会社を設立するためには様々な経費が必要になります。このような経費は、「創立費」「開業費」として、事業開始以降の費用とは別枠で計上します。また、事業開始以降も経費は発生しますが、支払った費用には経費できるものとできないものが存在します。今回は、会社設立にかかった費用の経費計上を中心に経費になる費用とならない費用について説明します。

目次

1 事業開始までの流れ

会社設立にかかった費用は経費計上することができます。ただし、具体的にどのような費用が計上できるか考えるためには、会社を設立して事業を開始するまでの流れについて知っておいた方がよく理解できるでしょう。まずは、経費について理解するために会社設立から事業開始までの流れについて説明します。

 

1-1 事業開始までの流れ

事業を始めるためには、会社を作る、事業をスタートできる状態にするという2つを達成する必要があります。

会社を設立するというのは純粋な手続きの話です。資本金を集めて定款を作成して、法務局で会社設立の登記をしてという手続きを完了すれば誰でも会社を設立することができます。早ければ法務局で登記をするために必要な書類は2~3日で揃えることができますし、法務局で登記の申請手続きをして1週間弱で会社登記は完了します。

一方で、事業をスタートできる状態にするための道のりは起業する人によって様々です。人によっては会社設立が終わった直後にいきなり事業を開始できるかもしれません。また、会社が設立できても市場調査をしたり、物件のリフォーム、従業員集めをしたり、特定の業種では開業に必要な許認可を取得したりなどによって開業までに2~3か月のタイムラグが発生するというケースはよくあります。

もちろん、会社を設立させるためにも、事業を開始するためにも費用は発生します。そして、このような費用は備品のように貸借対照表上の「資産」に計上されるものだけではありません。会社設立のための収入印紙代、従業員を集めるために求人情報誌に広告を掲載する費用など一般的には「資産」と見なされない費用も発生します。(厳密には後述するように創立や開業にあたって発生した費用は例外的に「繰延資産」という資産扱いになります)

会社設立、開業する前にかかった費用でも、後から経費として計上することができるので、きちんと領収書を保管して、経費の内訳を記録しておいてください。

 

1-2 会社設立の手続き

開業に必要な経費や手続きは会社によってまちまちですが、会社設立にかかる必要や手続きは多くの企業でだいたい一致しています。まずは会社設立の一般的な手続きについて説明します。

  

1-2-1 定款を作成し、資本金の払い込みをする

会社を設立するために必要なのは、定款と資本金です。

定款とは会社運営の基本ルールを定めた書類であり、定款には会社の商号、目的、本社所在地、資本金などが記載されています。定款を作り会社に出資をする人全員の承認と押印を貰わなければなりません。

ちなみに、定款で本社所在地を定めなければならないということからも分かる通り、会社の事務所や店舗は定款を作成する前に先に個人名義で確保しておく必要があります。個人名義で契約しても後から経費計上できるので領収証などは保存するようにしてください。

また、会社の形態としてメジャーなのは株式会社、合同会社の2つですが、両者の定款の扱いは微妙に異なります。株式会社の方が定款に関する規制が多く、合同会社の方が定款で自由に定められる範囲が多いです。

更に、合同会社の定款には必要ありませんが、株式会社の定款は公証役場で認証を受ける必要があります。定款の認証手数料が5万円、定款に貼る印紙代4万円、謄本交付料(定款1ページにつき250円)が必要として発生します。なお、紙の定款ではなく電子定款にすれば定款に貼る印紙代4万円は不要になります。

もう1つの資本金とは会社が事業を行うための元手となる資金のことを指します。もちろん会社が儲かったり、新たな出資者が増えたりすれば後から増やすことも可能です。資本金は会社の元手となる純資産であって経費ではありません。よって、資本金を会社にいれてもそれは経費にはなりませんし、資本金を入れた個人の所得が資本金の分だけ少なくなるわけでもありません。資本金の扱いも株式会社と合同会社によって微妙に異なります。

株式会社の場合は出資金に応じて会社の株式が出資者に割り当てられます。会社の収益を分配する際には基本的に株式の保有割合に応じて配当金が支払われますし、事業運営には関わらず、株主として株式だけ保有して配当金をもらうということも可能です。

一方で合同会社の場合は、株式という概念はありません。よって、出資者=会社に経営に参画する役員であって、出資だけするということはできません。ただし、合同会社は自由に利益を分配することができて、必ずしも出資金の割合に応じて配当を分配する必要はありません。

また、会社設立の際には会社の印鑑(社員)も必要になるので社名が決まった時点で印鑑の購入手続きをしておいてください。

  

1-2-2 法務局で登記をする

定款を作成、発起人が承認・押印して、資本金の払い込みが完了すれば、その他必要書類とともに、本社所在地を管轄している法務局に会社の設立登記をしにいきます。(設立登記の手続きは郵送やオンラインで申請することも可能です。)

申請にあたって必要な主な書類は以下のとおりです。

  • 会社の設立登記申請書
  • 公証役場で認証済みの定款
  • 登録免許税分の収入印紙を貼り付けた台紙(金額については後述します)
  • 取締役の印鑑証明書(取締役会があるのなら代表取締役だけでOK)
  • 法人の実印登録書類

他にも定款の内容などによって追加の資料が必要になる場合もあります。登録免許税は資本金の金額の0.7%となります。ただし、株式会社の場合は最低15万円、合同会社の場合は最低6万円を支払わなければなりません。

