例
コロナ禍を乗り切るための参考となる人材確保や雇用維持に役立つ事例を中小企業庁の「中小企業・小規模事業者の人手不足への対応事例」から紹介しましょう。
4-1 子育て支援と残業の削減の事例
●企業概要
企業名:オーエヌ工業株式会社
所在地:岡山県津山市
従業員数:191人(女性47人)
事業概要:製造業(機械)
●取組の理由
・若手社員が増加するにつれ結婚・子育て世代の社員が増えるようになり、今後の会社を支える彼らを応援することを重要と考えたから
・社員を大切にする社風が人を集め、企業活動の活性化にも繋がるという理念を実現するため
●取組内容
1)若手世代・子育て世代の社員への支援制度の拡充
・子の看護休暇と介護休暇を有給休暇とし、子供の看護休暇の対象を小学6年生まで延長する
・家族手当・住宅手当の拡充、出産時・小中高等学校入学時の祝い金、奨学金返還手当を支給する
2)育児休業者や介護休業者への復帰支援
・「産前産後・育児休業マニュアル」「介護休業マニュアル」を作成するほか、社員へ有用情報をわかりやすく提供する
・「育児・介護休業等両立支援窓口」の設置など、相談しやすい環境を整備する
3)業務工程の改善
・業務工程の見直しやマニュアルによる業務知識等の共有化で社員の多能工化を推進する
・所定労働時間内に仕事を終えるために各職場で目標管理に取り組む
●取組の成果と着目すべき点
1)育児休暇取得率100%の達成
・全社的に育児休暇への理解が浸透し、休暇を取得しやすい環境・雰囲気が整い女性の育児休暇取得率は100%に達した
⇒福利厚生に資する支援策は制度の整備と利用促進の意識の醸成が重要です。
⇒子育て世代や若手社員が安心して働ける環境は、就業先としての魅力となるほか長期の就業が期待できます。
2)業務改善やマニュアルによる情報共有の効果
・多能工化が進み作業者同士の業務補完ができるようになったため、効率化と社員間コミュニケーションの向上に繋がった
・効率的な業務遂行への意識が高まった結果、時間外労働が削減し定時帰宅の社員が増加した
⇒多能工化を含む業務改善が進み効率化の意識が高まれば、作業時間の短縮から残業が減り労働の負担が軽減されます。これらの成果は、競争力や業績の向上に繋がるほか、労働者の自由な時間の創出にも貢献するでしょう。
3)社員のモチベーション向上
・福利厚生等の拡充で社員のモチベーションも向上し、会社の期待や要望に応えようとする社員が増加した
⇒社員が期待する福利厚生の充実が彼らのやる気に直結するため、社員のニーズを反映した制度の導入が重要です。
4-2 柔軟性の高い正社員化や有給休暇の制度の事例
●企業概要
企業名:株式会社クララオンライン
所在地:東京都港区
従業員数:49人(女性20人)
事業概要:インターネット付随サービス業
●取組の理由
・業務の核となるエンジニアの採用が困難の中、同一会社での長期勤務を希望しない者、転職で自分のスキルアップを目指す者なども多く、多様な働き方へのニーズへの対応が必要だったから
・有給休暇において取得率の個人差が大きく、全社員にとって最適化されていないから
●取組内容
1)正社員化の制度の整備
・正社員への転換を正式に就業規則で規定し制度化した
・正社員への転換時では、本人の意思や実施時期を重視するほか就業期間等の条件は定めず、本人の希望と所属長の推薦によって実施する
2)1時間単位での有給休暇取得の実現
・子育てなど各自の事情・状況に合わせて取得しやすいように有給休暇の取得を時間単位に変更する(半日単位⇒1/4日単位⇒最終的に1時間単位での有給休暇が取得可能)
3)有給取得の促進
・会社が有給休暇取得を推奨し、有給休暇の残日数の管理などを行いその情報を社員と共有する
・社内チャットツールの利用で勤怠管理者とのコミュニケーションを良好に保ち、休暇取得への社員の理解を促し意識を高める
●取組の成果と着目すべき点
1)正社員転換の正式運用
・正社員へ転換した者が7名に上り、優秀な社員の定着に役立った
⇒事業のコアコンピタンス(中核能力)となる職種の社員を確保・維持するためには処遇の改善は重要であり、非正規社員から正規社員への転換もその有効な方法の1つです。
非正規社員と正規社員の選択の自由度が高い会社は、社員にとっては働きやすい環境となるため人材の確保や維持に役立つでしょう。