おそらく、資本金数百万円、多くても千万円で起業する場合が多いと考えられるので、登録免許税は最低金額を支払うケースが多いはずです。

設立登記の申請をして1週間弱で登記手続きは完了します。登記手続きが終わってもまだ諸々の手続きが残っているので注意してください。

1-2-3 各機関に開業届を提出する

会社設立登記が終われば、開業することを各機関に提出しなければなりません。まず必要なのが税務署や都道府県、市区町村の事務所です。これらの機関には後で税金を支払うことになるので必ず届け出なければなりません。

社会保険事務所についても、厚生年金保険の適用届を提出する必要があります。従業員がいる会社はもちろんのこと、社長一人に会社でも厚生年金保険への加入が義務付けられています。

従業員を雇う場合は、ハローワーク(労働監督基準署)に対しても、労災保険や雇用保険の加入手続きをしなければなりません。ただし、社長や役員しかいない会社の場合は、従業員を雇っているわけではないので、加入しなくても良い場合があります。

以上が会社を設立する、その後の定型的な手続きです。早ければ2週間以内にはすべての手続きは終了します。

 

1-3 事業を始めるまでにはお金がかかる

上記の定型的な手続きの他にも起業の仕方によっては様々な費用が発生します。起業時に発生することが多く、金額も高くなりやすい費用の中から、いくつかピックアップして紹介します。

1-3-1 物件の家賃・敷金・礼金など

自宅を本社にしない限り、多くの起業では会社用の物件を借ります。もちろん、物件を借りる際には、家賃だけではなく、保証金(敷金)、礼金などの様々な費用が発生します。

物件にまつわる経費で注意しておきたいのが、礼金や仲介手数料は経費になる一方で保証金(敷金)は経費にならないことです。保証金は万が一、貸主が借主から家賃を回収できない場合に預かるお金で、契約期間が終了すれば基本的に返還されるので、「経費」ではなく「資産」として扱われます。

保証金償却などの特殊な条件が付いていない限り、基本的に経費扱いはされないので注意してください。

  

1-3-2 内装工事にかかる費用

開業するためには、物件の内装工事をしなければならないという場合も多いでしょう。内装工事にかかった費用はもちろん経費にすることができますが、開業時にかかったタイミングでは費用としては計上できずに、基本的に一度「資産」として扱われて、定期的に減価償却することになります。

減価償却とは、長期間使用される固定資産を取得した場合、一括で取得したタイミングで経費にするのではなく、使用できる期間に応じて経費を按分する手続きのことを指します。店舗の内装や設備は基本的に長期間に応じて使用する固定資産に分類されるので減価償却の対象になります。

ただし、長期に使用する資産であっても10万円未満の資産については期中に一括償却が可能です。

  

1-3-3 従業員の給料

開業前に従業員を雇って、開業のための仕事をしてもらうというケースも多いと考えられます。もちろん、開業前であっても従業員に働いてもらっているのなら給料は支払わなければなりません。

ただし、法人の場合、開業前に働いてもらった従業員の給料は「開業にかかった費用」として計上できません。通常の人件費と同じような形で処理します。

ちなみに、家賃についても同様で、開業前にかかった家賃も「開業にかかった費用」としてはカウントされず、通常の地代家賃として処理されます。

このように会社の設立・開業にかかった費用として特別に処理できる費用とできない費用の違いについては2章で詳しく説明します。いずれにしても、会社の創立、開業のためには色々な名目で資金が流出します。

帳簿上は資産に計上されていても、設備などはすぐ現金化できませんし、現金化すると事業ができなくなってしまいます。会社は資金繰りが回らなくなったときに倒産してしまうので、余裕を持った運転資金を残しておかないと経営上のリスクは高まります。余裕を持った資金計画で起業した方が良いでしょう。

2 創立・事業開始までに必要な2つのお金

起業するためにかかった経費について、会社設立にかかった経費は「創立費」、会社設立から開業までにかかった経費は「開業費」として計上されます。これらの経費は、起業するときにしか計上できない特殊な科目で、取り扱いも一般的な経費とは異なります。まずは、創立費や開業費はどのような費用なのかについて説明します。

 

2-1 創立費

創立費とは会社設立にかった費用のことを指します。会社の設立手続きについては1章で簡単に説明しましたが、定款作成、資本金の払い込み、定款認証(株式会社の場合)、法務局に登記、設立後の手続きという過程の中で様々な費用が発生します。代表的な創立費として計上される費用は以下のようになっています。

  • 定款やその他諸規則の作成費用
  • 株主募集のための広告費用
  • 株式申込証、目論見書などの印刷費用
  • 創立事務所の賃借料
  • 発起人への報酬
  • 設立事務に使用する使用人の給与
  • 証券会社など金融機関の取扱い手数料
  • 創立総会の費用
  • 設立登記の登録免許税

このほかにも会社設立に必要と認められる支出は創立費となります。もちろん上で説明した費用が発生しない場合もあります。例えば、株主募集のための広告費用は、募集株式を発行する場合に発生する費用ですが、おそらく多くの起業では、経営者自身の自己資金で資本金を用意すると考えられるのでこのような費用は発生しないでしょう。

 

2-2 開業費

続いて、開業費について説明します。開業費は会社を設立して事業を開始するまでに特別にかかった経費のことを指します。何を持って事業の開始と見なすのかの1つの基準が開業届を出した日です。会社設立の手続きで説明した通り、会社の設立登記をした後に税務署や都道府県事務所に開業届を提出する必要があります。これらに開業届を提出したタイミングが開業したタイミングと見なされます。開業までにかかる費用はその会社によって様々ですが、代表的な開業費として計上される費用は以下のようになっています。

調査費 事業を始めるために市場調査や競合調査を行うのに必要な費用
その調査を外部に委託するために掛かった費用
開業に関するセミナーに参加する費用 など
許認可取得費用 飲食店やリサイクルショップなどのように開業するにあたって許認可が必要な業種において、許認可を取得するための費用
広告宣伝費 会社案内のパンフレットなどの作成費用
チラシ、のぼりなど開業時に使う販促物の作成費用
接待交際費 開業前の提携先の開拓などで接待交際する費用 など
旅費交通費 開業するにあたって、セミナーに参加したり、市場調査をしたり、提携先を開拓したりする際に発生する旅費交通費
書籍代 開業にあたって必要な書籍を購入した費用 など
消耗品費 開業にあたって必要な筆記用具やファイルなどの消耗品を購入した際の費用 など
ソフトウェア購入費 開業にあたって必要なソフトウェアを購入した費用 など (固定資産に該当しないもの)

2-3 なぜ「創立費」「開業費」が存在するのか

上記が創立費や開業費の代表的な例ですが、創立費や開業費は、開業するまでにしか発生しない特別な費用で、貸借対照表上は「資産」に分類されます。普通の経費は、「費用」として扱われるのですが、なぜこれらの費用は特別扱いされるのでしょうか。

この理由として挙げられるのが、創立費や開業費が、開業までに支出される特別な費用であることです。

創立費や開業費は、起業の時だけに発生する費用です。もしこのような費用について会社を設立した期に一括で費用として見なすのなら、1期目の企業は創立費、開業費のせいで赤字になる可能性が高く、1期目の決算が正確に企業の損益を反映しないことになります。

また、創立費や開業費はその期中だけではなく、会社が存続する限り恩恵が発生する費用です。

例えば、会社の創立にあたって必要な費用の恩恵は本来的には会社が存続する限り受けられるはずです。よって、会社を設立した年だけの費用として計上することは実態と異なり、固定資産を減価償却していくのと同じように、定期的に費用かしていく方が望ましいと言えます。開業費についても同様のことが言えます。

 

2-4 開業費として計上できない費用

創立費は比較的判断しやすいですが、開業費については様々な費用が該当するケースが考えられます。よって開業費についてもう少し詳しく説明します。

  

2-4-1 開業費の基準

開業費は「開業するための費用」でなければなりません。開業に関連する費用であれば、創立以前の費用でも開業費として認められる余地もあります。例えば起業する前に、先に市場調査を行っていた場合でも十分に開業費用と認められる可能性があります。

一方で開業の際に必要になった費用でも、経常的に支出する費用については開業費として認められません。例えば、開業する前から従業員を雇って研修などをしていたとしても、そのときの給料は開業費ではなく通常の人件費として扱いますし、開業前から内装工事などで物件を借りている場合も、その家賃は開業費ではなく通常の地代・家賃として扱われます。

基本的には色々な費用が認められる可能性があるけれども、経常的に支出する費用は含まれないという点については注意してください。

  

2-4-2 開業費に含まれない経費

開業の際に必要になった費用でも、どのような費用は開業費として見なされないのか具体的な例を紹介します。

   

2-4-2-1 初期の仕入れ代金

小売業などの業種では、開業するにあたってまず在庫を用意しなければなりません。たとえ、開業前に仕入れた在庫であっても、仕入れ代金は開業費とはみなされません。開業後の通常の仕入れ代金と同様の取り扱いとなります。

   

2-4-2-2 減価償却が必要な固定資産

先ほども少し説明しましたが、開業のために購入した設備や内装工事に掛かった費用などは原則として固定資産として扱われ、減価償却しなければならないので、開業費には含まれません。1つ10万円以上の取得価額の備品や設備については固定資産扱いになり、一括で償却できない可能性があります。

なお、設備や備品であっても、10万円未満であれば固定資産として見なされないので一括償却が可能ですし、10万円以上かかった経費であっても設備や備品のように固定資産に該当しない支出であれば一括で経費にすることが可能です。

   

2-4-2-3 保証金のように後に帰ってくる費用

保証金のように契約終了などによって後々返ってくる費用についても開業費には含まれません。例えば、賃貸物件を借りたい、フランチャイズに加盟したりするときに支払う保証金は基本的に資産扱いになります。

   

2-4-2-4 家賃・水道光熱費など経常的に発生する費用

開業の前後に関係なく、物件の家賃、水道光熱費、従業員の給料などは発生します。このような、このような経常的に発生する費用は開業費と計上するのではなく、開業後の通常の費用と同様に計上します。

   

2-4-2-5 判断に迷うのであれば税理士と相談

上のようなケースを知っていても、どこまでが開業費としてみなされるかのさじ加減について判断に迷うことも多いと考えられます。その場合はどこまでを開業費として申告するかを税理士と相談した方が良いでしょう。

3 創立・開業費を使った節税テクニック

創立費・開業費は特別な費用で、創立・開業費を使って節税することも可能です。創立・開業費を使った節税方法について紹介します。

 

3-1 創立・開業費の取り扱い

創立・開業費は資産扱いされるということは2章で説明した通りです。ちなみに資産と言っても既に支払った費用には違いないので、なんらかの方法で償却しなければなりません。

例えば、固定資産の場合は減価償却費として、固定資産の価値のうち一定金額が耐用年数などの基準によって費用となります。よって、固定資産を購入した場合も、毎年少しずつ費用が発生するようになっています。しかし、創立・開業費の場合は、固定資産のように何かの基準によって価値が目減りするわけではないので、減価償却費は発生しません。