2)全社員が利用しやすい休暇制度の整備
・有給休暇の取得日数が少ない社員でも、1時間単位で有給休暇が取れると効率的な有給休暇の利用が可能となり取得も促進する
・有給休暇付与前の入社後半年までの社員について、傷病時に利用できる「有休付与前傷病特別有給休暇(半日単位)」の制度も導入する
⇒労働条件、福利厚生などの制度を社員目線で利用しやすい内容に変更したり追加したりすれば、社員の不安は小さくなり満足度も向上します。
・各自のPC画面で有給休暇の残数も常時確認できるようになり、計画的な取得の意識が醸成できた
⇒システム的に有給休暇の取得を推進するやり方は、書面による告知よりも利用促進の効果が高いです。
4-3 評価制度に対応するスキルの見える化と企業の魅力発信の事例
●企業概要
企業名:株式会社Hacoa(はこあ)
所在地:福井県鯖江市
従業員数:150人(女性80人)
事業概要:製造・小売業
●取組の理由
・各社員のスキルの程度に大きな差があり、個人に依存する勤務時間管理(就業時間管理は個人任せで、社員の時間短縮に対する意識も低い)となっており各人の勤務時間に差が生じているから
・スキルの高い従業員が休むと工程に影響が生じ、有給休暇を積極的に取得できる環境になっていないから
・企業の発展のために外国語を話せるスタッフなど、地域内外から人材を確保する必要があったから
●取組内容
1)作業や残業時間、スキル向上のための手順の設定
・目標作業時間を設定し、作業効率や時間管理の意識をもたせチーム別ミーティングで連携強化を図る
・個人の時間管理意識を向上させるために、毎月1回、人事部が従業員へ労働時間の実績をメールで送信する
・人事評価制度を導入し、スキルの見える化を推進。また、スキル向上のための手順を設定して従業員のスキルUPに役立てる
2)企業の魅力の積極的発信
・一般顧客への工房案内や商品企画に関するワークショップなど、企業の魅力を認識してもらえるイベントを開催し人材確保に利用する
・顧客への魅力発信は、従業員が自社の魅力を再認識する機会となった
●取組の成果と着目すべき点
1)作業効率の改善
・作業改善の取り組みが作業効率の意識を高め能率が向上した。その結果、品質の安定と残業時間の短縮も実現した
⇒スキルの見える化・スキル習得のステップの明確化、目標時間の設定・管理などが実施された結果、スキルの向上と効率への意識が高まり、生産性、品質の安定性や残業時間の短縮に繋がっています。
成り行きの作業や勘・経験に頼る作業方法ではなく、作業の標準化やそれに対する必要スキルの設定、スキル習得の訓練・指導、など作業を適切に遂行するための一連の方法を設定して、運用できる環境を整備することが重要です。それにより社員の業務への関心度ややる気を向上させ離職も抑制できます。
・有給休暇が全体工程に影響しにくくなったため、休暇が取得しやすくなった
⇒作業者の補完が容易な効率的な作業システムは有給休暇の取得促進や残業時間の短縮にも繋がり、離職の抑制や新規採用者の獲得にも有効です。
・人事評価制度の導入が、個人のスキル向上へのモチベーションアップに貢献した
⇒社員の技能を明確にし、技能ごとの成果に対する適正な評価と処遇を設定すれば社員のやる気を創出し離職を抑制できます。また、新規採用者を獲得するためのアピールポイントにもなるでしょう。
2)魅力発信の成果
・様々な出身地、職歴の異なる人材の確保に成功(本社勤務40名のうち、1/3は県外出身者)
・工房の女性、若手、ベテランなどの多様な職人の存在と、工房での見学・体験などにより、ワークショップの参加者から求人募集に応募する人が出現した
⇒知名度の低い会社が人材を集めるにはその会社の魅力を求職者等に的確かつ積極的に発信する取り組みが求められます。特に直接顔を合わせて話せる説明会、面談のほか、会社・工場・店舗・工房などの見学会や各種イベントで会社や仕事の魅力などを具体的に社員からアピールしてもらうのは効果的です。
4-4 多様な人材の活用と人柄優先の人材確保の事例
●企業概要
企業名:株式会社ポーラスタァ
所在地:東京都港区
従業員数:4人(女性4人)
事業概要:専門サービス業
●取組の理由
・同社は妊娠・出産・育児分野での情報サービスやコンサルティング・制作等が主要事業で女性経営者であることなどにより男性の雇用が上手くいっていなかったから