法人の場合は、創立費や開業費を任意償却することが可能です。つまり、任意のタイミングで償却して、会社の費用として計上することによって利益をコントロールすることができるのです。

ただし、創立・開業費を任意償却できるのは最大5年の間なので、期間中に償却するようにしてください。

 

3-2 創立費・開業費を使った節税

この手法を使えば、一定の節税対策が可能です。例えば、創業1期目の決算に多大な赤字が見込まれるときに、創立費や開業費を償却せずに赤字幅を減らして、2期目以降の黒字が出そうなタイミングに償却して黒字幅を少なくし納税額を少なくすることが可能です。

ただし、実際には法人の場合は9年間赤字を繰り越せるため、これを行う節税上のメリットが少ないです。9年間赤字を繰り越せるので、最初のタイミングで創立費・開業費を償却しておけば、2期目以降で黒字がでても1期目の赤字と相殺することができるからです。

あくまでも、初期の赤字幅を少なくしたい、黒字になったときに利益幅を少なくしたいときの節税方法だと考えてください。

 

3-3 開業前の固定資産の取り扱いが大切

開業時において、それよりも節税対策として重要なのが固定資産の取り扱いです。一般的に開業前は、内装工事をしたり設備を購入したりと何かと固定資産を取得することが多いです。

固定資産の償却年数は設備や備品の種類によって決められていますが、一つ一つの設備を細かく計上することによって一括で損金に計上できる金額が増えたり、項目を工夫すると法定耐用年数が短くなって早く償却したりすることが可能になります。

税理士とどのような償却プランで固定資産を償却していくか打ち合わせをしておいた方が良いでしょう。

4 経費に計上できる費用

開業までにかかった費用の多くは、経常的に支出する費用ということで開業費と見なされないケースも多くあります。そのため、家賃や水道光熱費のように経常的に支出される費用についても知っておいた方が良いでしょう。以降は経常的に支出される費用について説明します。

 

4-1 経費をきちんと計上する

基本的なこととして経費はきちんと計上しなければなりません。経費として計上するためには、事業のために使った費用であること、経費を支出したことを証明できることの2つの要件が必要になります。

1つ目について経費とは事業の損益を確定せるために計上するので、事業外の費用を経費に計上してはいかません。ただし、支出した経費が必ずしも利益につながっている必要がありません。例えば、新規事業を行おうとして途中で辞めてしまって、売上を1円も作れなかった場合でも、新規事業の為に掛かった経費は計上することができます。

2つ目について、経費は支出したことをきちんと証明する必要があります。ただし、領収証がなければ経費として絶対認められないというわけではありません。電車やバスに乗るときにいちいち領収証をもらうことはありませんし、取引先のお祝いや不幸に対する、ご祝儀や香典などについて領収証をもらうことは慣習上ふさわしくないでしょう。このような場合は出金伝票を作成することによって、経費を計上することができます。

 

4-2 経費計上できる代表的な経費一覧

では、経費計上できる費用としてはどのような費用があるのか、代表的なものについて説明します。

人件費 従業員と役員では同じ人件費でも扱い方が異なります。
役員の場合は、役員報酬や役員賞与
従業員の場合は給与手当(給与、給料など) の勘定科目を使用します。
役員報酬や賞与の支給について法律でルールが定められているので注意してください。
法定福利費 法律によって定められている、従業員が働きやすい環境をつくるための費用です。
例えば、従業員は厚生年金保険に加入しますが、その保険料の半分が会社が負担しなければなりません。他にも労災保険、雇用保険など従業員を雇うと様々な保険に加入しなければなりません。
地代家賃 借りている物件や土地に対して発生している家賃のことを指します。
保証金のように、借りる時に発生したけれどもいずれ返却が見込まれる費用は資産扱いになります。
仲介手数料は支払手数料に計上するのが一般的です。
減価償却費 固定資産の価値に対して、どの位価値が目減りしたかを計上する費用です。
固定資産の内容によって耐用年数などが変わるので、各資産毎に償却の仕方が異なります。
水道光熱費 水道料金、ガス料金、電気料金などに関する勘定科目です。
電話代やインターネットの回線使用料などは通信費に含まれるので注意してください。
消耗品費 消耗品費は使用できる期間が1年未満の消耗性の費用や取得金額10万円未満の固定資産扱いできない資産を計上するための勘定科目です。
損益計算書を作成するときは、消耗品費と一括りにすれば良いですが、費用を分析する際には様々な費用が内包されてしまうので、文房具費、什器…のように何に支出したかがわかる補助科目も記録しておいた方が良いです。
旅費交通費 業務の為に遠方に移動するときの費用を指します。
ただ移動する費用だけではなく、宿泊費や出張所費交通費規定に基づいて支給する日当などもこの勘定科目で処理します。
通信費 電話料金や郵便料金のように通信に関わる費用を計上する勘定項目です。
クラウド型システムの毎月の使用料も通信費(もしくは支払手数料)として計上することができます。
システム使用料なども通信費に含める場合は補助科目を使って、通信費の内訳が分かるようにしておいた方が良いでしょう。
接待交際費 取引先などを接待するために使う費用です。
5章でも説明しましたが、たとえ取引先に行った接待交際の費用でも全額が損金とならない場合があるので注意が必要です。
会議費 取引先との商談や打ち合わせなどに使う費用です。
接待交際費と違ってあくまでも会議や打ち合わせのために使う費用なので、実際に何か会議や打ち合わせをしなければなりませんし、費用も一人5,000円以下であることが望ましいです。
支払手数料 銀行の振込手数料や、証明書の発行手数料などの各種手数料を計上するための勘定科目です。
消耗品費と同じように色々な費用が想定されるので補助科目を用意しておいた方が良いでしょう。
新聞図書費 事業のために必要な新聞や書籍を購入するための費用のことを指します。
紙の媒体だけではなく、電子書籍や有料メールマガジンの購入費用も新聞図書費に計上することができます。
外注費 他の企業や事業主と業務請負契約を結んで、一部の仕事をアウトソーシングする際に使用する勘定科目です。
外注する業務と相手先によっては、源泉徴収が必要になるので注意してください。
荷造運賃 書類などを発送した際には通信費で計上するのに対して、商品を発送した際の運送料金は荷造運賃として計上します。
租税公課 収入印紙代や印鑑証明書の発行手数料など、個的な手続きによって発生した手数料を計上する勘定科目です。
固定資産税や償却資産税も税金として納めなければなりませんので、租税公課として経費計上します。
損害保険料 事務所や火災保険や損害保険を掛けた場合の費用を計上します。
雑費 他の勘定科目に計上できない雑多な経費を計上する科目です。
あくまでも例外的な勘定科目なので、雑費が多いというのは決算書として健全ではない状態です。