・小規模企業で優良な人材を集めるのも難しく、採用コストも十分にとれなかったから
・フルタイム勤務が難しい主婦層や副業・兼業の形態で働きたい人材に、魅力的な会社・働きやすい職場を訴求し、雇用形態に関係なく優秀な人材が獲得できるようにその環境整備に既に取り組んでいたから
●取組内容
1)主婦層の雇用・育成と就業ニーズへの適応
・ITや編集などの業務スキルの保有状況に関係なく人柄優先で採用を実行。必要なスキルは業務内で習得する形態とする
・「幼稚園のお迎え・扶養の範囲内・小学校入学の年だけ勤務時間数を減らしたい・いずれ独立希望」など従業員の事情や要望に合わせた働き方を可能とする
・社員の状況に応じて、子連れ出勤や在宅勤務などの多様な働き方に対応する
2)副業・兼業希望者の活用
・短期間、プロジェクト単位、毎月の一定時間単位など、副業・兼業を希望する者の形態に対応した業務委託契約を導入する
3)多様な働き方の導入向けた社内整備
・社労士や税理士と相談して、待遇に不利が生じないように多様な働き方が実現できるように進めた
・在宅勤務や副業・兼業人材との適切なコミュニケーションを確保できるように、サーバー、テレビ会議システム、チャットシステムなど安心・快適な就業環境を整備した
●取組の成果と着目すべき点
・子連れ出社を可能した結果、同社のマタニティ向けのサービスがより顧客視点で発展した
⇒労働時間の柔軟性のほか、子連れ出社や在宅勤務などの多様な働き方は社員や求職者のニーズにマッチしやすくなり応募者の増加と長期雇用に繋がります。
・全員の出社日が揃わないことからシステムでの情報共有を実施。その結果、不要な定例会議がなくなり仕事も効率的になった
⇒多様な働き方、副業・兼業者の活用などの柔軟性の高い雇用形態は人材確保・維持に貢献しますが、コミュニケーションや業務の効率化に悪影響を及ぼしかねません。その問題点をデジタル化などで対応することはその解決に有効であり、小規模企業にも大きな効果が期待できます。
・在宅勤務導入直後で管理担当者の不在などにより業務への支障や非効率が発生。これに対しオンライン会議での情報共有や、個別に進められる仕事等の業務整理を行った結果、効率化に成功した
⇒多様な働き方の形態を実現していくには、それに適した業務の仕方や管理の仕方が必要となり、それらの準備と運用が不可欠です。
5 コロナ禍で行う雇用政策の注意点
ここではコロナ禍の状況を人材確保や雇用維持にとってのチャンスとするために特に注意したい点を説明しましょう。
5-1 人材戦略も考慮した雇用政策の実施
コロナ禍という現状に対応ししつつ、企業の発展や事業の成長を目指すために不可欠な人的資源をどのように確保し活用するかという人材戦略を策定し、それに沿った雇用政策の実行が重要です。
コロナ禍ではその厳しい事業環境を乗り越えるために雇用量を調整したり、新たなビジネス機会を捉えるために増員したりする必要性に迫られます。しかし、そうした対応を場当たり的に行うのではなく経営戦略に基づく中長期の視点で実施することが不可欠です。
急場をしのぐために人員の削減や補充を柔軟に行うことは重要ですが、中長期の事業展開を踏まえて雇用政策を実施しないと将来の経営に悪影響がおよびかねません。
たとえば、5年先には事業規模の縮小が予定されている業務の人員を現状において単純に維持するのは会社にとって得策とは言えません。一時的な業務量の増大には、非正規社員の活用、他部門からの一時的移動などで対応し、正規社員の増員は避けるべきです。
逆に現状では増員が必要なくても将来の事業拡大が予定されている場合、コロナ禍で比較的人材が確保しやすい今に採用を進めるのは悪い選択ではないでしょう。このようにコロナ禍への対応と中長期の経営を踏まえて雇用政策を考えるべきです。
5-2 多様な働き方の環境整備と利用の促進
多様な働き方の実現には、必要とする雇用形態の導入だけでなく社員が実際に選択し利用するための労働条件、社内規定や実行の仕組みなどを整備しなくてはなりません。また、環境整備に加えて社員がそれらを利用しやすいように会社が後押しする取り組みも必要です。