もちろん、これら以外にも計上する経費も存在しますし、書き方によっては「給与」が「給料」と表記するように企業によって表記ぶれもあります。

 

4-3 経費として計上できないもの

色々な費用が計上できますが、中には経費として計上できないものもあるので注意してください。事業のためではなく、経営者が個人的に支出した費用は会社の経費にはなりません。例えば出張に行くために旅費や宿泊費は会社の費用となりますが、そこで個人的に飲み食いした飲食店の領収書は経費とはなりません。法人の財布と個人の財布はあくまでも別であるという意識で経営する必要があります。

さらに、社宅や昼食代の補助など従業員への福利厚生は場合によっては現物給与とみなされることがあるので注意してください。会社の福利厚生が現物給与と見なされると、従業員の課税所得が増加し、税金が増えますし、企業が負担する社会保険料なども増加します。どこまでの福利厚生なら給与とみなされないかは事例の蓄積がありますので、税理士と相談してください。

いずれにしても、税務署が調査に入ったときなどを念頭に置いて、支払った経費はきちんと何のために支払ったのかを明確にしておいた方が良いでしょう。

5 会社設立前に知っておきたい税金の種類

会社を設立すると支払う税金の種類も増えます。代表的なものには法印税ほか法人事業税や法人住民税などがあります。これらは同じ経営者でも個人事業主などは支払う必要がない税金です。そのため会社設立でかかる費用として税金の種類も把握しておくことが経営者には必要です。

通常単なる人の集まりには法人格(法律上の人格)はありませんが、法律によって特別に法人格が与えられると法人になります。これに対して、人間は自然人と呼ばれます。自然人が集まって団体を作っても、手続きをしなければ法人格のない社団となります。

法人の種類は、株式会社などの普通法人と、協同組合、課税対象にならない公益法人の3種類です。法人税について、協同組合は軽減された税率が適用された上で課税されます。公益法人は原則として課税されませんが、収益事業を行ったと認められる場合は課税されます。つまり、押さえておきたいポイントは法人の種類と収益事業をしているかどうかという点です。今回解説する株式会社などのいわゆる「会社」は普通法人に分類されます。

 

5-1 普通法人に課税される税金とは

普通法人には原則として法人税が課税されます。ただし、どのような普通法人にも同じ税率が適用されるわけではなく、期末における資本金が1億円を下回る場合は税率が軽減されます。

 

5-2 その他の税金も課税される

人は経済活動を営むなかで様々な税金を払っていますが、法人は、法律によって特別の人格を与えられた存在です。法律上は可能な限り人と同じ権利義務が保証されており、人と同じように納税の義務を負います。冒頭では法人税について説明しましたが、その他の税金も払う義務があるということです。つまり、会社を設立するときにはっきりと認識していただきたいのは、設立する人と、設立された会社は、法律上別の存在になるという点です。したがって、税の負担を考えるときはその人個人の税金の他、会社の税も考える必要があるのです。会社を経営していく上で支払う税金の種類を詳しく見てみましょう。

6 会社経営で支払う税金の種類

一般的に法人税と呼ばれているものは、法人が払う税金(主に法人所得税、法人住民税、法人事業税)を合わせたものを言いますが、法人が払う税という意味で使うなら正しくは法人税等という表現になります。
法人税(法人所得税)は法人が上げた利益について課税されます。ただし、利益の概念が損益計算書と違うので、法人税法上の利益(所得)について、税率を掛けて納税すべき金額を出します。個人が事業をして、利益を出したら所得税が課税される仕組みと似ています。法人は所得税の代わりに、法人税が課税されます。

 

6-1 法人税(法人所得税)

税率は、資本金1億円未満でかつ課税対象となる所得金額が800万円までの場合が15%、所得金額が800万円を超えると25.5%になります。資本金1億円を超えると、所得金額を問わず25.5%になります。
法人税は国税のため、納付書を使って窓口で支払うほか、インターネットバンキング、口座振替、専用のサイト(「国税クレジットカードお支払サイト」)からクレジットカードで支払うことができます。

 

6-2 消費税

会社がモノやサービスを売ると、買った相手が消費税をプラスして代金を支払います。消費税を受け取った会社は、国に消費税を納税します。消費税を負担するのは消費者です。しかし、実際に納税するのは会社(消費税を預かった人)というところに注意しましょう。

消費税(6.3%)が課税される取引には、併せて地方消費税(1.7%)がかかります。ほとんどの取引が課税対象ですが、社会福祉事業やお産の費用など社会政策上の配慮から非課税とされている取引があります。基準期間中の課税売上高等が1,000万円以下の事業者は免税事業者とされています。
消費税の計算方法は、原則の一般課税と、簡易な計算方法である簡易課税制度があります。直前の課税期間の消費税額が48万円を超える事業者は中間申告・納付を行う必要があり、直前の課税期間の消費税額の金額によって年に1回から最高11回までの中間申告・納付を行います。

「資本金の額又は出資の金額が1,000万円以上の法人を設立したとき」「基準期間の課税売上高が1,000万円を超えることとなったとき」などの事由が発生した場合、速やかに届出をしなければなりません。
支払方法は他の国税と同じく、納付書による窓口での納付の他、インターネットバンキングや銀行口座から振替、専用のサイト経由のクレジットカード払いといった方法があります。

 

6-3 固定資産税

固定資産税は、土地や建物といった固定資産や事業用の資産(償却資産)を所有している場合にかかる税金です。地方税の一種です。

会社を設立するときに資産として登録した土地や建物の他、工場や医療機器、航空機、船舶などにも課税されます。償却資産は土地や建物以外の資産で、価値が目減りしていくものを指します。機械であれば、買った時と何年も経過した後では物の価値が違うと考えます。買った時からじわじわと価値が減っていって、最終的に価値がなくなります(減価償却)。

固定資産税は、その年の1月1日時点で固定資産台帳に登録されている固定資産が課税対象になります。償却資産の場合は、市町村役場や都税事務所に取得年月日・取得価格・耐用年数を申告し、納税します。固定資産税は、固定資産の評価額×1.4%で計算されます。スタートアップ時は何かと物入りなので、固定資産税の軽減措置についても覚えておくと便利です。耐震改修促進税制、グリーン投資減税などの制度があるため自社に有用なものがあれば活用しましょう。固定資産税は納付書で支払います。役所の窓口、銀行の窓口で支払う方法と、金額によってはコンビニエンスストアで支払う方法があります。

 

6-4 法人住民税

法人住民税は地方税の一種です。法人都道府県民税と法人市町村民税をまとめて法人住民税と呼びます。地方自治体の行う各種事業経費を確保する趣旨で徴収されている税金です。
個人の場合は、個人住民税(個人市・府民税など)が課税されます。毎年1月1日に事務所や事業所がある場所で法人住民税がかかります。

法人住民税額は法人税割と均等割を足したものです。法人税割とは法人税額に基づいて計算される金額です。法人税割は会社の所得に応じて税額が増える仕組みになっています。所得に応じた負担なので、前年の法人税額が0であれば法人税割の部分も0になります。つまり、前年が赤字で法人税額を納めていない場合は翌年の法人税割の部分はありません。

均等割の考え方は事業所の規模に応じた負担をするというものです。事業所の規模は資本金や従業員数で決まります。会社の規模に応じて計算されるので、前年が赤字であったとしても均等割の部分は発生します。均等割は本店だけではなく、支店や工場がある場所でも納めなければならないので、規模を拡大すればするほど負担すべき税額も増えます。法人住民税は納付書に現金を添えて納税する従来の方法と、インターネットバンキングなどの電子納税ができます。電子納税については対応していない自治体もあるので注意してください。

 

6-5 法人事業税

法人事業税は法人住民税と同じ地方税の一種で、公共サービスにかかる費用を分担しようというものです。個人でいうところの個人事業税にあたります。登録した事業所の都道府県から課税されます。

法人が公共サービスを利用するということについて、ピンとこない方が多いと思われます。例えば、輸出入に関わる業種であれば港湾を利用しますし、会社から物を運ぶときに道路を使っています。この通り、法人事業税の意味合いは公共サービスの使用に対する負担です。法人事業税は所得に応じて計算されるため、その会社の所得が上がらなかった(赤字)であれば、法人事業税を納める必要はありません。

計算式は、法人事業税学=所得×法人事業税率です。法人事業税率は所得に応じて変わります。所得が400万円までは課税所得の5%、400万円超え800万円までが課税所得の7.3%、800万円を超えると課税所得の9.6%が法人事業税として課税されます。
一例として、東京都の場合は法人事業税の支払い方法は窓口で納付、インターネット決済(クレジットカードが使えます)です。

 

6-6 注意点

法人が支払う税金の中には国税と地方税があります。国税は支払い方法が統一されていますが、地方税は自治体によって支払方法が違うことがあるので注意してください。
具体的には、国税の場合はe-TAXという国税申告システムを使用しますが、地方税の場合はeLTAXを使用します。自治体によってはeLTAXに対応していないことがあります。
昨今、税の分野でも電子化が進んでいます。電子納税を利用して時間や手間を節約できるといいでしょう。

7 会社と個人事業主が支払う税金の違い

個人事業主とは、事業を営んでいる個人のことを言います。会社を設立した場合は、個人とは別の会社という存在ができ、法人税等が課税されます。個人の場合は個人の所得について課税されます。

社会的な信用としては、個人事業よりも会社の方が上です。事業の始めやすさという点では、個人事業は届出をするだけなので手軽という特徴があります。個人事業と会社の違いでは、責任の範囲も重要な点です。個人事業主の場合は、債権者に対して無限責任を負います。会社をはじめとする法人の場合は、有限責任であることがあります。株式会社の場合は有限責任です。事業が倒産した時、個人事業主の場合は個人の資産を持って責任を負わなければなりませんが、特に株式会社の場合は出資した金額の範囲で責任を負うということです。会社の種類によっては無限責任の場合もあります。