短時間や短期間の労働、副業や兼業、正社員化、などの選択の自由があっても明文化されていなくては社員の利用が進まないこともあります。そのため社内規定を定め利用の周知徹底のほか、促進するための別途の取り組みも欠かせません。
定期的な社内連絡、各社員への個別メール、PCで制度の利用状況が随時確認できるシステム、といった利用を後押しする仕掛けも必要です。
また、短時間労働や有給休暇の付与などを世間一般の条件より優遇した内容で設定しても利用する側の社員目線で設定できなければ、魅力のある制度になりにくいです。
そのためどのような働き方や条件が社員にとって魅力的になるのか、社員を交えて設定する必要があります。経営者やコンサルタントなどだけで制度を立案するのは避けましょう。
5-3 ITの活用とコストの抑制
働き方改革や多様な雇用形態の導入などを推進するためには、ITを活用した取り組みが不可欠であり、またコストを抑制する上でもその積極的な利用が求められます。
リモートワークや社外勤務などの雇用形態を導入すれば、業務に関する確認・指示、目標の設定・経過確認・結果の報告・確認などの作業を離れた場所で行わねばならず、手間と時間が余分にかかってしまうでしょう。
つまり、社外勤務等では今まで以上に管理や作業の時間が多くかかり問題が増え、結果的にコスト増に繋がりやすくなります。つまり、リモートワークなどの働き方について、効率的な運用方法を確立しておかねいとコスト増に直面してしまいます。
そのためリモートワークなどを導入した場合の効率的な業務方法を決めておく必要がありますが、その際にIT化・デジタル化でその問題を解決するのが有効です。
業務の割当て・進捗管理・勤怠管理が簡単にできるシステム、在宅・社外勤務の社員との連絡が容易になるビジネスチャット、などは比較的大きな費用をかけずに導入できます。
デジタル対応できる人材の確保や育成も必要ですが、本業におけるデジタル化も益々求められる時代になってきているため、人材マネジメントの分野からでも対応していきましょう。
5-4 雇用政策に役立つ補助金・助成金の活用
人材確保や雇用維持に向けた支援策が多く用意されており、以下のような補助金や助成金などが役に立つでしょう。
・雇用調整助成金(新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例)
この助成金は「新型コロナウイルス感染症の影響」により、「事業活動の縮小」に追い込まれた場合の休業手当などの一部として助成されます。この支給は、従業員の雇用維持を図るために、「労使間の協定」に基づき、「雇用調整(休業)」を行う事業主へ実施されます。
・労働移動支援助成金(再就職支援コース)
離職を余儀なくされる労働者の再就職支援に対する職業紹介事業者等への委託、求職活動のための休暇の付与、再就職のための訓練に対する教育訓練施設への委託、などを行う事業主に同助成金が支給されます。
・労働移動支援助成金(早期雇入れ支援コース)
同助成金は、再就職援助計画などの対象者について離職後3カ月以内に、期間の定めのない労働者として継続雇用する事業主に支給されるものです。
・中途採用等支援助成金(中途採用拡大コース)
同助成金は、中途採用率の拡大、または45歳以上の人を初めて雇用した場合に支給されます。
・中途採用等支援助成金(UIJターンコース))
同助成金は東京圏からの移住者を雇用した事業主に、その採用活動経費の一部を助成するものです。
ほかにも
・新型コロナウイルス感染症対応トライアルコース・新型コロナウイルス感染症対応短時間トライアルコース
・産業雇用安定助成金
・人材開発支援助成金(特定訓練コース、一般訓練コース、教育訓練休暇付与コース、特別育成訓練コース)
・両立支援助成金(育児休業等支援コース・出生時両立支援コース)
など多数あります。
6 まとめ
コロナ禍で業績が芳しくない中、人材確保と雇用の維持を適切に行うには資金の確保も欠かせません。そのため既存の支援制度やコロナ関連の支援制度を可能な限り活用することが重要です。
コロナ禍を乗り切るために経費の削減、業務改善、業態変更や新規事業展開などに取り組むには人材確保や雇用の維持が必要となりますが、成果が出るまでには時間もかかります。そのためそうした経営を維持するための資金が必要であり、国や自治体等からの補助金・助成金の活用することが大切です。