 

7-1 税制面での違い

個人事業として事業を営む場合、法人税等を支払う必要はありません。個人の所得税を納めます。会社が法人として存在しているだけで支払わなければならない金額がかからないというのはスタートアップ時には経済的に助かる部分もあるでしょう。

会社と個人事業主とで税制上の細かな違いはたくさんありますが、大きく3点ご紹介します。
まず1点目に個人事業主の場合は決算時期を選ぶことはできず、決算期は12月と定められています。さらに、翌年の3月15日までに確定申告を行う必要があります。会社の場合、決算時期を自由に決めることができます。確定申告の期限は、原則として、決算月の翌々月です。

2点目に個人事業主と会社では、損失の繰り越し可能な期間が違います。個人事業の場合は赤字を3年間繰り越せますが、会社の場合はより長い9年間繰り越すことができます。

最後に、個人事業主の場合は家族への給与、生命保険、退職金の支払いが経費として認められません。家族への給与は事前に届出書を出せば経費とすることもできます(青色専従者給与に関する届出)。

 

7-2 会社を設立する前に税金を意識

会社を設立する前あるいは設立する時点で、どのような税金がかかってくるのかを正確に把握しておくことが重要です。会社を設立することそのものにも費用や手間がかかりますが、もっと重要なことはきちんと税金を支払ってその会社が存続していくことです。事前に予測し、資金を準備しておくことが重要です。

 

7-3 税制のメリットを充分に活かす

個人事業主と比較した場合に有利となる税制のメリットは色々あります。個人事業主では損金として算入できないものが損金に算入できる、欠損金の繰越控除の期間が長いという点は、まずは押さえておきたいポイントです。社宅契約や旅費規程によって節税効果を狙うこともできます。脱税にならないようにするためにも、節税の具体的なプランニングは税理士に相談されることをおすすめします。使える軽減措置や損失繰越などの制度をきちんと適用し、税金の処理をスムーズに行いましょう。

8 税務申告の際の注意点

法人は最低1年に1回税務署に決算書と共に所得を申告して納税する必要があり、税務申告を行うにあたっては注意点があります。税務申告の際の経費に関する注意点について説明します。

 

8-1 消費税と経費計上

まず、法人が支払うべき税金の1つとして消費税があります。事業規模が小さかったり、創業間もなかったりする場合は消費税課税業者に該当しないので消費税を納めなくても良いですが、消費税課税業者になると消費税を納税しなければなりません。

そして、納税する消費税は受け取った消費税と支払った消費税の差額で決定しますが、支払っている経費の中には消費税が課税されている経費と課税されている経費が存在するのに注意が必要です。

例えば、従業員に対しては人件費を支払わなければなりませんが、人件費に消費税は発生しません。一方で業務委託のような形で仕事をしてもらっている外部スタッフへの報酬については消費税が課税されます。

他にも収入印紙を郵便局や印紙売りさばき所で購入すると消費税は課税されていませんが、金券ショップで印紙を購入すると消費税を支払わなければなりません。

このように支払った経費や取引方法によって消費税が発生している取引と発生していない取引があるので注意してください。

また、2019年10月には消費税が10%になる予定ですが、その際には更に手続きは複雑になる予定です。軽減税率を導入する予定なので取引した商品やサービスによって消費税率が変更されるからです。

軽減税率の対象になる品目とならない品目の両方を扱っている事業者はさらに注意深く消費税に関する記帳をしなければならないでしょう。

 

8-2 実際の経費と税金計算の際の経費は違う

実際に事業運営に掛かった経費がすべて税金計算の際の経費になるわけではありません。事業に掛かった経費でも例外的に税金計算の際に経費として計算できない場合もあります。

例えば、経費だけれども税金計算の際の経費に計上されないとして、駐禁の罰金があります。例えば、不動産賃貸の仲介業者のように、車で色々な所を回る業者は、稀に駐車場に止めることができずに路肩に止めて、駐禁の罰金を支払わなければならなくなるケースがあります。もちろん、業務上発生した罰金であるので営業個人に自腹で支払わせるのではなく、会社として罰金を支払わなければならないのですが、このような経費は課税対象となる所得を計算する際には経費としてみなされません。違反によって発生した経費によって、課税所得が減少して、支払うべき税金が少なくなることは不合理からです。

他にも法律に違反していなくても接待交際費は税金の計算の際に一部費用は経費としてみなされない場合があります。中小企業の場合、年間800万円までは接待交際費を損金に計上できますが、800万円を超えると全部の費用を損金として計上できなくなります。

800万円を超える場合は、800万円までを損金算入してそれを超える部分は損金に算入しない、接待交際費のうち接待飲食代の50%を損金として算入するの、どちらかを選択しなければなりません。中小企業で800万円を超えることは稀なので多くの企業は全額損金として計上できます。また接待飲食代が1,600万円を超えないのならば、前者の方が節税効果は高くなります。

上記のように発生した経費と、税金を計算する際に利益から差し引ける経費は違うことに注意してください。

 

8-3 売上や費用発生のタイミング

売上や費用が発生するタイミングにも注意してください。会計には大きく分けて、「発生主義」「現金主義」「実現主義」という3つの考え方があります。

発生主義とは取引が発生した時点で費用と収益を計上する考え方、現金主義は現金の入出金のタイミングで費用と収益を計上する考え方、実現主義とは収益が確定した時点で費用や収益を計上する考え方のことを指します。日本では費用は発生主義、収益は実現主義で認識して、費用収益対応の原則という発生した費用のうち会計期間の収益に貢献した分だけを費用として計上する原則が採用されています。

よって、売上や費用が発生するタイミングは少し複雑です。例えば、販売するための在庫を仕入れてきた場合、発生主義の考えに基づけば仕入れたときに全額経費になりそうですが、費用収益対応の原則によって、仕入れ代金が実際に経費として見なされるのは商品の売買契約が成立したときになります。売上についても、売掛金を回収したタイミングではなく、売買契約が成立したタイミングになります。

ちなみに、収益や費用が発生するタイミングを意図的にずらして会社の業績を操作することは粉飾決算において行われがちな手法ですので、間違って行った場合でも粉飾決算を意図したのではないかという疑いを持たれる可能性が高いです。

費用と収益が発生したタイミングについては注意してください。

 

8-4 嘘の経費計上で問われる罪

費用や収益が発生したタイミングをごまかすこともそうですが、嘘の経費計上は罪に問われます。

例えば架空の領収書を作成して経費を増やして利益を圧縮しようとした場合、領収書を偽造した事に対しては私文書偽造、それによって脱税したことについては税法違反の罪に問われる可能性があります。更に嘘の経費計上によって少なくした分の税金について納税しなければならないのはもちろんのこと重加算税というペナルティが課せられる可能性があります。

節税と脱税は違います。合法的な節税の範囲内なら会社の利益を圧縮して税金を少なくしてもかまいません。無理に架空の経費を計上する嘘をつかなくても税理士と相談すれば色々な節税対策の手法が検討できるので、黒字が大きくなりそうなときは嘘の経費計上を行うのではなく、税理士と相談してください。

ちなみに、上記は会社が意図的に嘘の経費を計上して利益を圧縮した際に問われる罪であって、従業員が会社から個人的にお金を横領する為に架空の経費を計上して、会社からお金を受け取っていた場合の罪は別です。

まず、領収証を偽造するなどして経費を計上していた場合は私文書偽造の罪になる可能性がありますし、他にも会社を騙した罪として詐欺や業務上横領の罪に問われる可能性もあります。もちろん初犯で被害程度が少ない場合、執行猶予で済むこともありますが、その後のキャリアには大きな悪影響が発生してしまうので、架空の経費を計上して会社から資金を横領することは絶対にしないようにしましょう。

9 まとめ

以上のように会社設立や会社運営に掛かる経費について説明してきました。会社設立する際は、手続き上まずは個人的に賃貸物件を借りて後で法人に契約を変更するように何かと立て替えなければならない費用が多いですが、これらの費用はきちんと創立費、開業費という形で会社の経費に計上することができるので安心してください。

 

9-1 創立費と開業費

ちなみに創立費は会社の設立にかかった費用、開業費は会社の設立から開業までにかかった費用のことを指します。特に開業費については市場調査や宣伝広告、許認可の取得費用など様々な経費が含まれることが予想されます。ただし、開業費に含まれるのは開業時に特別に掛かった支出だけで、家賃や人件費、水道光熱費など開業の前後に関わらず経常的に発生する費用については開業費には含まれないので注意してください。

 

9-2 創立費と開業費の節税効果

そして、開業費や創立費には節税効果があります。開業費や創立費は繰延資産として計上することができて、最大5年以内であればいつでも償却可能です。よって、1期目の赤字が発生する機関には開業費や創立費を償却せずに2期目、3期目の利益が発生するタイミングで創立費や開業費を償却して、利益をコントロールして税金を少なくすることが可能です。ただし、決算書の見栄えさえ気にしなければ、法人が青色申告する場合最大9年間赤字を繰り越すことができるので、1期目に創業費や開業費を一括償却してしまっても、税額について大きな違いはありません。

創業費、開業費と同様に起業時に注意すべきが減価償却です。減価償却とは固定資産の価値の目減りに対して疑似的に発生する費用で、設備や備品の耐用年数によって減価償却費の金額が変わります。

減価償却費は実際にお金が外部に流出するわけではないので、決算書の見栄えを抜きにするならば、同じ固定資産でもできるだけ費用が大きくなるように減価償却費を計上した方がお得です。減価償却費を大きくするにあたっては、設備や備品を細かく区分したり、耐用年数が短くなったりするようなカテゴリーとして減価償却することが必要です。税理士と相談して節税メリットのある減価償却プランを考えてください。

 

9-3 事業に対する経費と注意点

設立時だけではなく、事業を運営するためには様々な経常的な支出が発生します。発生した費用は勘定科目という一定の法則にしたがった費用分類毎にまとめて、算出しなければなりません。代表的なのは本記事で説明した17項目ですが、他にも企業の会計方針によって様々な勘定科目を使用する可能性があります。

最終的に経費の内容が正しければ問題がないのですが、経費を計上するにあたってはいくつかの注意点があります。1つ目は経費の中には消費税が発生している取引と消費税が発生していない取引があることです。更に2019年10月から軽減税率が適用される予定なので消費税の金額計算は複雑になることが予想されます。2つ目は実際に発生した経費と税金を計算する際に収益から差し引ける経費は別であるということです。3つ目は費用と収益が発生するタイミングに気を付けることです。

嘘の経費を計上することは私文書偽造や税法違反になる可能性がありますし、従業員個人が架空の経費によって会社のお金を横領すれば詐欺や業務上横領になる場合もあります。また、税務署が調査に入った場合のことを考えて、架空経費を計上しようという意図が無かったとしても、疑われないように発生した経費についてはどのような経緯で発生したのかをきちんと確認できるような体制にしておく必要があります。